セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回も、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好き、ありがとうございました。

 アンブリッジおばさんの末路に至るのが8話になりました。長すぎぃ!

 しょうがないんですよ!セブルスさんとアンブリッジおばさんのことだけじゃなくて、ハリーJr.たちの学校生活とか、フクロウとか、ついでに“不死鳥の騎士団”とか闇の帝王(笑)とかのことを書き足していけば冗長になっていく!

 その時が来るのを、お待ちください。

 という訳で続きです。ウィーズリーツインズが爆発する前に、いろいろあるんです。はい。


【5】セブルス=スネイプ、油壷を授ける

 

 再三記すことになるが、今年度のセブルス=スネイプ魔法薬学教授はイラつきと不機嫌が通常運転化していた。

 

 毎朝のシリウス=ブラックからの吼えメール処理に、アンブリッジからの嫌味爆撃。最愛の人形を貸し出しという名の没収がされ、彼女手製の料理や茶菓子を味わうこともできなくされた。

 

 3年前のロックハート赴任時もご機嫌斜めではあったが、今年はその比ではない勢いだった。

 

 かろうじて上位者の気配は抑え込めているが、代わりに極寒ブリザードを吹き荒れさせていた。

 

 おかげでセブルスの隣に座る“闇の魔術に対する防衛術”の新任教授が食事の度に、かわいそうなくらい表情を青ざめさせ、できるだけ椅子をそこから離そうとしていた。

 

 もっとも、それを見たアンブリッジに即座に「まあ!お行儀が悪いこと!生徒の見本となる教師ですのに!みんな仲良く融和を心がけましょう、とダンブルドアもおっしゃってませんでしたこと?!」とゲコゲコと喚き散らされていた。

 

 セブルスは相手にしなかったが、その新任教授は「わァ・・・あ・・・」と言葉にならない嗚咽とともに泣き出していた。

 

 触らぬセブルスに祟りなし、というのになぜかアンブリッジは嬉々として踏みつけるどころかドリルで抉りぬこうとするのだ。(意図的にして悪意たっぷりである分、悪意はなかったロックハートの方がまだマシだったかもしれない)

 

 マクゴナガルやスプラウトが必死にとりなそうとしても、暖簾に腕押しだった。

 

 なお、唯一無二の癒し役にしてストッパーになりうるメアリーは一言も口を開かず、スラグホーンが泣きつこうとすれば、代わってアンブリッジが「まぁぁ!食事は人間の活力!だというのに、高々道具の邪魔をさせようとおっしゃいますの?!」と喚いて、さらにセブルスの不機嫌に拍車をかけるのだから、もう何もしない方がいいのでは、と口を閉ざすことになった。

 

 ちなみに、メアリーがここ最近一言もしゃべらないことについて、彼女はマクゴナガルの再三の促しに「・・・『はい』『いいえ』以外の不要な会話はアンブリッジ様に禁止されています」と悄然と答えた。

 

 さすがにこれはどうなんだ。持ち主は一応、セブルスだろうに。

 

 あの淡々としていても、ゆったりしたアルトが聞けないのはさみしい、と教員たちも悄然と、肩を落とした。

 

 元気なのはアンブリッジくらいである。

 

 

 

 

 

 そして、アンブリッジをさらに元気にさせ、セブルスの不機嫌に拍車をかける出来事がまたしても追加された。

 

 日刊預言者新聞の一面記事を独占して、ドローレス=アンブリッジをホグワーツ選任査察官に任命する、という記事が公開されたのだ。

 

 新聞には、魔法大臣顧問であるファッジの「教育改革中のホグワーツを、直接査察することで現場の問題を知り、さらに良くしてくれるだろう」というコメントが掲載されていた。なお、現魔法大臣たるアメリア=ボーンズのコメントは掲載されていない。

 

 ホグワーツの理事たちは、代表たるマルフォイ氏が病気療養中(と銘打った潜伏中)なので、聞いたこともない理事が「アンブリッジ女史は魔法省でも辣腕の上級次官だと評判なので、彼女には期待しています」というコメントも掲載されていた。

 

 なお、記事を読んだハーマイオニーは新聞をテーブルにたたきつけたし、大体の生徒が満場一致で要らねえ!帰れ!と内心で叫んだことだろう。

 

 そして確信した。ただでさえも“魔法法学”教授として好き放題しているアンブリッジが、選任査察官としてさらなる暴虐に打って出るのだろう、と。

 

 全く以てその通りだった。査察官という立場を得たアンブリッジは、ここぞとばかりによその教授方の授業に顔を出し、嫌味の爆撃を食らわせ始めたのだ。

 

 もちろん、メアリーもその現場に引きずり回し、見せしめというかのように教員・生徒の前で痛めつけることも忘れなかった。

 

 セブルスは、もはやアンブリッジをまともな状態でホグワーツから出す気は微塵もなかった。

 

 もし、その目つきをフェンリールが目の当たりにすれば、飛び上がって部屋の隅でガタガタ震え始めるだろう。そのくらい、昏く悍ましい目つきをしていたのだ。

 

 

 

 

 

 さて、時節はホグワーツが真っ白な雪化粧に覆われ、クリスマスを目前にしていた。

 

 ハリーJr.は今年もまた、クリスマス休暇はホグワーツに残ることにしていた。

 

 というのも、今年はドラコがホグワーツに残るので、彼一人置いていくわけにはいかない、と残ることにしたのだ。

 

 「父上と母上もご健在だ。両面鏡でちゃんと確認している。お前が気にすることはないんだぞ?」

 

 「そういうわけにもいかないよ。

 ねえ、ここ、こういうふうに書いたんでいいかな?」

 

 「見せてみろ。

 ・・・。

 事務的ならいいが、シリウス=ブラックには逆効果だろうな」

 

 「えー・・・」

 

 二人が自室でやり取りしているのは、ハリーJr.が出そうとする手紙についてだった。

 

 実は、シリウス=ブラックから「クリスマス休暇を一緒に過ごさないか?!」という手紙が爆撃のように降り注がれ、急ぎ返事を出すことにしたのだ。もちろん、回答は拒否一択である。

 

 夏休みの会合に加え、親愛なるセブルスおじさんにして尊敬するスリザリン寮監兼魔法薬学教授のスネイプ教授に、毎日毎日飽きもせずにあんな嫌がらせするようなやつと、誰が一緒に貴重なクリスマスを過ごすものか。

 

 手紙の言い回し一つでもマナーは大事、と昨年のマナー講座で教わったハリーJr.は、念のためドラコに添削してもらいながら返事をしたためたのだ。

 

 「スネイプ先生に対する陰湿ぶりと、あの雨あられのような手紙攻撃を見てみろ。

 お前が素っ気なくしても、自分の押しが悪いのか、と何か斜め上の解釈をされるかもしれないだろ。

 愛想いいふりをしろ。『僕も会いたいけど、本当にごめんね』くらい書いておいた方がいい」

 

 「うー・・・わかった・・・」

 

 「いやそうにするな。気持ちはわからんでもないからな・・・」

 

 げんなりしながら新しい便箋と万年筆を手に取るハリーJr.と、気の毒そうにするドラコ。

 

 「お前の家族はどうなんだ?」

 

 「パパもママも無事だよ。ヘザーもね。まあ、ヘザーは昔から()()()()から、危ないところには近寄ろうとしなかったしね」

 

 「ああ、あれは頼りになるな」

 

 ドラコはうなずいた。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 忘れもしない、ホグワーツ入学の前年に起こった怪物邸騒動。

 

 家庭教師によって少し早めに魔法を習っていたドラコと、魔法の存在を知れども使えはしなかったハリーJr.に、予知じみた鋭い直感能力を持つヘザー。三人の、はじめての冒険だった。

 

 人を食らい始めた怪物邸に、睡眠薬を載せたラジコンをおとりとして飲ませよう、と画策した三人が、ドビーのバカ騒ぎによって駆け付けた警察に補導され、パトカーに乗せられたのだ。

 

 直後、警官二人は怪物邸に飲み込まれ、パトカーに乗せられたまま三人も食べられた。

 

 おかげで消化される前に脱出できた三人は、そのまま寝入った怪物邸を探索した。ごうごうといびきをかく怪物邸を起こさないように、懐中電灯と魔法の明かりを頼りに、吐息すら殺すように静かに歩いた。

 

 ヘザーは身振り手振りで先導した。踏むと軋んで音を立てそうな床板も、罠のようにそこかしこに吊り下げられているベルの鎖も、彼女が全て察知して教えてくれたのだ。

 

 さすがに、最奥の地下室で見つけた人型のコンクリートの塊には、直前に見つけた巨女コンスタンスの写真もあって三人まとめて悲鳴を上げてしまったが。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 あれを知っていればトレローニーなんてエセ予言者でしかない、とドラコは内心でつぶやく。

 

 なお、ドラコはハリーJr.に宛てて届いたシリウスの手紙も、しっかり見せられ、ちゃっかりあの男が“不死鳥の騎士団”として動いていることを察していた。

 

 とはいえ、ホグワーツでのやらかしがやらかしだ。表立ってのメンバーではなく、裏方あるいは外部協力者として、ということらしい。スパイみたいでカッコいいだろ?と書かれていたのに、ドラコは呆れが隠せなかった。(ダンブルドアが他メンバーとシリウスの双方を言いくるめたのだろう)

 

 ポッターを名乗れないのは残念だけど、安全でよかった!と書かれていたが、こんな手紙を届けてきてどこが安全なのか、とドラコはさらに呆れかえった。この手紙そのものがハリーJr.を危険にしているとわからないのだろうか?

 

 というか、よく“不死鳥の騎士団”は(ダンブルドアは、というべきか)、あんな危険人物の入団を認めたな、とドラコは反対の意味で感心した。

 

 シリウス=ブラックのホグワーツにおけるやらかしを知っていて、認めたというのか。“太った婦人(レディ)”を切り裂いて、グリフィンドール寮塔では就寝中のロナルド(正確にはそのペット)にナイフを振り上げ、挙句の果てには意図してなかったとしても吸魂鬼(ディメンター)を生徒で満員の大広間に押し付けてきたというのに。

 

 最後のセブルスの暴虐で吹っ飛んでしまった感はあるが、あれがなかったら、シリウス=ブラックが無実でした!だからアズカバンから刑期短縮で出所させるね!と言われても納得できるか!というものが続出しただろう。というか、ドラコ本人がそうなのだ。

 

 いや、むしろ“不死鳥の騎士団”という引き取り先がいてよかったのかもしれない。あんなすぐ暴発しそうな危険人物、下手に野放しにされているより、ダンブルドアに管理されている方がまだマシだろう。

 

 そういう意味では、“不死鳥の騎士団”の再結成も、悪いものではない。むしろ、アズカバンでも引き取れない問題児の収容先という点では優秀なのかもしれない。

 

 うんうん、とドラコは一人で納得した。

 

 そうだ。父上もおっしゃっていたではないか。マグルも見様や利用法によっては大いに役立つし、場合によっては魔法族の先をいっていることもある、それらの技術・知識を取り入れるのに、窓口はあるに越したことはない、と。

 

 何事も、見様を変えれば有意義になるものだ。

 

 「“不死鳥の騎士団”ね・・・ウィーズリー、大丈夫かなあ」

 

 「何かあったのか?」

 

 「ほら、ウィーズリーのところ、ご両親が騎士団入りしたって言ってたよね?

 なんか、アーサーさんが怪我して聖マンゴに入院したって言ってて。クリスマスは、ウィーズリーもそのお見舞いに行くって聞いたからさ」

 

 「アーサー=ウィーズリーが?それはまた妙な話だな。

 確か彼は、魔法省でも“マグル製品不正使用取締局”の局長を務めていたはず。魔法省では窓際だ。

 いくら騎士団入りしたと言っても、死喰い人もまだ潜伏状態だからそう危険なことはないと思ったんだが・・・。

 あんまり深入りするなよ。ウィーズリーも最近少しは賢くなってきてはいるようだが、お前が奴の無茶に巻き込まれたら目も当てられないぞ。

 今年の僕らは、大人しくしなければならない。そうだろう?」

 

 「うん」

 

 頷いて、ハリーJr.は左手をちらっと見やった。アンブリッジのあくどい罰則によって刻まれた文言は、白くてかてかとした傷跡として残っている。

 

 なお、この罰則を受けたのは、スリザリンではハリーJr.一人だが、他寮では何人か受けさせられている。

 

 ・・・とっても目立つ、円筒形の檻を頭にかぶせられて。

 

 ようやく罰則期間が明けたのでかぶってないが、あの檻をかぶせられているときはさすがにハリーJr.も参った。

 

 しかも、あれをかぶっていると、はるか彼方の見えないものからギョロギョロと見られているような――何か不思議で不穏な気持ちになるのだ。

 

 そのことをすでに檻をかぶせられて、かぶりっぱなしのようになっている先駆者の双子のウィーズリーにつぶやくと、彼らは両手でL字のような独特のポーズをとりながらどこか恍惚とした様相で言い放った。

 

 「「スネイプ先生は正しい。情けない在り様はホグワーツ生の堕落だ」」

 

 双子らしからぬ物言いに、あの檻大丈夫なの?と言いたくなったのは、ハリーJr.だけではないだろう。

 

 いずれにせよ、今年はおとなしくしなければならない。人間は時に忍耐も必要なのだ。

 

 書き上がった便箋を再度ドラコに見せ、今度はOKをもらったハリーJr.はそれを封筒に納めて、再開されたホグズミードで買ってきたシーリングスタンプ(無難な葉っぱマークのもの)を押した。

 

 

 

 

 

 クリスマス休暇中のことだ。

 

 セブルスは、メアリーを連れてホグズミード村に赴いていた。

 

 なお、この件についていの一番に文句を言いそうなピンクのガマガエルは、ベッドの上で寝こけている。

 

 朝食に全く起きてこないアンブリッジを渋々診察したマダム・ポンフリーは「過労ですね」と即断した。それを聞いたマクゴナガルも「そうですね。彼女は熱心ですから、きっと疲れが出たのでしょう」と深々と頷いた。何に熱心なのかについては言わないあたりは、お察しいただきたい。

 

 この前日に、いつもの脳液発作で教授室を訪れたドビーに、セブルスが遅効性をもたせた“生ける屍の水薬”を渡したことについての因果関係は不明である。前記の会話をしたマダム・ポンフリーとマクゴナガルが、ちらっとセブルスの方を見たことも、問題ないはずだ。

 

 なぜなら、その後セブルスがメアリーと一緒にホグズミードに出かけると申告すれば、ちゃんとマクゴナガルはもちろん、スラグホーンからも許可が出たからだ。メアリーもセブルスもやるべき仕事はやっているのだ。問題あるはずがない。

 

 むしろ、仕事もせずに過労で寝こけるなんて、いいご身分だとガマガエルの方にこそ言ってやりたいほどだ。

 

 ともあれ。

 

 訪れたのは、マクハベロック魔法帽子専門店だ。この店は帽子や鬘の専門店なのだが、併せて髪飾りを売っているのだ。

 

 一応、この店の前にバットワーシー雑貨屋も行ってみたのだが、髪飾りとしては安価――要はちゃちなものが多かった(おそらく学生向け)ので、改めてこの店を選んだのだ。

 

 ボンネットの隙間から見えるメアリーの灰銀の髪は、光の加減で真珠のような神秘的な色合いにも見える。

 

 メアリー自身にも好きなのを選んでいいと告げ、セブルスもまた彼女の髪に似合う髪飾りを選ぶ。

 

 珍しそうに見まわすメアリーをよそに、セブルスは真剣に吟味をした。あまり派手過ぎても地味すぎてもいけない。

 

 たとえボンネットの下につけて目立たないとわかっていても、最愛の人形の身につけるものなのだから。

 

 なお、帽子屋の店主である色違いのキャペリンをいくつも山盛りにかぶっている太った魔女は、メアリーを見るや他のレースやリボンで飾られた美しい帽子を勧めたそうにしていたが、セブルスがあくまで髪飾りコーナーの前から動かないと察するや、残念そうにしていた。

 

 セブルスが目を止めたのは、小さなバレッタだった。蝶のような羽飾りがあしらわれ、それらは一見すると白に見えるが、光の反射や角度によってきらきらと赤や青、緑色や黄色など七色に輝いた。セブルスは重要視しなかったが、それはホワイトオパールが加工されたものだ。

 

 メアリーの衣服は胸元に星輪草のペンダントをさげ、ボンネットにも花飾りが一部あしらわれている。

 

 蝶飾りであれば、花飾りとも相性がいいだろうし、悪くないのではないか、と思ったのだ。

 

 魔法界製の飾りは、生きているように時折羽を動かし、それもまた飾りをきらめかせる。

 

 これがいいかと手に取ったところで、セブルスはメアリーがじっとある髪飾りを見つめているのに気が付いた。

 

 それは櫛型の髪飾りで、デザインも以前ヤーナムで見つけた小さな髪飾りに似通っていたが、丸みを帯びた青い石がはめ込まれている。石はダークブルーだが、まるで星空のような金粉をまき散らされたようなものだった。(ちなみに、これも宝石でラピスラズリというそうだ)

 

 「それが気になるのかね?」

 

 「! いえ・・・その・・・狩人様の、目と似ている、と思いまして・・・」

 

 口ごもるようにポソポソとつぶやくメアリーに、セブルスは彼女の頭を一撫ですると、その髪飾りも手にとって、合わせて会計を済ませる。

 

 「?! セブルス様・・・?!」

 

 「また苦労を掛けてすまないな。

 気が向いたらつけてみてくれ」

 

 軽く目を見開くメアリーに、包んでもらった髪飾り二つを渡して、セブルスは無表情を少し緩めて見せた。

 

 渡された包みとセブルスの顔を見比べて、メアリーもまたうっすらと笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

 

 

 さて、クリスマス休暇中のシリウスによる吼えメール爆撃はバージョンアップして一度に五十通ほど降り注がせてきた。

 

 さすがにこれはトランク処理が追い付かなかった。つまり、セブルス周囲の教員席が多重爆発に見舞われ、ハウスエルフたちが修復魔法を総動員させることになったのだ。吼えメールの雨あられを認識したと同時に、セブルスがとっさに「逃げろ!」と叫んで、周囲から人を遠ざけたので人的被害だけは免れたのだが。

 

 これにはセブルスがキレるより早く、マクゴナガルがブチギレていた。

 

 啓蒙虚数値のバカ犬に人語の説教が通じるはずがないのでは?挽肉にした方がまだ有意義では?というセブルスの疑問をよそに、マクゴナガルはシリウス=ブラックからの吼えメールによる被害を、シリウスの身元引受人であるルーピンに知らせた。

 

 「シリウス=ブラックに吼えメールを二度と送らせるな。これ以上やるなら被害届を出して学校として訴える」という苦情込みで吼えメールと普通の手紙の両方で、マクゴナガルはルーピンとシリウスの双方に通知した。

 

 で、それからシリウスからの吼えメール攻撃はピタッと収まった。

 

 あのバカ犬、人語が通じたのか。苦情が理解できたのか。待てもできない、吠える・噛みつく・暴走するの3拍子揃ったクソ犬でしかなかったのでは?

 

 ひそかなそんな驚愕は、うっかりセブルスの口からこぼれたらしく、それを聞きつけた教員たちは、吹き出す者と微妙な顔をする者の半分に二分されていた。

 

 なお、アンブリッジはどうあってもセブルスに嫌味の皮をかぶった罵倒をしてきたので、割愛とする。

 

 まあ、それで多少はストレスが緩和されようが、根本となるピンク色のガマガエルは相変わらずゲコゲコと喚いて野放しのままなわけだ。

 

 シリウスの毎日吼えメールの停止には、クリスマス休暇をホグワーツに残ったハリーJr.の堪忍袋の緒が切れたことによる、「やめないと縁を切る。最低すぎて、二度と会いたくない」という書きなぐりの手紙も間違いなく影響があったことだろう。

 

 

 

 

 

 さて、クリスマス休暇が明ければ、学校は再開される。

 

 それはつまり、セブルスの史上最高単独忍耐選手権再開(すでに殺意は万端だが、まだ物理実行には至ってない)を意味するわけで、クリスマス休暇中は帰宅でセブルスから逃げきれた生徒たちは、再びの極寒ブリザードの不機嫌にさらされる羽目になっていた。

 

 もっとも、シリウスからの吼えメール攻撃がなくなった分、若干マイルドにはなっていたのだが。

 

 だが、ここにきてついに双子のウィーズリーが爆発した。

 

 セブルスはあれはいつか爆発すると確信していたし、アンブリッジのリクエストに特に反対もせずに素直にメンシスの檻を貸し出した時には、こうなるんじゃないかと思っていたのだ。

 

 というか、アンブリッジがことごとく自分の首を絞めるような真似をするからこうなるのだ。

 

 授業妨害しまくる双子に難癖をつけて、クィディッチの参加禁止と箒の没収という、むしろ双子の悪戯に割く時間を作るような罰則を与えているのだから、仕方ない。

 

 場所は一階階段下だった。暴れまわる魔法の仕掛け花火の数々。

 

 バンバンと咆哮の代わりに大きな音を立てるのは、全身が金と緑の火花でできたドラゴン数匹。

 

 ショッキングピンクのネズミ花火は、空飛ぶ円盤群よろしくビュンビュンと破壊的に飛び回る。

 

 空中に勝手に悪態の文字を書く線香花火やら地雷のごとき爆竹。

 

 百年ヤーナム滞在や世界冒涜地獄巡りでも見かけないド派手な光景だった。まあ、あれらの旅路で見かけたのは、陰鬱で気が滅入るばかりの光景ばかりだったが。

 

 「「おお(Oh)素晴らしい(Majestic)!学校でもお役人とは!」」

 

 そうして、慌てふためいた様子で杖を振り上げるアンブリッジと、箒を振り回すフィルチをよそに、物陰で双子が朗々と叫んだ。

 

 ・・・またしても、双子は教えた覚えのないミコラーシュの台詞に近似した言葉を言い放っているのを、セブルスだけが知っている。

 

 なお、花火たちはアンブリッジの失神呪文を受けて大爆発を起こし、フィルチの箒を丸焦げにしていた。

 

 それを見て、生徒たちは手を叩いて歓声を上げていた。

 

 教師たちもまた口元を緩め、加点・減点・罰則の言い渡しもしなかった。むしろ、査察官という立場を笠に着て、授業に口をはさんできたり、嫌味爆撃食らわせてくるアンブリッジに対し、ここぞとばかりに査察官殿に花火の処理をお願いします、我々にはない常識があるんですから、と言ってのけた。

 

 そして、セブルスは。

 

 「危ない!アンブリッジ教授!消失せよ(エバネスコ)!」

 

 アンブリッジをかばうふりをして、その目の前で花火ドラゴンに消失呪文(エバネスコ)を直撃させた。

 

 事前に双子から聞いていた通り、花火ドラゴンは十倍に増えた。

 

 「スネイプ教授!何をしているのです!この役立たギェゴォォォォっ!」

 

 「これは申し訳ない。まさか増えるとは」

 

 茶色の巻き毛とピンクのカーディガンを焦がされて絞められたカエルのような悲鳴を上げるアンブリッジに、セブルスは極めて平坦な調子で言い放った。

 

 「そうですな!ではせめて、被害を抑えるためにも、別の魔法を試しましょう。縮め(レデュシオ)

 

 セブルスが右手を一振りしつつ魔法を使えば、ネズミ花火は確かに縮みはした。ただし指ほどの大きさのサイズのネズミ花火十数個に分裂し、スピードアップするおまけ付きで。

 

 レプリカといえどメンシスの檻をかぶった双子は、以前以上にアイデアがわくようになった、と凶悪すぎるオプションをお手製いたずらグッズに仕込み、その仕掛けをセブルスに全て告げていた。

 

 以前お菓子を分けてくれた人形をいじめまくるガマガエルに、遠慮はしない、と双子は言い放った。

 

 退学という最後の一線を恐れもせずに、やらかすと決めた双子はこうして文字通り開幕の狼煙を上げたのだ。

 

 なお、ピンクのガマガエルは、悲鳴と文句をあげるより早く、大きく開いた口に縮小分裂したネズミ花火の一つが飛び込み、爆発した。口から煙を吹いてひっくり返ったアンブリッジを、フィルチだけがいやそうにしつつも、医務室に引きずっていった。

 

 そのまま胃の腑から爆発すればよかったのに(尻に差し込んだストローから膨らまされたカエルの末路のごとく!)、とセブルスは思いつつ、いやここで殺すのは早い、とも思った。

 

 徹底的に嬲り殺す、という決意はセブルスの脳の底に横たわっている。

 

 

 

 

 

 なお、その同日、大量の油壷を()()()()()()()授業後の地下牢教室に置き忘れ、「処分予定故に触らぬように。花火に油壷を投下など以ての外だ」と吐き捨てたセブルスに、我が意を得たりとホグワーツの学生諸君は大いに応えた。

 

 各種呪文で的当てをするもの、箒で上から落とすもの、廊下に置いておくもの、普通に手投げするもの、とそれぞれがそれぞれの方法で暴れまわる花火に油壷を与えたのだ。元々処分予定なのだから、どう処分しようが、問題ないはず。

 

 その油壷は、以前アクロマンチュラ退治に提供されたものとはまた成分が異なっているのか、花火に当たると、色が変わったりネオンサインのごとく点滅したりと、また違う反応を醸し出し、火の勢いが消えかけた花火も瞬く間に元の勢いを取り戻すので、それもまた生徒たちを大いに盛り上がらせた。

 

 秒で火傷を治されて医務室からたたき出されたアンブリッジは、ヒステリックにゲコゲコと喚きながら、お供のフィルチを連れて頑張って花火処理をしていた。そのフィルチはスクイブだし、恭順姿勢は表向きでしかないので、実質はほぼ一人での対応となる。

 

 なお、暴れまわる花火を視認した瞬間、他の教授陣がこっそり防火魔法を使っているので、実は火事対策はばっちりだったりする。

 

 『ウィーズリーの暴れバンバン花火』と名付けられているその花火は、双子のウィーズリーのお手製であり、今回の騒動に当たって在庫をありったけ放出したとのことだ。

 

 盛大なる宣伝を兼ねたデモンストレーションらしいこの大騒動で、双子はちゃっかりグリフィンドール生はじめ、他学生たちから購入予約を取り付けた。「ちょっぴり反抗的な気分なの」と見過ごすつもり満々のハーマイオニーにまで、予約リストはこちら!と声をかけたほどだ。

 

 「あ!花火の餌になる追加油壷もあるぜ!太らせたいなら赤の油壷!色変えなら緑の油壷!」

 

 「どちらも一つ15シックルだ!」

 

 「あれ、スネイプが作った奴じゃなかった?」

 

 首をかしげるロナルドは、もちろん油壷をどさくさで花火に投げつけていた。

 

 「ばっかだなー、ロニー坊や」

 

 「かわいらしいお人形ちゃんをいじめるアンブリッジに向かって、果敢なる挑戦をする我らを、スネイプ先生が止める理由があると思うか?」

 

 うんうんと訳知り顔で頷いたのち、二人は左右対称に両手でL字のポーズをとりながら叫んだ。その頭には、すでに見慣れた円筒形の檻がのっかっている。

 

 「「何者も我らを捕らえ止められぬのだあ!」」

 

 うん。知ってる。

 

 その場にいる生徒たちの声なき同意が重なった。

 

 

 

 

 

 ちなみに、油壷の成分については、セブルスが要らないゴミと称して、双子の目の前でレシピメモを廊下に落としていた。

 

 「出所がわからぬよう、上手くやりたまえ」という一言も付け加えて。

 

 その目を見た双子のウィーズリーは、悟った。雷に打たれたような、天啓を得た。マーリンのささやきというのはこういうことを言うのだろう。

 

 あの先生は、徹底的にやれと言ったのだ。お墨付きを得たならば、やるしかあるまい。

 

 かくして、『ウィーズリーの暴れバンバン花火』は、正史以上の威力と勢いをもって、炸裂した。

 

 

 

 

 

 ところで、5年生ともなれば、そろそろ本格的な進路指導が入ることになる。

 

 元より闇祓いを目指すハリーJr.と、マルフォイ家を継ぐドラコはともかく、他のメンツはああでもないこうでもないと各種企業や就労先のリストと、必要な資格・成績を見比べていた。

 

 そして、寮監の務めとして、各寮寮監はこの時期は授業の合間を縫って5年生の進路指導を行っていた。

 

 現在受けている授業科目とその現状成績、本人の気質やホグワーツでの評判・クラブ活動内容を踏まえ、アドバイスを送るのだ。(罰則の回数なども影響するだろう)

 

 高望みしてたらもっと気軽な目標に目を向けさせようとするし、迷っているようならこの方がいいんじゃないか、と提示したり。

 

 5年生はOWL試験(フクロウ)がある。その時に、最低でもこのくらいの成績を取らないとこの目標には届かない、この成績じゃないと6年以降のこの科目は受講できない、といった注意もしなければならないのだ。

 

 だが。

 

 セブルスは、今度という今度はこの女――すべての女性性を持つ存在を冒とくしているとすら思える、ピンク色の脂肪の塊めいた両生類の息の根を止めてやる、と思った。

 

 スリザリンの学生たち一人一人を教授室に呼んで行う進路指導の席に、なぜかピンク色のガマガエルが同席したのだ。

 

 例年であれば、メアリーの茶菓子をおともに、ソファセットで話を聞いていた。

 

 だが、この闖入者と呼ぶのもおこがましいカエルモドキが図々しくソファにどっかりと腰を掛けた(しかもセブルスの定位置としている一人掛けの場所に!)ので、仕方なく、セブルスは書き物用のデスクにかけ、生徒には三脚の椅子に座らせて話を聞くことになる。

 

 無害な分、置物の方がまだマシだった。そばに寄りつくことすらやりたくない。

 

 茶菓子?脂肪の塊にさらなる脂肪を追加することを美徳とする思考は、セブルスは持ち合わせない。そもそもメアリーに茶菓子づくりすら禁止させたのはこいつだ。ほしいなら勝手に自分で持ってくればいい。

 

 「お茶の一杯も出せないなんて、なんて気のつかない男なのかしら!常識がありませんこと?!ほんとうに信じられません!」

 

 お前の常識など知ったことか。知ることすら悍ましい。啓蒙虚数値と形容することさえ不可解な脂肪の塊め。

 

 なお、メアリーはアンブリッジの後ろに立たされている。発言禁止・料理と菓子作り禁止・授業では立たせているだけと、何がしたくてメアリーの貸し出し申請をしてきたのか、まったくもって意味不明である。

 

 一連の罵倒文句は、閉心術でがっちりがちがちに覆い隠し、ソファの上で羊皮紙片手にゲコゲコと喚く魔女は一切無視して、セブルスは教え子たちの話に耳を傾ける。

 

 なお、魔女は純血名家の生徒相手にはどんな進路を取ろうが、基本的ににこやかにうんうん頷いて、ガリガリと手に持つ羊皮紙に何事かメモを取っていた。

 

 反面、新興商家やマグル出身の生徒相手には、えへんえへんとわざとらしく咳払いをして口を挟みこもうとした。どんなに些細な希望だろうが、高望みしようが、お前の未来の希望なんて何の価値もねえんだよ、とっとと捨てちまえ、と言わんばかりだった。

 

 セブルスは舌打ちしたい衝動を必死にこらえ、わざとらしくハウスエルフを一人呼び出し、アンブリッジ教授は風邪気味のようだからカリンとショウガの効いたお茶を出すように、と言いつけた。

 

 それは私の役目のはず、とショックを受けたように目を見開いて身を震わせるメアリーに、セブルスは今すぐ頭を撫でて慰めたいのをこらえた。

 

 こんな両生類にメアリーのお茶を飲ますなど、言語道断だ。湯を沸かす必要すら感じないというのに。なんなら水道水でも出せばいい。

 

 そして、ハリーJr.の番が来た。

 

 前述の通り、アンブリッジは純血名家の生徒には何も言わないので、ドラコは問題なしであった。

 

 つまり、アンブリッジはハリーJr.の番にて、ついにやらかして――否、セブルスのなけなしの忍耐を完全破壊し、獣性の臨界点を突破させてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 続く

 




 【瑠璃の髪飾り】
 瑠璃の付いた、小さな髪飾り。

 帽子屋の店先をにぎわせる、小さくも品の良い品。

 それは愛する狩人の瞳を人形に思わせ、灰のような髪色にもよく映えるだろう。



 Q.クリスマスデートとか、冗長で要らないんじゃないんですか?

 A.アンブリッジおばちゃんの理不尽暴虐を延々描写しろっていうんですか。もう、ダイジェストにしても苦痛感じるんですよ?気分転換くらいいいじゃないですか!人形ちゃん可愛いヤッター!



 次回の投稿予定は未定です!内容は、ハリーJr.の進路指導にて。爆発だ!爆発だ!セブルスさんの怒りが爆発だ~!なお、セブルスさんとしてはスパーリングとか前菜扱いの模様。さらばウィーズリーツインズ!これが目覚めであっても、忘れはしない!ピンクのカーディガンからイメチェンしたアンブリッジを添えて!お楽しみに!

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