セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、お気に入り、評価、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

 感想もありがとうございます。感想はいただけるだけ嬉しいものです。

 Q.なぜヴェスパーⅡのアーキバス社畜さんが急に出てきたんです?

 A.あの人の仇名・罵倒集にホグワーツの先生ってのがあったので、つい。

 という訳で、続きです。第6楽章はこれでおしまい、です。


【8】セブルス=スネイプ、実験体の改良をする

 

 無言者たちと“不死鳥の騎士団”メンバーの証言を加えた魔法省襲撃ニュースが日刊預言者新聞の一面記事を飾ったころ。

 

 学期終了は目前という学生たちはすっかりリラックスしていた。

 

 ロナルドは商売繁盛している双子から山ほど贈られたカエルチョコをほかの学友に配りながら、双子の開店資金源の謎が判明した、と微妙な顔をしながら話した。

 

 「なんか、夢の中の檻かぶったおっさんが教えてくれた通りに、どっかの森の中で穴掘ったらそこから出てきた箱の中に紙束がギッシリ収まってて、それをグリンゴッツに持ってったら両替してくれたんだって」

 

 「・・・ウィーズリー、それ多分、紙束じゃなくて札束じゃない?」

 

 「心当たりがあるの?ハリー」

 

 ちょっとひきつった顔で言うハリーにネビルが尋ねると、彼はうなずいて答えた。

 

 「世間離れしすぎるのよくないから、マグルの方の新聞を週一で送ってもらって読んでるんだけどね・・・。

 いつだったか、なんか銀行強盗したお金を埋めたはいいけど見つからないって、ニュースを見たような気がするんだよね・・・。

 魔法界のお金って硬貨オンリーだけど、マグルのお金は紙幣がメインだから・・・」

 

 「しへいって?」

 

 「紙のお金だよ。マグル界ではある程度高額のお金は、紙の形で流通してるんだ」

 

 「へー。紙きれで価値あるの?変なの」

 

 「硬貨って嵩張るし、摩耗してちびやすいって・・・ああ、こっちは魔法があるか・・・」

 

 ロナルドの言葉に、ハリーJr.は独り言ちた。

 

 「話し戻すけど、ジョージとフレッドって、ええっと・・・なんて言うか、そういう予言みたいな才能あったの?」

 

 「まさか!それがあったらうちのママが魔法省に就職しろなんて言ってないよ!

 それに、僕が占い学の課題でヒーヒー言って、不幸のオンパレードのデタラメ予言の捏造してるのを笑って眺めてないって!」

 

 「ウィーズリー家から預言者が出たという話も聞かないしな。

 ・・・まあ、両者の関係が必ずしもイコールで結ばれるわけじゃない。はっきりさせない方がいいぞ。

 マグル界で強盗された金を勝手に猫糞なんて、下手したらマグル界との関係に亀裂が入りかねない」

 

 「・・・ドラコ、ジョージとフレッドには結構甘いんだね」

 

 「僕はアンブリッジが気に食わないだけだ。

 あの二人にはすかっとさせられた。それだけだ」

 

 つんと言い放ったドラコは、カエルチョコをかじった。

 

 「アンブリッジといえば」

 

 不快でしかないピンク色のガマガエルの名前に、大多数の人間が眉を寄せながら話の続きを聞いた。

 

 「やっと魔法省でも更迭されることになったらしいぞ。

 元々2年前の吸魂鬼配備をごり押ししたことで不興を買って、窓際に追いやられてたらしいんだが、今回のことがトドメになったらしいな。

 魔法ビル管理部に回されるらしい。父上からのまた聞きだがな」

 

 「嘘だろ、それでも魔法省そのものからクビにならないのかよ?!」

 

 「馬鹿言うな」

 

 マーリンのヒゲとでも言いたげなロナルドに、ドラコがつんと冷たく言い放つ。

 

 「あの公害を野放しにしてダイアゴン横丁辺りにのさばらせろっていうのか?

 まだ魔法省で管理していた方が人的被害が少なく済むだろう。

 もっとも」

 

 ここで、ドラコが嘲るような調子になっていった。

 

 「あの素性を偽る、身の丈に合わない元上級次官が、その椅子に座るまでしでかしてたことが、転落と同時に暴露されない保証はないけどな」

 

 「・・・マジ?」

 

 「逆に聞くが、あの女がまっとうな手段で出世していったと思うか?」

 

 「「「「「全然」」」」」

 

 ドラコの言葉に、その場にいた全員の声が重なった。

 

 

 

 

 

 だが、アンブリッジは魔法省から辞令を聞くより早く、セブルスにぶん殴られて運び込まれた医務室から忽然と姿を消した。

 

 ずっと意識喪失状態で、いつの間にか回復して、そのままこそこそと城を出て行ったのだろう、と大多数の人間が見ている。

 

 一等がっかりしていたのは双子のウィーズリーからエールをもらったピーブズで、アンブリッジが回復したら、歩行用ステッキとチョークを詰め込んだ靴下でぶん殴って叩きだそうと手ぐすね引いて待ち構えていたが、肩透かしだったとがっかりしていた。

 

 ピーブズに歩行用杖を貸し出していたマクゴナガルも、もっとあの女をいたぶればよかったのに、こんなことならセブルスに許可を出しておけば、とつぶやいていたのを大勢の生徒が目撃していた。

 

 ・・・彼らは皆、知らないだろう。

 

 知ればいっそ憐れむような惨事が今、アンブリッジの身に降りかかっていることなど。

 

 

 

 

 

 生徒たちの学期末試験の採点を終え、成績をまとめていたセブルスは、羽ペンを置いて、デスクチェアに掛けたまま軽く伸びをした。

 

 まだ仕事は残っているが、少し休憩を入れてもいいかもしれない。

 

 メアリーを呼んでお茶を淹れてもらおうかと思ったが、彼女は今用事で席を外しているのだったか。

 

 アンブリッジ(雌豚ガマガエル)が消えてから、アレのパシリをやっていたフィルチは、ぎこちなくあれど、それでもメアリーの面倒を積極的に見ていた。おそらく、申し訳なさがあれど、どう謝っていいかわからないのだろう。

 

 アンブリッジ(雌豚ガマガエル)がいなくなったことについて、フィルチは多くは語らなかった。生徒の罰則を積極的に任せてくれた点だけは評価できた、と一言言っただけだ。他についてノーコメントだった。彼の内心は推して知るべし、である。

 

 ともあれ。

 

 今のうちに、新しい実験体の改良の進捗具合を確認しよう、とセブルスはデスクチェアを立った。

 

 魔法のトランクを引っ張り出し、それに対応の鍵束を取り出すと、対応の鍵を鍵穴に差し込んで、ガチャッと一回ししてから、蓋を開けた。

 

 対応鍵によって開かれたトランク内部には、ちょっとした部屋が広がっていた。薄暗い部屋には魔法の明かりが灯り、古びた手術台と7つ電灯の無影灯、片隅の薬棚と、メスや鉗子などの各種器具。

 

 そして、手術台の前に一台の古びた車いすがあった。ヤーナムで獣狩りの群衆の一員が乗っていたものによく似ている。もっとも、彼らは老人でありながら猟銃片手にセブルスに罵声と弾丸をぶつけてきたが。

 

 もちろん、ただの車いすではない。人が乗っている。人、と言っていいのか悪いのか。それは妙に小柄に見えた。何しろ、あるべき手足がなかったのだから。妙にどす黒い衣服はカーディガンだろう、斑に見える部分から元はピンク色だったのだろうと思われた。丸みを帯びた体躯は、世界一周(グランドツアー)にて赴いた東方で見かけたダルマという人形のようにも見える。

 

 くるくるの癖のある茶髪は、浮浪者のようなぐしゃぐしゃの状態だったが、セブルスは気にも留めない。意地悪そうな眼もとは包帯が覆われていた。セブルスは知っている。その下の眼窩にあるべき眼球はない。セブルスが摘出してしまったのだから。

 

 車いすに取り付けられた金具には、赤い液体の入ったボトルが吊り下げられ、そこから伸びたゴム管が、その人物の鎖骨あたりにつながっていた。

 

 赤い液体の正体は血液などではなく、セブルスが作ったオリジナルの魔法薬だ。娼婦アリアンナの血を元にした、希少で貴重な特別製。投与した人間の血液を書き換え、全くの別物――『穢れた血族』のそれにするのだ。

 

 この魔法薬を作るにあたっては相当試行錯誤したし、効果があるかは実は未確認だ。何しろ、材料となる娼婦アリアンナの血が希少なのだ。

 

 出来れば、偽医者やアンナリーゼ女王陛下、時計塔のマリアといった、他の血族の血をサンプリングしておきたかったが、無いものねだりでしかない。

 

 解析魔法でおおむね問題なしと出ていたので、問題はないだろうと思うのだが。

 

 セブルスは、ボトルの中の血液書き換え魔法薬の残量を確認し、まだ時間がかかるだろう、と判断する。

 

 

 

 

 

 前々から着手したい実験があったのだが、人狼や死体に施すわけにもいかず、難儀していたのだ。

 

 そこに、ちょうどよさそうな実験体が見つかったので、使うことにしたのだ。大いに苦痛を伴い、楽には死ねないだろうが、問題ないだろう。ホグワーツで口に花火が飛び込もうがセブルスに殴られようが蜘蛛にされようが、あれだけの頑強さを発揮したのだ。きっといい実験結果をもたらしてくれるだろう。

 

 だが、そのまま実験を施すには問題があったので、今は実験体を改良している真っ最中である。

 

 まず、不要部分を切除した。杖をふるう腕も、耳障りな足音を出す足も、愛しい人形と大事な教え子たちにぶしつけな視線をぶつける眼球も、何よりも殺意しか煽ってこない声帯は、これからの実験には必要ないものだ。

 

 ちなみに、それらの切除術は魔法で身動きできなくしただけで、麻酔の類は一切なしで行った。途中で実験体は生意気にも心肺停止したが、蘇生させる。あれだけホグワーツで威勢良く暴れていたのだ。この程度でくたばってもらっては困る。

 

 麻酔の類は使わない。これからも。一切。

 

 それから、血液書き換え魔法薬を用いて『穢れた血族』に改造する。

 

 別に、血族にするだけなら血を飲ませばいいのだが、これに娼婦アリアンナの甘い血を飲ませるなど、もったいない。気になっていた魔法薬の実験も並行して行えばいい。元々、人狼症の根治薬の試みの一環なのだ。

 

 おそらく、学期終了の頃には『穢れた血族』への改造は完了しているだろうから、そうしたらこれを聖杯ダンジョンに連れて行く。聖杯ダンジョン内部にはオドンが徘徊しているだろうエリアがあるので、あとは彼に“仕込み”を任せる。

 

 オドンの“仕込み”は百発百中だ。アリアンナも偽医者も一度で孕ませた彼の手管は見事なものだ。

 

 この実験体はこれでも一応雌なので、『穢れた血族』に改造さえしてしまえば“仕込み”は活きることだろう。

 

 そのうえで解剖をしたい。3本目のへその緒が手に入るなら、欲しい。そうでなくても、上位者の赤子をその身の内に宿した女の解剖は、邪神の因子を宿しているヘザーの身を救う手掛かりになるかもしれない。

 

 後は耐久性の問題で人狼たちに施すには問題があり、死体に施すには生体反応を見たいので難しい、いくつかの治験も施そう。

 

 結果が出るのが実に楽しみだ。もっとも、それは夏休みの出来事になるだろうし、来学期開始の時は実験体の管理が難しくなるので、その時には廃棄しなければならないだろうが。

 

 セブルスは()()が同じ世界にいるということも許しがたく思っているのだ。実験に利用し終えたら、さっさと処分してしまいたい。

 

 忘れてはならない、切除した手足と眼球も処分をせねば。このところ大人しく治験を受けているフェンリール辺りにでも褒美として与えようか。人狼たちは反人狼法を制定したこの雌豚ガマガエルを目の敵にしていたはずだ。きっと泣いて喜ぶだろう。

 

 ガマガエルと呼ぶのもおぞましい雌豚も、上位者の啓蒙を高めるのに役立つのだ。彼女はセブルスに感謝すべきだ。

 

 

 

 

 

 ちなみに、セブルスは治験の被験者には治験内容と投与する予定の薬剤について説明を行うようにしている。だが、実験体に懇切丁寧にそんなことをしてやるつもりは微塵もない。

 

 もし、フェンリールがそれを聞こうものなら、時々心肺停止してる自分はあれでもマシな扱いをされてたのか、と震えあがったことだろう。

 

 

 

 

 

 足音によってセブルスに気が付いたのか、実験体が車いすの上で体を揺らす。暴れようとでも言うのか。無駄なことを。実験体は車いすにいくつものベルトで固定しているし、魔法封じもしている。このトランクの防音性も高い。何も問題はない。

 

 パクパクと声の出ない口を動かして何事か喚こうとしているが、声帯切除済みのその太い喉からは耳障りな金切り声は出ず、フゴフゴという豚の鳴き声に似た吐息をこぼしただけだ。

 

 声帯を取ってなお、うるさい。痛めつけて黙らせることも考えたが、今までがうるさすぎたのだ。あれに比べればこの程度静かなものではないか、と考えなおす。

 

 それに、どうせそのうち、これもできなくなる。

 

 食事に関しては問題ない。ドビーに言いつけて、いつだったかフェンリールが反抗的だったころに用意させた栄養食を用意させている。全身石化の呪い(ペトリフィカス・トタルス)で動きを止め、口に漏斗を差し込んで与えればいい。

 

 さて、そろそろメアリーが戻ってくるころだろう。お茶の時間にしよう。

 

 ぎしぎしと車いすを軋ませ、フゴフゴとなおも豚じみた吐息をこぼす実験体に背を向け、セブルスはトランクの出口へ向かう。

 

 不意に、出口の前で足を止めたセブルスは振り返って、にたりと笑みを浮かべて実験体に向かって言った。慈悲も、嘲罵の響きもない、淡々としたものだった。

 

 「お休み、Missアンブリッジ。貴公の夢に、有意なものなどないでしょうがな」

 

 そうして、彼は今度こそ、トランク部屋を後にして、魔法のトランクの蓋を閉めた。

 

 中で暴れようとする実験体の、健気で小うるさい抵抗など歯牙にもかけずに。

 

 

 

 

 

 カモミールの優しい香りが疲れた脳に響き渡るように浸透する。

 

 マクゴナガルは、頼んでいた胃薬と頭痛薬をとりにセブルスの許へ訪れたら、ちょうどお茶の時間だったらしく、時間があるならと誘われ、お言葉に甘えてご相伴することにしたのだ。

 

 「ごめんなさいね、気を遣わせてしまって」

 

 「かまいません。私も最近胃腸が疲れ気味でしてな。メアリーはそれを加味して用意してくれたのです」

 

 セブルスのつっけんどんな言葉をよそに、お茶うけに用意されたヨーグルトをマクゴナガルはひとさじ掬った。

 

 これらの用意をした人形は、微笑みながらセブルスのそばに控えている。二人がそろって穏やかな空気でいるのを見ていると、いつものホグワーツが戻ってきた、とマクゴナガルも嬉しく思う。

 

 「マクゴナガル様。調子が悪いようでしたら、早めにお休みになられた方がいいかと思います」

 

 「大丈夫よ、ありがとうメアリー」

 

 カモミールティーを飲んだマクゴナガルは、ほっと一息つく。

 

 「・・・本当にお疲れ気味のようですな。今年は、あのピンク色以外何か大きな問題でも?」

 

 「ウィーズリー・ツインズが自主退学していったでしょう?それについてモリー・・・いいえ、ウィーズリー夫人から手紙をもらいまして」

 

 「・・・それは悪いことをしましたな」

 

 そんなつもりは無かったが、マクゴナガルの言葉でセブルスは決まり悪そうに視線をそらした。

 

 双子の行動に良くも悪くもブーストをかけたのは、確実にセブルスが与えたメンシスの檻モドキのせいだ。

 

 特に今年はあれに深い影響を受けたらしい双子を目の当たりにしたウィーズリー夫人は、卒倒しているかもしれない。・・・いや、そこまで気弱ではなかっただろう、彼女は。むしろ、双子に怒鳴り散らして留年になってもいいから、今からでもさっさと学校に戻れとか言ってるかもしれない。

 

 「何を言ってるのです?セブルス。あの檻をかぶせるように言いつけたのはドローレスでしょう?あなたは彼女の要請を聞いただけ。

 それはあなたもドローレスも周知させている事実です。

 そして、結局決めて行動に移したのも、ジョージとフレッドです。

 加えて言えば」

 

 ここでマクゴナガルはカモミールティーの入ったカップから視線を上げて、セブルスを見ながら微笑んでいった。

 

 「学校で学ぶことが全てではありません。その外で学び、立派になることもあるものです。

 他でもない、貴方がそれを証明しているのですから」

 

 「私はそのようなものではありません。買い被りです」

 

 セブルスは再び視線を逸らす。断じて照れてなどいない。断じて。

 

 「まあ、二代目いたずら仕掛け人はかわいげがありました・・・。

 授業妨害はしましたし、廊下でいたずらグッズを炸裂させることもたびたびありましたが・・・弱きを助け、強きを挫く心根を持ち合わせてましたからね。

 “ウィーズリーの暴れバンバン花火”は傑作でしたね。実は私も一セット予約したんです。口止め料込みで。学校では使いませんよ?夏休みの間に、ちょっとした気晴らしでもしようと思いまして。

 “携帯沼地”も、フィリウスが消してしまいましたけど、いい出来栄えでした。

 いきなり独立の店舗運営というのは不安ですが、彼らならきっといい成長をすることでしょう」

 

 穏やかな顔で語るマクゴナガルは、遠い目をしている。

 

 ちなみに、“携帯沼地”の大部分は消されはしたものの、フリットウィックは「これはいい魔法だ」と笑って言って水たまりを残してくれた。おそらく、双子の記念に。

 

 「ええ。二代目はかわいげがありました」

 

 唐突に声が低くなったマクゴナガルに、セブルスは何かあったな、と軽く眉を寄せた。

 

 「初代の、シリウス=ブラックは他人を思いやる想像力というものが、欠落しているとしか言いようがありません!」

 

 「・・・何があったのです?」

 

 これは話を聞いた方がいい、聞くだけでも人間は楽になるものだ、と判断したセブルスが話を促すと、マクゴナガルはいらいらしている様子で口を開いた。

 

 

 

 

 

 この時期から夏休み中盤にかけて、新規の教員募集を行うのだ。主に、“闇の魔術に対する防衛術”の教授のためだ。もっとも、それは最近――というより、名簿の解呪を試み出したころと並行して、闇祓いの見習いが交代で担当するようになり、あえて新規教員を募集する必要はなくなった。

 

 が、外部にそんな事情は大々的に知らせてないので、まだ募集してるのか、と応募してきた者がいたのだ。

 

 それが、シリウス=ブラックだった。

 

 「スネイプに嫌がらせするしかしないなら、出て行ってくれないかい?私だって働かなくちゃいけないんだ。君の面倒ばかり見てられないんだよ。

 せめてどこかで働いたらどうだい?君が馬鹿にしているスネイプはちゃんと働いて、魔法薬の研究もその片手間にやってるんだよ?

 君は彼よりも立派で、社会的に成功していると胸を張って言えるのかい?」

 

 クリスマスの一件で堪忍袋の緒が切れたらしいルーピンが、それでもやんわりと抗議をしたらしい。

 

 そうしてシリウスは、そろそろ本気出すかあ、とばかりに重い腰を上げてホグワーツに応募した。今ならハリーにも会える!とウキウキで。

 

 が、そうは問屋が卸さないのはマクゴナガルである。

 

 喉元過ぎれば熱さを忘れる。シリウスはすっかり忘れてた。2年前に激怒したマクゴナガルが、なんと宣言したのかを。自身が新たにクリスマスにしでかしたことを。

 

 せめて謝罪のフクロウ便なり、土下座行脚なりしておけばまだ心証が違ったかもしれない。

 

 が、シリウスはそんなことはしていない。彼の中で悪いのは逃げ出した卑怯者のクソネズミと、ハリーとリリーをだましているスニベルスに集約されていたのだから。

 

 そうして、彼は「スニベルスにだって教師ができるんだから、俺だって1年限定だろうができるさ!」と、ダンブルドアの推薦を付けて応募してきたわけだ。

 

 「2年前に何をしでかしたか、クリスマスのこともあわせて、もう忘れたのですか!許可できるわけないでしょう!

 ダンブルドアも何を考えてるんですか!いい加減にしてください!」

 

 その応募はマクゴナガルのそんな怒声によって推薦ともども叩き落され、面接さえ実施されずに却下された。

 

 至極当然の結果だった。

 

 

 

 

 

 「あなたにさらに不快な思いをさせるのもどうかと思ったのですが、また変な逆恨みをしてきそうだから、念のため言っておこうと思いまして」

 

 頭が痛い、というかのようにこめかみに手を当てて軽くうつむくマクゴナガルに、セブルスはカモミールティーに黙って口づけた。

 

 さもありなん。

 

 人間、責任転嫁をしようと思えばいくらでもできる。シリウスがその気になれば、吼えメールが赤いのも空が青いのもセブルス=スネイプのせいにしてくるだろう。

 

 自分の所業・責任を顧みず、何かのせいにするのはとても楽なのだから。

 

 「あれだけ言っても何も学びも考えなおしもしてないなんて・・・!

 彼の師の一人として、恥ずかしく思います。本当にすみませんね、セブルス」

 

 「あなたが謝られることではないでしょう。

 駄犬にかかずらっても時間の無駄です。別のことを考えた方がまだ有意義でしょう」

 

 スパッと言い放ったセブルスに、マクゴナガルは一瞬虚を突かれたような顔をした。

 

 すでにわかってはいたことだが、本当にセブルスはシリウスのことを切って捨てているのだ。

 

 以前――学生時代であれば、憎々しさと刺々しさを前面に出した態度を取り、皮肉の一つも言っていただろうに、それもしない。

 

 小汚く、猫背でだぼだぼの服をまとった陰気なスリザリン生は、今や自分の同僚たる立派な大人になった。乱暴なところはあれど、子供たちを思いやることができている。ホグワーツを中退したというのに。

 

 それに対し、いたずら仕掛け人(マローダーズ)の中核を担い、輝くような美貌の美少年の天才の一人であったグリフィンドール生は、周囲を顧みずに自分勝手を貫き続けて、図体ばかりでかくなった子供のようだった。ホグワーツを卒業したはずなのに。

 

 教え子たちがどのような未来を迎えるか、存外わからぬものだ。

 

 「後任といえば、魔法法学についてはどうなるのでしょう?」

 

 「ええ。今度は一般募集をかけてみようと思います。幸いカリキュラム――というか、授業形態についてはMissグレンジャーが考案したものがあります。これを順次改定していけばいいと思います」

 

 セブルスの問いに、マクゴナガルはうなずいて答えた。

 

 「Missグレンジャーが・・・どうやってそれをご存じに?」

 

 「簡単なことですよ。どこかの誰かさんがレポートの採点すら放り出して、ピーブズの見送りも拒否して逃げだされたものだから、皆で手分けしてレポートの採点をしていたんです」

 

 「・・・私は存じ上げませんでしたが?」

 

 「それが・・・今年はメアリーのこともあってあなたが一番大変だったから、そっとしておこうとなって、声をかけなかったんですよ」

 

 少し怪訝そうな顔をするセブルスに、マクゴナガルは苦笑して言った。

 

 正確には、不機嫌から平常に戻ったばかりのセブルスに、またあのピンクのクモガエルのことを持ち掛けたくなかったのだ。ほとんどのものが怖がってしり込みしたのだ。マクゴナガルでさえ、再起爆の危険を考慮したほどだ。

 

 「それで、その時に自主勉強会に参加していた者たちと、他の者は明らかに出来が違いましたので、中心にいるMissグレンジャーにどのようなことをしたのか尋ねた、それだけです。

 実によくできていましたので、グリフィンドールに50点加点してしまいました」

 

 マクゴナガルの声は自慢げだった。教え子の一人が優秀なら自慢したくなるものだ。わかる。

 

 「優秀な教え子がいるのはうらやましいですな。

 我が寮はお恥ずかしいことに、ピンクのクモガエルに肩入れする者がいたようでしてな。

 仲間思いであるはずのスリザリン生が、友人や教師の悪口を吹き込んで回っていたようなのです。

 知った時に、思わず一人につき50点減点してしまいました。

 悪口を言うなとは言いません。私も人のことを言えるほど人格者ではありません。だが、()()に同窓や共に過ごすものを売り飛ばすような輩には減点と罰則くらいは申し渡してもいいでしょう」

 

 「・・・またメンシスの檻ですか?」

 

 「あの檻は去年撤廃しています。()()に請われたから致し方なくやっただけのこと。

 Mr.フィルチに、体罰以外なら何をしてもさせてもかまわないと引き渡してきました」

 

 「・・・アーガスが、やりすぎない保証は?」

 

 「彼はああ見えて引き際はわきまえてます。()()に余計なことを吹き込むということは、自身がそうされても仕方ないと、遅くても学習できればいいのですがな」

 

 少し不安そうな顔をしたマクゴナガルに、セブルスはシレッといった。

 

 実際、アーガス=フィルチは純血貴族の子息相手の罰則は、口ではひどい脅し文句を言うが、せいぜいマグル式の保管物磨きや掃除程度しか課さない。それも、他のマグル育ちやマグル出身の生徒よりも時間を短くしたりしている。

 

 生徒そのものが嫌いだが、やりすぎるとスクイブはすぐに潰される、とフィルチは熟知しているのだ。その手加減が、彼は絶妙にうまかった。(そのため名門ポッターとブラックの子息のいる初代いたずら仕掛け人(マローダーズ)より、セブルスの方に負担がかかりやすかった。少しでも自身の負担を軽くすべく、セブルスが自主的に後始末するようになったのは自明の理だろう)

 

 「・・・容赦ないですね」

 

 「獅子は千尋の谷に我が子を突き落とすものです。えこひいきがロクな結果を生まないのはご存じでしょう」

 

 「・・・ええ、そうですね。その通り」

 

 遠い目をするマクゴナガルは、大いにある心当たりに、カモミールティーを飲み干す。

 

 「おかわりはいかがですか?」

 

 「ありがとう、お願いするわ」

 

 マクゴナガルがうなずくと、メアリーはティーポットからカモミールティーを注ぐ。

 

 「レモンとリンゴです。お好みで入れてください」

 

 小皿に出されたスライスされたフルーツを浮かべると、カモミールの優しい香りにすっきりしたフルーティーさが加わる。これはいい。

 

 「そうでした。もう一つ、貴方には朗報を伝えておかねば」

 

 「朗報?」

 

 「()()を派遣して、わざわざ選任査察官なんて大義名分を与えてくれた元魔法大臣がいたでしょう?」

 

 「・・・おりましたな」

 

 マクゴナガルは名前を出さなかったが、言わずもがな、コーネリウス=ファッジである。

 

 「貴方が、改革中のホグワーツの汚点になるのでは、と心配してやったと言ってましたね。で、貴方が堪忍袋の緒が切れて、()()をぶん殴ったのを聞きつけたら、やはり危険人物では?!などと目を輝かせてましたよ。

 そこで、()()の授業内容、罰則と称した体罰の数々、特にメアリーに対する被害の数々と万が一メアリーが完全破損した場合の損害賠償の予想をまとめて、学校として訴えました。

 学校に派遣するには、不適切すぎる人選でしたからね。当然、責任を取ってもらえると思っていました。

 もちろん、日刊預言者新聞がすぐさま聞きつけて、一面記事にしてくれましてね。

 結果、オフィスが大量の吼えメールで爆破された挙句、懲戒免職になったそうですよ」

 

 「それはそれは・・・」

 

 まがりなりにも、一時期は魔法界の頂点に立った男というのに、そのキャリアは完全に終了したわけだ。懲戒免職なので、一部再就職も難しいだろう。

 

 「・・・私にまた停職処分などがありますかな?」

 

 「あなたを停職にしたら、貴方に負担をかけ続けた私たち全員も同罪で停職、ホグワーツは休校ですね。

 少しでも申し訳なく思うなら、来期もビシビシ働くことです。いいですね?」

 

 にっこり笑ったマクゴナガルに、セブルスはかなわない、と思いながら大人しくうなずいた。

 

 これが、当代副校長の実力なのだ。

 

 

 

 

 

 ぎっしりと中身の詰まった旅行用トランクとともに、ホグワーツの生徒たちはホグワーツ特急に乗車する。

 

 今年もまた、無事に終わった。学期末の怒涛の逆転劇(先述のハーマイオニーによるグリフィンドールの大量加点と、スリザリンの大量減点)によって、誠に遺憾ながらスリザリンは最下位でパーティーを迎えることになった。

 

 これには大勢のスリザリン生がセブルスに理由を尋ねてきたが、セブルスは容赦なく事実を嫌味ミックスで告げた。

 

 「アンブリッジ元教授に、学生やほかの教授方に関する意見をご注進に行ったものが不正獲得した点数があったと判明したので、それを清算しましてな。

 諸君、まさかそんな裏切り行為で得た得点でもって寮杯が欲しかったと?誇り高きスリザリン、魔法界の頂点に君臨すべき純血貴族の多い我々が?目的のために手段を選ぶなとは言いますが、限度はあると思いますがな」

 

 途端に寮生たちは黙り込んだ。一部の生徒は悔し気に顔をゆがめ、その生徒をジロリッとにらむものが多いこと。

 

 アンブリッジと()()()していた生徒が、どういうことになるか。帰りの列車内で起こるだろうそれに、セブルスは責任を持つ気はない。

 

 復讐は蜜より甘く、行動には責任を伴う。ホグワーツ生にはそれをわかってないものが多すぎる。

 

 

 

 

 

 なお、ロンドン・キングズクロス駅に到着した列車の荷物棚にて、ホグワーツの制服ローブ(スリザリンのネクタイ付き)を着た巨大ナメクジが数匹見つかることになったことについて、セブルスはため息だけで済ませた。

 

 そして、その夏。12年前の悪夢の続きが始まった。

 

 

 

 

 

続く

 





【罹患者の車いす】
 新たな実験体の移動管理用に、セブルス=スネイプがヤーナム産の車いすを魔法で模したもの。

 その車いすには魔法がかけられ、実験体の排泄物や垢などの代謝物を勝手にきれいに消してくれるうえ、セブルス=スネイプによる許可がなければ外れない拘束具も付加してある。

 道理知らぬ獣にも劣る実験体よ。上位者の啓蒙を高める糧であれ。





 次回の投稿は未定です。ちょっと構成を見直したいので、しばしお待ちください。
 完結させたいという気持ちに変わりはないので、続きができましたら、また戻ってきます。大変申し訳ありません。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。



 2026.04.27.追記
 来週日曜日に最新話を投稿しますので、併せて次回予告を加筆します。
 次回の内容は、サイレントヒル3編、開始。
 ヘザー、ハリーJr.、ドラコ、ハーマイオニー、子供たちの不気味な家路。ルーピン先生とシリウスを添えて。
 ・・・そろそろシリウスの寿命がカウントダウンを刻み始めました。はい。
 お楽しみに。
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