セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 お久しぶりです。

 前回は、評価、お気に入り、ここ好き、しおり、誤字報告、ありがとうございました。

 遅くなって申し訳ありませんでした。

 もうちょっとストックを作りたかったのですがね。

 後、今回主人公の出番がほぼないです。

 どうしてこうなった?!


【10】足踏みコリンと、ネビルとロナルド、ハーマイオニー

 

 何が起こっている?どうしてこうなっている?

 

 キングズリー=シャックルボルトはたたき上げの闇祓いの一員である。

 

 次期局長にも目されているほどであるが、彼自身は自分にできる範囲のベストを尽くしているにすぎない。

 

 シャックルボルトは、闇祓いの一員としても、その手の知識には長けているつもりだ。だが、こんな形態の魔術儀式、聞いたことも見たこともない。

 

 ・・・まあ、むやみやたらに闇の魔法について調べまわっていると、いくら対抗手段を探すためだとこちらが主張しても、「そんなこと言って、本当は闇の魔法に魅入られたんだろ?」と疑いをかけられることもあるので、あまり深入りはできないのだが。

 

 特に、純血出身の魔法使いは、そういう目で見られやすいのだ。(誰のせいとは言わないが)

 

 とにかく、そういった世間一般には闇の魔法と分類される魔法・魔術儀式の形態についても詳しいはずのシャックルボルトにすら、何が起こっているかわからなかった。

 

 現局長のスクリムジョールですら。

 

 「な、何が起こっているのだ・・・?」

 

 かすれた声で呆然と呻くスクリムジョールに、シャックルボルトはとにかく正気付けようと声をかけた。

 

 「しっかりしてください、局長!

 クラウチJr.が生きてる可能性があるとわかったなら、やるべきは一つでしょう!」

 

 「あ、ああ。そうだな」

 

 どうにかうなずいて、指揮を飛ばし始めるスクリムジョールをよそに、シャックルボルトはもう一度、それをのぞき込んだ。

 

 クラウチ邸の庭先だった。

 

 芝生が引きはがされていたので、そこを探り当てるのは容易だった。

 

 土中から引っ張り出され、こじ開けられた棺の中身は空だった。

 

 蓋の裏面に刻まれた“11121”の数字の存在が、彼ら全員に異様さを物語っていた。

 

 クィディッチワールドカップを皮切りに起こった、数字付きの遺体による連続殺人事件の存在は、もちろん闇祓いの部署を悩ませていた。

 

 この恐るべき連続殺人事件の犯人であるはずの男は、すでにアズカバンに収監されて獄中死している。

 

 だから同一犯であるはずがなく、誰もが模倣犯であると決めつけていたのだ。

 

 だが、ここでとんでもない方向から衝撃がもたらされた。

 

 『クラウチJr.が実は脱獄しており、指名手配されているピーター=ペティグリューの手を借りて自由になっている』

 

 “服従”させられていたクラウチ氏が言うにはクラウチJr.は自殺したとのことだが、錯乱しているため、その真偽は怪しいところだ。

 

 別の部下からの進言もあり、念のため遺体の有無を確かめようとなり、庭先に埋められたという棺を暴いてみればこの有様である。

 

 ・・・ちなみに最初、スクリムジョールはともかく、事情を知ったファッジは棺を暴くことを渋った。

 

 確かに、死者を冒涜するような真似は、だれしもやりたくはないだろう。

 

 ・・・余り声を大にしては言えないが、ここしばらくの魔法界上層部のありようとして、『臭い物に蓋をする』という方針がとられがちというのもあるのだ。

 

 だが、そこは局長のスクリムジョールはもちろん闇祓いたちが総動員で、ファッジに無理やり認可させた。

 

 臭いものに蓋をしたがるのは分かる。

 

 だが、それをやったホグワーツがどうなったのか。そうして、そのしりぬぐいにどれだけの人員が割かれているのか。知らない、わからないとは言わせない。

 

 これ以上トラブルを隠蔽して、よそに被害が波及すればどうなるか。

 

 ほころびはまだ小さなうちならどうとでもなるが、大きくなってどうしようもない裂け目となっては手遅れなのだから。

 

 そうして、暴かれた棺を目の当たりにしたのが今さっきの話だ。

 

 現実味を帯びてきた。

 

 実はクラウチJr.が自殺したというのは錯乱したクラウチ氏の妄言で、クラウチJr.は生き延びて、例の連続殺人の続きをやらかそうとしているのではないかということが。

 

 リータ=スキーターの記事を勝手に掲載許可したということで、今の魔法大臣ファッジは喧々囂々の非難塗れである。特に純血貴族からは厳しい目で睨まれていて、退陣は時間の問題だ。

 

 で、そこでクラウチJr.の脱獄と連続殺人の続行の可能性が発覚すれば。

 

 終わったな、ファッジ。

 

 言葉にこそ出さなかったが、だれしもそう思っていた。

 

 シャックルボルトは、視線を空の棺から引きはがし、邸宅の二階窓へ向けた。

 

 奥方の寝室がある場所には、窓にまで板が打ち付けられ、完全に密室にされていた。

 

 クラウチ氏が言うには、妻との思い出を誰にもけがされたくなかった、“管理”している息子が一度勝手に入って荒らしそうになったから、とのことだった。

 

 こいつに人の心はないのか?

 

 それを聞いたシャックルボルトは思わず、クラウチをその場で武装解除呪文で吹き飛ばしてしまった。

 

 自分と引き換えにアズカバンで獄死した母に対し、息子が何も思わないわけがないだろう。母が生前いた場所で、何か思うところがあっただろうし、ひょっとしたら連続殺人や死喰い人の悪行について何か顧みていたかもしれないだろうに、それをも許さないとは、何様のつもりだ?ああ、偉大なるお父様(管理人様)だったか。ふざけるな。

 

 なお、クラウチ氏の話を聞いた大勢の職員たちが、家族に手紙を出したり、帰宅をこまめにやったりとし始めたのは余談である。

 

 人の振り見て我が振り直せ。クラウチ家のありようは反面教師にはなっただろう。

 

 いずれにせよ、クラウチJr.がどこにいるのか、何を目論んでいるのか、きっちりかっちり調べ上げ、それを阻止しなければならない。

 

 ・・・余り歓迎できない事態ではあるが、背後に“例のあの人”がいる可能性も考えておくべきかもしれない。

 

 ついでに、こういう時に限ってダンブルドアは何も言ってこなかったりする。(行方不明になっていようと、あの老人のシンパはそこら中にいる)

 

 まあ、今の再編途中の魔法省に帝王復活なんて爆弾放り込んだら、ファッジでなくとも怒声を張り上げて言いだした人間につかみかかることだろう。

 

 というか、もう10年以上経つのだから、いい加減死んでいるのでは?

 

 言葉に出さずと、誰もがそう思っていることだろう。実際、シャックルボルトもそう思っている。

 

 大体、魔法界における失踪届で死亡確定になるのが、届け出が受理されて7年音沙汰がなかった場合になるのだ。音沙汰がないなら、普通に死亡にカウントしてもいいはずだ。

 

 まだ帝王の生存をしつこく信じているのは、アズカバンにいる熱狂的狂信者、そして・・・ダンブルドア(おまけで彼の熱烈なファン)くらいなものだろう。

 

 狂信者どもはともかく、敵対勢力中核であるはずのダンブルドアがなぜしつこく“例のあの人”生存を信じているか不思議なものだ。(3年前の賢者の石がらみの騒動、一昨年の秘密の部屋騒動の背後にある者などは公になっていないのだ)

 

 シャックルボルトとしては、あの老人の頭の良さと秘密主義からして、何か“例のあの人”の切り札じみた仕掛けを知っており、確証がないからという理由で黙っているが、だからこそ生存を信じているのでは?と思っている。

 

 なお、過激派真っただ中のスクリムジョールはダンブルドアも同類認定してて、倒すべき敵がいなくなっては困るんだろうと思っているらしい。

 

 ダンブルドアのファンに対しては、シャックルボルトもスクリムジョールも大して問題視はしていない。あの連中は、賢人ダンブルドアが言うならそうなんだろうと右向け右!よろしく妄信しているので、ダンブルドアがいなくなればどうすればいいかわからなくなるだろうと思っているのだ。

 

 以上を踏まえ、ひそかにシャックルボルトが懸念していることが一つある。

 

 もし・・・万が一、例のあの人が復活した状態でファッジが退陣しようものなら、実力あるスクリムジョールが魔法大臣につくかもしれない。そして、そうなったら過激なやり口で味方をも潰し、かえって敵を増やすことになりそうだ。

 

 今の時点ならあまり気にすることはないのだが・・・そんな未来が訪れないでほしいとシャックルボルトは思っている。

 

 シャックルボルトの考え過ぎと言われればそれまでなのだろうが。

 

 とにかく。

 

 今できるのは限られている。

 

 どこかに逃げだして再び身を隠してしまったペティグリューと、脱獄したクラウチJr.の身柄を確保する。

 

 それから、もう一つ。

 

 「今穏健で話が通じそうなのは・・・マルフォイか。ブラックとロングボトムもいけるか?」

 

 一人シャックルボルトはごちた。

 

 例の数字が引っかかる。

 

 もし、クラウチJr.が帝王の命令で何らかの魔術儀式を実行、その過程で連続殺人が必要で、数字を刻むのがその条件だとしたら。

 

 だが、いかんせんシャックルボルトの知識にも、そんな形態の魔術儀式は存在しない。他にその手の知識に詳しそうなのは、古くから続く名門の純血貴族くらいしか思いつかない。

 

 聖28家の一員で、現状話が通じそうな面々を思い浮かべながら、シャックルボルトも踵を返した。

 

 後は・・・今までの数字付き殺人事件の犠牲者の一部は、突然失踪してから次に見つかったら死体であったということなので、前触れなく失踪した人間の早急なチェックが必要だ。

 

 そうして、彼は空の棺を見やった。

 

 ちらと考えなかったでもない。もし、本当にクラウチ氏の言うとおり、クラウチJr.が自殺していたのだとしたら・・・。

 

 バカバカしい。

 

 彼はすぐさま視線を棺から引きはがし、門に向かって歩き出す。

 

 死者は蘇らない。こぼれたミルクをコップに戻すことはできない。魔法とて、万能ではない。

 

 だが、熟練の闇祓いの彼は薄々察している。闇の魔法と呼ばれるそれらも、所詮その一端でしかない。もしかすると、その奥深くさらに悍ましい何かがあるのかもしれない。

 

 その何かであるならば、あるいは・・・と。

 

 

 

 

 

 はあはあと息を切らしそうになりながらレギュラスは走っていた。

 

 異世界の異形の化け物どもに追われているわけではない。というか、それだったらまだマシだった。

 

 「待てぇブラック!逃がさんぞ!おとなしくこの魔法を解いて、儂を元の場所に戻せ!」

 

 「違います違います!なんで僕の仕業なんですかあああ?!」

 

 鬼の形相で各種攻撃魔法をぶっぱなすのは、壮年の男だ。

 

 鷹のように鋭いまなざしに、左目に対して異様に大きな青い右目。くるくると動き回るそれは、魔法の義眼である。

 

 義足であるというのに、それをも感じさせない猛スピードで男はレギュラスを追い回していた。

 

 レギュラスは彼を知っている。

 

 アラスター=ムーディ。またの名をマッド・アイ=ムーディともいう、元凄腕の闇祓いだ。

 

 現役時代、相当な数の魔法使いをアズカバンにぶち込み、最後の大立ち回りで足を失ったというが、それでこれだけ動き回れるとは何て男だ。

 

 レギュラスがクィディッチで反射神経を鍛えてなければ、最初の一撃で戦闘不能にされていただろう。

 

 おそらく、本人も無意識のうちにやり過ぎたとは思っていたのだろう。でなければ、ああも復讐を恐れて誇大妄想的に自衛などしないだろう。

 

 そんな人物がなぜこの異世界に紛れ込んでいるのか。

 

 まさかと、レギュラスは思うが、はっきり言って忠告するどころではない。

 

 ムーディは顔を合わせるや、レギュラスの顔を知っていたのだろう、この妙な現象はお前の仕業か!死喰い人め!と怒声を張り上げて杖を向けてきたのだ。

 

 レギュラスとしては、もう帝王とは袂を分かったし、過激なことをやろうとはしていない、何なら闇の魔術にも手は出さないつもりなのだが、言って通じる相手でもない。

 

 結果、レギュラスの逃走&ムーディの追跡が幕開けしたのである。

 

 「うっ?!」

 

 角を曲がったところで、レギュラスは足を止めそうになった。

 

 あの二つ首に太い腕を手足代わりにする大型の奴が、通路を待ち伏せしている。

 

 前門の化け物、後門のムーディ。

 

 レギュラスは一瞬ためらうが、すぐに決めた。

 

 杖を振りかざし、大型の奴に目隠し呪文(オブスキューロ)を放つ。

 

 混乱した様子だが、それでもレギュラス目がけて殴り掛かってきた化け物に、レギュラスは身をかがめてその一撃を避け、その脇をすり抜ける。

 

 化け物はそのまま、追撃してきたムーディ目がけて突っ込んだ。

 

 「うおおおおっ?!小癪な!この、化け物め!こら待て!どこへ行く!ブラック!」

 

 応戦するムーディをよそに、レギュラスはそのまま前に向かって走る。

 

 一瞬、大丈夫かとも思いはしたが、あんなバイタリティがあれば自分で生き残るだろう。状況を考えずに自分に攻撃魔法をぶっぱなしてきたキ●ガイ男相手に、レギュラスが気遣ってやる必要もないわけで。

 

 それよりも、レギュラスは急ぎたい。

 

 懐にある、大事なものをバーティに届ける。

 

 あちこちで現れている『バーティ』にではない、本当のバーティに。

 

 それができるのは自分だけだ。否、自分だからこそ、やりたいのだ。

 

 急げ。急げ。きっと、この先にいるはずだ。

 

 待ってろ、バーティ。

 

 レギュラスは、脇目も振らずに駆け出した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 ところ変わって、ホグワーツ魔法魔術学校である。

 

 人通りの少ない廊下の隅で、コリン=クリービーは袖で涙をぬぐいながら、ぐずっと洟をすすり上げた。

 

 家に帰りたい。今年ほどそれを思ったことはなかった。

 

 『あの記事の写真って、コリンが撮った奴?』

 

 学期始まって間もなく、同級生から投げられた質問に、とっさに言葉を詰まらせてしまった。

 

 きっかけはそれだ。

 

 コリンが悪いわけではない。

 

 新聞記者のスキーターを名乗ってきたおばさんの取材とそれに伴う質問に答えて、写真を売ってほしいと言われたけど、コリンが何か言うより早く、父親が断ろうとした。

 

 そこで急に訳が分からなくなり・・・直前にスキーターが杖を振っていたので、多分錯乱呪文辺りをかけられたのだろう、気が付いたら写真はなくなっていたが、混乱気味だったコリンたちは最初からこんな枚数だったかと思い、そのまま帰宅したのだ。

 

 そして、ホグワーツ特急で見せられた新聞記事の写真に血の気が引いた。

 

 僕の写真!角度がちょっと違っても、すぐに分かった。多分、見やすいように加工されたのだろう。

 

 どうしよう。

 

 大体、コリンはどこに行くにもカメラを携帯して、写真を撮りまくっていた。

 

 だって、珍しかったから。家族にも見せてあげて、自慢したくて。

 

 特に、歩いてしゃべる美女人形はとっても珍しくて、何枚も何枚も撮った。そのうち人形の持ち主であるスネイプ先生にも見とがめられ、勝手に何枚も撮るな、そんなこともわからないのかと嫌味を言われた。

 

 ・・・でも、他の同級生のあの先生がイヤミなのはいつものことだから、ばれなきゃ大丈夫っていうのに気を緩め(初犯だからか減点・罰則の類もなかったし)、そのまままた何枚も撮っていた。

 

 こっそり写真を売ってほしいっていう他の学生とかもいたし、自分はこの道の才能があるかも!と少し浮かれつつあったところに浴びせられた冷や水だった。

 

 あの阿鼻叫喚の大広間にカメラを持ち込んでいたのは、コリンくらいだった。(ブラックに襲われた後、杖を取られたのに気が付いて、とにかく先生に報告しようと大広間に駆け込んだ時だった。後で聞いたけど、その時はちょうど吸魂鬼が生徒たちを襲った直後だったのだ。)

 

 感づいた人間は大勢いたのだろう。

 

 質問してきた同級生は、黙り込んでしまったコリンの反応で察したのか、それだけで何も言ってこなかったが、それを脇目で見ていた人間は大勢いた。(大広間でのことだったのだから)

 

 その翌日からだ。

 

 コリンがどこに行くにしても、盗撮犯という蔑称が付き始めたのは。

 

 陰口をたたかれるのは当たり前。近寄ってこようという友達はいなくなり、そればかりか足を引っかけて転ばそうという輩もいる。他寮生(特にひどいのがスリザリン)にいたっては通りがかりに呪いをかけようとまでしてきた。

 

 同じマグル出身ということで仲良くしてくれた同級生や、別の寮生であっても色々教えてくれたマクミラン先輩やフレッチリー先輩も寄ってこなくなったどころか、コリンの姿を見るやカバンなどで顔を隠して去っていく始末。

 

 極めつけは、同寮の先輩だった。

 

 『君!こんなところにそんなもの持ち込まないでくれ!君がスキーターに写真を売ってスネイプ先生を停職させたせいで、我々まで同類扱いされてるんだぞ!』

 

 練習が始まったクィディッチのグリフィンドールチームの見学に行って、カメラを構えた瞬間、他の見学している先輩方から叱責されたのだ。

 

 去年までそんなことなかったのに。

 

 あれよあれよという間に、コリンはクィディッチ場を追い出されてしまった。

 

 そんなつもりじゃなかったのに。あの写真だって、渡すつもりはなかったのに。

 

 聞いた話、弟のデニスも、自分の弟だということで嫌がらせを受けているらしい。

 

 どうしてこうなったんだろう。

 

 涙目でカメラを握りしめ、ぐずんっとコリンが再び洟をすすった時だった。

 

 「いた!おい、コリン!」

 

 駆け寄ってきたのは、泥だらけの赤いユニフォームローブをなびかせたロナルド=ウィーズリーと、ネビル=ロングボトムだった。

 

 余談だが、今年からロナルドはクィディッチチームに入り、卒業してしまったキャプテンのウッドに代わり、キーパーを務めようとしている。

 

 とはいえ、ミスが多くてそのたびに妹のジネブラに叱責されているのが現状だが。やっと練習が終わったのか、息を弾ませている。

 

 さあっとコリンは青ざめる。

 

 ロナルド先輩の正義感の強さは知っている。ネビル先輩も、普段は気弱気にしているけど、言う時は言うんだって。

 

 また何か言われるんだ!ひょっとしたら、呪いとかもかけられるかも!

 

 慌てて逃げようとしたが、それより早くロナルド先輩が回り込んできた。

 

 別の場所へと思ったら、そっちもネビル先輩が通せんぼしていた。

 

 あうあうと声にもならない声で怯えるコリンに、ロナルドが次の言葉をかけるより早く。

 

 「ちょっと!何してるの?!」

 

 かけられた女性との声に、コリンは救いの手が?!と期待を込めてそちらを見たが、次の瞬間それはきれいに打ち砕かれた。

 

 寮一番の才女として名高いハーマイオニー=グレンジャー先輩だった。

 

 スリザリンの寮生はおろか、他の寮生とも仲良くしてる。そして、例にもれず正義感が強い。

 

 この間の学内掲示板前でのいさかいは、コリンも見ていたのだ。グレンジャー先輩が声を張り上げた時、誰もが彼女の迫力に気おされていた。

 

 正義感の強いグレンジャー先輩なら、きっとコリンの方が問題だとみるはずだ。だって、コリンのせいでスネイプ先生は停職させられたんだから!

 

 ギュウッと、泣きそうになる目を瞑って、次にぶつけられる罵声に耐えるべくコリンが立ちすくんだ時だった。

 

 「違うって、グレンジャー!コリンにちょっと話を聞きたくて!」

 

 「ハーマイオニー、ちょっと待ってほしいんだ!」

 

 あわあわとロナルドとネビルが話し始めた。

 

 「・・・話って?」

 

 「スネイプ先生の記事の写真だけど、コリンだけのせいじゃないんじゃないかって思って」

 

 「書いたの、スキーターだぜ?

 あいつ、魔法界じゃ結構質の悪い記事書くって有名なんだよ。

 まあ、うちのママとかスキーターの記事をこき下ろすくせに、内容信じてるからなあ」

 

 胡散臭げなハーマイオニーに、ネビルとロナルドが交互に話す。

 

 「大体ブラックの奴が無実?

 僕、ブラックに追われてるペティグリューの話を職員会議で聞いたけど、はっきり言って最悪としか言いようなかったぜ?ありゃ、ペティグリューも裏切って当然って感じで」

 

 「うん。吸魂鬼がホグワーツ城に侵入したのもブラックのせいだったんでしょ?ばあちゃんもカンカンだったし。

 記事書いたのがスキーターってわかった途端、9割ガセだって言って、僕に本当のこと話せって言ってきたもん」

 

 吐き捨てるロナルドと、うなずいて続けたネビルに、ハーマイオニーもうなずいた。

 

 「やっぱり?他の先輩方にも聞いたけど、あんまりいい話は私も聞かなかったわ。

 ドラコが言うには、スネイプ先生って他の純血貴族にいろいろ協力なさっているみたいだから、その評判を貶めるようなことをしたスキーターはもう潰されるしかないだろう、って」

 

 「むしろ何で今まで野放しにされてたか不思議だよ・・・」

 

 「利用価値があったそうよ。

 ほら、去年あの女がダンブルドアの暴露本出してたらしいでしょ?

 あんな感じで、純血貴族とか政治家魔法使いからの依頼を受けて政敵潰しのためのゴシップ記事とか暴露本とか書いてたんですって」

 

 げんなりしたロナルドに、ハーマイオニーが答えた。

 

 それに、ロナルドは嫌悪感を覚えたらしく顔をしかめたが、何も言わずにこそこそと逃げ出そうとするコリンの腕を捕まえた。

 

 「待てよ。まだ何も聞いてないぜ」

 

 「は、放して!ぼく、僕のせいじゃない!僕は何にも知らない!」

 

 「あっ、おい!」

 

 「足よ縛られろ(ロコモーター・モルティス)!」

 

 必死に腕を振りほどき、コリンは闇雲に駆けだそうとしたが、次の瞬間に聞こえた呪文とともに、彼は頭から冷たい石の床に頭から突っ伏した。

 

 両脚が縛られたように引っ付いて、うまく動かせない。足縛りの呪いだ。

 

 呪いをかけるのに使った杖を手に、ハーマイオニーは眉を吊り上げて言った。

 

 「僕のせいじゃない?それ、スリザリンの学生たちの前でも言えるの?

 だったら、どういうことなの?ちゃんと説明して!」

 

 一緒に課題をやる勉強会の時、ハリーJr.が元気がないことにハーマイオニーも気が付いているのだ。

 

 ハーマイオニーも寮で流れる噂――コリンがスキーターにあの記事に載せられた写真を売ったという話は耳にしている。

 

 やましいところがないなら逃げるはずがない。だが、現にコリンは逃げようとした。つまり、そういうことでは?

 

 はきはきしたところのあるハーマイオニーは、そう考えていた。場合によっては、自分が強く言うつもりだ。

 

 「・・・っ・・・ハーマイオニー、やり過ぎだよ!」

 

 むっとしたように眉を吊り上げているのはネビルも同じだったが、一度深呼吸して落ち着いてから、彼は言った。

 

 「呪文よ終われ(フィニート・インカンターテム)

 落ち着けよ、グレンジャー。

 コリン、別に責めようってんじゃない。僕たちは何があったのか、どうしてそうなったのか知りたいだけだ。

 どうするかは・・・それから考えたいんだ。怒らないとは言えないけど・・・でも、君だって言い訳ぐらいしたいはずだろ?」

 

 杖を振ってロナルドがたしなめつつ言った。

 

 自由になった足をばたつかせ、のろのろとコリンは立ち上がったが、もう逃げようという気にはなれなかった。

 

 今度逃げ出そうとしたら、足縛りの呪いどころでは済まないだろうと感じたからだ。

 

 「コリン、スキーターがどういう記事を書くか知ってて写真を渡したの?」

 

 「・・・知らなかったんだ」

 

 気を取り直して投げられたネビルの言葉に、コリンは力なくうめくように答えた。

 

 「僕、マグルの出身で、家もマグル界にあるから。

 現像した写真を撮りに行った帰りに、声かけられて・・・」

 

 「だからと言って、あの写真はどう考えてもまずいでしょ?

 マグル界だったら、普通に規制される類のものよ?

 しかも、多分スネイプ先生には無断掲載でしょ?」

 

 なおも険しい表情で問いかけるハーマイオニーに、コリンは泣きそうな顔で叫ぶように答えた。

 

 「渡すつもりはなかったんだ!パパも、反対してくれたし!

 でも、魔法をかけられて訳が分かんなくなって、気が付いたらなくなってて・・・!

 あの写真だって、偶然撮れたものだったんだ・・・」

 

 「多分、錯乱呪文じゃないかな?

 ばあちゃんが言ってたんだ。スキーターって、いつの間にかいろいろ見聞きしてるから、そういうトラブル回避の呪文をいくつか身につけているだろうって」

 

 「うわ、マジかよ。普通に泥棒だろ、それ。

 そんな奴記者として採用するなよな、日刊預言者新聞も」

 

 そういうことかとうなずいたネビルと、軽蔑した様子で吐き捨てるロナルド。

 

 どうやら、自分のことを信じて聞き入れてくれるらしい。コリンは少しほっとした様子で、息をついた。

 

 「・・・それで、あなたこれからどうするの?」

 

 「ど、どうって・・・?」

 

 少し表情を緩めて問いかけてきたハーマイオニーに、コリンはたじろいだ。

 

 「さっき、スリザリンの・・・たぶん、上級生辺りが言ってたのよ。

 クリービーの奴に呪いをかけてやるって。“穢れた血”のくせにスネイプ先生を売った奴だから、問題ないだろうって」

 

 「何だって?!」

 

 「大丈夫。そっちはハリーとドラコが止めに行ってくれたから。

 でもこのままだと、ずっと同じことが繰り返されるわ。根本的解決にならないってこと」

 

 眉を吊り上げるロナルドに言って、ハーマイオニーは続けた。

 

 「・・・ねえ、コリン。そういう事情なら仕方ないって部分はあるかもしれないけど、私にはあなたが反省しているように見えないの」

 

 そうして、彼女はできるだけ感情を押さえようとしているのか、淡々とした調子で続けた。

 

 かっとなったロナルドは怒鳴りそうになったが、ぐっとこらえた。・・・それは薄々ロナルドも感じていたことだ。

 

 ネビルもまた、険しい表情でうなずいた。

 

 「・・・コリン。僕もハーマイオニーと同意見だよ。

 事故で偶々撮れた写真で、スキーターが勝手に持って行ったのは分かったよ。

 でも・・・じゃあ、何でカメラを持ち歩き続けてるの?」

 

 「だ、だって、大事なもので」

 

 「それじゃあ、また同じことされるってみんな思うよ?せめてほとぼり冷めるまでは我慢しようよ。

 それから、スネイプ先生に謝罪した?」

 

 「しゃ、謝罪?」

 

 「事故で、わざとじゃなかったとしても、それでスネイプ先生は大変な目に遭ったんだから。

 悪気はなかったとしても、謝った方がいいと思うよ。

 手紙くらいは出せるはずだし」

 

 「で、でも・・・」

 

 ネビルの言葉に、コリンは口をもごつかせてうつむいた。

 

 スリザリンの学生たち――特に意地悪な連中が、先生方や穏健な連中の目を盗んでコリンに呪いをかけるなどの嫌がらせしてきたのは、今学期に入ってすでに片手の指で数えられる範囲を超えてしまっている。

 

 その何回目かの時、連中の一人が言ってたのだ。

 

 『俺たちが相手でよかったな!スネイプ先生だったら、お前今頃シリウス=ブラックと同じ目に遭わされていたぜ!』と。

 

 シリウス=ブラックと同じ目、と聞いてコリンは心底震え上がった。あの鉄の塊で、ボコボコにされるなんて、絶対嫌だ!

 

 もし、スネイプ先生に僕のことがわかったらどうしよう?怒られたら?僕もあんな目に?

 

 怖くて怖くてたまらない。勇猛果敢なグリフィンドール生のくせに、と嘲られようと怖いものは怖いのだ。

 

 それを自覚してしまったら、もうコリンには黙って耐えて逃げるしかなかったのだ。

 

 急に黙り込んでしまったコリンに、3人は顔を見合わせ、次に話しかけようとしたが、それより早くコリンが走り出した。

 

 「コリン?! きゃあ?!」

 

 ハーマイオニーを突き飛ばし、そのまま逃げ去ろうとしたが。

 

 「待てよ、コリン」

 

 「放して!ヤダやだ!僕、あんなのやだ!」

 

 予想していたのか、その腕(ご丁寧に杖腕である右腕である)をつかんで引き留めたのは、またしてもロナルドだった。

 

 涙目で支離滅裂に叫ぶコリンに、ロナルドは何事か察したのだろう。

 

 眉を寄せたが、一つ息をついてから言った。

 

 「あのな!どうせ、スリザリンの馬鹿な連中に変なこと吹き込まれたんだろ!

 大方、スネイプが同じ目にあわせてくるとかか?

 落ち着いて考えてみろ!」

 

 ここで、ロナルドははっきりと、一言一句区切るように言った。

 

 「あの人、生徒に暴力だけは振るわなかっただろ。もしそうする人なら、」

 

 ロナルドは胸を張って続けた。

 

 「僕なんか、毎年一回は殴られてる」

 

 ブフッと、思わず噴き出したのはハーマイオニーを助け起こしたネビルだ。

 

 「それ、威張って言うことじゃないよね?」

 

 「いーや!大事なことだろ!うちでもパパとママが、パーシーにそれを指摘されて撃沈してたんだから!」

 

 くすくす笑っていったネビルに、ロナルドは真剣な顔で言った。

 

 「確かに、スネイプはやな先生だけどさ!

 嫌味だし一言多いし、仏頂面で何考えてるかわかんないし、変な檻持ってるし、服装も変だし、魔法薬の採点基準は厳しすぎるし、そもそも怪し過ぎるんだよ!」

 

 「ロン、それスネイプ先生の悪口になってるわ・・・」

 

 「けど、ジニーを助けてくれたし、その・・・悪い奴じゃないって・・・」

 

 呆れ半分で苦笑するハーマイオニー(言いたいことを察したらしい)の言葉に、ロナルドはきまりが悪くなったのか、最後にごにょごにょと付け加えた。

 

 「コリン。ちょっと厳しく言っちゃったね。でも、スネイプ先生はね、謝罪は聞き入れてくれる人だよ。だから、大丈夫」

 

 と、なおも不安そうなコリンにネビルは笑って見せた。

 

 「コリン、あとでさっきの話、もう一回聞かせてくれないかしら?」

 

 「さっきの話って・・・スキーターに写真を盗られたこと?」

 

 問い返すコリンにハーマイオニーがうなずきを返すと、それにネビルが首をかしげた。

 

 「ハーマイオニー、何か考えがあるの?」

 

 「ええ。実は、スネイプ先生の弁護・反論記事を出そうって話が持ち上がってきてるの」

 

 「ほんと?!」

 

 目を輝かせたネビルに、ハーマイオニーは力強くうなずいた。

 

 「同じ日刊預言者新聞ってわけにはいかないけど、すでに別の雑誌の記事を空けてもらえるよう、お願いしてあるわ。

 最近仲良くなった友達の子が、雑誌編集長の娘さんで、事情を話したら協力してくれるって」

 

 「僕も、何かできることある?協力したい!」

 

 「もちろん!スリザリンの学生何人かがすでに、スネイプ先生はこんな人って証言をしたいって言ってくれてるけど、グリフィンドール生からもいると説得力が増すわ!

 そして、そこにコリンの証言を加えたら、スキーターの方がむしろ非難されるべきだって伝わるはずよ!

 それに、コリンのことも見直してくれるかもしれないわ」

 

 ハーマイオニーは瞳を揺らすコリンをひたと見やってから言った。

 

 「コリン。一歩踏み出すのは勇気がいることだわ。でも、何もしないとずっとそのままよ。

 私たちは助言はできるけど、そこからはあなた次第よ」

 

 そうして、彼女はそのままロナルドやネビルと一言二言交わしてから、去っていった。

 

 「フクロウが必要なら言えよ?僕のを貸すから。ピッグの奴、よほど暇なのか五月蠅いんだ。

 あ、腕。いつまでもごめんな」

 

 「じゃあね、コリン」

 

 やっとコリンの腕を離したロナルドとネビルも去っていく。

 

 廊下にはコリンが一人、取り残された。

 

 

 

 

 

 コリンが、ロナルドのところにフクロウを貸してほしいと懇願に行ったのは翌日のことだ。その手に握られていたのは一通の封筒。その首には見慣れたカメラは提げられていない。

 

 ロナルドは、張り切るペットにさっそく仕事を申し付けた。

 

 それから、コリンはハーマイオニーにもちゃんと突き飛ばしてしまったことの謝罪をしていた。

 

 口をはさんできた女子生徒たちに、ハーマイオニーが事情を説明することで、コリンの事情が明らかになり、少し風当たりが柔らかになってきた。

 

 

 

 

 

 なお、出直しとなったセブルス=スネイプは、襲い来る異形をスルーして、再び異世界のホグワーツ城に歩を進めていた。

 

 

 

 

 

続く

 

 




【メモカⅣマジック+ショット】

 コリン=クリービー少年が愛用する魔法式一眼レフカメラ。魔法界特有の動く写真の撮影に用いる。

 初めて行く魔法界。心配する両親に、コリン少年は自分の元気と土産話を伝えたいために、ペットの勧めを断り、カメラの購入を決めた。

 楽しい思い出、目の当たりにした珍しいもの、それにまつわるお話。それに夢中のクリービー少年は思い返しもしなかった。

 「撮る前に、ちゃんと持ち主やその人に許可をもらうんだよ」という父親の注意を聞き流してしまったことを。





 セブルスさんの出番が1行だけなんですが?あれえ?おかしいですねえ?







 次回予告は、いよいよ決着!異世界の深奥にて。
 上位者狩人セブルスVS聖母の従者バーティJr.。勝つのはどっちだ?!そして、レギュラスは間に合うか?お楽しみに!
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