セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、評価、お気に入り、ここ好き、しおり、誤字報告、ありがとうございました。

 ほのぼの学生たちの、ほのぼのパートは書いてて楽しかったです。ちなみに、書き上げたのは、実は『秘密の部屋』編のバジリスクの推測パートの直後辺りだったりします。

 で、今回からまた話の筋を本編に戻します。

 ネズミの正体に感づいたところからの続きになります。


【7】セブルス=スネイプ、ペティグリューを殴る

 

 つまりである。

 

 ウィーズリー家が飼っていたネズミ、スキャバーズは動物もどき(アニメーガス)のピーター=ペティグリューである。

 

 シリウス=ブラックは、新聞のガリオンくじ当選の記事で、ペティグリューのことを知り、怒りが再燃。脱獄して復讐の完遂をもくろんだ。

 

 一方のペティグリューもまた、ブラックの脱獄を聞きつけ、このままでは危ないと悟り、グレンジャーの猫にやられたふりをして逃げだした。

 

 これが今、ホグワーツで起こっている一連の出来事である。

 

 セブルスはそう結論付けた。

 

 

 

 

 

 無関係な生徒を巻き込んで復讐するんじゃない・・・!いつまで学生気分でいるつもりだ、あの愚か者は・・・!

 

 シリウスが“太った婦人(レディ)”を引き裂いて、就寝中の学生のベッドの上でナイフを振り上げたと聞いた時の、レギュラスは何を思ったであろうか。

 

 絶縁しているというのに、兄が申し訳ありませんとホグワーツに土下座をしに行きたかったに違いない。(別人になっているのでできないのだが)

 

 というか、ペティグリューもいたいけな子供の純真さをもてあそんでいる時点で、十分糞なのだが。

 

 ・・・なぜルーピンは、あんな連中と友情をはぐくめるのか、セブルスには理解不能である。脳に瞳があろうとも。

 

 とにかく。

 

 「よいかね?今ここで話したことはネズミの飼い主であるウィーズリーには伏せておきたまえ」

 

 「その前に言えないです・・・ポケットにまで入れて持ち運んでご飯もベッドも一緒にしてたペットが、実は人間だったなんて・・・」

 

 青ざめた顔のまま首を振るハリーJr.に、改めて並べ立てられた事実に、セブルスは遠い目をした。

 

 しかも、ハリーJr.は言わなかったが、そこには確実に下の世話も含まれているだろう。事実を知ったら、動物不信になりそうな話だ。

 

 

 

 

 

 なぜ、セブルスがロナルドにこの話を伏せるように言ったのか。

 

 もちろん、セブルスも何も知らないだろうロナルドの心境を慮ったというのもあるのだが、それ以上にその行動を信用していなかった。

 

 1年次は教師にも黙ってドラゴンの密輸を計画し、2年次はこちらの釘刺しを無視して秘密の部屋へ直行。

 

 いくら3年になって、申し訳ありませんでした!と謝ってきて大人しくなったといってもそう簡単に信用できるものではなかった。

 

 絵に描いたような優等生のパーシーと、いたずら好きとはいえ融通の利く双子に対し、何というか・・・悪い意味でグリフィンドールらしいのだ、あの六男は。

 

 ここで仮に、ロナルドに「お前のペットはネズミじゃなくて、動物もどき(アニメーガス)の不審人物だから、没収&拘束する」と言い渡したところで、「嘘だ!そんなこと言って、スキャバーズにひどいことする気だろ!」と反抗的になられて、さらに予想外の行動に出られてはたまらない。

 

 去年の夏休みに、彼らの両親から末娘救出に対するお礼と、いい加減な噂を鵜呑みにして申し訳ないという旨の手紙をもらったので、その子供であるのだから根は素直なのだろうとは思うのだが。

 

 万が一そうやって暴走に至った場合、それがブラックの暴走と重なろうものなら、どんな惨事に発展することやら。

 

 考えたくもない。

 

 ブラック単体で面倒なのに、そこに油壷と火炎瓶を連投する奴があるか。

 

 

 

 

 

 「あの」

 

 「Mr.マルフォイとMissグレンジャーには話して構わない。口止めは必要だが。

 Mr.マルフォイには、御父上に連絡するように言づけたまえ。

 そして、Missグレンジャーには、自身の猫をちゃんと見ておくように伝えたまえ」

 

 「ハーマイオニーの猫? クルックシャンクス・・・あ」

 

 先読みして答えたセブルスに、ハリーJr.は一瞬怪訝そうな顔をするが、すぐにはっとした顔をした。

 

 「も、もしかして、クルックシャンクスって・・・」

 

 「あの猫は最初からネズミを襲い続けていたという。もし、最初から動物もどき(アニメーガス)だと見抜いていたのだとしたら筋が通る」

 

 「もし、ネズミの中の人がクルックシャンクスに耐えかねて開き直ったら、もっと大変なことになるかもしれないから、ですか?」

 

 顔をこわばらせたハリーJr.の言葉に、セブルスはうなずいて見せた。

 

 

 

 

 

 とはいえ、ハリーJr.にはそう答えて見せたが、事実は違う。

 

 セブルスの中で線がつながった今、クルックシャンクスを抑えておくのは、もっと別の理由がある。

 

 おそらく、ブラックをグリフィンドール寮に引き入れたのはクルックシャンクスだ。合言葉のメモを盗んでブラックに引き渡したに違いない。(例の炎の雷(ファイアボルト)にかかわる手続きも代行した可能性が高い)

 

 あの猫がこれ以上ブラックに肩入れしたら、どんな惨事になるか。

 

 ただでさえも、ブラックの侵入で低学年の生徒は不眠や夜尿症を訴えてきているのだ。

 

 医務室は睡眠薬が在庫切れだし、マダム・ポンフリーは忘却術の使用を懇願されることもあると、疲労困憊状態である。

 

 これ以上あの猫を野放しにすると、ブラックの暗躍が助長され、結果として生徒たちに負荷がかかる。本来無関係のはずの生徒たちに。それは避けるべきだろう。

 

 

 

 

 

 ついでに、ペティグリュー一人が動物もどき(アニメーガス)とは考え難い。あの男の学生時代の学力などを鑑みれば、むしろ彼はおまけ、いたずら仕掛人(マローダーズ)の他のメンバーもそうであると考えた方が自然だ。

 

 そして、それならばシリウス=ブラック脱獄の説明も付く。つまり、シリウスもまた動物もどき(アニメーガス)であり、それゆえに容易にホグワーツに潜入&潜伏できた。

 

 どうして奴らはその無駄に優秀なおつむを、無駄に問題ある方向にしか発揮できないのだろうか?

 

 

 

 

 

 ともあれ、コクコク頷いたハリーJr.を教授室から帰した(ついでにテスト結果を楽しみにしていると一言添えて)セブルスは、ため息を吐くと立ち上がった。

 

 メアリーから忍びの地図を借りるのだ。動物もどき(アニメーガス)であっても、あの地図には映るはずなので、ペティグリューの探索&捕縛に用いるには最適だ。

 

 なお、セブルスはペティグリューが本当に死んでいるとは微塵も思っていない。そんな根性があれば、最初からポッター一家を売った後、自首なりなんなりしているだろうからだ。

 

 ネズミになってペットの振りで10年以上過ごすのはよくて、アズカバンは嫌なのか。セブルスにはその感性がよくわからなかった。

 

 100年ヤーナム滞在や、世界冒涜地獄めぐりツアーを経験済みの上位者狩人からしてみると、圧倒的にアズカバンの方がいいと思えるのだが。

 

 まあ、ペティグリューのことなどどうでもいい。

 

 どうでもいいが、奴を野放しにするといつまでもブラックがホグワーツに居座る。そして、生徒に負担がかかって、吸魂鬼(ディメンター)も居座る。

 

 それはよくない。

 

 ゆえに、邪魔者にはさっさと退去してもらおう。

 

 確か、メアリーは今の時間は夕食づくりに厨房に行っているはず。

 

 そうして、セブルスは教授室を出て厨房に向かったのだが。

 

 「返してください!それ!僕のネズミです!」

 

 「返さなくていいよ、よくやったね、メアリー嬢」

 

 厨房にほど近い廊下でもめている声が聞こえてきた。

 

 見れば、何かを持ったメアリーにロナルド=ウィーズリーが詰め寄り、そんなロナルドを魔法生物飼育学教授のプランクが抑えている。

 

 「何の騒ぎだね?」

 

 「セブルス様。厨房を騒がせていたネズミを捕縛しました。いかがしましょうか?

 以前、魔法薬の検体が欲しいとおっしゃられていたと思いましたので」

 

 と、真っ先に口を開いたのはメアリーだった。

 

 その人形そのものの関節が目立つほっそりした手で、尻尾をつかんでネズミをぶら下げている。・・・そのネズミは、前足の指が一本欠けていた。

 

 ぶら下げられているネズミはピクとも動かない。いや、かすかに胸を上下させているあたり、息はしているらしい。眠っているようだ。

 

 「以前、セブルス様からいただいた“生ける屍の水薬”を希釈して、それを混ぜた菓子を置いてたのですが、そちらを食べたようです」

 

 ちなみに、“生ける屍の水薬”は、強力な眠り薬である。摂取量を間違えると、下手をすれば一生眠り続けることからその名がつけられたのだ。

 

 「ここ最近、出来上がった食事や保存していた食材をかじられると、ハウスエルフの皆様もお困りでした。おそらく、このネズミの仕業と思われます。

 ・・・先日、焼き上げたマカロンを勝手にかじって、作り直しにさせてきたのもこのネズミの仕業かと」

 

 「なるほど?」

 

 メアリーの言葉に、セブルスは声が一段と低くなったのを感じた。

 

 ペティグリューなどどうでもいいが、メアリーの手間を増やさせたのは許しがたい。

 

 「そいつは僕のペットのスキャバーズです!勝手に食事とか食べたのは謝ります!だから返してください!」

 

 「だめだ。さっき言ったことを忘れたのかい?そいつは、動物もどき(アニメーガス)の可能性があるんだ。

 その可能性を解消できない限り、返せないよ」

 

 「そいつはネズミっぽい新種の魔法生物だ!今まで何もなかったんだから!」

 

 「今は何もなくても、これから先はわからないだろう。シリウス=ブラックがホグワーツに侵入してきたのを、そいつが手引きしてる可能性だってある」

 

 「スキャバーズはそんなんじゃない!何も知らないくせに!」

 

 ロナルドとプランクの押し問答に、セブルスは遠い目になった。

 

 今年はおとなしいと思っていたロナルドは、案の定ロナルドだった。ついでに、プランクはご丁寧に、ロナルドにスキャバーズが動物もどき(アニメーガス)の可能性があるというのを伝えたらしい。

 

 今更ではあったが。いっそのこと失神呪文(ステューピファイ)でロナルドだけ昏倒させてしまおうか?

 

 非常に魅力的ではあったが、仮にも生徒相手なので、セブルスはそれは却下した。

 

 「よろしい」

 

 ややあって、セブルスは口を開いた。

 

 「先に言っておくと、このネズミは動物もどき(アニメーガス)の可能性が高い。

 寿命もそうだが、“生ける屍の水薬”が睡眠で済んでいるのもそうだ。

 この魔法薬は魔力を持たない通常生物には劇薬なのだ。そのようなものが服用すれば眠ったまま死ぬのだ。ネズミのような小動物には特に。

 にもかかわらず、眠っただけで済んでいる。ネズミでない可能性が極めて高い。

 だが、貴公は魔法生物飼育学教授の言うことも、私の言うことも信用できぬという。ならば、その目で見るがいい」

 

 そう言って、セブルスはメアリーから眠ったままのネズミを受け取った。

 

 尻尾ではなく、首元を押さえる。

 

 そうして、その拍子に目を覚ましたらしくじたばた暴れだしたネズミに、セブルスは無慈悲に言い放った。

 

 「時に貴公、マグルは薬の実験の際にネズミを用いるのだが、その効果実証のために時折解剖をするのだが、その時ネズミをどうしているか知っているかね?

 麻酔薬などという丁寧なものは使わぬ。もったいないからな。指で首の骨を折って身動きできなくして行うのだ。ちょうどこの辺りに首の骨がある。このまま暴れられるとうっかり力を込めてしまいそうですな」

 

 淡々とした物言いだが、効果は絶大だった。ぴたりとネズミは身動きを止めた。しかし、プルプルと震えているのがごわごわした毛皮とグローブ越しにセブルスに伝わってきた。

 

 「プランク教授。申し訳ないが、緊急職員会議の開会をお願いしたい」

 

 「わかっているとも。ミネルバに言ってくるよ。オブザーバーの出席の必要も言ってくるさね」

 

 肩をすくめて踵を返すプランクにうなずきを返してから、セブルスは不服そうにこちらを見てくるロナルドをちらっと見た。

 

 ・・・酷な現実になるかもしれないが、選んだのは自分なのだ。後は自分で考えてもらうしかない。

 

 ちなみに、メアリーは万が一を考えて、教授室に戻ってもらうことにした。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで緊急で開会された職員会議だが、教員たちはそろいもそろって半信半疑だった。

 

 だが、プランクが話す動物もどき(アニメーガス)の特徴に、同じく動物もどき(アニメーガス)の使い手であるマクゴナガルがまず顔色を変え、セブルスがつかんだままのネズミを凝視した。

 

 それを皮切りに、全員が信じられないものを見る目でセブルスのつかむネズミを凝視した。ネズミはといえば、セブルスの先刻の脅しをもう忘れたのか、無駄にジタバタともがいている。

 

 「大人しくしな。変な真似をしたらただじゃおかないよ」

 

 「スキャバーズ!やめてくれよ!」

 

 「座っておらんか、ウィーズリー!叩き出されたいのか!」

 

 ネズミに杖先を突き付けてうなるように言ったプランクに、ロナルドが悲鳴を上げるが、セブルスが叱責した。

 

 生徒であるロナルドは、本来この場にいる権利すらないのだ。飼い主で本人が言うことを聞かないから、仕方なく発言権のないオブザーバーとして同席させたに過ぎない。だが、それもロナルドの態度次第だ。

 

 そして、そんな中、一人顕著に顔色を変えた人物がいた。

 

 「ネズミの、動物もどき(アニメーガス)・・・?」

 

 「? 何か知っているのですか?リーマス」

 

 「あ、いえ・・・その・・・ぐ、偶然かもしれませんし・・・」

 

 「ほう?動物もどき(アニメーガス)というのは個人で違うものと伺いましたがな?たとえば同じ猫でも、厳密には模様や品種が違うように。

 ネズミの動物もどき(アニメーガス)といえば、明らかに未登録――その使い道がろくでもない可能性があるというのに、その習得主を知ってて、なお偶然と。

 ・・・では、このネズミの動物もどき(アニメーガス)が万が一生徒たちに危害を加える事態になっても、隠し立てしたご自身に責任はないとおっしゃるのですな?ルーピン教授」

 

 手の中のネズミが、ルーピンの方を凝視しながらジタバタともがくのを無視して、セブルスは言い放った。

 

 びくっとルーピンは顔をこわばらせたまま身を震わせる。

 

 「それは・・・け、けど、まだ、その・・・ネズミが危険と決まったわけでは!」

 

 「十分不審でしょう!なぜペットに身をやつして10年以上も同じ家に潜伏しているのですか!今は大丈夫でも、これからがわからないんですよ?!

 リーマス!あなたは今の自分の立場を何だと心得ているのですか!

 あなたは!ホグワーツの教授なのですよ?!イギリス魔法界の未来を担う、子供たちを教え導き、守るべき!教師なのですよ?!

 生徒たちとこのネズミ!どちらが大事なのですか!!」

 

 怒声を張り上げるミネルバに、ルーピンは口ごもってうつむいた。

 

 「このネズミがホグワーツで事を起こすと決まったわけではありませんよ?ウィーズリーの家で、何かするかもしれませんよ」

 

 「アーサーとモリーはこのことを知っているのか?」

 

 「パーシーは?確か、以前は彼のペットだったはず・・・」

 

 「パパとママも、パーシーも!関係ない!です!」

 

 ひそひそとささやかれ始める教員たちの声に、ロナルドは髪と同じくらい顔を真っ赤にして怒鳴った。彼からしてみたらペットのネズミにかかっている疑惑が、とんでもない方向に飛び火しまくっているようにしか思えないからだ。

 

 セブルスは急におとなしくなったネズミに目を落とすと、ネズミはひげと首をだらりと垂れてうなだれているようだった。

 

 ・・・どうやら、多少の分別と申し訳なさくらいはあるらしい。

 

 「埒が明かないね。ミネルバ!手を貸しておくれ!セブルス!ネズミをこちらへ!スペースを空けておくれ!どいたどいた!」

 

 ふんっと鼻息荒く、プランクが言った。それに応えて、教員たちはのそのそと職員室の壁際による。

 

 「どうするのだね?」

 

 「強制解呪する。本物のネズミや他の魔法生物なら、これには影響は受けないはずだよ。いいね、ウィーズリー」

 

 有無を言わさぬ強い語気で言い放ち、プランクはセブルスからネズミを受け取った。

 

 とたんにネズミがジタバタともがきだした。

 

 そうして、マクゴナガルとプランクがかざした杖から青白い光がほとばしった。ネズミが宙に浮きあがる。黒い点のようなネズミが奇妙にねじれたと思ったとたん、激しい閃光を放ってぽとりと床に落ちた。ロナルドが悲鳴を上げるが、全員無視した。そして。

 

 次の瞬間、ネズミは成人した男に変貌していた。

 

 小太りで、薄ら禿の、みっともない男だ。セブルスはその顔を知っている。

 

 「久しいな、ピーター=ペティグリュー」

 

 淡々と言ったセブルスに、男は奇妙にひきつった笑みを浮かべ、おどおどと周囲を見回してから、もう一度ひきつった笑みを浮かべる。

 

 「や、やあ・・・セブルス・・・」

 

 「貴公にそう呼ばれる覚えはありませんな。メアリーの手作りのマカロンはさぞうまかったでしょうな。

 きっと、ポッター夫妻を売り飛ばした夜に飲み干した美酒と同じくらいに」

 

 「どういうことですか」

 

 信じられないものを見る目で、わなわなと震えるマクゴナガルがつぶやく。

 

 他の教職員たちも、おろおろとセブルスとペティグリューを見比べている。

 

 「ピーター=ペティグリュー?12年前に吹き飛んで死んだはずです!シリウス=ブラックのせいで!遺体だって見つかって」

 

 と言いかけたマクゴナガルは口をつぐんだ。重要なことを思い出したのだ。

 

 「・・・見つかったのは指一本。しかも、我々は全員現場を目の当たりにしていません。

 もし・・・もしもですよ?ペティグリューがマグルを吹き飛ばした後、自分の指を切り落としてネズミに変身して身を隠したのだとしたら・・・!」

 

 青ざめた顔のマダム・ポンフリーがうめくと、「違う!」とペティグリューが大声で喚いた。

 

 「殺したのはシリウスだ!奴がジェームズたちの“秘密の守り人”だったんだ!!私は!奴を追い詰めたが、マグルを殺しにかかるのを見て怖くて!それで!」

 

 「・・・じゃあ、なんで12年も身を隠してたんだい?」

 

 静かに口を開いたのはリーマスだった。先ほどまでの戸惑った様子とは打って変わって、燃えるような目でペティグリューをにらみつけている。

 

 「ずっと信じられなかったんだ・・・“不死鳥の騎士団”にだって加わってたシリウスが裏切者で、大親友のジェームズを売ったなんて。

 ダンブルドアが以前おっしゃられてたけど、本当は“秘密の守り人”は君だったんだろう?

 大方、あの二人に言いだされて断り切れなくてってところか。ずっとそうだったよね?

 あの二人に無茶を言いつけられて、仕方なく言うことを聞いて、あとでスリザリン生たちに“あの二人に言われて!”って責任転嫁してて。

 学生のころからずぅっとそうだ」

 

 「あれは、錯乱したリリーの発言じゃあ・・・?」

 

 「そうさ!リリーは狂っていた!」

 

 教授たちの誰かの発言に、ここぞとばかりにペティグリューは叫んだ。

 

 ぴくっとセブルスは眉を動かした。

 

 こいつがリリーを語るのか。誰がこいつの後始末をしたと思っているのだ。シリウスでも、リーマスでもない、セブルスとレギュラスだというのに。

 

 「貴公がその口でMrs.ポッターを語るのかね?

 墓碑の下のMrs.ペティグリューも、恥ずかしさのあまりにないはずの舌をかみ切りたいと思っていることでしょうな」

 

 吐き捨てたセブルスに、ペティグリューはピタッと身動きを止めた。そして、青ざめた顔でセブルスを振り返ってきた。

 

 「墓碑の下・・・? 母が、死んだと・・・?

 う、嘘だ!話が違うじゃないか!」

 

 「嘘ではない。Mrs.ペティグリューは、3年前に入所先のサナトリウムが経営破綻した挙句、施設から出され、もともと住んでいた田舎で亡くなられている。

 Mr.マルフォイに調べてもらった故、確かな話だ」

 

 正確には、マルフォイではなくレギュラス=ブラックになのだが、それは黙っておく。

 

 狼狽し始めたペティグリューに、マダム・ピンスが怪訝そうにつぶやいた。

 

 「話が違う・・・?」

 

 「人質でしょう。あの当時は珍しいことではない。

 病弱な母を人質にされ、スパイ行為の代わりに療養を約束すれば、従わざるを得ないでしょうな。

 口先だけで、何の報酬もなく顎で使ってきただけのポッターとブラックと、人質はあれど一応報酬を用意する闇の帝王。

 はてさて、どちらが義理堅いのでしょうな?」

 

 吐き捨てるように言ったセブルスに、ペティグリューは一瞬大きく目を見開いたが、「そう!そうなんだ!人質に取られて!わかってくれてうれしいよ!やっぱり君はいい奴だったんだね!」とうんうん嬉しそうにうなずいてきた。

 

 瞬間。セブルスはブチッと瞬時に溜まり切った獣性が臨界点を突破すると同時に動いていた。

 

 ゴシャアッ!と轟音が轟いた。

 

 のけぞったペティグリューが、鼻血で見事なアーチを描いたまま、あおむけに倒れるのをよそに、セブルスは左手に取り付けたガラシャの拳を、舌打ち交じりに一振りする。

 

 ペティグリューの懐に飛び込んでから伸び上がるように決められたそれは、いっそ見事なまでのアッパーカットだった。歯も何本か失い、顎を変形させて顔面下半分を血まみれにして倒れこむペティグリューに、セブルスは「この、罵るにも値しない、汚物以下め」と吐き捨てた。

 

 「誰が貴公の味方をしたのだ?人質に取られていたから、貴公の行いのすべてが許されると?

 それを断ずるのは、私でもなければ、貴公でも!ブラックでもルーピンでも!何者でもない!

 貴公が罪から逃れるべく吹き飛ばしたマグルたちと、貴公に売り飛ばされたポッター家、それも事情も知らなかった赤子と奥方のみだ!

 Mrs.ペティグリューが哀れですな!息子は英雄と信じて死んだというのに、こんな愚劣極まる畜生以下がその実態とは!」

 

 「スネイプ・・・」

 

 人質の下りを聞いて気の毒そうな顔をしていたルーピンは、すぐさま軽蔑の視線に変えて倒れこんだペティグリューを見下ろした。

 

 他の教授方も同様である。

 

 ただ、静かにマダム・ポンフリーが歩み寄り、ピーターに向かって杖を一振りした。

 

 とたんにその傷がきれいに治る。気が付いた様子で身を起こしながら首を振るペティグリューに、マダム・ポンフリーは目を合わせることもなく吐き捨てた。

 

 「ここはホグワーツです。私の目の届くところで、けが人は放っておけません。それがたとえ、何者で、何をしでかしていようとも」

 

 「・・・トンクスを呼んできましょう。確か、彼女なら魔法省に直通の連絡手段を持ち合わせているはずです。

 ピーター。あなたの困窮を察せられなかった愚かな師である私に、言うべき言葉はありません。

 ですが・・・いいえ、今更過ぎますね。何もかも。」

 

 首を振って、マクゴナガルは杖を一振りして猫の守護霊を呼び出すと、窓から出て行かせた。

 

 「すまないが、拘束させてもらうよ」

 

 そういって、フリットウィックは杖を一振りして、ペティグリューを縄で縛りあげる。

 

 ふと、プランクが見やると、ロナルドが放心状態で力なく椅子に座っていた。膨大すぎる情報に、脳の処理が追い付いてないのかもしれない。

 

 「・・・念のため訊くよ。ペティグリュー。なんでウィーズリーのところにもぐりこんだんだい?いや、そもそも人質に取られてたなら、最初から罪の軽減ができるじゃないか。

 なんでわざわざ自分から罪を増やすようなことをしたんだい?」

 

 「・・・そうとも。せめて私にも何か言ってくれれば」

 

 「言ってくれればだって?聞こうともしなかったじゃないか!!」

 

 ルーピンの言葉に、ペティグリューが叫んだ。

 

 先ほどまでのおろおろした態度をかなぐり捨て、恨めし気に彼をにらみつける。

 

 「私がポッターとブラックに面倒を押し付けられて、スリザリン生たちにもこびへつらってたのをずっと変わらないだって?!

 君たちはいいさ!父親が魔法省役人だったという君は!名門ポッターとブラックの出で金もあったあの二人は!私には母しかいなかった!病弱で、それでも必死に働いて私の学費を稼いでくれた母しか!

 彼女の働き先が私のせいでつぶされてたら!どうしたらいいっていうんだ?!

 私の謝罪と媚で母が助かるなら儲けものさ!卑怯?八方美人?金も権力もない、学力も魔力もない私に!他にどうしろっていうんだ!!

 私は言ったさ!言ったとも!勇気を出して!ポッターにも!ブラックにも!『このくらい大丈夫さ!』『腐れスリザリン相手に気にしてんじゃねえよ!』あいつらはそう言って聞きやしなかった!そればかりか!ピーターのくせに生意気だとさ!ピーターのくせにだと?!

 それを聞いてた君はその場では絶対何も言わなかったな?!気の毒そうな目で見てきただけだ!

 “不死鳥の騎士団”入りの時もそうさ!私は言った!できないと!母の治療費のために働かなくちゃいけないから、そんなことしている暇はないと!

 それを聞いたあいつらが何をしてきた?!ええ?!言ってみろ!言えるだろう?!君も!あの場に居合わせたんだから!」

 

 溜まりに溜まった鬱憤をぶつけるように、怒涛の文句を吐き出したペティグリューは肩で息をしている。

 

 全員ぎょっとして彼を見ている。

 

 セブルスだけは怒りも侮蔑も消して静かに、彼を見ていた。

 

 セブルスは、自身が去った後のホグワーツの様子について聞いたことはなかった。興味もなかった。だが、この様子からして、セブルスという便利なサンドバッグがいなくなったことで、そのストレスのはけ口がペティグリューに向かっていたのだろうと想像はつく。

 

 対するルーピンは、顔色を真っ青にして黙り込んでいた。

 

 「いつだってそうさ!君は!口先では気の毒がりながらも、やんわりとしかあの二人を止めないし、結局押し切られた!

 私の家の事情だって知ってたくせに、何も言わなかったな?!

 あの二人が!私が騎士団への参加を確約するまで!動物もどき(アニメーガス)の応用魔術で、自力解除できないネズミに変身させられて、薄汚い路地裏を走り回らされた時も!やり過ぎだとやんわり言っただけで、結局いいじゃないか、参加くらいって言っただけだったよな?!

 誰がお前にクイックスペルの講師の仕事を紹介してやったと思ってるんだ!薄汚い人狼で、働き先もろくにないお前に!!この恩知らずが!!」

 

 フーフーッと肩で息をしながら叫びきったペティグリューに、ルーピンは今度こそ顔色を死人のような色合いにさせて、うつむいた。

 

 「人狼・・・?」

 

 「え?人狼って・・・」

 

 教授たちが戸惑ったように言った。

 

 まずい、と顔色を変えたのは、事情を知るマクゴナガルとマダム・ポンフリーだ。(マクゴナガルはルーピンのいたグリフィンドールの寮監で、ポンフリーはルーピンが満月の夜に過ごす“叫びの屋敷”への送迎をしていた)

 

 すると、ペティグリューは顔をあげて、勝ち誇ったように叫ぶ。

 

 「そうさ!こいつは人狼なんだよ!私たちは学生時代!何も知らされずにこいつと同室にされたんだ!

 こいつのためにみんなで動物もどき(アニメーガス)まで習得してやったっていうのにな!」

 

 「待ちなさい。みんな?

 ということは・・・ジェームズやシリウス=ブラックも動物もどき(アニメーガス)なんですか!?」

 

 「ああ、そうさ!ジェームズは雄鹿!シリウスは薄汚い黒犬さ!」

 

 マクゴナガルの問いかけに、ペティグリューは憎々しげにしながら叫ぶ。

 

 シリウスの動物もどき(アニメーガス)のことを聞いた瞬間、セブルスの眉がかすかに動いたが、だれも気が付かなかった。

 

 「あいつらが、私に“秘密の守り人”を押し付けてきた時も、断ったさ!

 無理だと!私には母のことだけで手いっぱいだから、引き受けられないと!

 あいつらが何て言ったと思う?!

 『大丈夫!まさかピーターなんかが“秘密の守り人”だなんて、だれも思わないだろうさ!』だと!

 ピーターなんか!私は!“なんか”なのか!!

 “なんか”だから、あの二人にいいようにされなくちゃいけず、誰にも助けてもらえないのか!!

 すでに帝王の見張りが付いてた私に、他に選択肢もなかった!

 だから、やってやったのさ!ポッターを売り飛ばして!シリウスを薄汚い路地裏をはい回る気持ちを味わわせて!リーマスにもお望み通り他人面で気の毒にしてやれるようにしてやったのさ!」

 

 「・・・素晴らしい友情ですな」

 

 皮肉気に吐き捨てたセブルスに、リーマスは黙ってうなだれた。

 

 「まだ最初の質問に答えてないよ?なんでウィーズリー一家を巻き込んだんだい?

 あの一家・・・アーサーとモリーも、あんたのことを知ってるのかい?」

 

 プランクが改めてした質問に、放心状態のロナルドがのろのろと顔を動かした。

 

 とたんに、それまでの憎々しさを前面に押し出していたペティグリューは、火が消えたように力なくうなだれた。

 

 「・・・ネズミになった後のことは何も考えてなかったんだ。ハリーはリリーと一緒に死んだと聞いたしね。あの方は約束は守る。だから、母のことさえ守られたら後はどうでもいいと思って・・・。

 行き倒れで路地裏に倒れてたところをアーサーに拾ってもらって・・・。

 すぐに出て行こうと思ってたんだが、パーシーに名前を付けられてかわいがってもらって・・・。

 寂しがらせるのも忍びなくてね・・・。

 誓って言うが、ウィーズリー一家は何も知らない。私の残っている手の指すべてをかけてもいい」

 

 「・・・死んだふりをしたのは、ウィーズリー一家を何も知らないでいさせるため、“ネズミのスキャバーズ”に対する未練をなくさせるためか」

 

 セブルスの問いに、ペティグリューは一瞬目を輝かせた(わかってくれた!)が、すぐさまおどおどと視線をそらしてから、頷いた。

 

 ・・・余計なことを言えば、再びガラシャの拳がうなりをあげるのは目に見えていた。

 

 「もし、死喰い人の一員を、光の陣営と名高きウィーズリーが匿っているとなれば、大層なスキャンダルになりますからな」

 

 ルシウスが知ろうものなら、嬉々として糾弾に勤しむことだろう。

 

 セブルスの言葉に、ペティグリューは今度こそ顔を青ざめさせて叫んだ。

 

 「断じて違うんだ!彼らは私のことなんて知らなかった!私が彼らの好意を利用しただけなんだ!

 シリウスの脱獄が報道されたときばれたと思った!だから逃げないとと思って!」

 

 「事情の説明もお礼も言わずにかい?」

 

 「セブルスも言ったとおり、アーサーたちを巻き込んで、共犯者扱いされるかもしれないだろう!だから、ホグワーツで逃げるしかなかった!ここなら、巻き込みにくいから!

 ・・・シリウスがあそこまで見境がないとは思わなかったんだ」

 

 プランクの問いかけにそう言って、ペティグリューはうなだれた。

 

 「ポッターのことで恨み骨髄というのに、さらに冤罪までかぶせられましたからな。

 アズカバンで吸魂鬼(ディメンター)に囲まれていれば、思考力も低下する。もともとそういう部分もあった男ではあったろうがな」

 

 そう言ったセブルスは最後に一つ、個人的に気になっていたことを解消すべく、鎌をかけることにした。

 

 「『闇の帝王を打ち破る力を持ったものが近づいている』」

 

 とたんにペティグリューは勢いよく顔をあげて、セブルスを見やった。

 

 「ど、どこでそれを・・・あの時一緒にいたダンブルドアくらいしか知らないはず・・・!」

 

 「なるほど?ネズミならば盗み聞きには最適だな」

 

 再びセブルスは、左手にガラシャの拳をはめ込み、宇宙色の双眸を絶対零度に凍てつかせながら言った。

 

 ああ、可哀そうに。

 

 去年、一昨年、3年前と、セブルスの暴虐をすでに経験済みの教職員たちは、そっと彼から目をそらした。中には、おおっマーリンと魔術師の祖に祈りを捧げ始める者すらいた。

 

 ルーピンはおろおろとセブルスとペティグリューを見比べている。

 

 「そもそもポッター一家が狙われるきっかけとなった予言を、闇の帝王に告げたのは貴公か。

 “秘密の守り人”になったから引きずり込まれたのではなく、その前からずっと通じていたと。人質?強要された?自身で逃げようともしなかったのだろう?

 なるほどなるほど。

 その素晴らしく自己保身にたけた脳髄は、いっそのこと挽肉にした方がまだ生産性があるやもしれませんな」

 

 「ひきゃ!」

 

 縛られているにもかかわらず飛び上がりそうになったペティグリューに、セブルスは無言で拳を振り下ろした。

 

 「殺しはせぬとも。貴公の遺志など汚らわしいだけだ。いっそブラックに殺してくれと懇願したくなるほどの苦痛を与えて進ぜよう」

 

 顔に返り血を飛び散らせながら、セブルスは無表情で吐き捨て、右手を振った。

 

 治癒呪文であっという間にその傷を癒されるペティグリューに、セブルスは間髪入れずにガラシャの拳を振り下ろす。

 

 「まぴっ」

 

 「うまっ」

 

 「むすっ」

 

 「ごるしっ」

 

 奇声のようなペティグリューの悲鳴と殴打音、飛び散る血しぶきに、セブルスが治癒魔法を交互に使う音だけが聞こえた。

 

 というか、教師たちはそれ以外の事象を頑として認識したがらなかった。みんな顔を背け、耳をふさいで早く終わってほしいと言わんばかりだった。

 

 ルーピンは青ざめたまま腰を抜かして座り込んだ。・・・彼が知らぬ間に、セブルス=スネイプは、ずいぶんと血なまぐさくなったらしい。

 

 ロナルドはあまりの凄惨さに白目をむいて卒倒した。

 

 「・・・セブルスってのは、ああなのかい?」

 

 「基本的にはまともなのですが、一度逆鱗に触れてしまうと手が付けられなくなってしまうのです。

 3年前にダンブルドアをも殴り倒して、去年はロックハートを脱毛させていました・・・」

 

 ドン引きしてひそひそと話しかけるプランクに、マクゴナガルは胃薬を片手に涙ぐんで答えた。

 

 

 

 

 

続く




【生ける屍の水薬】

 非常に強力な睡眠薬。水のように澄んでいて透明。

 成分が強すぎれば生涯眠ったままでいることもあり、魔力を持たない小動物に対して使えば、眠ったまま死ぬというほど、その効果はきわめて強力。

 逆を言えば、この薬を服用してなお、眠るだけで済むということはその生き物は小動物ではないという指標にもなる。





 こそこそ姑息な話。

 ピーターさん、同席してたのが自分の事情をくみ取ってくれたセブルスさんと、めったに癇癪起こさないルーピンさんがいたから、逆上できたんですよ。

 ちょっとでも同情を他の教授陣たちにしてもらえると思って。なんと姑息で打算的。

 これでシリウスさんがいたら、命乞いに徹してました。だって、彼の方が癇癪で何してくるかわかりませんから。





 次回の投稿は、来週!内容は、さらばペティグリュー!第3回突撃☆脱獄犯シリウス!職員会議の裏側の話と、我慢の限界を迎えた吸魂鬼たち!
 唱えろ!エクスペクトパトローナム!
 お楽しみに!
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