その部分に差し掛かったら、多重クロスオーバータグをつけておきます。
この主人公、啓蒙高すぎる・・・。
そしてさらっと、原作ブレイク。狩人様だもの。
10月末の真夜中は、かなりの寒さとなっており、息が白くなるほどだ。
セブルスは自分の現在位置を知らなかったが、そこはゴドリックの谷、と呼ばれる数少ない魔法使いの隠れ里で、街灯などほとんどなく、真っ暗がりに等しかった。
ただ、曇天が裂けて、月光が差し込み、彼らを不気味に、そして穏やかに、照らし出した。
ポッター家の外は、黒ずくめの影たちに、幾重にも包囲されていた。
探知呪文を無言で使い、周囲を囲んでいる敵対存在を割り出す。
これは、セブルスオリジナルの呪文だ。元は、ヤーナムで死角からの獣の奇襲を警戒し、そのカバーのために編み出した。
一度呪文を使えば、一定距離を360度、超感覚呪文を使うよりもごく簡単ながら、敵対存在の位置と距離を把握することができる。本当に、ごく簡単にしかわからないのだが。
マグルでいうところの、レーダーのような魔法と言えばいいだろう。
感覚はそのように360度余すところなくめぐらせていたが、視線は目の前に向けていた。
いまだにダメージから回復しきれない様子の“闇の帝王”がうずくまって腹を押さえ、数人の黒い影――配下の“死喰い人”が集まり、ああでもないこうでもないと手当てを試みているらしい。
そうして、後を追うように家から飛び出してきたセブルスに、いまだにうずくまるヴォルデモートが真っ先に気が付いた。
血走った血のように赤い目を向けてくるや、地割れのような怒声を張り上げた。
『殺せ!あの男を!殺せ!殺してしまえ!』
一斉に視線がセブルスに向けられる。同時に、いくつもの杖が向けられ、不揃いな呪文が放たれた。ある者は不気味な緑の光弾を。ある者は動きを止めようとでも言うのか、多種多様な呪いを。とにかく、セブルス目がけて放っていた。
セブルスは動く。先ほど同様の高速移動の呪文版を使い、それらを軽々と避ける。
とはいえ、全てを避けきるのは難しく、致命となる緑の光弾(
防疫マスクの下で、セブルスは舌打ちした。
古今東西、狩人が苦手としているもの。それは発狂でも冒涜でもない。多対一の混戦だ。囲んで棒でたたかれれば、いかに
まだセブルスがヤーナムに迷い込んで間もなかった頃、その辺を徘徊していた雑魚獣に取り囲まれてフルボッコにされた。場合によっては、犬も加わって、腸を食いちぎられた。
獣狩りの群集は、単体で意味はなさず、本当に“群衆”であってこそ、真価を発揮するのだと、思い知らされた。
混戦の場合は、できるだけ、1対1の状態に持ち込む。各個撃破で、効率よく、順序良く片づける。
セブルスは、ヤーナムでそう学んだ。
そして、それにうってつけの武器も、手元にある。
右手に、血の遺志から武器を顕現させる。ヴォルデモートを傷つけたノコギリ鉈ではない。
あの武器の利便性はかなりのものだが、多対一の混戦には不向きだ。
大勢の獣を蹴散らすには、もっともってこいの武器がある。
出現と同時に変形したそれは、セブルスの踏込と同時に、勢いよく振り抜かれ、離れた場所にいるはずの“死喰い人”を数人まとめて吹き飛ばした。
金属の軋むギチギチとも鎖を鳴らすジャラジャラともつかない、奇怪な音を立てながら、その武器は月光をわずかに照り返してぎらついた。
“獣肉断ち”。古狩人が用いた、古い仕掛け武器だ。
今でこそ、獣狩りの基本的な仕掛け武器は、獣狩りの斧、ノコギリ鉈、仕込み杖の3種類に分かれている。
それは、“獣肉断ち”の余りの扱いづらさに、その武器の持つ特性を3つの武器にそれぞれ分配したからだ。
太い刃と押しつぶすような重量性は、獣狩りの斧へ。
ノコギリの刃による出血、それによるリゲインのしやすさは、ノコギリ鉈へ。
変形によるリーチの増大、複数標的を巻き込んだ攻撃性能は、仕込み杖へ。
それぞれ継承され、オミットされた機能は、その分扱いやすさを追求された。
古い仕掛け武器は、そういった形に加工される前の、原始的な――扱いづらく癖のある、その分強力な仕掛け武器だ。
その代わり、使いこなせたら、それこそ一騎当千の能力を発揮するだろう。
無論、セブルスもこの武器を十二分に扱い切れるとは言い難かった。
扱うこと自体は可能だが、それで標的をうまく攻撃できるかはまた別問題なのだ。
そもそも、普段は振り慣れているノコギリ鉈を始め、もっと扱いやすい武器を使っている。
しかしながら、広範囲をカバーできる武器で、そこそこ強力となれば、これが一番なのだ。仕込み杖もあるにはあるが、あいにく血石強化をろくに行ってないため、威力が心許ないのだ。
ゆえに、聖杯で得た血石に加え、血晶石までつけて散々強化しまくった、獣肉断ちに白羽の矢が立ったのだ。
どうせ味方などいないのだから巻き添えを心配する必要はなく、ヤーナムの町中とは違い、開けた場所だ。気兼ねなく、この極太ワイヤーにつなげられた金属塊の連なりのような、凶器を振り回せる。
「匂い立つなぁ・・・えずくではないか・・・」
地下墓地で言い放った、狩人神父のような言葉が、セブルスの唇を震わせる。
魔法の匂い、闇の匂い、死の臭い。
悪くはないが、お行儀よすぎて、狩人にとってはいささか物足りない。
だが、それ以上に、惹かれてやまない臭いがある。
もはや、セブルスは、以前の彼ではない。
闇の魔法に魅入られ、力に魅入られ、“闇の帝王”に惹かれていた頃の彼ではない。
狂気と啓蒙に魅入られ、深淵に触れ、血と冒涜に焦がれる、狩人なのだ。
「たまらぬ血の臭いで誘うではないか!」
咆哮とともに、高ぶる獣性のまま、セブルスは踏み込む。
振り上げられた獣肉断ちが、金属の咆哮を上げながら、死喰い人たちに襲いかかる。
鞭よりも不規則で、重量感あふれる攻撃に、生半な
一抱えはある金属の塊が、幾重にも連なり極太ワイヤーで接続された、凶悪極まる攻撃は、鞭で叩くというより、棘のついた金属塊で切り殴っているという表現の方が似合うだろう。
もちろん、
実際、胸から上をそのようにされた死喰い人がおり、隣にいた黒ローブが腰を抜かして失禁したが、実行犯であるセブルスは歯牙にもかけなかった。
魔法使いなら、杖を使うはずなのに。
呪文を唱え、呪いを使うはずなのに。
その男は、杖の代わりに奇妙な武器を構えた。
呪文は唱えず、その武器で肉を引き裂くことを選んだ。
そんな悍ましい戦い方、真っ当な魔法使いなら、あり得ない。
極太ワイヤーにつながれた13もの金属塊は、セブルスの腕の一振りに応えるように、蛇のようにのたうっては、次々死喰い人に襲いかかる。
無論、死喰い人たちも、ただやられていたわけではない。
懸命に、彼に呪いを当てようと試みていたのだ。
いくつもの光弾が、呪いの詠唱が、セブルスに浴びせられるが、彼はそれを無言呪文による
これはセブルスの主観になるが、彼を仕留めるには、呪文の速度が遅すぎた。
彼の時計塔のマリアや、ゴースの遺子、あるいは最初の狩人ゲールマンの高速攻撃の数々を体験してしまえば、目で見て避けられる攻撃など、へでもなくなってしまうのだから。
ジャラジャラともガチャガチャともつかない金属の咆哮を上げる獣肉断ちは、死喰い人の群れを次々と食い破る。
そのたびにボタボタと血しぶきが、肉片が、骨片が、無差別に飛び散る。
地面を、そして獣肉断ちそのものと、それを握るセブルスを、深紅の飛沫は容赦なく染め上げるが、セブルスはそれを歯牙にもかけず、むしろ浴びる前以上に生き生きした様子で、武器を揮う。
リゲインと呼ばれる狩人の特性の一つだ。血の歓びを力に変えるそれは、自身の負った手傷さえ、返り血を力に変え、即座に癒すことができる。ゆえに、多少の負傷も、ある程度ならばゴリ推すことができる。
「何だ?!何なんだお前はああああ?!」
ついに耐え切れなくなったのか、死喰い人のうちの誰かが叫んだ。
そのみっともない有様に、セブルスは防疫マスクの下で薄く笑う。
“
「狩人だよ。貴公らを狩り取る、な」
しれっとセブルスが答えると同時に、獣肉断ちは、折りたたまれた大剣形態となって、その分厚いギザギザのついた刃が、たっぷりと血液を撒き散らしながら、死喰い人の喉笛を引き裂いていた。
ガチンッという硬い音は、獣肉断ちの鈍色の刃が、地面を穿った音だ。
死屍累々。阿鼻叫喚。血で汚れて、赤黒い軌跡が描かれた地面の中、ポツンとセブルスが一人立っている。
漆黒のはずのインバネスコートはたっぷりと血を浴びて、パタパタと吸い切れなかった赤黒い点を地面に落としている。
次の瞬間、セブルスは動く。グルンッとあらぬ方向を振り向くや、高速移動の無言呪文を発動して、姿を消すように移動し始める。
この期に及んで、“闇の帝王”は諦めていなかったらしい。
もはや、家など無意味と、身一つで赤子を抱いたリリーが、這う這うの体で必死に駆けている前に立ちはだかり、なおも赤子の引き渡しを要求している。
腹に穴が開いてたというのに、元気なものだ。ならば、もう一度腸管を引きずり出しても問題あるまい。
右手の獣肉断ちを血の遺志に変換してしまい、再びノコギリ鉈を手に持つ。やはりこれが、一番取り回しがよく、使いやすい。単体を相手にするなら、これに限る。
リリーの背中越しに、接近するセブルスの姿を認めたのだろう、ヴォルデモートはぎくりと肩を震わせ、杖を振り上げた。
「アバダ」
死の呪文を使おうとしたのだろう。悲しいかな、その呪文はもはや、セブルスには意味が見いだせない。
加えて、闇の帝王であれど、詠唱をせねば使えないという、予備動作の大きさ。つまるところそれは。
詠唱が完了するより早く、セブルスは左手で引き抜いた獣狩りの短銃による水銀弾を、ヴォルデモートに撃ちこんでいた。
狩人の使う銃は、単なる遠隔武器ではない。敵の攻撃をかわし、いなし、迎撃する、能動的な盾として使うのだ。
俗に、ガンパリィと呼ばれる、大ぶりな攻撃をキャンセルさせ、そのままカウンターで必殺の内臓攻撃につなげる、狩人の必須技能の一つである。
ヴォルデモートら闇の魔法使いが得意とする、禁じられた呪文は、それらガンパリィにつなげる絶好のチャンスでしかない。
激痛に叫んで片膝をつくヴォルデモートに、立ちすくんでいたリリーの脇をすり抜けるように駆け抜けたセブルスは、瞬時に間合いを詰めて、再びヴォルデモートの腹腔に、今度は正面から、貫手を突き入れていた。
ヴォルデモートは、その蝋のように白い顔をさらに蒼褪めさせて、ゴボリっと血を吐いていた。
ブツリっと、セブルスは右手を腸管ごと引き抜いていた。
聞くに堪えない断末魔をあげて、ヴォルデモートが倒れ込む。
同時に、その姿が黒い靄のようにかすみ、やがて姿を消す。
ふと、セブルスは眉を寄せた。先ほどの死喰い人の戦闘でも、散々血の遺志を稼いだからわかった事でもあった。
ヤーナムの外であろうと、血の遺志は存在する。しかし、それを知覚して扱えるのは、狩人――ヤーナムの血を持った存在でなければ、できないのだろう。
だが、先ほど、ヴォルデモートを倒したにもかかわらず、遺志の獲得を感じられなかった。
考えられるのは。
――倒し切れなかった?
加えて、常人ならば遺体の一つ残るはずなのに、それすらも消えるとは。まさかとは思うが、あの魔法使いは、自らに邪法の類を仕掛けていたとでも言うのか。
だが、そう逡巡できたのは、一瞬のことだった。
セブルスの身を包む蒼褪めた霧が色濃くなり、やがて彼の姿が空気に溶けるように薄れていく。
時間切れだ。正確には
泣きわめいている様子の赤子(
彼女に、怪我らしい怪我はない。赤子も無事だ。
・・・せめて彼女のこれからに、幸あらんことを。
胸に手を当てて一礼する、“狩人の一礼”をセブルスが取った直後、彼の姿は完全に消えた。
* * *
次にセブルスが目を開けた時には、自宅の書斎、そのデスクのそばにたたずんでいた。
協力者や敵対者として他次元へ出向いていた時の例にもれず、あれほど血に濡れた狩装束は、綺麗になっている。もっともまとった血の臭いは落とせていないだろうが。
袖を持ち上げてすんと鼻を鳴らすが、如何せん防疫マスク越しの上、先ほどまでたっぷりと血を浴びていた自身の鼻は血の臭いに慣れ過ぎていて、当てにならないだろうと、セブルスは開き直る。
「あ、先輩!お帰りなさい!」
「お帰りなさい、狩人様」
書斎のソファセットの近くでウロウロしていたレギュラスが安堵の息を漏らすように、そしてメアリーが普段と変わらぬ淡々とした様子で、それぞれ出迎えてくれる。
それを見ながら、セブルスは枯れ羽帽子と防疫マスクを外しながら、「今戻った」とぶっきらぼうに言って、そのまま一人掛けのソファにどさりと身を沈めた。
先ほどは戦闘中だった故に冷静でいられた――というより、冷静であろうとして余計な感傷などは思考から切り離していたが、落ち着けば先の状況が嫌というほど脳内をリフレインする。
ガスコインとの戦い、ルドウイークとの死闘を制した後のように。
さすがに少しばかり疲れた。
肉体的には無傷を維持できていても、精神的に疲れたのだ。魔力もかなり擦り減ってしまっている。
“協力要請”が来て、それを受諾したのは自分でやったことだ。理解も納得もしている。
だが、その先が納得できない。呼び出してきたのが、まさかのリリーで、対戦相手が“闇の帝王”とその配下の“死喰い人”とは。
いや、待て。
確かに、セブルスは彼らを殺したが、“協力要請”によって招かれた世界は、あくまでセブルスがいるのとは異なる別の次元、だったはず。
つまりは、セブルスが闇の帝王を殺したというのは、あくまで別の次元で起こった事であり、この次元ではどういった状態かはわからないというわけで。
肘かけに右肘をついた頬杖で考え込むセブルスをよそに、メアリーは手際よく新しい茶葉で満たしたティーサーバーで紅茶を淹れ直してくれる。
「それで、どこに行ってたんです?先輩。
それから・・・その・・・大変、言いづらいんですが、お茶の前にその臭いをどうにかされた方がいいと思いますよ?」
「ん?ああ、済まない」
レギュラスの言葉に、セブルスは右手を一振りして、消臭呪文を使い、血の臭いをスッパリと取り去る。
そのままチラッとレギュラスの方を見やると、王子然とした美貌に、不審の色がチラチラしているのが認められ、セブルスは小さく息を吐く。
潮時であり、頃合いなのだろう。
「まあ、まずは座りたまえ。
メアリー。すまないが、レギュラスの分も紅茶を淹れてくれ。茶菓子も頼む」
「わかりました」
メアリーがうなずいたところで、レギュラスもまた3~4人は余裕でかけられるカウチの隅という定位置についた。
長い話になる。そう前置きをしたが、セブルスは続く言葉を言いあぐねていた。
「・・・どこから話したものかな」
ポツリとこぼしたセブルスをよそに、メアリーは淡々とテーブルにティーセットを広げ、紅茶を淹れていく。
ダージリンのスッキリした香りが、ふわりと漂う。
元々セブルスは多弁な方ではない。どちらかといえば、口数の少ない、物静かな方である。とはいえ、物事を順序立てて話すのは苦手ではない。むしろ得意な部類に入ると言っていいだろう。
その彼が口ごもって言いあぐねているというのは、かなり複雑な話になるのかもしれない、とレギュラスは思う。
とはいえ、これでは話が進まない。
しかしながら、セブルスはまずはここから話すべきだろうと口を開いた。
「・・・そうだな。まずは先ほど行っていた場所での出来事から話すとするか」
口づけていた紅茶のカップをソーサーに戻しながら、セブルスは口を開いた。
続く
【ヴォルデモート卿の杖】
ヴォルデモート卿が学生の頃から使っていた34センチの杖。
イチイの木に、不死鳥の羽が使われている。
その杖は、闇の帝王とともに数多の人間の命を奪い、絶望を振りまいた。
杖職人の老オリバンダーは嘆いた。ちっぽけで、希望に目を輝かせていたトム=マールヴォロ=リドルは、もはやどこにもいない。
外伝(ポッター家周辺惨殺現場、予言、シリウス裁判関連のあれこれについて。ブラボ要素はほぼ皆無)を読んでみたいですか?
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