セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、評価、お気に入り、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

 ホグワーツのシステムを色々好き放題いじくりまわしましたが、あんまり何も言われなくてちょっとホッとしました。

 久々、レギュラス君のターンから、続きといきましょう。


【8】レギュラス=ブラック、異世界のクラウチ邸へ

 

 「どうも、こんにちは!レギュラス=ブラック様ですね?

 こちら、セブルス=スネイプ様から速達書留が届いております」

 

 にっこり笑った黒人の男を前に、レギュラスは呆然としていた。

 

 あの閉ざされた部屋を抜けた先、またおかしな場所に出る(穴を抜けた先は、大体バラバラなのだ)のだろうと覚悟していたところで、おかしな男に出くわした。

 

 レギュラスはその男を、遠目で見かけたことがあった。

 

 確か、セブルスの家に同居していた時、時々玄関先にいた男だ。

 

 青いコートと制服帽。肩から斜めにカバンを提げた、どこか胡散臭そうな男だ。

 

 「あの・・・」

 

 「ああ、すみません。自己紹介がまだでしたね。

 私は、ハワード=ブラックウッドと申します。見ての通り、郵便配達員をしております」

 

 戸惑うレギュラスに、男――ブラックウッドは改めて名乗ってきた。

 

 ・・・見ての通りといっても、レギュラスはマグルの郵便配達員とはトンと縁がないのだが。名前だって先ほど聞いたばかりだ。

 

 「では、こちらを。受け取りの証明としてサインをお願いします」

 

 「サイン、ですか?」

 

 「ああ、魔法族ではなじみありませんかね?この書留郵便というのは、あなた方がマグルと呼ぶ人々の間における郵便特殊取り扱いの一種ですよ。*1

 この形態の郵便物は、追跡番号が振られて、万が一紛失や毀損があったら、損害要償額の範囲内で実損額が差出人に対して保証されるんですよ。

 ですので、我々の方としても、受け取っていただいた証拠として、サインをいただいているんです」

 

 すらすらと述べるブラックウッドに、レギュラスは戸惑う一方だった。

 

 「・・・あの、何でここにいるんです?」

 

 こんな異常な場所に、何でマグルらしき人間が?

 

 まさかこの男も、バーティの儀式とやらに巻き込まれた生贄なのだろうか?

 

 「いえいえ。確かに、ここは私の故郷によく似た空気をしていますが、私ははっきり言って部外者ですよ」

 

 しれッとブラックウッドが答える。まるでレギュラスの内心を“開心”したかのような受けごたえに、レギュラスはぎくりと肩をはねさせる。

 

 胡散臭いという印象が一転し、得体のしれない不気味さが出てきた。

 

 「・・・サイン、お願いできますか?」

 

 「・・・わかりました」

 

 ニコリっと再度笑って差し出された紙切れに、レギュラスは受け取った妙なペン(彼は知らなかったが、それはボールペンだ)で、サインを書いた。

 

 「ありがとうございます。くれぐれもちゃんと渡すように念押しされておりまして」

 

 返されたペンと紙きれを懐にしまった郵便配達員は、続けてカバンから封筒を取り出し、レギュラスに渡す。

 

 羊皮紙製のそれは、確かに差出人のところに“セブルス=スネイプ”と書かれている。

 

 「では、私はこれで。

 縁がありましたら、またお会いしましょう」

 

 と、ブラックウッドは一礼して踵を返そうとしたところで、何事か思い出した様子で足を止めた。

 

 「ああ、そうだ。

 この先には、お屋敷が一軒ありましたね。ですが、行かれるならお気をつけた方がよろしいかと。

 妙なものがうようよしているようですから」

 

 しれッと言って、郵便配達員はそのまま路地の奥の暗がりに姿を消した。

 

 なんとなく、レギュラスは悟った。あの男は多分、追いかけても追いつけないだろうな、ひょっとしたら見た目だけで、中身は人間じゃないのかもしれない、と。

 

 とりあえず、レギュラスは周囲を見回して、あの化け物や数字付きゴーストがいないことを確認してから、手紙に目を通す。

 

 落ち着いて読み物をするなら、あの閉ざされた部屋の方がいいのだろうが、出てきたはずの穴はなくなってしまっているのだ。(別の場所で穴を見つけない限り、戻れないのだ)

 

 それに、速達と言ってたので、急ぎということ――つまり、セブルスは急ぎレギュラスに伝えたいことがあるということだ。

 

 だから、レギュラスもさっさと読む。

 

 ややあって、彼は手紙を折りたたんで封筒にしまうと、そのままローブのポケットに押し込んで、顔をあげる。

 

 待ってろ、バーティ。

 

 口の中でそんなことをつぶやいて、レギュラスはしっかりした足取りで歩きだした。

 

 

 

 

 

 「ヒあああああああっ?!もう嫌だああ!もう嫌だああああああ!!」

 

 一方、セブルスはいい加減うんざりしていた。

 

 化け物や数字付きゴーストに遭遇するたびに、ペティグリューは絶叫して、頭を抱えてプルプルと震えているのだ。

 

 で、その悲鳴に誘われて、次々化け物が引き寄せられるから、はっきり言ってきりがない。

 

 いい加減、その喉笛を切り裂いてやろうか。

 

 加えて、ペティグリューと行動している以上、レギュラスと顔を合わせるわけにはいかなかった。

 

 ペティグリューの逃げ足と悪運から考えて、その口からレギュラスの所在が闇の帝王に伝わる可能性ができるかもしれなかったのだ。

 

 かといって、この異世界で殺すと面倒が増える可能性もあって、殺すわけにもいかなかった。

 

 ああ、何だ。もっと簡単な方法があった。

 

 ひらりと右手を一振りして、沈黙呪文(シレンシオ)をペティグリューにかける。

 

 「次に何か喚いてみろ。両足を切り落として、置いていくからな」

 

 口元を押さえて慌てふためくペティグリューに、セブルスは冷たく言い捨てて、飛び掛かってきた犬もどきに獣の爪を振り薙いだ。

 

 今のところ、あの黒ローブ姿の『バーティ』には出くわしていない。

 

 前述したが、あれは術者の本来の肉体ではない――偶像の肉体、行動端末、あるいは影のようなものだ。

 

 だからこそ、こちらの攻撃が一切通用しない状態だったのだろう。

 

 いくらセブルスが上位者とはいえ、現在は相手の領域に仮の姿で踏み込んでいる状態である。制限がかけられているのだ、できないこともあるのだ。

 

 となれば、どうにかして『バーティ』本来の肉体を探し出す必要がある。

 

 難しいかもしれないが、現状ではやるしかない。ぐずぐずしていると、レギュラスの番になってしまうのだから。

 

 セブルスは、襲い来る化け物どもも、数字付きゴーストも片っ端から蹴散らしながら先へと進んだ。

 

 別に闇雲に進んでいるのではない。

 

 あくまでセブルスの感覚と憶測に基づいたことではあるのだが、この異世界は術者が生贄を引きずり込むための蜘蛛の巣のような領域であるが、現実世界とは異なり、空間の接続がめちゃくちゃだ。扉一枚で全く違う場所が普通にまかり通っている。

 

 それは多分、必要に応じて術者が異世界の必要領域を形成・拡張しているからではないだろうか?パッチワークのように作った部分を元あった場所に継ぎ足しているのだろう。だからこそ、接続が滅茶苦茶なのだ。

 

 ならば、その元あった場所(一番最初に形成された場所)こそ、この異世界における最深部であり、『バーティ』本来の肉体のある根拠地なのではないだろうか?

 

 そして、『バーティ』は闇の帝王の狂信者である。ならば当然、ヴォルデモート卿がホグワーツに対して並々ならぬ執着を向けていることも知っていただろう。

 

 彼は語っていた。聖母降臨に成功した暁には、この座をあのお方にお譲りする、と。

 

 ならば、自分の後に居つくであろう帝王が少しでも気に入るように、そのこだわりをも反映させるのではないか?

 

 実際、他の領域は生贄にされた人間の死体が見つかった場所だというのに、なぜか死体はなかったホグワーツを模したエリアがあったのだ。

 

 『物事には必ず理由がある』。ハリーはまったく、的確なことを言うものだ。

 

 後は、セブルスもあの場所を訪れた時、何かが鼻についた。腐臭と啓蒙、冒涜に慣れ親しんだ狩人の鼻に。

 

 あの時は、『バーティ』の襲撃で満足に探索しきれなかった。

 

 今も侵入した闇霊状態で制限付きではあるが、十分動けるのだ。もう一度、ホグワーツを模した領域に向かうべきだ。あそこを、もう一度探索しなおす。

 

 今セブルスにできるのはそれだ。

 

 飛び掛かってきた四つん這いの化け物を、エヴェリンで撃つことで吹き飛ばす。ガンパリィによって、動きを止めたそれにセブルスは右手を突き入れた。

 

 内臓攻撃だ。

 

 たっぷりした血を浴び、血まみれのセブルスは改めて奥に向かって進んだ。

 

 

 

 

 

 レギュラスがたどり着いたのは、不気味な屋敷だった。異臭と重苦しい空気に支配され、朽ちたような外観になっているが、レギュラスはそこを知っている。

 

 以前、長期休みに誘われて遊びに行ったことがあったのだ。

 

 クラウチ邸だ。

 

 なんでここが?

 

 一瞬レギュラスは疑問に思ったが、すぐに首を振って考え直す。

 

 この異常な世界を作り上げたのがバーティなら、ここがあってもおかしくはない。何しろ、バーティが生まれ育った場所なのだから。

 

 恐る恐る、レギュラスは門をくぐった。

 

 魔法族の邸宅、それも純血貴族の屋敷は、不法侵入者を避けるために侵入防止用の防護魔法がかけられているのが一般的だ。だが、ここにはそれがないらしい。

 

 好都合だが、エントランスに続くだろう大扉には、すでにお馴染みになった妙なパズルじみた仕掛けがあるらしい。

 

 少し周辺を見て回って、解除のためのヒントを探しだしたレギュラスは、そのまま屋敷に入り込んだ。

 

 内装は・・・レギュラスが記憶にあるよりも、だいぶ古びている。何より、陰気で、重苦しい空気が横たわっている。

 

 なんとなく、レギュラスは思う。もしかしたら、ここにバーティを止めるヒントがあるかもしれない。

 

 軽く呼吸を整えてから、改めてレギュラスは奥に向かって進みだした。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 さて、一方のホグワーツである。

 

 4年生の授業であるが、ハリーJr.、ドラコ、ハーマイオニーの3人は学業としては問題なく進められていた。

 

 ただ、今年に入って、ハーマイオニーは少し他二人と距離を取るようになった。もちろん、一緒に勉強会もするし、雑談もやるのだが、どこに行くにもべったり一緒というわけではなくなったという感じだろうか。

 

 というのも、今年のホグワーツ特急でハーマイオニーはスリザリンのグリーングラス姉妹とパンジー=パーキンソンに呼び止められ、あれこれと話をしたらしい。

 

 純血貴族の女子生徒たちで、しかもお年頃である。そんな彼女らが、目の色を変えてロックオンしているのは、もちろんドラコである。特にパンジーは肉食系女子さながら虎視眈々とドラコを狙っているのだ。これまでも、授業の度に機会があればペアを組んでほしい、課題の時にここ教えて!など積極的にアピールをしているのだから。

 

 まあ、肝心のドラコは肉食系はあまり好みではないらしく、ハリーJr.がいるからとか、その課題ならこの参考書がいい、君ならわかるだろうなどと、やんわりとさけているらしい。

 

 一方のグリーングラス姉妹なのだが・・・実は、ダフネの二つ下の妹、アステリアがハリーJr.が気になるから、彼に好きな人はいないか?と探りを入れに来たらしい。

 

 そのきっかけは去年の吸魂鬼騒動にさかのぼる。吸魂鬼の襲撃のせいで、アステリアが過呼吸を起こしてしまい、危うく窒息するところだった。そこを、駆け付けたハリーJr.が助けてくれたのだ。

 

 これを口元にあてて!と差し出された紙袋に、そんなの役に立つか!と怒鳴りかけたダフネを無視して、ハリーJr.はアステリアの口元に紙袋を押し当てた。

 

 だが、そうしているうちに、アステリアの呼吸がおさまってきた。

 

 今の何?!と仰天するダフネに、ハリーJr.はマグル式の応急処置だよ、とにっこり笑う。

 

 落ち着いた?あとでちゃんとマダム・ポンフリーのところに行った方がいいよ、じゃあね、と言い残して去っていったハリーJr.を、アステリアはぽーっと桜色に染まった頬で見送った。

 

 マグル育ちの中流階級の、半純血の魔法使い。純血貴族令嬢たるアステリアの結婚相手としては、いささか不似合いだが、それでもアステリアは胸の内側に芽吹いた感情を押さえられなかったのだ。

 

 ・・・余談だが、純血貴族の子息・令嬢らがホグワーツに来るのは、卒業後に向けた結婚相手探しや人脈構築というのもある。

 

 ホグワーツに入って、4年目である。そろそろ本腰を入れて、そういう相手を探さなくては、とグリーングラス姉妹もパンジーも動き出したわけである。

 

 とばっちりを食らったのはハーマイオニーである。

 

 夏休みのバーベキュー会の時に、ドラコがぽろっとそろそろ婚約者を探さないと、といったところで、意識したのだ。

 

 仲のいい二人の友人が男であることを。しかも、片方は貴族で、そういう世界にいるのだということを。

 

 男女の友情は成立するのか。

 

 する、とそれまでのハーマイオニーであれば大声で言えたのだろう。だが、今はそうも言えなくなってしまった。

 

 だって、ハーマイオニーも女の子なのだから。

 

 

 

 

 

 とまあ、甘酸っぱい(?)事情が芽吹きつつあるホグワーツだが、授業外でも変わったところが出てきた。

 

 スリザリンの純血貴族が主催の、『マナー講座』が開かれることになったのだ。

 

 鼻持ちならない、純血貴族主催で、である。

 

 あからさまに眉を顰める学生もいる中、お知らせを張り付けた掲示板の近くで、ドラコはハリーJr.に闇祓いを目指すなら、参加しておけといった。

 

 「就職に有利になるぞ。やっておくのとおかないのとでは、違ってくるだろう」

 

 「え? あー・・・なるほど」

 

 ドラコの言葉に首をかしげるハリーJr.だが、すぐに分かったのか、一つうなずいた。

 

 「どういうことなの?」

 

 「うーん・・・実はね、僕最初、スリザリン寮であからさまに馬鹿にされた目で見られてたみたいなんだよね。

 マグル育ちの半純血だしね。

 けど、先輩方の前であいさつしたら、ちょっと見る目が変わったっていうか、あからさまに馬鹿にされることはなくなってね。

 ホグワーツ入学前にドラコにさんざん、あいさつの練習をさせられてたから、多分それでだと思うんだけど・・・そういうことなんだよね?」

 

 「ああ」

 

 ハーマイオニーの問いかけに、ハリーJr.は苦笑交じりに説明し、それにドラコがうなずいた。

 

 「上流階級はマナーに非常にうるさいんだ。特に僕たち純血貴族は、その・・・出自で色眼鏡で見てしまう傾向がある」

 

 「だから、あれだけお辞儀の仕方とかあいさつの口上とか練習させられたんだね、僕。

 マグル育ちでも礼儀作法ができるならって、あれ以降大目に見てもらってたみたいだったし。

 寮であれなら、就職面接とかではもっと厳しくいろいろ言われるかもしれない、ってことだよね」

 

 「ああ。父上は採用する側だが、マナー面はどうしても目についてしまうとおっしゃられていたな」

 

 「ねえ、マナー講座って具体的にはどういうことをするの?」

 

 そういうことなら私も参加したいと言わんばかりに、うずうずしているハーマイオニーが尋ねてきた。

 

 「それは僕も気になるなあ。ドラコ、何か知ってる?」

 

 「ああ。ハリーもやったような挨拶とお辞儀の仕方は初歩として、会食向けのマナーや、お茶会の作法、ドレスローブの選び方、ダンスの練習もあるな。

 グレンジャーのような女性なら、化粧の仕方とかもあるらしいぞ」

 

 ここでドラコは言葉を切ると、少し疲れたようにため息を吐く。

 

 「まあ、服装に関しては、時々とんでもなく変な格好の魔法族もいたりするから、あくまで目安というところもあるしな」

 

 「変な格好?」

 

 「・・・魚の置物のついた帽子をかぶったり、トロールの接吻が刺繍されたドレスローブを着てたり」

 

 訊き返したハリーJr.は、遠い目をして答えたドラコの返答に、微妙な顔をした。

 

 わきで聞いてた生徒何人かが具体的に想像してしまったのか、たまらず吹き出したり、肩を震わせたりしている。

 

 「・・・何か理由あるの?それ」

 

 「まあ、ピンキリらしいが。先祖代々のファッションというかわいらしい理由ならいいんだが・・・ごくまれに、質の悪い呪いを受けてて、こういう行事の時はそういう格好をしないと、致命的ペナルティを食らうとかいうこともあるらしい。

 父上からのまた聞きだから、どこまで本当かはわからないが」

 

 眉をひそめたハーマイオニーの問いかけに、ドラコは疲れたような様子で答えた。

 

 「・・・僕も、父上と一緒に社交界のパーティーに何度か顔を出しているからな。たまにそういう方は見かけるんだ」

 

 ボソッと付け加えられたドラコの言葉に、ハリーJr.は苦労してるんだなあ、といたわる視線を向けた。

 

 「魔法使いのファッションって、そういう事情もあるのね・・・」

 

 知らなかった、というかのようにつぶやいたハーマイオニーに、何人かの学生が同意したようにうなずいている。

 

 「ああ。だから、パーティーを開くホストは、招待客のことについても調べておかないといけないそうだ。

 例えば、呪いのせいでキノコが食べられない客がいるなら、その方には別の料理を用意したりとかな」

 

 「・・・そういう人、いるんだ。アレルギーじゃないの?」

 

 「アレルギー・・・確か、マグルの方の言葉だったな。特定の食べ物や物質を体が毒と誤認して、食べられないだったか。

 毒程度ならまだいい。そのキノコの呪いは、キノコを食べたら自分の体にキノコが生えてキノコまみれになるんだそうだ」

 

 「ひえっ」

 

 ドラコの言葉に、ハリーJr.は身を震わせた。

 

 どうしてそんな呪いを受けた。そして、その呪いをかけた奴はどうしてそうしようと思った。

 

 ハーマイオニーをはじめ、他何人の学生の顔もひきつっている。

 

 「聞けば聞くほど、純血貴族って大変そうだね・・・」

 

 「・・・僕も父上のようになってしまうのだろうか」

 

 同情に満ちた目をするハリーJr.に、ドラコはひどく心細げな声を出して、自分の前髪の生え際辺りをさすった。

 

 ・・・去年あたりから、ドラコが髪形を変えたのは、誰もが気が付いていた。

 

 「と、ところで、そのマナー講座、受講資格とかあるのかしら?張り紙には、4年生以上の希望者ってあるわよね?

 私も参加したいと思ってるの」

 

 気まずくなった空気を振り払うように、ハーマイオニーが口を開いた。

 

 「ああ。もちろんだ。グレンジャーにはむしろ、僕の方から頼もうと思っていた」

 

 「え?」

 

 「グレンジャーはマグル生まれだが、成績は優秀だ。スリザリンの学生にも、よくしてくれている。

 グレンジャーが参加するなら、他の学生も参加しやすくなるだろうってな」

 

 「ほんと?!」

 

 ぱっとハーマイオニーがうれしそうに笑った。

 

 「ちょっと!それ、本気なの?!ドラコ!」

 

 たまらず口をはさんだのは、パンジー=パーキンソンである。

 

 「そうだ!大体、マナー講座は我々スリザリンのみの開催・参加のはずだろう?!

 なんで今年に限って!」

 

 納得いかないと言わんばかりに、がなり立てるノットに、ここで口をはさんだのはロナルドだった。

 

 「今年に限って?ちょっと待ってくれよ。まさか、スリザリンだけ毎年やってたのか?!ずるいだろ!就職にも有利になるってのに!」

 

 「・・・ドラコ、僕もこれはちょっとずるいって思った。

 何か理由があるの?」

 

 「それは」

 

 「当然だろ!」

 

 困ったように言ったハリーJr.に、ドラコが答えるより早く、その言葉にノットがかぶせかけてきた。

 

 ドラコが、余計なことをとにらむが、それをも無視して、ノットは続けた。

 

 「十数年昔はちゃんと、他の寮にも門戸を開いてたさ!

 だがな!ある日!馬鹿な連中がマナー講座のために借りてた教室の中に、クソ爆弾を投げ込んできたんだ!!生徒が中にいるってのに!

 中の生徒はもちろん、練習用の道具類は全部糞まみれさ!

 で、そいつらの言い訳は何だったと思う?

 闇の魔法使いが集まって悪だくみしてたから成敗してやったんだとさ!!

 しかも、軽い罰則だけで弁償なしだ!道具の類は純血貴族の寄付品ばかりだったんだぞ?!信じられるか?!」

 

 ここでノットは言葉を切ると、ロナルドはじめ、グリフィンドールの学生たちを軽蔑の目で見やりながら言った。

 

 「そいつらはな!公明正大・勇猛果敢を称するグリフィンドール生だったんだ!

 そこまで言うなら、よその連中を招く必要はないだろって、翌年以降はスリザリンの談話室で行うようになったのさ!スリザリン生だけでな!」

 

 沈黙する一同の前で、ノットの勝ち誇ったような叫びが響き渡る。

 

 ・・・おそらく、ドラコとハーマイオニーだけが気が付いただろう。ハリーJr.がそのあたりの話を聞いた瞬間、真っ青になっていたことなど。

 

 「それで?“闇の魔法使い”の主催する、マナー講座が気に入らない、グリフィンドール生が、まだ何か用か?」

 

 嫌味と皮肉たっぷりに言い放つノットに、かっと顔を赤くしたロナルドが言い返すより早く。

 

 「そうね。一方的に言いがかりをつけて、ひどいことをしたのは確かにこちら側で、非があるわ」

 

 そういって、ハーマイオニーは一歩進み出ると、すっと頭を下げた。

 

 「私たちの先輩が、不快な思いをさせてごめんなさい」

 

 だが、すぐさま彼女は顔をあげて凛と言い放った。

 

 「でも、私たちはそれを知らなかった。

 そして、ホグワーツは変わろうとしている。だからこそ、マナー講座も広く開放ってことになったんでしょう?

 あなたたち純血貴族が魔法界の上に立つというなら、その寛容さと、見せるべき姿勢を真っ先に提示するべきじゃないの?」

 

 「・・・ノット。闇の時代は終わった。

 グレンジャーの言うとおり、ホグワーツは変わろうとしている。お前が純血を重んじ、スリザリンを誇るならば、率先して変わるべきだ。

 その学生たちは、今在学している学生とはかかわりないはずだ」

 

 続けて言ったドラコに、ここでノットは気づく。

 

 この場にいるほとんどの人間が、目をそらしたり、敵意を持って見てきてたりと、彼の味方がいないことに。

 

 「ま、まあ?グレンジャーは、マグル生まれにしては分かっている方だし?

 ドラコが言うんなら、しょうがなく・・・本当に、しょうがなく!参加は認めてあげてもいいわよ?」

 

 最初の方で文句を言ってたくせに、ドラコの言葉を聞くや、パンジーはしれッと意見を翻した。

 

 彼女が気に入らなかったのは寮云々や純血などの問題からではなく、どちらかといえば、ドラコがハーマイオニーを買っているというのが気に入らない、嫉妬からであるのだ。

 

 ドラコの機嫌を損ねるならば、多少の寛容さは見せねばなるまいと判断したわけだ。

 

 「・・・っくそ!」

 

 吐き捨てて、ノットは走り去っていった。

 

 「・・・ハリー?大丈夫?顔色悪いよ?」

 

 「あ、うん。大丈夫だよ」

 

 ここで気が付いたらしいネビルが気づかわしげに話しかけてきた。ハリーJr.は微妙にこわばった顔でうなずいて見せた。

 

 「最悪だよな!そんな奴らのせいで!誰だよ!おかげで今僕たちが迷惑してるんだぜ!」

 

 ぷりぷり怒るロナルドに、他の学生たちもうんうんうなずいている。

 

 ハリーJr.にはそれに心当たりがあったが、出自がばれることを考えて何も言えず、それはドラコとハーマイオニーも同じだった。

 

 「せめてもう1年早かったら、パーシーももう少し楽出来たろうにな・・・」

 

 ぽつりとつぶやいたロナルドに、ハリーJr.は首をかしげた。

 

 パーシー=ウィーズリーは、去年でホグワーツを卒業して魔法省に就職したらしいと、ハリーJr.も聞いてはいたのだが。

 

 「パーシー、そんなに苦労してるの?」

 

 「今、国際魔法協力部の方で下っ端やってるんだって。一からしごかれているうえ、外国の魔法使い相手のマナーや作法とかも併せて勉強中らしいよ」

 

 「そっか・・・」

 

 学校で学んだ知識とは、別の知識や技術を求められることはよくあることではある。

 

 「とにかく、ここにも書かれている通りだ。希望者はスラグホーン先生に届け出を出すこと。これに関する質問は、スリザリンの監督生やスラグホーン先生に訊くように」

 

 ドラコの言葉に、集まっていた学生たちはうなずいて、その場を解散となった。

 

 「マナー講座がなくなった後、他の学生たち、どうやって就職対策のマナーを勉強したのかしら?」

 

 ぽろっとつぶやいたハーマイオニーに、ドラコは何だそんなことか、と軽く答える。

 

 「スリザリンには純血貴族が多いが、他の寮に皆無というわけでもない。魔法省勤めの親類がいるなら、そちらから教わるということもあるだろう。

 グリフィンドールなら、ロングボトム家がそうだからな。そちらから教わってたりしたんだろう」

 

 「なるほど・・・講座に本格的に参加する前に、ネビルから言葉遣いとかについては聞いておかないとね」

 

 頷くハーマイオニーは、ここでちらっと周囲を見回して人目がなくなっていることを確認してから、声を潜めて言った。

 

 「あれ、絶対シリウス=ブラックたちよね?

 寮の先輩たちに、思い切ってお尋ねしたの。

 ・・・聞けば聞くほど余罪が出てくるって、どうなのかしら?」

 

 「知れば知るほど、軽蔑しかできない・・・」

 

 「すんだことだ。まあ、悪事はこうやって後世まで語り継がれるってことだな。僕らも注意しないとな」

 

 澱んだ瞳になって呻いたハリーJr.に、お前のせいじゃないという代わりに、いたわりを込めて、ドラコはそう言った。

 

 

 

 

 

 ところで。

 

 最近、ホグワーツは一つのうわさが席巻している。

 

 噂というか、話題というか。

 

 夏休み中にフィルチが発見した、開かずの扉である。

 

 変な臭いと音がする、板切れを張り付けられまくった扉である。

 

 だが、そこは好奇心溢れる子供たち溢れる学校であった。

 

 中にお宝がある!見たことのない魔法生物がいる!という噂から、扉が開いたらホグワーツが滅びる、封じてた悪霊が解き放たれてヤベエ!という噂まで、千差万別である。

 

 何しろ、学期開始時のあいさつに、扉があるけど、近寄らないようにという注意があっただけなのだ。

 

 何があるのか、開かないのはどうしてか、好奇心に駆られる生徒は大勢いた。

 

 まして、とても痛い死に方をするなどの脅し文句の類もなかったわけで、板を引っぺがして、扉を開けようとするのを度胸試し代わりにする者が続出。

 

 これらはフィルチはじめ、他教職員の目に入り次第、減点&罰則の対象になった。

 

 ただし、この扉に関しては一番興味をそそられるであろう双子のウィーズリーは、「「なんだか嫌な感じがする」」と口をそろえて近寄らなかった。

 

 

 

 

 

 話は変わるが、セブルスの停職に伴い、半ば双子のウィーズリーのシンボルと化していたメンシスの檻は装着されていない。元々あの檻は罰則であり、罰則期間が明ける前に次の罰則が科され、被りっぱなしのような状態になってしまっていた。それがないのだから、当然である。

 

 だが、双子のウィーズリーは「「何かしっくりこない」」という理由で、今年は自主的に頭に鳥かごをかぶっていた。

 

 もちろん、罰則でもない、自主ファッションであるので、基本的に授業外のみで、である。

 

 そして、メンシスの檻と違って、普通の鳥かごなので、いろいろと邪魔そうにしていた。

 

 さらに、「「何かこれも違う感じがする」」と首をかしげていた。

 

 

 

 

 

 話を戻して、怪しい開かずの扉のこととなるが、この扉に関してはハリーJr.は頑なに近寄ろうとはしなかった。

 

 一番最初、扉の場所を確認しに行った程度で、後はできるだけ近寄らないようにしていたのだ。

 

 というのも、ホグワーツ特急乗車のための見送りに来てくれた姉のヘザーが、こわばった顔で警告してくれたからだ。

 

 『いい?もし、ホグワーツで変な扉を見つけても、絶対近寄っちゃだめよ?

 特に変な臭いがしてる間はダメ。臭いが強くなった挙句、扉が開いたら全力で逃げて。いいわね?』

 

 本当はホグワーツ自体行かない方がいいかもしれない、嫌な予感がすごくするから、と憂い顔でつぶやいた姉に、ハリーJr.はそういうわけにもいかないよ、気を付けるから、と答えたのだが。

 

 一目見て、ハリーJr.は判断した。

 

 あれはやばい。

 

 怪物邸騒動の時も、散々やばい目には遭ってきた(食べられそうになったり、食べられそうになったり、補導されそうになったり、消化されそうになったり、追い回されそうになったり、食べられそうになったり)が、あの扉はその時の数倍やな感じがした。

 

 ハリーJr.からヘザーの警告を伝えられたドラコもまた、扉を目の当たりにするなり、あれはダメな類のものだ、と青ざめた顔で同意してくれた。

 

 むしろ、何でほかの連中があのやばさに気が付かないのか。二人は不思議でならない。

 

 とにかく、二人にできるのは、あの扉にはできるだけ近寄らないよう、友人たちに警告することぐらいだった。

 

 

 

 

 

 そんな扉のことは多少の興味はあれど近寄ろうとしていなかったネビルとロナルドが、スリザリンの上級生に宙づりにされているコリンを助けたのは、ハロウィーンの出来事だった。

 

 

 

 

 

 続く

 

*1
イギリスにおける郵便制度ではRoyal Mail Special Delivery Guaranteedというサービスが書留郵便に相当する。本シリーズでは、便宜上書留で統一させてもらう





【マナー講座開催についての張り紙】

 ホグワーツ学内掲示板に張り出されている羊皮紙の張り紙。スリザリンの純血貴族主催のマナー講座の開催日時、参加資格について書かれている。

 純血貴族は血統・魔法を重んじるが、高貴なるものの義務として礼節も重んじた。

 彼らの傍らに立ち、労働を希望するならば、それなりの作法をも心得なければならないのだ。




 以上、捏造満載パートでした。

 感想欄とか外伝でちらっと言ってますが、純血貴族が他の生徒を馬鹿にするの、こういう普段のさりげない部分とかもあるんじゃないですかね?

 方言丸出しで何言ってるかわかんねーよ田舎者!とか、食べ方汚えんだよ、食器の持ち方だせーんだよ!とか、そういう感じで。

 誰得なんでしょうね?書いてる私は楽しいのですが。

 後、書き損ねてましたが、ノットの言ってた“クソ爆弾投げ込んできた連中”がマナー講座に絡んできたのは、セブルスさんが参加してたからです。

 当時、闇の帝王にあこがれてたセブルスさんに、マルシベールやエイブリーなどのほか純血貴族が、「あの方に近づきたいなら、マナーぐらいやっとこうぜ。お前、言葉遣いとかはいいけど、服装とかもちょっとどうにかしようぜ」って入れ知恵してきたので。

 被害が出た後、セブルスさんは自分が参加したせいだと自責の念ができ、さらにはほかのあまり親しくない純血の連中からお前が参加したせいだろ、マグル育ちの半端者が、って言われたので、こういう催し物には参加しなくなり、さらに孤立しやすくなりました。

 あくまで本シリーズ限定設定ですので、原作こうだろって言われても困りますので、あしからず。





 次回予告は!ネビル、ロナルド、コリン。思うところ、考えるところ、進むべきところ。セブルスさんはおらずと、生徒たちは勝手に考え、成長していくのです。
 異世界のレギュラスさんは、そろそろ核心に迫りつつありますぞ!セブルスさんは、『バーティ』とサードインパクト!お楽しみに!

 予告はふざけたいのですが、何か真面目になってしまいました。
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