セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 お久しぶりです。別ジャンルの浮気が一段落ついたので、久々に筆を執ってみたら、書ける!書けるぞぉ!とどこぞの自称ラピュタ王のようなテンションになったので、投稿します。

 まだ覚えてる方はいらっしゃるでしょうか。

 サイレントヒル3編スタート!なお、この1話目にセブルスさんの出番はありません。ご注意ください。


【第7楽章】ヘザーとハリーJr.と、セブルス=スネイプ
【1】ヘザー、悪夢をさまよう


 

 暗い場所だった。うっすらと漂う霧の奥で、得体のしれない何かがうごめいている。

 

 カシャッとお気に入りのブーツをはいた足元が硬い音を立てた。不気味な錆だらけの金網なのだから、音は鳴りやすい。

 

 ヘザーは不安そうに周囲を見回した。お気に入りの白いベストのポケットは、母が魔法をかけてくれたので重量大きさ無視で、いろんなものが入る便利仕様だ。胸元のフラッシュライトが、心もとなく目の前を照らす。

 

 ふとヘザーが視線をおろせば、右手にはナイフが握られていた。なぜこんなものを?そもそもここは一体?

 

 「ヘザー?どうしたの?」

 

 声をかけてきたのは弟のジュニア。ジーパンとシャツのラフな格好だが、右手には魔法の明かりを宿した杖を持っている。

 

 「・・・なんでもない。行きましょ」

 

 かぶりを振って、ヘザーは踏み出した。

 

 廃墟の遊園地らしい。テーマパークのマスコットらしいウサギのぬいぐるみがあちこちにあるが、口元に血が付いてたりして、あまり近寄りたくない、とヘザーは思う。

 

 このテーマパークにしても、錆と血臭、焦げ臭さが特に目立つうえ、そこかしこを不気味な怪物――ジュニアが教科書とか魔法界の本とかで見せてくる生き物じゃない、妄想の産物、悪夢の結晶じみた奇怪な化け物が徘徊しているのだ。

 

 ケロイドのような蕩けた外皮。膿で汚れたボロボロの包帯が巻かれたような模様。子供の落書きじみたアンバランスな肢体が、化け物どもをより妄想らしい非現実味を帯びた存在に見せてくる。

 

 どうしても行先に立ちはだかる最低限の化け物だけを吹き飛ばし、刺して蹴倒し、二人は先へ進んだ。

 

 そして、どうしても他の道が見つからず――まるで先に行かせたくないというかのようなそれに、困り果てた二人は、やむなくジェットコースターのレールの上を歩きだしていた。

 

 だが、不気味な振動がレールを震わせ、ゴーという風を切る轟音に、二人は思わず足を止め、怪訝な顔で闇の中を凝視した。

 

 直後、猛スピードでやってきた無人のコースターに跳ね飛ばされ、二人は悲鳴交じりにレールから落下していた。

 

 

 

 

 

 ファーストフード店のテーブル席で、ウトウトしていたヘザーは目を覚ました。ろくでもない夢の余韻に、目元をこすりながら「ヤな夢・・・」とつぶやいた。

 

 午前中はアルバイトが入っていたものの、午後はオフだ。寄宿学校から帰ってきた弟と、その友人たちと映画を見ようと約束している。

 

 弟は、寄宿学校で受けた進路を決めるための大事な試験の結果に歓声を上げていた。ヘザーも去年受けた*1が、ヘザーは将来についてはジュニアほどがちがちに考え切れていない。

 

 弟は良くも悪くもまっすぐなのだ。けれど、ヘザーは少々ひねくれているので、まだグズグズと悩んでいる。

 

 母のように家庭的な人間だとは思わないし、父のような文才が自分にあるとも思えない。自分はちょっと勘が鋭いだけの、ただの人間だ。魔法なんて使えないし。

 

 お金には困ってないのだから大学に行ってみたらどうだい、と父に声をかけられたものの、あまり素行がよくなかった(中等学校はさぼりまくって、こっそり煙草とかケンカもやったりした)ヘザーは、担任教師からは就職も考えた方がいいよ、と遠回しに言われたりして、いまだに頭を悩ませている。

 

 まあ、次の試験までまだ1年の猶予はある。その間にまた考えればいい。

 

 と、店の壁掛け時計を確認した。そろそろ移動した方がいい。ヘザーはテーブル席から立ち上がり、空の紙コップを捨てて店を出た。

 

 少し離れたところにある公衆電話にテレフォンカードを差し込むと、慣れた手つきでヘザーは自宅の電話番号を押す。

 

 「あ、母さん?うん、私。ごめんね、頼まれてたのまだ買えてなくて。帰りに、別のお店覗いてみるね。

 ・・・でも、無いと不便でしょ?・・・うん・・・うん。

 わかってる。私も愛してるわ。父さんにもよろしくね」

 

 あてがった受話器で会話するヘザーの顔には朗らかな笑みが浮かんでいる。

 

 ふと人の気配を感じて、ヘザーは受話器を持ったまま振り返った。

 

 そこにいた人物に、ヘザーは思わず眉を寄せた。知っている人物だ。使い込まれたぼろいコートを羽織り、白髪交じりの茶髪に、傷だらけの顔に人好きする笑顔だが、ヘザーにはいい印象はなかった。

 

 確か、弟の血縁上の父親の友人の一人で、一時期弟の教師もやっていたのだったか。ルーピン、という人だったはず。

 

 ヘザーは受話器を公衆電話に戻し、出てきたテレフォンカードを財布に戻し、目礼してその場を離れようとした。

 

 あの散々失礼なことをしてきたブラックとかいう奴の友達という話だから、用があるのはジュニアの方でヘザーに用があるとは思えなかったのだ。

 

 「待ってくれ。以前は失礼なことをして、すまなかったね。ヘザーだったね?」

 

 呼び止められて、ヘザーはいやいや振り向いた。

 

 「覚えているかい?私はルーピンというんだ」

 

 「へえ・・・そう。

 さよなら」

 

 ヘザーはぶっきらぼうに言って、そのまま歩き出した。

 

 が、ルーピンはその後ろからついてきながら、「今ちょっといいかい?会わせたい人がいるんだ」と話しかけてくる。

 

 「知らないの?不審な人についてっちゃいけませんって、プライマリーで習うのよ?

 あのブラックって人が、去年おじさんに対して何やってたか、私たちが知らないって思ってるの?そんな人とお友達やってる人なんて信じられるわけないでしょ」

 

 冷たく言い放って、ヘザーはそのまま女子トイレに入ろうとして、きっと振り返って強く言った。

 

 「あと、いつまでもついてこないでくれる?

 それとも叫んであげましょうか?」

 

 傷ついたように黙り込んだルーピンは、ヘザーの言葉に降参というかのように両手を上げて、「すまなかった。ここで待ってるよ」といった。

 

 そうして、ヘザーは女子トイレの中へ入ると、トイレの窓から外に出た。

 

 

 

 

 

 思えば、この時点でおかしいと思うべきだったのだ。

 

 通常、トイレの窓はハメ殺しになっているか、ほんの少ししか開かないようになっているものなのだ。このような商業施設や学校などの不特定多数の人間が利用するのが前提となっている場合は特に。普通の住宅の窓のように気軽に外に出入りできるものではない。

 

 そんな窓が出現している時点で、おかしな状況になっていたのだ。

 

 ルーピンに気を取られていたヘザーは、そこまで思い至らなかったのだ。

 

 窓から外に出たヘザーは従業員入り口らしいドアから再び建物に入る。ショッピングモールだから、こういうところがあってもおかしくない、とヘザーは思っていた。

 

 ゆえに、プラチナブロンドに物憂げな顔をした黒衣の女性と会うまで、おかしなことが起こっていると確信が持てなかったのだ。

 

 

 

 

 

 逃げ込んだ店は無人のブティックらしい。ハリー=メイソンJr.、ドラコ=マルフォイ、ハーマイオニー=グレンジャーの3人は息を切らしていた。

 

 恒例の映画鑑賞のために集まってきたのに、どうしてこんなことに。

 

 なお、ドラコは継続中の潜伏のために遊びに行くのは大丈夫?と心配されたのだが、閉じこもっている方が気が滅入る、と高性能の隠れん防止器(スニークスコープ)や、映画鑑賞後の軽食を終えたら即座に帰れるポートキー、他お守りの魔道具を装備し、黒髪の鬘と眼鏡とマグル服でがっちり変装していた。

 

 映画館でヘザーと合流を待っていたが、その前にトイレを済ませておこう、と3人は用を足して。

 

 トイレから出てきたら、映画館は無人になっていた。賑やかな音楽はなくなり、次の公開を予定している映画の予告映像を流していたモニターは、砂嵐に支配されていた。

 

 どういうことか、顔を見合わせる三人は、とにかく人を探そうと映画館を見て回った。無人だった。誰もおらず、まるで三人以外の人間が消えてしまったか・・・或いは、三人だけが別世界にでも行ってしまったかのようだった。

 

 とにかく移動しようと三人が映画館を出れば、待ち構えていたのは不気味な怪物の数々だった。

 

 蕩けたような皮膚はケロイドのよう、膿で汚れたボロボロの包帯を思わせる模様、子供の落書きじみたアンバランスな肢体。

 

 魔法生物の図鑑ですら見たことがない、化け物としか言いようのないものだった。

 

 三人まとめて悲鳴を上げ、それでも非常事態に備えて持ち歩いていた杖を構える。

 

 確かに、万が一――アズカバンを脱獄した死喰い人との遭遇を考えて退学覚悟で杖は持ち歩いていた。だがそれは、こんな事態に陥ることは意味していなかったはず。

 

 とはいえ、明らかな命の危機は退学よりも優先されることだ。

 

 幸い、OWL試験(フクロウ)に備えて“闇の魔術に対する防衛術”の実技も磨いていた3人は、どうにか危機を切り抜ける。

 

 だが、吹き飛ばした怪物たちは他にもいるらしく、明らかにショッピングモールの奥から異常な気配や足音が聞こえてくるのだ。

 

 それでも、ここでグズグズしているわけにはいかない。もしかしたら、ヘザーやほかの人間がいるかもしれないのだ。なぜか非常扉などの脱出口は壁と同化しているように開かないこともあり、脱出ついでに他の人間を探して3人は移動を開始した。

 

 化け物の相手は、すぐに魔力と体力の無駄だと判断し、できるだけ最低限の奴だけ排除して、他は逃げるようにした。

 

 幸い、連中は扉を開けるほどの知能はないらしい。店の中や従業員の部屋などに飛び込めば、しばらく外をうろついたのち、離れていく。

 

 先ほども、4本足の犬のような動きをする化け物を振り切ったところだ。

 

 「・・・ドラコ、大丈夫?」

 

 「・・・っ、大丈夫、に見えてるのかっ」

 

 「ごめん・・・」

 

 真っ青な顔で身を震わせるドラコは、動き回るのに邪魔だと鬘と眼鏡はとっくに取り去っていた。

 

 気まずげな顔をするハリーJr.と、油断なく扉の外の気配を探るハーマイオニーは、ややあって息をついた。

 

 「少し休みましょう・・・ちょっと疲れたわ・・・」

 

 ため息をついて座り込むハーマイオニーに、他の二人もうなずいて座り込んだ。

 

 楽しい予定になるはずだった。どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 

 ヘザーは無事だろうか?自分たちはこれからどうなってしまうのか?

 

 先行きの見えない不安に、ハリーJr.は口の中でため息を押し殺した。

 

 その時だった。コツコツという足音が聞こえた。化け物のびっこを引くような不規則な足音ではない。ブーツをはいた人間の、規則的なものだ。・・・それを聞いたハリーJr.はパッと顔を上げた。

 

 店のドアが開かれる。

 

 「ヘザー!」

 

 「ジュニア!ドラコとハーマイオニーも!無事?!」

 

 「見ればわかるだろ?そっちこそ無事らしいな」

 

 三人を見回すヘザーに、少し元気が出たらしいドラコが悪態をついた。

 

 「何が起こってるの?どういうことかわかる?」

 

 「わかんないわよ。そっちの魔法とかじゃないの?」

 

 ハーマイオニーのすがるような問いかけに首を振って、ヘザーはドラコに視線を移す。

 

 「あんな化け物、闇の魔法生物にもいるか!」

 

 「ドラコ!シー!シー!」

 

 八つ当たりも入っているのだろう、いきり立つドラコに、ハリーJr.が立てた人差し指を口元に宛てて、静かにするようにジェスチャーする。

 

 ヘザーが締めた扉の外で、ごそごそと不穏な気配が集まってくる。だが、やがて遠ざかっていった。

 

 ほおッと安堵の息をつくヘザーも、力が抜けたように座り込んだ。

 

 「とにかく無事でよかったわ・・・。

 あんたたちに心当たりがないってことは、やっぱりあのクローディアだか、ルーピンだかの仕業ね・・・」

 

 「ちょっと待って。なんでルーピン先生の名前が出てくるの?」

 

 「あの化け物どもが出てくる前に絡まれたのよ。会わせたい人がいるって。私に何の用なんだか」

 

 「ルーピン先生が?なんで?

 ブラックさんの手紙で、ルーピン先生も“不死鳥の騎士団”に入ってるって知ってたけど・・・」

 

 口をはさんだハーマイオニーに、ヘザーは面倒くさげに答え、ハリーJr.が視線をさまよわせる。

 

 「ダンブルドアの差し金か?だとしても、ハリーじゃなくてヘザーの方にか?」

 

 「私に言わないでよ」

 

 「ねえ、さっきから言おうと思ってたんだけど」

 

 ドラコの問いかけに、ヘザーが首を振ると、ハーマイオニーが話題を変える。

 

 「ヘザー・・・その、右手に持ってるのって・・・」

 

 「ああ、これ?さすがに身一つでこんなところをウロウロするのもね・・・」

 

 ヘザーが持ち上げて見せたのは、黒光りするハンドガンだった。

 

 「何だそれは?」

 

 「銃じゃん!どこで手に入れたの?!」

 

 「あっちのパン屋。床に落ちてたの」

 

 怪訝そうにするドラコと、ぎょっとするハリーJr.に、ヘザーは視線でそちらを指す。

 

 「銃?・・・ああ、前に映画で見たのと、形が似てるかもな」

 

 「待って待って。何で銃が落ちてるの?パン屋に?何で?*2

 

 頷くドラコは実物を間近で見たことがないためか珍しそうにしげしげとみている。対するハーマイオニーは顔を引きつらせている。

 

 「ヘザー、銃、使えるの?!」

 

 「使えるわよ?パパが使い方教えてくれたから」

 

 「銃刀法!あなたたちのところのお父さん、どうなってるの?!」

 

 「え?変かなあ?鉄パイプの素振りとかやらない?ってか、僕、それ初耳なんだけど」

 

 「あんたが魔法習い始めたから、私にも護身術代わりにって訓練つけてくれたのよ。

 ・・・よそじゃやらないんだったわね。うちでも地下室でやってたし」

 

 金切り声を上げて頭を抱えるハーマイオニーに、メイソン姉弟は暢気に会話している。

 

 「・・・なんでもいいだろう。ヘザーが武器をもって足手まといにならないのは分かったんだ」

 

 首を振ってドラコが一つうなずいてそう結論付けた。

 

 「これからどうするんだ?他の生存者――ルーピンあたりでも探すのか?」

 

 「そういえば、さっきなんか、もう一人名前出してたよね?誰かあったの?」

 

 「クローディアよ。変な女。ルーピンと会った後に出てきたのよ。なんか始まったとか、楽園だのなんだの言って。言うだけ言ったらさっさといなくなってるし。気味悪いったらありゃしないわ」

 

 薄気味悪そうに顔をしかめるヘザーに、3人は顔を見合わせる。

 

 「ま、ルーピンはいい年した大人だし、巻き込まれてるとは限らないから、放っておいていいんじゃない?」

 

 ドライなことを言うヘザーに、ハーマイオニーとハリーJr.は複雑そうな顔をして、ドラコは同意するようにうなずいた。

 

 「とりあえず、うちに行こうと思うんだけど、どう?」

 

 「うちって、二人の家ってことよね?」

 

 「何か考えがあるのか?」

 

 ハーマイオニーの問いかけにヘザーがうなずくと、ドラコが促した。

 

 メイソン宅には“忠誠の術”がかけられ、要となる“秘密の守り人”はセブルスが担っている。これは4人にとっては公然の秘密だった。

 

 夏休みにたびたび遊びに行っていたドラコと、最近閉心術訓練のために上がらせてもらっているハーマイオニーは、メイソン夫妻から許可を得て、セブルスから“秘密”を教えてもらったから出入りできるようになった。

 

 だから、メイソン宅に向かうこと自体に問題はない。

 

 問題は、今の状態でメイソン宅に向かうことに何の意味があるのか、ということだ。

 

 「行っても誰もいない可能性もあるぞ。僕も両面鏡で父上に連絡を取ろうとしたが、使えなかったんだ。

 この状況の原因がルーピンだかクローディアだかの人間の仕業なら、そいつらを捕まえた方がいいんじゃないか?」

 

 「どうかしら?怪物がうようよしてるのに、どこにいるかもわからない人たちを探し回るのは、あまり賢いとは思えないわ。

 ルーピン先生はともかく、そのクローディアって人はさっさと逃げてるかもしれないし」

 

 意見を述べるドラコとハーマイオニーに、ハリーJr.は顎に手を当てて考えてから、ややあってポンッと手を打った。

 

 「もしかしてヘザー、()()を使うの?」

 

 「ええ。()()なら使えるんじゃないかと思って」

 

 目線を合わすメイソン姉弟に、ドラコとハーマイオニーは怪訝な顔をする。

 

 「おい、二人で納得してないで説明しろ。

 “あれ”とは何のことだ?」

 

 「うちにある魔法道具よ」

 

 ドラコの問いかけに、ヘザーは言った。声に少し自慢げな響きがあるのは、気のせいではないだろう。

 

 「このくらいの鐘で、鳴らすとおじさんを呼び出せるらしいのよ」

 

 「ちょっと待て」「ちょっと待って」

 

 ジェスチャー交じりに説明するヘザーに、ドラコとハーマイオニーがツッコミを入れた。

 

 「おじさんってスネイプ先生のことよね?何でピンポイントで?」

 

 「何でかしら?ジュニア、知ってる?」

 

 「ええっと・・・前に父さんから聞いたところだと、なんか体質的におじさんが該当するって話だったかな・・・?」

 

 「何でそんな魔道具がお前たちの家にあるんだ?」

 

 「知らないわよ。昔からあったんだし」

 

 「ええっと・・・そうそう。僕の血縁上の父親の方の家――ポッターだっけ?あの家から母さんが持ち出したって聞いたような気がする」

 

 交互に質問するハーマイオニーと、ドラコに魔法のことはちんぷんかんぷんのヘザーはスパッと切り捨て、ハリーJr.は視線をさまよわせてうんうん唸りながらどうにか答える。

 

 「でも、鳴るかなあ?あの魔道具、かなりポンコツだよ?昔僕がいたずらで鳴らそうとしても、全然鳴らなかったんだ」

 

 「・・・あんたそれ、怒られたでしょ?」

 

 「うっ・・・それはそうだけどさあ。でも、気になるじゃん。僕も魔法使えるなら、あの道具も使えるかも!って期待しちゃうって」

 

 呆れたようにジト目を向けてくるヘザーに、ハリーJr.は決まり悪そうな顔をした。

 

 「とにかく、魔法使いの卵と勘が鋭いだけのマグルだけでダメなら、プロに相談しようって話。

 家に母さんや父さんがいたら、さらに心強くなるし。

 もしかしたら、ドラコの家にも連絡が取れるようになるかもしれないわ。

 どう?」

 

 話をまとめるヘザーに、ドラコとハーマイオニーは顔を見合わせるが、他に妙案もない。

 

 ハーマイオニーの家の方が位置的に近いが、グレンジャー夫妻はただのマグルでこの手のことに巻き込めるはずがなく、やむなく一同はメイソン宅に向かうことになった。

 

 映画館が併設されているこのショッピングモールから、メイソン宅に向かうには一度地下鉄に乗る必要がある。もちろん、道中は化け物でいっぱいだろう。

 

 それでも、4人は気持ちを奮い立たせ、知恵と力を振り絞り、前に進むことにした。

 

 

 

 

 

 奇怪にして奇妙な道中だった。予想通り、道中は化け物がいっぱい。

 

 開かない扉は開錠呪文(アロホモラ)でも開かず、面倒なパズルじみた仕掛けを解く必要に迫られる。

 

 そして、時々壁に刻まれた奇怪な魔法陣を見かけるのだ。赤いインクで刻印されたような、3つの円環を囲むように、大きな二重の円環が記されている魔法陣だ。

 

 「・・・これ、知ってる?」

 

 「知るわけないだろ?うちの本でも見たこと無いぞ」

 

 不気味そうに尋ねるハーマイオニーに、ドラコは苦虫を咬んだような顔で首を振った。

 

 対し、メイソン姉弟はどこか戸惑っているようだった。

 

 「・・・見たことあるような気がする」

 

 ぽつりとつぶやいたのは、ハリーJr.だった。

 

 「見たことあるって・・・何処で?」

 

 「何処だったかなあ・・・?

 でも・・・確かに、どこかで見たような気がするんだ・・・」

 

 ハーマイオニーの問いかけに、ハリーJr.は視線をさまよわせながら、自信なさげに答えた。

 

 「私もどこかで・・・っ」

 

 言いかけたヘザーは、唐突に蟀谷を押さえてふらついた。

 

 「ヘザー?!」

 

 「・・・っ・・・大丈夫。ちょっと頭痛かっただけ」

 

 力なく笑って見せるヘザーをよそに、ドラコとハーマイオニーは顔を見合わせた。

 

 メイソン姉弟は見覚えがあるという、不気味な魔法陣。二人の両親――メイソン夫妻は、何か知っているのだろうか?

 

 こうして、また一つ、メイソン宅へ向かう理由が増えたのだ。

 

 

 

 

 

 このショッピングモールは地下鉄の駅に隣接している。

 

 化け物が徘徊するようになり、パズルじみた仕掛けが扉に施されるようになっても、地理というか、建築構造自体は変わってなかったらしい。

 

 ただ、前述通り、化け物は徘徊しているうえ、扉は施錠されているので開錠手段を求めてうろつく必要があるだけで。

 

 そして、駅構内とショッピングモールを繋ぐエントランス部分にて、二人の男が言い争っていた。

 

 「すぐにハリーを探しに行くべきだ!こんな化け物がうろついてるんだぞ!」

 

 「だから、まずは落ち着くんだ。やみくもに歩き回っても体力を浪費するだけだろう。

 ハリー達を探すにしたって、どこにいるのか・・・」

 

 「じゃあ、このままじっとしてろってのか?!」

 

 片方はぼろコートに傷まみれの顔の男、ルーピン。そして、もう片方は、黒髪にローブをまとった美丈夫だ。その顔を見るなり、ヘザーとハリーJr.はあからさまに顔をしかめた。

 

 「・・・ルーピン先生と、ブラックさん。なんでここに?」

 

 それでも、話をせねばとハリーJr.が一歩踏み出しながら尋ねた。

 

 「ハリー!無事だったんだな!」

 

 パッと表情を輝かせて飛びつこうとしたシリウスをさっと避け、ハリーJr.は比較的話が通じそうなルーピンに視線を向けた。

 

 「ヘザーから話は聞いてます。ヘザーに会わせたい人がいるって。クローディアって人ですか?」

 

 「! もう会ったのかい?」

 

 「ええ。わけわかんないこと言われたけど。あんたさ、仮にもハリーの先生の一人だっていうなら、友達は選んだ方がいいんじゃない?」

 

 冷たい視線を、シリウスに向けてヘザーは吐き捨てる。

 

 当のシリウスは、「何だなんだ、ハリー。照れてるのか?」とニヤニヤしている。

 

 「・・・なんで、僕たち――僕はもちろん、父さんと母さんにも断りなく、勝手にヘザーに人を会わせようとしたの?」

 

 「そうだ、ハリー!聞いてくれ!お前の父親を名乗っている、あのマグル!あいつは人さらいの犯罪者だ!」

 

 低い声で問いかけたハリーに、はっとした様子でシリウスが身を乗り出さんばかりに叫んだ。

 

 「「は?」」

 

 メイソン姉弟の怪訝な声は、普段の幾分も低かった。

 

 ドラコはびくっと身を震わせたし、ハーマイオニーも顔をこわばらせた。この二人は、怒ると怖い。

 

 もちろん、ドラコとハーマイオニーも、メイソン姉弟の父親、ハリー=メイソン氏については知っている。あの温和を絵に書いたような人物が、人さらいの犯罪者?俄かには信じ難かった。

 

 むしろ、シリウスに対して、お前は何を言ってるんだ?という感じが強かった。

 

 「あいつは、その子――お前は姉だと思ってるやつを無理やりさらって自分の子供だってだましてるんだ!

 お前もリリーも、だまされてるんだ!絶対、スニベルスの野郎もグルになってな!

 俺は、その子の本当の母親の友達だって人から、探してるって聞いてな!」

 

 「・・・へえ。そうなんだ」

 

 ベラベラと酔ったようにしゃべり倒すシリウスは気が付いてない。

 

 ハリーJr.が恐ろしい無表情となり、右手の杖をこれ以上なく強く握りしめていることを。

 

 「それで、教えちゃったんだ。僕たちの一家とヘザーのこと」

 

 「当たり前だろ!」

 

 「?! シリウス?!」

 

 大きく得意げにうなずくシリウスに、ぎょっとしたようにルーピンが顔を向けた。

 

 「待ってくれ!確か、まずはヘザーとMissウルフを会わせるだけで、そのあとメイソン氏とリリーの話も聞くと」

 

 「馬鹿言え!卑怯者のスニベルスの仲間だぞ?!グズグズしてたらまたぞろ逃げ出すにきまってる!善は急げ、だ!」

 

 「何ってことしてくれたのよ!!」

 

 得意げなシリウスをさえぎって、ヘザーが叫んだ。憎々し気にシリウスとルーピンを交互ににらみつける。

 

 「現状がわかってるの?!これは、明らかにそのせいだわ!私たちは!見つかっちゃいけなかったのよ!」

 

 何事か確信したように叫ぶヘザーに、怪訝な顔をするシリウス以外の全員がぎょっとしたように見やった。

 

 「ヘザー?」

 

 「・・・っ・・・帰らないと」

 

 どこか焦ったようにつぶやいて、ヘザーは弟とその友人たちを振り返った。

 

 「急いでうちへ!」

 

 「・・・わかった」

 

 「おい、ちゃんと説明しろ」

 

 「ねえ、どういうことなの?」

 

 頷いたのはハリーJr.だけだ。他の二人はどこか戸惑った様子だ。

 

 「あとで説明する・・・というか、私もうまく言えないけど・・・とにかく、急いでうちに帰らないと!でないと・・・まずいことになる気がするの・・・!」

 

 視線をさまよわせ、言いあぐねるヘザーは、ややあって一言付け加えた。

 

 「勘だけど」

 

 「・・・なら、急ぐぞ。これ以上の面倒はごめんだ」

 

 「・・・わかったわ。あとでちゃんと話してね」

 

 ヘザーの言葉に、やむなくドラコとハーマイオニーはうなずいた。

 

 そのまま大人二人の脇をすり抜けて、地下鉄のロータリーへと向かおうとする。

 

 「待つんだ、ハリー!話したろ?!お前の父親って名乗ってるのは」

 

 「うるさい!武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

 引き留めようとしたシリウスに、ハリーJr.は杖を向けた。放たれた武装解除術の赤い閃光が、シリウスを吹き飛ばしてショッピングモールの壁にたたきつけた。

 

 「シリウス!」

 

 急ぎ駆け寄るルーピンを尻目に、ハリーJr.は冷たく吐き捨てた。

 

 「おじさんに対して最低だったけど、少しはいいところもあるって思いたかったのに。この、裏切り者!」

 

 そうして、彼は肩を怒らせて、すでに先に行って待ってくれてた姉と友人たちに駆け寄った。

 

 「ごめん。多分、巻き込んだ・・・」

 

 足早に歩くヘザーが苦し気に顔をゆがめ、申し訳なさそうに絞り出した。

 

 ルーピンを心配してか、ちらっと振り返ってから前を向いたハーマイオニーが「それで、どういうことなの?」と問いかけた。

 

 「わかんないわよ!私にだって!」

 

 足を止めたヘザーは苛立たし気に吐き捨てた。明らかに八つ当たりだった。みんなそれをわかっていた。ヘザー自身も。

 

 「ごめん・・・私も、上手く言えなくて・・・けど・・・たぶん・・・私の事情に、みんなを巻き込んだんだと思う・・・」

 

 視線をさまよわせ、言葉を探すようなヘザーに、ハリーJr.が一歩踏み出しながら言った。

 

 「うちに帰ろう」

 

 力強い言葉だった。他の3人が見つめてくる中、ハリーJr.は続ける。

 

 「たぶん、うちに帰ったらわかると思うんだ。ヘザーの事情とか、何が起きてるかとか、どうしたら解決できるのかとか。

 えっと・・・勘だけど」

 

 最後の一言だけ、自信なさげに付け加えるハリーJr.に、やれやれとドラコは肩をすくめた。

 

 「仕方ないな。さっさと行くぞ。早く帰らないと、父上と母上を心配させてしまうしな」

 

 「・・・わかったわ。行きましょ」

 

 頷いたハーマイオニーに、ややあってヘザーがはあっとため息をついた。

 

 「全く、ちょっと見ない間に生意気になったわね。お姉ちゃんってビービー泣いてた可愛い弟はどこに行ったんだか」

 

 「いつの話してるんだよ!ほら!行くよ!」

 

 食って掛かりながらも前に足を進めるハリーJr.に、ヘザーは肩をすくめてから続く。その口元には、うっすらと笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 続く

*1
イギリスにおいて一般教育証明書試験、通称GCE試験がちょうどホグワーツにおけるOWLが普通レベル、NEWTが上級レベルに相当する。

*2
イギリスでは日本よりも武器の所持が厳しく規制されている




 【ハンドガン】
 ショッピングモールのパン屋の床に落ちていたハンドガン。

 ヘザーが父・ハリーから教わった銃と同じ型式・大きさの武器であり、武骨な銃でありながら手になじむ。

 ハリーは銃の持ち方を教えながら語った。撃つべき相手は見極めることだ、と。

 ヘザーは思った。できれば、そんなとき自体、来なければいいのに、と。





 どういうことなんです?なぜセブルスさん(本編主人公)の出番が一行たりとも無いんですか?!なぜこんな展開になってるんです?!この話がサイレントヒル3編だからですか!売女めが!穢れた売女めが!呪いあれ!報いあれ!(敵対時のアルフレート調で)



 ぶっちゃけ、このサイレントヒル3編とこの後の謎のプリンス篇をどうしたものか、プロットこねくり回さざるをえねえな、となっての停滞でした。ごめんなさい。


 Q.パン屋で拾うのは火炎放射器では?

 A.あ。(つまりガバ)
 まあ、アメリカでゲーム版に忠実に起こってるわけじゃないから、セーフということにしてください。


 次回の投稿は、水曜日!内容は、話は変わって本編主人公のセブルスさん、ようやく登場です。『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ』経営中の双子と、禿げの人面蜘蛛を添えて。お楽しみに。
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