セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、評価、お気に入り、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

 ずいぶんお久しぶりなのに、またお付き合いしていただき、本当にありがとうございます。

 Q.ダンブルドア、どうなるんです?

 A.①そのままフェードアウト
  ②うっかり教団に助けられて、そのまま同調・入団しちゃった♪
  ③イギリスには帰ってくるけど、何もかもかなぐり捨てて世捨て人になる
 どれがいいです?①でいいと思ってたんですがね。

 まあ、彼はこの楽章には絡んできませんよ。多分。
 アンケートにはしませんので、回答しても意味はないです。私は基本、文章を勢いのままに書きますので、もう出番はないと思っても、また出番があった!ってことがありますので。エイブリーさんとか。

 というわけで続きです。

 タイトル?読めばわかります。


【5】セブルス=スネイプと、停職命令

 

 「おいおい、勘弁してくれよ・・・」

 

 それを最初に見た時、思わずエイブリーはそう口走っていた。

 

 ダイアゴン横丁の一角。石造りの一等立派な建物は、グリンゴッツの本店だった。エイブリーも取引関係で、グリンゴッツにはよく出入りしているのだが、こんなところに鉢合わせるとは思わなかった。

 

 その玄関口となる大理石の階段の前に、異常なものが一つ転がっていた。遠巻きにしてざわざわと騒ぐ野次馬にまぎれながら、エイブリーは野次馬の頭越しにそれを見やる。

 

 それは、死体だった。

 

 エイブリーも見たことのある顔だ。確か、ホグワーツの在校時代の知り合いだ。エイブリーの記憶が正しいなら、確かレイブンクローにいた陰湿ないじめ(持ち物を隠したり、陰口をたたいたり、物陰で呪文を使ってびしょ濡れにさせたりと)をやっていた女だったはず。

 

 だが、今はその面影はまるでなかった。

 

 何しろ、首は上を向いているくせに、胴はうつぶせ――つまり、首を180度回転させられている状態で倒れているのだ。恐怖に目を見開いた表情といい、どう見ても死んでいる。

 

 まくれ上がった袖の下にある腕に刻み込まれた数字は“13121”。

 

 悲しいかな、すでにエイブリーはその数字の意味を、先日家に来たセブルスに教えられてしまっていた。

 

 セブルスは同一犯――つまり、どうやってか生き残っているだろうバーテミウス=クラウチJr.の仕業と思い込んでいるようだが、エイブリー自身は半信半疑だった。

 

 吸魂鬼(ディメンター)の恐ろしさはエイブリーも聞き及んでいる。だからこそ、どうにかこうにかアズカバンを逃れたのだ。

 

 そこからの脱獄など、そう簡単なことではないだろう。紙一重のブラックはともかく。(加えて、ブラックの脱獄を受けて、その手の警備も強化されたのだ。囚人たちは全員動物もどき(アニメーガス)の変身封じの魔法が付与された首輪を強制装備させられることになったのだ)

 

 やっと駆けつけてきた闇祓いたちが、現場検証を始める。

 

 野次馬たちにこの死体について尋ねているが、芳しい証言は出ない。それはそうだ。その死体は、気が付けばそこにあった、としか言えないのだから。

 

 クラウチねえ・・・。

 

 エイブリーは口の中で、問題の名前をぼやいた。

 

 知り合いに探りを入れたところ、左遷されようが奥方が死のうが相も変わらず自宅と魔法省の往復作業をされているらしい。何が楽しくて生きているのかいまいちわからない男だというのは、エイブリーの感想である。

 

 ところが、別の知り合いに聞いたところ、その知り合いが一つ、奇妙な話をもたらしてきたのだ。

 

 その知り合いは、クィディッチ専門のブックメーカー(要は賭けの元締め)であり、賭けに参加する人間の把握のためにクィディッチのチケット販売の仲介などもおまけでやっているのだが、その伝手でクラウチ氏の奇妙な動きを察知したのだ。

 

 なんでも、試合前のあいさつ回りは周到にやるくせに、試合本番は絶対観ない(そんな暇あったら仕事をしている)はずのクラウチ氏が、チケットを欲しがったというのだ。

 

 コネづくりにもなると融通してやったが、何を考えているのやら、とその知り合いは首をひねっていた。

 

 クラウチが観戦したのか?というエイブリーの問いに、その知り合いは首を横に振った。そのチケットの席は一つだけとはいえ、結局空席のままであったらしい。

 

 勿体ないことをしたとぼやく知り合いに、エイブリーはまあ儲かったならいいじゃねえかとなだめを入れたが、エイブリーは何とも言えない奇妙な感覚を覚えていた。

 

 自身の商売でも感じた違和感。

 

 まるで。クラウチが、誰か、存在しないはずの人間を世話しているかのような。

 

 死んだ奥方がまだ生きていると錯覚しているのか?ならば、仕事場でももう少しそれらしい言動をするはずだが、そういった話は聞こえてこない。

 

 考えかけて、エイブリーはガシガシと茶髪を搔いた。こういう細かいことを考えるのは、彼はあまり得意ではないのだ。

 

 とはいえ、能天気にしていられないのも事実だ。

 

 何しろ、エイブリーは闇の印を消して、闇の陣営とは手を切った。矢面に立っているのはマルフォイだが、少し調べればエイブリーもそうだとすぐにわかることだ。

 

 そして、クラウチJr.も死喰い人であった。それも闇の帝王狂いの狂信者といっても過言ではなかったのだ。

 

 もし・・・万が一、セブルスの言うとおり、クラウチJr.が何らかの手段で生き延びていることが判明したら。その結果、エイブリーの系列に何かダメージが加わるような事態が起こるようなことになったら。

 

 冗談じゃねえ、とエイブリーはキリッと口の中で歯をかみしめた。

 

 ようやく、エイブリーの家の再興ができたのだ。公にはしていないが、つるんでいたマルシベール(アズカバンにいる。時々会いにも行っている)の一人娘の後見だってやっている。

 

 嫁だって迎えた。やっと順風満帆なところにこぎつけられたこの生活に、ケチをつけられてはたまったものではない。

 

 あのお方狂いはおおいに結構だ。好きなだけアズカバンでやってくれや。

 

 エイブリーは、さっさと用を済ませるや、家路につく。すぐにセブルスと、他の知り合いたちにフクロウを飛ばさねば。

 

 

 

 

 

 さて、こちらはマグル界にあるメイソン宅である。

 

 ハリー=メイソンは、ここ数日分厚い書籍(セブルスが持ち込んできたそれ)をまくって、調べ物をしていた。

 

 一息つくついでに、眼鏡をはずす。最近かけ始めた老眼鏡だ。最近手元のものを見るとき、ピントが合いにくくなり、それを担当の編集に愚痴ったら作るのを勧められたのだ。以降、読書や執筆の際、銀縁でハーフリムのそれはハリーの目元を覆うことになっている。

 

 ついでに、長期にわたって細かい字をにらみつけていると、目がちらちらしていけない。年だろうか?(まだそんなつもりはなかったのだが)

 

 眉間を軽くもみほぐしてから、コーヒーを一口飲む。だいぶぬるくなってしまっているが、コーヒーのカフェインは考え事をする際に、とても役に立つ。

 

 頼まれていた調べ物は一段落ついた。

 

 書籍の中に巧妙に偽装されたページがあり、それもまたひどく難解な言い回しをしていたので、どうにかこうにか解読したのだ。

 

 だが。

 

 「これは・・・魔法界の人たちじゃないと、どうにかできそうにないね・・・」

 

 結論から言うと、そうなってしまう。

 

 他に手段はないか。遠隔でも自分にできることはないか。あるいは異世界に潜っているセブルスの方が何とかできないか。

 

 そう思い、他にも調べてみたのだが、確実な手段はたったの一つだけだ。

 

 「儀式遂行者の体の一部を本人の真の肉体に埋め込むと、不死身じゃなくなる、か」

 

 だが、これには大きな問題が二つある。

 

 一つ。儀式遂行者の体の一部なんて都合のいいものがあるのか。あったとしたらどこにあるのか。可能性が高いのが、本人の実家だが、ご両親と仲が悪かったことを聞けば、可能性は低いかもしれない。

 

 もう一つ。儀式遂行者本人の真の肉体とやらがどこにあるのか。自殺してその支配する異世界を形成しているというが、15年前のアレッサの時でさえ、彼女がどこにいるかハリーにはほとんどさっぱり状態だったのだ。あれと似たような状態なら、クラウチJr.という魔法族が、果たしてどこにいるのか、そう簡単には突き止められないだろう。

 

 「後半にいたっては、おそらく儀式が最終段階に至らないと、多分、無意味だ」

 

 不死身ではなくした後、“虚無”“暗黒”“憂うつ”“絶望”“誘惑”“起源”“監視”“混沌”の8本の槍を真の肉体に刺せば、偶像の肉体にこちらの干渉が効くようになるという。だが、現在はそのテーマに基づいた殺人が行われている真っ最中である。

 

 まだ、この部分は意味がないと考えた方がいいだろう。

 

 だが。

 

 「・・・セブルスなら、無視してしまいそうなんだがね」

 

 ぽつりとハリーはつぶやいた。

 

 何しろ、サイレントヒルの怪物――ハリーは必要最低限しか戦わなかった連中を、平然とちぎっては投げしていたのだ。

 

 物騒な武器を使って、血まみれになろうが殴られようが(むしろ生き生きとして)殺し返していた。

 

 出会った当初はかなり面食らったし、警戒もした。それでも、彼はハリーが戦っているところに助太刀してくれたし、娘を探しているというハリーを気遣ってくれた。

 

 だが、ハリーはどこか感じていた。あの友人は、どこか並外れている。最初は魔法使いだからかと思っていたが、リリーやルシウスという他の魔法族を知ってしまえば、セブルスの方が異常なのだとおのずと察せられた。

 

 それでも、セブルスが友人であるのに変わりはない。(たとえ、変わったという枕詞が付こうとも)

 

 余談だが、最初ハリーは、セブルスを自分と同い年くらいと思っていた。まさか10歳以上年下だとは思わなかったが。

 

 セブルスは不思議な男だった。見た目こそ若く見えるが、雰囲気は老練で落ち着いている。それが彼の年齢不詳ぶりに拍車をかけている。別にそれが悪いというわけではないが。

 

 「パパ!そろそろご飯だよ!」

 

 書斎のドアをノックしながら、ハリーJr.が声をかけてきた。

 

 「ああ。もうそんな時間か。ちょっと待っててくれ、ジュニア」

 

 返事を返してから、ハリーはしおりを挟んだ書籍と資料をまとめるのに使ったレポート用紙をもって、壁の本棚に彫り込まれているレリーフをいじる。

 

 がちゃんッと本棚がずれて、その奥に金庫が現れた。いわゆる隠し金庫だ。この金庫の存在を知るのは、ハリー本人以外では金庫を仕込むのを手伝ってもらったセブルスとリリーだけだ。

 

 子供たちに見られたり、勝手に触られたらまずいもの――銃器の類(ちゃんとメンテナンスもしている)や、サイレントヒル関連の資料や遺物などをこの中にしまっているのだ。

 

 金庫の中に本を収め、本棚をもとに戻し、元通りに見えるようにしてから、ハリーは書斎を後にした。

 

 

 

 

 

 レギュラスは歯噛みしていた。

 

 彼が駆け付けた時には、遅かった。

 

 異世界は、魔法界の構造物や街並みをでたらめにつなぎ合わせたかのような迷宮のような有様を見せ、挙句現実では見たことがないような難解なパズルを通り道で仕掛けてくるのだ。

 

 どうにかこうにかそれを突破し、レギュラスが駆け付けた時には、彼女はその首を物理的に無理な方向にひねられた直後だった。

 

 浮遊呪文の応用だろうか。空中に浮かべられ、磔同然に身動きできなくされた後、そうされたらしい。

 

 地面に落され倒れた女がピクピクと痙攣するのをよそに、そのままクラウチJr.は空気に溶けるように姿を消した。

 

 『バーティ!』

 

 レギュラスの叫びなど、一顧だにせずに。

 

 そうして、レギュラスはどうにか女の手当てと治療を試みたが、レギュラスの使える治癒呪文(エピスキー)ではどうにもできず、そのまま彼女は息を引き取った。

 

 そのままレギュラスの目の前も真っ暗になり、次に気が付いたらあの部屋に戻ってきたのだ。あの決して出られない、異様な部屋に。

 

 あの女性には見覚えがある。

 

 ホグワーツの同級生だ。成績優秀なバーティのことを逆恨みして、悪口を言ったり、持ち物や教材を隠したりしてきた、陰湿な女だ。

 

 レギュラスが隣にいるときはあからさまなほど媚をうってきたくせに。

 

 けれど。

 

 だからと言って殺すことはないじゃないか。

 

 椅子に座ったレギュラスは、口の中でそんな悔恨とも愚痴ともつかない文句をかみしめる。

 

 レギュラスもかつては死喰い人だった。人を殺すことは絶対にいけないと考えていると言えば、嘘になる。

 

 だが、これは違う。これは、かつてレギュラスが是としていたこと、魔法界のためになると信じていたこととは、根本的に何かが異なっている。

 

 生贄だと、セブルスは言っていた。

 

 この空間に引きずり込まれる人間は、儀式のための生贄なのだと。・・・レギュラスも含めて。

 

 バーティは言っていた。レギュラスは後だ。“暗黒”と“憂うつ”がまだだと。

 

 先に殺された彼女が“暗黒”なのだとしたら。

 

 「次にもう一人死んで、そして・・・」

 

 その次が、自分だ。

 

 声に出さずに、レギュラスは確信した。バーティは必ず、レギュラスを殺しに来る。

 

 椅子に座ったまま、レギュラスは膝の上に置いた両の手をギュウッと握りしめた。

 

 殺人を止めろ!というセブルスの言葉を再度反芻して、レギュラスはきっと顔をあげる。

 

 もう手遅れかもしれない。レギュラスの言葉はもう届かないのかもしれない。

 

 それでも。

 

 親友(バーティ)を、止めなければ。間違ったことを友人がしていたら、嫌われても止めなければならない。

 

 あの日・・・階段から落ちたレギュラスを浮遊呪文で救ってくれたバーティを、今度はレギュラスが助けるのだ。

 

 勢いよく立ち上がると、レギュラスは壁に空いた大穴のところへ向かう。

 

 最初に見つけた時よりも、穴はだいぶ大きくなっている。最初は四つん這いにならないとは入れなかったのに、今は少し腰をかがめたくらいで済むぐらいの大きさになっている。

 

 あの異様なバーティを、果たして只人のレギュラスが止められるだろうか?

 

 否、不安になっている場合ではない。できるかできないかではない。やるか、やらないかだ。

 

 大穴をくぐり、奇妙な浮遊感と鼓膜を支配するノイズに早くも慣れ始めた自分に吐き気を覚えつつ、レギュラスは硬く決意していた。

 

 

 

 

 

 さて、セブルスの方であるが、そろそろ学校の準備もせねばならないことを、ひそかに悩んでいた。まだ、“21の秘跡”関連のことが片付けれていないというのに。

 

 以前も記述したが、教師陣は学期開始の1週間前にホグワーツに来て、カリキュラムの準備や年内行事の打ち合わせを行う。

 

 そして、今年のことになるのだが・・・実は、前学期終了時に聞かされていたことがあり、その確認を改めて行わねばならないのだ。

 

 三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)の開催である。

 

 その時はまだ計画段階であり、正式決定まで生徒間への通達は厳禁とされていたイベントである。

 

 セブルスもちらと確認した程度だが、その概要としては以下のとおりである。

 

 ヨーロッパでもっとも大きい魔法学校には、ホグワーツ魔法魔術学校、ダームストラング専門学校、ボーバトン魔法アカデミーという3つの学校があり、その生徒たちが技を競う魔法試合である。

 

 それぞれの学校からひとりずつ代表が選ばれ、彼らは魔法能力、知力、勇気を計る3つの課題に挑戦し、それは参加校の校長たちによって審査され、選手たちは優勝の名誉と栄光である優勝杯と賞金をかけて競うらしい。

 

 もっとも、対抗試合はその並外れた危険性で有名であり、試合中に選手たちの死亡事故が相次いだため安全の観点から200年ほど昔に中止にされ、以降それは行われていなかった。

 

 ・・・のだが、長きにわたってダンブルドアはじめ、三校間の校長らが試合の開催を調整し、今年ホグワーツで開催を!と予定していたらしい。

 

 しかしである。思い出していただきたい。ここ数年のホグワーツにおける不祥事の数々を。

 

 3年前は、森番がドラゴンを不法飼育し、預かっていた賢者の石を狙ったテロリストが不法侵入を目論んだ。

 

 一昨年は、新任教授が実はとんでもない詐欺師で授業妨害しまくった挙句行方不明となり、最終的に森番によるアクロマンチュラ解放からの禁じられた森での大コロニーの存在が発覚。

 

 去年は去年で、脱獄囚と死喰い人が違法動物もどき(アニメーガス)として校内に居座り、その捕縛のためにやってきたはずの吸魂鬼(ディメンター)が暴走して生徒を襲う始末である。

 

 「こんな中、三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)の開催?!イギリスの恥をヨーロッパ全土に曝そうというのですか?!挙句、ホグワーツ生のみならず、ボーバトン・ダームストラング両校の生徒までトラブルに巻き込む気ですか?!

 ホグワーツの警備体制の見直しもろくにできてない状態ですよ?!

 絶対ダメです!断固として反対します!!」

 

 聖マンゴの病室のベッドの上で、日程調整の確認にやってきた魔法省の国際魔法協力部のお役人に、マクゴナガルは青ざめて叫んだ。

 

 直後、彼女はこふぅっ!と吐血までしており、お役人は聖マンゴの癒師(ヒーラー)に「何を馬鹿なことを言ってるんですか!」と吐き捨てられながら追い出された。

 

 入院までして、ようやっとよくなり始めたところでこの騒ぎである。もっとも、マクゴナガル本人は学期が始まるまでには絶対治して退院します!と豪語していた。ものすごい精神力と責任感である。

 

 話を戻すが、とにかくマクゴナガルはじめ教職員とルシウスはじめとした理事会、そして一部の魔法省職員は、三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)の中止を声高に訴えた。

 

 ホグワーツの警備と制度の見直し(ここまで不祥事の連発で、そろそろテコ入れをという声が上がり始めたのだ)が落ち着くまで、三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)の開催など、夢のまた夢でしかない。

 

 一部の頭の固い(見栄大好きな伝統保守派)の純血貴族たちや、三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)の開催を推し進めていたダンブルドアのシンパなどは、渋面をしたものの、これでまた何か不祥事があったら、お前ら責任とれるのか?!被害者にお前らが賠償できるんだな?!と、中止を訴えるメンバーに叫ばれてやむなく閉口した。

 

 要は、三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)の開催はないが、ホグワーツの方は一部システムや教職員に見直しがあるということだ。

 

 どうなることやら。

 

 とセブルスは思っていたのだが。

 

 「狩人様、お手紙が届いています」

 

 僻墓から帰宅したセブルスに、メアリーが差し出してきたのは、赤い封蝋のついた羊皮紙製の封筒だった。

 

 はて、とセブルスは内心怪訝に思う。

 

 もちろん、教職員宛にもホグワーツからの手紙が届くし、学期開始前の準備期間に何か緊急の連絡事項があれば、すぐさまフクロウ便が来る。(電話なんて便利なものは、魔法界にはないのだ)

 

 すでに教職員あての通常の業務連絡用のフクロウ便は届いているので、これは緊急連絡ということになるのか。吼えメールでないのは不幸中の幸いだ。というか、あれは大体私信にしか使わない。あんな騒音発生器、職場で使うものではないのだ。あるいは、受け取り拒否する相手に、どうしても伝えたいことがある場合くらいだろう。

 

 すぐさま、セブルスは手紙に目を通した。そうして、内容を咀嚼するのに、啓蒙高い上位者らしくなくおおよそ20秒ほどかかった。

 

 手紙の内容は要約してこうである。“学期開始前の準備期間は来てもらうけど、入学式から3か月は謹慎してもらうから。”

 

 好都合ではあるが・・・何ゆえに?

 

 セブルスは首をかしげざるを得なかった。

 

 ・・・彼の家は、日刊預言者新聞の定期購読はしていない。ゆえにこそ、何が起こっているか知らなかったのだ。

 

 

 

 

 

 どうしてこんなことに。

 

 日刊預言者新聞は、ベトベトだった。先ほどまでホラス=スラグホーンが口に含んでいたパイナップルの砂糖漬け(彼の好物である)を吹いてしまったせいだ。

 

 自宅のリビング、魔法薬学の研究の合間の息抜きのお茶の時間だったのに。

 

 幸い、汚れたのは文字部分だけで、写真部分は健在だった。

 

 そこに映るのは、とある光景だった。

 

 場所自体は、スラグホーンも見覚えがあり、おそらくホグワーツの大広間だろうと思われる。

 

 だが、映っている人物とその行動が常軌を逸していた。

 

 血反吐をまき散らしながら天井と床を往復する、なんだか黒い汚らしい塊。手足とサイズから、おそらく人間だろうと思われる。

 

 そして、分厚い金属塊が取り付けられた左手を突き上げる格好で、落下してくるそれをひたすら打ち上げる、黒衣に黒髪の人物の後ろ姿。

 

 スラグホーンは知っていた。それは、セブルスだ。あの左手のブツも見たことがある。かつてそれは、ダンブルドアをもぶちのめした代物なのだから。

 

 遠景から撮られた写真であるらしいが、ピントはくっきりあってたし、後ろ姿でも特徴的な衣服である。スラグホーン以外にも、すぐにそれがだれかピンとくる人間はいるだろう。

 

 『暴力教師ののさばるホグワーツの実態に迫る!』

 

 という見出しで始められているその記事は、日刊預言者新聞の一面記事を独占。

 

 友人の息子を心配して、吸魂鬼の襲撃に遭った大広間に駆けつけた無実のシリウス=ブラックに教師のセブルス=スネイプが一方的に暴力をふるったという概要と、セブルスのことを知るという魔法使いのコメントが添えられていた。

 

 『学生時代の仕返しですよ、きっと。ホグワーツの同級生の間じゃ有名なんですよ。あいつ、闇の魔法に手を出してて、他の寮生にかけて回ってて!挙句、シリウス=ブラックたちに、逆さづりにされてからパンツ丸見えにされてたんです!貧乏くさい灰色パンツでしたよ!それを恨んでるんですよ、きっと!ええ!きっと“例のあの人”にも加担してたでしょうね!だって、あの後、助けに入った英雄リリーに、“穢れた血”なんて罵倒してたんですから!』

 

 馬鹿なことを言うんじゃない!なんてことを!

 

 スラグホーンは知っている。というか、後日、目撃者たちから詳細を聞き出したのだ。

 

 あれは確かに、セブルスも悪いところだってあっただろうが、赤の他人がしたり顔であげつらっていいことではないだろうに!

 

 不祥事続きのホグワーツに、こんな男が勤め上げるのをこのまま許していいものだろうか?今後の動向に注目したい、という文句で締められているその記事は、リータ=スキーターによるものだった。

 

 やっぱりか!あのレディ・イエローペーパー*1が!

 

 というか、日刊預言者新聞も何でこんな記事載せた?大方、ブラックの脱獄やペティグリューの取り逃がし、クィディッチワールドカップの中止という不祥事の連打に焦ったファッジが、非難の矛先をホグワーツに向けようとしたのだろう。

 

 セブルスを敵に回していいことなど一つもないというのに。スラグホーンは知っている。

 

 セブルスの開発した錠剤化魔法や、脱狼薬の改良で純血貴族たちは安価に人狼たちを雇えるようになったのだ。自身の荘園で、安く労働力を賄えるようになった純血貴族たちは、言葉にこそ出さないがセブルスが求めれば、自然とその味方に付くことは察せられた。(直接的にかかわりを持っているのはブラックやマルフォイなのだろうが)

 

 加えて、最近はセブルスは純血貴族を悩ませる不妊症の治療薬の開発にも着手しており、スラグホーンにも手紙で相談をしてきているのだ。

 

 これが成功すれば、イギリス魔法界の未来がまた一歩明るいものとなる。(そのおこぼれにあずかるスラグホーンの栄誉も含めて)

 

 で、その彼をスキャンダルで潰せば、それもご破算になりかねない。

 

 スキーターが、他人の不幸は自分の記事と本の値段と同値と思い込んでいる、低俗すぎる価値観の持ち主と知ってはいたが、ここまで愚かとは思わなかった。

 

 スキーターが半年ほど前に出していたダンブルドアの暴露本は、不死鳥の騎士団シンパやそっち方面の資産家が出版社に圧力をかけたのか、極めて短期に回収となっていたが、あれで懲りなかったのか。

 

 いや、あの本が売れたから、二番煎じを狙ったのか?

 

 まあ、ぶっちゃけた話、ダンブルドアの暴露本とほぼ同時期に別の本が出版され、そちらの方が面白いうえ、興味深かったからかそちらの方がベストセラー入りしてしまったので、名誉挽回を狙ったのだろうか。

 

 

 

 

 

 余談になるが、そのほぼ同時期に出版された別の本というのは、ハロルドという男が作者の『闇の帝王記~彼がいかにしてその道に至ったか~』という本で、マルフォイ傘下の出版社から出版されている。要は、ヴォルデモート卿関連の暴露本である。

 

 賢明なる読者諸氏は、ハロルドが誰なのかは、すでにお察しであることだろう。ルシウス=マルフォイが、亡き父アブラクサスの日記の貸し出しを始め、資料を提供したのも当然お分かりいただけるだろう。

 

 純血主義のマグル排除主義を謳った闇の帝王が、実はマグルの父親を持つ半純血だったとかいう、大スキャンダルで(シリウス侵入で緊張状態の)ホグワーツ校外は大騒ぎであったのだ。

 

 

 

 

 

 いずれにせよ、スキーターは純血貴族の大半を敵に回したに違いない。

 

 聞いた話になるが、セブルスはホグワーツでもうまくやっているようで、少々恐れられることもあるが、基本的にはいい先生をやっているらしい。つまり、生徒にも慕われている。

 

 そんな男の評判を地に叩き落そうとしたスキーターに、どんな未来が待ち受けているのやら。

 

 ・・・スラグホーンも、スキーターの記事をへらへらしながら読んでいたことがあるので、あまり偉そうなことは言えないのだが。

 

 いずれにせよ、彼女がその情熱(毒牙)をあらぬ方向に向けなければいい。

 

 後、セブルスはおそらく、停職になるだろう。馬鹿の妄言を真に受ける輩はいつでもどこにでもいるが、学校という教育現場であり、公共の場である。体裁というのはいるのだ。

 

 ちらと、スラグホーンはテーブルの上に置いていた羊皮紙製の封筒に目をやった。赤い封蝋は獅子、大鷲、アナグマ、蛇の4体がHの字を囲んだデザインのものだ。

 

 ダンブルドアは永久停職で連絡不能の行方不明。マクゴナガルは倒れ、セブルスは(おそらく)停職。

 

 そして、スラグホーンの持つ伝手によれば、ここ数年の不祥事のあまり、ホグワーツの管理体制の見直しがあり、そこには教員体制も含まれるのだとか。

 

 セブルスへの貸し作りにもなるかもしれない。スラグ・クラブの再開も悪くないだろう。

 

 やれやれ。やっと隠居生活になじみ始めたというのに。ため息をついて、スラグホーンは不快なだけの新聞を折りたたみ、パイナップルの砂糖漬けを新しく口に運んだ。

 

 

 

 

 

続く

 

 

*1
個人や会社などの秘密や弱点を暴くことなど、興味本位の低俗な記事が多い新聞のこと




【パイナップルの砂糖漬け】

 ホラス=スラグホーンの好物の甘味。切り分けたパイナップルをザラメで煮、粗熱を取ってからグラニュー糖をまぶしたもの。

 スラグホーンは研究の合間に、これをつまむことを好む。

 ねっとりした甘味と、パイナップルの歯ごたえは、彼の中の悩みを軽くしてくれるように思われるからだ。





 Q.新聞記事の写真、どこから出てきたんですか?

 A.次回やりますので、この場では割愛させてください。





 次回の投稿は、時期は未定ですけど、内容は決まっています!
 4年生開始のホグワーツ!といきたいのですが、セブルスさんは謹慎です。しょうがないね!
 そして、レディ・イエローペーパーは、いかにしてスキャンダルを得たか。お楽しみに!
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