セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 かなり昔、2~3年ぐらい前に書いたのが、とりあえずここまででした。

 評価やお気に入り登録のおかげで、やる気がモリモリ上がってきたので、続きを鋭意執筆中です。

 本当にありがとうございます。

 とりあえず第0楽章を載せ終えたら、チラ裏から出してみましょうか。なんてね。


【5】セブルス=スネイプ、原点〈オリジン〉

 

 「・・・そうだな。まずは先ほど行っていた場所での出来事から話すとするか」

 

 口づけていた紅茶のカップをソーサーに戻しながら、セブルスは口を開いた。

 

 

 

 

 

 ヤーナムで手に入れた“狩人呼びの鐘”によって、他世界の狩人からの助力要請が入り、それに応えたため、別の次元に転送、そこでの戦闘をこなす羽目になったこと。

 

 そこでわかったのは、どうもリリー=ポッターが自分に助力要請をした“要請者(ホスト)”であり、その希望が彼女とその赤子の命を狙ってきた“闇の帝王”とその配下である“死喰い人”の排除であったということ。

 

 希望に沿って、彼らを蹴散らし、“闇の帝王”を仕留めて、こちらに戻ってきたということ。

 

 

 

 

 

 それらを話し終えたときには、レギュラスは青ざめた顔でこちらを見ていた。

 

 「待ってください。ええっと?つまり?先輩はヤーナムとかってところで手に入れた魔導具の力で、“闇の帝王”のところに行って直接対決してたんですか?!」

 

 「ざっくりいえばそうなるな」

 

 しれっとセブルスは答える。ついでに内臓攻撃で腸管を引っこ抜いてやった。

 

 「何でそんなにあっけらかんとしてるんですか!」

 

 「厳密にはこの世界の“闇の帝王”本人ではない。平行世界の“闇の帝王”のはずだ。こちらで起こったことではない」

 

 「え・・・」

 

 セブルスの言葉に、レギュラスは顔をこわばらせる。

 

 彼もまた、言葉の意味を察したのだ。

 

 

 

 

 

 “狩人呼びの鐘”“共鳴する小さな鐘”“共鳴する不吉な鐘”、これらのアイテムはあくまで他の時間軸・次元――いわゆる平行世界の狩人に干渉する。

 

 “狩人呼びの鐘”は、この世界に平行世界の狩人を呼びだすというものだが、他二つはこちらが平行世界に赴いて(係わる形がどうであれ)干渉するというものだ。

 

 先の出来事は、あくまで似て非なる世界で起こった出来事であり、この世界そのもので起こった出来事ではない――はずだ。

 

 ただ、ヤーナムや聖杯ダンジョンは、この世界とは紙一枚異なる次元に存在している可能性もあり、あの場所そのものが、どういった場所であるのか、上位者となった今でさえ、セブルスは把握しきれていないのだ。

 

 

 

 

 

 ――リリー・・・。

 

 静かに、セブルスは目を伏せた。

 

 あの場所が何処であったのか、セブルスには知るすべはない。ただ、“共鳴する小さな鐘”の音が、彼を導いたにすぎないのだ。

 

 第一、あの場所の時間が、ハロウィーンの真夜中――セブルスの存在している時間と一致しているかも怪しい。

 

 つまりは、『“闇の帝王”がポッター家を襲撃する』という事象はわかっても、セブルスがそれを防げたのは平行世界の出来事でしかなく、この世界でそれがいつどこで発生するのかわからないということだ。

 

 

 

 

 

 『闇の帝王を打ち破る力を持ったものが近づいている

 

 7つ目の月が死ぬとき、帝王に三度抗った者たちに生まれる』

 

 

 

 

 

 セブルスの脳裏をよぎるのは、ホッグスヘッドで聞いてしまった、あの予言である。“不死鳥の騎士団”の活動は、ルシウスなどを通じてセブルスの耳にも届いている。

 

 聞こえてしまった時は、うんざりしたし、まさかと思いはした。

 

 思いはしたが、どうせダンブルドアが守るだろうと特に手出しせずに放置することにしたのだ。

 

 何より、血と狂気と冒涜に塗れた自分が彼女に係わるなど、なんて恐れ多い。

 

 

 

 

 

 「先輩・・・その・・・」

 

 そんなセブルスを見て、レギュラスはモゴモゴと口ごもった。

 

 ホグワーツでの、セブルス=スネイプに関することは、それなりに有名だった。特に、スリザリン生であれば。

 

 「先輩は、まだ、リリー=ポッターを好きなんですか?」

 

 「・・・わからん」

 

 ポツリッとセブルスは言った。

 

 「わからなくなってしまった。こう見えて、私の人間性は、ひどく摩耗されてしまっているのだ」

 

 そう言って、スッとセブルスの目が、レギュラスを捉える。

 

 宇宙の深淵のような。新星のきらめきのような。不思議な宇宙色の双眸をしていた。黒であることに変わりはないはずなのに、彼の瞳はこのような色はしてなかったはず、とここに来て初めてレギュラスは気が付いた。

 

 同時に、彼は確信した。

 

 ここからが、セブルスの“秘密”だ。多分、聞いてしまったら、二度と後戻りはできない。

 

 「長い長い、話だ」

 

 そう言って、セブルスは話し出した。

 

 長い長い、獣狩りの夜を。彼の、第2の始まりを。

 

 

 

 

 

 退校して突発的な逃避行先であった、古都ヤーナム。そこに訪れた、獣狩りの夜。

 

 徘徊する蕩けた瞳の、もとは人であった、人食いの獣たち。

 

 断絶した記憶の中、ヤーナムの血を入れられて、狩人として古都を駆け抜け、獣を狩ることとなったセブルス。

 

 杖を振り呪文を唱えようと魔法はほとんど役に立たず、凶悪な仕掛け武器と銃火器は、いつしか杖よりも手に馴染むようになった。

 

 狩りに酔い、血に酔い、戦いに酔い、獣を狩り、狂った狩人を狩り、上位者を狩った。

 

 そして同じくらい、失敗して殺され続けた。獣の爪牙に喉を食いちぎられ、腸を貪られた。狩人の仕掛け武器に八つ裂きにされ、臓物を引きちぎられた。上位者に縊られちぎられ、押しつぶされ、焼き殺されもした。

 

 何度も何度も。しかし、セブルスは死ななかった。“死んだ”としても、次の瞬間には“狩人の夢”で目を覚ましてしまうのだから。

 

 それはまるで、悪い夢のように。

 

 だが、獣の病蔓延の原因であるメンシスの儀式を潰したというのに、助言者の介錯を受け入れ、悪夢から目覚めた・・・かのように思われたが、すぐに一番最初の診療所の治療台の上で目を覚ましてしまうのだ。

 

 何度も何度も、繰り返した。

 

 挙句には、いっそお前が悪いのかと助言者であるゲールマンさえも斬った。

 

 だが、その後現れた月の魔物に絞め殺され、気が付けば再び診療所の治療台の上だった。

 

 どうすれば終わる。夢は、いつか覚めるものだ。

 

 だが、悪夢は終わらず、巡ってしまう。

 

 かつて、狂った学徒が言い放った、その言葉の通りに。彼は狂っているがゆえに、正しかった。

 

 月の魔物が元凶だと気が付いてからは、セブルスはそれと対等に渡り合うことを考え始めた。

 

 月の魔物は上位者である。それ以外にも上位者はいるが、彼らはわざわざヤーナムや悪夢という、人間の住まう領域に下りてきていた。こちらから干渉しようと思えば干渉できる状態だったのだ。

 

 対し、月の魔物はそれができない。彼はこちらの手の届かない高次元に棲んでいるのだ。ヤーナムや悪夢は絵本、人間はそこに描かれている挿絵で、月の魔物はそれを描く存在、と言えば分るだろうか。

 

 高次元に棲まう上位者を狩るには、同じ領域に行くしかない。

 

 だから。

 

 

 

 

 

 セブルスは、上位者になった。

 

 脳のうちに瞳を得て、啓蒙を高め、血の遺志を力に変え、何者の血もその身に取り込んだ。

 

 ヤーナムを離れた今となっても、彼にとっては死すらも夢からの目覚めに過ぎないのだ。

 

 だが、それ以上に。

 

 

 

 

 

 「私は、狩人だ」

 

 セブルスは、告げた。

 

 もはや魔法使いである前に、そうであるようになってしまった。

 

 「獣を狩り、狂った狩人を狩り、上位者を狩り。狩りに酔い、血に酔い・・・。

 

 もはや何のために狩りをしていたかわからなくなるほどに。

 

 何一つ、誰ひとり、守れなかった分際で」

 

 言葉に直し、セブルスは宇宙色の目を閉じて静かにうなだれた。

 

 そこにたどり着くまでの、悲劇と狂気の堂々巡りを、瞼の裏で回想する。体感時間に直し、100年ほどだろうか。あの町での出来事は、セブルスを大きく変えてしまった。

 

 

 

 

 

 月の魔物を倒し、真の意味で獣狩りの夜を終わらせ、やっとのことでヤーナムの外に出られたとき、確かにセブルスはほっとしたのだ。

 

 もう、終わったのだ。

 

 穢れた獣も、気色悪いナメクジも、頭のイカれた医療者どもも、みんなうんざりだった。あの熱狂的な連盟の長の言うとおりに。

 

 その後、世界一周しても、結局自身に染みついた狂気と啓蒙と血に導かれてか、行く先行く先、頭のおかしくなりそうな事件に出くわし、もういい、もうたくさんだと帰国した。

 

 だが。今こうして、イギリスの片隅で平穏に耽溺してみれば、あの頃のことが恋しくなる。狩りが恋しい。夜が恋しい。血が、恋しい。

 

 右手には杖ではなく仕掛け武器、左手には銃火器、纏うはローブではなく狩装束。

 

 呼び出した聖杯ダンジョンで獣を仕留め、しとどに血に濡れ、狩りと血に酔いながら、セブルスは悟った。

 

 ああ、自分はもう、かつてのセブルス=スネイプではないのだ、と。

 

 

 

 

 

 セブルスは苦笑する。

 

 愛する人を失い逃避の果てに、狩人となり上位者となった。

 

 そのさなか、人間性は啓蒙と狂気に蝕まれ、ほとんどなくなったと思っていた。

 

 だというのに、いまだに女々しく、自分は失ったはずの人間性にすがりついている。

 

 それは、リリーの姿かたちを取って、セブルスを正気につなぎとめている。あるいはレギュラスの形をとって、良識を説いて見せている。

 

 わかっているのだ。本当は自分が、優しい彼らのそばにいる資格などないということなど。

 

 オルゴールを思い出せ。少女の血塗れのリボンを思い出せ。

 

 何一つ守れない自分が、誰かのそばにいるなど、笑わせる。

 

 

 

 

 

 うつむいたまま自嘲の笑みを密かに浮かべ、ソファの肘掛けにゆるく頬杖をついたセブルスに対し、レギュラスはしばし黙していた。

 

 ややあって。

 

 「ボクには・・・わかりません」

 

 ポツリと、レギュラスが言った。

 

 「先輩が、ヤーナムというところでどれほどの苦労をなさったのか。

 

 上位者とか、血の医療とか、よく、わかりません。

 

 すみません・・・けど!」

 

 ぐっと顔を上げ、勢いよくカウチから立ち上がるや、レギュラスはセブルスのソファの前に仁王立ちし、彼を見下す。

 

 「先輩は、変わってしまったかもしれませんが、変わってないところもあります!

 

 ボクを助けてくれたじゃないですか!

 

 平行世界だろうと、ポッター夫人を助けたじゃないですか!

 

 先輩は、先輩です!ひねくれてるけど、優しいままですよ!

 

 だから、大丈夫です!」

 

 ビクッと体を震わせて、顔を上げたセブルスに、レギュラスはにっこりとほほ笑み、その手を握った。

 

 「この手が、ボクを助けてくれたんです。

 

 もう一度言いますが、助けてくれてありがとうございます。先輩。

 

 それから、そんな大事なことを話してくださったことも」

 

 「・・・ああ」

 

 ぶっきらぼうに、セブルスは答えた。

 

 その薄い唇が、安堵の息をこぼしていたのを、レギュラスは聞き逃さなかったが、何も言わなかった。

 

 セブルスは、無意識のうちに体に入っていた力を抜いていた。

 

 情けない。脳に瞳を得て思考の次元を引き上げたとて、結局のところセブルスは、幼いまま変わってないのかもしれない。

 

 否。幼くて当然なのだ。なぜなら彼は、まだ赤子なのだから。上位者の、赤子なのだから。

 

 

 

 

 

 安心したと同時に、ぐらりとセブルスの視界が揺れた。焦点が合わなくなってぶれて、物が二重に見える。

 

 「?!」

 

 とっさに額を押さえて首を振るが、全く視界が安定しない。こんな体調を崩すなど、上位者となってから――どころか、ヤーナムに足を踏み入れてから、一度もあったことがないというのに。

 

 レギュラスの見ているセブルスの姿も、一瞬黒い靄のようなものがかかり、すぐさま晴れる。

 

 「先輩?!」

 

 ギョッとしたらしいレギュラスに、セブルスは直感する。

 

 なぜかはわからない。いや、わかるかもしれないが、考えている余地がない。ただ、これだけはわかった。

 

 今の自分は、“セブルス=スネイプという人間”の姿を取っている上位者だ。それが、できなくなりかけている。理由はわからないが、上位者の赤子本来の姿に戻りかけている。

 

 「すまないが、先に休む。さすがにくたびれた」

 

 残りの紅茶を飲み干して、ふらりとセブルスが立ち上がる。

 

 「あ・・・すみません」

 

 申し訳なさそうな顔をするレギュラスに、セブルスは苦笑する。

 

 「明日はおそらく、起きるのが遅くなるだろうが、寝室に入らないでくれ。頼むぞ」

 

 そう言い残して、彼は踵を返して、自室に引きあげる。

 

 服を着替えるのもおっくうのまま、ベッドに倒れ込む。直後、その姿がゆらりと黒霞のように揺らめいて。

 

 セブルス=スネイプの姿は完全になくなり、出来損ないのイカのようにもナメクジのようにも見える、不気味な黒い軟体生物が、ポツンとそこに横たわっていた。

 

 「お休みなさい、狩人様。あなた様の夢が、よきものでありますように」

 

 ティーセットを片付けながら、寝室の方を振り返ったメアリーがポツリと、そうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 セブルスは知らない。

 

 彼が偶然耳にして、さらにそれをはっきりと聞いたとある人物によって、魔法省地下神秘部に収められた、予言の水晶玉がパンッと音を立てて独りでに粉々に砕け散ったことなど。

 

 世界の強制力の具現、あるいは予定調和の固定に近い、予言の破壊を行ったことにより、セブルスは無意識に、世界の因果律に干渉するという、上位者としての力を使ってしまい、そのため人間としての姿さえ保てないほど消耗してしまったということに。

 

 この時点の彼に、知る由もなかった。

 

 

 

 

続く

 

 





【砕けた水晶玉】

 魔法省神秘部に収められた、予言の入っていた水晶玉。今は砕け、単なる水晶片となっている。

 その持ち出しには、本来は収められた予言に関わる人物でなければかなわない。

 予言は外れ、水晶は砕かれた。闇の帝王は、比肩する者に刻印することなく、力を失うことになるだろう。




 かくして、ハリー=ポッターは主人公じゃなくなりましたとさ。
 ダーズリー一家による虐待ルートも消滅するよ!やったね!

外伝(ポッター家周辺惨殺現場、予言、シリウス裁判関連のあれこれについて。ブラボ要素はほぼ皆無)を読んでみたいですか?

  • もちろん!すぐに!
  • サイレントヒル2編の後で!
  • 第1楽章終了後で
  • むしろプリンス家関連の話の方がいい
  • 興味ないです
  • その他!
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