お久しぶりです。どうにかストックが出来上がってきましたので、投稿します。
ちょっとスランプに陥ってたのですが、どうにか再開できそうです。
原作4巻の面影どこ行った?な感じになっていますが、書いてる私は楽しくなっていきました。いつも通り。
コツコツと、上等な靴が石畳を踏みしめる。
レギュラスはそこを知っている。
石造りの城だ。ただし、レギュラスの知ってるころより、どこか古びて陰気な空気を漂わせている。
似て非なる別の場所なのだろうと思いたい。
恐る恐るレギュラスは、近くの扉を押し開けた。
予想通り、そこは教室だった。木製の机が並べられ、教卓が黒板の前に置かれている。
間違いない。
ホグワーツ城だ。
少なくとも、内装や城の構造自体は同じだ。
ただ。
聞こえてきたラップ音にレギュラスはびくっと肩を震わせ、急ぎ隠れられそうな場所を探す。
部屋の片隅にあった用具入れに飛び込み、急ぎ扉を閉める。
ドアを開けることもなく、壁をすり抜けてそれが表れる。
頭が半分つぶれた男だ。銀色の半透明な体に、衣服からしてマグルだろう。頬に刻まれた数字は“07121”だ。
用具入れのスリットから、かろうじてそれが見え、レギュラスは必死に息を殺す。
あの顔が半分つぶれた奴は、しつこい。一度でも見つかってしまえば、あの決して出られない部屋に戻るまで、しつこくしつこく追いかけてくる。
レギュラスは魔法族だから、治癒魔法で傷を癒すことができるが、もしマグルだったら失血でこの世からおさらばしていたかもしれない。
そのくらい、しつこいのだ。
早く向こうに行ってくれというレギュラスの願いをよそに、何事か感づいたか、顔が半分つぶれたゴーストはしつこく教室内を徘徊し始めた。ぐるりぐるりと生徒を監視する教員よろしく、机の間を行ったり来たりしている。
勘弁してくださいとレギュラスが口の中で文句を言った時だった。
音もなく忍び寄った黒い影が、背後からゴーストに強烈な一撃を与えた。それは、狩人の戦法で言うところのバックスタブというものだが、レギュラスに知る由もない。
用具入れの中でレギュラスはぎょっとした。ゴーストをどうやって殴り倒したのか?
殴ったのではなかった。切り付けていた。
分厚い、文字通りの鉄の板をそのまま加工したかのような、ごつい大剣を携えている。
“ルドウイークの聖剣”。教会の最初の狩人ルドウイークが用いたことで知られる仕掛け武器だ。すらりとした銀の剣は、重量ある鞘を伴うことで分厚く重い大剣に姿を変えることもできる。
今、その重量溢れる大剣の刃は、ゴーストのないはずの背骨を抉り断っていた。
ぐらりとゴーストが空中で体勢を崩す。
直後、その腹腔を漆黒の右手が刺し貫いていた。そのままゴーストは霧散して、姿を消す。
残されたのは、ただ一人。銀色の血にまみれた臓物を引きずり出し、たっぷりとひんやりした血を浴びる、ただ一人。
「存外、あっけないものだ」
期待外れだとでも言いたげなため息をついて、セブルスは一拍の間をおいて、空気に溶けるように消えた銀色の臓物を握っていた右手を振って、再び出てきた鈍色の大剣を肩に担ぎあげた。
なお、例のごとく、インバネスコートはもちろんとして、枯れ羽帽子と防疫マスクの完全装備状態に加え、赤黒い霧をまとった闇霊状態でもある。
レギュラスが、用具入れから出てきたのはこの時だった。
「先輩!ご無事で!
いや、それもありますけど・・・ゴーストをどうやって殺したんですか?!」
「?
何かおかしいかね?」
「いえいえいえ!ゴーストですよ?!触れないんですよ?!どうやって?!」
「狩人には大した問題ではない。生きてようが死んでようが、引き抜ける臓物があるなら、殺せる。それだけの話だ」
実際、廃城カインハーストにはびこっていた亡霊どもも、狩人の右手の前には無力である。
・・・その分、数にものを言わせて襲ってくるので、そのうち三十六計逃げるに如かずとなったのだが。
「手ごたえも確かにあった。確実に仕留めたはず」
「あるんですか?!手ごたえ!」
しれッと言ったセブルスに、レギュラスはドン引きした。
・・・気が付いたら、尊敬していた先輩が斜め45度サインコサイン南南東とでもいうような、とんでもない方向にカッ飛んでいた。あるいはとっくの昔に行きついていたが、レギュラスが気が付いたのが遅いのか。
同居していた時期から薄々そういう節があるのは感づいていたが、改めて見せつけられるとまた違ってくる。
「ともあれ、動けるようなら場所を移そう。
ぐずぐずしていると、別の連中がやってきかねん」
「別の・・・っ」
問い返そうとしたレギュラスは、すぐにはっとした。
あの、異常な黒ローブの男。またあいつのようなやつが来たら。
実は、レギュラスは再会するまでの間に、あの男にも何度か出くわしている。と言っても、その人影は遠目からじっとレギュラスを見てきているだけだ。
どこかで見たような感じもしているが、レギュラスは珍しく、それを直視したくなかった。
とにかく、レギュラスもすぐにセブルスにうなずきを返し、教室から出た。
「以前も言ったとおり、私はあまりここには長くいられん。
歩きながらにはなるが、こちらの方で分かったことについて情報を伝えておこう」
「わかったこと・・・?
先輩、この・・・ええっと、現象?とにかく、これについて何かご存じなんですか?」
レギュラスの問いかけにうなずいて、セブルスは話し出した。
学期末のホグワーツでされたトレローニーの予言、以前訪れたサイレントヒルで知った儀式“21の秘跡”、その実行者がかつての学友バーテミウス=クラウチJr.であるだろうこと、そしてここが儀式によって形成された異空間で、ここに引きずり込まれた人間は儀式の生贄としていずれ殺されるということを。
「ま、待ってください!」
目を白黒させつつ、レギュラスは慌てて言った。
「バーティが、まさかそんな・・・」
「いささかかみ合わぬ部分もあるにはあるが、可能性が高いのが彼だ」
顔を青ざめさせてうめいたレギュラスに、セブルスは淡々と言った。
そして、残酷なようだが、これだけは言っておかねばならなかった。
「レギュラス。貴公もまた、儀式の生贄でもあるのだ」
セブルスの容赦ない言葉に、レギュラスは表情をこわばらせ、こくりと喉を鳴らした。
「・・・バーティは、死んだと聞きました。だから・・・そう、だから僕は、せめて墓の場所を訊きたくて、兄のことも一段落したし、クラウチ氏の方も落ち着いたころだろうからと、彼を訪ねようとして。
気が付いたら、あそこにいたんです」
「あそこ?」
「けして出られない、おかしな部屋です。鎖と錠前で内側から施錠してある、奇妙な部屋で。窓の一つもないから、場所はおろか、時間の経過すらわからないんです」
落ち着こうとするかのように首を振って、レギュラスは視線をさ迷わせながら続けた。
「けど、バーティが関わっているというのは、なんとなくわかります」
気を取り直すように一呼吸おいてから、レギュラスは続けた。
「あちこちで、バーティのものらしい日記の切れ端や、手記が見つかりました。
・・・手紙のやり取りをしてたので、筆跡は覚えてたんです」
「儀式の遂行者によって構築された異世界だからな。少なからず、その内面の影響を受けるであろうな」
頷いてセブルスは言った。
セブルスはすでに、15年前にサイレントヒルで似たような経験をしている。
その時の異世界を構築したのは、アレッサだった。彼女の
形式は違えど、儀式の根幹となる“神”の力が同一であるならば、そういう似通った部分が出てもおかしくないだろうとセブルスは推察しているのだ。
「・・・先輩。バーティは・・・本当に・・・?」
どこかすがるような、信じ切れないと言いたげなレギュラスに、セブルスはただ黙って目を伏せた。
摩耗した記憶しか持たないセブルスでは、レギュラスに満足な答えは返してやれないだろう。
何より、最後に納得できるかは、レギュラス自身にかかっているのだから。
「バーティ・・・」
小さくうめいて、レギュラスはうつむいたが、すぐに顔をあげて歩き出した。
さて、セブルスとレギュラスがそうして悍ましい異世界をさ迷っていたころ、夏季休暇真っただ中のホグワーツでも、一つの異常が発生していた。
この期間は、一部の教師と管理人のフィルチ、ハウスエルフと森番がホグワーツに滞在しているのだが、今年はいささか困ったことになっていた。
というのも、本来は校長・副校長をはじめとした残っている教職員らが来学期の準備をできる範囲でやっておくのだが、今年はそれどころではなかった。
何しろ、校長たるダンブルドアは停職である。副校長のマクゴナガルはトレローニーが夕食の席で予言を読み上げた直後、医務室に搬送された。
とうとう胃に穴が空いたらしい彼女は、哀れなことにそのまま聖マンゴに移送された。
一応、彼女は自分の代理としてフリットウィックを指名していたため、どうにか二年連続学期未了の事態に陥ることだけは避けられた。
話を戻すが、ホグワーツのトップ二名の不在である。加えて、シリウス=ブラック&ピーター=ペティグリューの2名がホグワーツを引っ掻き回したこともあり、
ルシウス=マルフォイ氏をはじめとした理事たちは頭を抱え、病床のマクゴナガルが落ち着いたら、彼女の了解を得て、ホグワーツの状況に改善をしていかねばならない。
・・・なお、ダンブルドアは連絡不能状態になっている。フクロウ便が宛先不能で帰ってくるのだから。
いつものことだ、あの校長が何を考えているかわからん方が悪い、と誰も気にも留めなかった。
ルシウス氏ですら知らない。
この夏の初め、最強の杖たるニワトコの杖の魔力任せに魔法族避け破りをしたダンブルドアが、半ば強引に出版社に顔を出していたハリー=メイソンに接触し、彼に開心術を使用。
その後、顔色を悪くした彼は、あいさつもそこそこに去っていった。
マグルの服でこそあったが、長すぎる白髪と白髭の老人のことをハリーから聞かされたセブルスは、ダンブルドアがサイレントヒルに魅入られたことを即座に悟った。
サイレントヒルは、心に闇を持ったものを呼び寄せるが、それは町の名前を知っているという前提条件が必要だ。逆を言えば、町の名前を知らなければ引き寄せられることはない。(つまり、以前リリーがサイレントヒルに魅入られたのは、うっかり町の名前を口にしたハリーのせいといってもいい)
ゆえに、セブルスはその前提条件を話したうえで、ハリーとリリーの二人にサイレントヒルのことは誰にも話してはならない、と釘を刺しておいた。
だが、“開心”までしてくる人間にまでは責任を持てないし、持つ必要はない。
・・・後日、ホグズミード村にあるパブ“ホッグズヘッド”の店主が、恋山羊を撫でながら、「あのクソ兄貴が、サイ何とかとかいう場所で妹が待っているから行ってくるなんて妄言を吐いていた」という証言を闇祓いの一人に漏らすのだが、それは余談である。
なお、彼が何を思ってハリーに接触したかは、定かではない。この期に及んでリリーとハリーJr.に何らかの懐柔工作を仕掛けようと思ったのであろうか?
話がそれまくってしまったが、本筋に戻す。
とにかく、ホグワーツで起こっているその異常に最初に気が付いたのは、管理人のアーガス=フィルチ氏だった。
ホグワーツ城における隠し通路や仕掛けの類をほぼ網羅している彼は、その夏の初めに、奇妙な部屋を発見した。
言っておくが、そこはいわゆる“必要の部屋”ではない。
普段は単なる廊下ののっぺらな壁であるはずのところに、真鍮のドアノブの奇妙なドアが出現していたのだ。
しかも、何か異常に臭く、それでいて何か異音がする。中に誰かいるのだろうか?
こんな奇天烈な事態を引き起こすのは、ウィーズリーの双子だ!あの連中は人の目を盗んでやらかすことに長けている。また何かおかしな魔法をかけていったに違いない!
管理人のアーガスはドアが開かないことを知るや、真っ先にそう考えた。もちろん、フィルチの決めつけであるのは言わずもがな、である。
どうにか開けられないかと、試行錯誤した挙句、ハンマーで扉をたたき壊しにかかる暴挙にまで出たのだが、単なる木製のはずのそのドアはフィルチが振り下ろしたハンマーをガツンっという固い音を立てて弾いてしまった。
いかにフィルチと言えど、魔法がかかっているものについてはお手上げであった。
加えて、彼はどこか、何かおかしいと感じ始めていた。はっきりとした根拠のないそれは、長年ホグワーツの管理人を勤めあげた彼の、一種の勘に基づいたものだった。
彼は自分の手に負えないと判断したその扉のことを、すぐさま他職員たちに報告。
この忙しいときに、と誰もが舌打ちをしたが、警備状況の相談役を務めていた闇祓いの一人が腰を上げてくれた。
そのおかしな扉が、どこにつながっているのか。“秘密の部屋”のような大騒動の発端にでもなったらことである。これ以上の不法侵入者は、何としても防がねばならない。
何をどうしようが、扉は頑として開かなかったのだ。
仕方なく、その闇祓いは扉の上に何枚かの板を乱雑に魔法で取り付け、魔法で固定した。
とりあえず今のところは(臭くて変な音がするということ以外)大きな実害もなく、他に優先することもある。これで様子を見るしかない。
闇祓いはそう言ったが、フィルチは「ふん!これで何かあったら、お前さんたちは無能だという証明になるな!!」と吐き捨てた。
フィルチは確信していた。これでは何も解決にならないと。
まったくもって、その通りだった。
話をセブルスたちの方に戻す。
移動しつつの会話は、続けてレギュラスが見つけたという、バーティの日記や手紙の一部、その内容に至っていた。
「先輩はご存じかもしれませんが、バーティはその・・・ご両親との関係があまり良くなかったんです」
「らしいな。ルシウスから聞いている」
レギュラスの前置きにセブルスがうなずいたところで、彼は本題に入った。
父親からは顧みられず、母は病弱で寝込みがちだった。そんな家庭環境であったバーティ=クラウチJr.は、乳母に育てられ、教育を受けた。
・・・その乳母が、自分なんてこの世のすべてを救う聖母様に比べたら、たいしたものじゃない、と折につけ“聖母様”のすばらしさを説くような人物でなければ、バーティはもう少し別の性格をしていたのかもしれない。
日記の一部からそのような記述が見つかったところで、レギュラス自身も思い出した。
レギュラスがバーティと親しくなったのは、同じ純血貴族であり、ヴォルデモート卿の思想に魅せられつつあった同志であったというのもあったが、もう一つ、家庭環境の問題を持つ者同士であったからだ。
レギュラスの両親、オリオンとヴァルブルガも根強い貴族主義で、マグル差別主義者で、高圧的に貴族の義務を説き、それに倣うことを是としていた。
反発していた兄はともかく、レギュラスとしては家族仲にひびを入れたくなくて、仕方なく従っていた部分もあった。それでも、思うところはあるし、何よりも兄の存在に頭を痛めていた。
ゆえにこそ、本当に心寄せて信頼できたのが、ハウスエルフのクリーチャーしかいなかったのだ。
だからこそ、バーティと仲良くできた部分もあったのだ。似通った部分があったから。
時折、家族の愚痴を言い合えるだけで、レギュラスはよかったのだ。
だから、バーティがこぼした言葉を、怪訝に思いつつも流してしまったのだ。
『俺の両親はきっと、本当の両親じゃないんだ。言うことを聞かせるだけの道具か、思いついた時だけかわいがるペット扱いをしてくるだけだ。
きっと、本当の親は、別にいるんだ』
マグル生まれの学生が、時折橋の下で拾われた云々の冗談を言ってたのを思い出したレギュラスは、またそんな(『穢れた血』のような)こと言って、君だって純血じゃないかと軽く流したのだ。
どうあがいても、血のつながりは変えられないとレギュラスは知っている。それに、だからすべてを捨て去りたいと願ったわけではない。もっと他に方法はなかったのか、と今でも思ってしまうほどだ。(レギュラスのことで両親は目を覚ましてくれたが、もう少し早ければ、あるいは兄とも和解の可能性だってあったはずだ)
レギュラスは兄のように思い切りよく家族を切り捨てられなかった。だって、家族なんだから。注いでもらった愛は確かにあったはずなのだから。
『いつかあの方を迎えに行くんだ』
そんなレギュラスを見て、少し寂しげに笑いながら、バーティが言っていた。
あの方とは闇の帝王のことだろうか。変わったことを言うな、とその時は思った。
もし、バーティが本当に、本音の本音を言ってたのだとしたら?
あの方というのは、闇の帝王ではなく、バーティが言うところの本当の親なのだとしたら?
だとしたら。
「・・・先輩、僕は、とんでもない間違いをしてしまったのかもしれません」
ひょっとしたら、バーティを止められたのではないか。仲たがいしてろくに話し合いもしなかった兄と違い、親友といってもいい間柄だった。
それなのに。こんな大ごとになるまで、彼を放置してしまった。
「悔やむのは後にしたまえ」
ぴしゃりとセブルスは言い放って足を止めた。
黒フードを深々と被ったローブの男が、再びそこにいた。
ゆるりとその手が持ち上げられ、杖先が向けられる。レギュラスはその杖に見覚えがあった。バーティの杖だ!
「バーティ!」
レギュラスの呼びかけにバーティらしき男は答えない。
代わりに放ってきたのは
とっさにセブルスはレギュラスを突き飛ばすように、その一撃を避ける。
よけざまに、左手の銃を抜いた。カインハースト謹製のエヴェリンだ。単発銃としては水銀弾の消費量のわりに高威力なので、普段使いの獣狩りの短銃に代わり、持ってきた。
だが、その一撃は
やはりか。
ちっと舌打ちしたセブルスに、『バーティ』は容赦しなかった。
あくまでその狙いはセブルスらしく、緑色の光弾を連続で放つ。
以前は引っかかってしまったが、今度はそうはいかない。セブルスは、狩人のステップでその連撃を避ける。
一度見た攻撃はさっさと覚え、避け方・防ぎ方を学習する。でないと輸血液がいくつあろうと足りなくなる。
ヤーナムで、セブルスはそう学んだ。大型の獣は
もっとも、今回の相手は獣ではないが。
「先輩! バーティ!やめてくれ!」
「レギュラス」
レギュラスの懇願に、ここで初めて『バーティ』が口を開いた。思っていたより、人間らしい声だった。
「お前は後だ。まだ、“その時”じゃない。
まだ“虚無”が済んだだけだ。“暗黒”と“憂うつ”がまだだ」
声音こそ落ち着いた調子だったが、言ってる内容にセブルスは眉をひそめる。
「友人を生贄扱いか」
「何が友人だ」
分厚い鋼鉄の鞘を背中に戻し、直剣形態としたルドウイークの聖剣を肩に担ぐように構え、踏み込めるよう足元に力を入れるセブルスに、『バーティ』はあざ笑うように言った。
「我が君を裏切った奴に、用などない。
むしろ糧となれることを
「っ・・・」
レギュラスは唇をかんでうつむいた。
彼が友人の本音をそうとは知らずふいにし、闇の帝王への忠誠をも裏切ったのは確かなことだ。裏切り者呼ばわりは当然のことだ。
覚悟していたはずだ。わかっていたはずだ。それでも、いざ正面で罵倒されれば、胸が痛まないわけがなかった。
「さて、どちらが先に裏切ったのやら」
飄々と口をはさんだのはセブルスだった。
「何?」
「レギュラスがなぜ帝王に反旗を翻したのか。彼から聞かなかったのかね?
彼の友であるというならば、ブラック家のハウスエルフについても聞き及んでいたと思ったが?」
訊き返してきた『バーティ』に、セブルスは言った。
「はっ」
だが、返されたのは嘲笑だった。
「たかがハウスエルフの一匹。我が君が死ねといったなら潔く死ねばいい。お前もそう思ったから、あの方の前に連れて行ったのだろう?」
「そんなつもりで連れて行ったんじゃない!
クリーチャーは!僕の大事な友達で、家族の一員だ!言ったじゃないか!」
「ああ、そんなことも言ってたな」
叫び返したレギュラスに、『バーティ』はせせら笑うように言った。至極、どうでもよさそうに。
「闇の帝王のために、か。だから、10人殺して心臓を抜き取ったのかね?」
セブルスの問いかけに、バーティはククッと含み笑いをした。
「我が君は死を超越なさる方法をお探しだった。俺は知っていた。グラディスが教えてくれたんだ。
聖母を降臨させる途中で不死身になれる方法があると。だが、我が君は信じてくださらなかった。『そんな方法は信じられない』『聖母などバカバカしい』と。
だから、俺が実践した。聖母様がご降臨なさったら、あの方にこの座をお譲りするつもりだ」
「どうやって」
「俺が考える必要があるのか?聖母様なら何でも知っている」
ああ、これはだめだ。
セブルスの問いかけに、むしろ不思議そうに尋ね返してきた『バーティ』に、冷徹で啓蒙高い狩人は即座にさじを投げた。
わかってはいたが、これは言葉でどうこうできるタイプではない。信じたもののためならとことん愚直に進める、いわゆる狂信者だ。
「だが、聖母様でもご存じないことはあるようだ。お前だ」
そう言って、『バーティ』はセブルスにフードの先を向けなおす。
「お前は何者だ?どうやって入り込んだ?」
「私か?私は狩人だよ。貴公らこの世ならざるモノどもを狩りとる、な!」
言い終えるとほぼ同時に踏み込んだ。石畳を踏み砕かんばかりの踏み込みとともに放たれたのは、強烈な突きだ。重厚な鞘を伴ってない分重みには欠けるが、その分速度に満ちた稲妻のような突きだ。
さすがにこれはたまったものではなかったのか、『バーティ』はたまらず吹っ飛んでホグワーツ城の石の壁にたたきつけられる。
すかさずセブルスはさらに踏み込む。追撃の剣撃をたたき込むつもりだ。ノーモーションの死の呪文を連射しようと、その隙を与えなければいい。
言うは易し行うは難し、とはいえ、やろうとしなければ始まらない。
『バーティ』がのろのろと立ち上がるより早く、セブルスはルドウイークの聖剣を振りかぶった。
あの感触がした。鉄に切りかかるような感触だ。ローブも浅く切れたが、その下の服は健在だ。そればかりか、ローブは見る見るうちに直っていく。
やはり、この『バーティ』は“21の秘跡”の儀式によって不死身になってしまっているのだろう。
だが、だとしても。
「無駄なことを」
大きく飛び下がって距離を取り、勝ち誇ってせせら笑う『バーティ』に、セブルスはルドウイークの聖剣を構えなおす。
「不死身がどうした。死なないならば、死ぬまで殺すだけだ」
「なるほど。では、こちらもそうしよう。死ね、狩人」
にらみ合うセブルスと『バーティ』を、レギュラスは呆然と見ていた。
親愛なる先輩と、親友の殺し合い。止めなければと思う反面、どうしようもないとわかってもいた。
苦悩と逡巡の結果だった。
だが、次の瞬間、不意に『バーティ』はフードの先をあらぬ方向に向けた。
「ああ、何だ。もう来たのか」
すっと『バーティ』は杖を下ろす。
「時間切れだ。先に殺さなければならないものがいる。お前は後回しにしてやろう。幸運だったな、狩人」
すうっとその姿が空気に溶けるように消えていく。
一瞬セブルスは怪訝に思ったが、すぐに思い至った。
先ほど『バーティ』は言っていた。まだ“虚無”が済んだだけだ。“暗黒”と“憂うつ”がまだだと。
“21の秘跡”は、10人殺して心臓を抜き取らねばならない。そして、11番目に自殺して自身の支配する異世界を形成する。
その後も殺人をしなければならないが、今度はいささか異なる。対象は無差別ではいけない。それぞれ、儀式遂行者にとっての特定のテーマに沿う、人間を生贄にしなければならないのだ。
ここで、セブルスは自身の体を包み込む赤黒い霧が色濃くなってきているのに気が付いた。侵入の時間切れだ。
「先輩?!」
「レギュラス!私は出直す!お前はいけ!殺人を止めろ!」
ぎょっとするレギュラスに、セブルスは叫んだ。
「殺人?!バーティが?!また人を殺すんですか?!」
「この異世界に引きずり込まれた人間は、儀式遂行のための生贄だ!殺人を止めろ!取り返しのつかないことに」
言い終えるより早く、セブルスは赤黒い霧に姿をのまれ、消えてしまった。
続く
【バーテミウス=クラウチJr.の杖】
バーテミウス=クラウチJr.が学生時代から愛用している、長さ37センチの杖。
ドラゴンの心臓の琴線に、クルミの木が使われている。
家族に顧みられずと、その杖は主とともにあった。主が聖母を妄信し、闇の帝王に魅入られた後でさえも。
聖母と闇の帝王の両立がありうることではないと、主がわかっていないことなど、杖にとっては大したことではない。
次回の投稿は、すみませんね、いつになるかは未定です。
内容は、儀式を止めろ!チームセブルス!・・・と言いたいところですが、あのう、そろそろホグワーツの新学期がスタートで・・・。
さらにさらに、スキャンダル炸裂。みんな大好きレディ・イエローペーパー、ブッコんできましたぜ!お楽しみに!