セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回はお付き合いくださり、ありがとうございました。まだ覚えていてくださって、感謝の極みです。

 本当は、第7楽章はサイレントヒル3編と6巻内容を足して一つにしようかな、と思ってたんですが、いざ書いてみたら、これサイレントヒル3編が超絶長丁場になるじゃねえか!と気が付いて、サイレントヒル3編だけ独立させることにしました。

 独立させんならもうちょっと長引かせてもかまへんかまへん!と開き直ってこのざまです。

 お待たせしました!ようやく登場、セブルスさんのターンです。


【2】セブルス=スネイプ、店を訪れる

 

 話は変わるが、ここしばらくのイギリスの様相を記す。

 

 魔法省神秘部襲撃を企てたヴォルデモート卿――“名前を言ってはいけない例のあの人”の復活はついに大々的に、衆目に認知された。

 

 これには、魔法省大臣アメリア=ボーンズはすぐさま動いた。

 

 非常事態宣言をして、魔法省の守りを固め、魔法警察と闇払いを動かした。特に、闇払いには、15年前と同じくらいの強権を与えた。

 

 同時に、この凶報をマグル側の首相にも伝え、闇払いの護衛もつけた。

 

 脱獄した“死喰い人”と吸魂鬼(ディメンター)が“例のあの人”と合流し、魔法省を襲撃、さらに次々魔法省側の要人を襲撃している。

 

 ボーンズ自身も危うい目に遭いかけたことは数知れず。魔法大臣だったからこそ護衛が間に合ったが、魔法法執行部部長のままであったなら、今頃命はなかっただろう。

 

 それでも、優秀な魔法使いたちが次々命を落としていく様は忸怩たるものがあった。

 

 マグル側の首相については、魔法というものは万能、あるいは神の力の一端か奇跡か何かと思い込んでいるらしく、あんたら魔法使えるんだろ?!何とかしてくれよ?!(意訳)と喚いてきたが、相手も使えるんだから今すぐどうにかは無理です、努力してはいます(意訳)と答えるしかなかった。

 

 マグル側の首相とて日々の政治や外交で大変だろうに、ここにさらなる火種を持ち込むのは、ボーンズとてやりたくはなかった。

 

 だが、知ってもらわねばならないのだ。この首相が思っている以上に、彼は薄氷の上に立っているということを。

 

 つい先日も、彼の側近の一人が服従の呪文(インペリオ)の掛け損ないでアヒルの鳴きまねをするようになって、聖マンゴに移送された。ボーンズはそれを首相に説明したが、首相はその側近がストレスで精神を病んだだけだとかたくなに信じて疑わないのだ。

 

 前門の“例のあの人”、後門のマグル社会。

 

 それでも、魔法界の頂点に立つボーンズは、歯を食いしばって立ち向かうのだ。

 

 

 

 

 

 魔法界全体はそんな不穏で暗い空気を孕んでおり、マグル社会の方にまでそれを漏れ出させていたが、そんなこと知ったことかという場所が一か所、あった。

 

 ダイアゴン横丁の一角に、その店はある。

 

 ダイアゴン横丁の落ち着いた歴史あるたたずまい、悪く言えば古びた様相の店が多い中、その店舗はひときわ目立った。

 

 ショーウィンドウは、花火のように輝き、中の製品は踊ったり叫んだりしている。張り出されたポスターの売り文句は少々品のない言い回しをしていたが、年若い学生たちは、むしろその方がいいと言わんばかりに、それを見やってはくすくす笑ったり、吹き出したりしながら、店内に足を踏み入れている。

 

 『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ』。ジョージ=ウィーズリー&フレッド=ウィーズリーが、ホグワーツ魔法魔術学校を中退後に構えた彼らの城である。

 

 山積みされた様々ないたずらグッズは、彼らお手製のものもあれば、よそ――海外やマグル界から仕入れたものもある。ウィーズリーツインズの父であるアーサーがそうであるように、マグルグッズ好きのもの好きがたまに手に取るということで、マグルの手品グッズが売られてたりするのだ。

 

 思い出すのもおぞましいピンク色をてこずらせた“ずる休みスナックボックス”ももちろん陳列されている。なお、一番人気は“鼻血ヌルヌルヌガー”らしい。

 

 また、盾の呪文がまともに使えない魔法使いのための、盾の呪文を込めた帽子――製品名:『盾の帽子』などは、魔法省から500個の追加発注が入るほどで、これを受けてウィーズリーツインズは、盾の呪文を込めた装備品を追加作成するほどだ。

 

 つまり、双子の商売は極めて順調ということだ。

 

 セブルス=スネイプはその店舗に足を踏み入れていた。

 

 セブルスの顔を見るなり、挙動不審になる学生たちもいた――買おうと持っていた商品を背中に隠したり、マントをかぶせたりしていたが、店主のウィーズリーツインズは堂々としたものだった。

 

 「「いらっしゃいませ!先生!」」

 

 「新しい檻のかぶり心地は問題ないようですな」

 

 「はい!」

 

 「おかげでアイデアが次々と湧き上がってくるんですよ!」

 

 にっこり笑う双子の頭には、もちろん“メンシスの檻”が鎮座していた。開店祝い代わりにもらったものなので、どう改造するかは自分たちの勝手とばかりに、六角柱の鉄檻は、ローブと同じく赤紫に塗られていたし、オプションとばかりに時々火花を散らしたり、はたまたピンクの花を咲かせたり枯らしたりしている。もはや、別物である。

 

 「先生、何か買われます?サービスしますよ!」

 

 「貴公ら、商売熱心なのはよろしいが、私の現在の職業を考えて言ってるかね?」

 

 「これなんかおすすめですよ!」

 

 言いながら双子の片割れが“特許・白昼夢呪文”と書かれた箱を差し出す。

 

 ほう、とセブルスは感心する。オリジナルの呪文を開発して特許を取るとは、かなりのものだ。・・・開発における方向性が大分、あれだが。

 

 だが、くどいようだが、セブルスは現在教職についているのだ。そのようなものを買うわけにはいかない。

 

 セブルスがそう言いかけた時だった。

 

 「ウェッヒッヒッヒッヒ」

 

 聞き覚えのある下品な含み笑いが聞こえた。セブルスが素早く視線を向ければ、レジカウンターの近くにいた男が、ニヤニヤ笑いながらこちらを見ていた。下品な笑みを浮かべる禿げ頭の男は、首から下は黒い大蜘蛛だった。首からさげている派手な首飾り――“悪夢の信徒の首飾り”の効果か、はたまた自前かは定かではない。

 

 否、きっと元からだ。セブルスはこの男(?)を知っている。

 

 ヤーナム、悪夢の教室棟、メンシスの悪夢で見かけたのだ。

 

 いつだったかは殴ってやったこともあるのに、平然と姿を――それも、現実に現わして見せるとは。

 

 「久しいな」

 

 「そう睨まないでくれ。君と私の仲じゃないか!」

 

 うなるように言ったセブルスに対し、禿げ頭の蜘蛛男はにやにや笑ったままだ。

 

 「パッチの兄貴、先生の知り合いだったの?」

 

 口をはさんだウィーズリーの片割れに、パッチと呼ばれた蜘蛛男は重々しくうなずいて見せた。

 

 「もちろんだとも!彼と私は友達なんだ!」

 

 「ほお」

 

 対するセブルスは、すっと目を細めた。その右手が、仕掛け武器があれば振り上げたいとばかりにこわばっている。

 

 「知らなかったな。そして、貴様の言う友達とは、高所から蹴落として上位者の生贄に捧げることを指すのだな」

 

 「その件については誤解だと説明したはずだ!ノーカウント、ノーカウントだ!」

 

 セブルスの言葉に、パッチはすぐさま視線を泳がせ、続けてさっと頭を伏せて前足となるハサミで命乞いのポーズをとる。

 

 「げえ。パッチの兄貴、スネイプ先生相手に()それやったのかよ。ダメだろ、相手はちゃんと選ばなきゃ」

 

 「先生、学校でいろんな武勇伝作ってるんだから、喧嘩売ったらダメだって。よく生きてたなあ」

 

 聞き捨てならないことを口走った双子に、セブルスはどういうことかと視線を向ける。

 

 「どういうことだ。そもそもなぜこれがここにいる?」

 

 「パッチの兄貴は、夢で檻かぶったおっさんに紹介されたんです。ちょっと面接が癖ありましたけど」

 

 「いきなり崖から突き落としてくるとは思わなかったよな」

 

 「まあ、逆に突き落とし返してやったんですけど」

 

 「そしたら、命乞いされて、そのあといろいろあってうちの店で店員やってもらってるんです」

 

 さすがのセブルスもツッコミどころの多さに閉口せざるを得なかった。

 

 対するパッチはすでに普段の調子を取り戻したらしく、顔を上げ、揉み手とばかりにハサミを擦り合わせながら猫なで声で言った。

 

 「わかってもらえて何よりだ。なぁに、君と私の仲だ。この店の商品とは別に、君だけには()()()()()を融通しようじゃないか」

 

 ジト目で見やるセブルスなどどこ吹く風、とパッチは()()()()()とやらのカタログをよこした。

 

 セブルスはそれを眺め、ほうっと感心したようなため息をついた。

 

 確かにこの男、同族と聖杯ダンジョンでショップをやっているだけあって、こちらのニーズというものをわかっているらしい。とはいえ、ダンジョン内では足元を見て割高だったが、こちらでは値下げされているようだ。

 

 「支払いは()()()()でもいいし、こちらの硬貨でもいい。

 ああ、統一はしてくれ給えよ?まぜこぜにされるとややこしい」

 

 ニヤニヤ笑うパッチに、セブルスは「・・・承知した」と低い声で答えた。

 

 水盆の使者のいる『葬送の工房』に直帰できない場合、この男に頼ることになるかもしれない。保険はあるに越したことはない。

 

 これだから、何度か生かしておこうという気にさせられるのだ、この男は。

 

 有用なら生かす。有害なら殺す。ヤーナムで学んだ人間関係における基準の一つだ。

 

 とはいえ、今は休み中でセブルスも『葬送の工房』に身を置いているので、この男に頼ることはまずないだろう。血の遺志収納している物資も充実しているのだ。問題はない。

 

 「何か入用があれば伝えよう。今回は不要だ」

 

 「またのごひいきを」

 

 ニヤニヤ笑うパッチに、双子の片割れが口をはさんだ。

 

 「ねー、パッチの兄貴。先生に宣伝を兼ねた試供品を渡したいんだけど、何がいいと思う?俺としてはこれとかいいと思うけど」

 

 「ん?“特許・白昼夢呪文”?

 君ぃ、夢見る狩人にそのようなものは無意味が過ぎる。

 そうだな・・・おとり爆弾などいかがかな?」

 

 「ああ、あれかあ。でも先生、大きな音を立てるものとか嫌いじゃないですか?この呪文ならメアリーさんにも使えるから、いいかなって思ったんだけど」

 

 セブルスの方を見ながら言った双子の片割れに、パッチはいやいやと首を振って見せた。

 

 「まさか!むしろ、彼ほどあれをうまく使える人間はこの世に存在しないだろう!

 うん?どうした、フレッドもジョージも。変な顔をして。

 そういえば、先ほど先生と呼ばれていたな・・・先生?!彼が?!何を教えているのだ?!殺しの手管か?!」

 

 今更ながらギョッとした様子でセブルスを見やるパッチに、セブルスは不機嫌そうに眉をひそめて吐き捨てた。

 

 「私がどこで何をしていようと、貴公に関係なかろう。貴公は貴公のあがめる上位者と金儲けのことでも考えておくことだ。ただし」

 

 ぎろりっとセブルスはパッチをにらんで、唸るように吐き捨てた。

 

 「そこの二人は私の教え子でな。この二人に妙なことを吹き込んだらどうなるか・・・肝に銘じておくことだ」

 

 もしそれが無駄骨に終わったら、その無用な肝の含まれる臓物を引きずり出してやる、とセブルスは内心で吐き捨てた。

 

 「ひどいことを言う!君は友達のことを信用できないのか?!」

 

 道化じみて泣き真似をして見せるパッチをよそに、フレッドとジョージはけらけら笑う。

 

 「心配しなくて大丈夫ですよ、先生!」

 

 「そうそう!雇用に当たってパッチの兄貴とは“破れぬ誓い”を結んでますから!」

 

 聞いた瞬間、セブルスはパッチに対する疑心を取り消した。

 

 「貴公、“破れぬ誓い”が何なのか、知ってて結んだのかね?」

 

 「うん?何かまずいことだったかね?」

 

 そういえば、聖杯ダンジョンでセブルスがいくつか呪文を使ってたら、パッチをはじめとした人面蜘蛛たちにはひどく驚かれていたと思い出す。

 

 「よいかね?“破れぬ誓い”とは魔法的契約の一種で、その名の通りけして破れぬ誓いだ。破った瞬間死ぬ羽目になる」

 

 セブルスの言葉に、パッチは一瞬目を大きく見開いたが、すぐににやにやと笑って見せた。

 

 「ならば、破らねば何も問題はないんだろう?大丈夫だとも。我らが神も、この二人のことは気に入っている。だからこそ、私が遣わされた。

 それに」

 

 ここでパッチは言葉を切ると、重々しく――ここだけはふざける調子を置き去りにした真面目な様子で語った。

 

 「“目覚めれば、すべて忘れてしまう”。そうだろう?」

 

 かつて、メンシス学派のトップ、ミコラーシュが死の間際に語ったように。

 

 「・・・ならばよい」

 

 セブルスがうなずいたところで、双子の片割れが戻ってきた。

 

 「こいつがおとり爆弾です!」

 

 黒いラッパのようなものを差し出して、双子の片割れがニっと笑って見せた。

 

 「こいつをこっそり落とすと、逃げて行って見えないところで景気よく一発音を出してくれるんです。注意をそらす必要があるときにいいんですよ!」

 

 製品説明をする双子の片割れに、セブルスは感心半分で渡されたそれを眺めた。

 

 セブルスがよく使う誘導手段には“匂い立つ血の酒”がある。獣は血の臭いに強く惹かれるからだ。

 

 だが、血には誘われにくい他の存在を相手にするなら、確かにこれは有用かもしれない。

 

 「ふむ。もらっておこう」

 

 頷いてセブルスはおとり爆弾を懐にしまうふりをして、血の遺志収納をすると、少し大きな声で言った。

 

 「一応私はホグワーツで教員をしているが、授業そのものを妨害するような大げさなことをせぬのであれば、どうこういうつもりはない。

 授業をさぼって結果成績が下がろうと、極論すれば自己責任だからな。

 それから、購入客の様相には気を付けておくことだ。最近は何かと物騒だ。

 購入した客がいたずらではすまん事件をしでかさんとは限らぬぞ」

 

 「はーい!」

 

 「気を付けまーす!」

 

 「案ずることはない。私もせっかくの商売を邪魔されたくないのでね。

 ウェッヒッヒッヒッヒ」

 

 「では、長々とすまなかったな。息災でありたまえ」

 

 元気のいい返事を返す双子と、相変わらず胡散臭い笑い声をこぼすパッチをよそに、セブルスはレジカウンターを離れた。

 

 途端に、恐る恐るほかの客たちがレジカウンターに並んでいく。

 

 日刊預言者新聞のスクープ記事と、去年のピンク事変のせいで、セブルスはマクゴナガル以上に怒らせたらいけない人物認定されていた。

 

 ワイワイガヤガヤと喧騒で騒がしい店を出て、セブルスはダイアゴン横丁の通りに立った。

 

 どんよりした曇り空と空気に混じる湿り気に、セブルスは一雨来るかもしれないと思った。

 

 この後は、薬問屋によってから、メアリーから頼まれた食料の買い出しをして。

 

 つらつらと予定を考えながら歩きだす。

 

 すぐさま、敵意ある視線には気が付いた。しかし、セブルスは無表情のまま、平然と路地の一つに入り込んだ。

 

 にぎやかなダイアゴン横丁であれど、路地裏に入り込めば、喧騒は遠くなり、暗く人通りが極端に少なくなる。

 

 さすがに夜の闇(ノクターン)横丁ほどではないが、怪しげなもの、後ろめたげな取引が行きかうことになる。

 

 そして。

 

 セブルスは背後から放たれた赤い閃光を振り向きざまに躱した。

 

 向きなおれば、黒いローブをまとってフードを深々と被り、どくろの仮面をつけた男が一人、杖を携えていることは言わずもがな。典型的な死喰い人だ。

 

 よほど、あのなり損ないの帝王閣下はセブルスのことを気にしているらしい。死体でもいいから(セブルスが死なないと知ってるくせに。矛盾の極みだ)連れてこいと配下たちに厳命しているようだ。褒章目当ての下っ端の襲撃が絶えないのだ。

 

 セブルスは、一つ鼻を鳴らした。外出の度にからまれるのは勘弁してほしい。『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ』に襲撃をかけてこなかっただけ良しとする。

 

 とはいえ、彼らは根本的なところを思い違いをしている。痛めつけていいのは痛めつけられる覚悟のある者だけ。殺すのだ、殺されもする。そういったことをまるで理解しておらず、自分たちが一方的に殺戮するのを当然の権利と勘違いしているようなのだ。

 

 ゆえにこそ。

 

 「ぎゃ」

 

 「五月蠅い」

 

 断末魔はセブルスの一声で黙らされた。

 

 セブルスは連射される魔法の光弾を避けて接敵し、武器も何も持ってない素手で殴りつけて相手がよろめいたところを、内臓攻撃で腸管を引きずりだしたのだ。常人は腸を引きずりだされるとほぼ即死するものだ。

 

 ちなみに、この通りはこの襲撃者が人払いをしていたらしく、目撃者はいない。

 

 セブルスは死体を血の遺志収納で消すと、素早く右手を振って消失呪文(エバネスコ)を発動し、飛び散った返り血などを消し去り、自身の返り血も処理する。

 

 そうして、彼は何食わぬ顔で路地から去る。わずかな血の臭いが残るが、微々たるものだ。そのうち消えるだろう。

 

 かくして、薄汚れた路地裏は、元から静かであったかのような空気を取り戻した。

 

 

 

 

 

 さしものセブルスも、この間、親愛なる友人と幼馴染の一家と、彼の教え子たちが某馬鹿犬の暴走でとんでもない事態に巻き込まれていたなど、この時点では知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 買い物を終え、姿くらましで『葬送の工房』に帰ってきたセブルスは、荷物を下ろしてインバネスコートを脱ごうとした時だった。

 

 リンッと書斎に鳴り響く、鐘の音。

 

 久々のそれに、セブルスは瞬時に眉を顰める。

 

 セブルスの持つ“共鳴する小さな鐘”が鳴ったのだ。

 

 それすなわち。

 

 「メアリー、帰って早々で済まないが、少し出る」

 

 「わかりました。行ってらっしゃい、狩人様。あなたの目覚めが、有意なものでありますように」

 

 受け取った荷物を片付けるメアリーをよそに、セブルスは素早く枯れ羽帽子と防疫マスクをまとい、ノコギリ鉈と獣狩りの短銃を手に取る。

 

 そうして、“共鳴する小さな鐘”を手に取れば、その姿は青い霧に揺らめくように消えた。

 

 

 

 

 

 セブルスが姿を現したのは、見覚えのある場所だった。

 

 当時シリウス=ブラックと知らなかった動物もどき(アニメーガス)の遭遇を重く見たハリー=メイソンによって再びの引っ越しが行われた先の一軒家――現在の、メイソン一家の家の玄関先だった。

 

 だが、セブルスは姿を現すと同時に眉を顰めた。

 

 陰鬱な、重苦しい空気。夜ではないはずなのに空は暗く、玄関が面する通りは人っ子一人いない。

 

 セブルスはこれに類似した光景を知っている。

 

 「どういうことだ・・・?」

 

 思わずセブルスが一人つぶやく。

 

 もしや死喰い人(デスイーター)にでも襲われているかと思いきや、まさかこのようなことになっていようとは。

 

 そろそろ来るかもしれないと思っていたが、実現はしてほしくなかった。

 

 まあ、何が襲ってこようが、要請を受けた以上、獲物は殺す。狩人とはそういうものだ。

 

 その時だった。

 

 悲鳴が聞こえた。絹を裂くような悲鳴。親愛なる、リリー=メイソンのそれが。

 

 セブルスは猛スピードで動く。

 

 門を飛び出し、角を曲がって大通りに出て。

 

 そこで彼は目の当たりにした。

 

 親愛なるハリー=メイソンが倒れこみ、その上に覆いかぶさって悲痛な声で彼を呼ぶ、リリー=メイソンの姿を。

 

 彼らを殺さんと、ノコギリのような大ナタ状の両手を振り上げる、巨大な異形を。

 

 とっさにセブルスは、獣狩りの短銃を撃った。

 

 大ぶりな攻撃に差し込まれる銃撃。攻撃はいなされ、敵は硬直して絶対的な隙を作り上げる。ガンパリィだ。

 

 のけぞり片膝をつく異形に、すかさずセブルスはとびかかる。

 

 高速移動呪文で瞬時に間合いを詰め、武器を消した右腕を振り抜いた。狩人の必殺技、内臓攻撃だ。

 

 ドテッ腹に突き入れられた右手は、ブチブチと肉を割いて血管を引きちぎりながら、臓物を引きずりだす。

 

 セブルスはひそかに眉を顰める。生き物特有の体温がない。まるで死体を触っているような、奇妙な生ぬるさしかない。この感触には覚えがある。目の前の異形のフォルムも相まって、たやすく想起させた。

 

 あのおぞましい街を。霧深き、サイレントヒルを。

 

 「っ、ス」

 

 「逃げろ。ここは私が引き受ける」

 

 「っ、気を付けて!」

 

 涙声のリリーは、セブルスの背に何とかそう叫ぶと、杖を一振りし、ハリーの体を浮かばせ、そのままその場を離れる。

 

 セブルスは、それを見送ることなく、立ち上がって、肉だるみしかない異形の頭部を見やった。

 

 ケロイドのような表皮、膿と血で汚れた包帯を巻いたような紋様、焦げと鉄錆の臭いと腐臭を混ぜたような悪臭。実に、12年ぶりだ。

 

 何が起こっているか、どうしてこうなったか。それは後で知ればいい。今やるべきはただ一つ。

 

 セブルスは腕を一振りした。

 

 ノコギリ鉈が、ガシャンと音を立てて鉈形態へと変形する。

 

 「スネイプの狩りを知るがいい」

 

 セブルスのうなるような宣言が、冷然と響き渡る。

 

 腹に空いた穴をそのままに、化け物は巨体のぜい肉を震わせながら立ち上がり、セブルスめがけて襲い掛かってきた。

 

 とはいえ、セブルスからしてみれば、この程度大した相手ではなかった。

 

 相手は一体、巨体と両手の鉈をひたすら振り回すだけの頭の悪い薄ノロだ。しかも、耐久性もあまりないらしい。

 

 聖杯ダンジョンで三デブを相手にしている方がまだてこずった感じがするだろう。

 

 セブルスの方が圧倒的に小回りが利くので、攻撃の隙をついて脇に回り込んでノコギリ鉈で切りつける。

 

 相手の攻撃は、流麗な狩人のステップで軽々とかわす。

 

 業を煮やした様子の異形が両手を大きく振り上げれば、絶好の機会とガンパリィを決めて、再び内臓攻撃をお見舞いする。

 

 飛び散る血に熱はない。生ぬるさと生臭さだけが強調されているそれは、あまりいい気分はしない。獣や上位者の血や、生きた人間のそれと比べる方が間違っているのだろう。

 

 やがて倒れ伏すそれが完全に死んでいる――そもそも生死を定義するべきか?とにかく、動かないことを確かめ、セブルスは素早く踵を返した。

 

 少し離れたところに、メイソン夫妻はいた。

 

 「癒えよ(エピスキー)癒えよ(エピスキー)!治って!いやあぁぁ!どうして?!どうして効かないの?!」

 

 ぐったりしたままのハリーに、リリーは治癒呪文をかけ続けているが、あまり効果がないらしい。リリーは半狂乱になっている。

 

 「Mrs.メイソン!」

 

 「スネイプ!ハリーが!ハリーが!!」

 

 「落ち着きたまえ」

 

 必死なリリーの叫びに、セブルスは駆けよってハリーの体躯を改めた。

 

 例の異形の鉈に袈裟懸けに切りつけられたのだろう。巨大な切り傷がついて血まみれになっていた。

 

 リリーの魔法は全く効いてないわけではないだろう。でなければ、普通の人間のハリーはとっくの昔にお陀仏であったに違いない。

 

 「私をかばって・・・!

 私が、私が悪いの・・・!

 あいつが・・・子供たちがどうなってもいいのかって言って・・・!私、頭が真っ白になって・・・!」

 

 「落ち着け!」

 

 しゃべるほどにパニックを悪化させているリリーを一喝し、セブルスは言った。

 

 「君の家に魔法薬はあるか?あるならすぐに持ってきたまえ。

 この状態の私は、道具の受け渡しはできぬのだ」

 

 「! ええ、わかったわ!」

 

 リリーはよろよろと立ち上がると、すぐに家の中に駆けこんだ。

 

 

 

 

 

 続く





【おとり爆弾】
 『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ』の商品の一つ。黒いラッパのような見た目をしており、こっそり落とすと、逃げて行って見えないところで大きな音を出す。

 いたずらには下準備が大事!誰にも見られず、こっそり行動するのに、大きな音で注意をひくこいつはうってつけ!



 Q.何でアイテム説明が双子のかぶっている檻に関してじゃないんですか?

 A.感想欄でさんざん皆さんがやってくださってるのに、ここでやるのは蛇足かなって。



 次回の投稿は日曜日!内容は、いったん離脱、ハリー=メイソンは聖マンゴへ、シリウス&ルーピンによるセブルスさんの吊し上げ。お楽しみに。
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