セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 しばらく放置してたのに、またしてもお付き合いくださりありがとうございます。

 活動報告でも言いましたけど、感想欄でのアンブリッジおばさんの処分に対する皆さんの期待がすごいです。まあ、ろくでもない末路というのは保証しますよ。(いやな保証だなあ)

 という訳で続きです。


【4】セブルス=スネイプ、檻の解禁を決意する

 

 さて、新学期が本格的に始まった。

 

 改革がなおも進むホグワーツであったが、“死喰い人”の多数脱獄、ダンブルドア帰還からの“不死鳥の騎士団”再結成など、水面下でのあれそれのあおりを受け、どこか不穏な空気を漂わせていた。

 

 特にグリフィンドールとスリザリンの空気の変化は如実で、去年よりもどこかピリついているのを物語っていた。

 

 スリザリン寮は、なぜかセブルスが死んだといううわさが流れ、新1年生を寮に案内した時に、顔色悪い上級生たちがちらちらと見てきたりもした。

 

 もっとも、セブルスの纏う極寒ブリザードの不機嫌の前に、何も言えずじまいに終わったのだが。

 

 

 

 

 

 メアリーの貸し出しは万歩譲って許そう。(あれは依頼ではなく命令だった。それも気に食わない)

 

 忠実にして心優しく無垢なる人形を闇の魔道具呼ばわりも、啓蒙低い愚か者の戯言だと、億歩譲って聞き流そう。

 

 だが、貸出許可した翌日に、“耐久性の実験”だの“闇の魔道具の検査”だのと称して、呪いや攻撃魔法の的にさんざんした(もちろん、彼女は壊れて復活を繰り返した)挙句、教職員間の和を乱すとして茶菓子と夕食作りの禁止を言い渡してきたのはいかんともしがたかった。

 

 声高に勝ち誇って言い渡してきたアンブリッジは、セブルスを完全に標的にしているのだ。

 

 改革中のホグワーツに巣くう、問題ある害虫だと。

 

 ぼろを出せば、それを材料に追い出してやると言わんばかりだった。

 

 誰が彼女を差し向けてきたのか。おそらくは、魔法大臣引退後、魔法大臣顧問に就任したコーネリウス=ファッジが、最後の一仕事とやらかしてくれたのだろう。

 

 ちなみに、現魔法大臣は魔法法執行部部長の座にあったアメリア=ボーンズである。

 

 スキーターによるスキャンダルが、ここまで尾を引くとは。

 

 以前会った時のルシウスは、ダンブルドア帰還とセドリックの言に影響を受けた子供たちの監視と考えていたが、わかりやすいトラブルシンボルとしているセブルスの監視も兼ねている・・・というか、わかりやすい分こちらをメインにするに違いない。

 

 ファッジとしては親切心からやっているのだろう(好意的に見て)から、質が悪い。

 

 不幸中の幸い、ホグワーツにある分霊箱は処分しきっているのだから、授業外で不審行動をとる理由はなかった。

 

 もっとも、それとメアリーを貸し出し、彼女を勝手にされるのを許可するのは別問題である。

 

 セブルスは貸し出しは許可したが、元に戻るのだからいいじゃないとばかりに痛めつけるのは許可していない。

 

 苦情を出せば、アンブリッジは勝ち誇った顔でダンブルドアの名を出した。

 

 「あら!どこかの誰かさんたちも減点罰則だけで、傷は魔法薬と治癒魔法で元に戻るのだから、謝罪など不要とされていたでしょう!ダンブルドアが!直々に!それをお認めになられたのですよ!

 なら、私が同じことをしても問題ないでしょう!皆さま!教員として私よりも先達というのに、伝統として!それをお認めになられたのです!

 そうですよね!」

 

 途端に、古株の教授陣が気まずげに沈黙した。去年から入ってきた者たちは、そうなの?と言わんばかりに、彼らを見やる。

 

 「何より、道具というのは人間が便利に使うためのもの!それに愛情を向けるなんて、どうかしてるとしか言えません!貸出許可を与えたのはスネイプ先生ご自身!そうですよね!」

 

 必死に、セブルスは無表情を装い、閉心術で覆い隠して殺意をこらえた。

 

 ルシウスとメイソン夫妻の言葉を、脳内で反芻して、耐え忍ぼうとした。

 

 たとえ早晩、我慢が利かなくなると、うすうす予感していても。

 

 

 

 

 

 そうして、ロックハート以上にセブルスをイラつかせるアンブリッジの暴虐と並行して、その年はセブルスをさらにイラつかせることになった。

 

 味の濃い、脂っぽい朝食に忍耐を動員しながら手を付けようとしたセブルスの前に、赤くて煙を上げる封筒が落とされた。

 

 差出人のシリウス=ブラックの文字を認識するや、セブルスは動く。

 

 足元に置いていたトランクの蓋を問答無用で開き、素早く赤い封筒を放り込んで、そのまま蓋をしめて蓋が開かないように留め具をガチッとはめる。

 

 ドンっという爆発音とともに、トランクが小さくはねた。

 

 セブルスは無視して食事を続ける。実に手慣れた光景だった。

 

 夏休みに吼えメールを送ってきたのを皮切りに、何が楽しいのかシリウス=ブラックは毎日毎日吼えメールを送ってくるのだ。

 

 念のため最初の一通だけ開封してみたが、どうせ死喰い人なんじゃないのか?!リリーとハリー(シリウスはJr.という呼称を断固として認めていない)をだましやがって!今に見ていろ!ということをセブルスに対する暴言罵倒をデコレーションして言って来るだけなので、時間の無駄と判断し、以降は防音・防火・耐圧に優れた金庫仕様の魔法のトランクに放り込んで爆破処理するようになった。

 

 なお、ホグワーツ初日にそのことを知ったハリーJr.は眉をつり上げて、シリウス=ブラックに文句を言ってやめさせる!と息巻いたが、それはセブルスが止めた。

 

 そうしたところで、シリウスが変な逆恨みをして、ハリーをまた言いくるめやがって!吼えメールがだめなら!とまた別の手段で嫌がらせしてくるだけだ。そうなると、新しく手段を講じる必要があって面倒なのだ。

 

 バカ犬の遠吠えなど、相手をするだけ時間と便箋、フクロウの労力の無駄だ。もっと別のことにつぎ込んだ方がまだ有意義だ。

 

 最初こそ、この吼えメール処理は他の教職員や生徒たちにぎょっとされたが、相手がシリウス=ブラックということを知るなり、気の毒そうにしてくる者と、無理もないと納得する者に分かれた。・・・それだけ、セブルスがシリウスに対して行ったグロテスクジャグリングはインパクトがあったのだ。

 

 なお、アンブリッジはセブルスの吼えメール処理で、トランクが大きな音を立てると、必ず「食事中になんて迷惑なのかしら!教師として恥ずかしくありませんこと?!」と鬼の首を取ったように叫ぶ。

 

 自分も食事中に叫ぶという行儀の悪さは棚上げして。

 

 ちなみに、これに関してはルーピンにもうまいこと隠れつつやっているのか、ルーピンからのリアクションは一切なかった。

 

 相手するだけ面倒なので、セブルスは多少イラつくだけのそれをもう必要最低限の対処で放置することにしている。

 

 アンブリッジと比べれば、多少はましなのだから。

 

 

 

 

 

 セブルスが史上最高単独忍耐選手権で記録更新に臨まざるを得なかった頃、ハリーJr.とドラコもまた不穏な空気の中での学校生活を余儀なくされていた。

 

 新学期が始まると同時に、二人は内緒話――時世や家族に関することはセブルスから教わった耳塞ぎ呪文(マフリアート)を発動した自室でしか話さないようにしよう、と取り決めた。

 

 同級生・先輩・後輩を疑ってかかるなんて、お人よしのハリーJr.はもちろん、ドラコも本当はやりたくなかったが、これで双方の両親やセブルスに関する弱みを握られ、危険が及ぶことになる方が問題だとしたのだ。

 

 案の定、新学期開始と同時に一部のスリザリン生――ザビニやノットといった元死喰い人の両親を持つ子供たちは、じっとりした視線を二人によこすようになった。

 

 廊下をすれ違う時や、大広間での食事など、それとなく監視や盗み聞きをしてくるようになったのだ。あからさまな悪口、攻撃の類がないのが、またやりづらい。

 

 ちなみに、元死喰い人の両親を持つのはドラコの腰ぎんちゃくであるクラッブとゴイルもそうであったが、彼らは進路をめぐって両親と衝突中であるうえ、正史ではブレインを担っていたドラコとの板挟みに陥ったため、特に何もしていない。というか、どう行動しようかということまで考えれていない。このため、比較的無害な相手であった。比較的。

 

 もちろん、他のこと――勉強の相談や共同課題などについては、遠慮なく他の友人たちと行う。

 

 去年一緒に魔法薬調合の自主練習を行ったこともあり、ドラコとハリーJr.は、ネビルとロナルドとも一緒に勉強をすることが増えた。もちろん、ほかの女子も含めたハーマイオニーともやり取りをする。

 

 中級魔法薬学の月長石に関するレポートは、ハリーJr.とロナルド、ネビルを大いに悩ませ、ハーマイオニーとドラコに泣きついたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 今更ながらの余談となるが、正史であれば、ハーマイオニーが去年一つの団体(?)を立ち上げたのを賢明なる読者諸君は覚えているだろうか。ハウスエルフ解放戦線と称する団体である。

 

 もっとも、芳しい活動結果は出ずじまいであったのだが。

 

 昨年のハーマイオニーはそんな団体を立ち上げるどころではなかったのだ。

 

 それは、去年の出来事だった。

 

 「導きが聞こえるのです・・・湿った音が頭の中でささやいているのです・・・。

 ああ、坊ちゃま方!脳液を!脳液をドビーめに分けて頂けないでしょうか!」

 

 初めて入ったホグワーツのキッチンにて、他のハウスエルフから遠巻きにされていたそのハウスエルフを見た瞬間、ハーマイオニーは思わずドン引きした。

 

 ハーマイオニーのみならず、ロナルドとネビルもまた絶句していた。

 

 そのドビーと名乗ったものは、ちっぽけな痩せた体躯を枕カバーに包み、確かにハウスエルフの一員だろうと思えた。

 

 だが、首から上がいただけなかった。子供のように小さな体躯に反し、その頭は異常なほど膨らんでいるくせに、頭髪も目や口などの感覚器も見当たらず、皺まみれだった。

 

 それを見た時、不謹慎ながらも、ロナルドはドライアプリコットを連想してしまった。色と大きさを変えれば、それほどまでによく似ていたのだ。

 

 「導きが!導きが途切れそうなのです!ドビーめを照らすあの導きの音色が!

 聞こえなくなればドビーめはまた!またちっぽけで無力なものに成り下がるのです!

 脳液を!脳液をドビーめに!」

 

 金切り声を挙げながら飛び掛かろうとするドビーと、硬直する三人を尻目に、他のハウスエルフたちが動いた。

 

 素早くシーツを投げつけ、ドビーを巻き取ると、そのまま魔法で持ち上げてよそに持って行ってしまった。徹底してドビーに触ろうとしないあたり、まるで病原菌のような扱いである。

 

 代わって別のハウスエルフが進み出て、三人にヘコヘコと腰を低く用件を訊いてくる。

 

 が、もうそれどころではない。あまりにインパクトの強いものを目の当たりにして、ハーマイオニーはドビーが連れていかれたところに目をやりながら、茫然と尋ねた。

 

 「ひ、癒者(ヒーラー)に、診せないの?マダム・ポンフリーには・・・?」

 

 「肝心のドビーが逃げるのです。導きを奪うな、と。

 一度無理やり取り押さえようとしたら大暴れして、周り全てが滅茶苦茶になりまして。

 ・・・仕事はやっていますので、お目こぼししていただければ・・・」

 

 「でも、脳液がどうのって・・・」

 

 「というか、脳液って何・・・?」

 

 「導きって一体・・・?」

 

 「ねえ、二人はあれ、どういうことか知ってる・・・?」

 

 「知るもんか!」

 

 ハーマイオニーの震える声での問いかけに、ロナルドが叫んだ。

 

 

 

 

 

 こうして、ハウスエルフたちの労働環境のひどさを目の当たりにしたハーマイオニーがハンガーストライキやら労働組合設立運動を叫ぶより早く、よりショッキングなものを目の当たりにしたため、もろもろ吹っ飛んでしまったのだ。

 

 

 

 

 

 なお、ドビーのアレ――通称:脳液発作については、夕食作りに来ていたメアリーを通じて聞きつけたセブルス=スネイプ教授がドビーを自らの自室に呼ぶようになってから、しばらく静かになるようになった。

 

 ちなみに、ドビーの就任のほぼ直後からとなる。セブルスが停職中もハウスエルフの一人が転移魔法で相談に行っていた。

 

 セブルスが言うには、脳液の代わりになる薬を処方したとのことだが、それと引き換えかのように、徐々に肥大した頭に皺が生じて、垂れさがってきた皮で感覚器が見えなくなってきたドビーを、ハウスエルフたちは必死に認識しないようにした。

 

 それは、彼らの生活に関係ない。

 

 労働は幸福であり、余計な些事に首を突っ込むハウスエルフは長生きしない。彼らはそれを本能で知っていた。

 

 

 

 

 

 もちろん、ハウスエルフたちは知らないだろう。

 

 セブルスはそれを予後の経過観察と称していたが、それはそれは冷淡な、吊るされた冷凍肉を眺める眼差しで語っていた。

 

 セブルスだけが知っている。ドビーの首はそのうち肉体と分離するということを。そうなったら適当に“処分”しよう、とシレッと考えていることも。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 肥大した頭部をもつドビーと、それをふるえて眺めるハウスエルフたちはさておいて。

 

 時間軸を現在に戻す。

 

 いろんな意味で不安しかないアンブリッジの第1回魔法法学の授業が始まった。

 

 ハーマイオニーはもちろん、闇祓い志望のハリー=メイソンJr.とドラコ=マルフォイをはじめとした面々ももちろん参加した。

 

 だがしかし。

 

 期待はずれ、と言わざるを得なかった。

 

 何しろ、テキストとして購入指示されていた、鈍器にもなりそうな分厚いテキスト『魔法法律147種概要 1995年版』を手元において、アンブリッジが言い放ったのはたったの2つ。

 

 質問には「はい、アンブリッジ先生」あるいは「いいえ、アンブリッジ先生」で答えること。

 

 「教科書●●ページを読みましょう、おしゃべりはしない」ということ。

 

 以上である。

 

 つまらなかった。絶望的につまらなかった。

 

 ゴーストであるカスバート=ビンズが受け持つ魔法史もつまらないとハリーJr.はぼやくが、あの授業はビンズの抑揚ない調子が淡々とラジオのように流れるので眠くなるだけで済む。

 

 のちに聞いたが、ビンズがあえてあのような授業形態にしているのは、彼の生前は文字の読めない生徒が多く、そのために教科書をあえて声に出して読むようにしていたら、それだけで授業時間が浪費され、あのようなことになっていたらしい。

 

 しかも、魔法史であれば多少愉快な人名や事件名も出てくる。質問も許されたので、それについての深堀知識をビンズが解説してくれたのだ。

 

 だが、魔法法学にそんなことはない。147に及ぶ法律の一項目を一つ一つ音読するだけなのだ。それを例題にした事件、成立のきっかけやそれが引き合いに出された裁判などの事例提示もなし。

 

 あっという間に生徒たちは退屈そうにしていた。ハリーJr.はあくびをかみ殺す作業に必死だし、ドラコは教科書を開けて、一応目で追っているようだったが、目が時折空中を泳いでいた。

 

 ハーマイオニーはただ一人教科書を開きもせずに、ピンと挙手をしていたが、きれいに無視されていた。

 

 そして、数分も経たないうちに、隣に座るドラコに羊皮紙の切れ端に書かれたメッセージを見せられて、渋々と手を下ろした。やるだけ無駄だ、目を付けられるような行動は控えろ、と忠告されたのだ。

 

 とにかく、この教科は受けて失敗だったと言わざるを得なかったのだ。

 

 あくびをかみ殺し、涙が出そうになる目元をこするハリーJr.は、教壇のそばに控える人物を見やった。

 

 置物のように直立不動にされている、メアリーを。本人(?)はまったく気にしてないようだが、まるで見せ物のようにされている。魔法薬学の時は、ショールとスカートのすそをひるがえして生徒たちの間を見て回っていたのが、まるで嘘のように。

 

 スリザリンの寮母としては働いているようなのだが、今学期が始まってからお菓子の差し入れが全くなくなった。

 

 どうしてかと訊いたら、どこか悄然とした調子で「アンブリッジ様に禁止され、セブルス様もそうするようにと言われたのです」と答えてくれた。

 

 どうして、メアリーも、スネイプ先生も、あんな奴の言うことを大人しく聞いているんだろう、とハリーJr.は不満に思う。否、不満に思うのは、おそらくハリーJr.だけではないだろう。

 

 それでも、彼は一生徒として大人しくしているしかできなかった。

 

 

 

 

 

 不幸中の幸い、これが座学オンリーの授業であるからこの程度の被害で済んだともいえた。

 

 これが“闇の魔術に対する防衛術”などの実技も必要な科目であれば、もっと悲惨なことになっていた。

 

 特に、ハリーJr.たち5年生は今年はOWL試験(フクロウ)が控えているのだ。

 

 魔法法学は新設されたばかりで、OWL試験(フクロウ)は関係ないが、進路を思えば単位は必要になる。

 

 そして、ちゃんと出席しないと、単位はもらえず内申に響く。つまり、どんなに嫌で嫌で仕方なくても、魔法法学には出席しなければならなくなったのだ。

 

 これはダメだ、といの一番に声を上げたのはハーマイオニーだった。

 

 このままじゃ、何の意味もない。

 

 かくして、彼女は一念発起して、呼びかけた。

 

 魔法法学の自主勉強会を立ち上げたのだ。

 

 別にクラブ活動外での集まりを禁じられてもなければ、アンブリッジは魔法法学の教授であるというだけで、特別な権力の類は持っていない。これを禁ずることはできないはず。

 

 ハーマイオニーは魔法法学のテキストで取り扱っている147の法律のうち、特に重要度の高いものをいくつか抜粋し、勉強会参加メンバーをグループに分けて、それらの概要、成立のきっかけ、特に重要度の高い条項などを互いに調べて発表していこう、と指導したのだ。

 

 ・・・魔法法学の本授業よりも、大変魔法法学らしい勉強模様であった、といったのは自主勉強会を遠目に眺めたマクゴナガル副校長のお言葉であった。

 

 

 

 

 

 そして、ついにその時は訪れた。

 

 殺してやる、とセブルスは閉心術で閉ざした、瞳付きの脳の奥で、牙を打ち鳴らしながら思った。

 

 ロックハートよりも無残に。スキーターよりも無慈悲に。ヴォルデモートよりも残虐に。殺してやるぞ、アンブリッジ。

 

 セブルスは目の前の光景を眺めながら、硬く決意した。

 

 セブルスは実によく、我慢した。耐え忍んだ。だが、何事も限界というのはあり、アンブリッジはセブルスの忍耐を破壊することにかけては、ロックハート以上の手練れだった。

 

 ホグワーツが始まって、1か月経とうか経たないかという頃だった。

 

 「申し訳ありません・・・セブルス様・・・」

 

 いつになく悄然とした声で、涙石をこぼすメアリー。その球体関節じみた手の上に、見覚えのある髪飾りがあった。

 

 セブルスがヤーナムの捨てられた古工房で見つけ、まだ名も与えてなかった彼女に贈ったものだ。

 

 小さなカメオがはめ込まれた髪飾りは、櫛の部分がバキバキに折れ、真っ二つなんて表現では生易しい勢いで砕かれていた。(粉砕呪文(レダクト)でも使われたのかもしれない)

 

 「アンブリッジ様が、生徒への罰則で体罰を行おうとされてました・・・。

 それはいけないことではないかとお尋ねしたら・・・道具風情に発言権はないと言われて・・・せっかく・・・せっかく、いただいた、髪飾りを・・・」

 

 「・・・大丈夫だ。破片は全てあるのだろう?修復呪文(レパロ)を使えば直る。お前は何も間違ったことは言っていない。生徒への体罰は禁じられているはずだ。

 よく頑張ったな」

 

 セブルスはぎこちなくメアリーを撫でた。ともすれば、あのピンク色の太った両生類への殺意と怒りが吹き出そうになる。

 

 すぐさま杖を仕込んだ手甲を付けた右手を一振りして、無言呪文による修復呪文(レパロ)によって髪飾りを戻し、破壊不可魔法で強度を上げておく。

 

 ついでに、今度の休日はメアリーとともに、ようやく住民が戻ってきたホグズミードに出かけるのもいいかもしれない、とも思った。新しい髪飾りをあつらえてやるのだ。

 

 そして。

 

 あの、啓蒙低い、人語を話すだけの獣以下のピンク色の何かは、絶対に生かしておけない。

 

 すぐには殺さない。嬲りに嬲ってあの耳障りな声が命乞いすらできないようにしてやる。

 

 

 

 

 

 なお、セブルスはこの直後、体罰を受けさせられた生徒がハリー=メイソンJr.で、その腕に悪趣味な魔法の羽ペンで「僕は嘘をついてはならない」と傷文字を作らされたと知った。

 

 ハリーJr.は、セドリック=ディゴリーのことをいい子ちゃんぶった馬鹿な奴が本性をあらわにした、と錯乱事件をあげつらって笑っている上級生たちに口をはさみ、そこをアンブリッジに見とがめられたのだ。

 

 ハリーJr.は、セドリックの様子がおかしかったことを誰にも言わなかったことを悔やんでいた。もし、誰かに何か言っておけば、セドリックが一方的に錯乱扱いなんてされて、傷つかずに済んだかもしれなかったのに、と。

 

 たらればでしかない、お人好しなハリーJr.の勝手な考えだが、それでもハリーJr.はせめて、セドリックの名誉を守りたかったのだ。

 

 結果は御覧のありさまである。

 

 おとなしくしろって言われただろう!と言いながら、親友の腕をマートラップのエキスの入った洗面器に浸すドラコ=マルフォイは、今学期ほど自分を情けなく思ったことはなかった。

 

 監督生であっても、先生には逆らえない。

 

 去年までは理事の父親にすぐに相談できたが、今年は潜伏するために連絡できないとあらかじめ言われていたため、どうしようもなかったのだ。

 

 

 

 

 

 つまり、アンブリッジは、セブルスの地雷二つを奇麗に踏み抜いて見せたわけだ。

 

 一応、セブルスはアンブリッジに苦情を申告したが、暖簾に腕押しであったのは言うまでもなかった。

 

 ・・・というか、他の教授陣も大なり小なり苦情を申告しているようだったが、アンブリッジはまるで相手にしてないようだった。

 

 

 

 

 

 さて、アンブリッジを始末したいが、大々的にやればセブルスがホグワーツをやめざるを得なくなり、そうすれば子供たちを守れなくなるのは自明の理だ。

 

 つまり、直接手を出すのは厳禁。だが、あの女を野放しにするわけにはいかない。

 

 さて、どうするか。

 

 ああでもないこうでもない、と授業の合間を縫って考えていたら、銀色のペルシャ猫がするりと、教授室に入ってきた。

 

 見覚えのない守護霊だと思っていれば、アンブリッジの甲高い声でその守護霊が言った。

 

 『スネイプ先生。すぐに魔法法学の教室に来ていただけませんこと?』

 

 誰が行くか。

 

 とっさにそう言いそうになったのを、セブルスはすんでのところでかみ殺した。

 

 だが、セブルスは行かなければ、その咎はメアリーに行くかもしれないのだ。セブルスは渋々自室を後にして、魔法法学に宛てられた教室へ向かった。

 

 教室にいたのは、ふんぞり返るアンブリッジと、腰を低くヘコヘコとこびへつらう姿勢を崩さないフィルチ、そしてそのそばでむしろ堂々としているジョージとフレッドの双子のウィーズリーである。

 

 なお、メアリーは教室の片隅に置物のごとく直立不動で立っており、セブルスを見るなり少しだけ表情を緩めた。かすかなもので、セブルス以外にその変化は解らないだろう。

 

 「スネイプ教授!Mr.フィルチから聞きましたけど、貴方は罰則に適した素晴らしいものをお持ちですって?」

 

 セブルスの姿を見るなり、アンブリッジが言った。

 

 「・・・何の話ですかな?」

 

 「こいつらが!」

 

 セブルスの問いかけに、アンブリッジに代わって答えたのはフィルチだった。憎々しげな様子を崩しもせずに、彼は双子のウィーズリーを交互ににらみつけながら叫んだ。

 

 「アンブリッジ教授の授業妨害をしてきたのだ!そうですよね?!」

 

 「ええ!ええ!私の高尚な授業中に、訳の分からないものを投げ込んできて!」

 

 「訳の分からないものなんて失礼な!」

 

 「インスタント煙幕!ペルー製!入手に苦労したから、ちょっとばかり性能実験をしようと思っただけで」

 

 「言い訳は結構!」

 

 双子の言葉をさえぎり、アンブリッジは声高に言い放った。

 

 「スネイプ教授。あなたは確かに、野蛮で下賤な元死喰い人で、暴力しか取り柄のない人形偏愛症患者ですけど、たった一つだけ見るべきところがおありです。

 あなたが罰則に用いるという、頭にかぶる檻!それを貸し出していただけませんこと?」

 

 あの檻は昨年から用いていない。フィルチがしゃべったのか。

 

 チラとセブルスがフィルチを見やると、彼は一瞬後ろめたげな眼を、アンブリッジの背後に控えるメアリーに向けたが、すぐさま平時の陰湿な目をセブルスに向けなおした。

 

 「あの檻は見せしめにもなるし、罰則を受けているというアピールにもなって実に効果的です!」

 

 興奮気味に声高にさえずるアンブリッジは気づかない。頭にかぶる檻というフレーズを聞いた双子のウィーズリーがギラリと目を光らせたことを。

 

 「・・・よろしいのですな?」

 

 あの檻――メンシスの檻は、上位者との邂逅をもたらす一種のオーパーツだが、セブルスが罰則に用いているのは魔法で再現したレプリカだ。

 

 だが、それでもかぶり続ければ影響があるというのは、他でもない双子のウィーズリーが証明している。

 

 これ以上の檻はまずい、と昨年からかぶらせてなかった。

 

 だが。

 

 これは仕方ない、とセブルスは誰にともなく思った。

 

 親愛なるアンブリッジ教授の、他でもない要請なのだ。

 

 その結果、双子のいたずらが啓蒙爆上げで強化されようが、仕方ないことだ。

 

 アンブリッジは知らないだろう。むしろ、檻をかぶってなかった去年の方が、双子はおとなしかったのだ、と。フィルチはむしろ、知っててやっているのかもしれない。

 

 フィルチはスクイブで目を付けられては堪らないと、仕方なくアンブリッジに媚を売っているが、かわいがっている人形を痛めつける性格の悪い魔女など、本当は吐き気がするほど嫌っているに違いない。

 

 ともあれ。

 

 「・・・わかりました。それでは」

 

 ひゅぱっとセブルスが手を一振りすれば、ガシャンっと音を立てて、双子の頭に鈍色の円筒形の檻がかぶさった。

 

 「罰則による装着期間の延長の権限は、アンブリッジ教授にも与えましょう。ああ、他の生徒にも装着したいというのでしたら、遠慮なく申し付けてください。

 他でもない、アンブリッジ教授の要請なのですからな。

 では、私はこれで」

 

 しれっと言って、セブルスは魔法法学の教室を辞した。

 

 ついでに、そのままマクゴナガルとスラグホーンのところに顔を出し、アンブリッジの要請で、メンシスの檻を双子に装着したことと、他にも要請される可能性があることを告げておく。

 

 マクゴナガルはそれを聞くや、胃薬と新たに頭痛薬を棚から引っ張り出していた。あまり頼りすぎると、過剰服用になりかねないと思うのだが。

 

 スラグホーンは遠い目をしてから、ややあってセブルスに疲れたような目を向けて、一言言った。「やり過ぎないようにな」と。

 

 保証しかねる、とセブルスは心の内でつぶやいた。

 

 

 

 

 

 翌日から、アンブリッジの暴虐に拍車がかかった。

 

 罰則に悪趣味羽ペンによる体罰と、メンシスの檻が加わったのだ。なお、ハリーJr.もかぶらされた。

 

 そして。

 

 ジョージ=ウィーズリー&フレッド=ウィーズリーの双子が、案の定爆発した。

 

 

 

 

 

 続く

 




【メンシスの偽檻】
 隠し街を主宰する「メンシス学派」。その奇妙なやり方を象徴する六角柱の鉄檻を、セブルス=スネイプが魔法で模したもの。

 本来のこの檻は意志を律し、また俗世に対する客観を得る装置であり、同時に夢の上位者と交信するための触覚でもある。

 これはあくまで模造品であり、望む悪夢とその夢先にたどり着けるかは装備者の啓蒙次第である。





 Q.アンブリッジおばさんの処分は、まぁだでぇすかぁぁぁ?

 A.静まりたまえ!なぜそのように荒ぶられるのか!
 誰かが言ってました。墓穴は深ければ深いほど、盛り土は多ければ多いほど、処分の時の爽快さが増すのです、と。
 つまり、もうちょっとお待ちくださいね。
 (俺だって、あのおばちゃんはとっとと処分してぇんだよ!)




 Q.アンブリッジが原作より大人しい・・・どうした?病気かなんかか?

 A.直属上司で、あのおばちゃんに権力与えて暴虐にバフかけたファッジさんが失脚済みなので。ない袖は振れぬ、無い権力は発揮できないってことです。だから高等尋問官なんてみょうちきりんな役職にも就いてなければ、親衛隊を新設して監督生を有名無実化なんてこともできぬのです。
 でも、人形ちゃんをいじめて、ハリーJr.はじめ、自分に反抗的な生徒には体罰罰則は加えます。あくまで原作より大人しいだけであって、所詮ガマガエルなのです。使える権力と揮える暴力は総動員するのです。



 ガマガエルのターン書くの大変っす・・・。人物像とやらかし確認のために原作読み直すのもエネルギーが要りますし。
 あとはもう、人形ちゃん見たらやらかすだろこいつ・・・となったら、もう・・・ねえ・・・。



 次回の投稿は、未定!内容は、「何者も我らを捕らえ、止められぬのだ!」と再び叫ぶ双子のウィーズリー!セブルスさんとメアリーのクリスマスデートinホグズミードを添えて。お楽しみに!
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