予告の吊し上げを、逆じゃね?という感想には、そうかな?そうかも・・・という気分になりかけましたが、それはまた、やっていきますので。
それからもう一つ。皆さん、シリウスの処分を期待されてますけど、駄犬を屠殺するのと、大事な子供たちを守るのと。どちらを優先すべきですか?
その時が来るのを、お待ちください。というわけで続きです。
リリーはよろよろと立ち上がると、すぐに家の中に駆けこんだ。
そうして、それを見送ったセブルスは、振り返りざまに獣狩りの短銃を抜いて構える。
コツコツという足音が近寄ってきた。
闇の中から歩み寄る、人影。プラチナブロンドの長い髪をした、病的な白い肌の女だ。憐れむような凪いだ表情は静かなものだが、その目は熱意と紙一重の狂気を孕んでいる。喪服のような黒いワンピースをなびかせて、女は現れた。
セブルスはこの女を知らない。だが、そのまとっている
おそらくは。
「その黒衣、手に持った古めかしい武器・・・。
そう、あなたがセブルス=スネイプね。17年前の憂いが、これですべて晴れるのね。
これも、我らが神の思し召しかしら」
詩を読み上げるように湿った調子で語る女に、セブルスは一つ眉間のしわを深くした。
神。そして、リリーの言った“あいつ”。
間違いない。サイレントヒルの教団の手のものだ。そして、ハリーを痛めつけ、リリーを追い詰め、この状況を作り上げた元凶だ。
「わざわざ海を越えてまでやってくるか。
貴公、八つ裂きにされたくなければ、さっさと立ち去り給えよ。
それとも、先ほどのでくの棒のように内臓を引きずり出されたいかね?
今の私はあまり機嫌のいい方ではない」
セブルスは爆発寸前の怒りを抑え込むように、あえて冗長に話した。だが、どうしても、抑えきれない本音が零れ落ちた。
「ぶち殺すぞ」
「随分と野蛮ね。
けれど、光栄に思うべきだわ。あなたのような存在でも、楽園に招くことを神はお許しになるでしょう。
ハリー=メイソンはそのための尊い犠牲」
女がすべて言い切るより早く、セブルスは短銃の引き金を引いていた。
発砲音とともに、女に水銀弾が叩き込まれる――はずだった。
飛び込んできた異形が、その一撃から女を守ったのだ。
フォルムは狼のような四つん這い。しかし、尾はなく骨格自体は人間のそれだ。膿と血で汚れた包帯のような表皮、ケロイドのような模様、キルリキルリという奇妙な痙攣が生理的嫌悪を掻き立てる。
ただし、大きかった。ちょっとした自動車ほどはある。顔のあるべき部分には縦に割れた奇妙な裂け目しかなく、それも歯や舌は見えず、破けた布のようなほつれが縁に見えるだけだ。
「やはり、あなたと神は相容れられないのかしら。
かわいそうな存在ね。楽園にすら居場所がないだなんて」
「黙れ。ダリア=ギレスピーの二番煎じが」
吐き捨てるセブルスに、女は動じた様子も見せずに、憐れむようなまなざしを見せながら、背を向けた。
「何も知らせずに閉じ込めて、それで愛するふりをして。あの子がかわいそうだわ。だから」
一度振り返って、女は淡々と言った。声音こそ静かだが、固い決意を込めて。
「私が、導くの。この憎悪と苦痛に満ちた世界を救って、真の楽園をもたらすために」
「傲慢が過ぎるぞ。世界を救う?結構!ならばまず、自分を変えることから始めたまえ!」
怒声とともに、セブルスはノコギリ鉈を振り上げて女めがけて切りかかろうとした。
すかさず異形が入り込んで前足を振り回して、セブルスを叩き潰そうとする。
やむなくセブルスは距離を取って、異形と応戦し始めた。
「傲慢?それはあなたの方でしょう?神の認めない醜い生き物の癖に、人間のふりをして、生き方を強要して。恥ずかしいと思わないのかしら。
あなたに、アレッサは渡さない!」
セブルスの言葉に、女は憎悪に満ちた鋭いまなざしを一瞬投げると、そのまま前を向いて闇の中に姿を消した。
何度目かの内臓攻撃をお見舞いすれば、四つ足の異形はドオッと横倒しになって倒れたが、それでもしつこく立ち上がろうとする。
いい加減くたばれ。
半ばうんざりした気分を込めて、セブルスは鉈形態のノコギリ鉈を振り下ろした。
ブチャッと肉の潰れる音を立てて、パタリっと異形から力が抜けて動かなくなる。
それを見届けて、セブルスは踵を返した。
ハリーのところには戻ってきたリリーがひざまずいて、魔法薬をかけてもう一度杖を振っている。
だが、ハリーは浅い息を繰り返し、ぐったりとしたままだ。傷も血こそ止まっているが、まったくふさがる様子がない。
マグルのような外科処置をすべきか、とセブルスが考えかけた時だった。
「母さん!」
「母さん、父さんはって、え?!」
絶叫とともに駆け込んできたものがいた。ヘザーとハリーJr.だ。その後ろには、ドラコとハーマイオニーがいる。
どういう状況で一緒にいるかはわからないが、無事で何よりだ。
だが、4人の無事を喜んでいる場合でなかった。
4人はリリーを見てほっとした顔をするが、そのそばにいるセブルスを見るや、ぎょっと驚いたように目を見開いた。
セブルスはどうしたのかと怪訝に思ったが、すぐに今の自分の格好と思い出す。枯れ羽帽子と防疫マスクに両手には仕掛け武器と銃器をフル装備の狩人モードで、化け物の返り血まみれであった。
「無事かね?怪我は?」
一声かければ、声でわかったらしいヘザーとハリーJr.はほっと表情を緩めるが、ドラコとハーマイオニーはますますギョッとした顔をする。
「おじさん!」
「セブルスおじさん!」
「え?!スネイプ先生?!」
「ど、どうされたんですか、その恰好・・・」
「話はあとだ」
セブルスの言葉に、4人は気が付いた。
ひざまずいたリリーのすぐそばに倒れこんでいる人影。血まみれの、ハリー=メイソンがそこにいた。
「パパッ!」
「父さん!」
絶叫とともにメイソン姉弟はすぐさまそばに駆け寄ってかがみこんだ。
「母さん、魔法は?!」
「効かないの・・・! 魔法薬も、全然・・・!」
懸命に杖をふるいながら、合間に答えるリリーに、すぐにヘザーが叫んだ。
「ジュニア、母さんと一緒に父さんに魔法かけてて!救急箱を取ってくるわ!」
「僕がやる。お前はヘザーと一緒に何か役に立つものを持ってこい」
「私も手伝うわ!」
「ありがとう、ドラコ、ハーマイオニー!」
ドラコの言葉に、ハリーJr.はうなずいてヘザーとともに家の中に駆け込んだ。
ハリーJr.のヤマナラシの杖は、治癒呪文を使うのには向いていないのだ。この前の
二人の助成があってもなお、傷はふさがることなく、ぱっくりと開かれたままだ。
セブルスがどうするかと逡巡した時だった。
彼は立ち上がって振り向きざまに、再び獣狩りの短銃の銃口を路地の向こうに向けた。
「ハリー!どこにいるんだ?!」
「シリウス!あんまり叫ぶと化け物どもに気が付かれるよ」
「けど、放っておけないだろ!確か、こっちに行ったと思ったんだが・・・」
話し声が近寄ってくる。闇の中から歩み寄ってきた影に、セブルスは眉を寄せた。
シリウス=ブラックと、リーマス=ルーピン。なぜこいつらがここに?
ハリーJr.とその友人二人が、この事態に巻き込まれたのは、ヘザーと一緒にいたからと思われるので、まだわかる。
だが、なぜこの二人がここにいるのか。
二人の視線がこちらに向けられる。
「あ?」
「え?」
倒れたハリーと彼を囲んで手当を試みる一同、その前に盾のように立って銃口を向けるセブルス(狩人モード全開)が見えたため、彼らは一斉に怪訝そうな顔をした。もっとも、彼らからはセブルスの影になっているので、倒れたハリーの姿は見えなかっただろうが。
ここで、バタンっと扉の音がして、二人分の足音が聞こえた。
救急箱を抱えたハリーJr.と、何か手に持ったヘザーだ。
「あ!」
「後にしてジュニア!先に父さんを!」
「っ、うん!」
二人の姿を認めたハリーJr.が眉を吊り上げるが、ヘザーに叱責されて急ぎ父親のところに駆け寄った。
「ハリー!こっちに来るんだ!」
喜色に満ちた顔になって呼び掛けてくるシリウスはもちろん無視された。
セブルスは銃口を下ろすことなく、二人をにらみつけていた。メイソン兄弟の反応からして、何か彼らはやらかしたらしいと察せられたのだ。
「応急処置するわ。ジュニア、そっち押さえて」
「それは何だ?ヘザー」
「ステープラー*1よ。本当は縫うのがいいんでしょうけど、医療用の縫合セットなんてないから、間に合わせよ」
ドラコの言葉に、ヘザーはキビキビ答えながら動く。手に持っている事務用品に、消毒用アルコールをかけて簡易消毒をすると、そのままハリーJr.が押さえるハリーの傷口をバチンバチンと留め始めた。
「そんなことしていいの?」
「ドラマでやってるのを見たし、災害の時のマニュアルに載ってるわ。本当は医療用の奴がいいんでしょうけどね」
不安げなハーマイオニーに、ヘザーは答えながらも手は止めない。傷口を留めてひとまずふさぎ、その上からガーゼを当てて包帯を巻く。少々ぎこちないが、動きによどみはない。
「私はマグルだから。あんたたちみたいに魔法は使えないから、手当の方法とか、応急処置とか、父さんに習ったの」
ぼそぼそと言い訳しながら、ヘザーは包帯の端をテープで留めた。
「病院に連れていけたら・・・!」
「この傷は普通じゃない。マグルの病院より、聖マンゴの方がいいと思う。
だが・・・」
うなだれるハリーJr.に、ドラコが声をかけるが、間もなく彼も視線を伏せた。
現状、それらの施設には連絡もつかないし、立ち入ることすらままならない。そもそも立ち入れたところで、治療を受けられるか。
なお、描写からは省いていたが、シリウスはハリーJr.のところに駆け寄ろうとして、殺気全開のセブルスに腰をひけさせているルーピンに止められていた。
セブルスは顔を隠しているので誰かはおそらく、シリウスとルーピンにはわかってないだろう。
シリウスは、顔を隠したあからさまに怪しいやつのそばに大事な名付け子がいるのが気が気でないらしく、ルーピンを振りほどけないと察するや「ハリー!」「こっちに来るんだ!」「俺のそばの方が安全だ!」「この野郎、ハリーに何かしたらただじゃおかねえからな!」と叫んでいる。
対し、ルーピンは比較的冷静だった。目の前の黒ずくめがだれかわからずと、ハリーJr.たちが近寄れているのだから、彼らの知り合いだろうと判断することはできたし、聞こえてきた
だが、自分たちが近寄ることを、おそらくメイソン姉弟は嫌がるだろうと思い、シリウスを抑えることに徹したのだ。
そんな二人をしばし眺めたセブルスは、問題ないだろうと判断したのか、ややあって銃を下ろすと、次はどうしようと顔を見合わせているメイソン姉弟の片割れ――ヘザーに向き直った。
「ヘザー、少し身体を診させてもらう」
「え? う、うん」
セブルスの言葉に、ヘザーは戸惑いながらもうなずいた。
セブルスは、杖が収納されている手甲の付いたグローブをはめた右手をヘザーにかざし、そのまま撫でるように彼女の体の上を上下左右に滑らせた。
ややあって。
「・・・やはりか」
ぽつりとつぶやいて、セブルスは右手を下ろした。
「おじさん?」
「ヘザーがどうかしたの?」
不思議そうにセブルスを見上げるメイソン姉弟に、セブルスは無表情のまま次の言葉を口にする。
「後で説明する。
先にハリーを聖マンゴに運び込むぞ。この事態を終わらせる・・・いや、一時中断とする」
「できるの?!」
身を乗り出すハリーJr.と目を丸くするほかの面々をよそに、セブルスは短くうなずいてから、改めてヘザーに言った。
「ヘザー。左手を出したまえ」
「左手?こう?」
言われるがままに左手を差し出したヘザーに、セブルスは動いた。
「そのままじっとしてたまえ」
言いつけながら、セブルスは一度無言呪文で返り血を落とし、自身の左手のグローブを外すと、その指先をノコギリ鉈で軽く切って小さな切り傷を作る。
そして、右手を振ってそこからにじむ血をインク代わりに、ヘザーの左腕に、何事か描いた。そのまま左の薬指の付け根にも血で赤い輪を描く。まるで指輪のように。
「なぜ結婚指輪を左の薬指にはめるか知っているかね?そこが心臓に最も近いとされるからだ。魔力的に、強い契約の力を持たせられるのだ」
淡々と語りながら、セブルスは続けて右手を振って魔法を使う。
「“大量の水は、眠りを守る断絶であり、ゆえに神秘の前触れである”」
歌うようなセブルスの言葉に反応するように、ヘザーの腕に刻まれた文字のようにも見える模様がキラキラと青く輝いた。
まるでメノーラー*2のようにも見える紋様と、水面を隔てていくつも沈む影と佇む3人の人影をかたどったような紋様。
それは、カレル文字と呼ばれるものだ。筆記者カレルが記録した、人ならぬ上位者の音を目に見える形としたものだ。
『大いなる深海』と『大いなる湖』。それらは水を司る。
白痴のロマは、月見台下の湖にいた。星の娘エーブリエタースは、湖を模したガラスの先にいた。
水は、上位者を守る、上位者の傍らにあるものなのだ。そして、眠りを守る、断絶である。
ややあって。
ピシッと何か、亀裂が入るような音がした。
それが合図になったように、世界のありようが変わっていく。パキパキと硬質な音を立てて、タイルがめくりあがるように一同の周囲の地面や家々の壁の色が変わっていく。長年放置したような不気味なシミやヒビだらけだったそれらが、見慣れた奇麗なものへと変わる。夜でもないのに真っ暗だった空の色は、夕日に染まったグラデーションへ。
ほんの数秒で、それらの移行は終わった。
セブルス以外呆然とする面々をよそに、自動車が行きかう。子供のはしゃぐ声が聞こえ、夕餉の支度らしいいい匂いがそこかしこから漂う。
先ほどまでの異常な世界の痕跡など、まるでなかった。悪夢から目が覚めたように。
「どう、なってんだ、こりゃあ・・・?」
さしものシリウスも呆然と周囲を見回す中、いち早く我に返ったのはハリーJr.だった。
「ドラコ、鬘!それから、ル、じゃない、ええと、とにかく両面鏡で連絡して!」
「! ああ!」
促されたドラコは素早く変装用の鬘を取り出してかぶり直し、取り出した両面鏡で両親に無事を伝えるべく連絡を取り始めた。聖マンゴに連絡して、ハリー=メイソンの受け入れ準備をさせるよう言づけるのも忘れない。
「リリーおばさん、聖マンゴ治療院がどこにあるかわかりますか?!どうすればいけますか?!」
「ええ、もちろん!ポートキーを使うわ!」
続けていったハーマイオニーに、リリーもまた大きくうなずいた。
「ハリー、お願い!すぐに治療院に連れて行くわ。もう少し頑張って!」
意識なく浅い息を繰り返すハリーの顔を一撫でしてから、リリーはすぐさま立ち上がって、ポートキーによさそうなものを取りに行くべく家の中に駆け込んだ。
ヘザーは、茫然と自身の左腕に刻まれたカレル文字を――未だに青く光るそれを眺め、それからセブルスを見上げた。何が起こっているかわからない。だが、この異変は確実に自分が中心にいる。そして、セブルスはその原因を知っている。それを問いただしたげな顔をしていた。
そのセブルスはといえば、要請の時間切れを起こしたらしく、まとった青ざめた霧に溶けるように体が薄く消えていく。
「時間切れだ。聖マンゴでまた会おう」
「・・・うん。来てくれてありがとう、おじさん」
「気にするな。貴公らが無事で何よりだ」
力なく笑ったヘザーの笑みを見届けたところで、セブルスの姿は完全に消え去った。
「はあ?!何だそりゃ?!」
素っ頓狂な声を上げるシリウスと、何が何やらという顔をしたルーピンだけが置いてけぼりを食らっていた。
ロンドン市内には、赤レンガの古びたデパートがある。『パージ・アンド・ダウズ商会』という看板が掲げられており、ショーウィンドウには流行おくれの服を着たぼろっちいマネキンが数体並び、埃だらけのドアには“改装のため閉店中”という看板がさげられている。
そのマネキンに用件を告げ、マネキンがうなずきを返したら、ショーウィンドウを透過して通れるようになる。
潜り抜けた先にあるのは、総合待合。こここそが、魔法界きっての治療院、聖マンゴ治療院である。
魔法や魔法薬、あるいは魔法生物の傷害によって大きく変質・変形・変性してしまった患者たちが待合で順番待ちをしているのをしり目に、担ぎ込まれた宙を浮くストレッチャーが奥へと向かう。寝かせられているのは、ハリー=メイソンだ。
そばを歩くのはライムグリーンのローブを羽織った魔法使いや魔女。その胸には杖と骨がクロスした、
少し離れて、それに続くのはハリーから散った血で汚れたリリーと、奇怪なる家路のせいで汚れたメイソン姉弟だ。
やがて3人は足を止めるが、ストレッチャーを運ぶ一団は、そのまま奥の扉に入った。
『処置室』という看板が掲げられた扉は、中に人が入るなり、看板がピカピカとライムグリーンに点滅し始めた。
扉の外に設置された木製のベンチに、3人はやむなく腰かけた。
そこに、一足遅れてドラコとハーマイオニーが駆け寄ってきた。2人は、一度実家へ連絡を入れたので、少し遅くなったのだ。
暗い顔で座り込む3人を見やった2人もまた、不安そうな顔で処置室の看板を見上げた。
看板の点滅は収まりそうになかった。
聖マンゴ治療院から程よく離れたロンドンの路地裏。
簡易ながらもマグル除けが施されたそこに3人の男がいた。
頭装備は解除したが、変わらず漆黒のインバネスコートをまとったセブルス=スネイプ。(もちろん、青ざめた霧はまとっていない)
犬のように歯をむき出しにして威嚇するように彼をにらみつけるシリウス=ブラック。
おろおろと双方を見やるリーマス=ルーピン。
彼らは最初、聖マンゴの総合待合にいたのだが、シリウスがセブルスに怒鳴ってつかみかかろうとしたため、案内魔女に注意されたが、それでもシリウスが続けようとしたため、つまみ出されたのだ。
「どういうことだ」
再度、唸るようにシリウスが尋ねてきた。
「スニベルス、テメエ、何を知ってやがる?あのみょうちきりんな魔法を、どうやってか終わらせたな?
あのヘザーとかいうガキは何だ?
ハリーは一体何に巻き込まれたんだ?
吐けよ、全部!」
一方のセブルスは沈黙したままだった。無表情のまま、猛烈な勢いで思考を巡らせている。
ハリーJr.とメイソン夫妻が巻き込まれるのは必然だった。彼らはヘザーの家族だから。特に、ハリー=メイソンは教団にとっては宿願を邪魔した怨敵の一人だ。
ドラコとハーマイオニーは、おそらくメイソン姉弟と居合わせてしまった。事故のようなものだ。
だが、目の前のこの二人は、なぜ巻き込まれたというのか。・・・予想はつくが、あまりにも短絡的かつ愚かなそれに、まさか早々飛びつくとは考え難い。
「・・・スネイプ、私もシリウスに同意する。いったい何が起こったんだ?説明してくれ」
黙して語らぬセブルスに、ルーピンもまた促すように尋ねてきた。
「・・・質問に質問を返すのは実に愚かなことだが、一つだけ聞かせたまえ。
貴公ら、黒いワンピースを着た色白の女と会ったか」
「はっ!答えるわけねえだろ!」
「Missウルフのことかい?」
「おい、リーマス!」
セブルスの問いかけを、シリウスは嘲笑するが、ルーピンが口をはさんだため、彼を叱責した。
「ウルフ?」
「クローディア=ウルフと名乗っていた。その・・・」
気まずげにルーピンは視線を伏せるが、ややあって思い切ったように顔を上げてから続けた。
「ダンブルドアからの紹介で知り合った人なんだ。
仲良くしていた家族の、年の離れた娘が誘拐されて、ずっと探していて、このイギリスで目撃情報があったと言っていた。
Mr.メイソンの、隠し撮りらしいマグル製の写真を見せられて、この男が誘拐犯だと、言われて」
「はっ!とうとう化けの皮が剥がれたな、スニベルス!
てめえがグルになって、リリーとハリーをだまくらかしてんのは、わかり切ってんだよ!」
勝ち誇ったシリウスを、セブルスは一瞥もしなかった。ただ、一つ眉間のしわを深くしただけだ。
「・・・余計なことを」
「どうなんだい?事実なのか?」
「否定はせんよ」
「そらみろ!認めたぞ!」
「実の母親に生きながら燃やされて、死ぬに死にきれない地獄のような苦しみを味わった少女を保護することを誘拐と称するならば、確かにハリーは誘拐犯だろうな」
「?!」
「適当なこと抜かしてんじゃねえよ!そんなことあるわけねえだろ!」
「シリウス!ちょっと黙っててくれ!」
「おい、ムーニー!こんなやつの言うことを信じるってのか?!こいつは“死喰い人”だぞ?!今だって“例のあの人”につながってるに決まってる!」
「シリウス!君は話に来たんじゃないのか?!君の中で結論が決まっているのなら、何のためにここにいるんだ?!ちょっと黙っていてくれ!
私と!スネイプに!話をさせてくれ!」
「ムーニー!裏切るつもりか!」
「違う!裏切らないために、私は正しいことを知らなければならないんだ!
Missウルフの話は、あまりにも都合のいい話だと思わないのか!
16年前、私は疑心暗鬼にとらわれ、話し合いを放棄した。その結果、親友たちを失った。
もう繰り返したくないんだ!」
にらみ合うシリウスとルーピン。目をそらしたのはシリウスの方が先だった。
「勝手にしろ!」
吐き捨てると、ずかずかと足音も派手に路地裏から去っていく。
「シリウスが済まない」
「貴公は
頭を下げるルーピンに、セブルスは吐き捨てながら、シリウスの実母に当たる亡きヴァルブルガを思い出した。
勘気の強い女性ではあったが、シリウスがやらかしたら頭を下げて謝罪のフクロウを飛ばす分別くらいは持ち合わせていた・・・らしい。レギュラスが、酒の席でぽろっとそんなことをこぼしていたのだ。
ともあれ、どうにか気を取り直したルーピンは改まった様子で尋ねてきた。
「その、ヘザーとMr.メイソンの事情は、本当なのかい?」
「いささか込み入った事情はあるが、おおむねは」
「生きながら燃やすって・・・なんでまた?」
「その母親が、当時彼女が住んでいた町にはびこるカルト宗教で、生贄の儀式を行おうとしていたからだ。
そして、クローディアという女は、その同類だ」
セブルスの言葉に、ルーピンは蒼白になった。
「そんな・・・!」
「言っておくが、そのカルト宗教もただの狂ったマグルの戯言ではない。
その力の片鱗が、先ほどの奇怪な世界だ。
今は、強制的に一時中断にさせているが、いつ再開するかはわからん」
「じゃあ、私は・・・また、その子にひどい苦しみを味わわせた連中に引き渡そうとしたっていうのか・・・?」
震える声でうめいたルーピンは勢い良く頭を下げた。
「すまない、スネイプ!私は!私は、なんてことを!」
「謝る相手が違う。私ではなく、メイソン一家にしたまえ」
「もちろんだ。だが、君は彼らのことで一番怒る権利があるはずだ」
セブルスの言葉に、ルーピンは頭を下げたままだ。
セブルスはその白髪交じりの茶髪を、毒気を抜かれた思いで眺めた。3年前のルーピンが赴任してきたときも、こうして謝られたのだったか。
あの当時は、こいつはわざとやっているのかと思いはしたが、ようやっと納得できた。ルーピンは、何も考えてないのだ。
良くも悪くもまっすぐな、グリフィンドール気質のままに行動していたにすぎない。
「貴公は知らなかったのであろう。もう、あの女を信用してくれるな。
それから、ハリーが気がついたら、彼の話も聞いてやってくれ」
「もちろんだ。
・・・Mr.メイソンが、早く良くなればいいのだが」
顔を上げてうなずいたルーピンは、すぐに視線を落とした。
セブルスは、聖マンゴのある方に首を向けた。
続く
【ステープラー】
紙に「コ」の字型の針(ステープル)を刺し通し、針先の部分を両側から平らに曲げて、紙を綴じる文具。
本来、事務用品であり、人体に用いる場合は専用のものがある。
お母さんとジュニアは魔法が使えていいなあ、というヘザーに、でも魔法使いはSFを楽しめないと思うよ、とハリーは語った。
そのハリーの切り裂かれた腹を、魔法は癒すことはできず、武骨な文房具こそが応急処置に適応できたのだ。
次回の投稿予定は来週日曜日です。内容は、ヘザー、因縁の地へ。頼れるおじさんと弟君に、駄犬も添えて。お楽しみに。
ちょっと悩んでるのでアンケートのご協力をします。5月23日まで設置しておきます。
ちなみにどれを選ばれても彼は最終的な破滅は約束されてますので、悪しからず。
シリウスの末路は?
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スンナリと御臨終
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クルーシオを倍プッシュだ!
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奴は思い出にはならないさ