セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

59 / 80
 前回は、評価、お気に入り、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

 遅くなってすみませんね。ボチボチやっていきますのでね。

 捏造マナー講座についてのシーンは書いてて楽しかったのですが、反面ここまでマローダーズを叩いてええやろか?でもあいつらなら絶対やるで?と戦々恐々としてました。

 というわけで続きです。


【9】レギュラス=ブラック、へその緒を得る

 

 城中が甘ったるい匂いに包まれるハロウィーンは、様々なことが変動しつつある今年のホグワーツで、変わらないものの一つだ。

 

 朝食のトーストをかじっていたロナルドは、ふわふわの毛に包まれたスニッチのような豆フクロウ、妹ジネブラによる命名でピッグウィジョン、愛称をピッグと名付けられたそれに、パンの端を分けてやった。

 

 スキャバーズ(前のペット)のことを考えると、今でも複雑な気持ちが湧き上がってくる。このフクロウはそれを知ってか知らずか、ロナルドにはなついてくれた。

 

 フクロウという、ネズミとはまた違うペットであるのもまた、よかったのかもしれない。

 

 いつまでも落ち込んでいるわけにもいかない。

 

 ホッホッホと嬉しそうに飛びまわる豆フクロウにほおを緩めつつも、「おい、おとなしくしろよ」と口では生意気なことを言ってしまう。

 

 もっとも、いつも元気なこの豆フクロウが急におとなしくなったら、それこそ病気か?!と心配するのだが。

 

 ネビルと一緒に今日の時間割を確認しながら、朝食を取り終える。

 

 夜のパーティーが今から楽しみだが、その前にまた少し授業を頑張らなければ。

 

 とまあ、そんな風に本日最初の授業の教室に移動しようとしていた矢先、ロナルドとネビルは出くわしてしまったのだ。

 

 「うああああああ?!下ろして!下ろしてよおぉぉぉ!」

 

 「おい、“穢れた血”が何か言ってるぜ?」

 

 「聞こえないな~?叫び声も汚れてるんだから、しょうがないよな~?」

 

 通りかかった廊下で、見てしまった光景。

 

 にやにや笑う上級生――ネクタイから、おそらくスリザリンの学生が、別の学生をさかさま宙づりにしている。

 

 宙づりにされているのは、コリンだ。

 

 助けを求めて叫ぶコリンをよそに、誰もが冷たい目で見て見ぬふりを決め込んでいるようだった。

 

 「おい、何やってんだよ!コリンを下ろせ!」

 

 すぐさま駆けつけて怒鳴るロナルドを、上級生二人はうっとうしげに見てきた。

 

 「チッ。“血を裏切るもの”が、何を偉そうに。貧乏ウィーズリーのいい子ちゃんが」

 

 「お望みなら下ろしてやるぜ?あそこの階段の下にな!」

 

 舌打ち交じりに言うスリザリンの上級生たちの言葉に、ロナルドは顔を青ざめさせる。

 

 コリンはさかさづりにされている。確実に頭から落ちる。吹き抜けの階段の下に落とされようものなら、確実に首の骨が折れる!

 

 「やめろ!コリンを殺す気か!」

 

 ロナルドが叫びながら杖を引き抜いた直後、スリザリンの上級生は無情にも、杖を一振りした。

 

 同時に、コリンは吹っ飛んだように吹き抜け状の階段下に頭から落ちていく。

 

 「うああああああ?!」

 

 「来い(アクシオ)!コリン!」

 

 とっさにロナルドは杖を振りぬいた。

 

 授業ではぴくとも発動しなかった呼び寄せ呪文は、ロナルドの必死さに応じてか、今度こそ発動した。

 

 一度空中で止まったコリンは、そのまま勢いよく吹き飛んだ。ロナルド目がけて。呼び寄せ呪文なのだから、当然だ。

 

 「わあ?!」

 

 「うああああああ?!」

 

 どしんっと二人はぶつかった。杖が折れなかったのは、不幸中の幸いだろう。

 

 「いてててて・・・」

 

 下敷きになった格好のロナルドが呻くのをよそに、スリザリンの上級生はちっと舌打ち交じりに面白くなさそうな顔をして、今度こそとどめを刺そうというかのように杖を振り上げようとした。

 

 「マクゴナガル先生!こっちです!」

 

 ネビルの叫びに、スリザリンの上級生は、ヤベッとばかりに杖をしまうや、急ぎ去っていく。

 

 「ロン、大丈夫?」

 

 「ああ、大丈夫さ。おい、コリン、大丈夫か?」

 

 駆け寄ってきたネビルに応えて、ロナルドはコリンの下からはい出した。

 

 「あれ?マクゴナガルは?」

 

 「えっと・・・出まかせなんだ。ごめん」

 

 「何で謝るんだよ。おかげで助かったよ」

 

 周囲を見回すロナルドに、ネビルが申し訳なさそうに答える。

 

 「気をつけろよ。メイソンはいい奴だし、マルフォイは・・・まあ、悪い奴じゃあないかもしれないけど、やっぱりああいうやつはいるんだからな」

 

 尻もちをついたままのコリンを助け起こしていたわるロナルドの言葉に、誰かがボソッとつぶやいた。

 

 「よくやるわよね。スネイプ先生を売り飛ばした、盗撮犯相手にさ」

 

 「クリービーだろ?前、ネイサンが呪いかけられて大変なことになってても、うれしげに写真撮ってたんだぜ、信じられるか?」

 

 「Ladyメアリーの写真も勝手に撮りまくっててさ。スネイプ先生から注意受けても無視してたし。だからでしょ?写真を売ったのも」

 

 「あれでしょ?今度は自分を助けてくれたって、この二人のこと写真にとって、日刊預言者新聞に投稿して、さらし者にするのよきっと」

 

 続けてひそひそとささやかれ始めた話声に、ロナルドがきっと顔をあげて「勝手なこと言うな!」と叫んだが、そのほぼ直後。

 

 「た、助けてくれてありがとう!じゃあ!」

 

 青ざめたコリンは、遮るように叫んで転がるようにその場を去っていった。

 

 それを見送るしかなかったロナルドとネビルは、もの言いたげな顔をしていた。

 

 ロナルドは一瞬好き勝手に決めつけるな!と叫びそうになるのをぐっとこらえた。

 

 ここでロナルドが叫んでも何も解決にならない。

 

 「・・・ねえ、ロン。

 本当のことなのかな・・・?」

 

 ここでネビルが口を開いた。

 

 ロナルドは、よく行動を共にする同室の友人を見やった。

 

 ギュウッと眉が寄せられ、悔しげにその両手が握られている。

 

 ・・・今年、セブルスが停職と聞いて一等がっかりしていたのは、スリザリン生のほかにネビルがそうだというのをロナルドは知っている。

 

 ネビルが魔法薬学の成績は優よりの可である。(正史とは異なり)

 

 厳しいことも言うけれど、いい先生だというネビル(1年の時の補習以降になる)に、2年生以前のロナルドは何度か首をかしげたものだ。

 

 そんなネビルなら、もしかしたらセブルスが停職するきっかけに加担してしまったコリンに、悪印象を持つのでは?

 

 一瞬、ロナルドはそんな危惧を抱いてしまったが、すぐさま撤回した。

 

 決めつけはよくない。ネビルはそんな軽々しいことは思わないはずだ。

 

 ちゃんと自分の目で見て、耳で聞いたことで判断するべきだ。

 

 ちゃんと話してみたメイソンはいい奴だった。ペティグリューは許せないところはあるけど、でも悪い奴ってだけでもなかった。

 

 そうだ。

 

 「おい!黙って聞いてたら、勝手なこと言いやがって!」

 

 だから、ロナルドは顔をあげて改めて周囲を見やって叫ぶ。

 

 「コリンが自分の意思で、新聞に載った写真をばらまいたのかよ?!誰かそうしたのを見聞きしたのか?!

 あの記事を書いたのはリータ=スキーターだぜ?!

 スキーターが信用できる人間だって、本当に思っているのか?!あの写真だって、スキーターが盗んで勝手に掲載したのかもしれないだろ?!」

 

 「! ロン・・・」

 

 一理あると思ったのか沈黙した周囲と、はっとしたネビルに、ロナルドはフンっと鼻息荒く、ネビルを見やった。

 

 「コリンを探そうぜ。ちゃんと事情を聞いて、それから考えようぜ」

 

 「・・・うん!」

 

 ロナルドの言葉に、ネビルはうなずいた。

 

 「あ!授業!次の授業、急がないと!」

 

 「うあああ?!ヤベエ!遅刻する?!」

 

 はたと気が付いた二人は、大急ぎで駆け出した。

 

 まだまだ学生の二人である。学業は大事である。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 さて、ところ変わって、バーティ=クラウチJr.が作り上げた異世界である。

 

 きしむ床を踏みしめ、重苦しい空気、悪臭をかき分けるように、レギュラス=ブラックは進んでいた。

 

 悪臭の原因らしい深奥部、閉ざされた寝室の扉の前に立つ。

 

 例のごとく、複雑なパズルで施錠されていたそこは、(レギュラスは知らないことだが)現実ではクラウチ氏の手によって永久粘着呪文で物理封鎖されている扉だった。

 

 だが、異世界のそこは、また違った趣を見せた。

 

 『・・・めんなさい』

 

 ぼそぼそと、何かささやくような声が聞こえてくる。

 

 『なさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ』

 

 聞いてるだけで鳥肌が立ってドン引きしたくなるか細い声音で延々と聞こえてくるのは謝罪だ。

 

 しかも人間なら必要な息継ぎが全くない、壊れた録音魔道具よろしく(マグルで言うところの壊れたレコードのような)、途切れることがないのだ。

 

 思わずレギュラスはためらった。真鍮のドアノブにかけた手をとっさに引っ込めそうになるのをぐっとこらえる。

 

 進め。でなければ死が待つか、あるいは友を救うことも不可能だ。

 

 ごくりと唾をのんで覚悟を決めると、レギュラスは恐る恐る、小さく扉を開いて、わずかな隙間から中を覗き込んだ。

 

 広々とした寝室だ。鎮座する天蓋付きベッドも例のごとく朽ちており、カーテンはボロボロ、シーツは垢で色あせ、ところどころ黒いカビのようなものが付着している。

 

 そして。

 

 そのベッドの上に、誰かがいた。

 

 否、何かというべきか。

 

 レギュラスはミイラというものは見たことがなかったが、闇の魔術について記されている魔術書で、その挿絵は見たことがあった。

 

 カラカラに乾き切り、眼窩は落ち窪むどころか単なる穴と化し、長かったらしい髪の毛は名残の数本だけ、シーツと一体化しそうなほどぼろぼろのネグリジェらしき布の残骸をまとった、干からびた死体だった。

 

 両脚はシーツの下に隠れ、上体を起こしたまま、ミイラはブツブツとか細い声で、ともすれば呪いのようにも聞こえる謝罪を唱え続けている。

 

 できるだけ足音を立てないように、細心の注意を払って寝室に侵入したレギュラスはそのままベッドに近寄った。

 

 『いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ』

 

 「・・・Mrs.クラウチ?」

 

 近寄ったことで明確に声が聞こえたレギュラスは、その声の持ち主の名前を、はっきりと言葉に出した。

 

 そうだ。以前、バーティに誘われて遊びに行ったクラウチ邸。たまたま体調のよかったらしい奥方に、あいさつをしたときに聞いたのだ。

 

 それでなくても、この場所ならば、このミイラの正体はその人物だろうと推測したのだ。

 

 とたんに、それまでの謝罪が止まった。

 

 『・・・ごめんなさい、ジュニア』

 

 か細い声で最後にそうつぶやかれ、それっきりミイラは沈黙した。

 

 そうして、レギュラスはミイラが動かないことを確認してから、恐る恐る寝室の探索を始めた。

 

 チェストや書き物机の引き出しを確認(言わずもがな、成果はなし)し、最後にミイラのいるベッドに近寄った。

 

 ウッと、レギュラスは息を詰める。ついでに、杖を持ってない左手で思わず鼻をつまみそうになった。はしたないので、根性で我慢したが。

 

 この屋敷の悪臭の源はここだと確信していたが、その大元は、ミイラ・・・さらに正確に言うと、その右手が握り込んでいる小箱にあるらしい。

 

 ここまで、この異世界を探索してきて培われたレギュラスの勘がささやく。

 

 この小箱は、重要なものだ。絶対いる。

 

 ミイラの前でひらひらと手を振り、ミイラが動かないことを確認してから、レギュラスはその右手が握りしめている小箱を、取ろうとした。

 

 とはいえ、その乾いて骨に皮がくっついている枯れ木のような指先は、どこにそんな力があるのかがっちりと箱を握りしめていた。

 

 レギュラスは、その指先をどうにかこうにかして引きはがし、小箱を持ち上げた。

 

 きれいな紫のベルベットの箱だ。宝飾品でも入ってそうだが、凄まじい悪臭のせいですべてが台無しになっている感じがある。

 

 そうして、レギュラスは箱を開いてみた。

 

 中身は・・・何か、粉に塗れた肉片というか、乾いた皮のきれっぱしというか。

 

 「へその緒?」

 

 思わず、レギュラスはつぶやいた。

 

 かなり昔・・・それこそ、ホグワーツに入学する以前、母が見せてくれた自分のそれに酷似している。

 

 魔法族は、生まれた子供のへその緒を取っておく風習がある。子供が健やかに育ちますように、という願掛けをへその緒にかけるのだ。

 

 大体、保存用の魔法薬(粉末状)をかけて、さらに保存魔法のかかった箱に入れて保管する――それも、家の者にしかわからないような場所にしまうため、こんなところにあるとは思わなかったのだ。

 

 『ああ・・・あああ・・・』

 

 そこで、再びミイラが呻いた。

 

 思わず飛びのいたレギュラスをよそに、ガクンッとミイラが天蓋を見上げた。

 

 『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいご』

 

 穴でしかない眼窩から、腐った血液のような茶色の汁をこぼしながら、再び謝罪を垂れ流し始めた。

 

 それを見たレギュラスは、ぐっと唇をかみしめた。

 

 何がごめんなさいだ。

 

 言いたいことがあるなら、ちゃんと言えばいい。

 

 自分だって。両親だって。ちゃんと言葉を交わして、言いたいことを言い合って――きっかけはあったけれど、そこからちゃんと納得いくまで話し合った。

 

 兄だって。もしかしたら、どこかで仲直りできた可能性があったかもしれない。

 

 だというのに、彼女は!

 

 「あなたがするべきは、そこで謝ることなんですか!」

 

 たまらなくなり、レギュラスは叫んでいた。

 

 だが、聞こえているのかいないのか、ミイラは汚濁の涙をこぼしながら謝罪し続けている。

 

 「・・・ふざけるな」

 

 低くつぶやくと、レギュラスは大急ぎで寝室を飛び出した。

 

 廊下を徘徊する化け物どもの脇をすり抜け、屋敷の外へ飛び出す。

 

 探すべきは、ただ一つ。否、一人だ。

 

 「ああ、こんにちは。何か御用でしょうか?」

 

 屋敷の門前でにっこり笑った青い制服姿のブラックウッドの前に、レギュラスはつかつかと歩み寄った。

 

 「郵便配達、と伺いました。では、封筒や便せんなどの販売はされてますか?」

 

 「はい。メインは郵便配達ですが、必要に応じて物資の販売をしておりますよ。回復アイテムから、武器までより取り見取りです」

 

 笑みを深める黒人の男に、レギュラスは必要なものを言葉に出した。

 

 

 

 

 

 一方のセブルスは、舌打ちしていた。

 

 高速移動呪文を無言呪文で連打しつつ、ひたすら進んでいた。

 

 前へ。前へ前へ前へ!

 

 背後から連射される緑色の閃光を振り向きもせず、体をひねり、一歩ずらし、射線軸から外れるように立ち回る。

 

 泣きわめいて命乞いするピーターの悲鳴(すでにかなり後方に置き去りにした)をBGMに、セブルスはひたすら走る。

 

 ややもして、緑色の閃光の乱射が止む。その直後、目の前に何の前触れもなく現れた黒ローブの男、『バーティ』から緑色の閃光が放たれる。

 

 通常なら不意打ちにも等しい一撃を、セブルスは避けた。流麗な狩人のステップは、今や呼吸同然に使いこなせる。

 

 目の前の『バーティ』が理不尽の権化だというのは、最初の戦闘で嫌というほど実感していた。

 

 理不尽に対しては、心構えをしておくだけで違ってくる。

 

 とはいえ、泰然としているように見えて、実はセブルスも内心でひやひやしていた。

 

 今のは危なかった。

 

 少しでも対応が遅れていたら、また出直す羽目になっていた。

 

 「今のを避けるか・・・」

 

 忌々しげに舌打ちする『バーティ』に、セブルスは動く。

 

 血の遺志から顕現させるのは、古びた噴霧器にも似た独特の左手武器だ。

 

 ロスマリヌス。神秘の霧を吹きつけてダメージを与える独特の武器だ。

 

 現在装備している獣の爪では、目の前の『バーティ』に対して有効打にはなりそうにない。

 

 何しろ相手は、偶像の肉体でもって立ちはだかる無敵の存在なのだ。

 

 となれば、セブルスにできるのはただ一つ。

 

 『バーティ』が再び緑色の閃光を放つより早く、セブルスは噴霧器の先端から、銀色の霧を放ち、それを『バーティ』目がけて浴びせかけた。

 

 「?! ぐううう?!」

 

 すると、『バーティ』がたまらずよろけた。

 

 これまで、どんな武器であろうと鉄を切るような防御力を誇り、わずかばかり傷つけられてもすぐに再生していた彼の体躯が銀の霧に触れるや、墨が滲むようにわずかにその輪郭を揺らめかせた。

 

 「今の貴公が神秘による偽りの肉体を持つならば、神秘に揺らぐもまた道理であろう」

 

 たとえ致命には程遠かろうとも。(少し動きを止めさせるので精一杯らしい。完全に消すには、水銀弾が一万発以上必要だろう)

 

 吐き捨てるや、セブルスは高速移動呪文を発動して『バーティ』から再び距離を取り、駆け出す。

 

 すでに場所はホグワーツの廊下だが、吹き抜け状の階段踊り場の下からは、生臭い風が上に向かって吹き上がってきている。

 

 手すりを飛び越え、セブルスは下に向かって飛び降りた。

 

 落着の衝撃は瞬間足場設置の呪文で減殺しつつ、下へ下へ。

 

 一層強くなる啓蒙と冒涜の臭いに、確信を強める。間違いない。この先だ。

 

 

 

 

 

 「ペティグリュー!この役立たずめ!なぜ奴を止めようとしなかった?!」

 

 「ひいいい?!た、助け!い、命だけは!!」

 

 四つん這いに臥せってうずくまり、涙ながらに命乞いするペティグリューの背中を踏みつけ、『バーティ』は舌打ちした。

 

 この異世界において、『バーティ』は全能に等しい。

 

 この力を得た時、『バーティ』は感激した。絶頂すら覚えそうになったのだ。

 

 嗚呼!やはり聖母様は存在なさるのだ!あのお方を現世に招き入れることこそ、『バーティ』の使命なのだ!

 

 そして同時に、ひどく申し訳なかった。

 

 仮初とはいえ、この全能に匹敵する力を我が君を差し置いて得てしまった。なんと身勝手なのだ。

 

 こうなったバーティがすべきはただ一つ。

 

 なんとしても、聖母様を降臨させ、この地位をあのお方にお渡しするのだ!

 

 「あの男・・・狩人め・・・実に目障りなことだ・・・」

 

 苦々しく『バーティ』は毒づいた。

 

 この異世界は『バーティ』の支配下にある。だというのに、そこにたった一つ紛れ込んだ異物があった。それがあの男だ。

 

 どういうわけか、あの異物はどこからともなく入り込み、好き勝手にやっているようだ。

 

 この異世界に入り込んだものの存在は手に取るようにわかるし、何ならその行動をほんの少し操作する(気分を悪くさせて足止めさせたり、行きたい方向を植え付ける程度だが)ことだってできるというのに、あの男にはそれができない。

 

 この異世界に招いたものと一緒にいて、はじめてその存在に気が付けるのだ。

 

 何たることだ。

 

 すでに第2の啓示に差し掛かっているとはいえ、儀式に一片の曇りもあってはならないというのに!

 

 すぐさま『バーティ』は行動した。

 

 あの男が飛び降りた先は、深奥に続いている。バーティの『本体』もそこにある。これ以上勝手にさせるわけにはいかない。

 

 すぐさま、新しく領域を作成し、あの吹き抜けの先に強制接続する。異世界自体のバランスが悪くなってしまうので、後で接続を整理しなければならない。

 

 これで多少の時間は稼げるはず。

 

 不死身となった我が身に傷一つつけることは不可能だろうが、それでもあの男がこの異世界の奥底にたどり着くなど、考えるだけで不愉快である。

 

 『狩人、だと・・・?』

 

 どこからともなく、声がした。

 

 「?! ど、どこから?!」

 

 「! 我が君!何かご入用でしょうか?!」

 

 ぎょっとしてきょろきょろと周囲を見回すペティグリューの頭をつかんで強引に下げさせながら、『バーティ』もまた恭しげに頭を下げた。

 

 嗚呼。至高にして至尊、絶対君臨者たる我が君!名を口にするのも恐れ多い闇の帝王様!

 

 

 

 

 

 初めてあのお方への謁見がかなった時のことを、『バーティ』は昨日のことのように思い出せる。

 

 あのお方はバーティのことを知っておられた。汚らわしい、同じ名を持つだけで死にたくなる父のことを貶し、見下し、そしてバーティはそれとは全く関係がないといたわってくださった!自分の能力と忠誠心を、買ってくださった!

 

 ・・・後に、あの方はこっそりと語ってくださったのだ。

 

 あの方もまた、汚らわしい父親の名を、役立たずの母に名付けられ、それを名乗らされることになったのだと。

 

 バーティはますます感激した。そのような出自、普通は隠しておくものだ。それを、自分にだけは教えてくださった!さらには、そのような出自を持っていようと素晴らしいお力をもって、魔法界に君臨されているのだ!

 

 バーティが、心底から闇の帝王に忠誠を誓うようになったのは、この時だった。

 

 何がどうなろうと、自分だけはこのお方についていく。たとえこの世の終わりが訪れたとしても、自分だけは傅き続けてみせる・・・と。

 

 

 

 

 

 クラウチ邸にいたペティグリュー(小心者)と、あのお方をこの異世界に招いたのは、『バーティ』だ。

 

 父にかけていた服従の呪文がばれ、クラウチ邸に闇祓いと魔法警察の強制捜査が入ることになった時点で、『バーティ』は二人をこちら側に引きずり込んだ。

 

 生贄としてではない。保護するために、だ。

 

 事実、我が君には最も安全な場所においでいただき、定期的に様子を見に行って(最初は混乱なさっているようだったが、事情を説明するや何事か考えこんでおられるようだった)、望まれるならこの異世界の様子が自在に見えるようにしておいた。

 

 『バーティ』にとっては、至極簡単なことだ。

 

 ペティグリュー?どうでもいいだろう。生贄としても不適格、我が君を手助けしてたから生かしておくが、そうでないなら放置でいいだろう。

 

 ・・・むしろ、我が君の慈悲に奴は感謝すべきなのだから。

 

 

 

 

 

 ペティグリューといえば。

 

 奴が闇の帝王に、下らない予言をもたらしたのだ。

 

 あのお方を打ち破るものが生まれる?バカバカしい!

 

 だが、すべてにおいて慎重であり万全を期されるあのお方は、そのような些事であっても聞き入れられてしまった。

 

 その結果、手勢を連れて襲撃に向かったポッター家で、あのお方はお姿を消した。

 

 本当はバーティも、レストレンジ夫妻と共にお力になりたかったが、別件を言いつけられており、同行できなかったのだ。

 

 そして、あのお方は力の大半を失い、見るも無残なお姿に落ちぶれられてしまっていた。

 

 なんと御労しい!

 

 かりそめの肉体でひとまず動けるぐらいになっているあのお方は、震えながら平伏するペティグリューに詰問していた。

 

 自分を殺した男――セブルス=スネイプの存在について。

 

 “忠誠の術”を過信している馬鹿なポッター――しかも不死鳥の騎士団の精鋭を自称しつつ赤子連れというおおまぬけを、奇襲で仕留められないわけがない。

 

 そう確信していた闇の帝王の計算のすべてを狂わせた男。聞けば、どこから紛れ込んだか、闇の帝王を卑劣にも背後から不意打ちし、十全に力を発揮できない状態にして手勢のすべてを皆殺しにした挙句、その肉体を失わせてしまったというのだ。

 

 闇の帝王は、ペティグリューがポッター夫妻惜しさにスネイプを引き入れたと思い込んでいるらしい。

 

 予言をもたらしたのはペティグリュー。そして、そのペティグリューとスネイプはホグワーツの同期であったという。

 

 ああ、そうだ。バーティにも確かに覚えがある。

 

 スリザリンにいる、陰気で小汚い先輩。仲のいいレギュラスの手前黙っていたが、やせぎすで脂っぽい髪はべったりしてて、魔法薬オタクのせいで薬草臭い、しかも口を開けば慇懃で表情も変えない、何を考えているかわかない不気味な男だ。

 

 なぜレギュラスがああもなついているのか、よくわからなかったものだが。

 

 後は・・・グリフィンドールのいたずら仕掛人(マローダーズ)に事あるごとに絡まれていた。よせばいいものを、馬鹿正直に相手をして、やり返そうとまでしていた。

 

 ・・・これはレギュラスの手前口にはしなかったが、半純血の半端者で、あんな小汚い奴、痛い目に遭わされて当然だと思っていたのだが。

 

 我が君は、セブルス=スネイプと3年前に賢者の石を求めてホグワーツに潜り込んだ際に再会し、再び手傷を負わされてたたき出されたという。

 

 その時に名前を聞いたことで、その素性を調べ上げ、ペティグリューとの関係も知ったのだそうだ。

 

 ペティグリューは平身低頭で、知りません!奴が絡んでくるなんて思ってもみませんでした!誓ってしゃべっていません!本当です!自分はむしろ、退学した奴はとっくに死んだと思ってました!などと言い訳していた。

 

 どうだか。怪しいものだとバーティは思っている。根拠?我が君が疑っているのだから、当然だ。

 

 我が君は、ペティグリューに開心術を使い、一応信用はされているようだった。

 

 ペティグリューが言い訳するには、スネイプはペティグリューが動物もどき(アニメーガス)であり、さらにはポッター夫妻を売ったこと、予言を漏らしたことまで見抜いており、それを相当恨んでいたらしく――学生時代の恨みも含めて(当然だろう。あれはバーティでも恨む)、散々殴られたらしい。

 

 これで自分が奴の味方だという方がおかしい!と言い訳してきたが、それを聞いたバーティは怪しいものだと思っていた。

 

 何しろ、魔法使いがマグルのように野蛮に拳をふるうなど、ありえない。拷問に魔法を用いないなど、嘘に決まっている、と。

 

 以上が、バーティは服従の呪文による多幸感のせいで幕一枚隔てたような現実味のかけたあいまいさの中で、聞いていたことだ。

 

 

 

 

 

 だが、闇の帝王はペティグリューのあんな馬鹿気た言い訳を否定なさらなかった。開心術を使ったからかとその時は思っていたが、後にこう思いなおしたのだ。

 

 我が君は以前奴と対峙されている。奴はその時も魔法は使わずに、マグルのような野蛮な手段で戦っていたのでは?だとしたら、我が君はそのやり方に心当たりがあった。だからペティグリューの言い訳を、嘘だと決めつけなかったのだ。

 

 ・・・やはり奴も所詮は穢れた血の片親を持つ、生まれ損ないだ。魔法に頼らない、マグルのような野蛮な戦い方をするなど。

 

 帝王様のご尊顔に泥を塗るどころか、クソ爆弾を投げつけて唾棄するような真似をした輩など、けして生かしてはおかない。あらゆる苦痛を味わわせて殺してやる。

 

 いや、奴は聖母様の糧にするべきだ。ひそかにそう決めていた。

 

 

 

 

 

 そんなことを内心で思い返している『バーティ』とガタブル震えているペティグリューの頭上に、我が君の威厳溢れる(『バーティ』はそう思っている)声が降り注ぐ。

 

 『狩人・・・セブルス=スネイプだと?!』

 

 「へあ?!」

 

 「わ、我が君、何とおっしゃいましたか?!」

 

 間の抜けた声を出すペティグリューをよそに、思わず『バーティ』は訊き返していた。

 

 だが、『バーティ』の問いかけを無視して、闇の帝王の怒り狂った声が雷鳴のごとく降り注いでくる。

 

 『奴め!セブルス=スネイプめ!忘れはせぬぞ!13年前のあのハロウィーンの夜!

 奴は狩人だと確かに名乗っていたのだ!

 あの卑しい半端者の分際で!俺様を狩るだと?!笑わせるな!』

 

 「なんと!

 ! 申し訳ございません!」

 

 思わず『バーティ』はそう声をあげてしまったが、すぐさま非礼をわびた。

 

 我が君のお言葉をさえぎるなど!何たる無礼を働いてしまったのだ!

 

 『かまわぬ、バーティよ。

 狩人といったが、どういうことだ?』

 

 「はっ。儀式は順調に進んでいるのですが、こと、ここにいたって邪魔者が入ったのです。

 奴は狩人を名乗り、奇怪な武器を操り、どうやってかこの世界に入り込んできたのです。

 生贄として我が支配下にある者たちも、奴に消滅させられているようなのです」

 

 『奇怪な武器だと・・・?まさか、ノコギリのような武器と、銃ではあるまいな?

 服装は?顔の見えぬ黒ずくめに、長い黒髪を首の後ろでくくっていたか?』

 

 「いくつか別の武器を使っているようでしたが、おっしゃるような武器も使っておりました。

 服装も、先ほど見かけたときは違っておりましたが、最初の方はおっしゃるような衣服をまとっておりました」

 

 『やはりそうか!奴め!どこで嗅ぎ付けおった?!』

 

 再度怒りに満ちた声を上げる帝王は、冷たい怒声を張り上げて命じられた。

 

 『バーティよ!その“狩人”こそ、セブルス=スネイプ・・・俺様をこのようなありさまにした怨敵だ!』

 

 「なんと!」

 

 「ええ?!あれが、スネイプ?!

 そ、そういえば、声が同じだったかもしれ・・・ません・・・」

 

 はたと思い当たったらしいペティグリューがぼそぼそと青い顔でつぶやいている。(『バーティ』は知らないことだが、散々殴られたことを思い出した後、殺されそうになったところを縋り付いて命乞いしたことも思い出したらしい)

 

 どうでもいいことだ。

 

 『バーティよ!奴を捕らえよ!生かして俺様のところへ連れてくるのだ!』

 

 「何と我が君!よろしいので?」

 

 思わず、『バーティ』は問い返す。

 

 きっと、闇の帝王様ならば目の当たりにするのも悍ましいと、『バーティ』に即刻抹殺を命じられると思っていたのだが。

 

 『殺してはならぬ。俺様には重要な計画がある。奴はそれに必要なのだ。それから、そこにペティグリューがいるな?

 奴を俺様のところに連れてくるのだ。奴も必要だ。

 ここの化け物どもの餌にするのは、その後でもできよう』

 

 なるほど、と『バーティ』はうなずいた。

 

 あのお方の崇高な脳髄には、『バーティ』には及びつかない計画があるようだ。

 

 さすがは至高にして至尊のお方だ!

 

 「仰せのままに」

 

 恭しく深々と一礼するや、『バーティ』はペティグリューの腕をつかんで、そのまま空気に溶けるように彼もろとも姿を消した。

 

 

 

 

 

 なお、セブルスは突如出現した地面に瞬間足場設置の呪文を唱える間もなくたたきつけられ、体勢を立て直すより早く、そこに出現していた化け物数体にタコ殴りにされて死亡、僻墓にたたき出されていた。

 

 出直し確定であった。

 

 

 

 

 

続く

 




【バーティ=クラウチJr.のへその緒】

 バーティ=クラウチJr.の出産後、彼から切断されたへその緒。保存用の粉末魔法薬をかけられたうえで、保存箱に入れられて保管されている。

 へその緒は生命力につながっている。それを失えば病弱になったり呪われやすくなるとされ、特に純血貴族たちは子供たちの成人までそれを保管するようになった。

 息子の投獄後、我が子のものをすべて処分しようとするクラウチ氏の暴虐から、クラウチ夫人はへその緒だけは守り通した。

 シーツの下のやせ細った手で、握りしめられた箱の中には、虫の息で産み落とした我が子のへの愛だけが詰まっている。





 ハリーJr.は両親のおかげでまともですし、ドラコはメイソン一家との交流で原作よりも穏健になっています。

 でも、そうじゃないスリザリン生だっています。セブルスさんは“穢れた血”をNGワード扱いしてますけど、彼のいないところならああいうことやらかしている生徒だっているってことです。

 まして、コリンはマグル出身で、尊敬するべき寮監が停職するきっかけ作ったわけで。本人が意図したわけではないってのは、すでに第5楽章6でやりましたけど、そんなのほかの学生にはわかることではないわけですし。

 原作ハリー少年への噂とかの風当たりを見ていると、こういう反応されてもおかしくなさそうと思いまして。





Q.郵便屋さん、何販売してるんですか(困惑)

A.ハワード=ブラックウッドは、海外製サイレントヒルの登場キャラです。初のRPG作品となったブックオブメモリーズにて、主人公のもとに事件のきっかけとなる本をもたらすほか、悪夢の世界でアイテムショップをされていたりします。
 というわけで、本シリーズでも訊かれたら、色々販売してくれます。
 ・・・ぶっちゃけ、彼が何者なのかは、私の方が聞きたいくらいです。



 Q.セブルスさん、あっさり死に過ぎでは?

 A.フロムのアクションRPG出身の主人公が、完全初見の地形変化に急に対応できるわけないだろ!いい加減にしろ!





 次回の内容は、見つからない遺体に闇祓いのおっさんたちは大慌て!

 一方のホグワーツではコリン、ロナルド、ネビルのお話その2、ハーマイオニーも添えて。悪い子たちじゃないので、何を思い、どう行動するのか。おいおいやっていきますのでね。

 異世界では、レギュラスミーツおっさん。え?ヒロイン?そんなものはいません。(無慈悲)お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。