セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回はお付き合いくださり、ありがとうございました。評価、お気に入り、ここ好き、感想、誤字報告もありがとうございます。

 Q.アンケートの項目、ややこしい書き方しないでもらえます?思い出にならないさって、記憶にとどまらずに忘れられるって思うでしょ?普通。

 A.FFⅦACをご存じない・・・?ストーカーセフィロスのご退場間際の名台詞だと思っていたんですが・・・?
 (FFⅦACが20年前のものだと発覚して宇宙猫顔になる)ジェネレーションギャップってやつですかね・・・。
 まあ、せっかくのアンケートの結果ですので、忠実にやります。復活は第7楽章8になります。お待ちくださいませ。

 というわけで続きです。


【6】セブルス=スネイプ、脅す

 

 家族や友人たちへの手紙は弟に任せ、ヘザーはセブルスから届いた手紙に目を通していた。

 

 二人の身を案じていることから始まった手紙は、自身の無事を語り、続けてシリウス=ブラックの処分は終わったので心配は無用だということが書かれている。

 

 そして、北岸の一角にある教会こそが『教団』の根拠地であり、おそらくクローディアもそこにいるだろう、ということと、そこへ行く道順が書かれていた。

 

 自分もそこに行くが、遅れそうだということ、くれぐれも無茶しないように、行くならば二人で力を合わせ、けしてはぐれぬように、と結ばれていた。

 

 ヘザーは読み終えて便箋をたたみながら、考える。

 

 セブルスおじさんは大したことではないように書いているが、おそらくおじさんは自分たちよりも険しい道のりであるに違いない。

 

 クローディアは、父を殺そうとした。17年前の復讐だと言って。その矛先は当然、セブルスおじさんにも向く。

 

 だから、おじさんは自分たちとは別行動をしているのだ。巻き込まないために。

 

 今一番危ないのはヘザーでもジュニアでもない。セブルスおじさんなのだ。

 

 そして、そのことを悟らせまいと、こちらを案じることしか書いてない。それもヘザーにとっては悔しいことだった。

 

 いつまでも、自分は守られる子供でしかない。守ってもらえることは気にかけてもらえてうれしいことではあるが、それは対等な大人扱いされてないことでもある。それが情けなかった。

 

 家族と友達を守るために死地に赴いたはずなのに、肝心な部分は守ってもらっている。そんな気がしてしまうのだ。

 

 せめて、クローディアは倒す。背を守ってもらった以上、前を向いて駆け抜け切って見せる。

 

 弟の方を見れば、彼は書き終えた手紙を封筒にしまって封をしてから、ブラックウッドに託している。

 

 「聖マンゴ治療院ってわかりますか?そちらにいるリリー=メイソンに届けてください」

 

 「はい。承ったよ」

 

 ニコリと笑って頷いて見せるブラックウッドを、ヘザーは胡散臭げな眼差しで見やった。

 

 そういえば、セブルスと父のハリーが文通をしているのは、ブラックウッドが手紙を届けていることで成立していた。

 

 セブルスは、ホグワーツにいる。イギリス唯一の魔法の学校であるそこは、生半な侵入者は受け付けないとヘザーも弟や母から聞き及んでいる。そんな場所に、この男はどうやって手紙を届けているというのか。この分なら、本当に聖マンゴ治療院――魔法使いの病院にも、平然と足を踏み入れてしれっと手紙を届けて見せるのだろう。

 

 ・・・あまり深く考えない方がいいだろう。敵ではないのだ。それで良しとするべきだ。

 

 ヘザーは首を振って思考を打ち切ると、霧の中に去っていくブラックウッドに頭を下げるハリーJr.に話しかけた。

 

 「手紙、ありがと」

 

 「うん。で、おじさんの手紙、なんて書いてあったの?」

 

 「クローディアがいるだろう場所と、そこへの道順。行くなら気をつけろって。

 あと」

 

 ここでヘザーは言葉を切ると、一応シリウスを気にかけていたらしい弟に言うべきか少し迷ったが、それでも続けた。

 

 「あのブラックってやつを処分したって。心配無用って」

 

 「・・・そっか」

 

 「あのさ。あんた、なんであんな奴に気を配ってたわけ?」

 

 少し寂し気に視線を落としたハリーJr.に、ヘザーはあきれた様子で尋ねた。

 

 弟がお節介焼きで、あれこれと友人や周囲を気にかけるのをヘザーは知っている。乱暴ですぐに手が出て、口も悪い自分とは違い、優しく面倒見がいいのだ。

 

 だからと言って、あの男にこの弟の優しさを向ける価値があるとは、ヘザーにはどうしても思えなかった。増して、今回の事件の元凶の一端を担ってもいるのだから。

 

 「・・・僕ね、あの人に一つだけ感謝してることがあるんだ」

 

 ポツリとハリーJr.がつぶやくように言った。

 

 「僕の名前を付けてくれたこと。“ハリー”って、大好きな父さんとお揃いの名前でしょ?

 あの人にとっては偶然だったんだろうけど、僕は実はとっても・・・その、誇りに思ってるんだ。

 だから、何時か・・・和解は難しくても、普通に話すとかできたらいいなって思ってたんだ。せめて、僕の前で父さんやおじさんを侮辱したことを振りでもいいから謝ってくれたらって」

 

 「こぉの、お人よし」

 

 力なく笑ったハリーJr.の頭をヘザーは、ペチンと軽くはたく。この弟は、本当にお人よしが過ぎる。

 

 「ごめんね、ヘザー」

 

 「何で謝るのよ」

 

 ふいに、顔を伏せてこぼされたハリーJr.の謝罪の言葉に、ヘザーは瞠目した。

 

 「僕がいたから、ブラックさんが絡んできて、ヘザーも、父さんも母さんも大変なことになっちゃって・・・」

 

 「あんたのせいなわけないじゃない!それを言うなら、あたしのせいでしょ。あたしが、いたから・・・!」

 

 「ヘザーのせいじゃないよ!」

 

 二人の姉弟は険しい顔でお互いを見やって、ややあってはあっと同時にため息をついた。

 

 「やめましょ。不毛だわ」

 

 「うん」

 

 こういう時、普段ならヘザーは「お姉ちゃんの言うこと聞きなさい!」と怒鳴るし、ハリーJr.も「都合いい時だけお姉ちゃんぶらないでよ!」と怒鳴り返す。取っ組み合いのけんかになるのも珍しくない。

 

 けど、今は状況が状況だった。

 

 それに、喧嘩したら必ず父母が止めてくれたのだ。「そろそろご飯よ」「どっちもどっちじゃないか」などと仲裁に入ってくれたのだ。けれど、今二人はいない。止めてくれる人間に、無意識に甘えていたと二人は否応にも悟っていた。

 

 喧嘩してる場合じゃない。二人ともそれを強く意識していた。

 

 「クローディアの居場所が分かったんだよね?どこに行けばいいの?」

 

 「うん」

 

 気を取り直して話を促したハリーJr.に、ヘザーは観光地図を広げて、指で道をたどりながら説明した。

 

 「この道をたどったら、遊園地に出るそうよ。

 その先の教会にいるだろうって」

 

 「長い道のりだね・・・。

 絶対化け物と変な仕掛けのオンパレードだよ・・・」

 

 「そもそもまともな道かさえも怪しいわね。

 病院みたいに、あの不気味な感じになるかも」

 

 「うええぇ・・・」

 

 ヘザーの言葉に、ハリーJr.は嫌そうに顔をゆがめた。

 

 ヘザーは「不気味な感じ」と言ったが、それまでの廃墟然とした病院の内装から一転して、鉄錆と煤、後は血管や内臓を思わせるグロテスクな模様が壁や床を這いだしたのを、そんな一言で片づけるのはいかがなものか。

 

 あれを目の当たりにしたハリーJr.は、この場にハーマイオニーやドラコがいなくてよかったと心底から思ったものだ。1年時のハロウィーンのトロール侵入からのなれの果てを目の当たりにした二人は、かなり参っていたのだ。そもそも、ショッピングモールからの不気味な帰り道でさえ、あの二人は相当堪えていたようだった。

 

 二人をこれ以上巻き込まないように、というのもあってハリーJr.は二人に父母のことを頼んだのだが、今更ながら正解だったと彼は強く思った。

 

 「・・・あれも“神”の仕業なの?」

 

 「多分ね。まあ、ああいうものを実体化させたり、化け物が這いずり回るのを良しとするあたり、まともなのじゃないわよ。神は神でも、場末の神様ね」

 

 「聖書に全力で喧嘩売ってるような話だよね」

 

 「あんた、魔法使いなのに聖書信じてるんだ」

 

 「一般教養の話だよ。ヘザーだって信じてないくせに」

 

 「聖書が本当なら、とっくに人類は滅びてるわよ。

 右も左もまともじゃないわ。ノアの箱舟を残して大洪水で洗い流してこのざまだもの。聖書の神様も人間に愛想をつかすに決まってるわ。

 ・・・だとしても、私たちは勝たなくちゃいけない」

 

 肩をすくめて、ヘザーは観光地図をたたんでベストのポケットにしまい直した。

 

 「出発するわよ、ジュニア。

 さっさとクローディアをぶちのめして、帰りましょ」

 

 「うん!」

 

 ハリーJr.が大きくうなずいたところで、二人は出発した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 セブルスはノコギリ鉈を一振りして、べっとりとまとわりついた血を払い落す。まとった狩り装束も真っ赤な血濡れだった。

 

 その足元には化け物の残骸が転がっていた。鈍器のように太い両腕の奇怪な化け物だ。ノコギリ鉈に散々切り付けられ、ズタズタにされている。

 

 視界は真白の霧ではなく、夜よりもなお暗い闇に覆われ、遠くから化け物の足音や蠢きが聞こえてくる。サイレントヒルの街並みであるが、メイソン姉弟が目の当たりにしていたものよりも数段不気味なものだった。

 

 錆だらけの金網と、煤で汚れた壁、血管や内臓を思わせるグロテスクな模様と装飾。空気の中には、焦げ臭さと生臭さが入り混じった悪臭がする。

 

 ヘザーの予想通り、セブルスの道はメイソン姉弟がたどるそれより数倍険しいものだった。

 

 メイソン姉弟が相手にしたものよりも、巨体で殺傷力あふれる形状の化け物が道を防ぎ、殺意全開で襲い掛かってくる。パズルじみた仕掛けも健在で、その関係で来た道をひき返す羽目になり、少し目を離しただけで再び現れた化け物に襲い掛かられる始末。

 

 セブルスでなければ、死んでいたことだろう。

 

 不自然に横転した自動車や断崖じみたアスファルトの切れ目、はたまた崩れた建物のせいで道をふさがれたセブルスは、仕方なさそうに空いている建物の一つに入り込んだ。

 

 後ろ手でドアを締めながら、セブルスは素早く左手で獣狩りの短銃の銃口を前に向けた。

 

 「物騒なものを向けるのはやめてくれ!」

 

 銃口の先にたたずむ男が、悲鳴を上げながらホールドアップして見せる。

 

 先刻手紙を託した顔なじみの郵便屋などではない。茶髪に眼鏡をかけた、見知らぬ男だ。着ている服は上等なものだ。

 

 見た目には普通の男に見える。こんなところにおらず、ビジネス街の一角で、会議室の椅子を温めている方がよほど“らしい”感じに見えた。

 

 「・・・何者だ」

 

 「人に名前を聞く前に、まずは名乗ったらどうだ?

 おっと、失礼。

 私は、ヴィンセント=スミスというものだ」

 

 両手こそ上げたままだが、ヴィンセントを名乗った男はすぐに不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

 枯れ羽帽子と防疫マスクの下で、セブルスはひそかに眉を顰める。

 

 知らない名前だ。もっとも、こんなところにいるのだ。おのずとどういった筋の人間かは絞られる。

 

 「・・・『教団』の手のものか。私を殺しに来たか」

 

 「だから待ってくれ!話し合おうじゃないか!」

 

 獣狩りの短銃の引き金にかけた指にグッと力を籠めようとするセブルスに、ヴィンセントは顔を引きつらせて金切り声を上げた。

 

 「この通り、私は武器丸腰だ!

 連中を従えさせて君を襲わせようとなんてしてない!

 私は君の!君の友人たちの味方だ!」

 

 必死の形相であれこれと言ってくるヴィンセントに、セブルスはほんの少し毒気を抜かれた。

 

 ついこの間見に行った教え子の店で店員をやり始めた蜘蛛男をほうふつとさせたから、というのもあった。

 

 ・・・何かおかしな真似をしたら、その時こそ殺せばいい。

 

 シレッとそんなことを考えながら、とりあえずセブルスは銃を下ろした。

 

 「はあ・・・わかってくれて何よりだ、Mr.――」

 

 「セブルス=スネイプだ」

 

 「セブルス=スネイプ・・・ああ、あの・・・」

 

 ほっとした様子で両手を下ろしたヴィンセントは、セブルスの名前を聞いた途端、得心がいったようにうなずいた。

 

 「ハリー=メイソンと共謀して、聖女を誘拐した大罪人か」

 

 眼鏡を押し上げながらこともなげに言ったヴィンセントに、セブルスの左手に持ったままだった獣狩りの短銃が再び持ち上げられる。

 

 「私が言ったんじゃない!

 クローディア=ウルフ!あのイカレババアの後釜の、気●い女(クレイジービッチ)だ!」

 

 急ぎ再びホールドアップして見せるヴィンセントに、セブルスは再び銃口を下ろして見せた。

 

 「はあ、聞きしに勝る血の気の多さだ」

 

 「貴公、雑談がしたいならば壁にでも向かってやりたまえよ。私は先を急いでいるのだ」

 

 呆れた様子で再び手を下ろすヴィンセントに、セブルスは吐き捨てた。

 

 「まあ、待ってくれ。

 先ほども言ったように、私は君の、そしてヘザーの味方だ。

 少しばかり情報を交換しようじゃないか」

 

 ニヤリと不敵に笑うヴィンセントに、セブルスは黙した。

 

 「君の見抜いたとおり、私は『教団』の一員だ。

 それは確かだが、あの女は邪魔なんだ」

 

 「敵の敵は味方、あるいは呉越同舟とでも?」

 

 「その通り」

 

 「同じ神を信仰していて、敵扱いか」

 

 「信仰形態の違い、理念の不一致というやつさ。

 あの女は『楽園』とやらを夢見て期待しているが、私はあいにく現世利益に重きを置いているんだ。

 それに、あの女が言う神とやら、どうも利用できそうにない」

 

 「賢明な判断だ」

 

 吐き捨てたヴィンセントに、セブルスは口先では相槌を打ちながらも、この男は表面上ほど信用できそうにないと判断した。

 

 というのも、次の利用先がセブルスとヘザーになっているようなのだ。おそらく、この男の真の狙いは、クローディアとヘザー、そしてセブルスが巻き込まれて共倒れすることなのだろう。

 

 上手いこと共倒れになってくれたらよし。そうでなくとも、大ダメージを受けたら直接手を下すのが楽になる。そういうことだろう。

 

 自分で手を下してこようとしないのは実に腹立たしい。が、一応利益提示はしてきているらしい。

 

 「この家の裏の道は待ち伏せされている。

 だが、この家は少し特別だ。地下室が下水処理施設につながっている。」

 

 言いながら、ヴィンセントは家の奥にある地下室への扉を開いた。

 

 「そこを抜ければ、レイクサイドアミューズメントパーク――遊園地だ。

 その先は、君なら知っているだろう」

 

 振り返ってニヤッと笑うヴィンセントに、セブルスはややあってから口を開いた。

 

 「感謝する。それから、一つ忠告だ」

 

 「忠告?」

 

 嘲るように訊き返したヴィンセントは、次の瞬間息を詰まらせた。セブルスの右手に胸ぐらをつかまれ、その口に獣狩りの短銃の銃口がねじ込まれたのだ。至近距離から凄まじい殺気を浴びせられた彼は、瞬時に青を通り越して腐った粥のような顔色になった。

 

 「調子に乗るなよ」

 

 枯れ羽帽子と防疫マスクの隙間から、寒々しい宇宙色の双眸が底なしの深淵をもって、ちっぽけな男を覗き込んでいる。

 

 気が付けばヴィンセントは震え始めていた。細かな振動を立てる歯が銃身に当たってガチガチという固い音を立てる。手足を動かして抵抗しようという気概さえ持てず、ヴィンセントは目の前の、古めかしい格好の男を呆然と見やる。

 

 「今回は見逃してやる。だが」

 

 漆黒の男が言葉を紡ぐ。ひどく寒い。ヴィンセントは震えながら、茫然とそう思った。

 

 「メイソン一家に手を出してみろ。

 地の果てまで追いかけて、必ず殺してやるからな」

 

 ヴィンセントは知らない。

 

 目の前の男の姿をした存在は、その気になれば死ぬよりひどい目に遭わせることもできる。殺すという宣言は、彼なりの慈悲なのだ。(もっとも、同じ世界に置いておきたくないからあえて殺すという場合もあるが)

 

 ヴィンセントはガクガク震え、恐怖の涙を流し、銃口を咥えさせられた口の端から唾液をこぼしながら、時代錯誤の殺し屋のような恰好の男を見ながら悟った。

 

 圧し潰される、と。

 

 じんわりと股間の色を変え、白目をむいたヴィンセントは、かひゅッとおかしな息を立てながら、立っていることもままならなくなり、セブルスが解放すると同時に崩れ落ちた。

 

 そのまま、セブルスは倒れたヴィンセントを見ることなく、インバネスコートの裾をひるがえしてそのまま地下室へと姿を消した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 霧をかき分けるようにメイソン姉弟二人は先に進む。

 

 ネイサン通りを北に、道路を渡ってレイクサイドアミューズメントパーク――遊園地に来た時には、辺りは真っ暗になっていた。

 

 ヘザーは胸元のフラッシュライトを点けて、ハリーJr.は杖に魔法の明かりを灯す。

 

 「遊園地なんて何年ぶりかな?」

 

 「プライマリーに通ってた頃は、たまに遊びに行ったわね。

 ・・・できれば、もっとまともな場所に行きたかったわ」

 

 言いながらヘザーは周囲を見回した。

 

 この遊園地も例にもれず廃墟になっている。錆と煤で汚れ、ベンチや看板などの設置物は年月のせいかボロボロになっている。

 

 ヘザーにはとても見覚えがあった。・・・あのファーストフード店で転寝した時に見た悪夢。そこに出てこなかったか?

 

 そうだ。自分はナイフを持ってたが、同じようにハリーJr.が一緒にいて。

 

 「ヘザー?どうしたの?」

 

 同じような言葉を、かけられて。

 

 ヘザーは強烈な既視感に言葉を詰まらせた。確か、あの夢の最後は。

 

 「・・・なんでもない。行きましょ」

 

 同じくかぶりを振ってこたえたヘザーは、どうしても所詮は夢と笑い飛ばせなかった。

 

 だって、ヘザーは昔から勘がいいのだ。その勘がささやいている。このままだと同じことになるぞ、と。

 

 どうにかしなきゃ。弟だけは、絶対に守って見せる。

 

 声にも出さずに、ヘザーは強く誓った。

 

 

 

 廃墟のテーマパークはやはり化け物どもが徘徊していた。

 

 二人はそれをかわし、最低限の奴だけ相手をしながら奥へと進む。

 

 「これ、着ぐるみ、だよね?なんか、気味悪いんだけど。中に人が入ってると思う?」

 

 「確かめてみる?」

 

 「絶対やだ!」

 

 不気味そうに、ベンチに放置された口元に血の付いたウサギのぬいぐるみを見やるハリーJr.は、ヘザーの言葉に勢い良く首を横に振った。

 

 「じゃあ、近寄らない方がいいわよ。私も嫌だもの」

 

 シレッと言ってヘザーも嫌そうに顔をしかめた。

 

 そうして、ヘザーが悪夢で見た時と同様に、他に進める道がなかった二人は、やむなくジェットコースターへと向かう羽目になっていた。

 

 「ここ、歩くの?」

 

 「・・・でも、ほかに道がないわ」

 

 二人とも気乗りはしなかったが、仕方ない。

 

 それでも、ヘザーは途中の売店で拾った鍵で、ジェットコースターの制御室に入り込み、緊急停止ボタンをオンにしておいた。これで、たぶん、大丈夫だろう。

 

 そうして、二人はあらためてレールの上を歩きだした。

 

 しばらく歩いていると、不吉な振動がレールを震わせて二人に伝わってきた。ゴーッという風を切る音も。

 

 「っ?!」

 

 「ヘザー、降りよう!」

 

 「でも、この高さじゃ!」

 

 「僕が浮遊呪文を使う!先に降りてから、ヘザーを受け止めるから!」

 

 言ってから、ハリーJr.は「浮遊せよ(ウィンガーディアム・レビオーサ)!」と浮遊呪文を使いながらレールから飛び降りた。

 

 自身の靴に対して使ったらしいそれは、ハリーJr.の体重すべてを受け止めることはできずと、落着の勢いは減殺させて彼をレールのすぐ下にあるコンテナの上に着地させた。

 

 「ヘザー!早く!」

 

 「ああ、もう!頼んだわよ!」

 

 促されて、レールの前をちらちら見ていたヘザーもまた思い切った様子で飛び降りた。

 

 間髪入れずに、ハリーJr.は浮遊呪文を再使用して、彼女の落下速度を緩めてコンテナの上に着地させた。

 

 直後、猛スピードのコースターがレールの上を突っ切っていく。あのままあそこを歩いていたら、二人の命はなかっただろう。

 

 「なんで?緊急停止ボタン、押したよね?勝手に解除されたとか?」

 

 「さあね」

 

 青ざめた顔でうめくようにつぶやくハリーJr.に、ヘザーはこわばった顔で返した。

 

 直後。

 

 「うっ・・・ううっ・・・!」

 

 ヘザーは自分のおなかを押さえてうめきながらうずくまった。おなかが痛い。それも、単なる腹痛ではない。下腹部――生理痛をさらにひどくしたような、内臓をぞうきん絞りにかけられたような痛みだ。波のように痛くなっては治まっていた。

 

 ここまでの道中でも、何度か襲ってきたその痛みに苦しむヘザーに、ハリーJr.は顔をこわばらせると、その背をさすった。

 

 「ヘザー?!」

 

 「大丈夫っ、大丈夫だから・・・!」

 

 脂汗をにじませて言ったヘザーは、すぐに引いてくれた痛みにほっと息をつきながら立ち上がった。

 

 ・・・気のせいだろうか?だんだん痛みの間隔が短くなってきている気がする。まるで陣痛のように。

 

 「一度どこかで休んだ方が」

 

 「化け物塗れの場所でおちおち休憩できないわよ。

 ・・・あんまり、時間もないみたいだし」

 

 気遣ってくれるハリーJr.には悪いが、ヘザーはそう言って首を振ると、コンテナの周囲を見回した。

 

 幸い、化け物どもは近寄ってはきてないらしい。

 

 「行きましょ」

 

 「・・・うん」

 

 気丈に言ってコンテナから飛び降りたヘザーに、ハリーJr.は心配そうな顔をしたが、結局何も言わずに、後に続いてくれた。

 

 

 

 ジェットコースターを抜けた二人を待ち受けていたのはお化け屋敷だった。

 

 こんな異常体験の真っただ中で行く、作り物の恐怖体験。今更過ぎる、と二人が苦笑できたのは最初だけ。

 

 テンプレートを流すしかないはずの録音音声がヘザーの名前を呼んで、仲間入りを希望していると呼びかけてきたときには、ぞっとした二人は全力ダッシュで駆けだしていた。

 

 なんだかよくわからないが、背後から寒気を掻き立てる異常な気配が追いかけてきている。

 

 振り返る時間すら惜しんで、グネグネと曲がった通路を駆け抜け、二人は無事お化け屋敷から外に飛び出していた。

 

 膝に手を当ててゼエハアと息を切らすメイソン姉弟は、恐る恐るお化け屋敷の方を振り返った。

 

 先ほど飛び出したはずのドアが、いつの間にか鎖をかけられてガチガチに施錠されていたのを見た二人は、今度こそ絶句して顔を見合わせた。

 

 「どういうことなの・・・?」

 

 「悪い夢を見てるみたい・・・ってのは、今更過ぎね」

 

 かすれた声を出すハリーJr.に、ヘザーは言いかけて顔をしかめた。

 

 何もかもがかみ合わず、夢幻というにはあまりにも質が悪すぎるそれは、悪夢という言葉こそ適切だった。

 

 考えていても仕方がない。

 

 息を整えた二人は、改めて遊園地の奥を進む。

 

 頑丈に施錠されてる金網扉を、回転遊具に取り付けた鎖を用いて強引に外し、二人はさらに進む。

 

 たどり着いたのは、メリーゴーランドだった。

 

 ヘザーとハリーJr.が回転舞台の上に乗ると、勝手に電源が入って軽快ながらも、年季のせいで微妙に狂った音色のメロディーが流れ出し、舞台が動き出した。ゆるゆると回転し、配置された木馬たちも上下する。

 

 気味悪そうに周囲を見回すヘザーとハリーJr.に、その影は音もなく忍び寄った。

 

 ハリーJr.の首根っこをつかむと、回転舞台を通り越して、搭乗用の柵の方へ投げ飛ばしたのだ。

 

 「わあっ?!」

 

 「ジュニア?!」

 

 悲鳴を上げるハリーJr.が地面に転がり、ヘザーが気が付いた時には、柵は閉ざされ、二人は分断されてしまった。

 

 そして、ヘザーは見た。

 

 「あなた・・・!」

 

 ハリーJr.を投げ飛ばしたのは、ヘザーと背格好の似た人物だった。血管を編み込んだような不気味な表装をしていること以外髪型も服も同じだ。もの言いたげな目だけが、ギラギラと目立っている。

 

 影が動いた。どこにしまっていたか、ずるりと取り出したのは、緩い弧を描く刃物――ジャパニーズサムライソード、いわゆる刀だった。その切っ先は過たずヘザーに向けられる。

 

 「ヘザー!」

 

 すぐに立ち上がったハリーJr.が声を上げて、影をにらみつけた。

 

 「姉さんに何かしてみろ!ただじゃ置かないからな!

 ヘザー!すぐに行くから!」

 

 言って、ハリーJr.は杖を振り上げようとして気が付く。彼の周囲に、遊園地をうろついていた化け物どもが集まってきている。

 

 「何だよ?!何で今になって?!邪魔すんなよ!」

 

 怒声とともにハリーJr.は杖を振り上げる。クィディッチで鍛えた反射と瞬発力をいかんなく発揮し、化け物たちの攻撃をかわし、逆に攻撃呪文を当てている。

 

 一方、ヘザーは影をにらみつけた。

 

 「弟を泣かせるわけにはいかないの。悪いけど、倒させてもらうわ」

 

 言ってヘザーはハンドガンを構えた。

 

 

 

 

 

 続く




【マウンテンコースターの鍵】
 レイクサイドアミューズメントパーク、ジェットコースターの制御室の鍵。

 今や廃墟となったサイレントヒルにある遊園地は、この地が観光名所であったころの賑わいの証である。

 あるいは今でも、遊具たちは遊び手をその生死問わずに待っているのかもしれない。





 Q.前回予告のワガママなおっさんって、ヴィンセントのことですよね?なんでそんな呼称?

 A.UFOエンディングのサイレントヒルの歌を参照。ちなみに、あれによると、ダグラスは魚屋さんで、クローディアは怒ると怖い、ヘザーはヤンママだそうです。
 (ボソッ)んじゃ、ハリーJr.はシスコンか、ヒーローごっこ好き辺りですかね。セブルスさん?歌おうとした瞬間に歌が途切れるんだと思います。



 次回の投稿は来週!内容は、ついにクローディアと対峙。それでもヘザー&ハリーJr.の不気味な冒険はまだ続く!セブルスさんは異世界で看護師さんと逢引き。お楽しみに。
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