セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、お付き合いくださり、ありがとうございました。評価、お気に入り、ここ好き、誤字報告、感想、ありがとうございました。

 Q.シリウスがおかしいの、あの毒電波タリスマンのせいだったんですね。あれの出どころとか、ほかに持ってる人とか気になるんですが?

 A.それは次回やります。先にサイレントヒルの戦いを終わらせなければいけませんからね。

 というわけで、続きです。


【9】セブルス=スネイプ、ハチの巣にする

 

 ハリーJr.を担ぐヘザーは、不気味な通路を走っていく。弟を担いだ状態での戦闘はできないうえ、そんなヘザーを化け物どもが見逃すはずもなく、ヘザーは息を切らして化け物どもの攻撃をかいくぐる。

 

 必死にドアをこじ開け、後ろ足でドアを締めれば、化け物どもはしばしドアの外を蠢いた後、のそのそと去っていく。

 

 逃げ込んだのは、父の書斎そっくりのあの部屋だ。この不気味な場所でも、比較的安心できそうだ。

 

 はあ、と息をついたヘザーはあらためて弟をそっとおろして横にした。

 

 変な方に曲がっている足は確実に折れているだろうが、それ以外見た目には大きな傷はなさそうだ。

 

 横にした弟のすぐそばに、ヘザーもまた座り込んだ。

 

 

 

 弟が気絶して転がったのを見た瞬間、ヘザーは4年前の夏休みを思い出していた。ドビーとかいうマルフォイのところのハウスエルフのせいで、ハリーJr.が横断歩道のど真ん中で車にはねられたのだ。

 

 ヘザーはそれを、間近で目撃したのだ。すぐ手が届く位置だったのに、指をくわえて見ているしかできなかった。横断歩道のど真ん中に横たわる弟がぐったりして、血だまりに沈んでいるのを見た瞬間、ヘザーは頭が真っ白になって悲鳴を上げたのだ。

 

 慌てて車を止めて降りてくる運転手と、他にも悲鳴を上げたり足を留めたりする通行人をよそに、ヘザーは弟に抱き着いて泣き叫んだ。

 

 真っ青な顔で謝ってきて、すぐに救急車や警察、保護者への連絡を手配してくれた運転手の人に、ヘザーは一瞬覚えた怒りはすぐに霧散した。(代わりにその怒りは原因だろうドビーに向けられた。)

 

 駆け付けてくれた両親とともに、病院の待合で待っている間、気が気じゃなかった。不安をごまかそうと原因を考え、ドビーに怒りと憎悪を向けていた。

 

 

 

 

 

 あの時は、病院での治療が間に合ったし、ルシウスさんがお金を出してセブルスおじさんが薬を作ってくれたから、何とかなった。

 

 でも、またあの時のようになったら。

 

 不安で胸が押しつぶされそうなヘザーが抱えた膝に額を当てていると、「ううん・・・」という小さなうめき声がした。

 

 パッとヘザーが顔を上げると、ハリーJr.がうめきながら身を起こそうとしていた。

 

 「ジュニア!大丈夫?!どこも痛くない?!」

 

 「ごめん、油断した・・・。

 ちょっと頭が痛くてクラクラするのと・・・あと、いっ?!!」

 

 頭をさするハリーJr.は、痛そうに顔をしかめ、自分の足を見やった。おかしな方向に曲がった左足に、ハリーJr.は悔しそうに眉を下げた。

 

 「ヘザーこそ、無事?」

 

 「うん。おじさんが助けてくれたから」

 

 「おじさんが?!・・・また助けてもらったんだね・・・」

 

 「うん・・・」

 

 二人は座り込んだまま視線を落とした。

 

 ドラコも一緒に乗り切った怪物邸騒動から、かなり経った。ヘザーも、ハリーJr.も、それぞれ思うところあって、成長しようと努力したはずだ。でも、結局肝心なところでおじさんに助けられている。

 

 「情けないね・・・」

 

 二人の気持ちを、ハリーJr.がまとめて吐き出していた。

 

 とはいえ、落ち込んでいても仕方がない。

 

 一つ首を振って、ヘザーは気を取り直した。

 

 「あいつはおじさんが相手をしてくれてるわ。ジュニア、足はどう?魔法で治せる?これ、あんたの杖」

 

 「ありがとう。ごめん、ちょっと走れないかも。

 あとね。言ってなかったんだけど、僕、治癒魔法使えないんだ」

 

 「そうなの?」

 

 「杖がね、治癒魔法に不向きみたいなんだ。杖の材質で魔法の向き不向きっていうのもあるみたいだから」

 

 「そうなんだ・・・」

 

 「国際暖炉に行く前にうちに帰って魔法薬を持っていこうって思ったんだけど、母さんが父さんにありったけ使ってたからね。何にもなかったから・・・ごめんね、ヘザー。僕、一番肝心な時に足手まといになっちゃって」

 

 「何言ってんのよ。あんたがいなかったら、さっきの緑色の光食らってお陀仏してたわよ」

 

 しょんぼりと肩を落として言う弟の頭を乱暴に撫でて、ヘザーは笑いかけた。しかし、すぐに表情を引き締めて言った。

 

 「いい?ジュニア。もう時間がない。

 ここからは私一人で行く。あんたは来た道をひき返して遊園地に脱出して」

 

 「でも!」

 

 「大丈夫。あんたが言ったんでしょ?私たちは父さんの子供なんだから、絶対ここから帰れるって。

 あとは、お姉ちゃんに任せなさい」

 

 ニッと笑って見せるヘザーを、ハリーJr.は見上げた。

 

 一つしか違わないのに。魔法なんて使えないのに。いつだってこの姉は、ハリーJr.よりも強くてかっこいいのだ。

 

 「・・・わかった。ヘザーもちゃんと帰ってきてね」

 

 「当然!

 あ、そうだ。ジュニア、これ何だかわかる?」

 

 頷いたハリーJr.に、ヘザーは満足げにうなずくと、はっとしてからベストのポケットから何か取り出した。

 

 それは、一見すると銀色の液体のようにも見える布――マントらしい。ただし、セブルスの不意打ちのせいで血まみれになっていた。

 

 「ヘザー、これ・・・」

 

 「違う違う!おじさんが、これかぶってあいつに不意打ちしてたのよ!

 血まみれなのはそのせい!」

 

 「あー・・・。

 外であの人も使ってたね。多分だけど、透明マントじゃないかな」

 

 二人ともあえて口に出さないが、すでに愛想が尽きたシリウス=ブラックの名前は出されることなく、あいつ・あの人呼ばわりに落ち着いている。

 

 「透明マント?」

 

 「母さんから聞いたことがあるんだ。僕の血縁上の家――ポッター家には、家宝として透明マントが伝わっているんだって。

 かぶった人間の姿を隠せる魔法のマントなんだ。

 この透明マント、市販品もあるんだけど、そっちは時間が経ったら効果がなくなるんだけど、この家宝の透明マントは永続でかぶったままならずっと姿を隠していられるらしいよ」

 

 「へえ・・・。

 SFの光学迷彩みたいなもんかな」

 

 「こーがくめーさい?」

 

 「要するに、そのマントと一緒で人間の姿を目に見えなくする装備が、SFに登場するのよ」

 

 「へえ。今も昔も、人間は考えることがおんなじなんだね」

 

 頷いたハリーJr.はややあって血まみれの透明マントに杖を一振りした。

 

 「清めよ(スコージファイ)

 

 湧き出た泡が透明マントを包んでから消えると、血はきれいに取れていた。ただし、マントはしっとりと湿っている。

 

 「持っていって。これがあれば怪物を躱しやすくなると思う」

 

 「ならあんたが持っとくべきだわ。私は走って逃げられるけど、今のあんたは近寄られたらおしまいなんだから」

 

 透明マントを差し出すハリーJr.に、ヘザーは首を振って自分のポケットから鉄パイプを取り出して弟に差し出した。

 

 「歩行杖代わりにはなるでしょ。使って」

 

 「・・・わかった。ヘザー。くれぐれも気を付けてね」

 

 「あんたもね」

 

 立ち上がったヘザーは、書斎の入り繰りへ向かい、ドアの取っ手に手をかける。

 

 「映画の埋め合わせ、必ずみんなで行きましょ」

 

 「ヘザー、それ死亡フラグだよ!」

 

 「ごめんごめん。でも、絶対行きましょ」

 

 「うん!後でね」

 

 「ええ。後で」

 

 努めて明るく、姉弟は別れた。

 

 

 

 

 

 古びた礼拝堂の扉が開かれる。

 

 ヘザーはハンドガンを携えながら、そこに入ってきた。

 

 祭壇の前にたたずむのはクローディア。その足元にはひび割れて壊れた眼鏡――ヴィンセントがかけていたそれが転がっていたが、誰も一顧だにしなかった。

 

 「追いかけっこはおしまいかしら」

 

 うんざりした調子で言ったヘザーに、クローディアは彼女を見つめたまま口を開いた。

 

 「やっと来たのね。

 そして、時は満ちた。ここから始まるのよ」

 

 クローディアはうっとりと言った。待ち人の訪れに歓喜する乙女のように。

 

 「アレッサ、あなたが心から賛同してくれなかったのは残念だけど、それでも憎悪と苦痛にまみれたその心で神を育ててくれたことは感謝するわ。

 神を信じない不信心者たちも、それを助長させることに貢献してくれた」

 

 ヘザーの脳裏を、シリウスとヴィンセントの姿がよぎった。まさか、あの二人も利用したというのか。

 

 「憎しみで生まれた神に楽園なんて築けるわけないじゃない!」

 

 銃を持ってない左手を盲目的な狂信を押しのけるように振って、ヘザーは怒鳴った。

 

 しかし、クローディアは淡々と言い放つ。

 

 「幸福な人間は残酷だわ。

 苦しみや悲しみの中から思いやりが生まれるのはそんなにおかしいこと?

 なぜあなたは否定するの?神の慈愛を!

 この膿んだ世界の何にこだわるの?

 神の前に人々は救われるのに」

 

 「それであなたも救われたハッピーエンド?

 そんな終わりにはさせない」

 

 「・・・私は救われないかもしれない。それでも構わない。

 大好きなアレッサ。あなたを苦しめたことは許されるとは思っていない。

 人々の救いのためとはいえ、あまりに罪深きことだわ。

 いつか来る約束の日を早めようとしたのは、私のワガママだから。

 そのための犠牲は、私の罪」

 

 痛みをこらえるように目を伏せたクローディアは、しかしすぐに顔を上げる。

 

 「終わりにさせないって言ってるでしょ!

 あなたの自己満足じゃない!」

 

 言いながらヘザーはベストのポケットからメトラトンの印章が刻印されたメダルを取り出した。

 

 だが、アレッサとしての記憶を完全に取り戻したヘザーは悟った。

 

 これは、役に立たない。

 

 メダルを地面にたたきつけるように放り出し、銃を構えようとした。

 

 だが、その前に。

 

 「ぐっ、あああ・・・・!」

 

 構えてられず、銃を取り落としたヘザーはそのまま腹を押さえてうずくまる。その体表に黒い痣が無数に現れた。火傷というより、まるで黒死病(ペスト)の患者のようだった。

 

 ころころと転がっていったメダルを見下ろして、クローディアが鼻で笑う。

 

 「メトラトンの印章?ただのガラクタね。

 それっぽっちの力で何をしようと思ってたの?

 ただそれだけで神を殺せると?

 私の父の愚かな妄想と、哀れなヴィンセントの妄言にわざわざ付き合うなんてね」

 

 苦痛の中でヘザーは思い出していた。

 

 そう。メトラトンの印章は確かに力ある印だが、単品では意味がないのだ。数をそろえる必要が――それこそ、町中を埋め尽くすほどに配置する必要があったのだ。

 

 かつて――17年前のアレッサはそうしようとしていたのだ。ダリヤに騙されたハリーの妨害で実現はできなかったけれど。

 

 「さあアレッサ!もう逃れるすべはないわ」

 

 クローディアの声に、ヘザーはますますひどくなる腹部の痛みに、悲鳴を上げた。

 

 「受け入れるのよ、アレッサ。そうすれば苦しみはなくなるわ。

 ああ、私は待っていた。ずっと待っていた。小さい頃からこの日が来るのを信じていた。

 あなたという奇跡を見ながらいつか来る、この裁きの日を!」

 

 うっとりと恍惚の様相で天井を見上げて語るクローディアは、不意にヘザーのうめきが聞こえなくなり、はっと彼女を見やった。

 

 「アレッサ?!」

 

 ぎょっと見やったクローディアをよそに、ヘザーは立ち上がっていた。黒い痣は消え去り、平然とした様子だ。

 

 しかし、一時的なものだ。すぐにまた苦痛がぶり返して動けなくなる。ヘザー自身もそれをわかっている。

 

 「うるさいっ!黙れクソババア!」

 

 ヘザーの暴言にますますギョッとしたクローディアをよそに、ヘザーは動いた。

 

 服の下にしまっていたロケット――お守りを引っ張り出した。

 

 セブルスおじさんは言っていた。『その時が来たら、うまく使いたまえ』と。今が、その時だ。

 

 「何をしているの?」

 

 「父さん・・・母さん・・・ジュニア・・・おじさん・・・」

 

 怪訝そうな、どこか怯えるような声を出すクローディアをよそに、ヘザーは覚悟を決めたようにロケットを開けて小ぶりな赤いピンポン玉ほどの丸薬を口に含んだ。ゴクリっとヘザーの喉が動く。

 

 だが、彼女が自由に動けたのはそこまでだった。

 

 再び腹部を中心とした苦痛の波が押し寄せ、ヘザーは悲鳴を上げながら四つん這いになってうずくまる。

 

 「神が生まれようとしている・・・」

 

 多少のトラブルだが問題はないというかのようにほっと表情を緩めるクローディアは、次の瞬間息をのんだ。

 

 「どうしたの?アレッサ」

 

 四つん這いになったヘザーの苦痛のうめきに、ゲエゲエという嘔吐音が混じりだしたからだ。

 

 「アレッサ、あなたは何をしたの?何を飲んだの?!」

 

 怪訝そうな問いかけはやがて怯えた詰問となるが、クローディアの問いかけに答えが返るわけもない。

 

 ややあって、ヘザーは口からゴボリッと何かを吐き出した。それは、ヘザーの両手にちょうど乗るほどの真っ赤な血の塊だった。大きな頭部、小さな胴と未熟な手足、生まれ損ないの赤ん坊を数段グロテスクにしたようなものだった。

 

 「これは・・・?!」

 

 驚愕のあまりに言葉に詰まるクローディアをよそに、ヘザーは口の中が血の味と生臭さで気持ち悪いのをこらえ、立ち上がると手の甲で汚れた口元をぬぐって不敵に笑う。

 

 「神は堕ちたみたいね」

 

 言い放つと、彼女はブーツをはいた足を振り上げた。踏みつぶそうとしたのだ。

 

 しかし、彼女よりも、クローディアの方が早かった。否、その執念が凄まじいの一言に尽きたのだ。

 

 「やめて!」

 

 悲鳴を上げながらヘザーを突き飛ばし、赤い肉塊――生まれ損ないの神をそっと、しかし素早く両手で抱き上げたのだ。

 

 「クローディア!」

 

 叫ぶヘザーをよそに、クローディアは「ああ・・・そんな・・・!」と悲嘆にくれた声を出すが、次の行動は常軌を逸していた。

 

 クローディアは、手の中のそれを飲み干した。「おぼっ、お゛・・・!」とむせながら、彼女はおぞましいそれを自らの胎に納めたのだ。

 

 「アレッサ、あなたに神は殺させない!」

 

 ヘザーをにらみながらクローディアが叫んだ。その皮膚には黒死病のような黒い痣が浮かび上がり、一分の隙もなく彼女を包み込んでいく。

 

 苦痛のあまりに立つこともままならないだろうに、すさまじい執念と信仰心がクローディアを動かしていた。

 

 「私は・・・私は、神を・・・!

 アレッサ、あなたがやらないようなら私が・・・」

 

 ふらふらゆらゆらと心もとない足取りでクローディアは祭壇に向かって歩いていく。

 

 「クローディア?クローディア?!」

 

 呼び止めようとするヘザーを一顧だにせずに、クローディアは祭壇の前で立ち止まり、そして。

 

 大きく両手を広げ、彼女はまるでそこに見えない深い穴に身をゆだねるように倒れこんだ。

 

 直後放たれたすさまじい突風にも似た衝撃波に、ヘザーは身動きを止める。

 

 祭壇にあった縦長の穴は消え去り、そこはまるですぼまった穴のような裂け目になっていた。クローディアの姿は当然、なかった。

 

 ヘザーはとりあえず落としてしまった銃を拾い上げ、傷や不具合がないか確かめてから、穴に駆け寄った。

 

 「・・・場末の神様は、尻の穴から生まれるってわけ?」

 

 自分で言っておきながら下品で笑えないジョークだ、とヘザーは自嘲した。

 

 胸にさがった空のロケットを握りしめる。吐いたばかりというのに、体は絶好調だ。でも、気分は最悪だ。

 

 終わらせて、帰るんだ。

 

 ヘザーは、ロケットを再び服の下に押し込んで銃をポケットにしまってから、地面を蹴って穴に飛び込んだ。

 

 穴の底は、広場になっていた。地面にはクローディアが着ていた黒いワンピースが無造作に広げられていた。

 

 ヘザーはそれを見やって憎々し気に顔をゆがめて叫んだ。

 

 「私が始末をつけるはずだったのに!勝手に満足して!勝手に死んでるんじゃないわよ!」

 

 そうして、彼女はそれを見上げ、戸惑ったような声を出した。かつては、彼女の内にあったもの。新たに生みなおされたそれを。

 

 「これが、神・・・?」

 

 そして、そこに、いた。小山のような巨体だった。首から下は死の化身のような骨格をむき出しにし、頭部は女性のそれだ。皮肉なことに、アレッサに似ているのはクローディアの妄想が投影されているからだろうか。

 

 ここまでの道中で見かけていた包帯塗れの怪物が、ずるずると這うように、しかし恭しげに、それの頭部に黒いヴェールをかける。戴冠、あるいは祝儀という言葉が不思議と似合った。

 

 それは膝立ちになって身を震わせると、ヘザーめがけて骨の腕を振り上げる。

 

 ヘザーはそれを軽々とかわす。

 

 ヘザーにはすぐに分かった。堕胎されたのを、不適合のクローディアに無理やり生みなおされたから、不完全なのだ。あれは、今度こそ完全な形で生みなおされたがっているのだ。他でもない、ヘザーに。

 

 「おあいにく様!処女はとってあるの。あんたなんかにはあげないわ!

 キリスト気取りなら地獄から出直すことね!」

 

 怒声を張り上げ、ヘザーは銃を構えた。

 

 

 

 

 

 神は強く、しぶとかった。

 

 銃弾を受けてもびくともせず、巨躯にものを言わせてヘザーに襲い掛かる。

 

 長い骨の腕で薙ぎ払おうとし、口からは炎を吐いてくる。ヘザーはそれを必死にかいくぐる。

 

 ハリーJr.がいれば盾の呪文(プロテゴ)で防いだり、あるいは妨害呪文(インペディメンタ)で動きを遅くしたりできたかもしれないが、この場にいるのはヘザー一人だ。

 

 ヘザーはあるものを総動員した。

 

 ありったけの銃弾を撃ち込む。ハンドガンが弾切れしたら、サイレントヒルの町中で拾ったショットガンやサブマシンガンを取り出して攻撃する。

 

 お守り代わりの鉄パイプはハリーJr.に持たせてしまったので、民家からかっぱらった日本刀を構え、石のように固い神の体躯を切りつけた。

 

 しかし、どんなに頑張っても終わりは訪れる。

 

 息を切らすヘザーは、最後の一発も弾切れしてデッドウェイトにしかならないサブマシンガンを放り捨て、日本刀を構えた。それも神の尋常ではない固さと、ヘザーの不慣れな扱いのせいで刃は刃こぼれでボロボロだった。

 

 対する神は、口から炎の息吹をわずかにこぼしながら立ち上がる。まだまだ余裕そうだった。

 

 それでもヘザーはあきらめない。

 

 神が腕を振り上げた。大ぶりな、一撃。

 

 ヘザーはそこに刀を突き入れる。ガツッと固い音を立てて、神は腕を弾かれよろめいた。

 

 「あああああっ!」

 

 咆哮とともにヘザーは突撃する。刀の刃先が地面をひっかき、倒れこむように頭を低くした神めがけて、それが振り抜かれた。

 

 斬撃一閃。

 

 ヘザーの一撃は、神のアレッサに酷似した顔面を袈裟懸けに切り裂いた。

 

 「いい加減に」

 

 ヘザーは怒声とともに返す刀を神の閉ざされたままの右目に突き入れた。ガツッという何とも言えない固い感触は、確かな手ごたえを感じる。

 

 「くたばれ!」

 

 そのまま彼女は刀の柄に鋭い蹴りを放つ。刀が一層深く押し込まれ、神は不気味な咆哮を上げてから、ドオッと地面にうつぶせに倒れこんだ。

 

 それを息を切らしながら眺めたヘザーは、ややあってギリッと歯をかみしめた。

 

 こんなもののせいで。こんなもののために。

 

 アレッサも、シェリルも、父も、母も、弟も、クローディアも。全部、めちゃくちゃにされたのだ。

 

 そのままヘザーは憤りに任せて八つ当たり気味に神の頭に蹴りを叩きこんだ。文字通りの死体蹴りでしかない。それでも、そのままおとなしく帰るのも癪だった。数回蹴ってようやく落ち着いたヘザーは、ややあって神に背を向けた。

 

 そうしてふと、彼女は思った。どうやって帰ろう?飛び降りてきたから、帰り道が分からない。

 

 直後。

 

 「あぐうっ?!」

 

 ふいに、後ろから何かに鷲掴みにされ、宙づりにされた。

 

 神だ。立ち上がってヘザーをつかんでいる。ヘザーが日本刀を突き立てた右目をそのままに、ほほ笑んだような顔が縦に裂けて真っ暗な穴と化している。

 

 神はそのままヘザーをそこにゆっくりと運んでいく。

 

 「やっ!いやっ!放して!放して!放してってば!」

 

 ヘザーはじたばたともがいたが、骨の手は万力の如くがっちりと彼女をつかんで離そうとしない。

 

 真黒な穴がすぐ目の前に迫る。ここに押し込まれたら、再び、ヘザーと神は一つになる。

 

 「いやああああっ!」

 

 絶望に涙をこぼしながらヘザーが悲鳴を上げた。

 

 直後、ヘザーがこぼした涙が神の指に当たり、そこが青く光るとバヂンッと青い稲妻じみた衝撃波を放った。

 

 同時に、神はヘザーを放り出した。よろめいて、後ずさるように地面に転がるヘザーから離れていく。

 

 「? ?? 何で・・・?」

 

 「貴公が飲んだアグラオフォティスは特別製だ」

 

 のろのろと身を起こしながらもわけがわからないという顔をするヘザーに、声がかけられる。

 

 闇の中から歩み寄ってきたセブルスが腕を一振りすれば、ヘザーの体についていた細かな傷が癒される。治癒呪文(エピスキー)だ。

 

 「ある上位者*1の血液から精製した特殊な錠剤を、アグラオフォティスの丸薬でコーティングするように作成したものだ。

 服用者は、一時的にヤーナムの血の加護――上位者の福音を受け、異なる系列の神には手出しされなくなる。

 せいぜい2~3日しか持たんがね」

 

 言いながら、セブルスは変貌していく神を見やった。

 

 ヘザーの涙を受けた右手の骨がぼこぼこと泡立つ肉に覆われ、そこから肉が膨れ上がるように神そのものの形が変わっていく。

 

 「自らとは異なる上位者の加護を受けたものの体液をわずかでも受けてしまったからであろうな。不完全な神にはかなりの痛手でしょうな」

 

 言いながら、セブルスはノコギリ鉈を持ち上げようとした。

 

 「おじさん、私にも武器貸して」

 

 「ヘザー」

 

 「これは私の戦いなの!私が決着をつける!足手まといにはならない!お願い!」

 

 目元を乱暴にぬぐって隣に並んだヘザーに、セブルスは小さくため息をつくと、インバネスコートから取り出したそれを差し出した。

 

 「仕込み杖だ」

 

 それは、一見すると白亜の杖のようだ。ただしその杖先は研がれて刃物のように鋭くなっている。

 

 「それは刃物のように扱うこともできるが、地面を突くなどして杖先に強い衝撃を与えることでリーチのある蛇腹剣のようにも扱える。その分、扱いには癖がある。私には当てないでくれたまえ。もう一度杖先に衝撃を与えれば元に戻る」

 

 ちなみに、セブルスは言わなかったが、それはかつてハリー=メイソンが教団の追手を排除するのに用いたものと同じものだ。

 

 あの時のまま未強化なので、今のヘザーでも十分扱えることだろう。

 

 日本刀よりは軽いそれを受け取ったヘザーは、両手でそれを構え神を見据えた。・・・血の遺志によって仕掛け武器の扱いを最初からある程度心得る狩人とは異なり、その構えは素人らしくめちゃくちゃだった。うかつに変形させたら自爆しそうだ。とはいえ、他の武器は重量や癖があるので、ヘザーではぎりぎりこれを扱えるかどうかというところなのだ。

 

 そんな二人をよそに、ぼこぼこと膨らんだ神であった肉の塊がぶよぶよと形を整えていく。べたんっと伸びた腕が地面を突いた。

 

 黒死病の末期患者のような黒い痣と血管じみた赤い線に、ケロイドと汚れた包帯が描く不規則な模様。大きな頭、丸みを帯びた手足。閉ざされたままの目、頭に羽織った黒いヴェールだけはそのままだ。

 

 病気で腐りかけた赤子を、何倍も巨大化させてグロテスクにしたような見た目をしていた。

 

 「本当に、しつこい!今度こそぶっ飛ばす!」

 

 ヘザーの怒声に、セブルスは女性が言うべき言葉では、と少し眉をひそめたが、同時にその負けん気の強さが彼女らしいと苦笑した。

 

 「言ったからには動いてもらうぞ。ヘザー。遅れるな」

 

 「もちろん!」

 

 セブルスの言葉に、ヘザーは大きくうなずいた。

 

 赤子が吠える。おぞましい産声だ。太く短い腕を振り上げ、叩きつけてくる。セブルスとヘザーはそれをパッと避けた。

 

 赤子はセブルスに向き直ると、大きく口を開いた。吐しゃ物じみた炎が吐きつけられるが、セブルスはそれを流麗な狩人のステップで避ける。

 

 そこにヘザーが踏み込む。

 

 地面を一度突いて、ガシャッと杖身がばらけて、ワイヤーにつながった蛇腹剣となると、ヘザーの腕の一振りに応えて鞭のように不規則な軌道を描きながら、神に叩き込まれる。

 

 しかし、ばらけた杖身を手元に引き戻すのに失敗して、ヘザーは左ほおにかすり傷をこさえてしまった。蛇腹剣状態で扱うのはやめた方がいいかもしれない。

 

 まだまだ!

 

 ヘザーが仕込み杖を通常形態に戻して、改めて攻撃しようとしたとき、不意に彼女は見えない力に強く引っ張られた。

 

 セブルスが無言呪文による呼び寄せ呪文(アクシオ)を使ったのだ。

 

 でなければ、ヘザーは方向転換した神の頭突きを受けて吹き飛ばされていただろう。

 

 「攻撃に集中しすぎですな。動きをよく見るのだ。回避すべき時は回避するのだ。攻撃の機会を見極めろ」

 

 「ありがとう、おじさん!」

 

 二人はこちらにのそのそと向き直る神を見やる。

 

 神が地面に腕をたたきつけた。そこから伸びた赤い線が二人の足元に迫る。

 

 ヘザーもセブルスもサッサと避ける。直後、その赤い線から炎が吹きあがり、ヘザーはぞっとした。

 

 同じ攻撃を繰り出そうというのか、神が再び腕を振り上げるが、そこにセブルスの銃撃が炸裂した。

 

 大ぶりな攻撃に差し込まれた銃撃は、相手の硬直を招く。そして。

 

 すかさず踏み込んだセブルスが、うなだれた神の頭蓋にその右手を突き入れた。ガンパリィからの内臓攻撃だ。ブチブチと肉を引きちぎり、中身の何だかよくわからない肉塊を引きずりだすセブルスに、ヘザーも続いた。

 

 セブルスが作り上げた頭蓋の断面に、仕込み杖を突き入れ、そのまま抉るように切り上げる。

 

 深追いはしない。二人はすぐさま距離を取る。

 

 ここで、神の様子に異変が起こった。不気味な体表がぼこぼこと泡立ったと思ったらグジュグジュと音を立てて一つの肉塊に収束し、そこからまた変形していく。

 

 腕を伸ばし、足を延ばし、羽を伸ばし。肉の繭から顔を上げるように羽化をする。

 

 骨組みじみた肢体とヤギのような頭、蝙蝠の羽根を携えたそれは、セブルスにはとても見覚えがあった。

 

 ハリーがインキュバスとひとまず呼んでいた、ダリヤの妄想が投影された姿だ。

 

 「ころころと姿を変えてんじゃないわよ!」

 

 「それだけ力が弱まり、不安定になっているのだ。自身の姿を維持できぬほどにな。

 だから、周囲のものの記憶を読んで、崩れそうになるたびに姿を再固定するのであろう」

 

 ヘザーが怒鳴ると、セブルスがシレッと言った。

 

 最初はクローディアの妄想が投影されたから、アレッサの面影があった。その次はヘザーの妄想が投影されたから、生まれ損ないの赤子。では、今は?

 

 「あれは、私を読むことはできん。仮に読めても姿を固定することはできぬ。

 ゆえに、別のものの記憶を読んだのであろう。この領域にいるのならば、おそらくはカウフマンであろうな。

 敵から目を離すな。不用心が過ぎる」

 

 ヘザーの視線に叱責して、セブルスは左手を一振りして武器を切り替える。

 

 細長い円筒の筒をいくつも束ねた大砲じみた武器は、本来は固定砲台において使うべきものだ。無理やり手持ちに改造したので反動と重量はすさまじいものだが、その分威力はお墨付きだ。

 

 その名を、ガトリング銃という。

 

 ぎょっとするヘザーを一顧だにせず、セブルスはそれをぶっ放していた。

 

 ガルルルルッ!というすさまじい掃射音とともに吐き出された水銀弾の雨は、容赦なく雷撃を放とうとした神に直撃し、それをハチの巣にする。

 

 神はのけぞり悲鳴を上げながら銃弾の雨を受けてガクガクと身を震わせ、そのまま墜落した。

 

 再び神が翼を広げて飛び立とうとするより早く、チャンスとばかりにヘザーが駆け抜けた。

 

 「地獄に帰れぇぇ!」

 

 怒声とともに、ヘザーは仕込み杖を振り下ろした。

 

 袈裟懸けに斬られた神が後ずさる。すかさずセブルスが飛び込んだ。右腕を振りかぶり、そのヤギじみた頭蓋に突き入れた。ブチブチと筋や血管を引きちぎり、中身をえぐり出した。それは、ヘザーが吐き出してクローディアが飲み込んだ、あの赤子の出来損ないのような肉片だった。セブルスは無表情でそれをぐしゃりと握りつぶす。

 

 今度こそ断末魔をとどろかせながら、ドロドロとその体躯をスライムのように溶かしていき、最後は炎に包まれた。そうして、今度こそ、神は――神と称された何かは、消え去ったのだ。

 

 思わず、ヘザーは後ずさった。

 

 ヘザーは何となく、火が苦手だった。昔から。だから、学校の授業の実験などでマッチやアルコールランプを用いる時は、必ずほかの学生に譲っていた。

 

 アレッサの記憶を取り戻した今ならわかる。ヘザーは火が苦手で当たり前なのだ。だって、生きながら燃やされたのだ。あんな地獄の日々のきっかけになったのだから。

 

 「逃げるとしよう」

 

 「おじさん・・・」

 

 ヘザーの手からそっと仕込み杖を取り上げ視線を炎から背けさせながら、セブルスが言った。

 

 「でも、帰り道が・・・」

 

 「ヘザー。貴公は知っていよう。わかるはずだ」

 

 静かに言ったセブルスに、ヘザーは瞳を揺らしたが、ややあって遠くに目をやった。

 

 彼女の中から神は失われた。それまで持っていた“勘”は神の恩恵だった。けれど、ここが神の力の領域で、まだヘザーの想いをくみ取ってくれるなら。

 

 「ジュニア!父さん!母さん!今、帰るから!」

 

 叫んで彼女は踏み出した。

 

 

 

 

 

 廃墟の遊園地は真っ暗だった。

 

 ハリーJr.はベンチに座り、傍らには鉄パイプ、折りたたんだ透明マントと杖を膝において、待っていた。

 

 不安でしょうがなかった。

 

 姉は無事だろうか。道中、あんなに具合悪そうにしていたのに、結局言われるがまま一人で行かせてしまった。

 

 それからもう一つ。脱出の途中で見た者を、ハリーJr.はひそかに思い返していた。

 

 ふいに、ハリーJr.は思考をやめて顔を上げた。

 

 気配が、消えた。遠くで蠢いていた化け物どもの気配が消えた。相変わらず真っ暗なのは夜であるせいだろう。

 

 しかし、何といえばいいのか。そう、悪い夢が終わった。そんな感じになったのだ。

 

 そして、教会がある方から二つの足音が聞こえてきた。

 

 ハリーJr.がそちらに顔を向ければ、いた。ボロボロで血もついたヘザーと、血で汚れたセブルスおじさんが。

 

 「ヘザー!おじさん!」

 

 思わずハリーJr.は立ち上がろうとしたが、「あっ?!」とバランスを崩してこけかける。

 

 「ジュニア!」

 

 駆け寄ったヘザーがどうにかそれを抱きとめ、ほっとした。

 

 「ヘザー!けがは?!もう体は大丈夫?!」

 

 「ええ。もう大丈夫。言ったでしょ?後はお姉ちゃんに任せなさいって」

 

 にっこり笑うヘザーに、ハリーJr.はほっと顔を緩めた。

 

 そのあとに歩み寄ってきて頭装備を外しながら言ったセブルスに、ハリーJr.はぱっと表情を明るくしたが、すぐに肩を落としてから頭を下げた。

 

 「ありがとう!おじさん!それから、ごめんなさい」

 

 「何故謝るのだね?」

 

 「ヘザーを守るって言ったのに、肝心な時に力になれなくて。油断して、足にけがをしちゃって・・・」

 

 「今回は運よく助かったが、命を失っていたかもしれぬ。次の機会に生かすように」

 

 もっとも、次の機会などないに越したことはないが。セブルスは内心でそう思いながら、右手を一振りしてハリーJr.の足に魔法を使う。

 

 回復した足で、ハリーJr.はトントンとつま先を地面に軽くついて痛みがないことを確認してから「ありがとう、おじさん!」とにっこり笑う。

 

 続けて洗浄魔法を使い、セブルスは自らとヘザーの血の汚れも落とした。

 

 「さて、もう用事は終わりましたな?帰りますぞ。

 馬車を呼ぶには広い場所がいる。一度モーテルまで戻るとしよう」

 

 「「うん」」

 

 セブルスの言葉に、メイソン姉弟はうなずいてそのあとに続いて歩きだした。ただし、ハリーJr.だけは足を止めて振り返り、教会のあった方を見やった。それでも、彼は何かを振り切るように前を向いて、すぐに姉とおじさんのところに小走りで近寄った。

 

 「ねえ、おじさん」

 

 ここで、ヘザーが改まった様子で口を開いた。ちなみに、変形状態の仕込み杖の扱いの失敗で頬についた傷は、すでにセブルスに治してもらっている。

 

 「私、左手の薬指は空けとくから、今度は血の指輪じゃなくて銀色の指輪を頂戴ね」

 

 「は」

 

 「ええええ?!」

 

 目を丸くして思わず言葉を詰まらせたセブルスに、ハリーJr.が大声を上げた。

 

 「ででででもヘザー!年の差とか!」

 

 「何言ってんのよ、ジュニア。肉体年齢は17歳だけど、精神年齢ならアレッサの分と前のシェリルの分を合わせてとっくに30過ぎてるわ。年の差なんてあってないも同然よ。

 それともあんた、おじ・・・セブルスさんがお義兄さんになるのがやなの?」

 

 「え?いや、そういうわけじゃないけど、あんまりにも突拍子がなさ過ぎて」

 

 「・・・ヘザー。私は貴公をそのように見ることはできぬ」

 

 おろおろとしているハリーJr.をよそに、ややあってセブルスが憮然と言った。

 

 「じゃあ、意識してもらえるよう、もっといい女になって見せるわ。期待してて」

 

 めげた様子も見せずに、ヘザーはぱちんとウィンクして見せる。

 

 「・・・ヘザー、卒業と同時に嫁に来るなんて言い出すのではあるまいな?」

 

 「まさか!母さんからも卒業したら働くにしろ進学するにしろ、即嫁入りはダメって言われてるんだもの。私も世間を見たいし、ないない」

 

 低い声で言ったセブルスに、ヘザーは首を振って笑って前を見ながら言った。

 

 「私、ジャーナリストを目指そうかなって」

 

 「ジャーナリスト?なんで?急にどうしたの?」

 

 ジャーナリストという単語にハリーJr.は眉をひそめた。2年前、日刊預言者新聞に載った記事のせいで、ハリーJr.は少々その職業に懐疑的なのだ。

 

 「・・・クローディアは、あったかもしれないアレッサの姿だった」

 

 ポツリとヘザーがつぶやく。

 

 「もし、誰かが気が付いて手を伸ばしてくれてたら*2。あんな・・・神なんかにすがらずに済んだかもしれない。

 でも、気が付いて手を差し伸べようとした大人は、教団に握りつぶされてた。私、ゴードン先生*3が、私のことを気にかけてくれてたなんて知らなかったの。

 だから、握りつぶされないように・・・うまく言えないけど、あの頃のアレッサやクローディアを助けられるような仕事をしたいの。

 警察もいいかもしれないけど、組織に所属するって柄じゃないから、だったらフリーのジャーナリストかなって」

 

 「そっか・・・ヘザーならきっとなれるよ」

 

 「当然よ。いい機会だし、心機一転で髪の色も変えちゃおうかな」

 

 笑いかけたハリーJr.に、ヘザーは自身の髪をつまんでいった。ヘザーの金髪は染めたものだ。魔法を使い、解除対策のためにマグルの毛染めも使っている染髪なので根元から金色だが、本来は黒だ。

 

 「黒髪に戻すのもいいけど、いっそ赤毛にしちゃおうかな。栗色はハーマイオニーと被るか・・・」

 

 「変えちゃうの?金髪のヘザーを見慣れてるから、なんか違和感あるかも」

 

 「そこは何色でも似合うとか、金髪が一番とか、言い方があるでしょ!女心ってのが分かってないんだから!」

 

 不満そうなハリーJr.に、ヘザーは文句を言ったが、二人とも口元が笑っている。

 

 それを見やってセブルスも自然と口元を緩めた。

 

 もう、大丈夫だ。

 

 前途は多難だが、未来はきっと明るい。

 

 3人は、無人の廃墟を歩いて行った。

 

 

 

 

 

続く

 

*1
もちろんセブルス自身

*2
クローディアは父親のレナードの選民思想じみた信仰心によって虐待されていた

*3
アレッサの担任の先生




【アグラオフォティス】
 邪悪を払う、神殺しの霊薬。血のような赤い色の液体であり、かつてハリー=メイソンがサイレントヒルで入手したものを、セブルス=スネイプが新たに調合して丸薬としたもの。

 ヘザーの“お守り”のロケットの中に入っており、彼女はこれを肌身離さず持ち歩いている。服用することで人ならざる邪な力の化身を、その肉身から切り離すことが可能。

 その起源は古く、元はギリシアの魔術師ペダニウス=ディオスコリデスがアラビア砂漠で発見したデザートローズを、薬の形に調合したものが始まりとされている。

 しかし、この薬がいかなる形で海を越えてサイレントヒルの教団に伝わったかは判明していない。



 というわけで、サイレントヒル3編はここで終了です。次回から新章開始となります!



 (ボソッ)本編で書けるかわからないのでここで書いておきますが、将来的にヘザーは無事フリーのジャーナリストになります。しかし、後遺症でその手のものに好かれやすい彼女はオカルト事件に巻き込まれまくるので、その気はなくてもオカルト専門ライターみたいな感じになるし、不本意ながらオカルト探偵じみた真似もやることになります。
 弟のハリーJr.も似たような感じで、ヘザーがマグル界の窓口、ハリーJr.が魔法界側の窓口をして、姉弟で異界スレイヤーみたいなことになります。
 時々おじさんに助けを求めたりしてね。



 Q.合流後のハリーJr.の様子がちょっとおかしいのはなぜですか?

 A.外伝でやります。



 次回、その頃のイギリスにて。三人をイギリスに帰す前に、イギリスの情勢についてやります。落ち込みモードのルーピンさんと、うんざりパーシー=ウィーズリー君を添えて。お楽しみに。
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