セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、評価、お気に入り、フォロー、誤字報告、ありがとうございました!

 Q.なんでこんなに前回から空いたんですか?空きすぎでは?

 A.活動報告でもお伝えしてた通りです。映画見に行ったら宇宙から来た銀色の巨人に脳天を殴打されてしばらくそっちに浮気してました。
 いや、二次創作が捗りまくりましてね。すんばらしい映画をありがとうございました。本当にね。

 で、おかげでブラボとハリポタに手が付かなくて。最近ようやく、落ち着いてきたので、再開しました。・・・まだ、本調子にはほど遠いですがね。

 というわけで続きです。遅くなって本当に申し訳ありませんでした。


【11】セブルス=スネイプ、異世界の最深部へ①

 

 高速移動呪文を連発して、セブルスは駆け抜けていた。

 

 異世界の重苦しい空気、悪臭を切り裂き、徘徊する化け物どもの脇をすり抜け(正直もう、相手にすることも面倒だった。時間もないと思った方がいい)、前へ前へと進む。

 

 面倒ではあるが、懐かしいものだと場違いにもセブルスは思う。

 

 あの頃――ヤーナムを駆け回っていたころも、そうだ。

 

 立ちはだかる大型の獣。禍々しくも神々しい上位者。理不尽の権化のような狩人たち。血の遺志で肉体を強化し、血石で仕掛け武器を鍛え、脳裏にカレル文字を焼き付け、大量に水銀弾と輸血液をもっていってなお、苦戦した。

 

 散々痛めつけられ、数発の攻撃で苦痛とともに意識を途切れさせ、気が付いたら狩人の夢の石畳にいた。

 

 そこから転移用の灯りを用いて、再びそれらに挑みに行く道も面倒だった。

 

 一度排除したはずの獣もまた、再び道をうろついているのだ。また倒すというのも面倒だった。

 

 まあ、おかげでまた挑む前に一度頭を冷やすことはできたのだが。今の自分の力量で勝てるか、武器の状態や所持アイテムの確認をして、万全の状態になっているか確認するのが癖づいたほどだ。

 

 もっとも、それで再戦してもまた殺されてやり直し再走!ということもよくあることなのだが。

 

 途中から数えるのがバカバカしくなって何度死んだかなど覚えていない。

 

 人間が人生のうちで食べたパンの数がわからないのと同じように、狩人にとって死んだ回数など気にするものではないのだ。

 

 とはいえ、そういう経験があると、おのずと学習する。再戦の場合、道中はどうしても戦わなければならないもの以外は極力戦闘を避け、消耗を抑える。

 

 ・・・学習しなければ、いつまでも死に続け、苦痛に塗れ続ける。ヤーナムでは馬鹿は前に進めないのだ。

 

 侵入による闇霊状態なので、侵入場所は基本的にランダムとなるが、今回の侵入場所は幸い見覚えのある場所だったので、そこから道をたどった。

 

 そうして、ホグワーツの階段、吹き抜けの下に突き当たった。

 

 おそらく、『バーティ』がセブルスの侵入に対して最深部につかないように、別の領域を創造・接続してしまったのだろう。

 

 ここからまた別のルートを探さなければならない。

 

 無理やり空間を接続したからだろう、歪になっている。例えるなら、積み木の城に後から別の積み木を無理やり下に押し込んだような状態だ。長居するのはよくないだろう。

 

 幸い、この道は奥に続いているようだ。

 

 バサリッと狩装束の裾を翻し、セブルスは奥に足を向ける。

 

 だが、次の瞬間飛んできた閃光を回避して、そのまま物陰に隠れる。

 

 閃光が放たれた方をこっそり見やれば、そこにはすでに見慣れた黒ローブが立っていた。

 

 まあ、これまでのセブルスの動向を見ていれば、その目的が何なのかはおのずと察しが付く。となれば。

 

 待ち伏せか。

 

 内心で舌打ちすると、セブルスは動いた。

 

 頭上で両の手を組むことで、獣の爪を変形させる。

 

 変形した獣の爪は短くなる代わり、左手も獣化する。獣のごとく、爪は鋭く黒い剛毛に覆われることになる。

 

 この状態になると、普段以上に獣性が上がりやすくなる。

 

 というか、セブルスは装備の関係でただでさえも獣性が上がりやすい状態なのだ。で、変形はそれに拍車をかけることになる。

 

 セブルスは啓蒙高い上位者である。獣性が引き上がっても、理性のすべてを塗りつぶされることはない。ゆえにこそ、ペティグリューと会話もできたのだ。

 

 とはいえ、『バーティ』相手にこの武器は不向きであったかもしれない。

 

 何しろ、この武器は手数の多さによる連続攻撃と、引き上がった獣性による攻撃力の増大が一番のメリットなのだ。

 

 獣性を引き上げるためには、攻撃を当て続ける必要がある。

 

 『バーティ』は偶像の肉体であり、こちらの攻撃が通用しない。

 

 だが、かまうことはない。セブルスの狙いは『バーティ』ではないのだから。

 

 セブルスはすでに気が付いていた。先ほど『バーティ』の放ってきた閃光は失神呪文(ステューピファイ)であり、こちらを殺す気がなくなっているらしい。

 

 とはいえ、はっきり言って使う呪文が変わったからと言って状況が好転するわけではない。

 

 『バーティ』はまるでガトリングのような速度で失神呪文を連射しているのだ。死の呪文であった方がまだ隙もあったのだ。

 

 とっさに遮蔽物に隠れはしたが、このままでは身動きできない。

 

 加えて、ずるずると異世界の異形たちがこちらに向かってくる。連中には失神呪文は無効らしく、受けても何ともない様子でこちらに向かってきているのだ。まだ距離はあるが、近寄られるとまずい。

 

 さて、どうする?

 

 あまり悠長にしていられない。生贄の問題もあれば、セブルス自身が侵入状態で時間制限付きでしか動けないという問題もある。

 

 その時だった。

 

 唐突に失神呪文の乱射が止む。

 

 何事か、と顔を出しそうになるのをとっさにとどめた。そこに呪文を当てられてはひとたまりもない。

 

 だが、今がチャンスなのは確かだ。

 

 セブルスは手近な化け物目がけて殴り掛かった。変形状態の獣の爪は、この恐ろしい勢いの連続攻撃が一番の利点だ。

 

 別に倒し切る必要はない。攻撃で敵がひるんで、体勢を崩せば、それでいい。その隙に奥へ向かう。

 

 ゆえに、セブルスは己の背後で何が起こっているかは知らなかった。

 

 膿で汚れた包帯を全身に巻いたような異形が、突如『バーティ』の前に現れ、奇妙にキリキリと全身を痙攣させつつも、首を振って彼方を指さして見せたのを。

 

 まるで、そんなものは放って、さっさと次の生贄を殺しに行けと促すような行動だった。

 

 そして、それに対して最初は「指図するな!」と怒声を張り上げた『バーティ』が突然黙り込むや、「次だ・・・次は・・・“憂うつ”・・・」とつぶやきながら踵を返したことを。

 

 『バーティ?!どうしたのだ?!待て!どこへ行くのだ?!』

 

 降り注ぐ帝王の声すら、一顧だにせずに。

 

 『バーティ』が姿を消すと同時に、異形もまた姿を消す。

 

 

 

 

 

 聖母の従者も、天使の御言葉には逆らえないのだ。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 さて、ホグワーツである。

 

 その日は、スリザリンの寮付きゴースト“血みどろ男爵”の要請で緊急職員会議が開かれていた。

 

 なお、職員会議の盗聴案件のせいで、職員室は盗聴対策も万全にされている。双子のウィーズリー開発の“伸び耳”も、弾かれるようになっている。(もっとも、双子がそれを知ろうものなら悔しがって改良に挑戦しようとすることだろう。鼬ごっこでしかない)

 

 “血みどろ男爵”の銀色の血にまみれたげっそりするような容貌の中の冷たいまなざしに、ひきつった顔で揉み手するピーブズがコロンと空中を転がるように進み出て、口を開いた。

 

 ・・・職員会議にゴーストが出席するのはないこともないのだが、あまりない。ゴーストたちの自主性に任せているのだ。

 

 話を戻し、ピーブズの発言に出席していた教職員たちはそろいもそろって絶句した。

 

 「今何と言ったのです?ピーブズ」

 

 怒髪天を衝く待ったなしのマクゴナガルの隣で、スラグホーンは震え上がった。

 

 自分は何か悪いことをしただろうか?ただ、ホグワーツに復帰しただけなのに、何でこんな目に遭っているのだろう?怒髪天一歩手前のマクゴナガルの隣なんて、勘弁してほしい。

 

 マクゴナガルが怒り狂っているのをものともせずになだめられたのは、ダンブルドアかセブルスくらいなものだ。なぜこんな時に限って二人ともいないのだろうか。

 

 マクゴナガルが怒り狂うのもわからんでもないのだが。

 

 「おお~う。怖い怖い。まーた、胃に穴が空いて倒れても、オイラ責任が取れないよ~?」

 

 『ふざけるな。真面目に答えろ、ピーブズ』

 

 頭の後ろで腕を組んでにやにや笑うピーブズを、“血みどろ男爵”がにらみつけた。

 

 とたんにピーブズは気をつけ!とばかりに姿勢を正してから、ゴマするような笑みを浮かべつつ、腰を低くして猫なで声で言った。

 

 「お、落ち着いてくださいよ、男爵閣下。閣下のご機嫌を損なうようなことはしませんよ。ちゃんと喋りますって」

 

 と、ピーブズは言ってから、格好をつけるようにえへんっと一つ咳払いをして、改めて口を開いた。

 

 「確か、夏休みの間でしたかねえ。見たんですよお、オイラは。

 いやあ、オイラもホグワーツ城に住み着いて長いけど、あんなもん見たことも聞いたこともないね。

 左手に血の滴る大きな袋を抱えて、右肩に誰か担いで、歩いてたのさ。確か・・・大広間のすぐ近くの廊下だったかねえ?

 真っ黒なローブ姿だったけど、顔は見えたね。

 奴が、卒業してマグル・魔法族問わず10人殺してアズカバン行きにされたってのはオイラも知ってるんでね。

 あの」

 

 ここでピーブズはもったいぶるように一息区切ってから、その名を舌にのせた。

 

 「バーテミウス=クラウチJr.が」

 

 ざわっと教職員たちがざわついた。

 

 その生存の可能性は、すでに森番チームはじめ魔法省からの出向メンバーたちから聞き及んでいたことだった。

 

 だが、ホグワーツの外のことだから、あまり重視することはないだろうと誰もが思っていたのだ。

 

 まさかこんなところで絡んでこようとは思わなかったのだ。

 

 「夏休みの間・・・?

 いつですか?!日付は覚えていますか?!

 誰か担いでいたと言ってましたが、誰をですか?!

 どこに行ったのです?!まさかまだ城に潜伏しているなんてことは?!」

 

 矢継ぎ早に質問を投げかけるマクゴナガルに、ピーブズはどこ吹く風とばかりに肩をすくめる。

 

 「そんな細かな日付は覚えてないね。

 担がれてた奴にしたって、うつ伏せで顔も見えなかったし。

 ああ、でも」

 

 ここでピーブズは身震いするように、瞬時に表情を真面目なものにして言い放った。

 

 「あれは、やばいね」

 

 「やばい?」

 

 訊き返したマクゴナガルに神妙にうなずいて、ピーブズは続ける。

 

 「やばいやばい。遠目からだけど、ありゃもう人間やめてる感じだったね。

 何だあれ?わけわかんない」

 

 首をひねってからピーブズは言い放ち、続けて視線をとある方向に向けて言った。

 

 「あれさあ、最近できた変なドアの方に消えてったんだよね。それからだと思うんだよ。変な臭いがし始めたの。

 おおう、くっせえくっせえ」

 

 『教授方、あの扉を早急に何とかしていただきたい』

 

 鼻をつまんで道化さながらに臭がってみせるピーブズを一睨みして黙らせ、代わって口を開いたのは“血みどろ男爵”だった。

 

 『あの扉の内側には、我々でも入れない・・・というよりも、我々が我々たりうるために近寄りたくないのだ』

 

 ここで、教職員たちは思い出す。そういえば、ゴーストたちはあの扉に対して一切近寄ろうとしていなかったのでは?

 

 「? どういう意味だね?」

 

 スラグホーンの問いかけに、“血みどろ男爵”は答えた。

 

 『我々が現世にとどまるのは、見果てぬ夢、強烈な未練があってこそだ。それこそが我らをこの地にとどめるくさびであるのだ。

 たとえそれが摂理に反することであろうと、それでもなお諦めきれない。

 どれほどそれがみっともなく、恥に塗れたものであろうとも。

 逆を言えば、それこそが我らを我らたらしめる。

 あの扉の奥にあるものはそれを歪める。それだけのことだ』

 

 『男爵、それだけではよくわからないと思いますよ』

 

 ここで口をはさんだのは、困ったような顔をしていた“首無しニック”だった。

 

 『あの扉の奥から、感じるんです。

 何でしょうね?よくは分かりません。多分、その方がいいんでしょう。

 ただ、あの扉に近寄ったら、我々は理性を失うことになると思います。

 それこそ、単なる悪霊となって、危害を加えることになるでしょう。

 それは我々の誰も望まないことです』

 

 「・・・わかりました」

 

 “首無しニック”の言葉に、マクゴナガルは息を整えてうなずいた。

 

 胃がギリギリしてきたが、胃薬は後回しだ。

 

 「今の話を早急に魔法省に連絡です。そちらは森番とトンクスにお願いしましょう。

 例の扉付近は完全に封鎖。生徒が入りそうになったら、50点減点と厳正な罰則を。私が許可します。

 当面の間、厳戒体制に移行します。クィディッチなどのクラブ活動は全面中止。教室間の移動は、必ず直前の担当教授が引率し、トイレも付き添い、図書館の利用も条件付きで制限とします。

 連続殺人鬼バーテミウス=クラウチJr.潜伏の可能性は、明日の朝食席で通達します。

 いいですね?ホラス」

 

 「もちろんだ。

 各寮監はすぐさま寮母と監督生に、このことを通達してくれ」

 

 「あ、あの、いっそホグワーツを閉校にした方が・・・」

 

 おずおずと手を挙げて発言するのは、飛行術担当の夫妻の片割れである。

 

 「それで、生徒たちの勉学を遅らすのかい?レポートだけなら自宅学習で済むかもしれないけど、魔法薬調合や変身術・呪文学などの魔法実技は、どうしても遅れが出る。

 代わりの場所を用意するにしたって、生徒たち全員を収容できる都合のいい場所なんてそうないだろう?

 ・・・それができるなら、2年前の秘密の部屋騒動や去年のブラック脱獄の時に、とっくにそうしてるよ。

 それに、マグル生まれの子供や新入生が魔法を軽々しく暴発させないよう、コントロールを覚えさせるための魔法学校だ。

 アクロマンチュラのコロニー露見並みの危険確定でもない限り続行するしかないよ。

 そういうことだろう?」

 

 プランクの言葉に、他の先生方もうなずいた。

 

 「ええ。ようやっと、健全な学校運営になってきたと理事の皆様方も喜ばれた矢先のことでしたのに」

 

 「それにしても、どうやってクラウチの息子はホグワーツ城に入り込んだんでしょう?

 今年の夏休みといえば、ブラックの侵入とペティグリューの潜伏を受けて、闇祓いと教職員が施設内の点検と警備体制の見直しをしていたと思ったのですが?」

 

 首をひねるフリットウィックに、答えられるものは誰もいない。

 

 「・・・次からはこういった異常は早急に報告してもらいたいですね?ピーブズ」

 

 「だぁって、訊かれなかったし。

 じ、冗談ですよ、男爵閣下。閣下のご命令なら、即行報告しますって」

 

 じろりとにらみつけるマクゴナガル(次などなければいいのに!)に、最初こそピーブズはニヘニヘしていたが、恐ろしい“血みどろ男爵”が銀の血にまみれた冷徹な双眸を向けていると察するや、へこへこと腰を低く猫なで声を出す。

 

 『大変ですよ!皆さん!』

 

 ここで、突然絵画の一つが声を上げた。

 

 『フォークスが!ダンブルドアの不死鳥が!窓を割って外に飛び出して行ってしまいました!』

 

 職員一同がぎょっとして立ち上がった直後だった。

 

 ホグワーツ城を包み込むように歌が響き渡った。

 

 聞いているだけで胸が苦しくなり、涙が出てきそうな、悲痛で悲壮な歌だ。

 

 不死鳥の、嘆きの歌。それは、主を失った不死鳥がさえずる哀別の歌だ。

 

 やがてそのさえずりは遠のいていく。

 

 ホグワーツ城の外、尖塔の上を燃えるような赤い羽根の不死鳥フォークスがぐるりぐるりと飛び回ってから、ややあっていずこかへ飛び去ってしまったのだ。

 

 ダンブルドアが失踪してからも、フォークスは誰の言うことを聞くことなく、校長室の止まり木にい続けた。それが、突然に。それではまるで。

 

 

 

 

 

 爆炎が広がるように、ダンブルドア死亡説は魔法界に広がった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 さて、ところ変わって再び異世界である。

 

 セブルスは、不気味な通路に差し掛かっていた。最深部はもう目前といったところだ。

 

 壁際に並ぶ水槽のような繭。不気味な薄緑色のそれには、苦悶の様子でもがくような人型が浮かべられている。

 

 まだ2つだけで、あと8つほど並べられそうだ。

 

 おそらくは、残る生贄の数に対応しているのだろう。

 

 あまりいい気分のするものではない。

 

 セブルスは視線をそらし、そのまま奥に続いているだろう、大穴に飛び込んだ。

 

 とはいえ、あまり深くなかったらしい。

 

 瞬間足場設置呪文を連続することで、落着の衝撃を和らげ、セブルスは改めて到達したその場所を見回した。

 

 まず鼻についたのは、これまで以上のひどい悪臭だった。

 

 フードの下で眉を顰めるセブルスは、続けてそれを見上げた。

 

 それは、巨大で異様な存在だった。

 

 子山ほどありそうな巨体は上半身しかなく、それもシーツでも被ったようなのっぺりした白い体躯をしていた。幼い子供がシーツをかぶってお化けごっこをするが、その何倍もグロテスクだった。くぼんだ目、縫い合わせているような口、何より下半身は存在せず、背後から延びる白い網目が幾重にも不規則に絡まりながら縦横無尽に広がりながら空間に溶け込んでいた。

 

 おそらく、これこそが。

 

 「久しいな、バーテミウス=クラウチJr.。ずいぶんと見違えたことだ」

 

 独り言ちながら、セブルスは取り出した黒い丸薬を、ガリンと噛み砕いて飲み干した。

 

 錆びた鉄にも似た血の味のするそれは、獣血の丸薬。一時的に獣性を引き上げやすくする薬だ。獣の爪と組み合わせれば、その相乗効果はかなりのものとなる。

 

 ああ、素晴らしきかな、化け物狩り!

 

 相手は神の僕、その眷属!不足はない!

 

 その肉を引き裂き、存分に血を浴び、遺志をわがものとする。これぞ、狩人である。

 

 ぐっと足に力を込め、駆け出す。

 

 殺せ殺せ!さあ!殺せ!

 

 その白い異形――バーテミウス=クラウチJr.の本体目がけて、獣の爪を振り上げる。

 

 だが、突如飛来した緑色の光弾を、セブルスは間一髪で避けた。

 

 そちらに視線を向ければ、黒いローブ姿の男――『バーティ』が杖を右手にたたずんでいた。

 

 「あと一息であったところを・・・!」

 

 忌々しげに舌打ちして、『バーティ』は左手に持っていたものを無造作に投げ出した。

 

 それは、血まみれの義足だった。正確には、足の一部が付いた義足だ。おそらく、腿の半ばから切り裂き呪文(ディフェンド)あたりで切断されたものだろう。セブルスは気にも留めなかったが、その義足はマッド・アイ=ムーディのものであった。

 

 「まあ、いい。先にお前だ」

 

 つっと杖先をセブルスに向けなおし、『バーティ』は言い放つ。

 

 「死ね。狩人」

 

 だが、セブルスはもはや『バーティ』など眼中になかった。

 

 当然だ。セブルスにとって『バーティ』は攻撃を仕掛ける障害物でしかない。障害物など相手にせず、ただ目標を殺す。それが狩人だ。

 

 再度獣の爪を振り上げ、小山のようなバーティの本体に目にもとまらぬ速度でたたきつける。

 

 奇妙なことに、鉄のような頑強さを誇った偶像の肉体に対し、本体の方は見た目こそ怪物のそれだったが、まるでスポンジでも攻撃しているような軽さだった。手ごたえはある。血も出ている。問題はないとは思うのだが。

 

 空間そのものに縫い留められているようなバーティの本体は、苦悶に身を震わせてのたうち咆哮をあげるが、それだけだ。反撃らしい反撃はない。

 

 それはおそらく、攻撃は偶像の肉体である『バーティ』が受け持っているからだろう。

 

 当の『バーティ』はといえば、本体が獣の爪で抉られるや、悲鳴を上げて倒れ込んでいる。

 

 なるほど。どうやら、個別に体力を持っているのではなく、体力を共有しているようで、本体のダメージが伝わったのだろう。

 

 ・・・ずいぶん易しいとセブルスが思ってしまったのは、ヤーナムに毒され過ぎた狩人精神のせいだろう。

 

 ヘムウィックの魔女、ヤーナムの影、おまけで3デブ。体力共有型の敵もいるにはいたのだが・・・連中はその分、数で押してきた。殺しても殺しても次々出てくるし、大体1体相手にするのも面倒なのだ。お前らのことだ、失敗作たちめ。

 

 まあ、失敗作たちのように『バーティ』が複数出現して呪文を乱射してきたら、それこそ手に負えないので、良しとしておこう。

 

 とはいえ、この『バーティ』、セブルスにとってはとても都合のいい相手だった。

 

 「ははっ!これはいい!実に稼ぎがいのある相手だ!」

 

 深々と被った黒フードの下で、セブルスは舌なめずりをする。

 

 この『バーティ』はまるで死血の塊のようだった。攻撃すればするだけ、それに応じた血の遺志を放出するとでも言えばいいのだろうか。

 

 おそらく、この血の遺志は生贄に捧げられた人々から徴収された分もあるのだろうが、そんなことはセブルスには関係ない。どうでもいい。

 

 またホグワーツに復帰すれば使者たちのバイト代だっているし、聖杯ダンジョン行きで消耗される細かな消耗品の補充や武器の強化・修理などの手入れにも使う。

 

 セブルス自身の能力強化には不要であるとしても、まだまだ使い道はあるのだ。

 

 死ねば落っことすとしても、稼げるときには稼いでおきたい。

 

 まさかこんなところに絶好の貯金箱があるとは!・・・聖母だ、レギュラスの生死だ、生贄だの事情が絡んでなかったら、定期的に来て適当に死なない程度にボコる装置にしていたかもしれない。

 

 セブルスの気配が愉悦に満ちたものに変わったのを察したのか、バーティの本体が化け物じみた白い巨体をブルリと怯えた様子で震わせた。まるで人間のように。

 

 「ぐうっ・・・殺しっ、あがあっ?!」

 

 膝をついていた『バーティ』が立ち上がって杖を振り上げようとするが、それより早くセブルスの獣の爪が、バーティ本体の白い体躯を抉り、黒ずんだ血液をまき散らす。

 

 たまらず『バーティ』は崩れ落ちる。

 

 そんな馬鹿な。

 

 この体になってから久しく感じる激痛の連続の合間に、バーティは必死に考える。

 

 この異世界において、バーティは全知全能の存在と言っていいのに。不死身の存在であり、何人も彼を傷つけることは能わぬはず。

 

 だというのに、なぜ痛みが?!

 

 本体の方に傷を負わされてもあっという間に治るのが、不幸中の幸いだろうか。

 

 だが、バーティはそれを即座に撤回した。

 

 もはやセブルスにとって、バーティを殺すのは二の次状態になっているらしく、いかに効率よく痛めつけて血を浴びる(正確には遺志を簒奪する)かが重要らしい。

 

 「や、やめっ、げぶぁ?!」

 

 『バーティ』が制止の声を上げようとも無視して、獣の爪を振り下ろす。

 

 細かな肉片が、血しぶきが、どす黒い花となっていき世界の空気を彩る。

 

 ・・・よしんば、『バーティ』の声が届いたとて、セブルスはきれいに無視したことだろう。

 

 命乞い?セブルスはやったが無視されたことが多々ある(というか、大体そうだ)。そして、きっと『バーティ』もそうしてきたことだろう。

 

 自分の番になった途端ギャーギャー喚くな。潔く死ぬか、真逆殺し返してくるべきだ。

 

 ずいぶん過激で血なまぐさい思考だが、狩人なんてこんなものである。

 

 セブルスの場合はヤーナムを出てから大分人間性を取り戻したが、それでも非常事態に陥ると、被った良識の皮が剥がれ落ちて猟奇的本性があらわになる。

 

 「ぱぴっ?!」

 

 「こめっ?!」

 

 セブルスのスタミナが続く限りの連続攻撃に、『バーティ』が悲鳴を上げる。

 

 だが、すぐさまセブルスは舌打ちした。

 

 攻撃自体は通用する。遺志も噴き出し、取り放題。それでも、大きな問題があったのだ。

 

 どんなに攻撃しても、見る見るうちにバーティ本体についた傷が治っていってしまうのだ。

 

 発火ヤスリか雷光ヤスリを使って武器にエンチャントするか?毒メスで毒状態にするか?いずれもあまり有効そうには思えない。

 

 あるいは・・・切り札を切るべきか?

 

 黒フードの下で、セブルスが逡巡しながら構えなおした時だった。

 

 「バーティ!」

 

 髪を振り乱して肩で息をするレギュラスが駆け込んできた。

 

 怪物たちの攻撃を振り切ってきたのだろう、あちこち擦り傷を作り、上等な外出用ローブもあちこちほつれている。

 

 だが、彼はまっすぐに『バーティ』を見据えていた。疲労はあっても、そこに絶望や憎悪といった負の感情の類は見当たらない。

 

 「っ?! 何故ここにいる?!レギュラス!貴様は後だと言ったはずだ!」

 

 ぎょっとしたように叫んだのは『バーティ』だった。

 

 

 

 

 

 この場にいる誰もが気が付いていないことだったが、これはバーティ自身の失策だった。

 

 現実世界でのヴォルデモート(+α)の危機を察知し、バーティは彼らをこの異世界に引きずり込み、さらには安全な場所に匿った。(ヴォルデモートのみとはいえ)

 

 端的に言うならば、それに時間をかけすぎてしまったのだ。

 

 ヴォルデモートに手取り足取り、頭を垂れて恭しく傅いていた。

 

 そのため、この異世界内部への監視の目や干渉が緩んでしまい、結果としてセブルスやレギュラスが自由に動き回る時間を与えてしまったのだ。

 

 レギュラスは、セブルスから受け取った手紙に、目印を設置しておくというメッセージがあったのをしっかり覚えていた。

 

 そして、先行していたセブルスは、かつてヤーナムでも用いた目印設置用の魔法を使って、レギュラスがここにたどり着くように仕向けたのだ。

 

 

 

 

 

 それは、危険なことであったのかもしれない。

 

 レギュラスは生贄の一員としてこの異世界に招かれている。

 

 おそらく、レギュラスは“絶望”・・・15番目の生贄になるのだろう。彼が殺されるのは可能な限り避けねばならず、そもそもこんな最深部――バーティの懐に飛び込ませるような真似は避けるべきだった。

 

 だが、それでもセブルスはレギュラスをここに(いざな)った。

 

 バーティはもはや、元の人間に戻ることはできないだろう。

 

 それでも、死に方は選べるはずだ。化け物・邪神の手先として狩られるか、人として死ぬか。

 

 それを選ぶ手助けは、きっとレギュラスにしかできない。

 

 バーティのためにではない。レギュラスのために――セブルスを案じてくれる友の一人のために、セブルスはそうしたのだ。

 

 

 

 

 

 レギュラスは一度、小山のような異形のバーティ本体を見上げて息を詰めるが、すぐに振り切るように『バーティ』に向き直った。

 

 「アチッ!吼えメールはやっぱり、人間が運ぶものじゃないな!」

 

 懐から取り出した赤い封筒が、さっそくシュウシュウと不吉な煙を上げ始めるのを気にも止めず、レギュラスは狼狽する『バーティ』のもとに駆け寄った。

 

 レギュラスがブラックウッド配達員から買い上げたのは、吼えメール用の作成セットだった。マグルらしきブラックウッドが売っているかは賭けだったが、無事購入できた。

 

 「手紙だ、バーティ!Mrs.クラウチからだ!受け取れ!」

 

 「っ、手紙だと?そんなものに何の意味がある?」

 

 突きつけるように煙を上げる赤い封筒を突き出すレギュラスに、『バーティ』はせせら笑うように言った。

 

 だが、その声にわずかながら動揺の色が混じっているのに、レギュラスは気が付いていた。

 

 「それは君が決めることだ。これは吼えメールだ。開けないとひどいことになるぞ。知ってるだろう?」

 

 「っ」

 

 負けじとレギュラスは言い放ち、赤い封筒を半ば無理やり『バーティ』の手に握らせた。

 

 「僕も一緒に聞くから。僕を殺すなら、その後にしろ」

 

 レギュラスの言葉に、『バーティ』は黒いフードの先端を赤い封筒に落とした。

 

 シュウシュウと煙を上げる赤い封筒は、ともすれば爆発しそうにも見えた。

 

 のろのろと『バーティ』は、動いた。震える手で、赤い封筒を破って開封したのだ。

 

 とたんに、破裂音とともに封筒は爆発する。同時に声が降ってきた。

 

 『ごめんなさい』

 

 泣きそうな声だった。

 

 吼えメール特有の大音量であったが、怒声や罵倒・叱責のような金切り声ではなく、ただただ哀愁に満ちていた。

 

 『バーティ、バーティ、ごめんなさい。

 もっと一緒にいたかった。立派になったあなたを見たかった』

 

 一瞬怒声を張り上げようとした『バーティ』の腕をつかんで、レギュラスが首を振った。最後まで聞け、と言わんばかりに。しぶしぶ『バーティ』はおとなしくする。

 

 吼えメールの声は続ける。

 

 一言で言うならば、それは懺悔というべき内容だった。

 

 夫を愛していた。だが、夫は仕事を愛し、必要以上に相手をしてくれなかった。

 

 夫が受け取ってくれなかった愛情を、息子に向けてしまった。それが息子を苦しめると知りつつも、止められなかった。

 

 本当は、逮捕される以前からバーティが“例のあの人”に加担していたこともわかっていた。明らかに尋常ではない所業を犯していたことも。

 

 止めなかったのは、それが息子の選んだ道なら、どんな道でも尊重したかったからだ。たとえ、それが魔法界の秩序に反することであったとしても。

 

 息子が逮捕され、夫がますます仕事に打ち込むようになり、余計に昔のことを考えるようになった。

 

 何がいけなかったのだろう?どうしてこうなってしまったのだろう?と。

 

 自分がもう長くないとわかった時、真っ先に思い浮かべたのは、言葉少なくたまに枕元にやってくる夫より、アズカバンの息子だった。

 

 せめて、もう一度だけ、あの子に会いたい。どんな形でもいい。心から笑って、幸せになってほしい。

 

 そこからは必死に考えた。

 

 吸魂鬼を誤魔化して、アズカバンから息子を出す方法を。

 

 今際の頼みとして、夫にも加担させ脱獄させた後の息子のことも頼み込む。

 

 衰弱から回復した後でも、さすがに凶悪犯とされた息子を表に出すことはできない。

 

 それでも、きっと幸せにしてくれる。自分が考え直したように、夫だって息子の幸せを祈ってくれるはずだ。

 

 ああ、でも。

 

 いつごろからか、もう思い出せない息子の心からの笑顔を、もう一度でも見たかった。

 

 あの子が笑えなくなったのは、きっと自分のせい。夫にすがり、息子にすがり、負担でしかいられなかった。

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 再度の謝罪の言葉で、吼えメールは結ばれていた。

 

 

 

 

 

 続く

 

 





【バーテミウス=クラウチJr.に宛てた吼えメール】

 クラウチ夫人が息子に宛てた吼えメール。

 赤い封筒を開封すれば、クラウチ夫人の残響からのメッセージが大音量で再生される。

 本来はフクロウによって運ばれるそれを、レギュラスは自分で運ぶことを選んだ。

 人を捨てた親友に、心を届けられるのは自分しかいない、自分でありたいという願いゆえに。





 今回で決着つけさせたかったのに!

 次回こそ決着!バーティが選ぶのは、化け物として狩られるか、人として死ぬか。

 そして、帝王様とペティグリューは?お楽しみに!
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