セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

42 / 80
 前回は、評価、お気に入り、しおり、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

 さあ、始まりました!闇の帝王殺害RTA!彼はいつまで生きてられるでしょうか?!・・・たぶん、原作よりも早死にするでしょう。

 というわけで続きです。ようやく、ホグワーツ・・・の前に、ホグワーツ特急にて。

 満を持してルーピンさんが登場です。セブルスさんに余計なことをすれば、ガラシャの拳とか脱毛薬飲まされかねないのですが、彼は果たして、無事に1年乗り切れるでしょうかね?


【3】セブルス=スネイプ、謝罪される

 

 居心地悪いなあ。

 

 ハリー=メイソンJr.は困惑していた。隣のドラコも表情にこそ出さないようにしているらしいが困惑しているし、向かいのハーマイオニーもそうだ。ネビルに至っては青ざめて、できるだけそちらを見ないようにしている。(なんであんなに怖がるんだろう、彼は)

 

 ホグワーツ特急のコンパートメントの一室だった。

 

 親愛なる父の友人となるおじさんであり、頼れる魔法薬学教授、スリザリンの寮監となるセブルスおじさんが、普段の五割増しに眉間にしわを寄せていたら、そうも思う。

 

 

 

 

 

 珍しくどこのコンパートメントも他の生徒が先約を取っていて、なかなか空いてるコンパートメントが見つからなかったのだ。

 

 今日に限って、と駅で一緒になったドラコと、ハーマイオニーとネビルも一緒に歩き回ったが、どうしようもなかった。(ロンは今年は、他の兄弟たちと同じコンパートメントに乗ることにしたらしい。回復したとはいえ、末の妹が聖マンゴで療養していたので、心配だったらしい)

 

 重いトランクケースを引きずりながら(魔法で軽量化してないのは、何でも魔法に頼ってるとそれがないと何もできなくなる、というメイソン家の方針だ。体を鍛えることにもなって一石二鳥だ)歩き回り、たどり着いたのは、一つのコンパートメントだった。

 

 そこにいたのは先客2名だった。

 

 いつものインバネスコートに身を包んだセブルスと、妙にみすぼらしい男だった。

 

 白髪交じりの茶髪に、顔が傷跡塗れで、擦り切れたローブを纏っている。

 

 どういうことだろう?と顔を見合わせるが、セブルスと誰か大人が相席しているならば、とまた別のコンパートメントを探そうとした。だが、その相席している男が、ニコニコ笑いながら「私たちなら気にしないよ。いいだろう、スネイプ」と言ってきたので、固辞するわけにもいかず、ありがたくお邪魔させてもらった。(セブルスおじさんの知り合いだろうか?おじさんは頷いただけで何も言わなかったけれど)

 

 大人たちにも手伝ってもらって、重いトランクをひいひい言いながら、荷物棚に押し上げた。

 

 あの重いトランクを息も乱さずに片手で持ち上げられるあたり、セブルスおじさんは相変わらず怪力だった。(浮遊術を使えばいいじゃないか、というみすぼらしい男の言葉は黙殺された)

 

 

 

 

 

 そしてこの始末である。

 

 

 

 

 

 どうしたんだろう、とハリーJr.は思う。

 

 セブルスおじさんは、大体のことはあまり表情には出さない。

 

 怖そうだな、と小さい頃は思ったりしたが、頭をなでる手は優しく温かなもので、たまに家に来るときは手土産を持ってきたり、誕生日やクリスマスにもプレゼントの贈りあいもして、ハリーJr.やヘザーの話も静かに聞いて、ちゃんと相槌や言葉を返してくれる。

 

 父と一緒に悪いやつをやっつけてくれたこともあるし、父や母と言葉を弾ませているのを見ていると、怖そうなのは見た目だけで本当は優しい人なんだな、見た目で人を判断しちゃいけないってのは本当なんだな、と実感したものだ。

 

 よく見たら、機嫌がいいときは眉間の皺が少し薄くなる、というのも後々発見した。声も優しそうな感じにもなる。

 

 で、今のおじさんはそんな家に遊びに来てくれて機嫌のいい時とは正反対だった。

 

 原因は・・・ハリーJr.の家の事情もあるかもしれないが、それ以上に。

 

 ――ひょっとして、反対側のこのみすぼらしいおじさんのせいかな?

 

 ちらっと見やると、目が合った彼はニコリっと笑ってくれる。傷だらけではあるが、人好きする笑顔だ。

 

 「そういえば、自己紹介がまだだったね。私はリーマス=ルーピンだ。

 少しばかり早いかもしれないが、自己紹介をしてもらえるかい?」

 

 「早い?」

 

 「よく考えてみてよ、ハリー」

 

 首をかしげるハリーJr.に、ハーマイオニーが口をはさんだ。

 

 「ホグワーツに行く大人なら、空席になった“闇の魔術の防衛術”の教授っていうのが妥当でしょう?授業前に自己紹介することにはなるから、早いってこと」

 

 「あ、なるほど」

 

 納得するハリーJr.は、隣のドラコがわずかに眉を動かしたのには気が付かなかった。

 

 ともあれ、そういうことなら、と改めて自己紹介をした。途中、お昼をはさみつつ、夏休み中の近況報告を交えて、雑談を弾ませる。

 

 今年からハーマイオニーは猫を飼い始めたらしい。赤みがかったオレンジの毛並みはふわふわだが、ちょっとガニ股でつぶれたような気難しげな顔をした、巨大な猫だ。クルックシャンクスという名のその猫はハーマイオニーの膝の上で丸まっている。

 

 ハーマイオニーはドヤ顔でかわいいでしょ?というが、全員これには微妙な顔で口をつぐまざるを得なかった。

 

 何でも、ダイアゴン横丁のペットショップで長く売れ残っていたのを、気に入って購入したらしい。

 

 そして、話題がハリーJr.の引っ越しのこととなる。ちなみに、表向きメイソン一家は父親の職業(一応作家である)のせいでストーキングしてきたファンから逃げるために、ということにしている。

 

 「え?引っ越し?!大変だったね!」

 

 「うん。でも、いい経験にはなったよ。・・・ネバークラッカーにも挨拶はしてきたしね」

 

 目を丸くするネビルに、ハリーJr.は遠い目をする。つられてドラコも視線を伏せた。

 

 

 

 

 

 怪物邸騒動で親交することとなったネバークラッカーは宣言通り心不全を回復させたが、その後に癌の骨転移が発覚、余命宣告を受けた。

 

 旅に出る、と笑って語った夢は実現することなく、ある日肺炎によって帰らぬ人になった。

 

 ハリーJr.並びにドラコが、ホグワーツ1年目を終えた直後の夏季休暇中のことだ。それまでも手紙を送りあっていた(一度メイソン家に送って、そこから送っていた)が、最後にお見舞いで顔を見れたことは不幸中の幸いであったのだろうか。

 

 駆け落ちしたため、身寄りのなかったネバークラッカーを、メイソン一家が身元引受人となり、亡くなった後の埋葬までやった。

 

 資産に関しては、驚くほど物が少なく――怪物邸騒動のせいで、大半がなくなったためだろう――本人もあらかじめ処分先を遺言に残していたため、事なきを得た。

 

 そして、引っ越しの直前、メイソン一家とドラコで墓参りをしてきたのだ。

 

 ネバークラッカーが愛するコンスタンスと一緒のところに行けたか、それは誰にもわからない。けれど、きっと今度こそ本当の意味で一緒にいられたらいいとハリーJr.は思う。

 

 

 

 

 

 「ネバークラッカー?」

 

 「昔住んでたところのご近所さんだよ。亡くなっちゃったけどね」

 

 「ふん。今度こそ、奥さんと勝手にやってることだろうさ。好きなものを好きなだけ食べてそれを眺める。そんな生活をしてればいいさ」

 

 つっけんどんな物言いをするドラコだが、彼なりにネバークラッカーを悼んでいるのだ。少なくとも、ハリーJr.はそう思った。

 

 「またそんなこと言って。天国で仲良くしてるよ、って素直に言ったらいいのに」

 

 「余計なこと言うな」

 

 茶々を入れるハリーJr.に、ドラコが言い返す。

 

 そして、それを見るハーマイオニーはくすくす笑い、ネビルもほにゃりと気の抜けた笑みを浮かべる。

 

 ・・・セブルスも、心なしか眉間の皺が減ったように見えた。

 

 「・・・ずいぶん、仲がいいんだね」

 

 どこか戸惑ったような声を出して、じゃれあうハリーJr.とドラコを眺めるルーピンに、セブルスは視線の奥で疑惑を一つ深めた。

 

 あの狸、どういうつもりだ。

 

 

 

 

 

 さて、本来はホグワーツで入学式の準備をしているセブルス並びにルーピンが、ホグワーツ特急に乗り合わせているのには、相応に理由がある。

 

 そもそも、セブルスは今年の“闇の魔術に対する防衛術”の担当が、ルーピンになったのは知らなかった。

 

 マクゴナガルが言うには、ダンブルドアから推薦され、今年は応募者もおらず、ルシウスをはじめとした理事も1年だけならと許可し、採用となったそうだ。

 

 学期開始1週間前の教職員準備期間にホグワーツに赴いた際に、そういったことを初めて聞かされたのだ。

 

 本来、この手のニュースをセブルスに通達するのはルシウスの役目なのだが、彼は分霊箱関連や、ダンブルドアの停職に伴うホグワーツの運営調査における魔法省との連携の調整にあれこれと指示を出していたのでそこに口をはさむどころではなかったのだ。

 

 で、職員室で顔を合わせた。どうも最初は分からなかったらしく、「スラグホーン教授の御後任ですね?お名前をお伺いしても?」と尋ねてきた。一瞬セブルスはふざけているのかと思ったが、何も言わずに淡々と自分の名を告げた。

 

 そうして、それを聞くなりルーピンは絶句してマジマジとセブルスを見てきた。そんなにおかしいことだろうか、とセブルスは内心で怪訝に思ったが(くどいようだが、彼に自身の容貌の変化に対する自覚は薄い)、閉心術できれいに押し隠した。ルーピンにどう思われようが、知ったことではない。

 

 ややあって、ルーピンは勢い良く頭を下げて「あの頃は済まなかった!」と大きな声で謝罪してきた。

 

 コイツはわざとやっているのか、と一瞬セブルスは思ってしまったのは、彼がひねくれているからかもしれない。

 

 こんな他の教職員が見ているところで謝罪するなど、セブルスには拒否の選択はないも同然だろう。

 

 「・・・構うことはない。気にしておらぬ」

 

 「リーマス?学生の頃のことですか?謝ってなかったって・・・今更ですか?!何年経ったと思ってるんですか!」

 

 淡々と答えたセブルスに、思わずという様子で口を挟んできたのはマクゴナガルだった。

 

 信じられない、とばかりに目を見開くマクゴナガルに、ルーピンは申し訳なさそうに肩を落とした。

 

 「はい。おっしゃる通りです、マクゴナガル先生。

 本当に今更になるが、すまなかった。

 言い訳になるかもしれないが、その・・・学校を辞めた後の君の行方について、捜しまわったんだが見つからなくて・・・。

 誰に聞いても、知らない聞いてないとしか答えてもらえなくて・・・」

 

 「手紙を出せばよいではないですか!」

 

 「宛先不明でフクロウが戻ってきてしまったんです。

 それでその・・・それを知ったジェームズたちが死んだに違いない、なんて言うものですから・・・」

 

 それはポッターたちに悟られぬようにやるべきではないか?あるいは隠していたのだろうが、ポッターたちが持ち前の好奇心で暴いてしまったのか。後者の可能性の方が高そうだ。

 

 そして、ろくに調べもしてないポッターたちの言い分を鵜呑みにするルーピンも、素直過ぎるのではないか?

 

 セブルスはそう思いはしたが、特に口出しもせずに黙っていた。何をどう考えようが、結局ルーピンの勝手だからだ。

 

 「・・・貴公の意図は分かったが、もう少し時期というものを考えたまえ。されなくてもよい邪推や誤解をされかねんぞ」

 

 「え?」

 

 「以前――脱狼薬の改良を発表したくらいの時期に、私のことをMr.マルフォイに尋ねただろう?彼のみならず、ある一定の者はこう考えることだろう。

 “ポッターたちが失墜したのをいいことに、脱狼薬開発に成功したスネイプにすり寄る、日和者”とな」

 

 「そんな!」

 

 さっと蒼褪めるルーピンに、セブルスはため息を吐いた。

 

 本当に何も考えてなかったらしい。よく言えば、グリフィンドールらしい猪突猛進であったのだろう。

 

 「それから、私に謝罪するくらいならば、他の純血名家の者たちにも謝っておきたまえ」

 

 「もちろんさ!あの時は君のことしか考えてなかったが、後から思い返せば私もかなりの非常識だったと反省しているんだ。

 Mr.マルフォイも、大変不快な思いをされたことだろうに・・・」

 

 これはセブルスは後から知ったことだが、実際、ルーピンは最初にセブルスの行方を尋ねに行った数日後に、ルシウスのところに謝罪の手紙を送ったらしい。

 

 大変鼻白んだ様子で「最初からしなければよいものを」と、ルシウスはこぼしていた。とはいえ、謝るだけ上等、と謝罪は受け入れたらしい。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなの学期準備期間である。

 

 今年はダンブルドアの停職、シリウス=ブラックのアズカバン脱獄、さらにはその行き先がホグワーツというダブルコンボのスタートである。

 

 さらに連鎖して、監視役として魔法省から派遣された職員チームが森番を担当、ブラック追跡・捕縛のために吸魂鬼(ディメンター)をホグワーツに滞在させる、と来た。

 

 前者は妥当であろう。何しろ、昨年があまりにもひどすぎた。死人が出なかったのが不幸中の幸いとしても、アクロマンチュラのコロニーの放置と、透明マントの無断の借用延期(と称する実質借りパク)はいかんともしがたい。

 

 ハグリッドは危険生物狂いではあったが、実務に関しては真面目にやっていた。それがろくな引継ぎもせずにアズカバン行きである。森の調査と並行して行うともなれば、複数人一チームという扱いも妥当であろう。

 

 

 

 

 

 余談となるが、ハグリッドの飼っていたファングというボアハウンドは、引退したケトルバーンが引き取っていった。ファングは図体のわりに人懐っこく臆病な性分で、ケトルバーンにも問題なく従っていた。ドラゴン聖地巡礼の旅の頼もしい仲間になる、と彼は笑っていった。

 

 

 

 

 

 話を戻すが、後者――吸魂鬼(ディメンター)の滞在はだめだ。イギリス中の子供たちを預かるホグワーツに、人間の幸福な気持ちを餌にする闇の魔法生物を滞在させる?絶対ダメだ。マクゴナガルは大反対して、魔法省に猛抗議した。

 

 が、とあるピンクの服を愛用するガマガエルそっくりの魔女がエヘンエヘンという咳払い交じりに「まあ、ではマクゴナガル先生は、シリウス=ブラックがホグワーツで虐殺を働いてもよろしいというのですのね?マグルどもがそうされたように!まあ、怖い!」という妄言の前に屈せざるを得なかった。

 

 更には、前年の不手際もろもろを挙げられて「校長の横暴を止めるのも教職員の務めというのに!これ以上失望させないでくださいませ」などと、闇祓いの派遣と滞在要請は却下され、吸魂鬼(ディメンター)の敷地外滞在となってしまったのだ。

 

 魔法省から帰ってきたマクゴナガルは、いつにもましてイライラして、秘蔵のブランデーを棚から引っ張り出したそうな。

 

 

 

 

 

 本題はここから。

 

 一応、吸魂鬼たちはホグワーツ城の敷地外に滞在という形になっているが、シリウス=ブラックの侵入経路が特定できない以上、ホグワーツ特急に密行している可能性もある。そして、彼を探す吸魂鬼たちが見回りにやって来てもおかしくない。

 

 そこで、万が一生徒に吸魂鬼の被害が出ないように守護霊呪文の使える教職員を同乗させようという話になった。

 

 守護霊呪文はかなり高度な魔法なので未習得の魔法使いもおり、それはホグワーツ教職員でも例外ではない。さらには、他の業務などの兼ね合いを考えた結果、白羽の矢が立ったのがルーピンとセブルスである。

 

 セブルスはスリザリンの寮監であるが、ある程度の雑務はメアリーでもできる。しかし、ホグワーツ特急に乗る大勢の生徒たちを一人でフォローというのは無茶である。ゆえに、リーマスも一緒になったのだ。

 

 吸魂鬼対策として、セブルスはメアリーと厨房のハウスエルフたちにチョコレート菓子を用意させた。使う機会がなければ、セブルスの茶菓子として消えることだろう。

 

 「ところでスネイプ。君が懇意にしている、ハリー=メイソンって子は今年は何年生になるんだい?」

 

 その質問をルーピンから受けたのは、“姿現し”でホグズミード村からロンドン、キングズクロス駅から特急内のコンパートメントの一つに腰を下ろした直後のことだった。

 

 ルーピンは探るような目をセブルスに向けている。

 

 ・・・なるほど。わざわざダンブルドアが個人的にルーピンに何か話したか。そのうえで推薦してきたと。

 

 いずれにせよ、素直に話してやると思ったら大間違いだ。

 

 「3年生となる。それがどうかしたかね?」

 

 「いや、大したことじゃないんだ。ただ、君が個人的に親交があるなんて、珍しいと思ってね」

 

 「知ったようなことを言うものですな。ホグワーツに在校していたのが何年前と思っているのかね?それから私が誰と友好を結ぼうと、貴公には関係ないだろう」

 

 「関係ないなんて・・・!

 いや・・・そうだな、すまない。その通りだ」

 

 突き放すように言い放ったセブルスに、ルーピンは寂しげに笑った。

 

 まさかこの男、セブルスを友人カウントしてるのだろうか?だから関係ないと言われて傷ついたとでも?実に図々しく、能天気なことだ。

 

 加えて言えば、ルーピンはハリー=メイソンJr.について知って探りを入れようとしているようだが、同じ子供を案じる味方とセブルスが判断するかはまた別問題だ。セブルスが案じるのはハリーJr.だけではない、メイソン一家全員だ。

 

 

 

 

 

 確かにリリーは、ルーピンやシリウスについて心配していた。だが、それ以上に今の家族と生活が大事だから、ダンブルドアと強くつながっているだろう二人には会わない、身を隠したままでいる、と言っていた。

 

 勇猛果敢なグリフィンドールのくせに保身に走るなんて最低ね、と彼女は自嘲していたが、そんなことはないとセブルスは思う。

 

 切り捨てるのもまた勇気がいる。何より、その保身は彼女の大事な家族のためのものだ。彼女が卑怯ならば、世の中の大半の人間が卑怯者と蔑まれるに違いない。

 

 

 

 

 

 ともあれ、そうして気まずい空気で沈黙してたところに、ハリーJr.達学生組が空いているコンパートメントを求めてやってきた、というわけである。

 

 

 

 

 

 さて、戸惑う様子のルーピンに対し、セブルスは何も言わない。

 

 “ジェームズ=ポッターの息子、ハリー=ポッター”ならばおかしいだろうが、“ハリー=メイソンの息子、ハリー=メイソンJr.”ではまた違う。それをルーピンは今一つ実感できていないのだろう。

 

 「何ですか?僕たちが仲良くしていると不都合でも?」

 

 少々とげとげしい口調で言ったのはドラコだ。大方、父親からルーピンの学生時代のことを聞かされているのだろう。

 

 「あの!ドラコのお父さんがその、死喰い人だったっていう話はボクも聞いています。でも、Mr.マルフォイはボクらの恩人で、父さんとも親しくしてくださっています!

 この前、記者会見で大々的にいろいろお話されてましたよね?

 今すぐは無理でも、ちょっとずつ見方を変えてください!」

 

 ルーピンの様子に勘違いをしたらしいハリーが口をはさんだ。

 

 「恩人?」

 

 「あ、えっと、ちょっとした事件に巻き込まれた時、助けてくれたんです」

 

 「事件って何だい?言えないことなのかい?」

 

 「ルーピン」

 

 怪物邸事件のことをどうにか話さずに済ませようとするハリーJr.に遠慮もせずに、グイグイツッコミを入れるルーピンを、セブルスが制した。

 

 「人には言えぬこと、話したくないこともある。

 私もそうだ。そして、貴公もそうであるようにな。

 人にそれを尋ねるならば、まずは自分のことを話してはどうだね?」

 

 鋭い目で見やるセブルスに、ルーピンはハッとした様子で「すまない、つい・・・」と質問を取りやめた。

 

 「じゃあ、ハリーはMr.マルフォイと直接会われたことがあるのね。

 ・・・私ね、あの記者会見を日刊預言者新聞で読むまで、ちょっと警戒してたの。

 ドラコのお父さんだから悪い人じゃないってのは分かってたんだけど、周囲が口をそろえて悪く言ってきてて。

 やむを得ずに悪事に加担する人もいるんだって、家でパパに言われたわ。

 ごめんなさい、ドラコ」

 

 「気にするな。父上も本当のことだと覚悟されていた。僕も・・・覚悟、している」

 

 ハーマイオニーの言葉に、ドラコは視線こそ柔らかだったが、どこか固い声でそう言った。

 

 「・・・そうだよね。みんながみんな、好き好んで死喰い人をやってるわけじゃないんだよね」

 

 ポツリと言ったのはネビルだが、すぐさまドラコは顔を上げた。

 

 「言っておくが、ロングボトム。例外は例外だ。脅迫同然で加担させられたものもいれば、狂信者だっていた。僕の父上は前者であるだけだ。後者ももちろんいる。

 無理に偽善ぶるな。反吐が出る」

 

 「無理しないで、だってさ。・・・何があったか知らないけど、ボクもそれには同感だよ、ネビル」

 

 「うん・・・ありがとう」

 

 ドラコのつっけんどんな言葉に、ネビルは一瞬険しい顔をするが、ハリーJr.が付け加えた言葉に、ふにゃりと力なく笑った。

 

 ハーマイオニーは事情を知っているのかいないのか、どこか痛ましげな表情をしていた。

 

 そうして微妙な空気になってしまったのを振り払うように、ハリーJr.が口を開いた。

 

 「ところでさ!今年から選択科目が始まるよね。ネビルは何をとったの?」

 

 「僕?ばあちゃんと相談して、魔法生物飼育学と、占い学をとろうかなって。

 メイソンとマルフォイは?」

 

 「魔法生物飼育学とルーン文字だよ。一緒の授業の時はよろしくね」

 

 「僕はそれと数占いだな。それにしても・・・グレンジャーお前、まさか本気で全科目受講する気か?」

 

 「もちろんよ。マクゴナガル先生からも許可をいただいているわ」

 

 「さっすがハーマイオニー・・・」

 

 「去年も首席だったもんね。すごすぎる・・・」

 

 わいのわいのとじゃれあう学生組に、大人二人が目元を緩めた時だった。

 

 唐突に列車が速度を落として止まった。

 

 外は真っ暗だが、セブルスが懐中時計で確認した限り、到着まではまだ時間があるはず。となれば。

 

 直後、前触れもなく明かりが消える。すぐさま、セブルスは腰の携帯ランタンに発光呪文(ルーモス)で明かりを灯し、ルーピンも自らの杖に光を灯す。

 

 戸惑う学生組は杖を取り出したものの、狭いコンパートメントではこれだけあれば十分なので、手持無沙汰になってしまった。

 

 「ルーピン。彼らを頼む。私は他の車両を見てこよう」

 

 「ああ。スネイプ、気を付けてくれ」

 

 「無論だ」

 

 「おじさん・・・?」

 

 「皆、ルーピンの指示を聞いて、おとなしく待っているように」

 

 戸惑うハリーJr.にそう言って、セブルスは一同の間をすり抜け、コンパートメントを出て行った。

 

 何事かと、コンパートメントから顔を出す生徒たちをよそに、セブルスはすたすたと後方の車両(今いるコンパートメントはだいぶ前の車両に位置しているのだ)に向かって歩いていく。走らないのは、顔を出す生徒たちにぶつからないようにするためだ。

 

 来た。

 

 セブルスがそう察した直後、悲鳴が聞こえた。明確にどこから、というわけではない。あちこちから、絹を裂くようなものから、獣が吼えるような声もあるし、すすり泣くような声も、とにかくそこら中から聞こえてきた。

 

 車内に満ちる熱という熱が消えうせ、どん底のような陰鬱さにとってかわる。

 

 懐かしいものだ。

 

 場違いにも、セブルスはそう思った。

 

 ヤーナムの空気だ。漁村の雨だ。サイレントヒルの霧だ。羽生蛇村の赤い水だ。

 

 懐かしの地獄がやってきた。

 

 ゆらりとセブルスの前に影が立つ。そのあとに、何体も何体も、似たようなシルエットが続いてくる。

 

 全身をすっぽりと覆い隠す漆黒のローブに、深々と頭巾をかぶっており、かろうじて見える両手は瘡蓋まみれの灰白色で、水中で壊死した死骸のようにも見えた。

 

 それが、ガラガラと得体のしれない音を立てて呼吸をするたびに、人間が生きていくのに必要な何かが失われ、死に追い込む何かが満ちていく。

 

 吸魂鬼(ディメンター)だ。

 

 

 

 

 

 彼らは人の幸福な気持ちを食らう。それを失った人間は、自分の悲惨な記憶や負の感情と否応なしに向き合わされ、やがて気力を失って生ける屍となる。

 

 魔法省と契約した彼らは普段、魔法界唯一の牢獄アズカバンの看守を務めている。

 

 北の海で野放しにされて無差別に人間を襲いまくるよりは、幾分かはいいのかもしれない。

 

 もっとも、それはそれで、彼らをアズカバンに縛り付けるために、常に一定の人数をアズカバンに収容させ続けねばならない――生贄()がいるということでもあるのだが。

 

 

 

 

 

 悲鳴と嗚咽の混声合唱の中、セブルス一人が顔色一つ変えずに、廊下を徘徊するそれらと対峙していた。

 

 吸魂鬼(ディメンター)がピタリと歩みを止めた。足があるかも怪しく、滑るように移動していたそれが、急に石にでもなったかのように身動きの一切を止めたのだ。

 

 おそらく、人間でいうところの目が合った、という状態であろうか。

 

 セブルスは武器も手にせず、一見すると手ぶらで突っ立っているだけのようにも見えた。

 

 ただ静かに、宇宙色の双眸を細めた。

 

 

 

 

 

 吸魂鬼には、顔がない。

 

 そのフードの下には、見るのも悍ましい口しかない・・・らしい。

 

 吸魂鬼の接吻(ディメンター・キス)と呼ばれる、魔法界でも最悪に類する刑罰の時のみあらわにされる。

 

 つまり、彼らは視覚で外界を把握はしていないのだ。

 

 そんな彼らに、人間の皮をかぶった上位者狩人は果たしてどのように認識されるのであろうか?

 

 

 

 

 

 一方のセブルスが取り乱さないのも、当たり前といえば当たり前であった。

 

 数多の絶望と悍ましい悪夢の中を歩き続け、血と啓蒙によって変質しきった彼にとっては、幸福な感情を取り上げられても問題なさ過ぎた。

 

 絶望など舐めるものではない。漏斗を口に差し込まれ、否応なしに流し込まれるものだ。それでも嚥下して立ち上がるしかなかった。

 

 ああ、何があっても悪い夢だとも。夢は覚めるものだが、目覚めた先が夢でないと、誰も何も言っていない。悪夢は終わらず、めぐり続けた。

 

 だからこそ、駆け抜けて殺しつくした。その先に悪夢の終わりがあると信じて。

 

 絶望も慟哭も嗚咽も哀惜も何もかもを飲み干して。

 

 

 

 

 

 黒いローブを震わせ、吸魂鬼たちは硬直していた。なんでこんなものがこんなところに?!というかのように、わずかな戸惑いと驚愕ともつかない雰囲気もした。

 

 「シリウス=ブラックが見つからぬならば、疾く出て行くがいい。

 それとも、引き抜ける腸があるか確かめてみるかね?

 獣の返り血は温かなものだが、貴公らのそれはひどく冷たそうだ。できうるならば、遠慮したいところだな」

 

 ゴツリッと右手に出現させたノコギリ鉈で、コンパートメントと通路を隔てる壁を軽くたたいた。

 

 わずかに吸魂鬼たちが後ずさる。

 

 ほとんどの魔法使いは、彼らの前に戦闘能力を大きく削がれる。幸福な記憶を吸われるのだ。まともな人間ほど精神的ダメージが深刻になる。

 

 にもかかわらず、セブルスは平然としていた。精神構造が根本から異なっているのやもしれない、と吸魂鬼でなくとも察せられるだろう。

 

 そして、彼らは同時にこうも確信したに違いない。目の前の男なら、有言実行して見せるに違いない、と。

 

 一斉に吸魂鬼たちは、恭しげに黒いフードに覆われた頭を下げるや踵を返した。

 

 開いていた客車の出入り口からふわりと、漆黒の夜空に舞い上がり、彼らはそのまま一斉にホグワーツ城に向かって飛んでいく。

 

 ため息を吐いて、ノコギリ鉈を消したセブルスは周囲を見回した。

 

 悲鳴と嗚咽がどうにか落ち着いたが、まだ泣きじゃくっているものもそこかしこにいる。

 

 どうやら、これの出番らしい。

 

 セブルスはメアリーとホグワーツ厨房のハウスエルフたちが作り上げたチョコレート菓子の入った箱をもって、客車の端に向かって歩き出した。

 

 吸魂鬼被害のアフターフォローには、チョコレートが一番なのだ。

 

 

 

 

 

続く




【メアリーのトリュフチョコレート】

 セブルス=スネイプが保有する自動人形、メアリーが作ったトリュフチョコレート。

 湯煎で溶かしたミルクチョコを一口大に分けて丸めて固めたのち、ココアパウダーをまぶしたもの。

 人形は愛する狩人の依頼を受け、それを作り上げた。

 人ならざるものが作った物であろうと、誰かを思う心を宿すならば、それは冷え切った心を温める最高の薬となるのだ。





 第1楽章8で、ルーピンさんの話がちらっと語られましたが、あの後ルーピンさんも「ちゃんと反省して、それに沿った行動を起こされたようです。

 ルーピンさんは比較的まともな人ではあります。ただし、いたずら仕掛人たちが絡むと、行動がおかしくなります。友情>良識なのかもしれません。

 後、話の視点の持ち主がセブルスさんなので、彼に対してだいぶ辛辣です。





 次回の投稿は来週!内容は・・・吸魂鬼が去ったホグワーツ特急。新学期スタート。『必要の部屋』探索と・・・第1回、突撃☆脱獄犯シリウス!お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。