セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、お付き合いくださり、ありがとうございました。評価、お気に入り、ここ好き、ありがとうございます。
 アンケートにご協力いただいてありがとうございました。

 みなさんのおかげで、シリウスの最後は無事に決定しました。どうなるかはまたやっていきます。

 というわけで、続きです。


【4】セブルス=スネイプ、三度サイレントヒルへ

 

 ヘザーは一人、夜闇に包まれた街を歩いていた。

 

 父はいまだに聖マンゴの処置室から出てこない。

 

 待合で待っていた母は、粘っていたものの途中でベンチから転がり落ちるように意識を失ってしまった。

 

 魔力の使い過ぎらしい。セブルスおじさんが言うには、おじさんが駆けつける前に化け物と戦闘していたというし、そのあとも血まみれの父の治療をほとんど一人で頑張っていたのだという。ドラコとハーマイオニーが助力に入ってもなお、魔法を使っていたのだ。その足でポートキー作成呪文まで使った。倒れない方がおかしい、と駆け付けて診てくれた癒者(ヒーラー)が言っていた。

 

 父と、母が、倒れた。自分が、巻き込んだ。自分の、せいだ。そう思ってしまえば、もうヘザーはいてもたってもいられなかった。

 

 弟とその友人たちに、トイレに行くと言ってヘザーはその場を離れた。

 

 そして、そのまま聖マンゴを抜け出して、地下鉄を乗り継いで家路にたどる。今度は普通だった。化け物もいないし、通行人は普通に歩いている。パズルじみた妙な仕掛けもない。

 

 昼間の出来事は、白昼夢というには質が悪いが、まるでそう、悪夢のようだった。目が覚めたら消えてしまう、それだった。

 

 けれど、まだ終わってない。否、始まってすらいないのだ、きっと。

 

 ヘザーは自身の左腕を見た。血で描かれているはずなのにキラキラと青く光る不思議な模様は、今は包帯の下に隠している。聖マンゴに行ったとき、癒者(ヒーラー)が質の悪いいたずらだと勝手に消そうとしてきたので、やむなく包帯に隠したのだ。

 

 ヘザーにはわかる。この模様があるから、今は普通でいられる。でもこれが消えたら、またあの世界が戻ってくる。

 

 ヘザーは、左手を掻きむしりたくなるのを必死にこらえた。

 

 痒い。模様が描かれているところが、発疹のように赤くなり、猛烈な痒みを訴えている。けれど掻いてはダメだ。掻いて模様を消すわけにはいかない。

 

 痒みをこらえながら、ヘザーは地下鉄を降りて、家の前にたどり着いた。

 

 そして、そこにあの女がいた。クローディアと名乗った、あの女が。

 

 「どうして!」

 

 ヘザーは、鉄パイプで殴りかからずにいる自分をほめたいと思いつつも、女に食って掛かった。

 

 「どうして父さんをあんな目に遭わせたの!どうして母さんが倒れる羽目になったの!どうして弟と友達を怖い目に遭わせるの!

 どうしてよ!!」

 

 「ハリー=メイソンには、17年前の復讐を行っただけよ。そして」

 

 女はひたと、水色の双眸――狂気ともいえる一種の熱量を孕みつつも、透き通ったその目で、ヘザーをしかと見据えて言った。

 

 「あなたにその、憎悪を植え付けるため。でも、あまりうまくいかなかったようね」

 

 残念そうに、クローディアは目を伏せた。

 

 ヘザーは確信を深めた。

 

 ここでこの女を仕留めなければ、まだ生きている家族や友達に、何をしでかすか。

 

 ぐつぐつとヘザーの腹の底で感情が煮え立つ。父を傷つけ、母を追い詰め、弟と友達を怖がらせた。許せない。今はまだ全員生きている。だが、もし彼らのうち誰か一人でも死んだら。絶対に、許せない。

 

 「あんたたちの狙いは私でしょ?これ以上、私の周りに手を出すなら、タダじゃおかないわよ」

 

 「かわいそうに。まだ、本当のあなたが目覚めないのね。あなたはこんなところにいるべきじゃない。もっと崇高な使命がある。わかっているでしょう?」

 

 「知らないわよ、そんなこと!勝手に楽園でも神でも好きなだけ信じてたらいいわ。でも、私たちを巻き込まないでよ!いい迷惑だわ!」

 

 お気に入りの白いベストのポケット――母が魔法をかけてくれたから、何でも入るそこから、最近の物騒さを鑑みて持ち歩いていた鉄パイプを引き抜いて、ヘザーは怒鳴った。

 

 同時に、その傍らに誰か立った。思わず、ヘザーはそちらを見る。

 

 親愛なるセブルスおじさん(怪しい帽子とマスクはつけてない)がすぐ隣に立って、クローディアに銃口を突き付けていた。

 

 「どうやら、邪魔が入ったようね。今は、ここまでにしましょう」

 

 踵を返して、クローディアは夜闇に溶け込むように姿を消した。

 

 「待ってるわ」

 

 そう言い残して。

 

 かちゃりっと、セブルスが銃を下ろした。つられるようにヘザーもまた鉄パイプを下ろす。

 

 「おじさん」

 

 「このような時分に、一人で行動とは感心できませんな」

 

 「・・・入院の支度に来たのよ。パパの着替えとか、お財布とか。こっちの健康保険証、あっちで使える?」

 

 「ヘザー」

 

 少し強く呼ばれて、ヘザーは口を閉ざした。見透かされてる、とヘザーは思った。おじさんに、言い訳は通用しない。このおじさんは、昔から目端が利くのだ。

 

 「ねえ、おじさん。何が起こってるの?私が関係してるのよね?

 私のせいで、パパも、ママも、ジュニアも、ドラコとハーマイオニーも・・・」

 

 「貴公のせいではない」

 

 力なくうなだれるヘザーの肩に手を置いて、セブルスはいたわるように言った。

 

 たとえ大好きなおじさんの言葉であっても、この時のヘザーは素直にそれを受け止められなかった。

 

 顔を背け、ヘザーは先ほどまでクローディアが立っていた郵便受けの前に歩み寄った。

 

 郵便受けの蓋が少し傾いている。何か郵便物が入ったのだろうか?ヘザーは、セブルスが呼び止めるのを無視して、郵便受けの中身を確かめた。

 

 入っていたのは古びた封筒の手紙と、新しそうな封筒の手紙が一通ずつ。古びた手紙の方を開けてみれば、便箋には端的にこう書かれていた。

 

 “サイレントヒルで待ってる”

 

 その文章をたっぷり凝視したヘザーはややあって顔を上げて、難しい顔をしているセブルスを振り返った。

 

 「おじさん。私、サイレントヒルに行く」

 

 「ヘザー」

 

 「おじさんもわかってるんでしょ?このままじゃ終わらないって」

 

 「ヘザー。貴公はその気になれば、この場で終わらせることもできる。それでも行くというのかね?」

 

 試すような問いかけをするセブルスに、ヘザーは大きくうなずいた。

 

 「ダメよ、おじさん。私は、()()()()()()()()()()

 

 「そのために、命を落とすかもしれなくとも?」

 

 「死なないわよ。だって」

 

 ヘザーは首をロンドン市街の方へ向けた。聖マンゴのあるだろうそちらへ。

 

 「家族と友達が待ってるもの。胸を張ってみんなのところに帰るために、私は終わらせなくちゃいけない。

 おじさん、サイレントヒルへの行き方を教えて」

 

 ヘザーの強いまなざしに、セブルスは17年前のことを思い出した。

 

 そういえば、あの町で出会ったばかりのハリー=メイソンも、セブルスの逃げた方がいいという言葉に、娘を探し出すまでは逃げたくない、と頑として言い張っていた。

 

 頑固なところは、親子らしくそっくりだ。

 

 そして、セブルスはそんなメイソン一家に、とても甘いのだ。

 

 「・・・Mrs.メイソンに怒られますな」

 

 「パパにもね。大丈夫、私も一緒に叱られるわ」

 

 「何がどう大丈夫なんだね?」

 

 セブルスは苦笑気味に言ってから、メイソン宅を見上げた。

 

 「5分で支度したまえ。国際煙突飛行ネットワークを使えば、短期にアメリカに渡れるだろう」

 

 「うん!」

 

 大きくうなずいて、ヘザーは鉄パイプをしまうと急ぎ家の中に飛び込んだ。

 

 着替えと救急箱から医療品、パスポート、旅行用ビザはあの女の手紙の中にご丁寧にあったので問題なし、それから。

 

 ヘザーは父の書斎に入り込むと、ごめんなさい父さん、と心の中でハリーに謝りながら、本棚の仕掛けを起動して、隠し金庫を開けた。

 

 そして、中に納まる本物の銃を手に取る。――あの異常な世界のパン屋で拾った銃は、いつの間にか消え失せていた。

 

 そして、そのそばにあったノートが目についたので、手に取った。

 

 表紙に大きく書かれた、“愛する娘へ”と書かれたそれを、ヘザーはベストのポケットにそっとしまう。

 

 金庫を閉めて、本棚を戻し、書斎の入り口に立ったヘザーは中を見回した。

 

 何もかも、いつものままだった。デスクの上――父の書き物用の眼鏡も、ペン立ても、広げられた原稿も、積み上げられた本も。

 

 今にも、背後から父が「何をしてるんだい?ヘザー」と言いながらやってきそうだった。父は、そうしてデスクにかけて、仕事を始めるのだ。「ああ、締め切りが!」と言いながら、眼鏡をかけてペンを手に取って。

 

 今朝までは、それが変わらぬ日常だと思っていた。今、それが失われかけている。

 

 ヘザーは振り切るように、書斎のドアを閉めて、玄関に立った。

 

 一度真っ暗な家の中を見回してから、彼女はぽつりと言った。

 

 「・・・行ってきます」

 

 いってらっしゃいの声はない。当然だ。けれど、ヘザーは行く。そして、お帰りの言葉を聞くために、必ず帰るのだ。

 

 そうして彼女は玄関の扉を閉めた。もちろん、鍵をかけるのも忘れずに。

 

 

 

 

 

 セブルスに連れられて、ヘザーは国際煙突飛行ネットワークがあるという場所に来た。一見すると、聖マンゴのように偽装されているようだ。

 

 父のハリーはマグル除けが効いてしまって、魔法使いが立ち入る場所には近寄りたがらないが、ヘザーは魔法は使えなくとも、こういう場所を見抜いてしまうのは得意だった。

 

 もっとも、見抜けるというだけで、彼女がスクイブだとわかると、途端に魔法使いたちは気の毒そうな顔をするか、あるいは蔑むような顔をするのがお決まりだった。だから、ヘザーはそういうところを見抜きはしても、あまり立ち入らないようにしていた。

 

 セブルスが語るには、煙突飛行ネットワークは魔法省が厳しく管理しており、利用には身分証が必要不可欠らしい。

 

 現在、セブルスは魔法薬関連の資格やホグワーツで教職を勤めていることもあって、その信用でヘザー一人程度ならばいっしょに利用できる、とのこと。

 

 ちなみに、身分証がろくにないと保証金だなんだで、利用料金が割高(下手をすれば倍額以上)になるらしい。

 

 緑色の煙にむせそうになりながらも、ヘザーはセブルスとともに煙突飛行用国際暖炉のある場所を出た。

 

 そこはもう、ロンドンではない。見知らぬ街だ。ごみごみとした高層ビルがいくつも並ぶさまは、父の取材旅行で何度か見たことがあるが、何度見ても慣れる気がしない。

 

 「どうやってここから、ええっと、例の町に行くの?」

 

 サイレントヒルの名前を人前で出してはいけないと聞いていたヘザーが言えば、セブルスが答えるより早く、別の声がかかった。

 

 「ヘザー!おじさん!」

 

 聞こえるはずのないその声に、二人はぎょっとして振り返った。

 

 見れば、ハリー=メイソンJr.が駆け寄ってきているところだった。

 

 「ジュニア?!あんた何でここにいるの?!」

 

 「・・・未成年の国際煙突飛行ネットワークの利用は制限されているはず。何故ここにいる?」

 

 ヘザーとセブルスが問いただせば、ハリーJr.は後ろを振り返った。

 

 「ブラックさんがなんか適当なこと言ってて。

 おじさんが、ヘザーを連れ去ってクローディアに売り飛ばすとかなんとか?そんなことするわけないって思ったけど、二人がなんかこそこそしてるなら、適当に話を合わせて追いつこうと思って。うまくいってよかった」

 

 しかし、ハリーJr.は怪訝な顔をした。

 

 「あれ?ブラックさん、どこ行ったんだろ?さっきまでそこにいたと思ったんだけど」

 

 「~~~っ! すぐに戻るの!もし、パパとママに何かあったらどうするの!二人を守れるのは、今、あんたしかいないのよ?!」

 

 「いやだ、ヘザーと一緒に行く」

 

 険しい顔でしかりつけるように言ったヘザーに、向きなおったハリーJr.もまた頑なだった。

 

 「父さんと約束したんだ。もし、父さんに何かあった時、僕がヘザーを守るって。

 父さんと母さんは・・・ルーピン先生と、ドラコとハーマイオニーにお願いしてきた」

 

 「だからって!」

 

 「覚悟はできているのかね?」

 

 なおも言い募ろうとするヘザーを遮って、セブルスがハリーJr.を見やった。

 

 「バジリスクや吸魂鬼(ディメンター)を相手にするのとはわけが違う。死体すら残らぬ、死後も救いのないことになるやもしれぬ。それでも、行くというのかね?」

 

 「うん」

 

 セブルスの問いかけに、ハリーJr.は大きくうなずいた。

 

 「おじさん!」

 

 「貴公らはよく似ている。言い出したらきかないところがそっくりだ。

 急ぐとしよう。その腕の封印は、そう長くはもたん」

 

 セブルスの言葉に、ヘザーは自身の左腕を見やった。

 

 痒みは治まったが、今度はひどく熱っぽい。まるで爆発寸前のように思えた。セブルスの言うとおり、もうすぐ限界が訪れる。そうなったら、またあの世界が戻ってくるのだ。

 

 あの、悪夢のような異常な世界が。

 

 ヘザーは弟を見やった。本当に、生意気になった。お姉ちゃんの言うことをちっともきかない。けれど、誰かが一緒にいてくれるのは心強い、とあの異常な帰り道で強く思い知らされた。けして口には出さないけれど、ヘザーはこっそり安どしてしまったのだ。

 

 「では、行くとしよう」

 

 言って、セブルスは懐から何かを取り出した。赤い封蝋が捺された、古びた封筒だ。すでに開封済みらしい。

 

 セブルスは、その手紙を一撫でしてから、スパッと右手を振り上げた。

 

 直後。馬のいななきが遠くから聞こえた。

 

 カポカポという蹄の音とともに、2頭立ての馬車がやってくると、3人の前に停まった。御者はおらず、古びた馬具と真黒な装飾品に、馬まで真っ黒であるため、ともすれば霊柩車のようにも見える。

 

 やがて、その扉がきしみながら不気味に開かれた。

 

 「えっと・・・?」

 

 「乗りたまえ」

 

 もの言いたげな顔でセブルスを見上げるハリーJr.と、ちょっと引き気味のヘザーをよそに、セブルスはシレッと馬車の階段を踏んで中に乗り込んだ。

 

 ヘザーは周囲を見回した。自動車が行きかい、歩道には人がひしめく大都会だというのに、この馬車はまるで空気か何かのように総無視されている。

 

 これも魔法かしら、とヘザーは不気味に思いながらも続けて馬車に乗り込み、そのあとにハリーJr.も乗り込んだ。

 

 すると、勝手に扉が閉まり、馬車が動き出した。

 

 「セストラルの馬車なら乗ったけど、こういうのは初めてだなあ。おじさん、この馬って何かの魔法生物なの?」

 

 「さてな。私もよくは知らぬ」

 

 かすかな振動が伝わるだけの馬車の車内で、ハリーJr.が問いかければ、セブルスは首を振ってこたえた。その視線がちらと上に向けられたが、すぐに前に戻された。

 

 一方のヘザーは、少し落ち着ける様子になったからか、書斎の金庫に置かれていたノートを開いて目を通していた。

 

 ハリーJr.はもの言いたげな顔をしたが、すぐに沈黙した。

 

 カポカポという馬の蹄とガラガラという車輪の音。窓にはカーテンがかけられているので、外の様子は見えない。

 

 しばらく経ってから、ヘザーは深い息とともに、ノートを閉じてポケットにしまうと、馬車の壁にもたれかかった。

 

 「ヘザー?何かあったの?」

 

 「・・・大丈夫」

 

 ハリーJr.の問いかけに答えたヘザーに、セブルスは視線を向けて行った。

 

 「ヘザー。ジュニアには事情を話すべきだと思うが、構わんかね?」

 

 「うん」

 

 姿勢を正してヘザーがうなずいたところで、セブルスは話し出した。

 

 「今回のことは、サイレントヒルという町にある、土着の宗教が絡んでいる」

 

 「サイレントヒル?」

 

 「その昔は聖なる土地と呼ばれていたそうだ。そこにあった土着の宗教が、キリスト教やほかの宗教の影響を受け、一種のカルトのような独自の思想を持つようになった。これが前提知識だ」

 

 淡々と、セブルスは語った。

 

 「今から24年前、その宗教――地元住民からは単に『教団』と呼ばれているその組織に、一人の女司祭がいた。その女は自身の娘を依り代に降神術の儀式を行った。儀式は成功。娘は生きながら炎に焼かれ、死ぬに死に切れぬ地獄のような苦しみを伴いながらその身に神を宿した」

 

 「神?」

 

 「『教団』はそう定義していたがね。人ならざる大いなる力の化身を神とするならば、確かにあれは神なのであろう。

 だが、神を宿した娘は、そこで抵抗をした。

 もとより、魔女、あるいはスクイブに近かったのであろうな。はたまた、その身に神を宿したからこそできたのか。いずれにせよ、娘は己の魂を半分に分かち、その半分の魂をある赤子に宿して、逃がしたのだ。

 そして、その赤子はある夫婦に拾われた。妻が亡くなり、男手一つで、彼は娘を育て上げた」

 

 「え・・・あれ?でも、24年前?」

 

 聞き覚えのある・・・重なる経歴に、ハリーJr.はヘザーの方を見たが、数字が合わないことに気が付いて、首をかしげた。

 

 「そして、17年前。当時、私は世界一周(グランドツアー)の一環で、サイレントヒルを訪れていた。

 そこで私は、ある男と会った。ハリー=メイソンと名乗るその男は、8つになる娘とはぐれたから探していると語った」

 

 ハリーJr.の顔がこわばった。

 

 「途中経緯は省かせてもらうが、結論から言えば、ハリーの娘こそが、その分かたれた半分の魂の持ち主だ。本来の娘が母親に痛めつけられ、苦痛に耐えかねて呼び戻してしまったのだ。二者が融合した結果、ハリーの娘はこの世から消えてしまったのだ。

 そうして、その娘から出現した神とやらを、私とハリーは確かに倒した」

 

 馬の蹄とかすかな振動以外沈黙する馬車の中で、セブルスの声が響き渡る。

 

 「その後姿を現した娘――アレッサという娘は、最後の力で赤子を生み出し、ハリーに託した。

 そしてその赤子は、今、私の目の前にいる」

 

 セブルスは静かにヘザーを見つめた。ハリーJr.もまた、つられるようにヘザーを見やった。

 

 「ハリーはサイレントヒルを脱出後、ポートランドに移り住み、私の紹介でMrs.メイソンとジュニア、貴公らとともに暮らすようになった。

 だが、そこでトラブルが起こった。『教団』の追手が襲撃をかけてきたのだ」

 

 びくっと姉弟が身を震わせた。

 

 「覚えているかね?」

 

 「ぼんやり程度なら。強盗だって、父さんも母さんも言ってたけど・・・違ったの?」

 

 「おかしいって思ってたの・・・。

 ジュニアと母さんの事情があるのに、なんでイギリスにもう一度移り住むことになったんだろうって・・・。

 そいつらから逃げるためだったんだ・・・」

 

 姉弟の言葉に、セブルスはうなずいた。

 

 「ヘザー。貴公の中には、神がいる。私とハリーは確かにあれを殺したが、根本的な解決にはなっていない。

 貴公の体が神を産むのにふさわしい状態まで熟達し、そこに教団の連中が接触してきてしまったがゆえに、此度の事態に至ったのだ」

 

 ここで、セブルスは一度言葉を切ると、深々とため息をつくように言った。

 

 「できれば、このような日が来ぬことをハリーは常々願っていた。私もだ。

 何も知らず、安寧に暮らせるならば、それに越したことはない」

 

 疲れたような、どこか悲しげなつぶやきに、おじさんのせいじゃない、と姉弟は思いはしても口にはできなかった。

 

 「ヘザー。“お守り”はもっているかね?」

 

 「え?うん・・・」

 

 唐突に会話が飛んだが、ヘザーはベストの上から首に提げているロケットを触った。肌身離さず持ち歩いているものだ。

 

 「結構。けして手放してはならぬ。その時が来たら、うまく使いたまえ」

 

 「・・・うん」

 

 セブルスの言葉に、ヘザーはわけがわからないながらもうなずいた。

 

 ややあって、ガタンッと馬車が大きく振動して、止まった。

 

 「ついたようですな。では、行くとしよう」

 

 またしても勝手に開かれた扉から外に出ながら、枯れ羽帽子と防疫マスクをまとったセブルスは言った。

 

 セブルスの後に続いて、二人は外に出た。

 

 真夏だというのに、ひんやりした空気に包みこまれ、二人は身を震わせた。

 

 馬車の外は、すでに白い霧に包みこまれ、人っ子一人見当たらない。馬車はどうやら、モーテルの駐車場に停められているらしい。

 

 3人が降りたところで、馬車は勝手に動き出し、そのまま霧の彼方に姿を消した。

 

 「いっ?!」

 

 「ヘザー?!」

 

 ここで、ヘザーは左腕が異常に痛んだのにたまらずうめいた。ハリーJr.の声に大丈夫、と答えながら、彼女は左腕を覆っていた包帯を取り去った。

 

 青くキラキラ輝いていたはずの不思議な模様は、いつの間にか黒ずんで年月が経ったようにひび割れている。そして。

 

 息をのんだヘザーに応えるように、それらは水ににじむように跡形もなく消えてしまった。・・・左の薬指の指輪のような輪も一緒に。

 

 息をのんで模様があった場所を眺める二人をよそに、セブルスは素早く二人を突き飛ばし、振り向きざまに右手をかざした。

 

 無言呪文の盾の呪文(プロテゴ)による光の膜は、放たれた赤い閃光を弾いて防ぐ。

 

 「勇猛果敢なグリフィンドールを誇る割には、不意打ちを得意とするのは今も昔も変わりませんな」

 

 「はっ。知らないのか?“死喰い人”のような卑怯者に、正々堂々と戦ってやる義理はねえんだよ」

 

 セブルスの言葉に答えるように、男が姿を現した。

 

 左手でかぶっていた銀色の液体のようにも見える不思議なマントを脱ぎ捨てている。これが、彼が姿を隠せていたカラクリだろう。

 

 「ブラックさん?!」

 

 「悪いな、ハリー。使わせてもらった。後で返すよ」

 

 ぎょっと声を上げるハリーJr.に、シリウス=ブラックはしゃあしゃあと言ってのける。

 

 セブルスは一つ眉をひそめた。

 

 あれは透明マントだ。巷に流通しているちゃちな模造品ではない。ポッター家が所有していた、本物だ。

 

 あれはヴォルデモート襲撃の前に、ジェームズ=ポッターがダンブルドアに預け、彼にそのまま保管されていた。そして、4年前のアクロマンチュラ騒動の余波で周辺を調べられたダンブルドアは、その保管を違法行為だとされて透明マントは没収されて、ブラック家の金庫に預け直されたはず。

 

 なぜシリウスが持っている?

 

 「驚いたか?ダンブルドアが教えてくれたんだよ。透明マントを不正に持っているレオだかノワールだかってやつのことをな。

 ジェームズは、()()こいつを残してくれたんだ。ブラック家に、ってわけじゃない。

 俺が出所できたら当然、俺が持つのが筋ってもんだ」

 

 得意げに話すシリウスに、セブルスは防疫マスクの下で舌打ちした。あの狸爺は、本当にろくなことをしない。

 

 「話は聞かせてもらったぜ」

 

 言いながらシリウスは、続けて取り出した人の耳にひもが付いているようなおもちゃのようなものをプラプラと振って見せた。

 

 セブルスは、それを知っていた。

 

 双子のウィーズリーが営む『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ』の看板商品の一つ。

 

 「“伸び耳”か」

 

 それは、例えセブルス開発の盗聴防止呪文である耳塞ぎ(マフリアート)を使っていようと、中の会話を盗み聞きできる盗聴グッズだ。

 

 「ああ。優秀な後輩を持ててうれしい限りだ」

 

 自慢げに語るシリウス。大方、国際暖炉ではぐれたと見せかけて透明マントで姿を隠し、馬車の上に魔法で飛び乗ってそのまま密行。中の会話を“伸び耳”で盗聴した、というところか。

 

 どうして、この男はこうもいらんところで知恵を回すのか。

 

 セブルスは、今更ながらこの男を野放しにしていたことを強く悔いていた。

 

 「ブラックさん!いい加減にして!

 国際煙突飛行ネットワークを使わせてくれたことは感謝してるよ?ヘザーのことを『教団』に売ったのも、知らなかったからでしょ?

 でも、なんでいきなりおじさんを攻撃してくるんだよ!

 わかってるの?!父さんと母さんが倒れたのは、ブラックさんのせいでもあるんだよ?!」

 

 ハリーJr.が強い憤りをもって叫んだ。

 

 

 

 ヘザーが戻ってこない、と気が付いたハリーJr.は、真っ先にヘザーがあのクローディアという女を追いかけるつもりだ、と判断した。

 

 倒れた母と処置室から出てこない父のことを、気が引けながらも友達二人に託そうとしたところで、声をかけてきたのはルーピンだった。

 

 『二人のことは私に任せてくれ。私も責任を感じているんだ。

 本当に済まなかった』

 

 そう言って深々と頭を下げてきたルーピンを、ハリーJr.はこれ以上責める気になれなかった。

 

 同じ原因の一端であるはずなのに、どうしてルーピンとシリウスはこうも違うのか。

 

 それでも、ハリーJr.はシリウスをまだ信じていたかった。確かに、初対面の父を詐欺師呼ばわりしてきたし、セブルスおじさんに連日の嫌がらせもしてきた。

 

 それでも、恩師の一人であるルーピン先生の友達で、血縁上の父の親友だというなら、話せばわかってくれる。どこかでそれを信じていたのだ。

 

 

 

 だが、ハリーJr.のそんな内心の懇願にも似た思いを、他でもないシリウス本人が踏みにじってきたのだ。

 

 「かわいそうになあ、ハリー。スニベルスと偽物の家族なんかに騙されて」

 

 憐れむような表情をしたシリウスの言葉に、ハリーJr.は頭が真っ白になって「は?」と聞き返していた。

 

 「まだわからないのか?血のつながりもない、化け物を体に入れたそんなガキ、家族なんかじゃないって言ってるんだ。

 こっちに来るんだ。俺が、助けてやる」

 

 きりっと決意を秘めた表情になって、シリウスはセブルスと警戒の面持ちになったヘザーを交互に睨んだ。

 

 「そのガキもスニベルスも、俺がやっつけてやる。そうすれば万事解決だ!」

 

 「ふざけるな!そんなことしたら絶対に許さない!」

 

 「大丈夫だハリー!偽物家族のことも、スニベルスのことも、俺が忘れさせてやるからな!忘却術(オブリビエイト)がある!

 そしたら、イギリスに帰って、一緒に暮らそうな!ああ、リリーも一緒がいいなら、そのくらいは許そう!裏切り者でも、一応ジェームズの妻だったからな!」

 

 ハリーJr.は絶句した。まるで意味が分からない。

 

 ヘザーはといえば、宇宙人を見る目をシリウスに向けていた。

 

 セブルスはといえば目深にかぶった枯れ羽帽子と防疫マスクのせいで表情はわからなかったが、その身からにじみ出る気配が明らかに尋常ではない、寒気を掻き立てるものになっていた。

 

 「だからちゃっちゃと死ねよ、スニベルス!」

 

 杖を振り上げたシリウスに、セブルスは右手で盾の呪文(プロテゴ)を維持しながら背後の二人に言った。

 

 「行きたまえ」

 

 「おじさん?!でも!」

 

 「前に進むのは若者の特権だ。ならば、その背を守るのは年長者の務めだ。行きたまえ。

 必ず二人で戻ってくるように」

 

 「・・・わかった。おじさんも、気を付けてね。必ず、勝ってね」

 

 シリウスを見据えたまま言ったセブルスに、ヘザーが静かに、しかし強く言った。

 

 「無論だ。後で会おう」

 

 振り向きもせずにセブルスがうなずいたのを合図に、二人はサイレントヒルの町中に向かって駆け出した。

 

 「逃がすかぁ!」

 

 その背に向かってシリウスが呪文を放とうとするが、すかさずそこに茶色の大ぶりのものが投げ込まれた。瓶の先に火が付いたそれは、火炎瓶という投擲武器の一種だ。

 

 とっさにシリウスは大きく体をひねってそれを避けるが、ガシャンとそれが砕けた先の地面が燃え上がるのを目の当たりにして、舌打ちした。

 

 投げつけてきたのは、言わずもがなセブルスだ。

 

 「てめえっ・・・!」

 

 「ここから先は通さぬ。いい加減貴様の相手をするのも飽いた」

 

 犬のように歯をむき出しにしてセブルスをにらみつけるシリウスに、セブルスが静かに言い放った。その両手には、ノコギリ鉈と獣狩りの短銃が携えられていた。

 

 

 

 

 

 続く

 




【伸び耳】
 『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ』の商品の一つ。耳の形をした盗聴アイテム。

 人の耳の形をした模型にひもが付いたような見た目をしている。使用時は、耳の部分をドアの隙間などをくぐらせ、ひもの先端を耳に当てる。ひそひそこそこその内緒話も一発で聞き取れる。

 内緒話は気になるものだ。秘密は甘いものなのだから。わかるよ?だからこそ、恐ろしい死が必要になる。愚かな好奇を、忘れるような。



 アンケートの結果と内容の詳細については、また後でやります。この場では割愛させてください。





 次回の投稿は来週!内容は、セブルス=スネイプVSシリウス=ブラック。ヘザーとハリーJr.はサイレントヒル観光、まずは病院行き。お楽しみに。

シリウスの末路は?

  • スンナリと御臨終
  • クルーシオを倍プッシュだ!
  • 奴は思い出にはならないさ
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