セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、閲覧、評価、お気に入り、誤字報告、ありがとうございました。

 だいぶお久しぶりです。

 火を付けろ。燃え残ったすべてに。

 火はつけられましたとも。ええ、他に手が付かなくなる程度には。

 でも、続きはちょっとあるので、少しだけお見せします。はい。


【第6楽章】桃色ガマガエルの乱
【1】セブルス=スネイプ、吼えメールに辟易する


 

 暗い場所だった。

 

 鼻を突く獣臭と腐臭。古びた石壁は墓所カビと死血花に彩られ、ところどころによくわからない粘液や黒ずんだ痕跡が見え隠れしている。

 

 セブルス=スネイプは平然とそこを闊歩していた。聖杯ダンジョンの一角だ。夏休みに入ったのをいいことに、セブルスはストレス解消を兼ねて潜ることにしたのだ。

 

 やがて聞こえる足音とハアハアグルグルという獣の呼吸と唸り声に、彼は携えていた武器を構える。

 

 ノコギリ槍だ。ノコギリ鉈との違いは、変形すれば刺突を使える槍として扱えることだ。閉所での戦闘において、刺突攻撃は重宝する。

 

 ちょうど、今のように。

 

 飛び出してきた獣がよだれとともに飛び掛かってきたところを、鋭い槍の切っ先で穿ち、壁にたたきつけ、そのまま連続突きで串刺しにする。

 

 飛び散る返り血と流れ込んでくる遺志に、セブルスは満足げな息を吐いて、そのまま探索を続行する。

 

 あちこちに倒れている獣の死骸や探索してたと思しき何者かの亡骸を漁り、無造作に置かれている宝箱の蓋をあけて、中身を確認する。

 

 儀式素材は、夢の使者たちとの取引では啓蒙を用いても手に入らないものがあるので、欲しいならこうやって聖杯ダンジョンを自力探索するしかない。

 

 “ヴォルデモート”の復活儀式の細工に使ってしまったが、今思えばもったいないことをしたな、と思う。まあ、あれはあれで貴重な治験ではあった。

 

 とはいえ、予定してなかった素材がいろいろ入ったせいで、ヴォルデモートは変調をきたした。予定していた復活では、せいぜい血に飢える程度だろうと思っていたのに、セブルス自身の血やらバーティ=クラウチJr.の血肉を混ぜたせいで、あんな不安定な状態になってしまったのだ。

 

 まあ、どっちにしても殺すつもりではあったのだが。料理をして出来上がったものは食べる。同じことだ。対象が、食べ物か上位者かの違いだ。セブルスにとっては大差ない。

 

 たどり着いた先にある重い扉を、セブルスは両手で持ち上げるように開く。この重い扉は、魔法が効かずこうやって開けるしかないのだ。

 

 やがて進んだ部屋の片隅で、セブルスは普段ならばあまり気にしない獣に目を止める。黒い毛に覆われているが、コガネムシを思わせる甲殻のような羽と、飛び出たような複眼を持つ、奇妙な獣だ。

 

 ・・・セブルスは気にも留めなかったが、少し離れたところにへし折れた杖と自動速記羽ペン、レンズの砕けたメガネが転がっていた。(そしてそれらはいずれも比較的新しいものだ)

 

 禁域の森を抜けた先、たどり着いた廃墟と化したビルゲンワースをうろついていた虫をベースにした獣たちがいたが、しいて言うならあれらとシルエットは似ているかもしれない。

 

 もっとも、光弾を飛ばしたり怪音で発狂させにかかってくるあれらと比べれば、掴みかかってくる程度なのでまだ優しいが。

 

 しかもクソ弱い。強化済みのノコギリ槍で二度ほど切り付けてやっただけであっさり動かなくなってしまった。ドロップも血の遺志がちょびっとで、他の固有ドロップらしきものもなければ、輸血液や水銀弾さえ落とさない。

 

 ハズレもいいところだ。次に見かけたらスルー決定だ、とセブルスは内心で毒づいた。

 

 そのままセブルスは、ボス部屋を開くためのレバーを求めて進みだした。

 

 

 

 

 

 聖杯ダンジョンを抜け出したセブルスは、戦果にホクホクしていた。

 

 素材も手に入ったし、実験用の死体も回収。ついでに血晶石もスタマイと大当たりだった。

 

 早速、武器の手入れと合わせて付け替えをしなければ。

 

 狩り装束の汚れを魔法で落としながら玄関の扉をくぐると、焦げ臭いにおいにセブルスは先ほどまでの上機嫌が吹き飛び、怪訝そうに眉をひそめた。

 

 困り果てた様子のメアリーが、デスクの周りを使者たちとともに掃除していた。

 

 「お帰りなさい、狩人様」

 

 「今戻った。どうしたのだね?」

 

 尋ねるセブルスは、スンと鼻を鳴らす。焦げ臭いにおいは、書斎を兼ねたリビングにはあまり馴染みのないものだ。

 

 匂いの源は間違いなく、デスク周りだ。

 

 メアリーが料理を失敗することはめったにないし、それならキッチンから臭うし、片付けもキッチンでやっているはず。

 

 なぜ、デスクの周りを掃除しているのだろうか?

 

 用のないときはあらかじめデスクの上は片づけるようにしていたので、重要な書籍や書類に致命的な被害はない。書籍や書類には。それでも、辞書の類の表紙に焦げが付いてしまっている。

 

 ・・・代わりに、いつだったかのクリスマスプレゼントでもらった高級羽ペンとインクツボ、万年筆などの筆記用具に被害が出たらしい。焦げて粉々にされている。買い直しが決定した。

 

 レターボックスも表面が焦がされて、繊細な細工が黒ずんだ炭にされていた。これも買い替えた方がいいだろう。その代わり中身は無事だ。

 

 この状態から察するに。

 

 「申し訳ありません。赤くて煙を上げる封筒が届きました。言いつけられていた通り、すぐに開封しようとしたのですが、その前に爆発しました」

 

 案の定、吼えメールだったらしい。そして、申し訳なさそうな彼女の言からさらに察するに。

 

 「・・・すまなかったな」

 

 「何故謝られるのでしょう?」

 

 「爆発に巻き込まれたのではないかね?いかにお前には無意味であろうとも、お前が傷つくところを見るのは心苦しいのだ」

 

 「? 先ほどのは狩人様は御覧になられていないはずですが?」

 

 不思議そうにするメアリーに、セブルスは改めて申し訳なく思う。

 

 やはり、吼えメールの爆発に巻き込まれたらしい。デスクの周りは焦げているのに彼女には傷一つないので、おそらく巻き込まれはしたが復活したというところだろう。

 

 「・・・送り主の名前は見たかね?」

 

 「確か、シリウス=ブラックと書かれていました」

 

 セブルスは思い出した。

 

 あの駄犬が、今年アズカバンを出所だったということに。

 

 ホグワーツの大広間で散々殴ってやったというのに、吼えメールでメアリーを傷つけるとは。

 

 吼えメールだから故意ではない?知ったことか。

 

 さて、どうしてくれよう?

 

 思案しながらも、セブルスは首をかしげるメアリーの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 メアリーは、その身を犠牲にしつつも吼えメールと一緒に届いた他の手紙の避難には成功していた。

 

 それは、リーマス=ルーピンからの手紙である。

 

 確か、人狼を農奴として雇っている純血貴族たちの話によると、ルーピンは人狼たちではやりきれない仕事を魔法で行っている(その分給与も他より高めではある)ほか、こっそり人狼たちに読み書き計算などの勉強も教えているらしい。

 

 これに関しては、下手に知恵を付けられるのは、と苦い顔をするものと、より使い勝手がよくなるに越したことはない、と頷くものの二つに分かれている。

 

 さて、そんなルーピンからの手紙だが・・・シリウスの吼えメールに関する謝罪から始まり、どうしてそうなったのかという事情の説明が記されていた。

 

 

 

 

 

 アズカバンからの出所の際、身元引受人の指名をしなければならないのだが、シリウスはそれに対して最初ダンブルドアを指名したのだが、彼の老人は相変わらず音信不通であったため、リーマス=ルーピンを改めて指名した。

 

 ルーピンは他の人狼たちとともに農作業に従事しつつも、その片手間に誤解と仲たがいを解きほぐすべく、アズカバンへ面会に出向いていた。その効果もあって、二人は12年の断絶などなかったように、元通りの交友関係を築けた。少なくとも、ルーピンはそう思っている。

 

 さて、そんなシリウスが獄中でひたすら気に掛けるのは、もちろん親友ジェームズの息子、ハリー=ポッターのことである。

 

 あの子は生きてたんだ!とシリウスは嬉々として話した。アズカバンを脱獄して、黒犬姿で北のホグワーツへ向かう道中で通りがかった街で偶然見かけ、まさかと近寄ってみれば間違いないと確信した。

 

 見た目だけで?と呆れて問い返すルーピンに、シリウスは胸を張ったドヤ顔で答えた。オレがジェームズの息子を見間違えるもんか!と。

 

 そのあとはちょっといろいろあってはぐれてしまったし、シリウスにも憎きネズミへの報復という大事な目的があったので、泣く泣くあきらめたが、落ち着いたら必ず会いに行こうと強く決めていたのだ。

 

 出所したら、一緒に探しに行こう!とウキウキというシリウスを、ルーピンは必死になだめた。

 

 今ともに住んでいる家族とともに静かに暮らしたいだろう、ハリー=メイソンJr.を慮って。

 

 ルーピンは、声を潜めてシリウスにハリーJr.の現状を教え、続けて説得する。

 

 いきなり押しかけたら迷惑だろう?闇の陣営の残党がどこで目耳を張り巡らせているかわからないし、まずは手紙で都合を聞こうよ、と。

 

 その場では不承不承という様子でも、シリウスはうなずいた。・・・けれど、やはりシリウスはシリウスであった。

 

 ハリーJr.の現状を聞いた時に、シリウスは併せてセブルスのことを聞かされたのだ。

 

 ホグワーツで殴ってきたのはセブルスだということで、「はあ?!あれがスニベルス?!」と非常に驚かれたこと。(ペティグリューのことを知った新聞は視察に来たファッジからの差し入れだった。再投獄後、新聞さえももらえなくなったのでスキーターの記事をシリウスは知らないままだ)

 

 そして、どうやってかセブルスがハリーJr.とリリーの親子を助けて、二人を引き離そうとしたダンブルドアから匿い、ともに住めるようにしてくれたこと。

 

 で、それを聞いたシリウスは何をどう曲解したか、セブルスに敵意を持った。(たぶん、これでも相当やんわりと表現してあると思われる。元々敵意を持ってたのは言わずもがな)

 

 手紙には書かれていなかったが、おそらくその場でセブルスの罵倒大会でも開ける勢いで何か言ったことは想像に難くない。

 

 で、そこから出所後に、シリウスはルーピンのところに転がり込んだ。ブラック家は当主であるレオ=ノワールが、弁護士を通じて引き取り拒否をしたらしいから、しょうがない。

 

 絶縁されて手切れ金もらったでしょ?レオ=ノワール氏は、ちゃんと前当主から資産も領地運営の業務も引き継いでいるから、歴とした当主だからね。要約してそんなことを言われたシリウスは、赤の他人が何でブラック家を好き放題してんだ!おかしいだろ!とブー垂れていたらしい。

 

 前述したが、ルーピンは人狼コミュニティのつてで農奴としてとはいえ、一応働いている。脱狼薬が給金ついでに支給されるのだし、他の農奴の人狼よりも魔法が使える分、給金もいい。(さすがにホグワーツの給料には及ばないが)

 

 で、そんなルーピンのところにシリウス(出所したての無職)が転がり込んだ。

 

 朝から晩まで働くルーピンがシリウスの行動を一から十まで見ていられるわけがなく、気が付いたら吼えメールを出されてた。

 

 いたる、現在。

 

 

 

 

 

 私が悪いんだ、早くハリーに会いに行こうというシリウスの懇願を仕事を言い訳に先延ばしにしてたから、というルーピンの言い訳と、再度の謝罪で手紙は結ばれていた。

 

 どこまでお人よしなんだ、この馬鹿は、とセブルスは軽蔑すら覚えながら手紙を放り捨てた。レターボックスに入れるのもばかばかしい。

 

 ルーピンのそれはもはや、友情を通り越して依存めいていやしないか?

 

 突き放すのも時には必要だ。もっとも、セブルスの立場としては勝手にしてくれとしか言えない。

 

 もっとも、メアリーに危害を加えた時点で慈悲はない。慈悲はないのだが・・・。

 

 セブルスは続けて目を通した手紙を前に、盛大に舌打ちした。

 

 それは、リリーからの手紙だった。

 

 どうも、シリウスは合わせてメイソン宅(正確にはハリーJr.)にも手紙を出していたらしい。

 

 心配した!無事でよかった!元気だったか!会いに行きたいから都合のいい日を教えてくれ!などととりあえずハリーJr.(併せてリリー)の心配をしまくるシリウスの手紙に、ハリーJr.は毒気を抜かれたらしい。(この辺りは基本的に素直でお人よしのハリーJr.らしい)

 

 その過程で閉心術の訓練を通じて知ってしまった、セブルスの話をするハリーJr.に、激怒したのがヘザーだった。(ハリーもいい顔をしなかったらしい。リリーはあれについてはセブルスも悪かったけど、自分も悪かったと思い返して落ち込んでいた)

 

 いくら手紙でいい人ぶったって、おじさんにそんなことした人に会うっていうの?!と憤慨しまくるヘザーを、一応ハリーJr.の後見人の一人だから、とリリーは懸命になだめた。

 

 無実を知ってたのに、見捨てるように見て見ぬふりしていた罪悪感があったので、会わせるくらいならばいいだろうと思ったらしいのだ。

 

 で、セブルスに散々迷惑をかけてすまないが、シリウスと会うのを許してもらえないだろうか、そちらには迷惑をかけないようにするし、シリウスにも言い聞かせるから、と申し出てきているのだ。

 

 以上のことが記された手紙に、セブルスはとりあえずリリーの謝罪に免じて、ひとまずシリウスへのあれこれは後回しにすることにした。

 

 ひとまずは。

 

 

 

 

 

 正規教員生活に入って5年目のサマーバケーションである。

 

 と言っても、今年は今年でのほほんと過ごせそうにないというのは、シリウス=ブラックからの吼えメールが証明してくれたところである。

 

 あのシリウスがおとなしくしているとは到底思えない。だが、メイソン一家は長期休みの際はハリーの仕事の関係で取材旅行に行くことが多いのだ。急に連絡が取れなくなった、とシリウスが騒ぎ出さなければいいのだが。(たぶん無理だ)

 

 加えて、セブルスもメイソン一家のことばかり気にかけていられない。(最優先事項ではあるのだが)

 

 何しろ、セブルスはついこの間復活に失敗して(させてというべきか?)化け物に変貌した闇の帝王を八つ裂きにしたところである。

 

 おそらく、ヴォルデモートはまだ生きている。・・・あれを生きているといっていいかは不明だが、なにがしかの行動を起こせる状態ではあるだろう。

 

 だが、ヴォルデモートが一度でも復活したことを、死喰い人たちは知っている。その場にすぐさま参上できなかったものでも、“闇の印”のせいで察知しているだろう。

 

 そのヴォルデモートがよくわからないうちに突然化け物に変貌して、死喰い人たちを捕食し始めたとしても、見てないことを人間は信じない。

 

 つまり、アズカバンに拘留されている死喰い人たちが、ヴォルデモートの変貌を知るわけがなく、単純に一度復活したけどまたすぐいなくなったらしい、ぐらいしかわからないわけで。レストレンジなどの狂信者になると、何が何でも状況を把握しようとしたがることだろう。

 

 一方のヴォルデモートの捕食行為から逃げ出した死喰い人たちは、おそらく頭を抱えていることだろう。

 

 偉大なる我が君から逃げ出してしまったのだ。それも、直前の大演説で「お前らよくも助けに来なかったな?」と闇の帝王直々に罵倒されておきながら。

 

 もし、ヴォルデモートが正気を取り戻したら。あるいはレストレンジなどの狂信者が脱獄して、誅殺に乗り出してきたら。

 

 そう考えるだけで気が気ではないに違いない。

 

 実際、セブルスは夏休みに入ると同時に、ルシウスから“闇の印”を消してほしいという依頼が大量に入っていると連絡を受け取ったので、おそらく予想は外れてないだろう。

 

 なお、ルシウスはその依頼人たちがそろって、ホグワーツの次の魔法薬学教授はきまってる?スネイプのことはお悔やみ申し上げます・・・と沈痛な面持ちで言ってくるのに、眉を顰めざるを得なかった。

 

 何言ってんだこいつら?セブルスならホグワーツで元気に教鞭とってるが?

 

 なお、ルシウスがそんな感じのことを口にすると、依頼人たちはそろって、うっそだろお前とでもいうかのような唖然とした顔をしていたらしい。

 

 無理もないだろう。彼らはセブルスが死の呪文の直撃を食らったところを目撃したのだから。

 

 まあ、その連中はどうでもいい。ルシウスとかが泣きついてきたら考えないでもない。

 

 セブルスにとっては、今現在親交のある元死喰い人組――レギュラスとマルフォイ夫妻、エイブリーの方が優先すべき人間である。

 

 つまり、彼らには伝えなければならないのだ。闇の帝王の復活とそれにまつわるあれやこれやについて。

 

 

 

 

 

 マルフォイ家が出資するレストランは、純血貴族御用達である。

 

 “漏れ鍋”では気軽過ぎるので不向きな商談取引や接待でも用いられるし、あるいは家族そろうことがあるサマーバケーションなどの長期休暇で利用されることがある。

 

 使用する食材も超一級が取り揃えられ、味も値段に沿う高級なものだ。

 

 そのVIPルームにて、4人の男が顔を突き合わせていた。(なお、エイブリーもレギュラス=ブラックの生存については、察していたが知らぬふりをしていた。)

 

 顔色一つ変えずにステーキにナイフを入れるセブルスに対し、カトラリーを取り落としそうになるのはエイブリーである。

 

 ルシウスは真っ青になって顔を引きつらせているし、レギュラスはだらだらと冷や汗を流しながら目を泳がせていた。

 

 「お、ま、じ」

 

 「『お前マジで言ってんのか、冗談だろ』とでも言いたいのかね?」

 

 酸欠の金魚のごとくパクパクと口を開け閉めしつつ声を絞り出そうとするエイブリーだが、言葉になっておらずセブルスに先読みされる始末である。

 

 「・・・手紙ですでに読みましたし、14年前も聞きましたけど、改めて聞くと心臓に悪いですよね」

 

 「・・・知ってたのか?」

 

 「いろいろありまして」

 

 あきらめたような声でうめくレギュラスに、ルシウスが尋ねるとレギュラスは遠い目をして頷いた。

 

 14年前、当時同居していたセブルスが突然姿を消したと思ったら、血の臭いをさせて帰宅して、帝王の腸を引きずり出して殺してきたと告げた時もだいぶ混乱した。

 

 「待て待て待て。何か?スネイプ。お前が14年前に闇の帝王を殺した張本人?!リリー=ポッターの錯乱魔力暴走が原因じゃなかったのか?!

 んでもって、それが原因でついこの間も闇の帝王に拉致されて、復活に付き合わされたけど、その場で即座に殺しましたって出来の悪い三文小説か!」

 

 「エイブリー先輩・・・。

 フェンリール=グレイバックを知ってますか?スネイプ先輩は脱狼薬の改良に彼を協力させていました。腸を引きずり出して血まみれで地下に拉致して、了承させるまで拷問してました・・・」

 

 「我が家の前のハウスエルフを知っているか?突飛で実にできの悪い奴でな。

 あれがセブルスを怒らせた結果・・・今でも思うのだが、導きとは何のことだ?ドビーはなぜああなってしまったのだ・・・何故湿った音が頭の中で聞こえるというのだ・・・?」

 

 顔を引きつらせて問いかけるエイブリーに、レギュラスとルシウスは二人そろって語る。二人が目の当たりにした、セブルスの尋常ならざる部分を。

 

 

 

 

 

 レギュラスは今でも時々、セブルスからの指示でグレイバックを呼び出す。

 

 かつて狂犬とも呼ばれた人狼のリーダーは、すっかり人が変わったようにおとなしくなっており(口は悪いし悪態もつくが)、セブルスの治験という名の魔法薬の実験に引っ張り出され、その度に吐血したり心臓や呼吸を止めたりしている。蘇生こそ間に合っているが、都合のいいモルモット扱いに、人狼たちは震えあがっている。

 

 一度フェンリールをかばおうとした別の人狼がセブルスに腸をぶちまけられてから、反発勢力はなくなった。彼らはフェンリールから地下室でのあれこれを聞いて以降、闇の帝王よりも怖い、ととってもおとなしくなった。

 

 レギュラスはそれを間近でつぶさに見てきた。人狼たちは脱狼薬の支給と働き先の確保もあるが、同じくらい力ある者には平伏する。狼とは群れるものであり、群れる以上は頭目を戴くもの。力ある頭目が闇の帝王からセブルスに変わっただけだ。何も問題はない。

 

 むしろ、世間的にはあぶれたものが少なくなったことで人狼たちが世間にかける迷惑が少なくなったことで、よくなったとみるべきだろう。

 

 

 

 

 

 ルシウスは今でも時々、思い返してしまう。

 

 セブルスの家から治験とやらを終えて帰ってきたドビーの異様な姿を。妙に頭を膨らませ、蕩けさせた奇妙な瞳でうっとりと彼方を見やっていた。

 

 あれを思い返すたびに、脳の奥で何かが疼きそうな気がするのだ。

 

 その疼きを、ルシウスは徹底的に無視した。ルシウスにとって必要なのは家族、貴族の沽券、利益と様々だが、その脳の疼きは必要ない。

 

 まともに生きて、家族に囲まれて寝台の上でまともに死にたいのだ。

 

 だから、本音を言えば闇の帝王になんて傅きたくない。

 

 純血貴族として、古い闇の魔術についても多少の心得のあるルシウスは、感覚でわかるのだ。脳の奥の疼きなど、追いかけてもろくなことにならないと。

 

 

 

 

 

 「そういや、スキーターの新聞記事・・・。

 お前、マジでブラック兄をぶん殴ってたのか?」

 

 「おかしなことを言うものだ。

 あの時、あれを殴るに値する万の理由こそあれど、殴らぬ千の理由はなかったように思うのだが?」

 

 「どんだけ理由があるんだよ?!

 いや、相変わらず頭がおかしいブラック兄なんざ殴り損のような気もするが、なんでわざわざ殴る?!呪えばいいじゃねえか!」

 

 「わからんか?スカッとする」

 

 「新聞見た瞬間ドン引きしたっての!」

 

 清々したというかのように言い放つセブルスに、エイブリーはツッコミを返した。

 

 そこでシリウスを痛めつけないという選択肢が両者ともに出てこないあたり、どのくらい嫌われているのかがうかがい知れるだろう。

 

 なお、実の兄の嫌われぶりに、レギュラスは死んだ目をテーブルに落とした。

 

 一昨年のシリウス=ブラックの脱獄からホグワーツ潜伏に至る一連の事件は、レギュラスにとっては黒歴史扱いしたい出来事である。

 

 そんなレギュラスとは対照的に、ルシウスは宇宙人の話に興味はないというかのように、カトラリーを黙々と動かしている。

 

 「話を戻していいかね?私のことよりも重要な話だ。

 先も話した通り、闇の帝王が一時的とはいえ復活した。

 貴公ら、元死喰い人にとってはあまりいい状況とは言えぬと思ってな」

 

 「・・・ええっと、さっき即座にその場で殺したって言ってませんでした?」

 

 話題の軌道修正を図るセブルスに、どうにか気を取り直したレギュラスが問いかけた。

 

 「うむ」

 

 「何度聞いてもツッコミどころしか出てこねえんだが?

 とりあえず、何があったかもうちょっと詳細に話せ」

 

 八つ当たりするように、最後のステーキのひとかけらを飲み込んでから、エイブリーが促した。

 

 うなずいて、セブルスは改めて話し出した。

 

 

 

 

 

 イースター休暇明けのとある休日に起こった、その事件。

 

 セブルスがすべてを語り終えた時には、肉料理のあとのデザート、ワッフルに添えられたアイスもすべて食べ終わっていたが、セブルス以外の全員が胃もたれでも起こしていそうなげんなりした顔をしていた。

 

 「お前・・・よく無事だったな・・・?」

 

 一度死んだことを除いてすべてを話していたセブルスに、かすれた声でエイブリーが問いかける。

 

 「大したことではない。私にとっては何があっても悪い夢のようなものだ」

 

 「ああ・・・まあ・・・スネイプ先輩は・・・そうかもしれないですね・・・」

 

 シレッといったセブルスに、ついこの間悪夢じみた事件に巻き込まれてセブルスの助力で切り抜けたレギュラスが遠い目をして頷いた。

 

 「・・・Mr.メイソンから闇の帝王蘇生の可能性と、その身内の墓の在処について聞き及んでいたが、どういう経緯をたどればそうなる?」

 

 途中からひたすら頭痛をこらえるようにこめかみをもみほぐしていたルシウスの問いかけに、セブルスは続けた。

 

 「棺の中の遺体に細工をしておきましてな。中の遺骨を少々曰く付きのものにすり替えていたのですが、それに気が付かずに蘇生材料にしたようです。

 さらに、蘇生材料の一つには、クラウチJr.の肉体の一部がありましてな」

 

 「あ・・・そういえば、ホグワーツで見つかったバーティの遺体には、手首がなかったって・・・」

 

 はっとしたレギュラスの言葉に、セブルスはうなずいた。

 

 「去年、バーティ=クラウチJr.が21の秘跡という魔術儀式を行い、その肉体を人ならざる身に堕としたことはすでにお話ししたとおりです。

 曰く付きのものにすり替えられた遺骨、人ならざる肉身、それらを統合する魂は、度重なる分霊箱作成によってズタズタにされ、薄弱そのもの。

 まともな状態で蘇生する方が難しいでしょうな」

 

 さらには、セブルス自身の血もそれに後押しをしてしまった。

 

 ヴォルデモート自身は知らなかっただろうが、いっそ見事なまでの自滅行為だった。

 

 せめて、蘇生素材がどれか一つだけがまともでない状態であるならば、まだ救いがあった。・・・というか、リドル氏の遺体に細工をした時点のセブルスは、せいぜい血に飢える程度だろう(いかに儀式素材を用いても、その力を引き出す上位者の血などの他の起爆剤がなければ意味がないだろう)と思っていたのに、ふたを開けてみればこの始末である。

 

 不老不死のどこがいいのか。体感時間で百年ヤーナムで死に続けたが終わりもなかった獣狩りの夜を延々と過ごしたセブルスには、理解しかねる話だ。

 

 「分霊箱?」

 

 「闇の帝王が、セブルスに殺されてなお死に切らなかったカラクリだ。

 闇の魔術の中でも、最も悍ましい呪法の一つ。生贄と引き換えに己の魂を分割して器物の中に封じることで、仮初の不死を得るそうだ。

 ・・・待て」

 

 怪訝そうな顔をするエイブリーにそう説明したルシウスは、ややあって顔をこわばらせる。

 

 「まさか・・・まだ闇の帝王が生きていると?

 分霊箱がまだほかにもある?そういうことなのか?」

 

 聡いルシウスはそこに行きついたらしい。矢継ぎ早に尋ねてくる。

 

 「現状判明しているものは破壊しました。

 ただ、そこから新たに分霊箱を作った可能性があります。

 あるいは」

 

 「あるいは?」

 

 「本人も意図せず、偶発的に分霊箱を生み出した可能性もあります」

 

 「偶発的?!魂ですよ?!ガラスじゃないんですから、そう簡単に分割できるわけがないじゃないですか!」

 

 口をはさんだレギュラスに、セブルスは黙って指を5本立てる。

 

 「5つ。それが今まで発見・破壊してきた闇の帝王の分霊箱の数だ。以前、レギュラスから聞いた限りでは最大3つ作ったものがいたそうだが、それを超えている。

 そんな大量に魂を分割するものを量産すれば、魂そのものが脆弱になってもおかしくない」

 

 言い放ったセブルスに、ルシウスは確かにと頷き、レギュラスとエイブリーは絶句している。

 

 

 

 

 

 分霊箱作成において、器物に封じる魂が単純に2分の1に分割したものだとするならば、分霊箱を作成するたびに本体に残る魂はより脆弱になる。単純計算して、本体に残る魂は、本来の32分の1しかないということになるのだ。

 

 セブルスは聞きかじった程度しか知らないが、東洋において魂は三魂七魄という、3つの魂と7つの魄で形成されているという思想もあり、それを応用しているのかとも思ったが、そうでもないようである。(世界一周〈グランドツアー〉中に、そういったことを聞きかじることもあったので)

 

 さらに、ヴォルデモートはセブルスの血を取り込んだ。血の遺志の業を扱えるようになる、狩人の血を。

 

 血とは魂と密接に連動する。狩人は遺志を継ぐものである。血を通じて他者(それが獣であれ狩人であれ上位者であれ)の想いを引き継ぐが、それは同時に狩人自身の精神の強さ――血に酔えども目的を忘れない屈強さの必要性を意味する。脆弱な状態の魂で、あれらの素材から構築された肉体を一度でも用いればどうなるか。

 

 それに加えて、ヴォルデモートは配下の死喰い人を捕食している。一度でも狩りと殺しの快楽を知ってしまえば、後戻りできなくなる。

 

 もっとも、それに耽溺した末路をセブルスは知ってしまったので、必死に呑まれまいと抗ったのだが。

 

 血には酔えど、飲まれるべからず。血は畏れ恐れるものである。

 

 もっとも、ヤーナム人からしてみればよそ者のセブルスこそがそれを一番わかっていたというのは、何とも皮肉な話であるのだが。

 

 もちろん、ヴォルデモートにそんなことわかっているはずがない。学長ウィレームの警句など、あの男にとっては何の意味もないだろう。

 

 狩人の血とは、元をたどれば上位者由来のものだ。その効果は激烈だ。魂さえも変質させてしまうほどに。

 

 

 

 

 

 本題に戻す。

 

 「待て待て待て。ただでさえも仮初の不死になる分霊箱とやらを意図的量産してるのに、事故って偶発製造する可能性もあるってのか?

 んでもって、この間実際復活して、“闇の印”で招集かけてきて、そのあと即座に殺されたわけで・・・。

 ヤベエんじゃねえか?いろいろと」

 

 同じく思い当たったらしいエイブリーが顔を引きつらせる。

 

 「・・・アズカバンへの監視を強めた方がいいですね。

 あとは、僕たちと同じく印を消してもらった元死喰い人に警戒を促すべきでしょう」

 

 「そうだ。それを警告に来た。

 私は確かに、闇の帝王の肉体は殺したが、魂を再起不能にはできていない可能性がある。

 さらに、復活の儀式に手を貸したペティグリューに逃げられた。

 闇の帝王の手足となりうる奴がな。

 復活の儀式はつぶしたが、まだ何か手段を講じないわけがないだろう」

 

 青ざめた顔で言うレギュラスに、セブルスはうなずいた。

 

 あの復活の儀式直後の墓地で、すでにヴォルデモートは自身を裏切って完全に離反した死喰い人についても把握してしまっているだろう。

 

 なにがしかの形で制裁を加えにかかってきてもおかしくない。

 

 「・・・すでにマルフォイの本邸は従来の場所とは別の場所に移築をし、防護結界や守護術式に変更を加え、レストレンジ他数家のものは通さないようにしている」

 

 「マルフォイ先輩に同じくな。ああ、去年、お前が来たのは移築した方なんだよ。

 そういう事情なら、商売取引の方もしばらくは代理を通したほうがいいな」

 

 「ブラック本邸に関しても問題はありません。あそこは元々闇の帝王にも住所を開示していません・・・あ」

 

 「どうかしたのか?」

 

 「・・・兄が」

 

 青ざめた顔でレギュラスがうめく。

 

 「兄が、ひょっとしたらダンブルドア辺りに住所を漏らしている可能性があるかもしれません・・・。

 その・・・スネイプ先輩がホグワーツから出奔される前までは、一応兄もブラックのものとしていろいろ機密を知られてましたので・・・」

 

 実際、シリウスはポッター夫妻にグリモールドプレイス12番地の在処を漏らしてしまっている。おかげで、ダンブルドアに追われる赤子のハリーJr.を連れたリリーはレギュラスに会い、セブルスの伝手で大陸に渡ってハリー=メイソンらとともに暮らせるようになったのだが。

 

 とはいえ、それはしょせん結果論でしかない。

 

 ダンブルドアが知っているなら、闇の帝王復活のことを耳にした彼が何かやってきてもおかしくない。

 

 あの老人は所在不明であるが、死んだとは明言されていないのだから。

 

 「と、とにかく、すぐに帰宅してクリーチャーと一緒に確認をしないと。防護結界や守護術式もかけなおしたほうがいいですね」

 

 急いでレギュラスがカトラリーをおいて立ち上がろうとした時だった。

 

 慌ただしく扉がノックされ、ルシウスが「入りたまえ」と声をかけると、素早く丁寧に扉が開かれる。

 

 きりっとした支配人が、素早くテーブルに歩み寄りながら、「お食事中に失礼します。魔法省からのフクロウ便でございます」と言いつつ、手紙を差し出してきた。

 

 赤くて煙を上げる吼えメールではないその封筒は、黒い色をしていた。

 

 それは、緊急性は高いが同時に機密情報だということを示す、純血貴族が特に用いる特殊な封筒だ。

 

 ルシウスが杖先で封蝋をノックすると、瞬時に蝋は溶け消える。あらかじめ登録した魔力の持ち主しか解除できない特殊な封蝋と、無理に開封しようとすると中の便箋を溶かす特殊な封筒だ。これらはセットで特に純血貴族が好んで用いている。

 

 そうして取り出した手紙を彼は目を通すなり、絶句して顔を上げた。

 

 青ざめた顔で、彼は告げた。

 

 「アズカバンで集団脱獄が起こった。レストレンジ夫妻をはじめ、元死喰い人が多数脱獄。例のあの元森番に・・・吸魂鬼(ディメンター)も一緒にいなくなっているそうだ」

 

 

 

 

 

 続く

 




【黒い手紙】
 純血貴族が特に好んで用いる特殊な手紙。あらかじめ魔力登録した相手の杖のみが、その封蝋を溶かし、中の便箋を取り出すことができる。

 中身は魔法省の役人がルシウス=マルフォイにあてた手紙で、アズカバンからの集団脱獄について書かれている。

 重大な秘密を大声で触れて回るのは品がなく、しかし共有する必要があるそれの伝達手段として、純血貴族たちは黒い封筒と専用の封蝋を好んだのだ。





 次回の予定は、未定です。

 内容は、帰ってきたダンブルドア!正義は不死鳥のごとく燃え上がる・・・のか?

 ようやく本編登場のピンクのガマガエルを添えて。カエルの解剖が秒読みに入った?!お楽しみに!

 2023.10.09.追記
 次回は本編更新としていましたが、予定変更で番外編の方を更新します。
 詳しくはアンケートでお願いします。
 その代わり、10月14日を締め切りとし、15日更新とします。
 よかったらご協力お願いします。

 2023.10.15.さらに追記
 ふと正気に戻りました。この小話はおかしなところが多すぎるのでは?こんなもの公開してお目汚しするなど、赤っ恥もいいところでは?と。ゆえに、インテルメッツォ3は削除します。気が向いたらまた改稿して公開します。大変申し訳ありませんでした。

 2023.12.30.さらにさらに追記
 来年1月1日と1月2日に外伝を1話ずつ更新します。1日の方は削除したインテルメッツォ3を修正して投稿、2日の方はアンケートでお聞きしたピーター視点のお話です。本編は・・・もうしばらくお待ちください。

次回更新の番外編はどちらがいいですか?

  • ペティグリューの回想
  • メアリーとセブルスさんの小話集
  • 本編?ストックがまだなんです
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