Q.意外とシリウスの復活早いですね?
A.復活はするけど、これ以降の出番はないです。私も彼は面倒と思っているので。
Q.じゃあなんで復活させたの?
A.ちらっと言いましたけど、ハリーパッパがご存命なので、ゲーム版ほどヘザーが憎しみ一直線じゃないので、胎教不足だ!とクローディアが判断したせいです。
アンケの結果?そうなるよう誘導したんじゃないのかって?なんてうがった見方の言いがかりをされるんですか!(遺憾の意)
違うんです本当にどれになってもいいようにはしてたんですはい。
というわけで続きです。
メイソン姉弟は不気味な通路を駆け抜けて、奥の部屋に飛び込んだ。
「リサはね、火傷塗れでボロボロだったアレッサの看護をやってくれたの。
あんな、生きてるのが不思議な状態のアレッサに、怯えながらも優しい言葉をかけてくれた」
奥の部屋で息を切らしながら、ヘザーは語った。
「あんな、終わり方をしていい人じゃなかったの・・・」
「・・・助けてくれたんだよね。僕も、もう少し色々話してみたかったよ」
うつむいたヘザーに、ハリーJr.も寂し気に顔を伏せた。
一つ首を振って、ヘザーは顔を上げた。そうして彼女は逃げ込んだ部屋を見回した。
「! ここって・・・!」
「え?あれ・・・ここ・・・父さんの書斎?」
同じく見回したハリーJr.が戸惑った様子でつぶやいた。
ぎっしりと壁一面に詰まった本棚。黒檀のデスク。それらはすべて何十年も経ったかのように古びて、本や原稿の類は元々なかったようながらんどうになっている。
ハリーJr.はデスクに駆け寄った。革張りのプレジデントチェアはなく、ツヤツヤとしていたデスクの表面には埃が積もっている。
「! これ、母さんの日記・・・。
なんでこんなところに・・・」
ハリーJr.のつぶやきに、ヘザーもまた歩み寄ると、赤い表紙の日記を広げて二人で覗き込んだ。
そこには、今はヘザーと呼ばれる少女とハリーJr.の子育てにあたるリリーの苦悩がつづられていた。
ハリーJr.とともにハリーとヘザーのところに転がり込むようにともに住むようになり、共に子育てする中、まとわりつくイギリスの残滓を振り払いたい、逃げたいということが書かれている最初のころ。
しばし日を空けてから再開された日記には、怒涛のことが綴られていた。本人も混乱気味のことを整理しようと書いたのか、脈絡のない内容が続いていたりしていた。サイレントヒルから帰ってきたその直後に、よりにもよって『教団』の襲撃を受け、そこでハリーとシェリルと名付けられていた5歳になった娘の事情を初めて知ったのだ。
彼らは、こんな面倒な身の上だというのに、さらに面倒なリリーとハリーJr.を受け入れてくれた。さらには身勝手な失踪をしてしまったのに、また受け入れてくれた。それが言葉にならないくらい嬉しかった。何にも代えられない、宝物だとようやく気付けた。
引っ越し先をイギリスにしようと提案したのはリリーの方だ。同じ英語圏であるのが大きいが、海を越えれば追っ手をかなり誤魔化せるだろうということ。自分と息子の事情より、ハリーとヘザーと偽名をつけられた娘の方が命の危機があると判断したからだ。
ようやく友誼を結びなおせたセブルスの警告をしかと思い返した彼女は、自分の腹を痛めて産んだも同然だと娘の危機と未来を思い、二人の子供たちの未来を案じていた。
「ママ・・・」
「僕たち、いい両親に恵まれたよね。
・・・ちゃんと、終わらせて帰ろう」
「うん」
目を潤ませた二人は、頷き合うと日記を置いてデスクから離れる。
書斎を出て、さらに二人は奥へ向かう。
通路は相変わらず錆と焦げ、あるいは血管じみた赤い線に彩られ、焦げ臭さと生臭さが入り混じった悪臭もした。
時々古びたストレッチャーがわきに置かれ、たまに元は白だったろう汚れたシーツがかけられた何かが乗せられていたりする。その何かが人型のように見えるのを、二人は意識から締め出した。
途中、またしてもヴィンセントと会った。
クローディアもそうだが、ヴィンセントはハリーJr.の存在はきれいに無視して、にこやかにヘザーに話しかけている。
メトラトンの印章を持っているかという確認と、それについて書かれた本を託した彼は、そのまま姿を消した。
「やっぱりそれが、鍵になる?」
「・・・」
「ヘザー?」
病院で拾った銀の紋章付きメダルを見やるヘザーは、何事か考えこむように目を伏せ、ハリーJr.に呼ばれてからはっと顔を上げた。
「え?何?」
「それの使い方、わかる?本には使い手も危険って書かれてたけど」
「・・・なんとなく」
「そっか。じゃあ、必要な時はお願い」
「うん」
ハリーJr.にうなずいて、ヘザーはメダルをベストのポケットにしまった。
* * *
セブルスは錆と焦げ、血管じみた赤い模様に覆われた通路を歩いていた。左側の壁は金網と化しており、その向こうでは膿で汚れた包帯を全身に巻いたような異形がいた。きりきりと奇妙な痙攣をしながら壁に設置されているハンドルをガラガラと回している。
回る。巡る。繰り返す。アレッサは死ねど、ヘザーはいる。神を産むことを定められた娘は、けして死なない。けして終わらず、その時が訪れるまで繰り返すのだ。
そう物語るように。
セブルスはそれを横目で眺めると、取り出した左手の射撃武器を構える。今度は獣狩りの散弾銃だ。金網をすり抜けて炸裂した散弾に、しかし異形は屁でもないというかのように無視してハンドルを回し続ける。
舌打ちをしてセブルスは武器を下ろすと、先を急ぐべく奥の扉を開いた。
そこは、教会らしい礼拝堂だった。しかし、古びた内装、焦げと血管じみた赤い紋様に彩られており、お世辞にも神聖な雰囲気はなかった。
そしてその最奥に一人の男がいた。
「スミスか?」
ポツリとセブルスが言えば、ヴィンセント=スミスを名乗った男が振り向いた。きりきりと奇妙に痙攣し、がくがくと手足を震わせるその様は、生きた人間の動きではなかった。眼鏡はなく、眼球があったはずのところは黒い穴と化して血の涙をこぼす。
ベキリミチリと男が変貌する。骨を軋ませ、肉を膨れ上がらせ、その大きさを肥大させた。
『なぜだぁぁ!何故、なぜ、ナゼェェェェ!』
濁った声で“ヴィンセント”が喚いた。
奇妙に太い胴、ダラダラボトボトと涎をこぼす口、短すぎる手足のせいで四つん這いになり、濁った声はやがてブキィブキィッといういななきに変わる。例にもれず、ケロイドじみた表皮と膿で汚れた包帯のような模様は健在だ。顔の部分は垂れ下がった肉でしわまみれだったが、ある動物を連想させた。
セブルスはそれを眺めて眉を顰める。
かつて、サイレントヒルを訪れたシビルという女性警官は、操られてハリーに襲い掛かったことがある。17年前のアルケミラ病院では明らかに人間としての容姿を留めた化け物どもが徘徊していた。つまり、『教団』には人間を生きながら化け物に変えるすべが存在しているのだ。
それが適用された結果が、ご覧の有様だ。
「目の前の餌に食らいつくだけの不信心者は豚に成り下がれということかね?
悪趣味極まる」
吐き捨ててセブルスはノコギリ鉈を持ち上げた。
「豚は死ね」
低い唸り声のような恫喝だった。
セブルスは豚が嫌いなのだ。まして相手が元はどういう存在であったか知っていれば、手加減や躊躇をしようという気は微塵も起きなかった。
自分が何を崇めていたか、甘く見ていた人間に差し伸べる救いの手を、セブルスはもってない。そこまで慈悲深くはない。彼は狩人なのだから。
“ヴィンセント”は礼拝用のベンチを蹴散らし、セブルスに突進してきた。
セブルスは流麗な狩人のステップでそれを避け、すぐさま距離を取る。すかさず“ヴィンセント”は身をひねるように反転した。セブルスがぼんやりしていたら、そのまま弾き飛ばされていたことだろう。
セブルスはノコギリ鉈を振りかざした。
* * *
不気味な通路を抜けたメイソン姉弟は、どんどん奥へ、深い深い場所へと向かっていると感じていた。
ハリーJr.からしてみれば見知らぬ内装の部屋に突き当たることがあった。
すっかりアレッサとしての記憶を取り戻したヘザーは、その一つ一つを懐かし気に目を細め、そんな場合じゃない、と言いながらもハリーJr.に思い出話をしてくれた。
ハリーJr.からしてみれば一つ上の姉であるはずなのに、その時だけはまるで知らない大人の女性と話しているような気分になる。奇妙な感じだった。
「懐かしいわね。こうしてみると、この机も小さくて、今はもう座れないか」
微笑交じりに言いながら、ヘザーは机を撫でた。
プライマリーの教室だ。ただし、メイソン姉弟が通った学校のものとは雰囲気が違う。教室のど真ん中にぽつんと置かれた机は傷だらけで、油性マジックで見るに堪えない罵倒が書かれているが、ヘザーはなんてことないという顔をしていた。
ハリーJr.はそれがつらかった。こんなことを当たり前だと思ってしまったアレッサを、なんて寂しい人だろう、と悲しく思った。
「・・・アレッサも、悪ガキに追いかけられて気が付いたら煙突の上に腰掛けてたことがあったの?」
「さすがにそれはなかったわね」
「じゃあ、遠足で行った動物園の檻のガラスをうっかり消したりとか」
「ないってば。あんたじゃないんだから」
「・・・じゃあ、なんでこんな」
「四六時中暗い顔して不気味な経典とか黒魔術の本を読んでたのよ。誘われてもずっと一人でいたの。
母さん――一番最初の母さんから、クラスメートと遊ぶなって言われてたから。そんな低俗な連中と馴れ合うなって。
言うことをきかないと叩かれたり、ご飯を抜かれたりしたの」
「・・・ごめん」
「いいの。済んだことよ。
昔は昔。今はあんたたちと遊ぶのも楽しいし、アレンやフィリアたちとバイトしたり、好きにできてるもの。気にしてないわ」
視線を落としたハリーJr.に、ヘザーは気丈に笑って顔を上げた。
気を取り直して、二人は教室を模した部屋を出た。
ところが、次のドアを開けたところで、ヘザーは困惑した。
内装が先ほどのプライマリーを模した部屋よりも古臭いのだ。そのくせ、机や黒板はある。どういうことだろうか。
「ここ、ホグワーツ?」
「え?」
見回して呟いたハリーJr.に、ヘザーが振り向いた。
「やっぱりそうだ。ここ、ホグワーツだ。僕が知ってるのより、大分古臭いけど、見覚えがある・・・。
なんで?」
「変ね・・・。
この異世界はアレッサとクローディアが中心になってるの。あんたの魔法の学校が関わってくる要素なんて・・・」
メイソン姉弟は顔を見合わせた。
直後。
『・・・ぇぇぇぇぇぃ・・・ぅぅぅぅぅ』
地獄の釜底から響く亡者の声が聞こえるなら、まさにこんな声音だろうか。
ギクリッと身動きを止めた二人を捕捉したように、声はどんどん大きく、はっきりと聞こえてくる。こちらに、近寄ってきているのだ。
『・・・ぇぇぇぇぇい・・・ずぅぅぅぅぅ・・・じぇぇぇぇぇぇい・・・ぅぅぅぅぅ・・・じぇぇ・・・いむずぅぅ・・・、じぇぇぇぇぇぇいむずぅぅぅぅぅ!』
誰かを呼ぶ声に、メイソン姉弟はとっさに身構えた。ヘザーは銃を、ハリーJr.は杖を、それぞれ構える。
ガタガタっと教室のドアが振動した。直後、それがはじけ飛ぶように開かれた。
姿を見せたのは、ひどく醜い狼男――否、犬男だった。ペタリと垂れた長い耳、長い手足、手には杖を携えている。ただし、異世界の怪物どもの例にもれず、毛皮はなくてケロイドのような表皮と、膿で汚れた包帯状の模様と、内臓や血管を連想させる醜い瘤をそこかしこに拵えていた。腹部は裂けて、臓物らしき肉塊が無造作にこぼれている。
目元は包帯で覆われている。大きく裂けたような口からは虫歯にやられたようなボロボロの黄色い牙がこぼれ、だらりと垂れるピンクのナメクジのような舌からよだれが滴る。
その体躯は、長身痩躯というべきか、大の大人よりも一回りほど大きかった。
まるでどこかの水場から引きあがってきたばかりのようにずぶ濡れのそれは、びちゃびちょっと水を滴らせながら、動いた。
『じぇぇぇぇぇぇいむずぅぅぅぅぅ』
濁りながらも、その声に聞き覚えのあったハリーJr.は思わずつぶやいてしまった。
「ブラックさん・・・?」
途端に、醜い犬男の動きが止まった。
勢いよくハリーJr.を見やるそれの、口の端がにたぁッと吊り上がる。
『じぇぇぇぇぇぇいむずぅぅぅぅぅ!!』
喜色に満ちた声音とともに、それがとびかかる。
「
反射的にハリーJr.は杖をふるい、ヘザーもまた銃弾をぶっ放す。
真紅の閃光は狼男を吹き飛ばし、その手に持った杖を奪う。ヘザーの銃弾は、瘤の一つにあたって、膿混じりの血のような汁をこぼす。
『じぇーむず!ヒドイジャナイカ!
ナンデ俺ヲ攻撃スルンダ?!』
古びた床に転がって、犬男が喚く。
まるで信じられないというように、ハリーJr.を見やっている。
これまでの怪物たちとは異なり、“リサ”のようにしゃべった。濁った声で若干のたどたどしさはあれど、しゃべって見せたのだ。
それを目の当たりにしたハリーJr.が思わずたじろぐのをよそに、犬男が立ち上がる。
『俺ダ、しりうすダ!
じぇーむず、ヤット会エタ!遅カッタジャナイカ!
サア、コンナトコロ、サッサトおさらばシヨウゼ!
二人デいぎりすニ帰ロウ!』
嬉々とした様子で立ち上がって犬男が言った。ぶんぶんと嬉しそうに尻尾が左右に振られている。
それを見て、ヘザーはぞっとした。見た目の問題じゃない。この怪物は、目の前のハリーJr.を見ていない。彼を通して、別の誰かを見ており、その人物を目の前のハリーJr.に強要しようとしてる。
病院で見かけたスタンレーの手記や、バースデーソングを歌う電話とはまた別ベクトルの気味悪さだった。
「気持ち悪っ」
思わずこぼしてしまったヘザーの声は、本人が思っているより大きく聞こえた。
途端に犬男がぎょるんと勢いよくヘザーを振り返った。包帯で覆われているはずの目が、確かに彼女を射抜く。
『オ前ェェ!コノ、化ケ物ガ!』
叫ぶと同時に犬男は、ばっと勢いよく跳んでハリーJr.が弾き飛ばした杖に飛びついた。
『アバダケダブラ!』
放たれたのは緑色の閃光。
ハリーJr.はとっさに姉を突き飛ばした。おかげで攻撃は二人に当たることなく空振りする。
「ジュニア!」
「ヘザー!あの緑の光に当たっちゃダメだ!即死するよ!」
怒声を放って、ハリーJr.は犬男をにらみつけた。シリウス=ブラックに対する戸惑いと躊躇いはすぐになくなった。一度ならず二度まで、姉に手を上げた。もう許せない。
ヘザーもまた、すぐに銃を構え直す。こうなる前なら、なんて失礼な男だろう!と憤慨しても、でも有事の時は弟の力になってくれるかも、と考えられた。だが、この男のせいでメイソン家はめちゃくちゃだ。おじさんにやられても、懲りずにやってくるストーカー。なんて奴!
『じぇーむず?ナンデソンナ化ケ物ヲカバウンダ?コッチニ来イ!
一緒ニヤッツケヨウ!俺トオ前ガソロエバ無敵サ!』
「僕はジェームズじゃない!僕はハリー=メイソンJr.だ!
不思議そうに首をかしげる犬男に言い返し、ハリーJr.は杖をふるった。
だが、この攻撃は無言呪文の
『ソウカ・・・。
じぇーむず、俺ガ正気ニ戻シテヤル!待ッテロ!』
「誰が待つか!」
「あんたの方が化け物で立派な気●いでしょうが!」
悲しそうに肩を落とす犬男は、すぐに背筋を伸ばしてヘザーに顔と杖先を向ける。すかさずメイソン姉弟が怒声によるツッコミを返した。
犬男は、これまで二人が相手をしたどの化け物よりも手ごわかった。動きは俊敏で、手にした杖からは魔法を放つ。
しかも、無作為に暴れまわる化け物どもとは異なり、ヘザーを優先的に狙い、使う呪文も死の呪文を優先して放つのだ。
さらに、こちらの攻撃を
打つ手なしかと思われたが、二人は目ざとく気が付いた。
犬男が攻撃に移る瞬間は、どうしても
これが付け入る隙だ。
ハリーJr.が盾のように割って入り、ヘザーの銃撃が『アバ』と唱えかけたものの躊躇した犬男の手から杖を叩きとした。
「
すかさずハリーJr.が杖を振って、犬男の杖を粉々に砕く。
やった!
ほんの一瞬、ハリーJr.は喜びに顔を輝かせた。油断大敵。彼はその言葉を身をもって知る羽目になった。
『じぇーむずっ!』
「わあっ?!」
瞬時にとびかかってきた犬男は、ハリーJr.の胸ぐらをつかみ上げると、そのまま勢いよく投げ飛ばした。
壁にたたきつけられたハリーJr.はぐったりと動かなくなった。ヘザーのいるところからその顔は見えない。
「ジュニアァァァ!」
『仕方ナインダ。目ガ覚メタラキット正気ニ戻ッテイル。
ダガソノ前ニ』
悲鳴を上げてハリーJr.に駆け寄ろうとするヘザーの前に、犬男は悠然と佇んで肩をすくめて見せた。そうして、それはヘザーに向き直った。
『悪イ化ケ物ハ退治シナイトナ』
「どいてよ!」
ヘザーが怒声を張り上げるが、犬男はハリーJr.の杖を拾い上げて構えた。
ハリーJr.は動かない。足は変な方に曲がっているし、明らかに意識ない様子だ。早く手当てしなければいけないのに。
ところが、目の前の犬はたとえ誰かの身代わりだろうとハリーJr.の無事なんてどうでもいいと言わんばかりに、ヘザーを殺すことを優先しているのだ。
今度こそヘザーの中でブチッと堪忍袋の緒が切れた。どろどろとしたドス黒い感情が腹の内をのたうつ。
「汚い手でジュニアのものに触んな!勘違いストーカー野郎!
ヒトの弟で(自主規制)すんな!イカ臭えんだよ!」
『』
ヘザーの暴言に、犬男は一拍呆気にとられたように硬直し、ややあって下品だと言わんばかりに口の端をゆがめた。
シリウス=ブラックは確かに粗野な口調だし、純血貴族の上品さは堅苦しいと嫌っていたが、ここまであからさまなFワードをぶちまけられたことはなかったのだ。
『下品ナ化ケ物メ!』
再び犬男が杖を振り上げようとした。
直後。
『ぐおあっ?!』
ブシャッと肉の裂ける音がして、背後に強烈な一撃を食らった犬男は体勢を崩す。そして、その腹から血まみれの手が突き出された。それは内臓らしき肉塊を道連れに引き抜かれる。
たまらず片膝をつく犬男をしり目に、背後の人物が姿を現した。
「大事な友人の忘れ形見というのに、置き忘れていたからな。使わせてもらった」
「おじさん!」
血で汚れた透明マントを脱ぎ捨ててシレッと言ったセブルスに、ヘザーはぱっと表情を輝かせた。
『すぅぅにべぇるすぅぅぅ!
コノ!卑怯者メェェェェ!』
振り向こうとした犬男に、セブルスは左手を振り抜いた。
そこにつけられた分厚い鉄の塊――ガラシャの拳が、筋力99の手加減抜きの勢いのまま、犬男を殴り飛ばしていた。
吹き飛んだ犬男はちょうどヘザーのすぐわきを通過して、そのまま奥の黒板に小さなクレーターを作ってたたきつけられていた。
「犬の糞というのも訂正しよう。貴様は、駆除すべき化け物だ」
吐き捨てて、セブルスは隣にやってきたヘザーをジロリと見下ろした。
「いくら怒りのあまりとはいえ、品がなさすぎですな。
ハリーとMrs.メイソンが聞けば、どこでそんな言葉を覚えたと激怒しますぞ」
「う・・・ご、ごめんなさい・・・」
叱責を受けてヘザーが気まずそうに肩を落とすのをよそに、セブルスは無言呪文でハリーJr.の杖を回収して、血まみれの透明マントとともにヘザーに渡した。
「ヘザー。すぐにジュニアを連れてこの場を離れたまえ。
この化け物は私が引き受けよう。
すまぬ。確かに仕留めたと思ったのだが・・・」
セブルスは言いながら、黒板から滑り落ちて、頭を振って立ち上がろうとする犬男を見やった。
ヘザーは、そんな犬男と目の前のおじさんを見比べると、ややあって弟を担ぎ上げた。
「助けてくれてありがとう!おじさん、ごめんね!先行くね!」
言い捨てたヘザーは、脱兎の勢いで駆けだした。
『コノ!化ケ物ガァァ!』
ハリーJr.を背負っている背を向けられているにもかかわらず、怒りに目がくらんでいる犬男は、鋭い爪を振り上げる。巻き添えなど考えもしてないに違いない。
すかさず割って入ったセブルスが、瞬時に切り替えた右手武器を振りかぶる。分厚い杭のごとき切っ先がギラリと光るそれは、パイルハンマーだ。
大砲のような轟音がとどろき、犬男の右腕が丸ごとミンチと化して消し飛んだ。
反動でたたらを踏んで後ずさる犬男は、右腕のあったところを押さえて『ギャアアアッ?!俺ノ!俺ノ右手ガァァァァ!!』と悲鳴を上げて膝をつく。
随分と大げさでひ弱だとセブルスが思うのは、100年ヤーナムで散々死んで痛めつけられたからかもしれない。
「叩いて叩いて潰して潰してピンク色の肉片にしてやろう。
貴様ごときを気高き女王陛下と同じにするのは業腹だが、一度殺しても何も学ばぬならば、いっそ原型すら残さぬ挽肉にした方がまだ生産性があろう」
言いながらセブルスはパイルハンマーの切っ先をガシャッと収納して、犬男を見やった。
対する犬男は、右手を押さえながら怒りのままに目の前の男を見た。激痛はカンフル剤となって、彼にさらなる怒りと憎悪をもたらしたのだ。
だから、常ならばわずかでも疑問視できたであろう思考ステップは働かない。
目の前の男は
そして当然、犬男は気が付かない。
枯れ羽帽子と防疫マスクの隙間から見える、セブルスの双眸に。宇宙のようなきらめきを備えながらも、凍てついたそれを。以前は確かにあったはずの、憤怒や憎悪といった人間らしい熱量を伴う感情はなく、どうでもいい相手を見るような色しかないことに。
『っ、てめえぇぇ!』
怒声とともに犬男は激痛も忘れてセブルスにつかみかかろうとしたが、大ぶりで隙だらけのそれはセブルスにとっては値千金の機会であり、犬男にとっては致命傷だった。
セブルスの姿が掻き消えたと思ったら、犬男は口の中に何か固いものをねじ込まれていた。獣狩りの散弾銃の銃口だ。
引き金が引かれ、散弾と化した水銀弾が口の中から頭部をズタズタにする。悲鳴を上げようにも喉も吹き飛ばされた犬男は、反動でそのまま後ろに後ずさるが、セブルスはそれを許さない。
踏み込みながら、次弾装填のパイルハンマーが再びその切っ先を轟音とともに炸裂させた。
胸部がミンチと化して弾け飛び、ズタズタの肉塊同然の犬男は崩れ落ちそうになるが、セブルスは容赦しなかった。
「
セブルスが右手を一振りすれば、犬男の肉片がジュグリと蠢きながら元の形状を取り戻す。
治癒魔法は回復速度が早ければいいものではない。急速な治癒は痛みを伴うもので、犬男はまるで上半身をミキサーにかけられているような激痛に、たまらず転げまわった。
『ギャアアアアアアッ!』
「いつまで喚いているつもりだ」
うずくまって痛みにうずくまる犬男に、セブルスの声が冷然と降り注ぐ。
「さっさと立て」
『ひっ』
「爪を振り上げ牙を向けてこい。
ただの挽肉製造など、退屈極まる。
狩りだ。闘争だ。私にはそれが必要なのだ!
さあ!かかって来い!」
しりもちをついた犬男が見上げ、かろうじて見えたセブルスの目は、ギラギラとした熱量を宿していた。
これから始まる殺し合いに胸躍らせ、血に酔った興奮のままにセブルスが吠える。
犬男の中のシリウスの記憶にはない、セブルス=スネイプの姿がそこにあった。枯れ羽帽子と防疫マスクに隠れて表情は見えなかったが、もし見えていたら彼は嬉々として笑っていたことだろう。
ここまできてようやく、犬男は気が付いた。目の前の男は、かつてシリウスが甚振った小汚いスリザリン生とは、訳が違う。完全に立場は逆転し――否、今度は自分が痛めつけられるどころか、虐殺される。
やっとそれを悟り、犬男は目元を覆う包帯の隙間から液体を垂らし、牙を震わせ涎をこぼし、刹那にも満たぬ時間でさらに考える。
アズカバンは地獄だった。幸福な記憶を吸われて、いっそ死にたくなる陰鬱な記憶にさいなまれるばかりだった。裏切り者の糞鼠への怒りだけが正気につなぎとめてくれたのだ。
死喰い人との戦いでけがをしたことなんて、数知れず。けれど、シリウスは必ず生き残れた。
だが、目の前の存在との戦いは、それらとは根本的に何かが異なっていたのだ。そして、その違いは容赦なく、犬男の理性を崩し、闘争心をへし折った。
残ったのは、負け惜しみにも満たない遠吠えだった。
『バッ、化ケ物ォッ!
オ前ナンカ、人間ジャネエ!』
しりもちをついたまま後ずさって喚いた犬男に、セブルスはキョトリッと目をしばたかせた。彼らしくもなく、まさしく意表を突かれたようだった。
ややあって。
「クハッ、クハハハハハハハハハハッ!」
のけぞって大爆笑をしてから、セブルスは犬男を見やった。相変わらず、声の奥には愉悦と興奮が宿っている。
先ほどまで、この犬男が何をしていたか、セブルスが知らないと思っているのだろうか。
同じ化け物呼ばわりした相手でも魔法を使えぬ17の少女には死の呪文を躊躇なく使えるくせに、殺されかけたセブルスには怯えるのだ。
この男の言う正義など、弱い者いじめのための大義名分ということが立証されたのだ。
これが笑わずにいられるだろうか。否、誰よりもセブルスこそ笑う資格があるだろう。
『アッ、ヒッ、アアッ、』
もんどりうって、地面をひっかくように必死に犬男が逃げ出した。吹き飛ばした教室のドアをくぐり、廊下――例の如く錆と焦げと血管じみた赤い筋に覆われた不気味なそこを、転びながら必死に前に進もうとした。
「おや、勇猛果敢なグリフィンドールが逃げるのか」
後ろから声が聞こえる。セブルス=スネイプの姿をした、化け物の声が。場違い感すらある、のほほんとした調子で響いてくる。
犬男は必死だった。
殺される!殺される!殺される!
ただ頭の中がそれだけで埋め尽くされ、とにかく逃げなければという考えでいっぱいになる。
ドアノブに手が届く。
だが、背後から穿たれたパイルハンマーの切っ先が轟音とともに背後から犬男の胸を背骨とあばらごとミンチにした。
すさまじい肉の霰と血の雨に、セブルスは左手を振りかぶる。ガラシャの拳だ。分厚い鉄の塊に振り向きざまに顎を殴り砕かれた犬男は、その場で崩れ落ちそうになり、再度のパイルハンマーで今度は左手を消し飛ばされた。
火薬庫の作品である仕掛け武器の轟音が、犬男の凄まじい絶叫に合いの手のように伴った。
首から上はガラシャの拳で、首から下はパイルハンマーで。かつてシリウス=ブラックと呼ばれた犬男は徹底的に叩かれ叩かれ潰され潰され、ピンク色の肉片と化したのだった。
続く
【透明マント】
全身をすっぽり覆うことで、所有者の姿を他人の目から不可視にするマント。
ポッター家に伝わる家宝の一つであり、死の秘宝の一つ。市販品のものとは異なり、不可視効果は永続である。ただし、音や匂いは消せず、いくつかの魔法生物や魔道具には不可視効果が通用しない場合がある。
マントを脱いだイグノタス=ペベレルは叫ぶ。「時よ止まれ、お前は美しい!」奇しくもそれは、マグル界におけるある戯曲にも登場した言葉であった。
Q.つまり結局、シリウスはどうなったんですか?
A.サイレントヒルに取り込まれて死ぬに死ねない状態になりました。
セブルスさんは宣言通りミンチにしたんですが、血の遺志の取り込みは再度拒否されたので、その後シリウスは町にはびこっている神の力で蘇生してジェームズを探してウロウロ徘徊することになりました。
この辺のことはちょっと外伝でやります。
Q.シリウスが助かる道はなかったんですか?
A.国際暖炉でセブルス&ヘザーを普通に呼び止めてハリーJr.を預ける(無事に返せよ!くらいの威嚇くらいは許容されるでしょう)くらいでやめといたらよかったのですがね。
サイレントヒルに来た時点で、シリウスはどうあがいても助からなかったのです。
セブルスさんは子供たち二人の面倒は見ますが、ぶっちゃけ元凶の一端になった犬なんぞ知らん、文句言うなら死ねぐらいしそうですし。
子供たち二人も、原作ゲーム版のダグラス以上にシリウスを嫌っているでしょうし。
ぶっちゃけ、邪神の毒電波受信用タリスマンを持って妄想を妄信するようになっているので、それを手放すところから始めないと、どうあがいてもセブルスさんと敵対必至です。吸魂鬼対策になったアニメーガス封じの上でアズカバンに再収容されて精神的に摩耗していたところに、妄想妄信強化アイテムを装備なんて頭がおかしくなる以外の何物でもないのですがあのその。
さらに追記すれば、シリウスがそんなクソヤバアイテムを持ってるなんて、殺してアイテム漁りしたセブルスさんくらいしか知るわけありませんしね。メイソン姉弟からしてみれば、情状酌量もつきませんよ、はい。
Q.これ、ルーピンさんが知ったら絶対セブルスさんに何か言うのでは?
A.それはまたおいおいやります。
(ボソッ)海外版サイレントヒル(ホームカミングだったかダウンプアだったかは忘れました)に、その後のサンダーランド夫妻がクリーチャー化して登場してたらしいです。
ぶっちゃけ、今楽章のシリウスの元ネタはそれです。サイレントヒル近郊の湖であるトルーカ湖もいろいろ訳ありみたいで、アーケード版はそれがテーマにされているんだとか。曰くつきのスポットしかねえな、この町。
次回の投稿は、未定!内容は、いよいよクライマックス。VS神。お楽しみに。