少しだけ書けたので、続きを。
ピンクのガマガエルのエントリーだ!
食事会は和やかな別れとはいかず、それぞれ難しい顔でバタバタと帰宅していくのを、セブルスは見送るしかできなかった。
ルシウスは、マスコミにも働きかけて大々的に闇の陣営からの離反を宣言してしまっている。
魔法省の立て直しとホグワーツのシステム改革に加えて、脱獄した死喰い人たちへの対抗策を講じなければならない。
一応、彼はこれまで――“闇の印”を消してから、ちまちまと裏工作――他の中立純血貴族たちにつなぎを取ったりしていたらしいが、もはや四の五のいってられる状態ではないと、レギュラスともども忙しくしているのだ。
・・・またその額の広さが広くなりそうな気がするのはセブルスの気のせいではあるまい。
エイブリーはといえば、ひそかに元死喰い人仲間――“闇の印”を消した者たちに急ぎ連絡を取り、身の隠し方などを相談し合えるようにしている。
エイブリーは元死喰い人としてはかなり運がいい方なのだ。もし、“闇の印”も消せれず、魔法野菜の栽培が大当たりすることもなければ、否応なしに闇の帝王の招集に馳せ参ずる羽目になっていただろう。(そして、その果てに酷使の挙句破滅もありえた)
なまじ苦労した時期があった分、他の元死喰い人たちに同情的な彼は、ただ暴れたいだけのチンピラは置いといて、家の事情などでいやいや協力していたなどの純血貴族をどうにか逃がそうと奮闘していた。(アズカバンにいるマルシベールも懸命な説得で脱獄はしていなかったらしい)
ただし、裏切られてはたまらないと“破れぬ誓い”をはじめとした各種魔法契約でがちがちに固めて。スリザリンは用意周到なのだ。
さて、セブルス=スネイプの自宅、“葬送の工房”である。
セブルスは、一通の手紙を前に眉を寄せていた。
大文字のエムに、杖を組み合わせたエンブレムの封蝋は、魔法省からのものだ。
肝心な要件はといえば、事情聴取要請である。
イースター休暇後、学年末テストの前のとある休日に起こった騒動について、である。
その騒動の渦中にあったセドリック=ディゴリーが錯乱して、“例のあの人”が復活した挙句化け物に変身してその場にいた死喰い人を食い殺しましたと喚き散らし、誰にも信じてもらえず傷心のあまりそのまま学校を退学してしまったわけだが、その後、発覚してしまったのだ。
セドリックの父親、エイモス=ディゴリーに忘却術と錯乱呪文が重ねがけされていることが。
仕事中のちょっとした会話の食い違いで、クラウチ氏の惨事からさして時間が空いてないことから、念のため癒師に診察させてみれば、どうも忘却術と錯乱呪文が重ねがけされているらしいと発覚したのだ。
事情聴取、あるいはカウンセリングの結果、クラウチ氏の惨事発覚のほぼ直後からのことに関して効果があるらしい。
急ぎ、ディゴリー夫人も呼び出してみれば同じような状態で、あわててセドリックの方を探そうにも彼は内定を固辞して行方不明になってしまっているわけで。
クラウチ氏の証言から、“例のあの人”はともかく、ピーター=ペティグリューが動き回っていることはほぼ確定なわけで、クラウチのところからディゴリー宅へ潜伏先を変え、またどこかへ逃亡した可能性がある。
少しでも何か手がかりをつかむために、セドリック=ディゴリーが錯乱する前に、彼に拉致されたセブルスに何があったのか改めて話を聞きたいということらしい。
それでペティグリューの行き先への手掛かりがつかめればよし。ないならないで仕方ない。そういうことだ。
さて、魔法省への出頭は確定として、事情聴取には何と答えたものか。
出頭予定日はサマーバケーションの途中である。ホグワーツに行くのが学期開始の一週間前でそれよりは前になるので、大きな問題はない。
予定がぎっしりのルシウスやレギュラス、エイブリーと比べれば比較的ゆっくりできる。比較的。
聖杯ダンジョンマラソンだってあるし、魔法薬の研究、カレル文字の研究etc・・・。とにかく、自分の予定もあるのだから。
セブルスはため息をついて、手紙をおいて立ち上がった。
さて、出頭日当日。
魔法省の廊下は詰め込む職員たちが行きかい、天井間際を飛び交う書類紙飛行機が落ち着かない。
セブルスは受付からつけられた案内役人に従いながら歩き、とある一室に入るように促された。
おそらく、ハリー=メイソン辺りが見れば、刑事ドラマの取調室というような、あまり広くない小部屋だ。
すでに中にいた闇祓いの一人(目の下にクマが付いて疲れた様相をしている)に促されて、セブルスはデスクをはさむ椅子の一つに腰を下ろした。ちなみに、正面に座る話役の他に、録音魔法具の管理と記録係を行う魔法使いが別にいる。
さて、事情聴取であるが、小難しいことをいってもしょうがないので概要だけ記させてもらう。
改めてあの日あったことを訊かれたのだが、話すとややこしいのとドアの外で聞き耳を立てている存在に気が付いたセブルスは、やはり覚えていない、思い出せないでごり押した。
・・・この分では、他の盗聴魔道具の存在にも気を付けた方がいいかもしれない。
ホグワーツでは双子のウィーズリーが“伸び耳”なる魔道具を作って、学校で売りさばいていたが、それが流出していない保証はなく、類似魔道具が作られてない保証もない。
聞き耳を立てている相手が誰なのかはわからないが、余計なことは言わないに越したことはない。
下手をすれば、そのまま闇の陣営シンパと勘違いされてその場で拘束されかねない。
それは面倒なのだ。
ともあれ、ご協力ありがとうございました、というお約束の言葉とともに改めてセブルスは帰途に着けることになった。
小部屋を後にしたところで、その前でにらみ合っている三人の魔法使いに出くわした。
片方は燃え上がる赤毛が特徴的な、長身の魔法使い。丁寧につくろわれているが、使い込まれたローブが目に付く。
もう片方はプラチナブロンドと整った顔立ちに、上品な黒いローブをまとっている。
両者とも、セブルスには見覚えがあった。
最後の一人は知らない顔だ。黒髪を前に垂らした、陰気そうな男だ。・・・狩人の鼻は、男からかすかに漂う血の臭いを嗅ぎ逃さない。
「何をされているのですか、三人とも」
「ああ、すまないな、セブルス。事情聴取は終わったのかね?」
セブルスの言葉に、冷たい視線を和らげたのはプラチナブロンドの美丈夫こと、ルシウス=マルフォイである。どうやら、セブルスの事情聴取が終わるのを待っていたらしい。
「セブルス=スネイプ?!生きてたのか?!」
ぎょっとしたような声を張り上げるのは、陰気そうな黒髪の男だ。
セブルスには、その声に聞き覚えがあった。リトルハングルトンの墓地で、ヴォルデモートと対峙したセブルスを嘲笑した声の一つだ。
となれば。
「だから言っただろう、マクネア。セブルスが死んだなど、何かの間違いだとな」
言って、ルシウスはセブルスに男――マクネアを紹介する。
「ワルデン=マクネアだ。魔法生物管理部所属の・・・片付け係だ」
「そんな安っぽい言葉で片づけるなよ、ルシウス。素直に言えばどうだ?処刑人だとな。
オレは今の仕事も悪くはないと思っているからな」
「・・・セブルス=スネイプだ。ホグワーツで魔法薬学教授を務めている。
貴公はすでに見知っていると思うがね」
「っ!
なぜ生きている?!」
「これはまた奇妙なことを言う。
まるで私が死ぬところを見たようではないか。貴公、何か心当たりでもあるのかね?
悪い夢でも見たと忘れた方が賢明ではないかね?」
ギクリッと肩を震わせるマクネアが詰め寄るが、対するセブルスは飄々と言い放った。
言えないだろう、とセブルスは確信していた。
それは、彼がいまだに帝王に従うことを是としていると公の場で宣言するのと同義だからだ。少なくとも、この場では言えない。
実際、マクネアはぐっと言葉に詰まってしまっている。
「あー・・・どういうことだろうか?」
ここで口をはさんできたのは赤毛の男だった。
「・・・まだいたのか、さっさと物置小屋のような自分の部署に戻ったらどうだ?アーサー=ウィーズリー」
「お上品な皮をかぶっても、その性根の陰湿さは隠せてないな、ルシウス=マルフォイ。
何が悔い改めて魔法界のために誠心誠意尽くしていきたい、だ。
口先だけなら何とでも言える!
そう簡単に信じてもらえると思ったら大間違いだ!
兄に近寄るのをやめろと言ってるんだ。
アズカバンからの大量脱獄といい、私が何も知らないと思っているのか?」
再び視線を凍てつかせるルシウスに対し、赤毛の男――アーサー=ウィーズリーは噛みつくように言い放った。
セブルスには、蛇と猫がにらみ合っているように見えた。
「知ったかぶりはうまいようだがな。
賢者は己の無知を知る者だが、愚者は得てして知ったかぶることが多いものだ。
私に絡んでいる暇があるなら、少しでも仕事をして暮らしを楽にしようとは思わないのか?これだからウィーズリーは、おっと失礼。
ビリウス=ウィーズリーは話の分かる御仁だったからな。
これだからアーサー=ウィーズリーは、と言い直しておこう」
アーサーのこめかみにビキリっと血管が浮き上がる。
対するルシウスも口ではつらつらと罵倒文句を言い放ちつつも、視線の温度をどんどん引き下げていく。
次の瞬間、二人が動いた。
杖こそ引き抜かなかったものの、双方振りかぶった拳をほぼ同時に突き出そうとしていた。おかしなところで気が合うものである。(この二人の仲の悪さはもしかしたら同族嫌悪も入っているのかもしれない)
というか、双方学習していない。3年ほど前もフローリシュ・アンド・ブロッツ書店で殴り合いのけんかをしたというのに。(そして、ルシウスはこの時のどさくさで分霊箱の日記帳を無くすという特大のポカをやらかしたというのに)
だが。
次の瞬間、二人は拳を止めた。
双方の間に突き出された鋼色の玉が付いた棒のせいで。
「よき大人が公共の場で拳を繰り出し合うのは、上品な行為とは言えませんな?」
トニトルスの持ち手を握るセブルスの言葉に、忌々しげにアーサーをにらみつけたままではあったが、ルシウスは拳を下ろす。
アーサーもまた、渋々と拳を下ろす。
・・・二人は知らないだろう。このまま続けようとしたら、トニトルスが紫電をまとって、二人を殴打したであろうことを。
暴力をもって暴力を制す。狩人にとっては常識である。なお、これでも相当ソフトではある。その気になれば血まみれ臓物ぶちまけは容易だ。
ついでに言うと、セブルスは素手でも強い。筋力99のカンストでもあるので。何ならそのまま内臓を引きずり出せる。ならばなぜ武器を使うのか?その方が当然強いからだ。ガラシャの拳?あれは手ごたえがあるから。
結構、という代わりにセブルスも一つうなずいて、トニトルスを下ろして消す。
先ほどからマクネアが、ちらちらとセブルスの方を見てきている。
マクネアはリトルハングルトンでのセブルスの戦闘模様を見ている。怪物となったヴォルデモートから逃げるのに必死だったため、それと二度目のセブルスの戦いは見ていないが、それでもセブルスが魔法使いらしからぬ戦い方をして、武器を隠し持っていることは知っているのだ。
そして、今またよくわからない道具を出した。それがどういうものかマグルの道具に疎いマクネアにはわからぬが、これだけは分かった。セブルス=スネイプは既存の魔法使いとは完全に異質な男なのだ、と。
もっとも、例えマクネアがマグルの道具に詳しかったとしても、目の前の男が持っている道具のことは分からなかっただろう。
トニトルスは医療教会の工房で変人として知られたアーチボルドの手になる独特の仕掛け武器だ。この奇妙な鉄球の槌は、マッチのように擦ることで黒獣が纏うとされる青い雷光を人工的に再現するのだ。
・・・もし、アーサーがその変形機構を見たら目の色を変えていただろうが、はた目には単なる鋼色の槌・・・というか、玉のついた棒にしか見えないのと、
ともあれ。
二人が険悪な雰囲気でにらみ合い、二人がそれを微妙な感じで眺めている魔法省の廊下に、近寄りたがるもの好きはいない。
ルシウス=マルフォイとアーサー=ウィーズリーの不仲は、広く知れ渡っているのだ。人間、進んで火中の栗は拾いに行きたがらないものである。
ついでに言えば、ルシウスとアーサーは無言でにらみ合っており、『さっさと失せろ』『お前がな』と言葉なく相手が退くのを待っている状態である。・・・先に退いた方が負けとでも思っているのだろうか?
「まあぁ!このようなところでなにをなさってらっしゃるのかしら!」
ここでわきからかかってきた女性の声に、4人が振り向いた。
途端にマクネアとアーサーの二人がうげっというかのように眉を顰める。
ルシウスもかすかに眉を動かしたが、あまり好意的な空気は出していない。
セブルスはもちろん、面識はない。
ピンクのカーディガンを羽織る、太った魔女だ。・・・見た目にはおっとりした感じでスプラウトのように人が好さげにも見えたかもしれないが、いじわるそうな目元がすべてを台無しにしている。
とっさにセブルスはガマガエルを思い出した。ピンク色のガマガエル。たっぷりした二重顎と、ぽこんとした丸みを帯びた体躯に、ピンクという膨張色が余計に魔女を丸く見せている。
「・・・そういえばまだ仕事があったな。これで失礼す」
「まあ!人の顔を見るなり逃げ出そうとなさるの?魔法生物の首切りがご趣味の方は、礼儀もご存じないのね!」
踵を返すマクネアは、魔女の嫌味に嫌そうな顔をしたまま足を止める。ここで逃げると何を言われるかわかったものじゃない。
「(あんたに礼儀を尽くすぐらいならナメクジにそうしたほうがマシだね)」
「何かおっしゃいまして?」
「なんでもないよ、アンブリッジ」
かすかな声でぼそぼそといったアーサーに、ここぞとばかりにアンブリッジと呼ばれた女が嫌味の舌鋒をふるう。
「いやですわ、ここをどこだと?公共の場ではそれにふさわしい呼び名があるのではなくて?
これだからマグル狂いの出来損ないは。さっさとご自分の部署に戻ったらいかが?
あなた方がだ~い好きなダンブルドアのしでかしたアクロマンチュラの大繁殖のせいで魔法省はてんてこ舞いというのに、ご自分は優雅に家族旅行?
まあ、いてもいなくても一緒だったんでしょうけど?だからこそ許可が下りたんでしょうね?
そうですわよね?Mr.マルフォイ?」
この数秒で、セブルスはこの魔女がなぜこんな顔をされるか理解した。かかわりたくない人種というのはこの世に確かに存在するが、この女は最たるものだ。こうまで呼吸する様に他人を痛罵する人間を、セブルスは見たことがない。(ヤーナムの連中もたいがいだったが、あの連中は大体言うことが決まり切っていたので)
人体実験大好きヤーナム医療教会の連中といい、現世破壊万歳邪神最高なサイレントヒルのカルティストといい、ろくでもない連中はさんざん目の当たりにしてきたが、この女は生息先をその辺りに変更してもいいのではなかろうか?きっと、連中と気が合うことだろう。
顔を髪と同じぐらい真っ赤にしたアーサーに、いい気味だと言わんばかりの目をしてから、ルシウスはアンブリッジに向かって口を開く。
「逆にこう考えてはいかがかな?
無能ものに仕事を邪魔されることがなかったと」
「確かに!さすがですわね!
最近のマルフォイ家のご活躍は」
「話をさえぎって申し訳ないのだが、我々に何か話でもあったのかね?
我々が言えた義理ではないが、ここで立ち話というのも他の者たちに迷惑だろう」
「まあ!なんとお優しい!どうでもいい有象無象のことまでちゃんとお気にされるなんて!
ご尊顔を拝謁しましたから、僭越ながらご挨拶をと思いましたの」
ころころもとい、ゲコゲコと笑いながら言ったアンブリッジに、ルシウスは冷たい美貌に冷笑を浮かべたまま言い放った。
「ならば用件は済んだな?
我々はそろそろ行かせてもらおう。セブルス、行くぞ。場所を変えるとしよう。
マクネア、また機会があればな」
踵を返すルシウスに、セブルスは黙ってうなずいてそのあとに続こうとした。マクネアもまた、鼻を鳴らしつつも片手をあげてその場を離れようとした。
「セブルス?まあ、もしかしてセブルス=スネイプ?
暴力教師の?」
だが、その背にアンブリッジの耳障りな声が投げつけられる。
「生徒の前というのに、暴力沙汰を引き起こした、野蛮で下賤な、元死喰い人でしょう?
Mr.マルフォイ、お言葉ですが、付き合う相手は選ばれた方がよろしいのではなくて?」
「かまうことはありません。行きましょう」
ローブの裾とプラチナブロンドをなびかせて勢いよく振り向こうとしたルシウスに、セブルスが言った。
「あの程度、かわいいものです。
出会い頭に死ねだのよそ者だの消えちまえだの投げてこないし、殺しにかかっても来ないのです。彼女はずいぶんと優しい人種ですな」
「・・・それは一般には優しいとは言わないぞ、セブルス」
セブルスの言葉に、ルシウスは一瞬ぎょっとした目を彼に向けたが、やがて呆れたように言うと、そのまま歩を進めた。
否、ルシウスどころか当のアンブリッジ以外の全員がセブルスの発言にぎょっとしたような視線を向けていた。
いったいどんな目に遭えば、そんな発言が飛び出すのか。
当のアンブリッジは、噛みつき返されないのが詰まらないらしく、面白くなさそうに、じっとりした目をセブルスの背中に向けたが、すぐに興味を失ったようにそらす。
「あんな男を雇うなんてダンブルドアも見る目がないと思いませんこと?
ウィゼンガモットを無断欠勤され続けていると思ったら、ついこの間いけしゃあしゃあと復帰なさったと思ったら、どこに行ってたか一言たりとも言いませんし。
常識を疑いますわね!」
「アンブリッジ!いい加減にしろ!」
「まあ!わたくしは事実しか言ってませんわよ?
本当のことを言われたからって、このような場所で怒鳴るなんて、大人げないにもほどがありませんこと?
おお、ヤダヤダ」
ゲコゲコというカエルの鳴き声にも似た罵倒を続けるアンブリッジをアーサーがとがめるが、どこ吹く風という様子で彼女は垂れ流す。
だが、その文言の中に聞き捨てならないことが混じっていたのにセブルスは即座に気が付いた。
小さく振り向いて頷くルシウスに、セブルスもまた頷きを返した。
どうやら事実らしい。
ダンブルドアが、帰ってきたのだ。
さて、闇祓いの事情聴取を受けるセブルスが気が付いた、扉の外で盗み聞きをしていたのは、アーサー=ウィーズリーだった。
これはルシウスの予想だが、帰ってきたダンブルドアの命令を受けてセブルスの様子を探っていたというところだろうか。
そこをセブルスに用があって事情聴取の終わりを見計らってやってきたルシウスと、ルシウスに話があったらしいマクネアが鉢合わせしたというわけである。
そう。ダンブルドアは帰ってきた。
正直、セブルスは感心した。よくもまあ、あの悪夢の町から帰ってこれたものだ。サイレントヒルはヤーナムとは別方向で魔境だ。
ルシウスは彼の伝手から伝え聞いたことを滔々と語る。
帰ってきたダンブルドアはまるで別人のようにやせ細っていたが、それでもその気力だけは以前のままだった。(少なくとも周囲にはそう見えたらしい。あの老人は秘密主義が過ぎるので、どんな変化があったかは不透明なままなのだ)
で、彼は耳にしてしまったらしいのだ。
セドリック=ディゴリーがセブルスを拉致した後、錯乱して帰還し、森番小屋に駆け込んだことを。
ヴォルデモート卿の復活と、それをセブルスが殺すところを見た、と。
以前も記したが、ダンブルドアはヴォルデモートの復活を予期(というよりその予定を確信というべきか)している節があった。
そして、セドリック=ディゴリーは基本的には穏やかで人当たりのいい好青年である。
直前にセブルスを拉致したという所業こそあれど、本人曰く「両親を人質に取られてた」とのことで、好き好んでやったわけではないと明白なわけで。
ともかく、セドリックの人柄を知るダンブルドアはその発言の信ぴょう性が高いと判断したらしく、不死鳥の騎士団のメンバーに働きかけ、あれこれと動き回っているらしい。
そして、これらを話し終えたルシウスはセブルスに向かって忠告した。
「しばらく、派手なことは控えておけ。
あの老人はシンパが多く、権力もある。
下手なことをすればアズカバン行きにされかねんぞ」
その時はヤーナムにでも帰るとしよう。
それは言葉に出さずに閉心術で覆い隠した思考の奥底で思ったことだ。
帰るとは奇妙な言い草だが、とっさにセブルスはそう思ってしまったのだ。あの町では散々な目に遭ったし、あそこから出たいと思いもした(そのために行動し続けた)が、同時に奇妙な懐かしさや愛着にも似たものを感じた。
もしかしたら、これもヤーナムの血を受け入れた影響なのかもしれない。今更ではあるのだが。
もっとも、そう簡単に帰るつもりはない。まだいろいろ中途半端なままなのだ。立つ鳥跡を濁さずというわけではないが、片付けは必要だろう。
「忠告感謝する、ルシウス。
それから、すまない」
「何のことだ?」
「奴を仕留め損ねたことだ。世話をかける。
次に会った時こそ」
「セブルス」
ギラリと宇宙色の双眸に獰猛な光を宿したセブルスに、ルシウスはちょっと引いた様子で言う。
基本的におとなしいセブルスだが、時々こんな血の気が多いというか、血生臭いことを平然と言うようになったとルシウスは思う。
ちなみに、今話しているのはマルフォイ邸の客間である。
こういった込み入った話をするのには、その辺の飲食店は目耳が多すぎる。各種勢力入り乱れの魔法省は論外である。
ルシウスは続ける。
彼の情報網によると、元死喰い人――特にルシウスの“闇の印”消し表明の後、こちらを心配もせず印消しの依頼を持ち込まなかった、いわゆる闇の陣営への残留派は、アズカバンの大量脱獄後、水面下で一気に動き出したらしい。
元々彼らはルシウスに、セブルス死んだけど、その後のホグワーツどう?と連絡を取ったりしていたのだが、怪訝そうなルシウスの返答やら何やらにさぞ混乱したことだろう。
そもそも、闇の帝王の死因だってリリー=ポッターの魔力暴走が原因じゃなくて、セブルスによる殺害だった。それさえも寝耳に水で、復活した闇の帝王とセブルスの一騎打ちからのセブルスの死を彼らは確かに見たはずなのだ。
だが、その闇の帝王は化け物に変身して、死喰い人の捕食を開始。これはたまらんと逃げ出すので手いっぱいだったわけだが、冷静になって彼らは青ざめた。
ヤベエ。闇の帝王様から逃げ出した。ヤバくないか?
いかに化け物に変身しても、あれは確かに闇の帝王であった。どんな報復に出られるか。
かくして彼らは足掻きだした。
今からでもいいからと闇の帝王に平伏しなおすための準備――情報と資産を集め出すもの、ルシウスを始め既に足を洗った者たちに泣きついて逃げ出す準備をするもの。
とにかく、それぞれが生き残るために必死に動き出したのだ。
さらには、アズカバンからの大量脱獄があったとわかれば、尻に火をつけられたごとく必死さに拍車がかかる。
例え帝王本人でなくとも、レストレンジはじめ狂信者や暴れるための大義名分が欲しいだけの凶悪な死喰い人が動き回るようになったのだ。
どんな報復を受けるか。
誰だって命は惜しいのだ。
ルシウス自身も一族の命運がかかってしまっているのだ。
前述したが、彼は現在中立の純血貴族たちに働きかけ、光と闇のどちらにも与しないいわゆる中立派の立ち上げに腐心している。
駆け落ちしたアーサーが抜けたウィーズリー本家の現当主ビリウス=ウィーズリー始め、他傘下の下級貴族や新興の商家などにも話を持ち掛けているのだ。もちろん、がちがちの魔法契約で縛るという条件付きだが、“闇の印”を消した元死喰い人も参加している。
・・・もっとも、その働きかけは見るものが見れば、第2の闇の陣営?!と疑われそうなものだ。誓って物騒なこと非人道的なことはやっていない、とルシウスは力説している。
で、当然そんなルシウスや死喰い人たちの動きは、ダンブルドアには察知された。
身を隠すために各所に仕事の引継ぎやら何やらをしていたルシウスたちを、不死鳥の騎士団員はしっかり見張っていたらしい。
ダンブルドアがディゴリーの話を聞き入れたというならば、当然帝王復活後の備えをするだろう。
事情を知っている可能性の高い(本人は知らぬふりを決め込んでいるが)セブルスにも、当然何らかの手段で接触してくる可能性がある。
ルシウスはそれをセブルスに忠告してきているのだ。
それからもう一つ。
ホグワーツについて伝えてきた。
去年から施行していた寮母制度はそのまま継続。新任の教師たちも問題なく、むしろ生徒たちからは好評ともいえる。
なお、“闇の魔術に対する防衛術”教授については、1年かけても名簿の呪いが解けず、いっそ海外から著名な解呪師を招こうか、という話も出ているくらいである。
ニンファドーラ=トンクスは快活な本人の人柄もあるし、ルーピンから引き継いだ授業カリキュラムのおかげで人気であった。
大きな問題や苦情の類もなく、続けさせてはどうか?と理事会や教職員からも意見が出たのだが、万が一があってはいけないからと変更することにした。
ただし、変更するのは今年1年だけ。トンクスの要望などにもよるが、再来年もし、本人がやっていいというなら、復帰、というか隔年でやってもらおうという話だ。1年以上続けられないなら、1年を隔年連続でやればいいじゃない、という話だ。
さて、今年からの変更点として、以前告知した新入生向けのオリエンテーション、低学年と高学年で授業の担当教授を分け、合同授業における寮の組み合わせの変更が予定されている。
この新入生向けのオリエンテーションだが、実は学生が行うことになっている。
正確には
前の年の6年生があらかじめ内容を準備。翌年の6年生だけは1日だけ早くホグワーツに来て、その準備と練習・細かな修正を行うのだ。
オリエンテーションと言っても難しいものではない。図書館と食堂を兼ねた大広間、最初の授業の教室への道案内などを、各寮ごとに行う。
その際に、寮ごとの暗黙の決まり事などを通達する。例えばスリザリンならマナーや上下関係をより重視するし、ハッフルパフならお互いの支え合いを重視するのでそれらに沿ったルールに関して、といった具合だ。
自分たちが一年だったころに知っておきたかったことを早めに知らせることになる、さらに就職したらやることになるプレゼンテーションの練習にもなる、とも伝えた。
その結果、個人主義の強いレイブンクローはいまいち気乗りなさげだったが、就職にもつながるとなるとやる気を出してくれた。
成功するかしないかはこれからだろう。
授業担当分けということだが、セブルスは担当こそ魔法薬学のままだが、明らかに低学年には不向きということで、4~7年生の高学年の担当をすることになった。(なお、3年生以下の低学年はスラグホーンが担当することになった)
ただし、ハリーJr.たちの学年は今年は
他にも、呪文学と変身術、薬草学は新しく教師を採用して、同様に低学年と高学年に分けることなどが決定しているらしい。
これらの科目は担当教授が寮監を兼ねているので、忙しさを考えての対処である。
加えて、新しく魔法界の法律を学ぶ科目を設立する。と言っても、既存の時間割が既に存在し、新しく科目を加えるとそれら時間割を再調整するためにさらに労力がかかる。
そこで、最初の数年だけは希望者のみ、正規の授業外の補習のような形で行い、その間に生徒間での様子・人気状態をみて、そのまま補習講座のまま残すか正規授業として取り込むか決める、とのことだ。
で、ここまで語ったルシウスはひどく沈痛な、申し訳なさげな顔をしながら続けた。
「・・・正直なところ、この試みは初年で破綻する可能性が非常に高い」
「珍しいですな?やるからには最大の成果を、と息巻いていらっしゃったと思いましたが?」
「肝心な講師が問題なのだ。専門家に任せた方がいいと、魔法省にいい人材はないかと話を持ち掛けたのだが・・・」
ここでルシウスは言いづらそうに口ごもってから、ややあって続きを話し出した。
「その・・・自薦他薦含めた結果、ドローレス=アンブリッジ・・・先ほどの女が来ることになった。
こざかしいことに既に他の理事に根回しをしておってな・・・。
おそらく、セドリック=ディゴリーの言を受けた子供たちや、ダンブルドアの息がかった連中を警戒するファッジの差し金だ。
魔法大臣を引退したというのに、その影響力は健在だ。ダンブルドアの狗だったころも目障りだったが、この期に及んで何がしたいのやら。
魔法省の再編で人員不足が深刻だからな。だからこそ余計な混乱は避けたいのだろう。それは分かるが、派遣相手が間違っているとしか言えん」
「それはそれは・・・」
あの息をするように他人をののしっていた女が教師?やっていけるのか?
セブルスも自分が教職に就くとなった時、分霊箱探しという目的を果たしたらさっさとやめようとすら思っていた。間違っても向いているとは思ってなかった。
どこの世界に獣狩りで仕掛け武器と銃器を振り回し、化け物の内臓を引きずり出して血まみれになっても意にも介さずにドロップアイテムの確認にいそしむ男が、子供の成長に貢献するなど。
・・・今だから言うことだが、実はセブルスのホグワーツ就職の際、リリーに非常に心配そうに、子供たちの前で血まみれ暴力沙汰はやめてね、と釘を刺されたのだ。セブルスもダンブルドアのひざ元で面倒を起こして目を付けられたくなかったので、おとなしくうなずいておいたのだが。
そんなセブルスでも、ホグワーツで一応一教師としてやっていけたのだ。ハリーJr.もいるから、少なくとも彼の卒業まではホグワーツで教師を続けてもいいとは思っている。
案外、あの女もやっていけるかもしれない。
「ダンブルドアは永久停職のままとはいえ、戻ってきたことに変わりはない。
加えて、アズカバンからの大量脱獄による元死喰い人たちの活動活発化もある。
・・・あまりこのようなことは言いたくないのだが、また一波乱起こりそうなのだ。
くれぐれも気を付けてくれ。
それから・・・息子たちを、頼む」
ため息交じりにそう言って、最後に深々と頭を下げるルシウスに、セブルスは静かにうなずいた。
続く
【ピンクのカーディガン】
魔法省役人の一人、ドローレス=アンブリッジの纏う衣服。堅実なる魔法省の役人らしくなく、派手で目立つ色をしている。
その衣服は、ガマガエルに似通った彼女が纏うことで、膨張色としての特色が強調されるので、着用者をより丸みが帯びた容貌に見せる。
ああ!麗しく偉大なるアンブリッジ!彼女は偉大でありながらユーモアもあるのだ!この色は目立つ上に彼女のそんな一面を強調すると、着用者は堅く信じている。
着用者の信じるものが、周囲にわかってもらえているとは限らない。
Q.アンブリッジさんの人物像ってこれであってる?
A.どうでしょう?あの人は読んでるだけで不愉快になります。書いててもすっごく不愉快なんです。不愉快な人は書くのにエネルギーがいるんですよ。
次回の投稿予定は未定です。
内容は、いよいよハリーJr.たち5年生のホグワーツスタート!
なお、ピンクのガマガエルさん。正直、今回罵倒文句を書いてて口調これで大丈夫?という不安と、こいつロクな死に方しねえな、という気分が半々におきました。
さーて、彼女が生きてホグワーツから出られるといいですね?
さて、どうなるでしょう?お楽しみに!