おかしいですよね?ガラシャの拳ってBloodborne本編では産廃武器のはずなのに。なお、今回も出番があります。大活躍ですな。理由としては、他の武器は殺傷力があり過ぎるので、使うと大問題になりそうってところがあるんですが・・・たぶん、今後禁止されるんでしょうね。
というわけで続きです。セブルスさんによるガラシャの拳祭り開催からになります。
セブルスは、ペティグリューを延々ガラシャの拳による殴打&治癒呪文による回復のエンドレスコンボにかけていた。
確かにこの男は気の毒だろう。延々ポッター&ブラックの二人に振り回され、ノーを言ってもイエスに強制修正されていたのだから。
だからと言って、やったことすべてが許されると思ったら大間違いだ。
大体、なぜあのタイミングであんなことを話してきたのか。
大方、おとなしいルーピンがいたことやセブルスが奴の事情を察したから、今なら話を聞いてもらえる!誰か自分を助けて!自分だって大変だったんだ!自分は悪くない!と言い訳したいというところか。
これでシリウスがいたら、命乞いに徹していたのだろう?喚いている最中も、ちらちらと周囲を見回して、憐れみを誘おうとしてきて、実にみっともない。
そもそも、セブルスが今やっていることも、単なる八つ当たりでしかない。
だが、セブルスは知っている。
『葬送の工房』にやってきた当時のリリーは憔悴しきっていたし、夜もよく眠れていないようで、時折夜中に温かな飲み物を入れるためにキッチンに入っていたのだ。
ジェームズの名前を呼んで、夜中に一人すすり泣いていたリリーの姿(本人は見られてないと思っているだろうが)を、セブルスは一時たりとも忘れたことはない。
リリーはペティグリューのああいった事情を察して、怒ってはいるが恨んではいないと言った。だが、それとセブルスが怒るのはまた別だ。
そうとも。
大体、自分は被害者です!という顔を前面に押し出して、申し訳ありませんでしたという一言さえ言わない男にかけてやる慈悲など、セブルスにはない。
巻き込んだリリーとハリーJr.に対して申し訳ないとすら言わぬ、この男相手には!(ペティグリューの被害者には彼に吹き飛ばされたマグルたちもいるが、見知らぬ何某共など、セブルスにはどうでもよかった)
「あの、こちらに死喰い人の一員がいると聞いて・・・うわ?!何ですか、これ?!」
ようやくやってきたトンクスは、広がる惨状にピンク色の髪を青くして叫んだ。
ペティグリューはすでに叫ぶ気力すらなく、かろうじて指先をぴくぴくと動かすだけで、顔面を血まみれにしていた。傷は治しても血は拭ってないから、当然である。
「では、後は頼む」
ベシンッとなぶり飽きたおもちゃを放り捨てる如くペティグリューを解放するセブルス(彼も返り血であちこち汚れている)に、ドン引きしつつもトンクスはマクゴナガルから事情を聞き出した。
「そんな事情が?!わ、わかりました。至急応援を呼びます!
申し訳ありませんが、護送の手配が整うまでの間、彼を拘束しておいていただけませんか?」
「
とりあえず、魔法封じと
護送の手配が整うまでは・・・どこに置いておきますか?」
「生徒指導用の反省室があったはずです。
今は使っていませんが、あそこなら魔法封じもしていたと思いますので」
そう言って、マクゴナガルは改めて気絶しているペティグリューを見下ろした。できるだけ感情を殺そうとしているような無表情だった。
「
フィリウス、このロープに重ね掛けしても大丈夫ですね?」
「ええ。ただのロープですので」
「魔法省の闇祓いたちが来るまでは、我々が交代で見張りをしましょう。2時間ごとに。ただし、シリウス=ブラックのことがありますので、寮監は免除とし、それ以外の教授でやってもらいます。かまいませんね?」
「では、最初は私が」
「お願いしますよ、チャリティ」
申し出たチャリティ=バーベッジ(マグル学教授)にうなずいて、マクゴナガルはペティグリューを縛るロープに向かって杖を一振りした。淡い紫色の光がロープに向かってまとわりつく。
そうして、ペティグリューを職員室から出て行かせたところで、ルーピンについても問題視されたのだが、(何せ彼は人狼である)今のところは問題は起こってないし、脱狼薬も真面目に飲んでいるようなので、(これに関してはセブルスはモノ申してやろうかとも思ったが)1年のみの採用でもあり、もうすぐ学期終了ということで、とりあえずはこのままでいこうとなった。
そうして、「では、つつがなく」とこの場をお開きにすることにした。
ようやく気が付いたロナルドは、顔面蒼白のまま無言でその場を後にした。挨拶など、している余裕はなかったらしい。
その翌日の夜のことだ。
魔法省からのペティグリュー護送の部隊が来たのとほぼ同時のことだった。
シリウス=ブラックが、ペティグリューの押し込められていた反省室を襲撃。
どさくさ紛れに、ペティグリューは魔法省部隊の一員から杖を奪い、ネズミに変身して逃げおおせてしまったのだ。
逃げるなこの卑怯者が!!と怒り狂うブラックは、闇祓いたちに押さえつけられてなお、憎々しげにペティグリューを罵っていた。
少々時間を前後してしまうが、ブラック他何人かの人間の行動について述べておこう。
にっくき卑怯者の糞ネズミを今一歩のところまで追いつめたのに、生徒の邪魔が入って取り逃がしてしまった。なんてタイミングで目を覚ますのだ!あと一歩だったのに!
・・・なお、彼は目を覚ますなりナイフを振り上げた凶悪犯がいたという子供たちの気持ちや、ペティグリューを殺した後の事はまったく、一切合切、これっぽっちも考えていない。
ついでに、彼の侵入によって不眠や夜尿症を患うことになった子供たちなんて微塵も想像できてない。
そしてそれはクルックシャンクスも同じであったが、その猫は頭のよさゆえ、きっかけさえあれば考え直すのは容易でもあった。ハリーJr.の言葉を受けたハーマイオニー(彼女はその頭の良さで、事の真相まで思い至ってしまったのだ)によって、夜中にもかかわらず目の下に濃い隈をつけて談話室に集って、身を震わす子供たちを見せられたのだ。ひげと頭をうなだれさせたオレンジ色の毛並みの猫は、それ以降、黒い犬には接触しなくなったらしいが、その心中は本猫しか知らないことだ。
とにかく、そういった事情も重なって、シリウスは焦っていた。
ぐずぐずしていると、あのクソ卑怯者のことだ。またぞろ逃げ出すにきまっている!何としても、息の根を止めねばならない!
そんなシリウス(例によって黒犬姿)に、接触してきたものがいた。
「いた!シリウス=ブラックだ!」
黒犬にしか見えないはずのシリウスをバッと指さしてきたのは、グリフィンドールきってのカメラ小僧(2年生)、コリン=クリービーと、ハッフルパフ3年生のアーニー=マクミランであった。
・・・実は、メアリーが捕まえたネズミと、ロナルドを連れたプランク、やってきたセブルスの4人で話していたのは厨房にほど近い廊下であったのだが、その会話を聞いてしまったものがいた。それがこの二人と、パーバティ=パチル(グリフィンドール3年生)である。
さらなる好奇心に駆られ、この三人はなんと、職員会議も廊下から盗聴。・・・双子のウィーズリーが“伸び耳”という盗聴用魔法グッズの試作品を作って、売りさばいていたのもタイミングが悪かった。
つまり、波乱に満ちた職員会議の全容は、生徒たちに筒抜けになってしまったということである。
大ニュースだわ!みんなに知らせなくちゃ!と大広間に駆け込んでいくパーバティと対照的に、シリウス=ブラックが黒犬の
実は、コリン少年はここ数年のグリフィンドールの評価の低下を気にしている生徒の一人だった。ここで、自分が何か手柄を立てたら、それをきっかけに見直してもらえるかもしれない。去年だってバジリスクのことをグレンジャー先輩が見抜いたのだ。自分だって!と。
アーニーもまた、そんな手柄への欲求にぐらついてしまったわけである。・・・ここのところのスリザリンの寮杯連続獲得に不満を感じているのは、何もグリフィンドールだけではないのだ。シリウスが無実の人間で、実際にナイフを振り上げている姿を見たことがなく、ぴんと来なかったというのも大きかった。
そんなわけで、二人は消灯間際というのに校庭をうろついて黒い犬(最近校内をうろついているともっぱら評判。ホグズミードから来たのだろうと思われていた)を探し回っていた。
そうして起こった、接触。
片や、卑怯者の糞ネズミを殺すことしか頭にない、猛進のシリウス。
片や、相手が冤罪ということぐらいしかよくわかっていない、低学年の学生二人。
結果は明らかだった。
なぜだかわからないが、自分の正体を見抜いてきた子供たちを襲うのを、シリウスがためらうわけもなかった。(もしこれがスリザリン生であれば、下手をすれば命すら奪っていたかもしれない)
子供たちの杖二本を奪い取り、失神呪文で気絶させて放置した彼は、そのまま校内に侵入。
人間姿で。彼を発見した
続けて、子供たちのうわさ――正体を暴かれた糞ネズミことピーター=ペティグリューが反省室に押し込められたというのを聞いた彼は、護送させられる前に!と押し掛け、襲撃を図ったというわけである。
さて、ネズミと入れ替わりに捕縛されたシリウス=ブラックは怒り心頭という様子で、散々に闇祓いの無能さとネズミの卑劣ぶりをこれでもかと罵っていた。
・・・自身の行動を棚上げして。
これにはマクゴナガルが雷を落とした。
「いつまで学生気分でいるつもりですか!!冤罪と判明して少しでも哀れんだのが間違いでした!!
あなたのせいでどれだけの生徒たちが夜もろくに眠れず・・・いいえ、不安と恐怖に苛まれたと思っているのです!!
それでも、ホグワーツの卒業生ですか!!少しは後輩をいたわろうという気はないのですか!!!
アズカバンに入れられて反省なさい!」
「ふざけんな!これも全部!!あのクソネズミのせいだ!ジェームズの敵なんだぞ!!」
だが、そんな二人の言い合いは、途切れることになる。大広間の方から聞こえてきた、阿鼻叫喚の悲鳴によって。
シリウス=ブラックを追って校舎内に侵入した
不幸なことに、この時はまだ消灯時間に至っていない。それどころか、夕食の時間でほとんどの生徒たちは大広間でディナーの真っ最中であった。
そして、先生方はピーター=ペティグリューの見張りと、護送の手配、シリウス=ブラック対策の見回りで、散開しており、大広間には・・・守護霊呪文の使えない、シビル=トレローニー(占い学教授)と、ロランダ=フーチ(飛行術担当)しかいなかった。
つまり、扉を破って大広間まで侵入した吸魂鬼たちにより、生徒たちが阿鼻叫喚状態に陥ってしまったのだ。
念のためにいっておくと、グリフィンドール上級学年はクィディッチ場の事件を受けて、守護霊呪文を自主練習していたのだが、ディナー中で気を抜いていた中の不意打ちに近い状態でろくに使えなかった。
それどころか、低学年の生徒の中には、パニックを起こして魔力暴走に至る生徒もいた。
「生徒たちに避難を・・・あああああ。いやだいやだいやだごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
どうにか落ち着かせようと声を張り上げようとした監督生たちすら、吸魂鬼の餌食になり、青ざめて身動き取れなくなってしまったのだ。なお、教職二人も、身動きできなくされてたりする。
「使える人は守護霊呪文を!早く!」
変わって叫んだのはハリー=メイソンJr.だった。彼も青ざめている。ひどい頭痛の奥で、母の悲鳴が鼓膜をたたき始めていた。物心つく前の最悪のトラウマ――闇の帝王の襲来がいやおうなしに引っ張り出され始めているのだ。
「僕らも使うぞ!ハリー!呪文と必要なイメージングは?!クソックソッ!僕なんか食べてもおいしくないぞ!」
涙目で杖を片手に叫ぶのはドラコだ。彼は4年前のハロウィーンの怪物邸騒動の記憶がフラッシュバックし、あわや食べられそうになった記憶を必死に振り払おうとしているのだ。
「
「ハリー!しっかり!
来ないでぇぇ!」
ハリーJr.の悲鳴のような返し(記憶の混濁で、彼も半ばパニックを起こしている)に応えて、何人かの学生が、青ざめた顔、あるいは涙でぐちゃぐちゃのひどい顔のまま杖を構える。
ハーマイオニーも青ざめた顔、涙目で叫びながら杖を振った。
大広間はもう、死屍累々のひどいありさまだった。
身動きもろくにできず、卒倒している生徒もいる中、どうにか動けそうな生徒たちが、片っ端から呪文を唱えて抵抗を試みている。
吸魂鬼たちは渇いていた。飢えていた。アズカバンという餌場に放り込まれてくるのはまもなく、幸せな記憶をしゃぶりつくされて生ける屍のようになってしまう。
だが、ここはアズカバンではない。若く満ち足りた魂の持ち主たちに潤い、満たされた
想像してほしい。噛み続けてろくに味もしないガムを何十年も咀嚼させられていたところで、新鮮で美味しそうなごちそうが並べられたテーブルの前に座らされる光景を。
ガムなんて吐き出して、テーブルのごちそうにむしゃぶりつくにきまっている。
今の吸魂鬼たちは、まさしくそれだった。
テーブルの上のごちそうが何か喚いたところで、吸魂鬼たちには些細なことだ。
シリウス=ブラック?もちろん捕まえるとも。目の前のこのごちそうを平らげてから。
「
「
「
縋りつくように、皆がその呪文を唱える。
だが、杖の先からは辛うじて、銀色の靄が出てくるだけだ。ひどいときには、それすらもない。
あざ笑うように吸魂鬼たちがにじり寄る。
もうだめだ。
ばたりとドラコが倒れる中、ハリーJr.はひどくなる一方の頭痛と鼓膜の奥の母の悲鳴に、膝をついた。
「ルーピン!待たんか、馬鹿者!」
セブルスは叫んで、飛び出したルーピンを追おうとしていた。
今夜は満月である。改良版の脱狼薬の接種を終え、人狼姿に変身したルーピンの経過観察をしていたのだが、何をかぎつけたか、突如ルーピンは顔をあげるや、“闇の魔術に対する防衛術”教授室の扉をけ破り、外に飛び出して行ってしまったのだ。
そして、セブルスは一歩外に出るなり、ぴくっと眉を跳ね上げる。
空気の中に感じる、凍てつくような陰鬱さ。懐かしき地獄の匂いだ。
「
ぎょっとするセブルスをよそに、人狼姿のルーピンは四つん這いの狼さながらに一目散に大広間に向かって駆けて行く。
ルーピンの鋭い嗅覚は、吸魂鬼たちが大広間に集っているのを嗅ぎ取っていた。そして、生徒たちもまた、大広間にいることも。
人狼状態のルーピンは声帯も変化して、呪文を唱えることができない。・・・そればかりか、魔力が変身維持に強制使用されるためか、魔法自体を使うことができない。
だが、その代わり、今のルーピンには人外の膂力がある。自分の正体がばれることになろうと、子供たちの安全には代えられない。特に。
ジェームズとリリーの息子だけは、何としても、守らなければならないのだ!!
ルーピンが扉を蹴破って大広間に駆け込んだ時には、蒼白になったハリーJr.が、今にも膝をつくところだった。
大多数の生徒たちがうずくまったり、気絶したりして身動きできなくなっている。
そんな中、吸魂鬼たちが勝ち誇ったように悠々と移動して、瘡蓋塗れの死蝋のような手を伸ばして、生徒たちから、彼らにとって大事なものを吸い上げにかかっている。
中には、過呼吸を起こして、かひゅっとおかしな息をしている生徒だっていた!
子供たちに触るなあ!
ルーピンは叫んだ。叫びは咆哮となり、そのまま彼は、吸魂鬼めがけてとびかかった。人狼状態の彼は、脱狼薬で理性を保てているといえど、その肉体は人狼状態だ。すなわち、人外の膂力は健在だった。
人狼状態は、人間の時とは思考の形態も異なっているのか、吸魂鬼の影響は受けないらしい。
ルーピンは鋭い爪で吸魂鬼の纏う黒いローブを引き裂き、その下の死人のような瘡蓋塗れの肉体に噛みつき、そのまま投げ飛ばした。
まるで冷凍肉にでも噛みついているような、きわめて冷たく不快な感じがしたが、今のルーピンにできることは肉弾戦一択だった。
だが、どんなにルーピンが肉体的には人を凌駕していようと、彼は一人でしかない。そして、吸魂鬼たちは大広間を占拠できるほどたくさんいた。
彼らには、別段仲間意識はない。だが、食事の邪魔をされるのを不快と判断する意識ぐらいはあった。そして、邪魔者とは、元来排除されるものである。
加えて、ルーピンはフェンリール=グレイバックとは異なり、人狼状態での戦い方には不慣れであった。
すなわち、大挙して襲い掛かってきた吸魂鬼たちを前に、どう動くべきか逡巡して固まってしまったのだ。
「伏せろっ!」
セブルスの声に、ルーピンは反射的に伏せた。
同時に、彼の長く伸びたオオカミの毛をかすって、その上を何かが通過して軽々と吸魂鬼たちを吹っ飛ばす。
「無策で突っ込むやつがあるか、愚か者め」
吐き捨てるセブルスは、柄の長い古びた斧を携えていた。(時間がなかったからか、頭装備はしていない)
仕掛け武器の基本、“獣狩りの斧”だ。柄を伸ばすことでリーチを増大させる変形状態のそれを両手に携えているが、その刃は奇妙な銀光を帯びていた。
“精霊の抜け殻”。上位者の先触れとして知られる軟体動物の抜け殻だ。滑りを残しているそれを擦ることで武器に一時的に神秘の力を纏わせる、一種の属性付与アイテム(正確には秘儀の触媒)によるものだ。
さしもの吸魂鬼も、上位者の神秘の力を帯びた“獣狩りの斧”に切りつけられたらひとたまりもなかった。
傷口から黒い靄のようなものを吐き出しながら、発音不能のノイズのような悲鳴を上げて、ボロリと煤のような黒い塊となって空気に溶けるように消える。
スネイプ?!それは何だい?!何をしたのさ?!
言葉さえ喋れたら、ルーピンはそのように詰問したことだろう。
それでもぎょっとしたようにセブルスと、その手に持った斧を交互に見比べている。
「・・・生徒に危害を加えたのだ。相応に痛い目は見てもらうとしよう」
そう吐き捨てたセブルスは斧を消すと、右手の中に菩提樹とセストラルの尾の毛の杖を出現させる。
内臓を引きずり出してもいいのだが、大量の吸魂鬼を一掃するならこちらの方がいい。
「
振りかざした杖から、銀の奔流がほとばしる。
銀の光が渦を巻き、それが姿を現した。
それは・・・何であろうか?少なくとも、ルーピンはそれを知らない。
それは、シルエット自体は膝をついた女性に酷似しているかもしれない。だが、それは断じて女性などではない。肩や肩甲骨のあたりから、何本も触手をはやし、繊維で織りなしたような奇妙な翼、何より、イソギンチャクのように奇怪に割れて触手に覆われた頭部と、その隙間から覗く、煌めく双眸。
女性的であるはずなのに、女性として必要なものをことごとくかなぐり捨てたデザインをしていた。
おかしい。呆然としながらも、思考の片隅でルーピンは思った。
確か、セブルスの守護霊は雌鹿だったはず。ジェームズが『スニベルスの野郎の守護霊、リリーとおそろいだぜ?!むかつく!まあ、僕の守護霊は雄鹿だから、僕こそリリーの運命の相手なんだけどさ!』と言ってたのだから、間違いない。
あれは何だ?
ルーピンが呆然とするのと同じく、吸魂鬼たちも呆然としていた。
守護霊呪文は、吸魂鬼を退散させる唯一の術だ。守護霊は個人によって異なるが、あんな異常な生き物・・・生き物?とにかく、あんなものを守護霊にしている者など、見たことがないのだ。
一方のセブルスは、そんな彼らを一顧だにせず、銀色のそれを見上げて静かにうなずいた。
膝をついていたそれがゆるりと両手と触手を高く掲げる。翼を広げ、その頭上に銀の煌めきを星の小爆発のごとく広げ。
次の瞬間、そこから無数の光の矢を雨のごとく降り注がせた。
光の矢に射抜かれた吸魂鬼たちはノイズのごとき悲鳴を上げて、ボロボロと古い炭が崩れるように端から消えていく。
退散ではない。消滅だ。
「美しい娘よ。好きなだけ泣きたまえ。
いつか星の海に届く、その日まで」
両手で顔を覆って、泣き崩れるように身を丸めるその守護霊――“星の娘エーブリエタース”の姿を取る守護霊を見上げて、セブルスは静かにつぶやいた。
哀れな娘。聖杯とともに地上に置き去りにされ、トゥメル人とともに迎えを信じて祈り続けていた。
だが祈りは届かず、トゥメルの滅びとともに、いつしかその存在は地下深くに忘れ去られた。
ビルゲンワースが、神の墓を暴く、その時まで。
彼女は死んだ。泣いているしかできないならば、いっそ死ねばいいとセブルスが殺した。だが、その遺志はセブルスの中にある。
神のごとき力を持つ上位者であっても、居場所一つままならない。帰れぬと泣くくらいならば死ねばいい。きっと、本当はそれもできないのだろうけれど。
星の娘を見上げていた視線を前に戻したセブルスは、宇宙色の双眸をもって、恐れおののく吸魂鬼たちを見つめ返した。
「まだ続けるかね?そのみっともない食事で彼女の嘆きと祈りを汚せるというならば、やってみるがいい」
吸魂鬼たちは一歩引いたが、食事に対する欲求と、目の前の恐怖からの退却の必然がせめぎ合ったに違いない。
そして、セブルスから離れたところならば問題ないだろうとばかりに、大広間の隅でうずくまっていた子供たち(不幸中の幸い、彼らはセブルスの守護霊を見るどころではなかった)に向かって踵を返したのだ。
だが、セブルスが星の娘を再び動かすまでもなかった。
「
その声は、はっきりと響き渡った。
ハリー=メイソンJr.が突き出した杖の先端から噴き出た銀色の霧は、それまでのものとは異なり、はっきりした姿を取る。ほっそりしながらもしなやかで、力強い躍動をもって、空中を駆け抜けながら、その姿態をはっきりさせる。
鹿だ。だが、角のないその頭の、それは。
(雌鹿・・・!)
星の娘の出現でほとんど放心状態になっていたルーピンは、ようやく思考を取り戻した。
前述したが、雌鹿はリリーの守護霊なのだ。
「できた・・・!」
銀色の雌鹿に蹴散らされ、逃げ惑うように大慌てで天井付近の窓から出ていく吸魂鬼たちをしり目に、ハリーJr.は息を切らしながらつぶやいた。
もう一つ。彼は思い出したことがあった。
逃げろと叫ぶ、もう一人の父の声。この子だけはと命乞いする母の声。そして、帝王の絶叫と、逃げろとささやく、もう一つの低い声。
母は、どうやってヴォルデモート卿から助かったかは言わなかった。だが、今、ハリーJr.は確信を持った。
――おじさんが、助けてくれたんだ・・・!
きっとそうだ。今だってそうなんだから。
あの宇宙色の目を、ハリーJr.はもっと昔から知っているような気がするのだから。
ハリーJr.は決して一人じゃない。頼れるおじさんと、大好きな家族が常に一緒だ。
吸魂鬼を大広間から追い出した銀色の雌鹿は、ハリーJr.のところに駆けてくると、甘えるようにその頭をこすりつけてきた。
そうだ。あの初めて冒険したハロウィーンの夜も、母さんの雌鹿が空を駆け抜けていた。あの日見た大人たちに追いつきたいと、ハリーJr.は願った。だから彼は、ここにいる。
「これからよろしく」
雌鹿の頭をなでてから彼女が消えるのを確認し、ハリーJr.は周囲で倒れている友人や同級生を助け起こし始めた。
それを見届けてから、セブルスも銀色の星の娘を消した。
守護霊としてであろうと、好きなだけ泣けばいい。セブルスならば、それに付き合っていける。
「とりあえず、部屋に戻っておきたまえ」
そうして、セブルスはルーピンを見やっていった。
くどいようだが、今夜は満月でルーピンは人狼である。そして、ここは夕食を台無しにされた大広間で、生徒たちがごった返し状態である。
生徒たちが完全に正気付く前に退散させておくべきだ。今なら、錯乱による見間違いとごまかせるのだから。
コクコク頷いて、ルーピンはいそいそと大広間を出て行った。
そして、とりあえずセブルスはハウスエルフを一人呼び出すと、ホットチョコレートを生徒全員分ふるまうように言いつける。
板状のチョコレートよりも、温かいチョコレートドリンクの方が飲みやすいだろうという算段である。
マクゴナガルや闇祓いたちが息を切らして駆け込んできたのは、この時だった。
遅い。大方、通り道にも
そうして、マクゴナガルや闇祓いたちが片付けや生徒たちの介抱にとりかかるのを見て、セブルスはため息をついた。
セブルスもまた、マクゴナガルたちに自分が駆け付けた辺りの事情を説明する。
「おじ・・・先生!見てくれた?!」
嬉しそうに駆け寄ってくるハリーJr.に、セブルスはホットチョコレート入りのカップを差し出した。
「無論だ。だが、その前にこれを飲みたまえ。唇が紫色ですぞ。死人の方がまだ顔色がよいくらいですな」
嫌味を言いつつも、ハリーJr.がカップを受け取った後に、その頭をするりと撫でた。
「見事な守護霊だ。スリザリンに30点」
「! えへへ・・・。
ルーピン先生にも見てもらいたかったな・・・」
嬉しそうに笑ったハリーJr.はそう言って、カップの中身に口を付けた。「アチっ!」と口の中を火傷しそうになったのはご愛敬。
それを見やるセブルスも、知らずと口元が緩んだ。
あの日、リリーの腕に抱かれていた赤子は、順調に成長していっている。ハリーもリリーも、さぞ自慢に思う息子であろう。
ちなみに、あえて加点を30点にしたのは、
セブルスは内心でそんなことを思っていたが、そんな和やかな時間は長く続かなかった。
吸魂鬼たちによって破壊され、廊下が丸見えになっている出入口の奥から、何かぎゃんぎゃんという叫び声が聞こえてきたのだ。廊下の反響で何をしゃべっているかよくわからないが、セブルスにはかろうじてそれがシリウス=ブラックの声だと察しがついた。
「すぐにMr.マルフォイたちのところに戻りたまえ。顔を伏せ、何があっても顔をあげるな。・・・メイソンのままでいたいならばな」
「! わ、わかった」
最後だけ小さく囁かれたハリーJr.は、瞬時に顔をこわばらせるとカップを持ったまま、中身をこぼさないように、それでも急いで他のスリザリン生たちのところに戻っていった。
「ハリー!ハリーはどこだ?!無事なんだろうな?!」
「いい加減にしなさい!ここにはハリー=ポッターはいません!」
「俺がジェームズの息子を見間違えるもんか!ハリーは生きてたんだ!!」
杖は没収の上、拘束されて魔法封じもされて、それでも元気にわめくシリウス=ブラックの登場に、全員が息をのんだ。
もとは整った顔の大層な美丈夫であったのだろうが、長すぎる収監生活のせいだろう、げっそりとこけた頬に、まばらな髭とザンバラ髪のせいで幽鬼のようだ。
それでも眼だけはらんらんと光っている。それがかえって怖い。
「シリウス=ブラック!」
「いやあああ!来ないでぇぇぇ!」
「ママァァァ!ママァァァァ!」
ホットチョコレート効果で落ち着いてきていた生徒たちは、再び阿鼻叫喚のるつぼに叩き落された。
パーバティが盗み聞きしてた内容を暴露したといっても、まだ聞き及んでない生徒もいるし、何よりもシリウスがナイフ片手にグリフィンドール寮への侵入を試み、挙句生徒のベッドの上でナイフを振り上げたのは、どうあがいても取り消しようのない事実だったのだから。
「連れてくるなといったでしょう!なぜ連れてきたんですか?!」
「そうしないと事情聴取に応じないと言われたんですよ!噛みつくわ体当たりしてくるわ!犬ですか?!本当に無実なんですか、この人!!」
マクゴナガルの怒声に、闇祓いの一人が半泣きで答えた。歯型のついた左手をさすっているあたり、本当に噛まれたらしい。
「この惨状が見えないのですか!シリウス=ブラック!すぐさま反省室に戻りなさい!」
「そんなことどうでもいいだろう?!ハリー!どこだ?!返事を」
「クハッ」
シリウスの叫びをさえぎったのは、たった一言の、笑い声だった。
ぎょっと、全員がそちらを見やる。
全身黒一色の、魔法使いとしては少々浮いた格好の男――インバネスコートをまとった男が、肩を震わせるどころか、大口を開けて爆笑していた。
「はっ、はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!
ふはっ、ふはははははははははははははは!!!
くはっ、くはははっ、くはぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」
目元を手で覆い、体をのけぞらせ、いっそ狂気すら感じるほどの様相で、セブルス=スネイプ魔法薬学教授が、赴任以来誰にも見せたことがないような大爆笑をしていた。
笑う。嗤う。哂う。
すべてを置き去りにして、セブルスの哄笑が大広間に響き渡っていた。
「何がおかしい!」
気圧されるホグワーツ教授陣並びに生徒たちをよそに、真っ先にかみついたのはシリウスだった。
呆気にとられる闇祓いたちの腕を振り払い、歯をむき出しにして唸るさまは、まさしく犬の威嚇姿勢そのものだった。今すぐ殴り掛かりたいと言わんばかりだ。
「こんなものか」
そんなシリウスを歯牙にもかけず、セブルスが言った。瞬時に笑いを消し、姿勢を正し、普段以上の冷徹な眼差しをシリウスに向け、セブルスは吐き捨てた。
もし、ヤーナムの住民がその目を見たら、こう評したであろう。死体にたかるナメクジを見る目つきだ、と。
セブルスは、自身の認識を改めていた。思っていた以上に、自分はシリウスという男を過大評価していたのだ、と。
こんな男・・・否、犬畜生以下の何かを、憎悪し、殺意すら向け、その感情を向けるに値する存在と思っていたのが間違いだったのだ。
もう、セブルスの感情を、この男は動かすことはないだろう。憎悪も殺意も、掻き立てられはしない。ただただ忌々しく、うっとうしいだけだ。聖杯ダンジョンをうろつく雑魚獣に対するような感情ぐらいしか持てない。
ああ、まったく。
「五月蠅い。黙れ」
セブルスは吐き捨てると同時に動いていた。高速移動呪文を発動して瞬時に間合いを詰めるや、何事か喚こうと口を開きかけたシリウスの頬骨めがけてガラシャの拳をつけた左手を突き出した。
「がっ?!」
そのまま吹き飛びそうになったシリウスを、セブルスは
「聞き分けのない犬畜生以下には仕置きが必要だな。
喜べ。ペティグリューよりも痛くしてやろう」
シリウスが砕けた歯ごと血の混じった唾を吐き出し、何事か喚くより早く、セブルスは動いていた。
次の瞬間、彼の左手のはめられたままのガラシャの拳が炸裂した。ものすごい打撲音とともに、ビシャリっと返り血が呆然としている闇祓いの顔にまで飛んだ。
顎を突き上げられたシリウスは、筋力99の手加減抜きの前に悲鳴を上げるどころか、吹き飛んで空中を舞った。
大広間の天井付近まで飛んだシリウスはやがて落下運動に入るが、その下にはガラシャの拳を構えたセブルスがいる。
落下運動中に治癒魔法で傷を癒してやり、次の瞬間再びガラシャの拳で、天井付近まで打ち上げる。
グロテスクで暴力的なジャグリング、としか言いようがなかった。
「貴様のせいだ」
ゴシャンっという打撲音、飛び散る血しぶき、落下運動中の治癒呪文のための一拍の間を空けてから、再び打撲音と血しぶきがした。しばらく、その繰り返しだった。
間を縫うようにセブルスの声が響き渡る。
「貴様らのせいでペティグリューは裏切ったのだ」
「貴様らがペティグリューを選んだせいで、ポッター母子は死んだのだ」
「貴様のせいで今年のホグワーツはめちゃくちゃだ」
「貴様のせいで
「貴様のせいで生徒たちが傷ついた」
「今この状況は貴様のせいだ」
去年のバレンタインよりもひどいものを見た、と後にとある学生は語る。
生徒たちは怖くて、セブルスの方を直視できなかった。みんな耳をふさいで、震えてうずくまっていた。
ダフネ=グリーングラス(スリザリン3年生)は、先ほどまで過呼吸を起こしていた二つ下の妹を抱きしめながら、早く終わってとマーリンに祈りをささげていた。先ほどまでシリウス=ブラックをぶっ飛ばしてやりたいと思ってたので、そこはスカッとしたが。
「スネイプ先生、怖い・・・」
「知らねえのかよ!あの先生、去年ロックハートが怒らせた結果、奴を脱毛させてたんだぜ!最後の方のロックハート、どう見たってヅラだったんだから!」
ひそひそとグリフィンドールの学生がささやき合う。
ハリーJr.は、ドラコたちと一緒にそこから顔を背けながら、遠い目をして考えていた。
これ、お父さんとお母さんに、どう説明しようか?ヘザー、おじさんと結婚したいって言ってたけど、考え直した方がいいんじゃないかな?・・・まあ、昔の話だけど。
ひときわ大きな轟音がした。
「しまった。間違えた」
つまらなそうにセブルスがつぶやいた。
天井から首から下をはやしたシリウスを見上げながら。勢いが付きすぎて天井に首が突き刺さったらしい。
ピクピクとつま先と右手の指先が痙攣しているあたり、生きてはいるのだろう。
「おおっマーリン・・・!」
誰かがつぶやいた。
何をどう間違えたのか。一同、セブルスのセリフを理解したくもなかった。
続く
【ホットチョコレート】
湯せんにかけたチョコレートを温めたミルクで溶かした、温かな飲み物。
摂取することで、吸魂鬼によって幸福の記憶を吸われて衰弱した被害者たちに、熱と光、温かさをもたらす。
とろりとした甘みは、吸魂鬼によってもたらされる冷たい不幸をたやすく塗りつぶすのだ。
長引きそうなので、いったん切ります。
拳に始まり、拳に終わりました。他の武器使うと、セブルスさんがホグワーツをクビになりそう(分霊箱壊し終えたからいいかもしれませんが、ハリーJr.が在学中ですし)なので、ガラシャの拳のみにしました。初期プロットでは散弾銃ぶっぱしてました。まあ、セブルスさん、殺すのも面倒ってなっちゃってるんですよ。
Q.伸び耳って、後2年後に開発されるもんじゃありませんでした?
A.レプリカとはいえメンシスの檻をかぶって、何か受信した双子を甘く見てはいけません。正史では時間のかかるものも、さっくり作り上げてしまいました。
次回の投稿は、来週!内容は、復活のシリウスVSマクゴナガル先生!大丈夫ですか?胃が蕩けませんか?
騒動は終わって、バイバイルーピン、そして、2つ目の予言の話。
お楽しみに!