セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、評価、お気に入り、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

 感想も本当にありがとうございます。だいぶ返してない分がたまってて、いまさら返していいものかと、なってしまってまして。感想をいただけるのは本当にうれしいので、返したくはあるのですが。

 あと、前話の最初の方で亡くなった女性ですが、あれはモブです。

 ガマガエルさんかと期待されてる方がいらっしゃるみたいですが、ガマガエルさんはスリザリン出身で、あのモブはレイブンクロー出身です。

 モブなんで、ぶっちゃけ死んでもあんまり大きな影響はないんですよ。

 じゃあ、ガマガエルさんはいつ処分するの?という話ですが・・・どうしましょうねえ?順当に行くなら、次楽章になるんでしょうけど。

 というわけで続きです。

 ホグワーツが始まらないんですが?!


【6】リータ=スキーターと、神の墓

 

 「ねえ、ドラコ。リータ=スキーターって人がどこにいるか知らない?」

 

 近年まれにみる、無表情のハリーJr.を前にドラコは震え上がりそうになった。

 

 ホグワーツ特急のコンパートメントの一室だった。

 

 

 

 

 

 あの表情のハリーJr.を、ドラコは以前見たことがある。

 

 あれは確か・・・そう、怪物邸騒動の少し前、父へのプレゼントに悩むドラコがハリーJr.の案内で、買い物をするためにマグルの街に出かけた時のことだ。(マグル製品なら珍しいからいいかも、とアドバイスされたのだ)

 

 その時、ハリーJr.のマグルの友人(といっていいのか?プライマリーのクラスメートだったという)と出くわしたが、連中がハリーJr.のことをからかってきたのだ。

 

 基本的にはのほほんとしているハリーJr.が特定のワードでキレるというのを、ドラコはその時初めて知った。

 

 そして、彼が本気で怒った時は、恐ろしいほどの無表情になるということも。

 

 そのままハリーJr.は無言でその少年たちに殴り掛かり、相手が泣いて謝っても、右足で執拗に蹴り続けていた。

 

 ハリーJr.に、お前の家族は偽物家族ってのは、禁句。

 

 ドラコは理知的だと自負していたので、即座にそれを脳髄に刻み込んだ。彼は友人には思いやりをもって接するし、少々素直になれないところはあっても、本当に言ってはいけないことは(友人と思っている相手には)言わないようにしているのだ。

 

 

 

 

 

 ホグワーツに入学して以降は見てなかった、ハリーJr.の本気の無表情を目の当たりにしたドラコは、すぐさま怒りの原因を全力で考えた。

 

 否、考えるまでもなかった。・・・メイソン宅も、ハリーJr.が学校で困らないようにというのと、後はメイソン氏が娯楽雑誌感覚で日刊預言者新聞を定期購読しているのだ。

 

 「・・・リータ=スキーターの記事を本気にするんじゃない。あの女は相手にしても馬鹿を見るだけだ。父上もそうおっしゃっていた」

 

 「でも許せないよ!何だよあの記事!!何も知らないくせに!!」

 

 ハリーJr.の怒声とともに、風もないのに彼の黒髪がブワリと広がる。魔力暴走一歩手前というありさまだ。

 

 魔法族の子供は感情任せに魔法を暴発させやすい。特に顕著なのが10代前半である。ゆえにこそ、この時期に魔力のコントロールをたたき込み、周囲への被害を抑えるために寄宿魔法学校に入学するようになっているのだ。

 

 「落ち着け!ここでお前が怒っても何の解決にもならないんだぞ!」

 

 ドラコの一喝に、はっとしたハリーJr.はしゅんッとうなだれた。

 

 「ごめん・・・」

 

 「かまわない。それに、僕も馬鹿を見るとわかっていても、腹は立つ」

 

 ツンと顎を挙げてドラコは答える。

 

 そうとも。スリザリンは人一倍仲間思いである。尊敬する寮監であり、魔法薬学教授であり、自寮の先輩たる先生を悪く言われて、なんとも思わないわけがないのだ。

 

 「ドラコ・・・」

 

 「言っておくがな、この件に関しては父上もお怒りだ。誰を敵に回したか、思い知らせてやるとおっしゃっていたんだ」

 

 ホッと顔を緩めるハリーJr.に、ドラコは照れ隠しに早口で続けた。

 

 「・・・お前の家族は、大丈夫だったか?」

 

 「あははは・・・一番キレてたのはヘザーだよ。素振り用の鉄パイプ持って飛び出そうとするのを、パパと二人がかりで止めたんだから」

 

 「そこまでか・・・」

 

 「最近ますます力強くなっててさ。昔から喧嘩で勝てなかったけどね」

 

 「・・・確かに」

 

 ハリーJr.の愚痴に、ドラコはうなずいた。

 

 何しろ、5年前の怪物邸騒動の際、ヘザーはその細そうに見える腕で、片手はベランダの手すりにしがみつき、もう片方の手で今にも食べられそうになるハリーJr.とドラコ(実質宙づりで、すぐ下に怪物邸の大口があった)を支えた実績があるのだ。当時、ヘザーは11歳である。

 

 彼らと知り合う前のドラコであれば、容赦なくヘザーのことを野蛮なマグル女とこき下ろしていただろう。

 

 今はこう思っている。杖なしでメイソン姉弟を怒らせてはいけない。

 

 「ママも怖い顔しててさ。吼えメールを出すとか言ってて」

 

 なお、ハリーJr.はあの大広間であったセブルスの暴虐について、家族に向けて一応説明したし、父も即座にセブルスの行動の根源に自分たち家族のためと即座に見抜いていた。それもあって、リリーは「やり過ぎよ・・・」とため息を吐くだけで済ませていた。

 

 「おい!」

 

 思わずドラコは顔をひきつらせた。

 

 ハリーJr.のママ――つまり、リリー=メイソンの正体は、リリー=ポッターである。ハリーJr.と同じくらい、その身元をはっきりさせてはいけない、

 

 吼えメールなんて、声からばれる可能性があるというのに。

 

 「パパが必死に止めてた」

 

 「そのMr.メイソンはうちにとんでもなく分厚い封筒のフクロウ便を送り付けてきたがな」

 

 「ごめんなさい」

 

 「父上も仰天なさってたぞ」

 

 ため息交じりに言うドラコに、ハリーJr.は申し訳なさそうな顔をした。

 

 「それから、覚悟しておけ」

 

 彼としてはこれが本題である。ドラコは、この友人思いだが、無鉄砲になりがちな親友に忠告をする。

 

 「多分、スネイプ先生は停職されるぞ。あれはブラックが明らかに悪いし、先生が僕たちのために怒ってくれたというのはあるが、馬鹿はどこの世界にもいる。

 絶対何か言ってくる連中もいる。

 覚悟しておけ」

 

 「そんな!」

 

 納得できない、とばかりに顔をゆがめるハリーJr.だが、すぐに唇をかんでうつむいた。

 

 「ルシウスさんが、そう言ったの?」

 

 「父上も、体裁があるとおっしゃられていた」

 

 「・・・僕、何にもできないのか」

 

 「ハリー・・・」

 

 力なくうめくハリーJr.に、ドラコは顔をゆがめた。

 

 彼が打ちのめされているのを見るのは、初めてではない。

 

 あの怪物邸騒動の時、駆け付けた大人たちが奮闘するのを見ながら、ハリーJr.がぽつりとつぶやいた。「情けないよね」と。

 

 父母が来てくれたことに大いに安堵したドラコに対し、ハリーJr.はマグルの老人(命の恩人であろうと)との口約束が果たせないことを、本気で悔やんでいるようだった。

 

 その時、ドラコはどこまで馬鹿な奴なんだ、とあきれる一方で、自分にはないものを持っているハリーJr.を、まぶしく思った。

 

 ハリーJr.は、根本的なところは何一つ変わっていない。

 

 「ハリー。今は、耐え忍ぶ時だ。僕らスリザリンは用意周到、狡猾なれど、目的は必ず達成するものだ。そのためなら、いくらでも耐えられる。

 父上も、Mr.メイソンも、そしてスネイプ先生も、耐えていらっしゃるんだ。

 僕らも耐えるときだ」

 

 「・・・うん。ありがとう、ドラコ」

 

 こくりとハリーJr.がうなずいた。

 

 窓から見える外は暗くなってきている。今年はハーマイオニーは別のコンパートメントで女友達らと一緒に乗ると聞いていたから、ここにはいない。

 

 だから、二人はさっさと制服ローブに着替え始めた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 セブルスは自宅の書斎にあるデスクを立った。

 

 自分は問題ない、心配してくれてありがとうという旨の手紙は使者たちを通じて友人たちに届けた。

 

 まさかあそこまで大ごとになるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 出向いたホグワーツで、顔色を悪くしているフリットウィックと硬い表情のルシウスに謹慎の旨を伝えられ、了承した。

 

 その時に問題の新聞記事を見せられたが、記者の名前を目の当たりにして、案の定と思った。

 

 まあ、有象無象などどうでもいい。当初の目的である分霊箱も処分できたのだ。

 

 ならいっそやめましょうかと申し出たら、フリットウィックが「それはやめてください!」と例によってキーキー声で泣き出した。

 

 ホグワーツは現在、テコ入れの真っ最中であり、職員内もてんやわんや状態である。このうえ、セブルスにまでやめられたら、本格的にやっていけなくなる!というのがフリットウィックの言である。

 

 ハリーJr.が在学中は続けてもいいとは思っていたので、それならとうなずいた。

 

 セブルスが復帰するのは、クリスマス休暇明けということになり、それまでは校長代理を兼任するスラグホーン(マクゴナガルの呼びかけで復帰されることになったらしい)が魔法薬学とスリザリン寮監を担うことになった。

 

 フリットウィックは校長代理をしないのか、マクゴナガルから指名を受けていたのでは?とセブルスが首をかしげると、フリットウィックはワッと泣き出した。

 

 私はそんな器ではないんです!私には無理だったんですマリア様ぁぁぁぁ。

 

 と、実験棟の一角から響きそうな慟哭を漏らすフリットウィックに、さすがにセブルスは閉口した。

 

 確かに、今のホグワーツの総責任者なんて、呪文学及び妖精の魔法を教え、かつレイブンクローの寮監も務めるフリットウィックには荷が重すぎるだろう。

 

 なお、セブルスが復帰したら、スラグホーンは校長代理に専念するらしい。

 

 胃に穴が空いたマクゴナガルもどうにか復帰はするが、さすがに副校長のままでいることとしたらしい。校長代理は去年で限界を迎えたようだ。(続けようものなら、再び胃に穴が空く・・・どころか、原形残さず蕩けることだろう)

 

 そして、詳しく聞いてみて、さらに目を剥いた。

 

 テコ入れの一環として、これまで不評であったいくつかの教科の担当教授を新しい職業先の斡旋と引き換えに解雇、別の新任教授を迎えることになったという。

 

 他にも、いくつか新しい試みをしてみるらしいこと。

 

 警備体制も見直し、フィルチから聞いた隠し通路も外部へ通じるものに、魔法を用いた監視を敷くこと、動物もどき(アニメーガス)対策としていくつかの扉や敷居などにグリンゴッツにある盗人落としの滝のような強制魔法解除用の仕掛けを用意したことなどを通達してきた。

 

 “闇の魔術に対する防衛術”の教授職は?

 

 そうセブルスが尋ねれば、ルシウスとようやく落ち着いたフリットウィックが視線を交わして、二人そろって深々とため息をついた。

 

 「ダンブルドア・・・ハグリッドとロックハートのことがあったというのに・・・」

 

 「あの御仁が何を考えてるかわからんのは今に始まったことではないが、もう少し人目というのを意識していただきたいですな」

 

 尊敬が崩れて失望真っただ中らしいフリットウィックに対し、ルシウスはどこまでも冷ややかな様子である。

 

 昨年のルーピンは、授業内容と態度はともかく人狼であり、それを知ったうえで推薦してきたのがダンブルドア。(吸魂鬼の暴走に対し、自らの立場を顧みず助けに入ったのはまだしも)

 

 一昨年のロックハートは忘却術を用いた名誉泥棒の詐欺師である。

 

 そして、こちらはケトルバーンが拒否したものの、ドラゴン違法飼育のハグリッドまで魔法生物飼育学教授の後任に推挙。

 

 「いい加減、ご自身に人を見る目がないとお判りいただけていると思ったのですがな」

 

 「・・・誰を推薦されてきたんです?」

 

 なお、ダンブルドアはいまだに行方不明中なので、おそらく推薦してきたとしたら、夏休みに入る前、ルーピンが退職して間もなくであろうと思われるが。

 

 セブルスの問いに、フリットウィックがため息交じりに答えた。

 

 「マッド・アイ=ムーディを」

 

 「それはそれは・・・」

 

 「一考の余地はあったかもしれんが、あのスキャンダルのせいで、取りやめにして正解だったとしか言えん」

 

 そうだろうな、とセブルスも思う。

 

 あの新聞記事をムーディが読んでいようものなら、セブルスと顔を合わせた瞬間、呪文が飛んできたことだろう。

 

 そうなったらそうなったで、セブルスもやられっぱなしというわけではないから、内臓がぶちまけられることになっただろう。どちらのがかは、お察しいただきたい。

 

 それでなくても、必要以上に用心深く、誇大妄想的に自衛しまくっているらしいのだ。その矛先が生徒に向けられたらと思うと、気が気ではない。

 

 少なくとも、今のテコ入れ中のホグワーツに彼を受け入れる余地はないだろう。

 

 「で、結局誰になったのです?」

 

 「ニンファドーラ=トンクスにお願いすることになりました。ムーディの弟子でもあるし、去年で一応、人柄がわかっていますからね」

 

 「それに伴い、名簿の方の呪いも闇祓いの解呪師が総出で解呪に当たっている。とはいえ、かなり強力で一朝一夕では解けそうにない。

 今は、実験的に呪いをそらすこともしている」

 

 「とおっしゃると?」

 

 「“闇の魔術に対する防衛術”教授の名前欄に、トム=マールヴォロ=リドルの名前を書いておいた。名前だけだ」

 

 そう語るルシウスも、だいぶ疲れた顔をしていた。どれだけこの夏を彼が忙しくしていたか、わかりそうなほどであった。

 

 続けて語られたことによると、ホグワーツの教員名簿は城の施設と魔法的連動をしており、名簿に書き込まれた人名でないと利用できない施設や機材などが存在しているのだ。(だからこそ、名簿自体の新調ということができなかったのだ)

 

 それが、余計に解呪を困難にさせているらしい。

 

 もっと早く解呪するべきだったのに、と全員がため息を吐いた。だから、闇の帝王の手先(クィレル)とか、詐欺師(ロックハート)とかが入り込んできてしまうのだ。

 

 「では、私は自宅で謹慎としましょう。何かありましたら、フクロウ便をお願いします」

 

 一礼して、セブルスは踵を返した。

 

 なお、メアリーはセブルスの謹慎が決まった時点で、“葬送の工房”に残っている。変に連れまわそうものなら、スキーターの刺激を受けた新聞屋連中が嗅ぎつけて何を言われるかたまったものではない。

 

 ・・・なお、“姿くらまし”をすべくホグズミード村に移動したセブルスのインバネスコートの裾に一匹のコガネムシがしがみついた。それにすぐさまセブルスは気が付いたが、そ知らぬふりをしていた。

 

 

 

 

 

 そこまでの流れを思い返したセブルスは、デスクの上においていたガラス瓶を手に取った。

 

 破壊不可魔法をかけて強度を上げたその中には、一匹のコガネムシがいた。じたばたと足を動かして、どうにか出れないか暴れているように見える。空気穴こそあけられているが、固くコルク栓で閉ざされたそれは、どうあがいても虫ごときが自力で出られそうには見えない。

 

 このコガネムシは、『葬送の工房』前にセブルスが“姿現し”して、庭先で薬草の世話をしていたメアリーに出迎えられたと同時に、彼女目がけて飛び掛かろうとした・・・ところを結界に弾かれて目をまわし、セブルスに捕獲された。(メアリーが標的にされるのは、ロックハートの件で十分だ)

 

 「そう嫌がられることはありませんぞ」

 

 にたぁッと、牙のようにも見える八重歯をむき出しにして笑いながらセブルスは言った。

 

 このコガネムシのようにも見える何かが何なのか。去年のあれこれのせいで、すぐさまセブルスは回答に行きついた。

 

 大体、一部の虫はセブルスを嫌がる。深奥に染み付いた血と冒涜を、ああいったものは本能的に嫌悪するのだ。

 

 にもかかわらず、狩人の狩装束にへばりつくなど、まっとうな虫がそうするはずがないのだから。

 

 セブルスは身の回りをかぎまわられるのを嫌う。うっとうしい虫は誰でも叩き潰すものだ。彼自身のみならず、愛する人形をも毒牙にかけようというのだ。そうしない理由の方がない。

 

 かつて、連盟の長ヴァルトールは言った。「我ら連盟の最終目標は、すべての“虫”を踏み潰し、人の淀みを根絶すること。・・・だからこそ、もはや“虫”などいないと分かるまで、狩りと殺しを続けるのだよ」と。

 

 虫は、躊躇なく踏み潰すのだ、と。

 

 そうとも。狩人は。連盟は。虫を、潰し、潰し、潰し、潰し・・・汚物塗れの人の世を知り・・・だが折れぬものなのだから。

 

 セブルスとて、“連盟”のカレルを持つ狩人の端くれ。(気分次第で付け替えているが)その(血塗れの)使命の重大性は、身に染みている。

 

 なに、人の淀みという汚物に棲む百足の類も、醜聞という人の淀みを餌食にするコガネムシの類も、大差はないだろう。

 

 「そんなに知りたいならば、教えて進ぜよう。生きて帰れればよいですな?」

 

 そう言って、ガラス瓶(その言葉を聞いたコガネムシは考え込むように身動きを止めた)をポケットにしまうと、枯れ羽帽子に防疫マスクの頭装備を整える。

 

 「行ってくる」

 

 「行ってらっしゃい、狩人様」

 

 メアリーの言葉にうなずいて、セブルスは庭先にある墓石に身をかがめる。

 

 今回は一番に僻墓には行かない。すでに起動状態の別の聖杯ダンジョンに潜る。

 

 大体はボスクラスの大型獣や上位者のいる場所に直結している汎聖杯に潜るが、今回は通常の聖杯ダンジョンに、である。

 

 薄暗い石造りの通路は、じめじめしているためか墓所カビに塗れ、あちこちに死血花が生えており、獣が無造作にうろついている。

 

 そうして、セブルスはその適当なところでガラス瓶を取り出すと、逆さに振って中のコガネムシを放り出した。

 

 瓶を振られたせいで目をまわしたらしいコガネムシがふらつくのを歯牙にもかけず、セブルスはそれ目がけてそのまま勢いよく足を振り下ろした。

 

 だが、間一髪、コガネムシはその一撃を避けた。そのまま大急ぎでふらふらとセブルスから距離を取るように逃げていく。

 

 「・・・まあいい」

 

 ぽつりとつぶやいて、セブルスは踵を返した。

 

 「では、ごきげんよう。私は忙しいからな。後は好きにしたまえ」

 

 振り向きもせずにそう言って、セブルスは灯りに手をかざし、そのままダンジョン外に転移した。

 

 コガネムシに見える何かを置き去りにして。(踏み潰す?またの機会でいいだろう。またがあれば、だが)

 

 ちなみに、聖杯ダンジョンにある転移の灯りは狩人でなければ使えない。“姿くらまし”及び“姿現し”やポートキー作成呪文に代表される空間に干渉する類の魔法も使えない。

 

 血肉に飢えた獣が徘徊する、暗い地下の神の墓所は、すべてを受け入れる。

 

 たとえそれが墓暴きであろうと、下世話な新聞記者であろうとも。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 リータ=スキーターはジャーナリストである。少なくとも、彼女はそれを自任自称している。

 

 民衆は好奇の塊である。誰とて知りたい!という気持ちは持っているものだ。リータはそれを民衆に提供し、そのおこぼれとしてほんの少しの金銭を頂戴しているにすぎない。

 

 けれど、知りたい!という気持ちには差異がある。例えば、昨日の百味ビーンズの売れ行きを載せた記事と、現魔法大臣の失敗談を載せた記事。どちらをより知りたいという人間が多いだろうか?

 

 だから、リータはより知りたいと言ってもらえそうな(売れそうな)記事を書く。その過程で、不要な(つまらなそうな)部分を削除したり、言い回しを工夫したりするのも必要なことだ。

 

 真実?そんなもの、大衆の好奇の前には何の意味もない。リータは民衆の知りたい!という気持ちに応えているだけだ。

 

 加工?捏造?リータの才能に嫉妬した下らない戯言だ。

 

 そう!リータは他の追随を許さない、魔法界一のジャーナリストなのだ!

 

 ・・・リータ=スキーターは知らないだろう。かつて、とある時計塔の守り手を担っていた女狩人が言った言葉を。

 

 『秘密は甘いものだ。だからこそ、恐ろしい死が必要になる。愚かな好奇を忘れるようなね』

 

 愚かな好奇とは、恐ろしい死を必要とするものなのだと。

 

 そんなリータには、前々から目をつけていた相手がいた。

 

 セブルス=スネイプ。魔法薬学界に革命をもたらした、天才魔法薬学者である。

 

 そのデビューこそ、脱狼薬の改良という一見パッとしない功績だが、それが巡り巡って他貴族たちの収益アップにつながっているのだ。

 

 きっと薄暗いことに手を染めているに違いない!とスクープ(スキャンダル)に飢えていたリータはおかげで馬鹿を見てしまった。

 

 ようやく、原因を探り当て、近寄ろうとしたがそれもまた、難易度が高かった。

 

 どうにかして近寄りたくても、ガードが固い。下手に嗅ぎまわろうものなら、マルフォイとブラックから圧力がかかる。スネイプ本人も、近寄ろうにもめったに姿を見せないのだ。

 

 ・・・リータは知らない。リータがセブルスを探りまわっていると、貴族の伝手で聞いたセブルスが、リータには鉢合わせしないように行動していたなど。

 

 そうしてリータが手をこまねいているうちに、セブルスはより強固な守りに囲われたホグワーツに行ってしまった。

 

 何たることだ!

 

 だから、内心ではリータは今年を待ちわびていた。人の口に戸は立てられない。場合によっては、金は潤滑剤にもなる。今年、三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)があれば、見物客や他のマスコミに乗じて、ホグワーツに行くことができる。

 

 その機に乗じて、インタビューを取れたらいい!

 

 だが、リータの目論見はまたしても台無しになった。馬鹿な森番がやらかした危険生物(アクロマンチュラ)と、クソ野郎の脱獄囚と死喰い人のせいで!

 

 ・・・まあ、他にもいろいろ原因はあるのだが、大まかにはその二つだろう。

 

 おかげで、三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)は中止。リータの目論見はここに頓挫となった・・・が、転んでもただで起きないのが魔法界一のジャーナリスト(自任にして自称)のリータ=スキーターである。

 

 

 

 

 

 今日も今日とて飯のタネ(スクープのネタ)を探して、ブンブンと(文字通り)飛び回っていたリータは、その日、運命を発見した。

 

 間違いなく、それを発見した時の彼女の心境としては、運命的だったというのであろう。

 

 そこは、ダイアゴン横丁の一角だった。明らかにマグルらしい両親を連れた、少年二人。兄弟らしく、顔立ちが似ている。

 

 そして、その少年のうちの兄らしき方は、首に魔法式カメラを提げて、現像されたばかりらしい写真をチェックしていた。

 

 魔法界の写真はフィルム式だ。現像には専用の現像液や、道具類が必要となるのもあって、カメラ屋に任せているのがほとんどだ。

 

 ・・・なお、その写真の現像にしても、かなりの手数料を取られる。安全マージンなどを含めたもので、安すぎる現像料は、写真を流出させますと大声で宣言しているようなものだからだ。

 

 もちろん、リータのような超一流のジャーナリスト(自任にして自称)となれば、自分で現像するための道具類はそろえている。

 

 そして、そのチェックしている写真が問題だった。それは、セブルスがシリウス=ブラックを延々打ち上げる、あの残虐な仕打ちのワンシーンであった。(しかも、魔法界の写真なので、当然動く)

 

 写真をのぞき込み、衝撃を受けたリータは、映っている内装からホグワーツ内の大広間だと看破して、耳をそばだたせる。

 

 写真を目の当たりにして仰天している父親に、少年が蒼い顔で事情を説明している。リータの(とても都合のいい編集のかかる)脳みそは、瞬時に判断した。特ダネ(スクープ)だ!

 

 すぐさま、リータは物陰に行って身なりを整え、改めて一家に声をかけた。名刺を差し出し、高らかに名乗りを上げる。

 

 リータの名前を聞いた通行人があっ(察し)のような顔をして、そそくさと離れて行ったが、一家は誰も気が付かなかった。

 

 リータは、去年のホグワーツで起こったことを小耳にはさんだので、ぜひ詳しいお話を!と言った。

 

 ・・・不幸なことに、彼らはリータ=スキーターがどのような人物評を受ける人物か、知らなかった。(何しろ、クリービー家はマグル界にあるのだ)

 

 さらには、魔法界における情報モラルの低さを知らなかった。

 

 ゆえにこそ、口車にほいほいと乗っかってしまったのだ。

 

 フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーで、店主が心配と不審をないまぜにした視線を送るのをよそに、リータのおごりのアイスを口にしながら、少年はすらすらと事情を説明した。

 

 コリン=クリービーと名乗った写真の持ち主である少年は、自分も有名になれる!という浮かれた気分であったのか、緊張気味に上ずった声でインタビューに答えてくれた。

 

 ふんふんと聞きながら、リータは自慢の自動速記羽ペンを動かした。途中で必要な添削も忘れない。いらない部分など、最初から書く必要はないのだから。

 

 だから、コリンが「殴ってた時は怖かったけど、『貴様のせいだ』なんてスネイプ先生が言ってたから、僕たちのために怒ってくれてたと思うんです」や「ブラックが寮に入ってきたとき、他の女の子や1年生たち、すごく怖がってたんです。仕返ししてくれたのかもしれません」という擁護の言葉は丸っと無視された。

 

 そして、インタビューに夢中のクリービー一家はもちろん、リータが何を書いているかなど、気にも留めなかった。

 

 最後にありがとうと杖の一振りで錯乱させ、コリン少年の手元から写真を必要なものも含めて何枚か抜き取る。写真を買うと持ち掛けたのに、馬鹿なマグルの父親が「でも肖像権が」とか「新聞に載せるには不適切だ」なんだと騒ぎだしたのだから仕方がない。スクープには犠牲もつきものなのだ。

 

 リータは忘却術はあまりうまくないので使わないが、ちょっとしたトラブル回避のための錯乱呪文なら、お手の物だ。

 

 それから、セブルス=スネイプを狙い始めた時点で目をつけていた何人かの人間にもインタビューを取るのも忘れない。彼はいろいろ曰く付きの人間だ。さぞかし盛り上がる記事になることだろう。

 

 そうして、リータは悠々と帰宅して、記事作成に取り掛かった。

 

 提供してもらった写真はピントこそあっていたものの、どさくさに偶然シャッターが押されたのだろう、斜めになっていたうえ、端にピンボケした生徒の頭や腕が映っていたので、きれいにトリミングして修正するのも忘れない。記者をやっていると、こういう写真の修正も自然とうまくなる。

 

 これが終わったら、すぐにホグズミード村に行って張り込まなければならない。

 

 学校から呼び出しを受けるだろう、セブルス=スネイプに張り付いて、そのすべてを丸裸にするのだ!!

 

 

 

 

 

 今、その丸裸にすると決めた男の手によって、リータはわけのわからないまま死にそうになっていた。(あの男!最初からリータがコガネムシの動物もどき(アニメーガス)だと見抜いていたのだ!)

 

 どのくらい経った?何日経った?

 

 いくらリータがコガネムシの動物もどき(アニメーガス)であっても、食べ物を食べなければ死んでしまう。

 

 そして、この不気味な地下遺跡(一番的確な言葉はそれだろう)は、不気味な化け物どもが闊歩し、リータの姿を見ると爪を振り上げ、牙をむき出しにして襲い掛かってくる。

 

 たとえコガネムシの姿であろうとも!

 

 ダメだ!コガネムシでいたら、抵抗する間もなく食い殺される!

 

 リータは必死だった。ここから何としても逃げ出し!この大スクープをわがものにするのだ!

 

 ・・・この期に及んで、スクープのことに目がいっているあたり、この時点の彼女はまだ、余裕があった。

 

 コガネムシの姿から、元のリータ=スキーターの姿に戻り、必死に走る。重々しい石の扉に飛びついた。

 

 どうして開かないのだ!!

 

 必死に杖を振っても、その扉はうんともすんとも動かない。

 

 ・・・リータは知らない。その扉は、狩人が下から持ち上げることで開閉する扉なのだ。魔法で開閉するタイプの扉ではない。そもそもそんなものは通じない。

 

 より上位者に近い、神の墓の扉なのだから。

 

 獣がとびかかってきた。

 

 とっさにリータは再びコガネムシに変身してその一撃を避け、どうにかこうにか逃げ出す。

 

 必死に逃げながら、彼女は内心で毒づく。ジャーナリストをなめるな!修羅場の潜り抜け方など、お手の物だ!と。

 

 ・・・自らの足でインタビューや取材を取りに行く手間は惜しまないというのに、何故、彼女はその根性を別の方面に発揮できないのだろうか?

 

 ともあれ、彼女は逃げて逃げて逃げ続け。

 

 ・・・とうとうリータは、空腹で動けなくなった。近くには、化け物同士が共食いしたのか、死骸が一つ転がっていた。

 

 ここで彼女もこの死骸の仲間入りになってしまうのか?否!断じて否!思い出せ、新米記者であった頃を!泥水をすすり、いつか成り上がって見せると誓ったあの頃を!

 

 リータは震える体で、化け物の死骸にむしゃぶりついた。調理器具などない。杖はとっくの昔に折れてしまった。

 

 生臭くて、おぞましい、化け物の死骸を吐き出しそうになるのを必死に咀嚼して飲み込む。

 

 いや、本当にそうか?この血・・・今はひんやりしているが、なんとも甘くかぐわしい・・・生きている者の血ならば、どんなに暖かく美味であるのだろうか?

 

 「ヒヒッ。イヒヒヒヒ・・・」

 

 食べ終えると同時に、リータの喉から笑い声が零れ落ちた。そうとも、リータはまだ生きている。生きていればどうとでもなる。

 

 リータは知らない。彼女の肌は毛深く、爪は長く伸び、歯並びは牙と呼べるものとなり、もはや元の彼女の面影はなくなってしまっていることに。その瞳は蕩け、“獣の病”の罹患者特有のものになっていたことに。

 

 そしてもはや、リータ=スキーターと呼ばれた女は、スクープすらどうでもよくなり、次なる獲物を求めて地下遺跡を徘徊し始めた。

 

 折れた杖と、何の役にも立たない自動速記羽ペンをも、放り出して。

 

 

 

 

 

 リータ=スキーターは、それっきり全くの音沙汰を聞かなくなったのだが、誰も気に留めなかった。

 

 よしんば彼女が姿を現したところで、純血貴族たちがこぞって潰しにかかっただろうからだ。

 

 彼女はそれなりに役に立ったが、牙の向け方を間違えた犬の処分先など、今も昔も一つしかない。

 

 

 

 

 

続く

 





【自動速記羽ペン】

 日刊預言者新聞の報道記者、リータ=スキーターの愛用する自動速記羽ペン。商品名は、QQQ。

 この羽ペンは手にもたずとも、話したことを自動的に書き留めるが、勝手に内容を書き加えてしまう傾向があるので、所有者がそうならないように調整する必要がある。

 リータは新聞記者デビューしたころからこの自動速記羽ペンを愛用していた。

 リータはこのペンによって知ったのだ。民衆が求めるは、真実にあらず、好奇を満たす騒動であるのだと。





 Q.あれ?コリン少年、シリウスに襲われて失神してたんじゃね?

 A.気が付いたらシリウスはいないし杖もなくなってて、ヤベエ!先生に報告しないと!とアーニーと一緒に慌てて大広間に駆け込みました。その時は、吸魂鬼の襲撃がおさまった直後で、同級生とかから事情を聞いて青くなってました。で、セブルスさんのグロテスクジャグリングにぶち当たっちゃいました、と。

 P.S.写真は混乱でたまたまシャッターに手が当たって偶然撮れたもんです。だから、斜めになってるし、端に変なの映ってます。他にも向きは同じですけど、ピンボケしてたり、セブルスさんの位置が端だったりする写真が何枚かあって、リータはそれをまとめて持っていきました。一番よさそうなのを修正して、記事に採用してました。



 Q.シリウスに襲われて気絶したってのに、よくカメラ壊れませんでしたね?

 A.あんなにカメラ大好きなら、死守くらいするでしょう?(適当)





 魔法界のカメラと写真事情(スキーターのあれこれ含む)は捏造です。まあ、フィルム式カメラなら、自分で現像ってのはないでしょう(デジカメプリントアウトみたいに、魔法で一発ポンってできるんですかね?だったら、魔法式インスタントカメラの方が普及してるでしょうし)。現像はカメラ屋任せってのがほとんどじゃないですかね?
 で、カメラ屋に現像してもらったなら、当然取りに行かなきゃいけないわけで。クリービー一家は、その帰りにスキーターにロックオンされたわけです。





 次回の投稿の内容は、クラウチ氏がおかしいぞ?走れ、エイブリー!

 おかしい。彼、モブに毛が生えた程度のポジションだったのに、滅茶苦茶出張ってきてます。おかしくないですか?

 異世界でセブルスさんも頑張りますぞ!死に損ないのきったねえおっさんも添えて。

 今度こそようやく4年次のホグワーツがスタート!お楽しみに!
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