前話でアンブリッジおばさんの描写を不安に思ってたら、大丈夫!と太鼓判を押していただいたので、あれでええんか、と遠い目をしました。
という訳で、続きです。
「本当に信じられない!最っ低!」
メイソン一家の住む町の片隅にある、とあるファーストフード店。
やけ酒よろしくバニラシェイクをズズッと勢い良く吸い上げるのは、金髪に目元の隈が少々目立つ少女だ。けして美女とは言えないが、愛嬌がある。
その隣には黒髪に緑の目が目立つ少年が座っている。穏やかな気風は、困ったような笑みの中でも健在だ。
その向かいに座るのは、ちょっとひきつった顔をするハーマイオニー=グレンジャーと、言わんことじゃないとばかりに冷たい目をするドラコ=マルフォイである。
この4人で恒例となりつつある、夏の映画鑑賞(去年が男の子が好みそうなアクション映画だったので、今年は女の子が好むだろう恋愛映画)をして、その帰りのことだ。
最初こそ、ファーストフードに戸惑ったドラコだったが、最近は多少は慣れたらしい。もっとも、品のいい服と所作のせいで、いいところのお坊ちゃん感が抜けきってないのだが。(マグル社会を見るのも社会勉強の一環だと考えてのことだ)
で、そこでふとハーマイオニーがそういえば今年ブラック出所だけど、何かあった?とうっかり話を振った。
それがすべてのきっかけだった。
さっきまで映画の余韻でニコニコしてたヘザーは、瞬時に表情を変えた。目じりを吊り上げながらなおも吐き捨てる。
「あんのブラックとかいうやつ!私のこと無視するのはまだしも!おじさんのこと知るなり、パパを詐欺師呼ばわりしたのよ?!
許せるわけないじゃない!」
地雷踏んだかしら・・・と引き気味のハーマイオニーは、助けを求めるようにハリーJr.に視線を向けた。
「手紙読んだ感じ悪い人じゃなさそうだったんだよね。ちょっとだけって仏心出した僕とママ、すっごく後悔した」
思い出した様子でハリーJr.が口を開いた。非常にげんなりした調子だった。
「パパ、にこにこしたままだったけど、ブラックさんが帰るなり無表情になったんだよね。
めちゃくちゃ怖かった・・・」
「ねえ、まさか家に招いたの?」
「まさか!パパが担当さんとの打ち合わせに使うレストランで会ったんだよ!」
恐る恐る尋ねるハーマイオニー(ハリーJr.の出生事情などと合わせて、その家に“忠誠の術”が施されていることを知っている)に、ハリーJr.は勢い良く首を振った。
「ブラックさんに悪気がなくても、勢い任せに行動したり、良かれと思っていろいろやるかもしれないからって・・・」
「ロンから聞いたけど、ブラックって一応“不死鳥の騎士団”の一員だったらしいから。
ダンブルドアの信奉者の一人なら、家に招くのは確かに悪手ね」
「“不死鳥の騎士団”ってあれでしょ?ジュニアの学校の校長・・・あ、元だっけ?とにかく、その人が作った新興宗教組織とか?
なんかパパがそう言ってたけど、どうなの?実際」
「宗教組織・・・っ・・・言いえて妙だな」
ヘザーの言葉に、ドラコがククッと小さく肩を震わせて笑う。
「そうじゃなくて、“例のあの人”に対抗してダンブルドアが結成した対抗組織よ!
一応、表向きはね。私はそう聞いてるわ。
でも、確かに冷静にいろいろ考えてみると、宗教組織ってのも間違いじゃないかもしれないわね」
ハーマイオニーはツッコミを入れながらフライドポテトをつまむ。
「話を戻すけど、ブラックとかかわるなら本当に気を付けてね。
“太った
しかも、マグルの傷害事件とか人身事故とかだったら謝罪の手紙とか出してきてもおかしくないのに、それも一切なしよ?信じられない!
自分の目的のためなら何しでかしてくるかわからないんだから!
偏見かもしれないけど、下手なこと言ったら杖振り上げてきてもおかしくないぐらいには思ってたのよ」
「うん。ドラコからもあらかじめ言われてたからね。
我慢した」
心配そうなハーマイオニーに、ハリーJr.はうなずいた。だが、その顔が恐ろしい無表情になったのを見て、ドラコがビクッと身を震わせる。
「わかってるんだ、仕方ないってことは。
アズカバンに収容されてて、連絡の取りようがなかったってことは。
でもさあ、それとパパを偽物の詐欺師呼ばわりして、おじさんの友達ってだけで闇の魔法使いの手先とか、服従の呪文かけられてるとかいうのは、違うよね?」
「そうね、あんたは我慢したわ、ジュニア。
私もママもパパも我慢したわ。
一緒に来たルーピンって人が必死になだめて平謝りしてこなかったら、飲み物ぶっかけてた自信あるわ」
「そうだね。こんな奴爆発しちまえって魔力暴走が起きそうになるのを必死に我慢したからね」
すでにブラックはメイソン姉弟の地雷を盛大に踏み抜いていたらしい。
父上から聞いたとおりだな、馬鹿だなブラック。ハリーJr.に好かれたいなら、間違ってもその家族の侮辱はしてはいけないとわかるだろうに。
スネイプ先生と犬猿の仲らしいから、坊主憎けりゃのノリでやってしまったのか。思ってても口にしないだけでだいぶ違っただろうに。
まったくもって、愚かしい。
思いながら、ドラコはだいぶ溶けて柔らかくなったシェイクをズズッと吸い上げた。
さて、ハリーJr.たちにとって5年目のホグワーツが始まった。
今年でハリーJr.たちも5年生。監督生の選抜が行われ、スリザリンではドラコ=マルフォイとパンジー=パーキンソンが選ばれた。
ドラコは当然とも何とも言わず、普段通りのつんと顎を上げた尊大な態度である。パンジーはそわそわとしながらも嬉しそうにしていた。
グリフィンドールでは、ネビル=ロングボトムとハーマイオニー=グレンジャーである。
ネビルは自分がこんな大役!と青ざめていたが、ハーマイオニーは普段通りにやってればいいわ、といつも通り背筋を伸ばしていた。彼女の場合は、張り切りすぎて1年序盤のあれそれを繰り返さないためというのが大きかった。
ホグワーツ特急から降りたハリーJr.たちはいつも通りボート乗り場へ向かう新1年生とは別れて、馬車乗り場へ向かう。
馬車を引くのは蝙蝠羽の不気味な天馬――セストラルというペガサスの一種らしい。恐ろしげな見た目に合わせるように、なんと肉食である。
だが、特定の人間でないとこれは見えないらしい。すなわち人の“死”を目の当たりにした人間でないと見えないそうだ。
ハリーJr.は見える。何しろ、幼少の時分に、父親と親愛なるセブルスおじさんが襲ってきた教団の人間を返り討ちにしているところを目撃してしまったのだから。
2年時にあれ何?とドラコに尋ねて、見えないドラコが何のことだ?と聞き返したのは言うまでもないだろう。
そこから時間も経ち、3回目となればさすがに多少は慣れが出てくる。
馬車に乗り込もうとしていた時、ハリーJr.は見慣れない少女が少し離れたところで、乗り込み損ねた様子であるのを見かけた。
乱れたダークブロンドの少女――青いネクタイからレイブンクロー生だろう、を見かねて、ハリーJr.は彼女を自分たちの馬車に誘った。もっとも、去年あたりからいろいろ意識し始めたハーマイオニーのこともあって、ハリーJr.たちは男女に分かれて乗るようにしていた。ハーマイオニーはほかの女子生徒たちと一緒である。ゆえに、そのダークブロンドの少女、ルーナ=ラブグッドも女子生徒たちの乗る馬車へ乗ることになった。
「乗せてくれてありがとう。助かったよ」
独特の口調で話すルーナに、ハーマイオニーは「お礼ならハリーに言って」と笑い返した。
「うん。いい奴だよね、あいつ。前も、一緒に探し物手伝ってくれたし」
ルーナ=ラブグッドと名乗った少女の言葉に、ハーマイオニーは軽く眉を顰める。
ルーナは魔法生物と言えども実在が定かではない(マグルで言うUMAのようなもの)ナーグルやしわしわ角スノーカックの実在を真剣に信じているらしい。
そして、その奇矯な言動から個人主義の強いレイブンクローではさらに浮いており、いじめを受けているようなのだ。本人はあまり気にしていないようなのだが。
去年、ハーマイオニーがルーナと知り合った時も隠された物を探しているところに出くわし、それを手伝ったのだ。それをきっかけに、いろいろ話すようになり、その伝手でセブルスの反論記事の話を持って行けたのだ。
ハーマイオニーが見ていないところでも、ハリーJr.と似たようなつながりを持っていたとは。
「また持ち物を隠されたの?あんまりひどいようなら先生に相談した方がいいわ」
「平気だよ。大体隠される場所は分かるしね。大仰に騒ぐと、かえってあいつらを調子に乗らせちゃうし」
心配するハーマイオニーに、ルーナはシレッといった。
ラブグッドの名前を聞いて、アステリアはルーナの父親の職業と雑誌のことを思い出すが、すぐにハリーJr.の名前を聞いてドキッとする。
同時に、ライバルが増えた、と微妙な気分になる。ハリーJr.の面倒見がいいのは彼の美徳の一つだ。アステリアもそれに救われたのだし。
けど、それはそれ、これはこれ、である。
さて、女子たちの乗る馬車が微妙に甘酸っぱい空気が漂いそうな明るい感じであったが、対照的に男子たちの乗る馬車は微妙に重かった。
というのも、乗り合わせたロナルドがうんざりした様子で今年の夏休みの出来事を語って見せたからだ。
特急内のコンパートメントでは、監督生用コンパートメントに行ったためドラコとネビルがいなかったので、他の雑談をしていたのだ。
去年まで不安でおろおろしてるだけで鵜呑みにしたスキーターの記事を我が意のように声高にこき下ろしていた両親が、ダンブルドアが帰ってきた!と聞くや一転しててきぱき動き出した。
が、ウィーズリー兄弟たちの反応は冷ややかなものだった。
あるいは正史のようにハリー=ポッターと親身に付き合い、六男が彼と一緒に様々な事件を解決してきたというならばまた違ったかもしれないが、こちらの彼らはそんなことはないわけで。
むしろ、ダンブルドアにばっかり頼るのもよくないよ、と魔法省に就職した三男のパーシーがやんわりと言い、いたずらグッズ専門店を開くつもり満々の双子も、いい加減自分の目で見て頭で考えたら?とポンと言い放った。
ロナルドは何も言わなかったが、うまく言えないながらも両親が絶対ではないというのは薄々察していた。
ジネブラもまた、思うところがあるようだった。
とはいえ、すねをかじる子供に何ができるわけもなく、両親に引っ張られて、この夏は再結成された“不死鳥の騎士団”の本部となった屋敷に身を寄せようとした・・・が、家主に勝手は困る、と叩きだされた。
なお、ロナルドはそこがグリモールドプレイス12番地というブラックの本邸であるとは知らなかった。
ブラック邸の“不死鳥の騎士団”への提供は、シリウス=ブラックが勝手に一方的に言ったことである。当代ブラック当主であるレオ=ノワールは一切認知していない。
レオことレギュラスは、初犯だしシリウス以外は巻き込まれた被害者みたいなものだから今回は厳重注意でとどめるけど次はない、とため息で終わらせた。不法侵入や悪質な詐欺で訴えられてもおかしくない、というのは言うまでもない。
むしろ他の純血貴族から、あんまり軟な対応していると、舐められるぞとノワール氏がたしなめられたほどである。
まあ、そんなレオの事情など知ったことではないウィーズリー夫妻始め“不死鳥の騎士団”のメンバーはいきなり根拠地の喪失という前途多難な状態での活動開始となったわけである。
大丈夫さ!ダンブルドアがいるんだし!
と、楽観的な大人たちは、どうにかこうにか別の本拠地を探そうとあちこちしていた。ウィーズリー兄弟もそれに引きずり回され、結果落ち着かない夏休みになった。それでも、どうにか課題はこなしたが。
「大変だったね・・・」
「まったくだよ。しかも、パパもママもパーシーとビリウスおじさんと大喧嘩しちゃって」
「おじさん?」
「ビリウス=ウィーズリー。ウィーズリー本家の現当主だ。
アーサー=ウィーズリーの兄にあたる」
ハリーJr.の怪訝そうな表情に、ドラコが口をはさんだ。
なお、ドラコは詳しくは口にしなかったが、アーサーはモリーと駆け落ちするにあたって、ウィーズリー家を絶縁されている。
ウィーズリー家の経済的苦境のために、とある純血貴族から次男となるアーサーとの結婚による結びつきを強めたうえでの資金援助を計画していたのだが、それがご破算になったからだ。
ウィーズリー家は子だくさんで優秀なものが多い血筋なので、その相手の家は将来的にアーサーとの子供の一人を跡取りに据えたいと思っていたらしいが、二人の駆け落ちですべてが台無しになった。
本来は膨大な違約金が発生するところを、アーサーの放逐で手打ちとされたのである。(さらに、ウィーズリー家の前当主は責任を取るという形で当主の座を現在のビリウスに譲った。その潔さにウィーズリー本家に対する風当たりは若干弱い)
・・・ドラコがロナルドを嫌うのは相性もあるのだが、この辺りの事情を父親にあらかじめ言い聞かされていたのもあるのだ。政略結婚を台無しにする、純血の何たるかもわかってないクソ野郎、しかも魔法を使えないマグルを意味もなくひいきする男の息子である、と。
「大方、マルフォイに丸め込まれているとでも言ったか?父上も頭でっかちめとぼやいていたからな」
「う・・・」
「どうなの?実際のところは?」
ドラコの言葉に、ロナルドが言葉を詰まらせる。ハリーJr.の問いかけに、ロナルドは気まずげにしつつもうなずいた。
「そんなかんじ・・・。
僕は・・・その・・・実は、この間おじさんと初めて会ったから、どんな人ってのはよく知らなくて。
うちじゃあ、禁句扱いされてたから」
なるほど、とハリーJr.はうなずいた。
前記したが、ロナルドの両親であるアーサーとモリーは駆け落ち結婚している。そのせいか親戚付き合いがほとんどないのだ。
自分たちの愛情を政略結婚で拒否しようとした古臭い純血の家には、彼らは否定的なのだ。
「パーシーは家を出て魔法省の官舎に移る、保証人をおじさんにお願いするってなって、そこからビリウスおじさんに純血の伝統だなんだを吹き込まれたんじゃないかってなったらしくて、話し合いになったんだけど・・・ボクからしてみたら、パパとママが一方的におじさんに突っかかっているように見えた」
ロナルドは非常に複雑そうな顔をしていた。
「パーシー=ウィーズリーは出世のための足掛かりが欲しい、ビリウス=ウィーズリーはパーシー=ウィーズリーを通じて現魔法省とのつながりを強化し、ゆくゆくはパーシーを養子に迎えて跡継ぎにしたいというところだろう。
ウィーズリーの血筋は子だくさんだが、現当主のビリウス=ウィーズリーは独身だからな」
つらつらとドラコがその裏事情を語る。
「パーシーのやつ、そんなに出世がしたいのかよ・・・」
「あのさ、僕にはよくわからない部分もあるけど、パーシーなりの恩返しなのかもしれないよ?
家を出れば自分の分の生活費は浮くし、出世すればもっとたくさん仕送りできるかもって。
養子入りしたからって、ロンたちとのつながりがなくなるってわけでもないじゃない。
パーシーがこっちを嫌ってるならともかく。ちゃんと話してみた?」
納得できなさそうに眉を顰めるロナルドに、見かねたハリーJr.が口をはさんだ。
「うん・・・パパとママにはついて行けないことは多いけど、僕やフレッドとジョージ、ジニーには言ってくれたんだ。何か困ったことがあれば連絡してくれって。絶対力になるって。
わかってるんだ。僕がちょっと納得できないだけで」
ここでロナルドはちらっとドラコの方を見てからそっぽを向いて付け加えた。
「子供っぽくて悪いかよ」
「何だ、自覚があったんだな」
「まあまあ。ウィーズリーも大変だけど、ドラコも大変だったんだし」
「・・・まあな」
ハリーJr.のとりなしに、ドラコはうなずいた。
「アズカバンから脱獄した死喰い人の話?マルフォイのところと関係があるの?」
「父上も母上も闇の陣営とは手を切った。それをあの連中が許すかというところだ。
だから身を隠そうとしている。というより、そうされた。僕は学業があるからな」
ネビルの問いかけに、ドラコはうなずいた。その青白い顔が一瞬憂いに満ちたものになるが、すぐさま普段のつんとした澄ました様子になる。
ハリーJr.もつられて少し顔を曇らせた。
「ハリー?何かあった?」
「あー・・・うちはマルフォイさん所と父さんが仲良くしてるからね。
マルフォイさん所から、身辺に気を付けるようにって手紙が来てね。
ちょっとそれを思い出しちゃって」
それに気が付いたネビルに、ハリーJr.もまた誤魔化すように笑っていった。
それもあるのだが、実のところは少し違う。
彼はホグワーツに行く少し前のことを思い出していた。
家に遊びに来たセブルスおじさんは、普段通り和やかな夕食に同伴してくれて。
そのあと、深刻に父母と話し込んでいた。盗み聞きなんてはしたないからハリーJr.もヘザーもしなかったが、おじさんが帰ってからすぐに真剣な顔をした父母に話されたのだ。
13年前、闇の帝王――“例のあの人”をセブルスが倒した。そして、ついこの間闇の帝王は復活したが、その場に居合わせたセブルスに即座に再び殺された。だが、死に切ってない可能性がある。
そして、日刊預言者新聞にも載っていたが、アズカバンから元死喰い人が大量脱獄した。
学校では元死喰い人の子供たちもいる。親の方が子供を使って何か探ってこないとも限らない。あからさまに距離を取ればかえって怪しまれるだろうから、何を聞かれても知らないふりをしていなさい。
というようなことを。
今年の学校は、去年よりもさらに憂鬱になりそうだな、とハリーJr.は思った。
さて、どこかピリピリした空気の中、ハリーJr.たち5年目のホグワーツが始まった。
が。
新入生の歓迎の宴の席は、ブリザードでも吹き荒れているのでは?という大荒れ模様だった。
既に各寮の席に座る上級生たちは青ざめたり身を震わせ、組み分け帽子を順番にかぶる新入生も、ガタガタ震えて人によっては転びそうになり、組み分けされるなり、まろび出るように大急ぎで所属とされた寮にかけていく。
教員席に座るセブルス=スネイプ魔法薬学教授兼スリザリン寮監が、無表情ながらも、極寒の不機嫌オーラをまき散らしていたら無理もない。
どんなに出来の悪い生徒に振り回され、ロックハートの尻拭いに奔走し、シリウス=ブラックの脱獄があろうが、謹慎三か月喰らおうが、できるだけ顔に出そうとしなかった男が、わかりやすく不機嫌オーラをまき散らしていた。
少し顔をこわばらせるハリーJr.はすぐに分かった。
セブルスのそばに、メアリーがいないのだ。
彼女は何故か、中央校長代理のスラグホーンをはさんで教員席の真反対にいる見知らぬ新しい教員――ピンク色のカーディガンを羽織ったガマガエルによく似た魔女のそばにいる。椅子にも座らず、置物のようにたたずむ――というか、立たされている。まるで、座ることも許されず、そうするよう命じられているように。
どういうことだろうか。
メアリーのことを知るスリザリンの上級生たちも顔を見合わせる中、新しく入ってきた教員の挨拶が始まった。
そのピンクの魔女、ドローレス=アンブリッジは、新設される魔法法学の担当教授であるという自己紹介にかこつけて長ったらしい大演説を始めたが、これがまたつまらなかった。
ユーモアやウィットにとんだジョークの一つもなく、甲高い声音で冗長に語られることを約すれば、要は「伝統も大事だけど魔法省は進歩してます!」ということらしい。
それはここでお前が語るべきことか?
教員席に座っている教員はもとより、一斉に興味なさげに視線をそらした大部分の生徒たちが思ったことだろう。
かろうじて新任の監督生たちはその話を真面目に聞く姿勢を見せたが、ハッフルパフのアーニー=マクミランは目が死んでいた。
まあ、アンブリッジに目を向けている方が幾分かマシだっただろう。あの極寒オーラを漂わせるセブルス=スネイプに目を向けるよりかは。
その演説は確かに退屈ではあったが、引きつった顔でかたくなにセブルスの方を見ようとしないスラグホーンが評したとおり、“啓発的”ではあったことだろう。
ハーマイオニーとドラコは即座に理解した。
目の前の新任教授は法を教えに来たのではない。ホグワーツに、魔法省(の権力を持つ代行者)が本格的に干渉しに来たのだ、と。
さて、少し時間を戻して、学期準備期間のことを語るとしよう。
すでに何度か説明しているが、ホグワーツにおいては学期開始1週間前に教師はホグワーツに来て新学期の打ち合わせ、カリキュラムの準備などを行う。
新任教師はこの時に他の教職員との顔合わせを行う。
特に、新設される魔法法学は正規授業の合間を縫う、補習講座のような形となるため、コマ数がほか教科より少なく、何をどう教えるかという指標さえなく、全ては新任教授の手腕にかかっていると言っていい。
年間カリキュラムを提示し、今年はとりあえず5年生以上の受講として学年別とはせずに、概要だけでいいからとしておいたが、どのような授業計画を立ててきたのだろうか。参考として、一応他授業のカリキュラム例をあらかじめ提示はしておいたらしいのだが。
お手並み拝見、と思っていたセブルスは、ピンクのガマガエルが自分と視線を合わせるなり言い放ってきた言葉に、「は?」という言葉を反射的に口にしていた。
幾分も低く温度のない声に、ヒッとフリットウィックが少女のような悲鳴を上げる。
「んまあ!聞こえなかったのかしら!ご自身の都合の悪いことだから?イギリス唯一の名門校の教師の端くれという自負があるのでしたら、言ったことはちゃんと一度で聞き取っていただけません?
仕方がありませんから、もう一度申し上げますわ」
こちらを見下すように、ねっとりした意地悪気な視線を投げかけるアンブリッジは、できの悪い子供に言い聞かせるように、ねっとりと一言一句かみ砕くように言い放った。
「あなたのところのお人形を、私に貸し出してください、といったのです」
「・・・それは、いま必要な提案ですかな?」
「まあぁ!こちらは右も左もわからない新任の教授ですのよ?猫の手も借りたいというのに、新たな同僚をいたわろうという心遣いももてませんの?
ああ、だから」
ニタアッと、アンブリッジの口元が勝ち誇ったように歪む。
「平然と“穢れた血”なんて幼馴染を罵倒できますし、“死喰い人”もできますのね」
「アンブリッジ!いくらなんでも飛躍しすぎでは?セブルスはそんな!」
「ならどうして貸し出しを渋りますの?たかがお人形、道具でしょう?それとも、貸し出せない理由がおあり?実は悍ましい闇の魔道具とか?魔法省の物品検査をパスしたという記録もありませんし。どうなんです?実際は?」
かばおうとするスラグホーンを尻目に、アンブリッジは言い募る。
セブルスは無言だった。ただ、その両手が武器さえ握っていたら殺してやると言わんばかりに強く握りしめられただけだ。
「まあ、何ですの?その目。それとも、私にも暴力をふるうのかしら?シリウス=ブラックにそうしたように!なんて野蛮なのかしら!
少しでも教師として知性を持ち合わせるというなら、どうしたらいいかもちろん、おわかりになりますわよね?」
「アンブリッジ・・・メアリーは、セブルスにとって大事な子だし、とってもいい子なのよ。
特に大きな問題も起こしてないし、サポートなら」
「まあぁ!先生方まで!たかが道具にそんなことを!やはり危険な闇の魔法道具では?すぐに没収して検査に掛けるべきですわ!やましいことがあるから、そんなことを言うに違いありません!」
なおも勝ち誇った調子でゲコゲコと喚くアンブリッジの声に、セブルスは左手がガラシャの拳を装着したくなるのを必死にこらえた。
自分は、頼まれたのだ。「息子たちを頼む」と頭を下げてきたルシウスに。ハリーとリリーのメイソン夫妻に。
今ここでこの女を殺せば、この先、守るべき子供たちは死喰い人たちの子供たちに、一方的にいいようにされるかもしれないのだ。
この女が魔法省からの差し金であることはルシウスからすでに聞き及んでいる。ここでこの女に危害を加えたら魔法省に目を付けられるのと同義だ。そういうわけにはいかない。
こらえるのだ。本当に守るべきもののために。自分は獣ではない。狩人なのだから。
ゆえに、セブルスは口を開いた。
「メアリー。今年一年は、魔法薬学の補佐ではなく、魔法法学の補佐として、アンブリッジ教授の補佐に就くのだ。・・・すまない」
「・・・わかりました」
少し寂しそうに視線を落とした人形の頭を、セブルスは懸命に撫でた。
「もちろん、スリザリンの寮母としてはそのままでしょうな?」
「ええ。仕方ありませんけど、良しとします」
偉そうにうなずいたアンブリッジに、セブルスは殺意をこらえた。
続く
【ドローレス=アンブリッジの杖】
ドローレス=アンブリッジが学生時代から愛用している長さ20センチの杖。
リンボクにドラゴンの心臓の琴線が用いられている。
極端に短い杖は性格に難ある者を好むという。
魔法界を治める魔法省の役人の一員として、ドローレスはこの杖をふるった。
振るわれたものの喚きも嘆きも言い分も、法の正当性の前には些末事だと、彼女はうそぶく。
Q.アンブリッジさんの使っている杖、構成素材が違くなーい?白樺にドラゴンの心臓の琴線じゃなかった?
A.そっちは二本目で、一本目は素材不明なので、一本目のつもりで捏造しました。長さは一緒。理由は・・・まあ、ねえ?(言葉を濁す)
(ボソッ)アンブリッジおばさん、ロックハートやシリウスよりも自殺コースに猪突猛進してて草。よかったね、セブルスさんがルシウスさんとメイソン夫妻に頼まれてなかったら、その場で八つ裂きにされてましたよ。
次回の投稿は未定!内容は、大変だ!セブルスさんが大噴火寸前だ!アンブリッジと書いて自殺志願者と読む。その後のドビーと双子のメンシスの檻の解禁を添えて。お楽しみに!