セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、閲覧、評価、誤字報告、お気に入り、ありがとうございました。

 感想もとてもうれしいです。ちょっと執筆に集中したいので、お返しは出来ていませんが、本当にありがとうございます。

 Q.ホグワーツにちいかわの教授がいらっしゃるんですが?

 A.血に渇いた獣のことですか?それとも屍山血河(エルデンリングの武器)のことですか?(すっとぼけ)
 何かが別の何かとかぶりましたかねー?他意はないんですがね。

 という訳で続きです。


【6】セブルス=スネイプ、激発する①

 

 さて、ハリー=メイソンJr.の進路指導相談が始まった。

 

 「最低限の勉強だけ修めたら、マグルの世界に戻って、大学に進学しようかと思ってるんです」

 

 最初こそアンブリッジを見るなり、ゲッと言いたげな嫌そうな顔をしたハリーJr.は、それでも彼女を無視してセブルスに勧められた三脚椅子に掛けると、話を切り出した。

 

 打合せ通りに。

 

 実は、アンブリッジが進路相談に強引に顔を出してくるだろうと予想していたセブルスは、あらかじめ生徒たちに希望進路について何かあるなら羊皮紙に書いて提出してくるように、と寮母であるメアリーを通じて告知しておいたのだ。

 

 希望進路については羊皮紙に書かれているものを優先とし、第三者に訊かれたくないなら、面談時は第2希望、最悪選考外にしていることを話してもいい、というようなことを通達しておいたのだ。

 

 ハリーJr.は羊皮紙に闇祓いを目指す、と強い主張が聞こえるように書き込み、続けて面談時にはマグルの世界に帰るように話しますが、全くそのつもりはありません、と付け加えてきた。

 

 そして、その通りに話を進めている。

 

 ちなみに、この面談後、セブルスは必要な進路指導――資格や成績についてフクロウ便で通達することにしている。

 

 以前記したと思うが、ハリー=メイソンJr.は闇祓いを目指すならば魔法薬学の成績がネックとなる。

 

 “闇の魔術に対する防衛術”は、むしろ良成績と言っていい。本当に、魔法薬学だけなのだ。

 

 それも、以前セブルスに言われたため、一念発起の猛勉強もあって徐々に成績は上昇してきている。4年次の中級魔法薬学は良(E)を取った。このまま続ければ、今年のOWL(フクロウ)で優(O)を取ることも夢ではない。

 

 そんなことを頭の隅で考えながら、セブルスは「大学に通うには、そのための資格と勉強が必要だが、それについてはどう考えているのだね?」と一応型通りに問う。

 

 「ちょっとずつは勉強してます。家の方からテキストも送ってもらいましたし」

 

 頷いてハリーJr.も話す。

 

 全くの嘘という訳ではない。マグルの世間から離れすぎるのはよくないと、簡単な勉強や古新聞を送ってもらって読んでいるのだ。

 

 ここでエヘンエヘン、というわざとらしい咳が聞こえたが、セブルスは一顧だにしなかった。

 

 「残念ながら、それではこちらで指導することはありませんな。

 では、今のところ問題ない、ということでよろしいですな」

 

 エヘンエヘン!とさらに強い咳払いが聞こえた。セブルスの黒髪に隠れたこめかみに、青筋が浮かび上がる。

 

 「よろしい。それでは、今回は」

 

 エヘンエヘンエヘン!とセブルスの言葉さえ遮ったそれは、咳というにはあまりにも主義主張が強かった。ついでに、わざとらしく、こちらに向かってやっている。

 

 咳払いならばせめてよそを向いてやるべきでは?

 

 「・・・喉の具合が悪いならば、医務室で薬をもらってきてはいかがですかな?」

 

 「まあ!魔法薬学教授ともあろう方が、薬の一つも出せませんの?ほんっとうに気づかいができませんのね!信じられません!」

 

 ジロリッと視線を向けたセブルスに、アンブリッジは嫌味をもって返した。

 

 ロックハートと違って声が頭に響くのも非常に癪に障る。癪に障るどころか、一言一言が殺意をいちいち煽ってくる。

 

 「Mr.メイソン?あなた、マグル界に戻るというのは実に殊勝な心掛けです。

 あなた、元々闇祓いを目指していたんでしょう?

 それが志望変更とは、身の程をわきまえてて好ましい限りです」

 

 「面談は終わった。まだ授業中だからすぐに戻りたまえ」

 

 「まだわたくしの言うことは終わってませんよ!!スネイプ教授!

 あなたの危険思想が生徒たちに伝播せぬように、わたくしが直々に見て差し上げているというのに、その態度は何ですか!

 失礼、この元死喰い人のことは無視してよろしい」

 

 「Mr.メイソン。すぐに授業に戻りたまえ。おかしなことをすれば減点するぞ」

 

 アンブリッジの暴言に、ハリーJr.の肩が揺れ、その右手が強く握りしめられた。杖を振り上げたい、と言わんばかりに。

 

 即座にセブルスが口をはさむ。

 

 セブルス自身は、自身に向けられた暴言はどうでもいいのだ。それよりも、アンブリッジの暴虐が、彼の大事なものを蹂躙する方が耐えがたかった。

 

 だが、アンブリッジは何が一番セブルスを怒らせるのか、本能で察していたとしか言いようがなかった。

 

 「まあ!何ですかその目!マグル育ちの卑しい半端物が、スリザリンに属しているというだけで、スリザリンの格が下がるというのに!

 百歩譲って、後輩をいたわってやろうとこの私が直々に助言してやろうというのに!

 このセルウィン家の末裔の助言をありがたいと拝聴する姿勢すら持たないなんて」

 

 「黙れ

 

 その言葉がセブルスから発された瞬間、ハリーJr.は怒りで赤くしていた顔を瞬時にひきつらせ、後ずさっていた。

 

 セブルスは無表情のままだったが、デスクチェアから立ち上がっていた。その纏う空気は、名状しがたき悍ましいものだった。かつてルシウスをすくみあがらせ、ドビーを卒倒させた上位者としての気配が全開状態になっている。

 

 ・・・そして、アンブリッジは下手をすればロックハート以上の愚鈍な人物だった。

 

 「まあぁ!黙れですって?!口の利き方ってものがなってませんわね!こんなのに教えられ」

 

 アンブリッジが何を言いかけたのかは定かではない。

 

 次の瞬間高速呪文を無言呪文発動させたセブルスが、瞬時に間合いを詰めて、その右手に持っていたものを振り下ろしたからだ。

 

 玉の付いた鋼色の槌――トニトルスは、アンブリッジの脳天を抉ってソファにたたきつけた。

 

 ハリーJr.は悲鳴こそこらえたが、そのまま飛び上がるように後ずさった。

 

 だが同情はしなかった。あれ以上このガマガエルが何か喚いていたら、セブルスが止めようが、ハリーJr.の方が杖を引き抜いていただろうからだ。

 

 「授業に戻りたまえ、Mr.メイソン。私は今から()()とじっくりと話し合う。貴公は何もおかしなものは見ていない。そうだな?」

 

 言いながら、セブルスはソファの上で苦痛に呻くアンブリッジを見下ろした。

 

 本日の面談は、ハリーJr.で最後だ。ならば、少しばかりアンブリッジに時間をかけてもいい。物理的話し合いが必要だ。セブルスはそう判断した。

 

 「・・・ハイ先生。僕は何も見てないです」

 

 こわばった顔と声でどうにかそう返すと、ハリーJr.はぎくしゃくと教授室を後にした。

 

 バタンっと扉が閉まったところで、セブルスは右手を振って、アンブリッジに治癒呪文を使った。血まみれでソファの上で痙攣するだけだったアンブリッジは、即座にパッと顔を上げた。

 

 「つい」

 

 アンブリッジが、カエルのような目をぎらつかせながら叫ぼうとした。何を言おうとしたのだろうか?ついに本性を現したな?とでも言おうとしたのだろうか?

 

 だが、それよりも再びトニトルスがその頭をカチ割らんばかりの勢いで叩き込まれ、再びソファに彼女をめりこませた。ソファの合皮とフレームが悲鳴のように軋む。

 

 「貴公の発言は不要。汚らわしい雌豚め」

 

 ぽんぽんと、左手でトニトルスの玉部分を弾ませながら、セブルスは吐き捨てた。

 

 ソファの上でピクピクと痙攣するアンブリッジをよそに、セブルスは続けた。いっそ平坦ともいえる口調は、殺すべき豚を前にしたものと同じだった。

 

 「楽に死ねると思うな。まずは耐久実験だ。貴公の頭蓋に納まる海綿にも劣る脳髄の正気と、トニトルスのな。

 安心しろ」

 

 最後だけ、ほんの少し語気を緩め、いっそ優し気な調子でセブルスは、痙攣するアンブリッジにささやいた。

 

 「トニトルスは、他の仕掛け武器よりも耐久値が低めだからな。そう長引かぬであろう。

 治癒魔法もかけてやろう。

 どちらが長持ちするか、実証といこうではないか」

 

 言い終えると同時に、セブルスはアンブリッジに治癒魔法をかける。

 

 「この!人でなし!」

 

 アンブリッジの罵倒は悲鳴となった。何しろそれと同時に、トニトルスがまたしても彼女の顔面を抉ったからだ。

 

 ソファから叩き飛ばされ、アンブリッジは教授室の床にべしゃんっと落ちた。セブルスは悠々たる足取りでその前に立った。

 

 「そうとも。貴公によると私は汚らわしい元死喰い人らしいからな。

 ならば人としての気づかいは出来なくて当然だな?」

 

 言いながら、セブルスはトニトルスをマッチのように擦った。バチンッと、その玉のような部分で紫電がはじける。

 

 痛みで朦朧とするアンブリッジは気が付いてないだろう。まさしく、彼女の発言が自身に返ってきているということに。

 

 そうして、セブルスは紫電をまとう変形状態のトニトルスを振り下ろした。

 

 「ゲゴォッ!」

 

 「ブルァッ!」

 

 「カイブッ!」

 

 「ミソノッ!」

 

 時折アンブリッジを治癒呪文で癒して、ガマガエルの鳴き声にも聞こえる奇声は無視して、セブルスはその頭蓋――切開することすら時間の無駄だろうそれを、ひたすら殴打し続けた。

 

 

 

 

 

 その日。ホグワーツは戦慄した。

 

 廊下を歩く学生たちはもちろん、教師たちも硬直し、絵画の描写人物たちや偶然通りかかったゴーストたちも絶句していた。

 

 身にまとう空気こそ、どうにか上位者の気配を押し込み、無表情の極寒ブリザードで収めたセブルス(もちろん、返り血の類はない)が、廊下のど真ん中を歩いていた。

 

 だがいかんせん、その左手が引きずっているものが異常だった。

 

 白目をむいて泡を吹いて意識がないアンブリッジの、ピンクのカーディガンの襟首をひっつかみ、その下半身を引きずるように歩いていたのだ。

 

 なお、セブルス本人としては、これでも十分優しくしてやっていると思っている。何しろ、足を掴んでビショビショの下着を丸見えにするように引きずってないのだから。汚らしいものを衆目にさらすのは環境問題になるのでやらないだけだ。

 

 やっちゃった・・・この先生・・・。

 

 声なき衆目の心情が一致した瞬間だった。

 

 いつかやるんじゃないか、むしろよく我慢できてるな、と思っていたが、とうとう我慢の限界に至ったか。

 

 なお、マーリンの名を口にするものが一人としていないあたり、アンブリッジの好感度についてはお察しいただきたい。

 

 セブルスはそんな衆目に頓着することなく、そのままアンブリッジを引きずって、いっそ堂々たる足取りで廊下を進んでいく。

 

 行先は医務室だ。

 

 「失礼する。マダム・ポンフリー」

 

 「あら、セブル、スゥ?!」

 

 顔を出したマダム・ポンフリーも、セブルスの引きずるものを目の当たりにして、声を上ずらせた。

 

 「教授室で進路相談に同席していただいてたのですがな。突然泡を吹いて卒倒されましてな。申し訳ありませんが、こちらで診ていただけませんかな?」

 

 「セブルス・・・本当に何を・・・いいえ、何でもありません」

 

 僅かに身を震わせ、顔をこわばらせるマダム・ポンフリーは、しかし賢明にも深くは訊こうとしなかった。

 

 マダム・ポンフリーはきっちり覚えている。2年前の職員室での、セブルスの暴虐を。ペティグリューに発揮されたそれは、言うべき言葉を間違えれば、当然違う相手にも発揮される。それだけの話だ。

 

 「ああ、本人は何も覚えてないでしょうな。何しろ、突然のことで」

 

 恐る恐る扉から医務室の中を覗き込む野次馬学生のうち一人は、ふと忘却術の存在を思い出した。

 

 セブルスは淡々といつもの調子でしゃべっている。

 

 「何があっても悪い夢のようなものでしょう。

 何をしようとなかったことになるなら、それは問題とならないというのは、アンブリッジ教授ご自身が明言なさったことですからな」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・そうですね」

 

 セブルスの発言から、とうとう我慢の限界に至ったらしいと悟ったマダム・ポンフリーはゆるゆるとうなずいた。

 

 なお、マダム・ポンフリーもアンブリッジに対する同情は微塵もなかった。

 

 「では、私はこれで失礼します。

 雌豚の体液で汚れて壊れたソファの処分と、新しいものの買い替えが必要でしてな」

 

 その言葉に、マダム・ポンフリーはもちろん、扉の隙間から覗き込んでいた野次馬学生たちもビクッと体を震わせた。

 

 雌豚の体液が付いて壊れたソファ。直しもせずに買い換えたい。それが意味するところを、賢い学生は即座に思い至った。思い至ってしまった。色ごとの気配なんぞある筈がない。間違いなく、暴力沙汰によるものだ。

 

 「・・・セブルス。メアリーにお茶を淹れてもらって、一休みしたらいかが?

 今なら問題にならないでしょうし」

 

 マダム・ポンフリーは、言いながら床でグデンと伸びているアンブリッジをちらっと見やった。普段のマダムであれば、さっさと治癒魔法をかけてベッドに乗せているところだが、それは後回しにする気満々らしい。

 

 「・・・それはよいですな」

 

 そうして、セブルスは扉を振り返って、びくっと身を震わせる野次馬学生たちに向かっていった。

 

 「諸君。何かおかしなものを見かけたかね?何も見ていない。そうですな?」

 

 「いや、それは無理」

 

 「じゃないよな!」

 

 うっかり言いかけたグリフィンドール2年生デニス=クリービーの口をふさいで、顔をひきつらせたロナルドが叫んだ。

 

 「僕たちは何も見てない!そうだよな!

 デニス!お前疲れてるんなら、マダムに忘却術でもかけてもらったらいいんじゃないか?!」

 

 周囲を見回して同意を求めるロナルドは、続いて口をふさぐデニスに叫んだ。

 

 コクコクコク!と周囲の学生たちは勢いよくうなずいた。

 

 セブルス=スネイプ教授が、シリウス=ブラックに対して行った暴虐は、学生たちの脳髄に強く刻み込まれていた。

 

 スキーターの記事はガセであっても、行ったことは事実であるのは確かであるのだから。

 

 「よろしい。では、失礼する」

 

 言って、セブルスは黒髪とインバネスコートの裾をなびかせて、その場を立ち去った。

 

 教授室に残してきたメアリーに、今からでいいから言い訳と慰めをしなければ。

 

 あの雌豚にお前のお茶を飲ます価値もないと言って、彼女に通じるだろうか。

 

 廊下を歩くセブルスは、愛しの人形を想った。

 

 

 

 

 

 ちなみに。ハリーJr.はセブルスからのフクロウ便にて、闇祓いを目指すなら、魔法薬学の成績をもう少し頑張りましょう(意訳)、と返答を受け取った。

 

 

 

 

 

 それから数日。アンブリッジはしばらくはおとなしかった。人が変わったように静かで、他人を罵倒しないと死ぬという疑惑があった口腔は、珍しく必要要件以外しゃべらなかった。

 

 もっとも、数日のことだ。

 

 喉元過ぎれば熱さ忘れる。アンブリッジはそれを忠実に体現してくれた。

 

 

 

 

 

 そうして、セブルスが第3回獣性フル解放殴打大会(第1回と第2回は2年前に実施済み)を開催して、どうにか復活したアンブリッジが再び活動しようとした時だった。

 

 双子のウィーズリーがまたしても行ったのだ。

 

 廊下のど真ん中――魔法法学教室の真ん前に沼地を生成したのだ。

 

 「それで!

 あなたたちは面白いと思って、これらをしでかしたのね!」

 

 勝ち誇った様子で、アンブリッジが叫ぶ。・・・ただし、その首から下は巨大な――馬車馬サイズの黒い大蜘蛛だった。石畳にカツカツと爪を打ち鳴らす。

 

 ジョージ&フレッドはそれをかぶった檻越しにニヤニヤと眺めながら叫んだ。

 

 1階階段下の広場での出来事だった。

 

 それを野次馬の頭越しに眺めるセブルスは、悪夢の教室棟で遭遇したパッチや、聖杯ダンジョンで見かける人面蜘蛛を思い出した。

 

 もっとも、あれらと現在のアンブリッジを比べたら、圧倒的に前者のほうがマシだと断言できる。もしアンブリッジがこちらに近寄ろうものなら仕掛け武器でそのまま駆除してやるものを。

 

 「ああ!最高に面白いね!」

 

 「泥に沈みもはや見えぬ湖も沼地と同義、舌を嚙み明かし語るべき宇宙も認識できぬ、啓蒙なきガマガエルにこそ相応しいと、我らが大先輩もおっしゃったのさ!」

 

 「瞳を得るべき脳があるかも怪しい、悪夢の住民たる蜘蛛から出直すべきだとも言ってたな!」

 

 「克すべき獣の愚かすら失くしてしまえば、血肉とクソの詰まった皮袋しか残らぬだろうってな!」

 

 セブルスは野次馬の頭越しに、双子の言葉を聞いてピクっと眉を動かした。

 

 そんな啓蒙高いあれそれを、初代いたずら仕掛け人(マローダーズ)が言うとは思えないし、接点があったとは思えない。となれば。

 

 まあ、仕方ない。檻をかぶせるのはアンブリッジ教授からの要請だったのだから。

 

 セブルスは、去年から檻は撤廃していたのだ。復活させたのはアンブリッジだ。つまりは、自業自得。セブルスはそう結論付けた。

 

 むしろ、今年に入ってからの双子の啓蒙爆上りぶりの方が異常かもしれない、と考えかけたセブルスは、双子が“交信”ポーズをしょっちゅうとっていたことを思いだした。

 

 あれが、組み合わさってブーストをかけることになったのでは?

 

 まあいいだろう。ウィレーム先生も言ってたではないか。『我々は思考の次元が低すぎる。もっと瞳が必要なのだ』と。双子は一足早く、瞼が現れたのかもしれない。

 

 ともあれ。

 

 「ジョージ、どうやら俺達は学生稼業を卒業しちまったな?」

 

 「ああ、俺もずっとそんな気がしてたよ」

 

 「俺達の才能を世の中で試す時が来たな?」

 

 「まったくだ」

 

 言い合って双子は、ヒステリックに叫び倒し、ガソゴソ蠢く人面蜘蛛アンブリッジを一顧だにせずに、「「来い(アクシオ)!箒よ!」」と自分たちの箒(壁に固定する用の鎖と杭をぶら下げたままだ)を呼び寄せると、ひらりとまたがって飛び上がる。

 

 「またお会いすることもないでしょう」

 

 「ああ、連絡もくださいますな」

 

 そうして、二人は集まってきた野次馬学生たちを見下ろして朗々と叫ぶ。

 

 「上の階で実演した『携帯沼地』をお買い求めになりたい方は、ダイアゴン横丁93番地までお越しください!

 『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ店』でございます!」

 

 「我々の夢の境地!新店舗です!」

 

 かぶった檻越しに、二人はアンブリッジを見下ろした。

 

 「我々の商品をこの老いぼれ8本足婆を追い出すために使うと誓っていただいたホグワーツ生には特別割引いたします!」

 

 「捕まえて!二人を止めなさい!」

 

 金切り声を上げて喚いて髪を振り乱し、ついでに8本足の爪で石畳をがつがつ鳴らすアンブリッジをよそに、フレッドとジョージは、ホールの反対側、群衆の頭上でヒョコヒョコ浮遊しているポルターガイスト・ピーブズに「俺達に代わってあの女をてこずらせてくれよ!」というエールを送って、そのまま箒の機首をひるがえした。

 

 「あ、スネイプ先生!この檻!もらっていきます!」

 

 「我らにいたずらのアイデアを与え、大人の愚かを克させたまえ!」

 

 「「うあああああああああっ!」」

 

 言い残し、奈落の底から響くような独特の叫び――悪夢の主たるミコラーシュのようなそれをあげながら、開け放たれた正面扉から、二人は飛び出していった。

 

 人面蜘蛛姿のまま地団太踏むアンブリッジと、清々したというかのような顔をするフィルチをよそに、生徒たちは大喝采を送った。

 

 廊下の片隅にたたずむセブルスは、それを見送りながら思った。

 

 あの檻はホグワーツの敷地を出ると魔法が解けて消えてしまうので、もっとちゃんとしたレプリカを開店祝い代わりに贈ってやろう、と。

 

 

 

 

 

 さて、双子の自由への逃亡、或いはガマガエルの虜囚からの脱却からしばらく。OWL(フクロウ)は目前であった。

 

 ハリーJr.だけでなく、ドラコも、ハーマイオニーも、ロナルドも、ネビルも、そのほか5年生たちは、追い込みの勉強に入っていた。

 

 ハーマイオニーはいつにも増して――というより、例年以上の神経質になっていたし、ハリーJr.もドラコも机にかじりついて教科書・参考書を目を皿のようにしてさらっていた。

 

 ロナルドに関して一つ付け加えておくと、彼は双子たちの自由の逃亡後、一人憂鬱にしていた。

 

 監督生にしてストッパーとなりえたパーシーの卒業後、双子のストッパーとして母親であるモリー=ウィーズリーがロナルドにしょっちゅうあれこれ言ってきたらしいのだ。

 

 今回の双子の逃走も、止められなかった責任を問われるのでは、と憂鬱になっていたのだ。

 

 「にしても、フレッドとジョージは、どうやって店の開店資金なんて手に入れたんだ?」

 

 ロナルドは同学年の勉強会で首をひねって独り言ちた。

 

 「例の危ないアルバイトからの収入は違うだろうし、他のいたずらグッズ売りさばいたにしても、ダイアゴン横丁なんて一等地じゃないか。どうやったんだ?」

 

 「危ないアルバイトって?」

 

 「あー・・・」

 

 首をかしげて尋ねたハリーJr.に、ロナルドは言いよどんでから素早く周囲に目を走らせ、フィルチやその飼い猫、親アンブリッジの告げ口スリザリン生(ハリーJr.の本来の進路も彼らが言いつけてたらしい)がいないことを確認し、それでも声を潜めて答えた。

 

 「“ずる休みスナックボックス”っていって・・・仮病ができるいたずらグッズの実験を談話室でやってたんだよ・・・フレッドとジョージ・・・。

 ハーマイオニーが見つけて、うちのママに手紙書くってやめさせたけどさ・・・。

 ハーマイオニーの見てないところで続けてたんだろうな・・・」

 

 「アンブリッジ炎か・・・」

 

 唸るようにドラコが口をはさんだ。

 

 アンブリッジ炎というのは、ここ最近アンブリッジが授業のために教室に入るたびに、頻発する生徒たちの謎の体調不良(突発的な気絶・鼻血・嘔吐・高熱など)のことを指す。

 

 アンブリッジはヒステリーを炸裂させて原因を特定させようと躍起になっているらしいが、生徒たちはかたくなにアンブリッジ炎だと主張するので、そう名づけられているのだ。

 

 

 

 

 

 ちなみに、彼女はいまだに人面蜘蛛姿のままである。目撃者によると、アンブリッジが廊下の沼地に気を取られてゲコゲコ喚いてたら、背後から双子の片割れに首に豪奢な首飾りを巻きつけられ、次の瞬間あのようになったらしい。

 

 ・・・その首飾り――後日判明した商品名:『悪夢の信徒の首飾り』は、アンブリッジ本人はもちろん、フィルチにも外せず、他の教職員は笑ってやんわりと拒否した。ハリーJr.にもわかる。たぶん、見た目があれなだけで、魔法道具としてはちゃちな類だ。外そうと思えばすぐに外せる。

 

 でも、アンブリッジが蜘蛛になって不自由・不便になった他の教職員は見たことがなかった。見た目がピンクでうるさくないので、まだマシだ。でかい蜘蛛なので、蜘蛛嫌いのロナルドは視界に入れるのも嫌がるようになったが。

 

 なお、蜘蛛のアンブリッジはうまく杖が持てないので魔法が使えないらしく、いらいらとメアリーを呼びつけてフィルチともども小間遣いをさせていた。

 

 

 

 

 

 「・・・言いつける?」

 

 恐る恐るハリーJr.がドラコを見やると、監督生であるはずのドラコは一つ鼻を鳴らした。

 

 「何のことだ?その“ずる休みスナックボックス”と“アンブリッジ炎”の因果関係が完璧に立証されているわけでもないんだ。

 魔法法学は、自主勉強会を元にレポートで十分なんだ。何も問題はない。

 むしろ」

 

 ふふんッとドラコは鼻で笑って続けた。

 

 「生徒の体調不良が続出して原因も特定できない、教職員・生徒の双方の間に不和をまき散らすだけの不人気な無能教師は、熨斗を付けて魔法省に返品だな。

 教育改革助長のための査察官が、その足を引っ張っているなんて御笑い種もいいところだ」

 

 吐き捨てて、ドラコは参考書をまくって羊皮紙に何事か書き付けるのを再開する。

 

 そこで、遠くからガシャンっという轟音と、アンブリッジのヒステリックな叫びが廊下を反響してきた。

 

 「・・・またピーブズかな?」

 

 「フレッドとジョージが出てってから、いつにもまして元気だもんね・・・」

 

 「こないだまたミセス・ノリスを甲冑に閉じ込めてたよ・・・」

 

 「羊皮紙の山を暖炉目がけて崩してたしさあ・・・」

 

 「トイレの水道蛇口を全部引っこ抜いて3階を水浸しにしてなかった?」

 

 「アンブリッジ困らすのはいいけどさあ・・・朝食の時間にタランチュラ一袋落とすのだけはやめてほしかったよ。おかげで朝食食べる気がなくなったんだぜ?」

 

 最後のをげんなりとつぶやいたのは蜘蛛が苦手なロナルドだ。

 

 出て行く双子のエールに、鈴付き帽子を脱いだ敬礼をもって返礼したピーブズは、これまで以上のドタバタ騒動をもって、アンブリッジを引っ掻きまわした。

 

 ちなみに沼は放置されたままである。他の先生方なら何とでもできそうなものだが。魔法もろくに使えない人面蜘蛛姿のアンブリッジにはどうにもできなかったのは言わずもがな。結果、フィルチがボートを設置して教室移動を手伝う羽目にもなっていた。

 

 そして、ドラコも言っていたことだが、相変わらずヒステリックで罵倒と呼吸を混同しているアンブリッジの魔法法学には、今年は期末テストはなく、成績はレポート採点で決定される。

 

 アンブリッジが提案してきたカリキュラムはめちゃくちゃだった。本人はきっちりテストは行い、成績不良と不正行為をした生徒には罰則を!と嬉々として提案していたが、その前にもっとまともなカリキュラムを提案しろ、とマクゴナガルに却下されていた。このままのカリキュラムでやるならテストはなし、レポート採点とすること、いいですね、と。

 

 それに対するアンブリッジは罵倒と嫌味をミックスしたヒステリックワードの羅列をぶつけまくったが、マクゴナガルは胃薬と頭痛薬の瓶を握りしめて「教師というなら生徒が勉強しやすい環境と勉強手順を提示するのが第一です!」と毅然と言い放った。

 

 ともあれ。

 

 肝心なOWL(フクロウ)――正式名称Ordinary Wizarding Level:普通魔法レベルは外部から専任の監督教授のもと2週にわたって行われ、午前が理論、午後が実技の予定である。なお、夜に行われる天文学は除く。

 

 

 

 

 

 どうにかこうにか予定を消化し終え、学生一同は一息ついていた。

 

 結果は、7月中にはフクロウ便で届けられるそうだ。それによって、6年時に受講できる授業内容が変わってくる。

 

 ハーマイオニーはあそこを間違えた、あそことあそこの問題は時間が、といつまでもぶつぶつ言っていた。

 

 ハリーJr.は肩の荷が下りたとばかりに、くったりとテーブルに突っ伏し、いつもならそれをはしたないとたしなめるドラコも、疲れたようなため息をついただけだった。

 

 ネビルは、変身術の失敗を思い返しては青い顔をし、ロナルドはようやく占い学の受講をやめられる!と快哉を上げていた。

 

 そんなこんなの解放感に浸る学生たちをよそに、禁じられた森を管理する魔法省の森番チームは、ある夜更けに大捕りものに挑むことになった。

 

 禁じられた森に、二つの巨大な影が侵入してきたのだ。

 

 

 

 

 

 続く

 




 【携帯沼地】
 いつでもどこでも沼を出現させることができる道具。ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズの目玉商品の一つ。

 双子のウィーズリーはこれを廊下に設置したのち、自主退学していった。

 その深きは、泥に沈みもはや見えぬ湖と同義、舌を嚙み明かし語るべき宇宙も認識できぬ、啓蒙なきガマガエルにこそ相応しい。





 Q.双子のウィーズリーはどこから新店舗開店のための資金を得たんですか?トライウィザードトーナメントの賞金を原作ハリー少年が提供したからこそ開店できたでしょうに。

 A.そのうち語らせますので、ここでは割愛させてください。
 檻をかぶり続け、“交信”ポーズも自力発露させちゃった双子ですからね。まあ、予想できていると思います。





 Q.親アンブリッジ派の学生って、そんなのいるんですか?!(驚愕)

 A.原作で親衛隊務めたような連中(ドラコ除く)です。アンブリッジは授業では絶対加点しません、減点ばっかです。でも、先生方や学生の不審行動や悪口をご注進してくる奴には、ご機嫌で加点してくれます。で、そういう先生(?)にも一種の需要はあって、親アンブリッジなんて、汚物がはびこるんですね。





 Q.セブルスさん、トドメ刺さないんですか?がっかりしました。

 A.これでトドメ刺していいなんて、優しいですね。セブルスさんがご宣言なさったでしょう?嬲りに嬲って、命乞いすらできないようにしてやる、と。





 次回の投稿は、来週!内容は、森番チームVSハグリッド&グロウプ!死喰い人と一緒じゃなかったの?!
 不死鳥の騎士団VS死にぞこないの帝王様&死喰い人ズ!激発セブルスさんの第2弾を添えて。お楽しみに!
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