お待たせしました!
最近リアルの方がいろいろ忙しくて、筆がなかなか進められないんです。
感想も返信できなくてすみません!来るたびににやにやして、読ませていただいてますので!本当にありがとうございます!
というわけで続きです。
(ボソッ)閉じ込められてた人間の予想、皆さん、大外れですよ。
レギュラスは歩いていた。
外出用のローブは長いこと着っぱなしでくたびれている。洗浄魔法のおかげで、汚くはなってはないはずだ。
王子然とした美貌は、30を超えてなお衰えを見せない。もっとも、その表情は硬く、不安と緊張に満ち満ちていた。
レギュラスが歩くのは、異常な場所だった。
年季の入った建物は魔法界のものらしいが、人っ子一人いない。
レギュラスはそこを知っている。クィディッチの競技場だ。
まだ小さいころ、闇の帝王の目を盗むように開催されるクィディッチを、家族で見に行ってたのだ。
あの頃は、兄もまだ、そんなに家族とはギスギスしていなくて。喧嘩もあるにはあったけど、取り返しのつかないようなことはなかったのだ。
マグルに対しての接し方とか、血統とか、ブラックのありようとか、そんな難しいことは置き去りにして、ただ純粋に勝負の勝ち負けを観戦できた。
ホグワーツに入ってからも、選手として参加もできた。
もう何年、競技場に足を踏み入れてなかっただろう?少なくとも、ホグワーツを中退してからは、闇の帝王にお仕えすることになったことと、ブラック当主の後継になるための勉強もあって、まったく行けてなかった。
こんなことでなければ、懐かしんでいられたかもしれない。
観客の熱気と興奮、それらをものともしないクィディッチプレイヤーの負けん気と勝利への熱望。それらが渾然一体となって渦を巻いたクィディッチ競技場の空気を、レギュラスはいまだに覚えている。
だが、ここにそんなものはなかった。形だけだ。あるのはどこか重苦しく、陰鬱で、おぞましい空気だ。
レギュラスは我知らず、右手に持っている杖を握りしめた。
どうしてこんなことになった?
いくら考えてもわからない。
ズルリッという奇妙な音――まるで生肉を引きずっているような異様な音に、思わずレギュラスは足を止めた。
まただ。奴らだ。
ごくりと唾をのんでから、レギュラスは杖を構える。
やってきたのは、四足歩行の生き物だった。だが鉄さびに覆われたようにも見える、蕩けたケロイド状の皮膚と、子供の粘土細工よりも不細工でアンバランスな姿態は、絶対にまともな生き物ではない。闇の魔法生物でさえ、もっとまともな造形をしているだろう。
まるで。病んだ人間の見る、悪夢の中の化け物だ。
幸い、この生き物たちは魔法が効いた。
クィディッチをやっててよかったと思うのは、緊急時の反射神経の良さだ。
少なくとも、その辺の純血貴族よりは、優れた方だとレギュラスは思っている。
どうにか化け物を撃退し、レギュラスは息を整える。
とにかく、進むしかない。もううんざりだ。
だが、次の瞬間聞こえてきた斬撃に、思わず彼は身動きを止めた。
恐る恐る、それが聞こえてきた方をのぞき込めば、彼らがいた。
片方は、例の悪夢の化け物の類だ。
二つある首に、妙に長い腕を足代わりに移動する、奇怪な化け物だ。大柄でパワーもあり、レギュラスはできるだけそれとは戦わないようにしている。
そしてそれと対峙する方。何よりも、それが問題だった。
全身黒ずくめ。まとったインバネスコートと、深々と被った枯れ羽帽子に、その下から見える束ねた黒髪。
非常に見え覚えのある背格好だったが、異常な点があった。一つどころではない、いくつも。
まずは、右手と左手にそれぞれ別々に武器を持っていた。杖はどうしたのだろう?
そして、なぜここにいるのだろう?こんな尋常ならざる場所に、なぜ彼が?
何より異常なのが。彼はなぜか、赤黒い霧のようなものをその身にまとっているのだ。
右手にはノコギリ鉈。左手には古めかしい銃を携える彼は、化け物の大ぶりな一撃を軽々とよけ、銃撃をたたきこむ。
よろけた化け物のすきを見逃さずに、瞬時に距離を詰めた彼は、ノコギリ鉈を消した右腕を、その胴に突き入れていた。
いかに尋常ならざる化け物といえど血は出るのか、噴水のような血を吹き出させながら、化け物は倒れる。
返り血をたっぷりと浴びる彼は、平然とたたずんでいた。まるでいつものことだと言わんばかりに、ノコギリ鉈を一振りして、刃についた血を軽く払う。
そうして、ぎろりと帽子の先端をこちらに向けてきた。枯れ羽帽子と、口元を覆う防疫マスクのせいで、表情はまったくわからない。だが、血濡れのせいで恐ろしさしか感じない。
「ヒッ」
思わずレギュラスは小さく悲鳴を上げて後ずさった。
次はお前だ。
そう言われたようにしか思えなかった。
「レギュラス?何故貴公がここに?」
向き直った血まみれの男が口を開いた。怪訝そうな、ねっとりした声は、確かにレギュラスの聞き覚えのある声だった。
・・・案の定、心当たりの人物だったらしい。
でも、とりあえずその血まみれをどうにか、とレギュラスが口を開くより早く。
「先輩!後ろ!」
新手の化け物が、血まみれの男――セブルスに背後からとびかかろうとしたが、セブルスの方が一枚上手だった。
振り向きもせずに、右腋に差し込むように銃口を向けた獣狩りの散弾銃による一撃をたたきこみ、化け物を弾き飛ばす。
右手に持っていたノコギリ鉈は、いつの間にか別の武器にとって代わっていた。
右手に籠手のように取り付けられた筒状の器具には、杭のようにも見える分厚く太い切っ先が取り付けられている。
次の瞬間、振り向きながら大きく振りかぶったセブルスは、その一撃をひるんだ化け物に突きこんでいた。
轟音が弾ける。抉られた頭部がミンチと化して、吹き飛ばされる怪物はそのまま地面に転がりながら動かなくなった。
パイルハンマー。古狩人の一人、デュラも愛用した火薬庫製の武器の一つだ。引き絞った切っ先を打ち出す一撃は、下手な内臓攻撃よりも確実な致命傷を与える。
ガシャッと切っ先を収納して、姿勢を正すセブルスは次の瞬間、振り向いて、レギュラスに向かって左手の銃口(散弾銃から短銃に持ち替えたらしい)を向けた。
放たれた銃弾は、レギュラスの背後にいた異形に命中した。
そのままセブルスは動いた。駆け出しながら、パイルハンマーを再びノコギリ鉈に持ち替える。
そうして、半ば呆然としていたレギュラスの脇をすり抜けて、苦痛にもがく異形めがけて切りかかった。
ギザギザのノコギリの刃が肉を裂き、血を吹き散らす。
レギュラスの頬にもビシャリと生温かなそれが散り、凄まじい血の臭いと臓物の生臭さが鼻についた。
ウッとこみあげてきた吐き気に、彼はとっさに顔をそむけた。
セブルスはといえば、そんなことには微塵も頓着せず、異形をズタズタに引き裂いて、殺したところだった。
おびただしい返り血に塗れながら平然と・・・どころか、どこか満ち足りた様子でたたずむ彼は、レギュラスの知らない遠い世界の住人のようだった。
もし、レギュラスがセブルスと親交がなかったら、悲鳴を上げて杖先を彼に向けていたことだろう。
そのくらい、今の彼は悍ましく、関わりがたい雰囲気を持っていた。
だが、レギュラスはそれをこらえた。
やり方はどうあれ、セブルスがレギュラスを救ってくれたのは、確かだ。彼は、セブルスは、レギュラスの親愛なる先輩だ。以前言ったことと、何ら変わらない。
レギュラスは無言呪文で臭いを取り払い(血と臓物の匂いがしては、落ち着くものも落ち着かないだろう)、深呼吸をして落ち着いてから、改めて口を開いた。
「助けてくれてありがとうございます・・・それで、スネイプ先輩・・・こんなところで、何してるんですか?!」
「それはむしろ、私のセリフなのだが?
ブラック邸にも戻らずに、何をしているのだね?クリーチャーが“葬送の工房”にまで押しかけてきて大変だったのだぞ?」
「クリーチャーが?
そりゃあ、僕だって戻れるものなら戻って・・・いや、それより先輩!お願いですから、まずはその血まみれをどうにかしてください!」
「必要かね?どうせすぐにまた血まみれになる」
悲鳴のように懇願したレギュラスに、セブルスは面倒くさげにため息を吐いた。
いつものことだと言わんばかりの彼に、レギュラスはドン引きしそうになった。
いくら対象が化け物でも、人間として大事な部分が決定的に破綻しているとしか言いようがない。
「今は分からなくていい。じきに慣れる。狩人とは、そういうものだ」
しれッと言ったセブルスは面倒くさげにしつつも、右手を一振りして無言呪文で
以前、セブルスから聞いた、彼が狩人というものだという話を、レギュラスはようやく、思い返した。
「いろいろ話したいことはあるだろうが、いかんせん、あまり時間がない。
今の私は、魔道具の力でここに不法侵入しているような状態なのだ。
この霧がその証明だ。
この状態の私は、あまり長くここにはいられなくてな。できることにも制限がかかっている状態なのだ」
「制限?」
「普段よりも打たれ弱い。それから、私の方から何か、道具の譲渡などを貴公に行うことは不可能だ。使用する分には問題ないのだが。
取りあえず言えるのは、そんなところだな」
「はあ・・・わかりました」
いまいちピンと来ていない様子でレギュラスはうなずいた。
「と、とりあえず移動しましょう。
また化け物に襲われるかもしれません。
安全な場所・・・といえるかはわかりませんが、化け物がいない場所があるので、そこに行きましょう。
こっちです」
気を取り直して、レギュラスは来た道を引き返して歩きだした。
その後に、セブルスが続く。・・・なお、彼はノコギリ鉈と獣狩りの短銃を持ったままである。狩人にはいつものことだ。
さて、少々前後するが、セブルスの行動について述べておこう。
例のバーベキューパーティーの後、セブルスはルシウスとハリーの二人に、探し物を依頼した。
もちろん、例の予言――21の秘跡が絡んでいるであろう、事件についてである。
以前記したと思うが、この儀式は全部で4つの段階に分かれていて、少し前まで第1段階でストップしていたと思われる。
そして、闇の帝王が何らかの干渉をかけたせいで儀式が再開されたということだ。
第1段階では10人殺して、被害者から心臓を集める必要がある。
そして、10人も殺すのだから、何らかの痕跡があってもおかしくない。たとえば、心臓が抜き取られた変死体などが発見されている可能性がある。
純血貴族として魔法省とつながりの深いルシウスと、小説家として見聞が広く調べ物をしているスタイルの取れるハリー。あれらを調べるには二者の手を借りた方が早い、と判断したのだ。
セブルスの説明に、ルシウスは半信半疑という様子であったが、ハリーは露骨に顔色を変えた。
それはそうだ。ハリーはすでに“教団”と奴らの崇める“神”の恐ろしさを目の当たりにしてしまっているのだ。
まして、その降臨の予言が読まれたとあっては、警戒するなという方が無理だ。
そして、ルシウスの方も半信半疑であれ、何らかの魔術儀式が行われる可能性があるというのには、難しい顔をしつつも、うなずいた。
闇の魔術に関する儀式のいくつかには、生き血はもちろん、人体パーツを必要素材として要求する場合もある。心臓など、その最たるものだ。
まして、魔法の中には、ものが腐ったりしないようにする保存魔法だってある。
10年経って、儀式が再始動という可能性は十分ある、と彼も考えてくれたのだ。
そうして、二人がそれぞれ手分けして調べる間に、セブルスはストレス発散で潜った聖杯ダンジョンで異常を察知した。
聖杯ダンジョンは、主に5つの領域に分かれている。
トゥメル、トゥメル=イル、病めるローラン、イズ、そして僻墓。他にもいろいろ区分けできるのだが、大きく分けるとこうなる。
それらの領域に潜るには、領域を司る聖杯と、その起動に必要な素材を用いた儀式を行う必要がある。
ついでに言えば、これらの領域には、聖杯と汎聖杯で司る領域がまた異なり、汎聖杯では出入りするたびにダンジョンが形を変えるのだが、それは余談である。
で、これらの領域の何がどう違うかは・・・細かく説明すると複雑になるので省略するが、前者4つと僻墓は、大きな隔たりがある。
前者4つは、ヤーナムにはびこる獣の病、かつてそこにいた古の人々〈トゥメル人〉、上位者ら、と密接なつながりがある。
ビルゲンワースはこれらの地を暴き、“聖体”や“禁断の血”といった品を持ち帰った。そして、それらが後の獣の病の感染爆発、穢れた血族の誕生、ヤーナムの崩壊につながったわけだ。
最後の一つの僻墓。これは、前者4つに対し、祭祀色の薄い墓と死の区画である。聖杯の名を冠する地下遺跡においては、辺境に相当する。
何よりも特徴的なのが、他領域と比較すると、並行世界との距離が近いということだろうか。つまり、他世界の狩人が侵入してきたり、協力をしたりさせたりすることが可能なのだ。
要するに、他世界との壁が薄く、距離が近いのだろう。セブルスはそう推察していたのだが、あまり実感したことはなかった。
今日、僻墓の出入り口となる聖杯を祀った墓石の前で、使者たちが慌てている様相を見せなければ。
どうしたのかとセブルスは尋ねてみたが、いかんせん使者たちは意思疎通はできても、言葉は持たないのだ。
ひどく慌てて戸惑っているということは伝わってきても、その原因までは分からなかった。
わからないならば調べるしかない。準備を整え、セブルスはあまり潜らない僻墓(血晶石を求めるならば、他の聖杯で十分事足りる。僻墓に向かう必然を感じなかったのだ)に向かった。
そうして、ボスの手前の部屋辺りで異常を感知した。
アメンドーズの手が放つような空間の歪みが生じており、通常ならばランタンを抱えて照明役に徹している使者たちもそこに集まってきて、何やらそこを見やって困っているような空気を醸し出しているのだ。
ここが原因だろうか?
手を触れて調べようとしてみれば、懐に入れていた“共鳴する不吉な鐘”が勝手にリンリンと鳴り出した。
そして気が付けば、セブルスは赤黒い霧をまとって、そこにいた。
ヤーナムでも聖杯ダンジョンでもない、異質で異常な場所に。
聖杯とは、神の墓である。その探求とは、神の墓を暴くことであり、聖体の探求に他ならない。
聖杯は地下遺跡と称されているが、あるいはこう言いかえることもできるのではないだろうか?
地下であれ、宇宙であれ、人間の住まう地上とは、次元が異なる場所である。そこにいるということこそが、上位者たりうることであるのだ、と。
そして、“21の秘跡”の第2の啓示を思い返し、セブルスはこう推測した。
すでに、儀式の遂行者は不死身となって、その支配する異世界を形成してしまっているのだろう。
それが何の因果か、他の次元と比較的距離の近い僻墓とつながってしまった。
さすがに、生身のままの侵入というわけにもいかず、“共鳴する不吉な鐘”を用いた侵入者状態(通称闇霊)になってしまったが。
これは好機だ。
うまくすれば、ハリーやルシウスの報告を受ける前に、儀式を止められるかもしれない。
そうして、この異世界をさ迷い始めたところで、レギュラスと会った、というわけなのだ。
記し損ねていたが、実はバーベキューパーティーの前に、ブラック邸の忠実なハウスエルフ、クリーチャーが駆け込んできたのも本当の話である。
坊ちゃまが帰ってこない、すぐに戻ると言ってたのに。何か知らないか?と。
残念ながら、セブルスは心当たりがなく、自分も探してみる、見つからないようなら、いったんブラック邸に戻っておくべきだ。レギュラスの留守を守り、彼がいつでも帰ってこれるようにしておくのも大事だろう、となだめて帰したのだ。
どうしたのだろうと思っていたのだが、まさかこんなことに巻き込まれているとは思わなかったのだ。
そして、話を現在に戻す。
無人のクィディッチ競技場を歩くレギュラスとセブルスだが、不意にレギュラスは息をのんで、近くの物陰にセブルスを引っ張り込んで姿を隠す。
どうしたのかとセブルスは怪訝に・・・思わなかった。何か、異質なものが来ると、狩人の鼻が告げていた。
何か、ギリギリとガラスを爪で引っ掻くような、不快な音が聞こえてくる。周囲の気温が下がり、腐った魚のような生臭さも漂ってきた。
静かに、とレギュラスが口元に立てた人差し指を当てるジェスチャーをしてきたので、セブルスも無言でうなずいた。
ぬるりとそれが視界に入り込んできた。
水中に浮かぶ死体のごとく体は微動だにしないながら、空中をすべるように移動するそれは、一見すると人間のように見えた。
纏ったローブは男が魔法使いだったと物語っているが、白目をむいて、額には03121と刻まれている。何より、銀色で半透明のその体躯は、男がゴーストであると物語っていた。
だが、ホグワーツにいるそれとは、まったくの別種に見えた。
ホグワーツにいた者たちは、理性を持ち合わせて愛嬌ある者もおり、親しみだって持てた。
だが、目の前をうろつくそれは、そんなものはナノグラムも持ち合わせてないのは明らかだった。
どころか、顔を合わせたら最後、仲間に引きずり込まれるだろう。・・・というか、レギュラスはそれをされかけ、這う這うの体で逃げたのだ。奴らには魔法もろくに通じなかった。逃げるが勝ちだ。
やがてその姿が見えなくなり、ラップ音と臭いが遠ざかる。完全に気配がなくなったところで、レギュラスはほっと息を吐いた。
あの、体のどこかに数字を刻まれたゴーストは、あちこちにいるらしいと、レギュラスは知っていた。ここに来るまでに何度か別の奴を見かけたのだから、間違いない。
そうして、二人は物陰から出て行こうとしたが、突然セブルスは足を止めた。レギュラスも。
目の前に、黒いローブをまとい、フードを深々と被った人物がいる。
この空間に漂う、陰鬱で悍ましい空気を凝縮したようなほど、関わりたくないオーラを醸し出している。明らかに尋常ではない。
「な、何ですか、あれ・・・?」
レギュラスは、この空間をさ迷うのは初めてではない――何度か、安全地帯と行き来をしているが、あんな異常を絵に描いたような相手と出くわすのは初めてだ。
フードの男がゆるりと視線をセブルスに向けた。少なくとも、レギュラスはそう感じた。直後。
フードの男が持ち上げた右手の杖からはなった緑色の閃光を、セブルスはレギュラスを突き飛ばしながら軽々とよけた。
「死の呪文?!そんな?!」
レギュラスが悲鳴のように叫ぶ。
いかな熟練の魔法使いであれど、死の呪文を無言呪文かつ杖振りの予備動作なしに、いきなり放つなど不可能だ。
人間の魔法使いであれば。
ちっと舌打ちして、セブルスは身構えつつ叫んだ。
「レギュラス!先に行きたまえ!」
「先輩?!でも!」
「私なら問題はない!後で会おう!行きたまえ!」
レギュラスの叫びに、セブルスは振り向きもせずに駆け出しながら答えた。
ノコギリ鉈を振りかぶり、黒いローブの男めがけて切りかかる。男は避けようともしない。
本来ならば肉の裂ける感触とともに血が吹くはずというのに、まるで鉄に切り付けているような固い感触とともに刃が弾かれただけだ。
姿勢を崩してたたらを踏んだセブルスに、すかさず黒いローブの男が杖先を向けた。
どうにかセブルスは体をひねって、杖先から発された緑色の閃光を避ける。死の呪文は、反対呪文の存在しない、禁じられた呪文の一つだ。当たれば即死。避けるしかない。
レギュラスは、少し迷ったような様相を見せたが、ややあって何かを振り切るように顔を背け、もともと向かっていた通路の奥に向かって駆け出した。
バックステップで距離を取り、セブルスは獣狩りの短銃の銃口を向けるが、黒ローブの男は無言呪文で
再び黒ローブの男が杖先を向けて、無言呪文による緑色の閃光を放つ。
狩人のステップでそれを避けるセブルスだが、次の瞬間、その胸を連射された緑色の閃光が貫いた。
死の呪文の連射。
明らかに並の魔法使いをしのぐ、恐るべき技術だった。
枯れ羽帽子の下で、セブルスの宇宙色の目から生気が失われる。そのまま彼は、どさりと倒れ伏して、二度と動かなくなった。
黒いローブの男は、しばしフードをそちらに向けていたが、ややあってびくっと震えた。
何しろ、倒れ伏したセブルスがゆらりと陽炎のように揺らめていて、地面に沈むように消えてしまったからだ。
黒いローブの男は、しばしセブルスがいた場所を見つめているようだったが、ややあって踵を返した。そうして彼もまた、空気に溶けるように消えてしまった。
次にセブルスが目を開けた時には、聖杯ダンジョンの一角、例の空間の歪みの前に立っていた。集まってきていた使者たちが不安げにセブルスを見上げてきていた。
「・・・少々時間がかかる。が、必ず何とかしよう」
使者たちにそう言ってから、セブルスは空間の歪みを改めて見やった。
レギュラスにはあとで行くと言ったが、今戻れば、またあの黒ローブに鉢合わせしかねない。
あの男(そもそも性別不詳だが)は、明らかに尋常ではなかった。
予想の域を出ないが、おそらく、あれこそがあの異世界を支配する儀式の遂行者――不死身となった姿なのだろう。
今のままのセブルスがそのまま向かったところで、殺し切れるか?
・・・不死身の相手、殺すべき相手にはしかるべき手順を踏む必要がある。
一度退いて、態勢を立て直すべきだ。
レギュラスが無事であることを信じるしかできないセブルスは、空間の歪みをしばし見つめてから、踵を返した。
さて、それから数日後のこと。
「すまない、急に呼び出してしまって」
「かまわない。何か進展があったのかね?」
「ああ。頼まれていた例の件について、いくつか分かったことがあるんだ」
メイソン宅の書斎である。ハリーと向かい合うセブルスの言葉に、彼は大きくうなずいた。
「今から13年くらい前になるんだけど、当時のイギリス――マグル界の方では交通やガス爆発などの事故が頻発しててね。
・・・たぶん、そちらで言うところの闇の帝王ってやつのせいだと思うんだけど。
でも、その事件だけは明らかに異常だって、刑事事件として立件されてたんだ」
言いながら、ハリーは封筒から、新聞のコピーを取り出した。何枚かある。
「その被害者は、年齢・職業・性別、すべてがばらばらだった。遺体に番号が刻まれ、そこから心臓がくりぬかれ持ち去られるという猟奇的な共通点があったから、連続殺人だと判断されたんだ」
「・・・ちなみに、遺体に刻まれていた番号は?」
「わかっているだけで、“01121”“02121”“05121”“07121”“09121”の5種類だ。
残念ながら、民間で調べられるのはこのくらいだ」
視線を伏せて考え込むセブルスをよそに、テーブルの上に新聞のコピーを置いて、ハリーは続ける。
「この事件については未解決のままだ。少なくともマグル界の方ではね。
それから、実は類似の事件がアメリカでも起こっているんだ」
「アメリカでもだと?」
「ああ」
頷いて、ハリーは続けた。
ハリー、というか、メイソン家がまだアメリカにいたころのこと。
ハリーは家族でたまたま遠出した外出先――サウスアッシュフィールドという町で、時計屋の老人がマイナスドライバーで首を刺されるところに出くわした。
実行犯は黒いコートにフードを目深にかぶった青年で、口封じを目論んでかハリーにも襲い掛かってきたが、ハリーはこれを返り討ちにした。
青年を傘で殴って、黄金の右足で蹴倒して気絶させたところを拘束し、当時すでに一緒にいたリリー(子供たちと店の外で待たせていた)に頼んで警察を呼んでもらった。
幸い、老人は応急処置が間に合ったことと、ハリーの乱入によって傷が浅かったため、命は助かった。
そして、逮捕されたその青年のことを、のちに新聞で知った。
青年はウォルター=サリバンといい、当時アメリカを騒がせていた猟奇事件の犯人であったのだ。
ウォルターはサイレントヒルに住む幼いロケイン兄妹を斧で殺害し、その心臓を抜き取っていた。さらにはほかにも、同様に殺害の挙句心臓を抜き取り、遺体に番号(ちょうど、先ほど聞いたような感じの)を刻むという狂気の所業をしていたらしい。
ハリーが防いだのは、9人目の犠牲者だったのだ。
その後、警察の発表によると、なんでもウォルターは薬物や催眠処置などで、深刻な妄想癖にとりつかれているとかで、専門の病院で治療を受けているらしい。
「ママに会いたい」「サウスアッシュフィールドハイツ302号室」「ママどこなの?」「儀式をすればママに会えるんだ」「あと二人殺さなくちゃ」「赤い悪魔が」「あいつがやれって言った」「俺のせいじゃない」などと幼児返りと妄想が入り混じった供述をしていたらしい。
・・・なお、そのウォルターの身元をさらに詳しく警察が調べた結果、サイレントヒルにある慈善事業団体“希望の家”にたどり着いたのだが、それは別の話である。
「なぜ早く言わない?!」
「いや、たいしたことじゃないし、君を心配させるのもどうかと思ってね。
それに、君の話を聞いてあの時のことを思い出したから、その犯人のウォルター青年のその後やかかわりとかは、この間調べたんだ」
思わず激しい口調で言ったセブルスに、ハリーは申し訳なさそうに言った。
・・・凶悪な連続殺人鬼に襲われて返り討ちにしたというのを大したことじゃないというあたり、ハリーもたいがいである。
はあとセブルスはため息を吐いた。
ハリーがそのあたりのマグルにどうこうされるような人間ではないと知ってはいたが、それでも後で聞かされていい気分がするかと言われたらまた別問題だ。
「・・・まあ、よかろう」
「ウォルター青年は、その後、警察の監視のもと療養に専念しているみたいでね。
精神状態などから刑事責任を問えるか微妙な状態でね。
まあ、その後はおとなしくしてるみたいだよ」
気を取り直すように言ったハリーに、セブルスはうなずいた。
続く
【レオ=ノワールの杖】
死喰い人から抜け出し、レオ=ノワールとなったレギュラス=ブラックが新たに愛用する長さ34センチの杖。
ドラゴンの心臓の琴線に、リンボクの木が使われている。
その杖を作ったのは、名工オリバンダーではなく、フランス魔法界にいるボアルネという杖職人である。
学生の頃に愛用していた杖は、亡者の群れとともに冷たい水底に沈んだ。
死喰い人レギュラスは杖とともに水の底に逝った。生き残った彼は、新たな杖を輩としたのだ。
次回の投稿は・・・すみません、ストックがなくなりました!
ので、当分、ストックができるまで2週に1度の更新とさせてください。申し訳ありません。
改めまして、次回は再来週の投稿とします。内容は、ハリーとのお話の続き。後は、クラウチ氏について知ってる別の人のお話を聞きます。
もう出番はないと思ってたんですがねー、エイブリーさん。
お楽しみに!