コメントも本当にありがとうございます。啓蒙高い感想が多くて、低啓蒙の私にはついて行けないこともありますが、とっても嬉しいです。
というわけで続きです。
プロット時点で、最初から帝王様はこうしようと思ってました。
彼は不老不死を望んでおられましたが、ではフロム式の不死(死なないじゃなくて死ねない、どっちかというと生き地獄、そのうち理性を喪失する)になったらどんな感想を抱かれるのだろう?などと考えてしまいまして。
だが、ここでヴォルデモートは突然笑うのをやめた。
セブルスの亡骸が地面に沈み込むように姿を消してしまったからだ。
『なんだ?』
こんな現象は見たことも聞いたこともない、まさか誰かセブルスをかばい立てて、せめて遺体だけでも保存しようという馬鹿なことを企てた輩が近くにいるのか?
ヴォルデモートがそう怪訝に思った直後、彼ののっぺりとした顔面に、一つの魅惑的な香りが感じ取られた。
それは、ペティグリューから漂ってくる。そのスローイングナイフが突きたてられた左目からだ。すでにナイフは引き抜かれ、ペティグリューは生身の手を当てて止血を試みていた。すなわち、血の臭いだ。
だがおかしい。吸血鬼でもあるまいに、血の臭いがかぐわしいなど。
『・・・?』
そこでさらに、ヴォルデモートは妙なことに気が付く。体が痒い。
ローブの上から体を掻くが、痒さは治まらない。ローブに虫でも入り込んでいたかとも思ったが、痒いのはローブの下の肌ではないのだ。
『痒い・・・痒い、痒い、痒い、痒い痒い!』
ガリガリガリとヴォルデモートは体を搔きむしる。べりっと音を立てて、その青白い肌が安物の紙のように破けて、その下からねばついた黒いものが現れる。
「わ、我が君?!」
「如何なされたので?!」
『血!血!血が!血が痒い!!』
その異変にぎょっとする死喰い人たちをよそに、ヴォルデモートはなおも体中を掻きむしりながら叫んだ。
直後、その黒ローブと青白い肌を引き裂いて、ヴォルデモートは異形へと変貌する。
黒い粘液じみた飛沫を散らし、青白い爆発とともに、彼は体積を瞬時に肥大させた。
干からびた死体をより合わせて作り上げたような巨大な体躯。四つん這いであるが、その首の後ろのあたりから小さな人間の上半身が生えている。
セブルスが見れば、それは隠し街ヤハグルで仕留めた“再誕者”を思い出させたことだろう。だが、それは再誕者とは決して同じではなかった。
なぜなら、次の瞬間その体躯から白い腕が肩甲骨のあたりが生えたと思うとあっと言う間に腐り落ち、すでに生えている四肢もまたカビのような白がまとわりついたと思うと、腐り落ちて新しいのが生えてきているのだから。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!
痒い!痒い痒い痒いいい!』
その異形は多少変質していたが、確かにヴォルデモートの声で叫んでいた。
そのまま複数の死体で組み上げられ、カビのような白いものに覆われて腐り落ちては新しく生える手足で体を掻こうと試みるが、どうにもできずにグネグネと地べたをはいずる哀れな残骸じみた肉塊と化している。
「わ、我が君!」
「どうか!落ち着いてください!」
「治癒の呪文だ!魔法薬を取ってくるのだ!早く!」
それでも、今度逃げればどうなるかわかったものではないと、恐怖とひとかけらの忠誠心でもって死喰い人たちはのたうつヴォルデモートだった異形に手当てを試みようとした。
『があああああっ!!』
だが、こらえきれないとのたうちまわるヴォルデモートだったそれは、その巨体で死喰い人たちを殴り飛ばした。吹き飛ばされた死喰い人たちから飛び散った血が、“ヴォルデモート”にかかるや、彼は少しおとなしくなる。
否。
『血・・・血だ・・・血をよこせええ!お前の!お前たちの血をぉぉぉ!』
絶叫とともに、それは新しく生やしたばかりの腕を振り上げ、“ヴォルデモート”は死喰い人の一人をつかみ上げ、死体をより合わせたような口の中に強制的に押し込んだ。
悲鳴を上げる死喰い人など一顧だにせずに、“ヴォルデモート”は『おおぉ・・・!』と歓喜に身を震わせる。
『血だ・・・よこせ!もっと・・・もっとよこせぇぇぇ!』
それはもはや、まともな人間・・・否、以前のヴォルデモートの言動ですらなかった。血に飢えた獣のそれだ。
“ヴォルデモート”は首の後ろから生やした貧弱な人間の上半身で持っていた自らの杖を振り上げる。
途端にまた何人かの死喰い人が引きずられるように呼び寄せられ、その死体で縒り合された口腔に押し込まれる。
もはやこれまでだった。傅こうが逆らおうが殺される――それも餌のように食い殺されるならば、ひとかけらの可能性に賭けて逃げ出したほうがまだマシだった。(戦う?闇の帝王相手にそんなこと!)
残された死喰い人たちは急いで転がるように逃げ出した。
“姿くらまし”を試みたものもいたが、おそらくはセブルスの逃亡防止のためだろう、張り巡らせていた“姿くらまし”防止結界に引っかかってもんどりうって、転がる羽目になっていた。
イチイの木々をなぎ倒し、墓石を粉砕し、草むらを踏みつぶして、“ヴォルデモート”は飢餓感に突き上げられるように、死喰い人たちに襲い掛かった。
服従の呪文の多幸感のせいで、セドリック=ディゴリーは薄ら笑いを浮かべたままぼんやりと突っ立っている。正気ではないし、誰も何も彼に逃亡を促さなかったのだから。
失った左目の痛みにひいひいと喘ぐピーター=ペティグリューは、急ぎネズミに変身しようとした。
その時だった。
「我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う」
低くねっとりとした声音が、空気を切り裂いた。
漆黒のインバネスコートと束ねた黒髪をなびかせた男が、砕かれて瓦礫と化して飛び交う墓石を軽くよけながら、そらんじるように言った。
ペティグリューは信じられないものを見るように、男をまじまじと見やった。
そんな馬鹿な。確かにペティグリューは見たはずだ。男が死の呪文の餌食になって死んだのを。
確かに、この目で。
「知らぬ者よ」
枯れ羽帽子と防疫マスクの隙間から、宇宙色の双眸を輝かせながら、セブルス=スネイプは続けた。
ビルゲンワースの学長ウィレームの警句を。セブルス自身も心得る、強い戒めの言葉を。
「かねて血を恐れたまえ」
その警句を誤ったもの、忘れてしまったものの末路を、セブルスはよく知っていた。
「す、スネイプ?!君は死んだはずぎゃあああ?!」
「何があっても悪い夢のようなものだ。
私にとっては、死など些事にすぎんよ」
仰天するペティグリューの右足を獣狩りの散弾銃で穿ちながら、セブルスはシレッと言い放った。
まるで晩飯を告げるような気軽な口調で、さも当然のように。
そうして、セブルスはそのまま暴れのたうつ“ヴォルデモート”を見やりながら、やれやれと肩をすくめた。
「治験は失敗か。まあ、予想はできていたな。臨席できるとは思わなかったが」
「・・・っ・・・ち、治験・・・?」
痛みに喘ぎながら、必死に撃たれた足に治癒呪文をかけるペティグリュー(そのせいで座り込んでいる)は、セブルスを見上げた。
今、彼はこのおぞましく冒涜的な事態を、何と評した?そして、それを予想できていた?
そう。セブルスにとって、この事態はある程度予想できていた。
まず、復活の儀式の素材に、肉親の体の一部を使うだろうという予想はできていたため、トム=リドルSr.の遺体には細工を施した。
ヤーナムと聖杯ダンジョンを周回しすぎて大量に余っていた儀式素材を本来のパーツと引き換えに遺体の中に詰め込んだのだ。
黄色い背骨、儀式の血、聖者の頭蓋と聖者の手首、生きているヒモ、血走った目玉、病巣の臓器。特に、黄色い背骨と生きているヒモは、まがりなりにも上位者がドロップするアイテムである。そんなものを素材とすればどうなるか。
そして、ヴォルデモートはさらにそこに上位者であるセブルス自身の血をも素材として取り込んだ。
ここまではまだいい。ぎりぎり許容できる範疇ではある。
だが、最後の一つがすべてを台無しにしていた。ヤーナムに巣くっていた上位者たちとは系統の異なる
拒絶反応。ヴォルデモートを悩ませる痒みと飢餓の原因は、まさしくこれだった。
さらには、その肉体にインストールされたヴォルデモート自身の魂の希薄さ。分霊箱として散々分割しまくっているうえ、セブルスのように血の遺志で強化し、啓蒙を深めたわけではない。
例えるならば、規格の合わないブロックを乱雑に積み上げて、糊でくっつけているような状態なのだ。
安定感を失い、異形に変身し、不安定さをどうにかしようと本能で他者の血肉を求めてしまう。
上位者にはほど遠い“末端にも満たない出来損ない以下”とでもいうべき状態だ。
「不老不死を望んでいたのだろう?私には理解しかねるがな。あんな地獄を望むとは。永遠とは、終わりのない苦痛と同義というのを知らぬとは。実に啓蒙低いことだ。
だが、それで大勢に迷惑をかけるというならば、医療者の端くれとしてかなえんでもないと思ってな。
結果は御覧のありさまだが。ふむ・・・こんなことならばあの偽医者から資料の一つでもくすねておくべきだったか。
星界からの使者への改造方法はまだ研究中だからな。仕方あるまい」
ぶつぶつと考えこみながら、なおも暴れまわるヴォルデモートから距離を取って観察するセブルスを、ペティグリューは信じられないものを見る目で眺めた。
これは何だ?
まるで、セブルス=スネイプの姿をした何かが、帝王すら実験材料扱いしているようにしか見えない。せめて何らかの感情がそこに見えればよかったのに、まるで虫の交尾でも眺めるように極めて無機質な様子で。
闇の帝王など足元にも及ばない、恐ろしく悍ましく冒涜的で腐臭に満ちた何かにしか。
『セブルス=スネイプゥゥゥゥゥ!!』
憎々しげな絶叫とともに、“ヴォルデモート”がセブルス目がけて突っ込んできた。生えては腐り落ちる手足を使って、ぐちゃぐちゃと地面をどろどろの粘液で濡らしながらの突進は、けして速いとは言えなかった。ただし、その小山のような巨体のせいで、当たればまず即死することだろう。
セブルスはその攻撃を狩人の流麗なステップでかわす。
ぼんやりと突っ立ったままのディゴリーの襟首をつかんで一緒に避難するのも忘れない。そのまま彼を木陰へ押し込み、
思うところがないといえば嘘になるが、人質を取られており不本意そうではあったし、服従の呪文もかけられていたのだ。彼への処遇は後回しにするとしよう。
我に返るように慌ててネズミに変身したペティグリューはそのまますたこら逃げ出した。若干足を引きずるように見えるのは完治が間に合わなかったせいだが、命には代えられない。
『よこせ!貴様の血を!不死身の秘密を!俺様にこそふさわしい!よこすのだ!』
「聞こえなかったのかね?“かねて血を恐れたまえ”。
恐れを忘れたものなど、獣と大差ない。そのようなものに分ける血など、一滴たりともありはしない」
もはや咆哮と恫喝の区別もつかない帝王だった獣(それでも不死身への執着は忘れはしないらしい)に対し、セブルスは余裕も崩さずに答えた。
「恐れたまえよ、ヴォルデモート・・・いいや、トム=マールヴォロ=リドル」
言いながら、セブルスはその右手の中に一振りの剣を出現させる。
それは、みすぼらしいボロボロの長剣だった。使い込まれて刃は古くくたびれて、決して美しいとは言えなかった。
セブルスは、その黒手袋に覆われた手のひらを、剣の腹に滑らせた。同時に、その刃に、神秘的な青緑色の光が満ちる。神秘の光は第2の刀身となって、長剣を光の大剣に変化させた。
かつて、この剣の持ち主であった医療教会最初の狩人ルドウイークはこう言い表した。我が導きの月光、と。
“月光の聖剣”。それがこの剣の名前である。
「さあ。獣狩りをするとしよう」
それが、獣狩り開始の合図だった。
『セブルス=スネイプゥゥゥゥッ!!』
絶叫とともに、“ヴォルデモート”の巨体がのたうちながら突進してくる。
生えては腐り落ちるのを繰り返す腕は、膂力とスピードについてこれずに途中で腐りきる前に引きちぎれているが、“ヴォルデモート”は気にも留めなかった。
この体に満ちる、耐えがたき渇きと痛痒。あの男から不死身の秘密を奪えば、それが癒えるはず。“ヴォルデモート”は強くそれを感じていた。
セブルスはその突進を軽くよける。
ずいぶんと鈍足だ。加えて。
“ヴォルデモート”は、首の後ろ辺りから生やしている上半身の持つ杖をふるって呪いを放ってくるが、セブルスはそれをも軽くよけた。
素直すぎる。ディレイやノーモーションなどの技巧もなく、ただただ単純な連射。それもゴースの遺子や時計塔のマリアのような避けようのない超速度ならば、まだ当たったかもしれない。
だが、十分目で見て避けようがある攻撃なのだ。どうとでもなる。
呪いの光弾をよけきって、距離を詰めて巨体に潜り込む。
青緑色の光の刀身が、死体をより合わせた四肢にもぐりこみ、そのままえぐるように切断する。
そのままセブルスは、二閃三閃と月光の聖剣をふるう。青緑色の光刃が空気すら切り裂くように、澄んだ音を歌いながら黒い粘液と白いカビじみた斑紋に覆われた“ヴォルデモート”の体躯を切り裂く。
『お゛お゛?! お゛お゛お゛っ!!』
苦痛に“ヴォルデモート”が悲鳴を上げ、それでも自らの巨体の下にもぐりこんだセブルスをとらえようと、太い腕を振り下ろす。
だが、耐えがたいほどの飢餓と痛痒に悩まされる“ヴォルデモート”は忘れていた。巨体から繰り出される大ぶりな一撃は、ちっぽけな狩人にとっては危険と紙一重の好機だ。
死体が縒り合されて黒ずんだ粘液に覆われる腕に、青緑色の光刃による鋭い突きが放たれた。
『があ゛あ゛あ゛?!』
悲鳴とともに“ヴォルデモート”が体勢を崩す。
すかさずセブルスは、大きく飛び下がって距離を取ると月光の聖剣の腹に左手を滑らせる。
青緑色の光刃が泡立つ水面のように一層輝き、一回り大きくなる。
“ヴォルデモート”が立ち直った直後、セブルスは何もない空中で刃を一閃させる。すると、斬撃が青緑色の光波となって撃ち出された。
あれを受けるのはまずい。
瞬間的に“ヴォルデモート”はそう判断した。ちっぽけな上半身で持つ杖を振って、『アバダケダブラ!』と死の呪文の緑色の光弾を撃ち出した。
“ヴォルデモート”の判断は正しかった。だが、対応は間違っていた。
光波は“ヴォルデモート”が放った緑色の光弾をかき消し、とっさにかざした腐りかけの巨大な腕ごとその胴を半ばで切断した。
断末魔がほとばしる。冷たく甲高く、人のものとは思えないおぞましい悲鳴だった。
真っ二つにされた“ヴォルデモート”は青黒い爆発を起こしながら、霧散して消えた。
いくばくかの血の遺志が、セブルスの内側を満たし、返り血じみた黒い粘液まみれの狩人は満足げなため息をつく。
ついでとばかりに、足元に転がるドロップ品の確認を行う。トム=リドルSr.の遺体に入れた儀式素材は貴重品ばかりだ。まだいくつか在庫があるとはいえ、回収できるならそれに越したことはない。
いくつかの素材は回収できたが、やはりないものはある。特に啓蒙取引できない黄色い背骨の紛失は痛い。ある程度覚悟はしていたのだが、それでももったいないと言いたくなってしまう。
今度の長期休みは汎聖杯で素材回収に回った方がいいだろうか?
などとやっていたところで、大きな悲鳴が上がった。
どうやらセドリック=ディゴリーがようやく
魔法界を恐怖に叩き込んだ帝王の復活。(そしてその片棒担ぎをさせられた)
その帝王と魔法薬学教授が決闘(なお、魔法薬学教授はマグル製と思しき武器と見たこともない奇怪な魔法を使用)、そしての影響下にあったとはいえ、自分がその教授を殺した。
殺した。殺したはずだ。
だが、その教授は生きていて、化け物に変貌した闇の帝王と再度対決、これを打ち破った。
訳が分からなすぎる。セドリック=ディゴリーでなくとも錯乱するだろう。
はたとセブルスが我に返る。つい狩人モードを全開にしてしまっていた。
先にディゴリーをポートキーでホグワーツに帰すべきだったか。それはそれで面倒になりそうだった(一人帰ってきたディゴリーに先生どこやった?!と自主練習組が食って掛かり、ポートキーで探しに行く!となりかねなかった)し、周到な帝王ならディゴリーが使ったポートキーの腕輪を没収なり解除なりさせていただろう。
セブルスが呼び止める間もなく、ディゴリーは悲鳴を上げながら転がるように墓場だった荒れ地を飛び出し、そのまま姿を消してしまった。
急ぎセブルスもディゴリーの後を追ったが、墓場を抜けたところでディゴリーは“姿くらまし”をしてしまったらしく(姿くらまし防止は墓地の敷地範囲のみだったらしい)、バチンっというはじける音とともに姿を消してしまったのだ。
完全にやってしまった。
ともあれ。これ以上ここにいても仕方がない。
セブルスは黒い粘液を洗浄魔法で落とすと、“姿くらまし”をした。ホグワーツには“姿くらまし”と“姿現し”の防止魔法がかかっているので、ホグズミード村へ行き、そこから改めてホグワーツに行くしかない。
ディゴリーのこと、ここで起こったこと、何と説明したものか。
改めて頭の痛い案件である、とひそかに額を押さえながら。
さて、セブルスがホグワーツ城に戻った時には、すでに一騒動起こっていた。
一足早く城に戻ったセドリック=ディゴリーが、森番小屋にある魔法省役人の詰め所に駆け込み、一連の出来事を直訴したのだ。
だが、すでにハリーJr.たちが職員室に駆け込んだことで騒ぎになっていたホグワーツでは、むしろセドリック=ディゴリーの方に問題があるのでは?とみなされ、魔法省職員たちは彼を拘束へと動いた。
必死に帝王の復活と、それをセブルスが殺したと訴えるディゴリーに、こいつは何を言ってるんだ?といういぶかしげな反応を崩さない魔法省職員たちは、やがてかわいそうに・・・疲れてるのね・・・というかのような反応に落ち着いていく。
闇の帝王の復活など誰も信じないし、むしろこいつは勝手に学外に教員を一人連れて行った、問題発生の原因であるというのに?
両親が人質に取られて!と必死に訴えるディゴリーも、エイモス=ディゴリーなら元気にやってるけど?という魔法省職員の確認に、誰も信じてくれない、と絶望に満ちた顔をしていく。
ダンブルドアが居ればまた違ったことになったかもしれないが、いかんせん彼はまだ行方不明のままだった。
そこにセブルスが帰ってきた。
どういうことよ?と同様に拘束されて話を聞かれるセブルスは、ため息をついてこう答えた。
拉致されてからのことは覚えていない、気が付いたら墓場らしき場所にいて、今さっき帰ってきたところだ、何があったかは自分の方が知りたいくらいだ、と。
今度こそショックで放心するディゴリーに、君は療養が必要だね!と魔法省職員たちは医務室へ押し込んだ。
もちろん、セブルスは全部覚えている。だが、そのうえで話をとぼけた。
帝王の復活はまだいい。だが、それ以上のこと・・・その変貌と自身の行為について話すと話が激しく脱線するのと、セブルスの抱えている事情が公になって、さらに面倒なことになる。
加えて、魔法省もホグワーツともども現在再編真っただ中であり、こんなところに闇の帝王復活という爆弾を放り込まれたら、誰とて怒り狂うだろう。ふざけるな貴様ぁぁぁっ!と怒鳴りつけたくもなる。
錯乱していたとはいえ、ディゴリーも魔法省への就職をするのであれば、そのあたりの機微を見極めるべきだった。まあ、錯乱していたのだから無理もないだろうが。
・・・セブルスは察していた。
確かに“ヴォルデモート”を殺した。その遺志を得た。だが、妙に量が少ない。あれは、“ヴォルデモート”が捕食した死喰い人のものだ。きっと、“ヴォルデモート”自身はまだ生きている。
分霊箱を全て壊したと思ったのだが、セブルスの見ていないところで新たに作った可能性がある。あのナギニ、と呼ばれていた蛇など怪しいかもしれない。
縄で縛られていたディゴリーを、言葉もなく帝王の意をくんで解放したのだから。
「先生!ご無事でよかったです!」
「お怪我はありませんか?」
「どこ行ったかと思いました!」
「あー・・・ええっと、オカエリナサイ?」
「ロン、なんで片言なの?」
「いいだろ、別に!こう・・・微妙なんだよ!いろいろ!」
出迎えてくれた地下牢教室で調合の自主練習をしていた4人組のじゃれ合いを見て、セブルスはほっと表情を緩めた。
・・・ひいきに思われるかもしれないが、やはり彼らの方が大事なのだ。
闇の帝王の復活と失敗は、大きなニュースにはならなかった。
当然だ。当事者であるセドリック=ディゴリーの言は錯乱していると信じてもらえず、セブルス自身は口をつぐんでしまっているのだから。
死喰い人たちもこの件に関しては口をつぐんでいるだろう、とセブルスも思っていたので予想通りといえばそこまでだろう。下手に言葉に出そうものなら、闇の帝王の信奉者と冷たい目で見られるだけだろうし、魔法省の闇祓いや魔法警察に目を付けられたくはないだろう。
おそらく生きているだろう闇の帝王も、また潜伏したようだ。もっとも、あれでおとなしくすることを選ぶならば、最初から分霊箱なんてものに手を出すわけがない。近いうちに、また姿を現すだろう。
セブルスはといえば、闇の帝王の復活とその失敗という重要なことについては、さすがに手紙でシレッと知らせることにはできず、夏休みに入り次第重要な話がある。今後にかかわる大事な話だ、必ず聞いてほしいとだけ友人知人たちに知らせた。
特に、死喰い人を足抜けしたマルフォイ一家やレギュラス、エイブリー、ヴォルデモートからその身を隠している形となるリリーとその夫となるハリーには確実に話さなくてはならない。
そういう問題はあれど、この年もどうにか無事終了と相成った。
ハリーJr.たちは無事学年末試験をパスしたものの、クィディッチの戦績の低下などによって、この年は寮杯はハッフルパフが獲得することになった。
寮監のスプラウトと寮母となった魔女は大喜びで、大はしゃぎの生徒たちに負けず劣らずに手を取り合って飛び跳ねているほどだ。
・・・セドリック=ディゴリーは、卒業を待たずして退学届けを出した。内定していた魔法省への就職も辞退し、その行方は定かではない。
* * *
瓦礫とへし折れた木々、踏みつぶされた草地と、血と黒い粘液に濡れた荒れ地と化したリトルハングルトンの墓地。死喰い人たちはこぞって逃げ出し、マグル除けが施されているので、人っ子一人見に来る者はいない。
その片隅から、小さなうめき声が聞こえた。
『血が・・・血が・・・痒い・・・』
引きちぎれた上半身、黒い粘液に覆われた骸骨じみた躯は、確かにヴォルデモート卿の声でうめいた。
ガリ、ガリ、とその指先が地面を掻く。イチイの木でできた杖はへし折れて、杖芯となっている不死鳥フォークスの尾羽を無残に露出させていた。
通常の生き物であれば、このような有様ならとうに死ぬはずだが、それでもそれは生きていた。生きながら死んでいるのか、死にながら生きているのか。それは定かではない。
その屍に近寄る者がいた。緑色の鱗の大蛇、ナギニだ。痛々しげなけが人の痛みが少しでも癒えるのを祈るように、ナギニはその躯の傍らに太い胴を寄り添え、頭を摺り寄せる。
ぽつぽつと雨が降り出した。小ぶりだったそれは、あっと言う間に大地のすべてを洗い流すような土砂降りとなる。
雨に打たれる一匹と一体は、そのまま動かなくなる・・・と思われた。
そこに現れる黒いローブの二人組。一人は片手に暴れ狂うネズミの尻尾をつかんでいた。
「おとなしくしな、ワームテール。
我が君の復活に失敗したお前を、本当は手討ちにしてやってもいいんだよ?」
黒ローブの片割れが口を開く。声音からして女だ。
二人はなおも痛痒を訴えるヴォルデモートの声を聞きつけるや、急ぎ黒ローブの裾を翻してそこに駆けよる。
ナギニが寄り添い、うごめく黒い粘液濡れの躯に。
「我が君?!」
「ああぁ・・・・なんてこと!我が君!我が君!ああああぁぁ・・・!
我々の脱獄が遅くなったばかりに!」
その有様にぎょっとした二人だが、すぐに女の方が我に返るように、黒い粘液をものともせずに躯を抱き上げた。その声音は泣き崩れんばかりの悲痛なものだった。
ほっとしたように、ナギニがシュルシュルとその身を動かして、鎌首をもたげて二人を見上げる。早く助けを、と言わんばかりに。
「早く安全なところへ!
ワームテール!急げ!」
「我が君!いましばらくのご辛抱を!あああぁぁ・・・」
吐き捨てる男は、持っていたネズミをたたきつけるように放り出して杖を向ける。
あっと言う間に元の人間の姿になったペティグリューが、ひぃひぃとすすり泣くように、足を引きずらせながら、二人の先頭に立った。そのあとにナギニが太い胴を滑らせて続く。
そうして、三人と一体の影が、闇の中に消えた。
続く
【セドリック=ディゴリーの杖】
セドリック=ディゴリーが学生時代から愛用している、長さ30センチの杖。
一角獣の毛に、トネリコの木が使われている。
固い信念と強い精神力とともに、その杖は主とともにあった。
主が闇の勢力に翻弄され、それでも苦悩とともに結果を選択するときでさえも。
翻弄されるディゴリーの道にそれでも共にあろうとするのは、杖の忠実さゆえだろうか。
Q.ディゴリー君、なんでこんなことになったんすか!
A.正史という名の原作でもヴォルデモートにかかわると彼は不幸になるでしょう?
ぶっちゃけ、4巻時点で死んでるのが一番みんな幸せになる道でしたっていう、ね?
Q.救いはないんですか?!
A.ないなんて誰が言ったんですか?!(逆ギレ)それと、失踪したからって闇落ちしてるとは限らないでしょう!
Q.なんで魔法省はヴォルハゲの復活を信じなかったんですか?
A.シャックルボルトのお話(第5楽章10)でもちらっと言いましたが、10年以上経って音沙汰ないんだったら、普通に死んでる換算しますし。
普段だったらダンブルドアが何ほんとか?!って真剣な顔してきますけど、ダンブルドアはいませんし、記事操作のせいで魔法省大臣の座に長居できないファッジがせめて立つ鳥跡を濁さないでおこうと、騒ぎにさせませんでした。(ファッジがいる時点でどっちにしたって無理でしょう)
Q.セブルスさんは何で黙ってたんですか?
A.魔法省が見ないふりするのを見越してたからです。下手に騒いでもディゴリー君と同じく錯乱してるのね・・・扱いを受けると確信していました。
ただ、彼にとっては非常事態に等しいですので、本文中にも書いている通り、この後ルシウスさんやエイブリーはじめ元死喰い人の友人や、メイソン一家にはすぐに手紙出しますし、夏休みに突入次第密談機会を設けるでしょう。
ぶっちゃけ、本文中でも言ってる通りです。彼にとってはメイソン一家とその周囲が一番大事なんです。ディゴリー君なんてその辺の生徒Aですから、天秤にかけたら切り捨てられるにきまってますもの。彼は狩人様です。聖人じゃないんです。
長丁場の第5楽章はこれでやっとおしまい。
次回の投稿予定は未定です。
内容は、新章スタート!まずは夏休み・・・出所した駄犬からの吠えメールを添えて。お楽しみに!