ああ~。バトルが書きてえんじゃ~!ホグワーツの推移とか、他もろもろも書きてえんじゃ~!
書きゃええやん?その前に!前置きが!そこに至った経緯が!書かないと気持ち悪い!
というわけで続きです。
おそらくマグルでは最強のハリーパッパと、セブルスさんのお話会の続きからです。
ともあれ、ハリーの話したことなどを合わせて考えると、いくつか見えてくるものもある。
「ハリー、貴公にそのつもりはなかったのだろうが、よくやってくれたな」
「あー・・・もしかして、ウォルター青年って、未遂だったのかい?」
「うむ」
ハリーは視線をさ迷わせてから、ややあって恐る恐る尋ねてきたので、セブルスはうなずいた。
ハリーの言う未遂とは、殺人のことではない。ウォルターもまた、教団の恐るべき儀式を遂行しようとしており、ハリーの意図せぬ妨害によって未遂に終わったという意味だ。
「・・・どうしてこんなことに」
「存外、知らぬだけで啓蒙も冒涜もそこら中に転がっているだけだ。
明るい平穏な世界など、薄皮一枚めくれば、狂気に満ちた闇に満たされる。
貴公はよく知っていよう」
「知ってるけど、体験したいとは一言も言ってないんだがね」
うんざりした様子で、ハリーはため息を吐いた。
「・・・私が思っている以上に、連中の手は太く長く、数もあるのだろうね」
「そういうことだろうな。ウォルター=サリバンとやらも、結局のところ、連中に踊らされた被害者の一人でしかない。
そして、おそらく今回も」
「そんなに神とやらに世界を救わせる必要があるのかい?
世界を変える前に、自分を変えた方がいいと思うけどね」
「それも嫌ならば、いっそ目も耳も塞いで孤独に暮らせばいい。
それも嫌だからこそ、神などにすがるのだろうがな。
“神”が人間にとって都合のいいものというのも、まやかしでしかないというのに」
「ああ、そうさ。あんなこと、繰り返させるなんてどうかしている」
苦々しく吐き捨てるハリーに、セブルスはうなずいた。
今から15年前のサイレントヒルでの悪夢は、いまだに二人の中に深く根付いている。形は違えど、あれと同じようなことが起こるなど、許容できるはずがない。
ヘザーは、何も知らない。覚えていない。だが、似たようなことが起こりつつあると敏感に感じ取っているのだろう。ここ最近の彼女の不調は、それが原因に違いない。
「魔法界の方ではどうだい?Mr.マルフォイは、何か言ってきたかい?」
「頼んだことは調べてくれたが、これ以上は無理だと言ってきた。
魔法省の再編と、ホグワーツのことで相当忙しくしているらしい」
「あー・・・そういえば、この間のバーベキューの時も、疲れた顔をされていたからね。
ご自身のお仕事もあるだろうしね・・・」
「うむ」
気の毒そうな顔をするハリーに、セブルスもうなずいた。
この間のルシウスは、国際的にも注目集まるクィディッチワールドカップ決勝を(最低限のあいさつ回りこそしたが)、妻の療養を理由にキャンセル。だが、本人もそれどころではなかったのでは?とセブルスとメイソン一家以外の周囲は見ている。
去年のホグワーツにおける騒動は、内外ともにかなりの余波を広げ、その後始末にルシウスは一昨年以上に忙しくされているらしい。
これもマルフォイの未来と安寧のために!とはルシウスもわかっているが、かなり辛そうだった。
・・・なお、その額の広さが一昨年よりも若干広がっていることに、セブルスもハリーも気が付いたが、指摘はしなかった。多分、本人が一番わかっているだろうからだ。
セブルスは、よく効く胃薬、精神安定にいいリラックス効果のあるハーブティーの詰め合わせ、毛生え効果のある薬の詰め合わせをテスターと称してルシウスに贈った。
何かあったらご相談ください、魔法のことは分かりませんが、話を聞くくらいはできますから、とハリーもルシウスを気遣った。
半純血と、純マグルの友人の気遣いを受けたルシウスは感謝する一方で、どうしてほかの純血どもは、あんなに物分かりが悪いのだ!と嘆いた。
話がそれた。
「本題に戻すが、先ほどマグル側の犠牲者の数字について言っていただろう?残りの数字のついた犠牲者を、ルシウスが調べてくれた」
言って、セブルスは羊皮紙を取り出してテーブルに並べる。
「大体はそちらと同じだ。老若男女、職業問わず。ただ、遺体から心臓がくりぬかれ、例の数字が刻まれるというやり方だけが共通していた。
マグル側にない数字“03121”“04121”“06121”“08121”“10121”、以上5種類の数字が刻まれた遺体がな。そして、下手人も捕縛されている」
03121・・・その番号は、セブルスがレギュラスと会ったあの異常な空間をうろついていた、ゴーストの額に刻まれていたものだ。
「! 犯人が?」
「うむ。そして、その後死亡もしている。このため、ルシウスはクィディッチワールドカップにて発見された、新たに数字の刻まれた遺体は模倣犯によるものとみているらしい」
セブルスの言葉に、ハリーはしばしうつむいて顎に手を当てて考え込んだ。
サイレントヒルの難解な謎解きの仕掛けを前にしたときに、よく見せていた姿勢だ。
「上二桁の数字が上がっていき、下三桁だけが同じ。そして、“21の秘跡”・・・もしかして、1じゃなくて、スラッシュなのかい?」
「そうだ。最初の数字を例に挙げるなら、“01121”ではなく、“01/21”となるようにな」
「確か、君から聞いた儀式の概要は・・・最初に10人殺して、その被害者の心臓を集める、だったかな」
「そうだ。そして、白の香油、黒の杯をもって儀式を行う。ここまでが、“21の秘跡”の第1段階だ」
「第1段階ということは、まだ続きがあると?」
「うむ」
頷いて、セブルスは経典に載っていた“21の秘跡”の一部を諳んじた。
「“主曰く、 汝白の油と 十の心臓の生き血と共に、 自らの血を奉納せよ。
さすれば肉の拘束から 解放され、 二位の国の力宿らん。
虚無と暗黒から憂鬱を生み、 絶望にて 知恵を与えし者に備えよ”」
「うーん・・・つまり・・・白い油を使って、集めた十の心臓と、自らの血の奉納・・・一種の儀式をしろということかい?それも多分、儀式の遂行者の自殺を要求しているということかい?
で、肉の拘束からの解放され、二位の国の力が宿る・・・肉体から解放されて、自分自身の領域を持つということかい?
・・・あの、不明世界のような?」
ハリーの言う不明世界というのは、15年前の事件の際、サイレントヒルに展開された領域のことだ。
“神”の力を得てしまったアレッサの悪夢と妄想が具現化した、おぞましい世界だった。
「“神”の力の及ぶ領域、という意味では同じであろうな。
ただ、この場合は儀式のための生贄を引きずり込む、蜘蛛の巣という意味合いが強かろう」
「・・・あの領域の主になるアレッサは終わらせたがっていた。だから、私たちは前に進めた。あの子が進ませてくれた。
けど、その儀式の遂行者が領域の主なら、生贄以外の人間は踏み込ませてくれないんじゃないか?
儀式を止めるには、遂行者のいる領域に踏み込むことが不可欠・・・まずい・・・」
「そのことだが、いくつか話しておきたいことがある」
顔色を悪くするハリーに、セブルスは改めて説明し始めた。
聖杯ダンジョンのことを話すと面倒なのでそこは省き、単純に持っていた魔道具(メイソン一家の持つ鐘の亜種のような)の力で、異様な異世界に侵入。そこで行方不明であったレギュラスと遭遇した。
そこは、サイレントヒルで見かけた化け物に似たような存在や、さらにはホグワーツにいるのとは異なるゴーストも徘徊していること。
最終的に、尋常ではない魔法使いに遭遇して、レギュラスともはぐれ、逃げかえってきたのだと。
・・・一部嘘が交じっているが、本当のことをすべて話すわけにもいかないので、しょうがない。
「まさか、その異世界が・・・」
「経典の言うところの、“二位の国”なのだろうな」
ハリーの言葉にうなずいて、セブルスは続けた。
「それからもう一つ。ルシウスがつかんできた、連続殺人事件の犯人・・・すでに死亡している男についても話しておこう。
名前は、バーテミウス=クラウチJr.。元死喰い人だ」
「バーテミウス=クラウチ・・・どこかで聞いたような・・・?」
首をかしげるハリーは、次の瞬間、はっとした。
「確か、この間のバーベキューの時に言ってた・・・!」
「うむ」
頷いて、セブルスは続けた。といっても、彼は学生時代にレギュラスから聞いたはずのことだが、大部分を忘却していたので、ルシウスに教えなおしてもらったことだ。
レギュラスの友人――クラウチJr.は家族問題を抱えていて、それで同じように家族関係で悩んでいたレギュラスと仲良くなれたのだ、と。
「父親の方・・・バーテミウス=クラウチ氏の方も、優秀な男だそうだ。かつては魔法法執行部部長の座にあった男で、仕事はできたようだ。仕事は」
説明するセブルスに、続く言葉を察したかハリーも黙り込んだ。
仕事『は』できた。つまり、それ以外に問題があったということだ。
「ここからはルシウスから聞いたことだが、彼は立場的に社交界にも顔を出さざるを得ないだろう。
ゆえに、口さがない連中の根も葉もない適当な話を耳にすることもあるらしいが、ああも皆が口をそろえて言うのも珍しいと言葉を濁していた。
『仕事以外でクラウチと関わるな』と」
「・・・そんなにひどい人なのかい?」
「私は面識はないが、人づてに聞いた限りではな。
家族を大事にするという点では、ルシウスだろうと、貴公であろうと不快に思うだろう」
吐き捨ててセブルスは、続ける。
「一例をあげると、12フクロウを取った息子を社交界のパーティーに連れてきた際に、自慢もせずにむしろ、できて当然だの勉強ぐらいしか取り柄がないだのと・・・聞いてる方が気分が悪くなりそうなくらいの話をしてきたらしい。本当に息子に対する扱いか?道具のようにしか思えなかったな、と。
・・・まあ、人の親など千差万別だ。貴公のような者もいれば、我が子を痛めつけ、なかったことにしたがる者もいる」
セブルスの父親が、そうであったように。
それを聞いたハリーは、最初こそ眉をひそめていたが、最後の方で痛々しげな顔をした。
「・・・大丈夫かい?」
「何がだね?」
「辛そうに見えたような気がしてね。子供をつらい目に遭わせる親か。ひどい話だね。
子供たちにだって、あの子たち自身の意思があるっていうのに」
ぽつりとハリーがつぶやいたのは、ひょっとすれば、アレッサのことを思い出しているのかもしれない。
アレッサ・・・15年前のサイレントヒルの悲劇の発端となった、少女だ。神の依り代として降神術の生贄にされ、生きながら炎に焼かれ、地獄の苦しみを味わった。
彼女自身は変わった力を持っていようと、ごく普通の少女であった。ただ、降神術を目論んだ母親が、狂信者であったというだけで。
子供の運命は親が狂わせることが多いものだ。そんなことあっていいわけがないというのに。
「すまない、話がそれたね。
ええっと、そのクラウチJr.は、父子家庭だったのかい?」
「聞いた話になるが、夫人は元々病弱で寝込みがちで、息子は乳母が面倒を見ていたらしい。
・・・そんな家庭環境だ。息子が行きつくところに行きついても、無理はなかったであろう」
「死喰い人になった・・・だったね」
「うむ」
頷いて、セブルスは続けた。
「12年前――ポッター家襲撃事件の後、不死鳥の騎士団のメンバーであるロングボトム家を襲撃し、夫のフランク氏が拷問にかけられた事件があってな。
主犯はレストレンジ夫妻だったが、それに加担したとして、クラウチJr.も逮捕されたのだ。
この時、クラウチJr.が例の連続殺人事件の犯人だとも判明してな。
おかげで当時、魔法大臣の座を目前にしていたクラウチ氏は、人気に傷がつき、権威も失墜。凋落の挙句、現在では国際魔法協力部の部長をやっている。・・・花形からは縁遠い職だな」
セブルスの説明に、ハリーはもの言いたげな顔をしたが、結局何も言わなかった。
ちなみに、この話を初めて聞いた時のセブルスは、そんなことあったか、新聞にあったのでは、と思い返したが、死喰い人が逮捕されるだ何だという時期は、ちょうどリリーとハリーJr.を匿って、アメリカに送ったり、その前後の工作だなんだをやっていた時期になるので、あまり印象になかった。
その前はヤーナムから冒涜的世界一周、帰国後の実家の処分や大学編入手続きだといろいろあったわけで。魔法界の人事や事件自体に疎くなっていたのだ。興味もなかった。
「そして、そのクラウチJr.は、アズカバンに収容された後、獄中で病死。遺体はそのままアズカバンの敷地内にある共同墓地に埋葬されたらしい。今から数年ほど前のことになる。明らかに、タイミングがかみ合わない」
「タイミング?
あ、確か、予言の方は夏休みが始まる前に、中断されてた儀式が再開する、みたいな内容だったんだっけね?」
「そうだ。クラウチJr.が本当に数年前に死んでたとするなら、このタイミングで儀式が再開というのはおかしいのだ」
「うーん・・・実は死んだふりしてたとか?
そうだ!魔法薬か何かで仮死状態になって、埋葬されたふりをして抜け出したとか」
「そんな魔法薬は・・・確かに、不可能ではないのだろうが、
脱獄自体は可能だろう。ブラックがすでにそれをやってのけたのだからな。だが、実際、遺体がすでに埋葬されていると記録にも残っている。吸魂鬼による埋葬を遠目で確認もしているそうだ。
加えて、なぜ12年もブランクが空いたのだね?
“物事には、必ず理由がある”。そうだろう?」
「それはそうだね・・・。
あるいは、実はクラウチJr.ではない、別人の可能性も考えるべきかもしれないね」
いずれにせよ、ここで考えられるのはこのくらいだろう。
「セブルス・・・何か私にできることはあるかい?
確かに、私は魔法も使えないし、家族を優先すべきだともわかっている。
だが、友人の助けになりたいんだ。
ヘザーのことだってある。このまま、じっとしているのも・・・」
「・・・仕事はいいのかね?」
「ハハッ!この間長編を脱稿したところで、急ぎの仕事は入ってないんだ」
からりとハリーが笑った直後、その前にドサドサドサッと分厚い書籍が山積みされた。
セブルスがインバネスコートの懐から取り出したものだ。
「では、お言葉に甘えさせてもらおう。貴公には、教団関連の書籍を当たり、『21の秘跡』の解除法、あるいは破壊方法を探ってもらいたい」
「・・・最初からこのつもりだったね?」
「得意であろう?」
本の山の向こうからジト目で見てくるハリーに、セブルスはどこ吹く風でにたりと笑った。
「・・・結果が出たら知らせるよ。
夏中に片付けられたらいいんだけどね」
仕方ないな、というようにため息交じりにハリーはうなずいて見せる。
実のところ、これは適材適所だと、セブルスもハリーも判断していた。
例の異世界には、魔道具の力の対象となるセブルスしか行くことができない。
そして、ハリーは家族を守らなければならない。
ならば、ハリーにはできるだけ家族を見ていられる場所に置いておく方がいい。
加えて、ハリーは過去、サイレントヒルで手にした断片的な情報から、連中のたくらみを暴いたこともある。
彼にはうってつけの役目だろう。
「頼む。私は、一段落ついたらもう一度、あそこに行ってみようと思う」
「セブルス、わかっていると思うが、重々気を付けてくれ」
心配そうなハリーにうなずいて、セブルスはメイソン宅を辞した。
さて、“葬送の工房”に帰宅したセブルスは、一通の手紙を読んでいた。
それは、メイソン宅に向かう前に出していた、エイブリーからの手紙の返信だった。
前述したが、今回のことでルシウスの力は借りられない。
だが、儀式遂行者と思しきバーテミウス=クラウチJr.は魔法族であり、その情報を得るための調査には魔法族の協力者が不可欠である。
セブルス自身は例の異世界に潜るためにそちらへ割く時間はなく、白羽の矢が立ったのが、エイブリーだった。
彼は、ルシウスほど親密ではないが、“死の印”消しのことで貸しがあるというのと、野菜の取引の関係で、たまに連絡を取っている。
加えて、元死喰い人ということで、同じ死喰い人であるクラウチJr.について何か知っていることはないかと連絡を取ってみたのだ。
エイブリーは、唐突な連絡に怪訝にしつつも、クラウチJr.――正確には、彼の父親であるクラウチ氏について気がかりなことがあると返信に書いてきた。
彼の商売がらみのことで顧客情報になるので、フクロウ便では書けない(本来は信用にもかかわるのでご法度である。セブルスにも悪用だけはするなと念押ししてきた)らしく、直接会って話を聞くことになった。
さて、エイブリー邸の客間は、マルフォイ家ほど豪奢ではないが、それでも品のいい調度品に囲まれていた。
こういったものを目の当たりにするたびに、自分には貴族は向いていない、とセブルスは思う。
そんなセブルスをよそに、エイブリーは試作品だというハーブティーを飲みながら切り出した。
「クラウチの息子の方についてはなあ。あいつはあのお方狂いの狂信者だったからなあ。行動するにしても、レストレンジとつるんでることが多くてな」
ハーブティーに口づけたセブルスに、エイブリーは話を続ける。
「俺はなあ、スネイプ。
あのお方についていけば、純血が貴ばれる世の中が訪れて、より良い暮らしができるんじゃないかって、信じてたんだ。親父とおふくろもな。
魔法界は閉塞しきっている。どこかででかい風穴を開ける必要がある。今にして思えば、俺たちは無意識に、あのお方にそれを求めていたってわけだ。
あのお方はそりゃ、逆らうものには容赦されないが、従うものには望んだものを与えてくださったしな。
従えば、成果が約束されたんだ。逆らってもいいことなんて一つもない。道理だろう?」
「うむ」
純血貴族の大半が、それを求めていたのだろう。
だから彼らは、ヴォルデモートに与した。
求めていた形とは、かけ離れていると気が付いた時には、すべてが手遅れになっていたに違いない。
エイブリーのみならず、マルフォイもそうだったように。
「けど、あの連中は違った。
成果なんぞどうでもいい。あのお方に付き従うことがすべて。すべてだ。
狂信者だ。新興宗教おったてられるんじゃねえかって感じだったな。
まあ、そんな危なっかしい連中とは近寄りたくもなかったんだよ。
学生時代はもう少しおとなしいと思ってたんだがなあ。どうしてああなった」
遠い目をするエイブリーに、セブルスもうなずいた。
もっとも、後日この話を聞いたハリー=メイソン氏は、「そんなものだよ。学生時代はこうだったけど、社会に出たらああなったってのはよくあることさ。ニュースの凶悪犯の生い立ちとか、たまに特集されたりするけど、その友人たちは口をそろえてこう言うんだ。『そんなことするようには思えませんでした』ってね」と語った。
・・・なお、学生時代と社会に出た後の変動が激しいのは、セブルスも同様ではあるのだが。
「それで、クラウチ氏の気がかりとは?」
「ああ。お前にクラウチって名前で気が付いたことはないかって聞かれて、思い当たったことがあってな。
手紙にも書いたが、これは本来、商売にもかかわる顧客情報だから、悪用だけはするな。お前には借りがあるから、話す。忘れるなよ」
再三にわたって釘を刺してから、エイブリーは口を開いた。
「商売が軌道に乗り始めたころ、運送業を担っている貴族と組んで、宅配サービスってのも始めたんだ。マルフォイからのアドバイスもあってな。
で、チョイと、妙な顧客がいてな」
「妙な、客だと?」
「保存魔法をかければ長持ちするとはいえ、基本的に野菜の発注分は家の家族の人数に応じた形になる。
家庭や届ける野菜の種類によりけりだが、大体の野菜の量から、住んでる家族の人数を逆算したり、好みを推理したりもできる。
で、たまにだが、いるんだよ」
ここで、エイブリーは言葉を切り、ティースタンドに載せていたカナッペ(スモークサーモンとクリームチーズ)を口に運んで、一息ついた。
「表向き、住んでる人間の人数と、発注した野菜の量がかみ合わないってことがな」
それはまた妙な話だ。
すぐにセブルスはそのおかしさに気が付いた。
前述したが、エイブリーの領地で扱っているのは、品種改良した魔法野菜だ。つまり、それだけ高い。
つまり、それを食べるのは、人間であるケースが多いのだ。家畜などに食べさせるなら、それ用の飼料やペットフードにすべきなのだろうから。
わざわざ高い金を出す必要がある魔法野菜を必要以上に発注するなど。
「これは独り言だぞ?
まあ、たまーにな?あったりはするんだよ。
どこぞでこっそり愛人を養うとか、隠し子の養育とかな?
でも、そういう連中は大体慎重だから、口止めもうまいんだよ」
シシシッとお世辞にも上品とは言えない笑いで言ったエイブリーに、セブルスはだろうな、と軽くうなずく。
つまり、口止め料として余分に料金を払ってたりするというわけだ。人の口に戸は立てられない。だが、金はつっかえ棒になりやすい。そういうことだ。
「だから、最初俺はクラウチもそうかと思ってたんだ」
「・・・つまり、クラウチ氏も余分に野菜を購入していると」
「だーから、これは独り言だ。
クラウチ夫人が病気で寝込みがちで、うちの野菜で多少マシな病人食ができればと思ったのか、発注があってな?
お得意さんになってたんだ。
が、妙なことに、だ。
日刊預言者新聞のお悔やみ欄に、クラウチ夫人の名前が載ったにもかかわらず、野菜の発注が続いたんだよ。量も変わらずに。
最初、思わず注文の確認をしたんだが、間違いないとさ。いなくなった夫人の分はだれが消費するんだ?
しかも、だ。
最近になって、発注量が増えた」
「増えただと?いつから?」
「今年の夏の初めごろからだな。
だから俺はてっきり、こっそり愛人でも囲って、隠し子を生ませて、その世話で新しく使用人でも雇ったかと思ってたんだがな。
・・・ないな。仕事魔人のクラウチに限って、ない。」
口にして、すぐさまエイブリーは首を振った。
「だろうな。聞く限り、そのような暇があれば仕事に向かうような人間なのだろう?」
「さすがは、手前の息子を、公衆の面前で罵倒同然に切り捨てるだけある、ってな。
知ってるか?クラウチの奴、手前の妻が死んだってのに、葬儀は業者に任せておざなりに、手前は相も変わらず魔法省と自宅の往復作業さ。顔色一つ変えずにな。
結婚しても、ああはなりたくないもんだ」
「・・・予定があるのかね?」
「あー・・・」
少し驚いたように目を見開いたセブルスに、エイブリーは少し顔を赤らめ、気まずげに目をそらしながらぼそぼそと言った。
「その・・・一応な。
まあ、式は・・・嫁の方の希望で、挙げられないんだ。籍だけ入れる予定だ」
「珍しいな。
遅くなったが、おめでとうと言っておこう」
「・・・おう」
むっつりとうなずくエイブリー。それでも、悪い気はしないらしく、むずむずと口の端を動かしている。にやけたいのを我慢しているような顔だ。
「相手については聞かねえのか?」
「聞いてほしいのかね?」
「・・・お前がもめた娼婦がいるだろ?あいつだ」
気まずげにするエイブリーに、セブルスは思わず沈黙した。
セブルスとしては、彼女のプライドと評判に泥を塗ってしまった形になるので、女性用の化粧品や副作用の軽い避妊薬を詫びとして、大量にプレゼントしたのだが。
どうも、エイブリーはその後、ちゃっかり彼女と仲良くなったうえ、身請けまですることにしたらしい。
「印を消したとはいえ、元死喰い人と娼婦の組み合わせだからな。
体裁が悪すぎるだろってな。
あいつが言い出したんだよ」
「言いたいものには言わせておけばいいものを」
「一応、貴族だからなあ。そういうわけにもいかねえんだよ」
エイブリーが苦笑した。
「あいつな、没落した純血貴族出身なんだ。借金こてこてで、娼館行きになったんだと。
だから、血統的な問題はねえんだよ。
癒師にも診せたが、妊娠出産の機能も問題なしだと。
なら、結婚自体に問題はねえと思うんだがな。
けがれ、ッと悪い、マグル生まれよりはましだろうってな」
エイブリーが言いかけた言葉に、セブルスは不快そうに眉をひそめたが、何も言わずにため息で済ませた。
セブルスが、『穢れた血』という言葉を忌み嫌っているというのを、エイブリーもどこかで聞きつけたらしい。
「大分長いこと話し込んでしまったな」
言って、セブルスは立ち上がった。
「祝いは近いうちに贈ろう。
それから、今の話はルシウスにも話しておけ」
「クラウチのことか?
そんな気にするようなことか?」
怪訝そうにするエイブリーに、セブルスは眉間のしわを一つ深くして言った。
「エイブリー。手紙にも書いたとおりだ。
例の数字の刻まれた殺人事件には、クラウチが絡んでいる可能性がある。
放置しておけば犠牲がさらに増え、最悪の事態に至るだろう。
奴の違和感を見逃すな。
ルシウスが無理なら、他の魔法省に伝手のある魔法使いに伝えろ。
クラウチから目を離すな」
「よくわからんが・・・まあ、わかった。俺のつてのある連中には、声をかけておく。
っつっても、どこまで通じるか・・・」
ぶつぶつと言いながらも、エイブリーも了承はしてくれた。
サイレントヒル関連の危険性を知らない人間の反応としてはこんなものだろう。やってくれるだけで御の字だ。
「頼む」
「・・・やるだけやってみるさ」
セブルスの言葉に、エイブリーは肩をすくめて見せた。
続く
【エイブリーへの手紙】
セブルス=スネイプが友人エイブリーにあてた手紙。
“21の秘跡”の概要と、13年前に儀式の遂行を目論んで連続殺人に手を染めたのがバーティ=クラウチJr.であること、クラウチについて何か知ってることはないかなどのことが書かれている。
その手紙は、フクロウが持ってきたわけではなく、気が付けば書斎の窓辺に置かれていたものだ。
ホグワーツを離れ、ノクターンで再会した友人が、どこか魔法使い離れしていると、エイブリーも知っている。
次回の投稿は、一応、再来週になります。
内容は・・・一応、異世界の探索を予定しています。え?今までと比べて内容がふわっとしている?ストックがぁ!ないんですよおおお!
申し訳ありません。気長にお待ちください。
2021・12・05追記
すみません、体調を崩してしまって、書ききれませんでした!
当分、不定期更新とさせてください!予告が嘘になってすみません!
年が明けるまでには、更新したいです…。本当にすみません。
2022.01.29追記
ストックは出来上がりつつありますが、念のため不定期更新に移行します。
申し訳ありません。
次回予告の訂正!
次回はセブルス&レギュラスの異世界探索!そのころホグワーツでは?
そして、VS謎の強敵第2ラウンド!お楽しみに!