セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 ちょっと唐突に外伝を挟みましたが、改めて本編です。

 セブルスさんと、ヘザー&ハリーJr.が帰国する前に、改めて英国の状況を。

 ・・・これ、第7楽章の序盤でやっておくべきでは?と書いてから思いました。しょうがないね!


【第8楽章】英国動乱
【1】セブルス=スネイプ不在のこと


 

 さて、少々時間を戻して語るとしよう。

 

 セブルス=スネイプが、メイソン姉弟とともに海を越えた異国の湖畔の町で、恐るべき邪神と全面対決をしていたその頃。

 

 

 

 聖マンゴ治療院の待合の木製のベンチで、リーマス=ルーピンは背を丸めてうなだれていた。

 

 事実を聞いたリリーは、激怒した。否、激怒なんて言葉は生易しい勢いで、顔をゆがめてルーピンを罵倒した。

 

 『ハリーが悪人ですって?!彼がいなかったら、私とジュニアは路頭に迷っていたわ!私たちが一緒に暮らすようになった時点で、男手一つでヘザーを育てていたのよ?!

 あなたは知らないでしょう?!子供を育てるのはすごく大変なの!彼のおかげで、私も!ジュニアも!ヘザーも!ここまでやってこれたの!

 いいえ!彼は私たちの大事な家族なのよ!それをよくも!』

 

 『仮にあなたの言うことが本当だとしましょう!その場合、私は見る目のない尻軽の、寄生女ってわけね!

 一生ジェームズの妻として喪に服せとでも言いたいの?!私は!誰か別の人を好きになって、その人と新しく家族を作ることは許されないの?!

 私がどうしてジェームズと結婚したか、知りもしないくせに!』

 

 『あら!知らなかったの?!てっきりジェームズが自慢げに暴露してるかと思ったわ!

 あの人の両親が徹底的に邪魔してくれたのよ!私の就職活動も!チュニーや両親との手紙の連絡も!交友関係も!

 ジェームズと結婚してポッターに嫁ぐんだから必要ないだろうって!

 彼らが死ぬ前に自慢げに暴露された私の気持ちがわかる?!

 それでも、やっと新しい家族と幸せをつかめたと思ったのに!』

 

 『あなたたちが大事なのはジェームズの妻で、ジェームズの息子の母親なんでしょう?!

 ハリーが死んだら許さない!ヘザーとジュニアに何かあったら、一生呪ってやるわ!

 謝ったから許されるなんて思わないでちょうだい!あなたはいつもそう!シリウスにしろジェームズにしろ、自分は止めたんだこうなるとは思わなくて済まない、って言ってはいおしまい!いい加減にして!』

 

 『出てって!顔も見たくないわ!』

 

 わっと泣いて顔をそむけたリリーに、ルーピンは言葉をなくし、言われるがままに病室を後にするしかなかった。

 

 そんなつもりじゃなかったのだ。本当に。

 

 ルーピンは、誘拐された経験がある。そのつらさが分かるつもりだ。だから、知ってしまったからにはなんとかしたい、と思ってしまったのだ。

 

 ルーピンが誘拐されたのは、ホグワーツに入学する以前のことだ。父の差別発言を受けたフェンリール=グレイバックが、仕返しにまだ幼かったルーピンを拉致したのだ。

 

 満月の夜まで、拉致されたルーピンはフェンリールと一緒に過ごすことになった。最初は怖くて怖くて仕方なくて。

 

 閉じ込められていたから、助けを求めようがなくて。

 

 それでも、食事を与えて優しい言葉をかけてくるフェンリールに、幼いルーピンはほだされてどこかで無事に家に帰してくれると期待していたのだ。

 

 ・・・フェンリールが人狼で、満月の夜に噛まれて帰されるとは、その時は思いもしなかったのだけれど。

 

 誘拐されて長いこと一緒に過ごしていたら、あの時の自分以上に情を育てていることだろう。だからせめて、無事だけでも知らせてやろうと思ったのだ。少なくとも、ルーピンはそのつもりだった。

 

 あれに関しては、シリウスが暴走するかもしれないと一応釘は刺していたのだ。ルーピンは止めたのだ。Missウルフとヘザーを会わせてから、メイソン夫妻から話を聞こうと思っていたし、そうするべきだと思っていたのだ。

 

 スネイプとリリー、二人の語った事情が頭をよぎる。

 

 ダンブルドアが紹介してきた人だから大丈夫だと思っていたのだ。まさかあんな事情がヘザーにあったなんて思わなかったのだ。

 

 せめてスネイプに確認を取るべきだった。スネイプがあの一家を大事にしているのは、ルーピンも知っているのだ。何らかの事情は確実に知っているだろうと、話を聞くべきだった。

 

 どうせメイソンに都合のいい話しかしない、というシリウスの訴えを聞き入れるんじゃなかった。そうやってご機嫌取りをしないと、シリウスがどう暴走するかわからなかったのだ。

 

 否、全部言い訳でしかない。

 

 なんということをしてしまったのだろう、と後悔が改めて胸を突き刺してくる。

 

 せめてこれから何かできることはないだろうか?

 

 ルーピンは必死に頭を働かせた。パッと思いついたのはダンブルドアだ。ダンブルドアに事情を説明して、メイソン夫妻に警護をつけてもらう。

 

 しかし、すぐにルーピンは却下した。

 

 ダンブルドアが、Missウルフ――クローディアのことをどのくらい知っているかは定かではない。だが、ダンブルドアは明らかにクローディアを信用しているようだった。そんな彼に、あの異常事態とそれを引き起こせるカルト宗教のことを説明して、どれだけ信じてもらえるだろうか。

 

 それに、最近は魔法界もきな臭く、『不死鳥の騎士団』も多忙なのだ。メイソン夫妻にだけ警護の手を割くなんてことはできない。

 

 そうやってぐずぐずと言い訳をして考えているしかできなかったルーピンは、メイソン夫妻が二人して病室から姿を消したのを、後で『不死鳥の騎士団』の仲間たちの伝手で知ったのだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 先の魔法省襲撃はあらゆるものに大きな影響を及ぼした。

 

 闇の帝王たるヴォルデモート卿の復活。彼が異常な化け物に変じる能力を得たこと、ダンブルドア率いる不死鳥の騎士団との全面対決の挙句、一度は退いたこと。

 

 特に大々的にヴォルデモートが復活したことが広まったことで、もう一度彼に傅こうとする者が現れ始めた。職にあぶれたチンピラや闇の魔法使い崩れは、ここぞとばかりに恩恵にあやかろうと“死喰い人”にコンタクトを取ろうとした。

 

 真逆、血気盛んなものたちやこの16年を支えた魔法省やその周辺の者たちは、連携を強めていた。

 

 意外なことに(少なくとも魔法省としては)、闇の勢力につくと思われた人狼たちは、おとなしく純血貴族の農作業に従事したままであったし、闇の勢力につくべきだ!と主張した人狼こそコミュニティから追われることになっていた。一番の問題児たるフェンリールがそこに含まれなかったのも、16年前の闇の全盛期を知る者たちからは驚嘆の一言であっただろう。

 

 ルシウス=マルフォイ、レオ=ノワール、ビリウス=ウィーズリーはじめ、一部の純血貴族や富豪商家といった者たちは中立を宣言し、沈黙を守っている。

 

 闇の勢力・光の陣営、双方は彼らに接触をしてどうにか協力を仰ごうとしていたが、中立派はあくまで中立と言って譲ろうとしなかった。そもそも、そう簡単に接触させなかったのだ。

 

 つまりは、ここ最近の魔法界は、爆発寸前の火薬庫にも似た極めて不穏で物騒な空気を内包していたのだ。

 

 

 

 「ええ。ダンブルドアの連れていたクローディアという女性が言ってたんです。

 恐るべき邪神が闇の勢力を手足にして、この英国のみならず、全世界を地獄へと叩き落すだろう、と。

 自分はそれを防ぎ、世界中の人々をあまねく平穏なる楽園へと導く使命を負っている、真なる神の降臨によって、と」

 

 「・・・それで、ダンブルドアはそれを真剣に信じている、と」

 

 「・・・はい」

 

 魔法省にある、とある会議室である。両面鏡や煙突飛行ネットワークの暖炉による遠隔参加者も多い中、闇払い局長ルーファス=スクリムジョールは頭が痛い、とこめかみを揉んでいる。

 

 『不死鳥の騎士団』との連絡員からもたらされた一報に、どう反応していいかわからない。

 

 魔法省大臣アメリア=ボーンズも、戸惑い切った顔をしているし、中立派のかなめとなるルシウス=マルフォイとレオ=ノワール(この二人は遠隔参加)もしらけ切った顔をしていた。

 

 もうだめだあの人、と言わんばかりにホグワーツ代表のミネルバ=マクゴナガルとホラス=スラグホーンはテーブルの上に視線を落とした。

 

 他の参加者たちも似たり寄ったりである。

 

 「我々魔法使いが神を信じる、か。

 それを信奉するマグルたちが、我々相手に何をしでかしてきたか、もう忘れたのか。

 そんなものを信じるなど・・・」

 

 「元々何を考えているかいまひとつわかりかねた方だったが、失踪から帰還されてから、一層わからなくなりましたな」

 

 「・・・ところが、同調している者たちがいるようなんです」

 

 苦り切った口調で話すものたちに、マクゴナガルが口をはさんだ。左手で胃の腑のある辺りをさすっていた。この場に胃薬があれば服用したいと言わんばかりだった。

 

 マクゴナガルとて、『不死鳥の騎士団』の一員であった。しかし、数々の不祥事に愛想が尽きかけていたところで、失踪からの帰還後に明らかに様子がおかしくなっていたので、彼女は学校運営を言い訳に距離を取っていたのだ。

 

 それでも、手紙などで接触はされていたのだ。ただ、マクゴナガルは距離を取り続けた。ゆえに、協力はせねど彼らの動きを多少は知っていたのだ。

 

 「は?同調?気は確かかね?」

 

 「ダンブルドアが言うなら、と自前の脳みそを使わずに無邪気に同調しているんです。

 これを」

 

 カチッと、マクゴナガルがテーブルの上に置いたのは、銀製の魔よけだった。シリウス=ブラックが持っていたものと同じだ。

 

 「神のご加護があるなどと送り付けられまして。念のため暴露呪文(レベリオ)をかけてみたんです」

 

 マクゴナガルは、「失礼します」と断りを入れてから杖を取り出し、一振りした。

 

 すると、銀色の魔よけは一変して、真っ赤な3つの円環を囲む二重の円環の魔法陣に変化した。もっとも、よほど強い力が秘められているのか、その形は一瞬揺らめいて、銀色の魔よけに戻ってしまった。

 

 「偽装魔法がかけられているとわかったんですが、よほど強くかけられているのか、暴露呪文(レベリオ)も一時的にしか効かない*1んです」

 

 変身術教授であるマクゴナガルにとって、こういった偽装を見抜くのは容易であった。

 

 「やはりほかにも送られた方がいたんですね。私のところにも送られました」

 

 「私も」

 

 「私もです」

 

 次々声を上げる会議の参加者たちに、口をはさんだものがいた。

 

 「待ってください!」

 

 そう声を張り上げたのは、遠隔参加していたノワール氏だった。

 

 「その紋章・・・!

 Mr.スクリムジョール、2年前のことを覚えておいでですか?バー・・・失礼、クラウチJr.による連続殺人事件です」

 

 「ええ。

 ・・・!」

 

 頷いたスクリムジョールは、はっとした顔をした。

 

 「あれがどうかしたんですか?」

 

 「実は・・・クラウチの遺体が見つかった隠し部屋から、あの紋章が表紙に刻まれた本が見つかったんです。

 純血貴族の皆様はご存じと思いますが、あの魔術儀式は実態が杳としてわからず、その件で皆様にもご足労願いお話を伺ったのですが・・・」

 

 ここで言葉を切ったスクリムジョールは、ちらっとノワール氏とマルフォイ氏を見やった。

 

 「我々も詳細は知らないのだ。共通の友人から、海外の古い魔術儀式で、20人の生贄がいる、そのために遺体に番号を刻んで殺し、最初の十人は遺体から心臓をくりぬくとだけ聞いていたのだ。

 以前、聴取に来られたシャックルボルト氏にそのように説明したはずです」

 

 「ええ。その報告は私も受けました。半信半疑ではありましたが・・・。

 念のため、海外で問い合わせた結果、アメリカ魔法省から禁域指定された廃墟と、そこにいた人々が一夜にして消えたという話が聞けました」

 

 「禁域指定ですか・・・?」

 

 「町の名前を聞いた人間が次々失踪する事件が起こったそうです。

 魔法族・マグル・・・あちらはノーマジというのでしたか、とにかく魔力の有無を問わずに。

 帰ってきたものもいなくはないのですが、大体気が狂っていたり、いもしないものが存在するようにふるまうようになっていたりするので・・・。

 現在、アメリカではそこを禁域指定して、町に関わろうとするもの、町の名前、そういったものを積極的に消そうとしています。

 そして、クラウチが実行しようとした魔術儀式は、どうもその町のカルト宗教にまつわるもののようなんです」

 

 「カルト宗教・・・」

 

 「ばかばかしい。マグルの戯言を真に受けるなど・・・」

 

 「戯言と一概には言えないと思います」

 

 一蹴しようとした会議の参加者に、ノワール氏が口をはさむ。

 

 「湖の底に沈めたものは見えませんが、そこに存在しないというわけではありません。

 マグルは魔法の存在を信じませんが、私たちは使えます。

 同じように、私たちが知らないだけで、もっと恐ろしくおぞましく知ることすらはばかられるものがあってもおかしくありません」

 

 ノワール氏――レギュラス=ブラックは知っている。その魔術儀式を行おうとしたクラウチJr.に拉致されたとき、異常な異世界に取り込まれたのを。

 

 レギュラスもブラックの跡取りとして、元死喰い人として、闇の魔術にはそれなりに精通しているが、あんなものは見たことがなかった。

 

 異世界を脱出して、もろもろの後始末の後、レギュラスはブラックの古い記録や保管されている古書を改めて探りなおし、マルフォイやほかの純血名家にも分散保管されているものも改めて調べ直したのだ。

 

 もし、また類似の事象に出くわした時、どうにか対抗するために。

 

 結論から言えば、その手段はブラックの記録や、他純血名家の記録には残されていなかった。

 

 ただし、断片的情報から別のことが分かってしまっただけで。

 

 「正気ですか?」

 

 「正狂を論ずる場ではないでしょう。

 問題は、20人の虐殺を必要とする、明らかに禁術に分類される魔術儀式を要するカルト宗教と、ダンブルドアにつながりがあるということです。

 さらに先日」

 

 胡散臭げな出席者の一人の言葉を切って捨てたマルフォイ氏が、論点を改めてまとめなおした。

 

 「ダンブルドアから密命を受けたであろう、『不死鳥の騎士団』の一員が私の息子と、親しくしているホグワーツの学生、並びにその家族であるマグルの少女と接触し、そのカルト宗教の一員であるクローディアという女に売ったという話です。

 その『不死鳥の騎士団』の一員は、()()シリウス=ブラックです」

 

 「申し訳ありません!Mr.マルフォイ!我が家、いえ、我が一族の恥さらしがまた!」

 

 最後の名前を、重々しく言ったマルフォイ氏に、ノワール氏が両面鏡越しに頭を下げた。多分、実際にこの場にいたら土下座していたかもしれない。

 

 「縁を切って放逐していると了承しています。息子も、その学友と巻き込まれたマグルたちも無事です。あなたが謝られることではありません。顔を上げてください、Mr.ノワール」

 

 「マグルが?何故?

 ご子息が一緒にいたから、ですか?」

 

 「それが・・・どうも、巻き込まれたのは息子の方でして。

 そのマグルの方は元々例のカルト宗教で生贄にされていたのを命からがら逃げだし、イギリスに逃げ込んでいたのですが、それをシリウス=ブラックがご丁寧に知らせたということです」

 

 再びノワール氏が鏡越しに頭を下げていた。穴があったら入りたい、伏せた地面にずぶずぶ沈み込みそうなほど申し訳なさそうにしている。

 

 周囲はもう、彼に同情的なまなざしを向けていた。ノワール氏の正体を知るものは、ことさら気の毒そうにしていた。

 

 「・・・なんでシリウス=ブラックは、そんなことを?」

 

 「それが・・・息子が懇意にしているホグワーツ生が、今は亡きジェームズ=ポッター氏によく似ているから、親切心で動いたようで・・・」

 

 「アズカバンに入れられて反省しなさいと言いました。

 どうして悪化してるんですか?!」

 

 金切り声を上げたのはマクゴナガルである。直後、彼女は「ふぐぅっ」と呻いて胃の辺りを押さえた。そして、同様に頭が痛い、とこめかみを揉んでいるスラグホーンに差し出された胃薬を「ううぅ・・・失礼します・・・」と水もなしに服用している。

 

 「シリウス=ブラックがダンブルドアから密命を受けたという証拠が?」

 

 「同じく『不死鳥の騎士団』の一員であるリーマス=ルーピンから、クローディアという女性はダンブルドアからの紹介だという自供を受けています。

 息子は必要なら“記憶”を提供する、とも言っています」

 

 「・・・それだけでは、いささか説得力が乏しいのでは?」

 

 「Mr.マルフォイ。ご子息が被害に遭ったことはお悔やみ申し上げますが、公私混同が過ぎるのでは?」

 

 「・・・失礼。確かに、言いすぎたかもしれません」

 

 「ですが、現状、例の危険なカルト宗教団体とダンブルドアがつながりを持ち、『不死鳥の騎士団』が汚染されているのは事実です。

 また、あの被害に遭った12人の犠牲者*2のような人たちを出してはいけません。

 どのような影響があるかわかりません。

 その魔よけは早急に処分して、『不死鳥の騎士団』には監視をつけるべきかと思います」

 

 現状、確かに怪しい――犯罪者予備軍といっていい宗教団体とつながりがあるとはいえ、『不死鳥の騎士団』そのものがはっきりと犯罪行為に手を染めたわけではない。闇の陣営も活発に活動していて、猫の手も借りたい情勢である以上、戦力を減らすのもうかつと言えた。

 

 ゆえにこそ、何事もなければ監視で済ませよう、という折衷案である。

 

 「ダンブルドアは、何を考えているんでしょうね・・・?」

 

 心底疲れた様子でつぶやいたボーンズの言葉に答える声はない。それが分かれば苦労しないのだから。

 

 「闇の陣営の方もな・・・」

 

 「先日、ルックウッドのゆかりの墓所が荒らされ、中の遺体が持ち去られたそうです。

 まるで獣に食い荒らされたような、惨い有様だったとか」

 

 「闇の帝王か、あれでは人食いの獣だな。何をどうすればああなるのだ・・・」

 

 続いて話題が闇の陣営の方へと切り替わる。

 

 闇の陣営の方も相変わらず、著名な魔法使いの暗殺や襲撃を続けていたが、並行して純血名家のゆかりの墓所を荒らし、中の遺体を持ち去る、墓荒らしをしていた。

 

 先の魔法省襲撃の際、ヴォルデモートが変身した異形の化け物が、神秘部に保管されている脳みそを食らい、魔法使いを食い殺してみせたのは、記憶に新しい出来事だった。

 

 持ち去られた遺体――魔法使いの伝統に則った土葬のそれがどうなったのか、大体のものは予想が付いた。

 

 「それについては、遅まきながらお伝えしなければなりません」

 

 マルフォイ氏が口を開いた。これは、今季夏季休暇に入ってから、セブルスとレギュラス、三者示し合わせて、機会ができ次第魔法省をはじめ関係者に伝えておこうとしていたことだ。

 

 ヴォルデモートの復活が大々的に知られた以上、分霊箱(ホークラックス)のことを黙っていても仕方ない。むしろ、そのことを広く知らせて知識と危機感を共有した方がいいという算段である。

 

 「実は、我々は闇の帝王の復活を予期しており、その妨害策を講じていたのです」

 

 「何ですと?!どういうことです?!」

 

 ぎょっとして聞き返すスクリムジョールに、ノワール氏とマルフォイ氏は語る。

 

 ノワール氏は、引き継いだブラックの邸宅の遺産を整理していた際、亡きレギュラス=ブラックの遺言を見つけた。そこには、闇の帝王の不死性のカラクリである禁術、分霊箱(ホークラックス)について残されていた。

 

 闇の印を消して闇の帝王と手を切ることにしたマルフォイ氏にも相談して、いくつかの該当の品と思しきものの破壊に成功。(なお、ちゃっかりマルフォイ氏はホグワーツでのバジリスク騒動の原因となった分霊箱の日記の所有はごまかしていた)

 

 また、復活の際には肉体を再構築するだろうから、その材料になるだろう彼の身内の墓所に、人づてに細工を施した。

 

 真相を知るものからしてみれば、よくもしゃあしゃあと言えたものだと鼻白まれそうな二人の都合を混ぜ込ぜにした話だが、一番重要な肝の部分はそのままだ。

 

 今なお闇の帝王が存命であるのは、まだ分霊箱があるからなのだろう、と。

 

 「何故早くそれを伝えなかったのです!」

 

 「お言葉ですが、先の襲撃事件以前に、闇の帝王の復活の可能性をお伝えしたとして、信じる方がおりましたか?」

 

 「まして、あの当時政権を握られていた方が、どのような方であったか、皆様ご存じのはずです」

 

 ドンっとテーブルを叩いてがなるスクリムジョールは、冷静なマルフォイ氏とノワール氏の言葉に、うっと言葉を詰まらせた。

 

 失脚したコーネリウス=ファッジはよく言えば日和見、悪く言えば行き過ぎた事なかれ主義だった。

 

 彼の政権下で、闇の帝王の復活の可能性など言ったところで、頭おかしくなった?おい誰かこいつを黙らせろ(意訳)されるのがオチである。

 

 まして、対象は15年沈黙を守っていた闇の帝王である。以前記したかもしれないが、行方不明者は7年音沙汰がなければ死亡扱いとなるのだ。ファッジでなくともそれに追従した周囲も臭いものに蓋をしたがる傾向があり、信じたがらなかっただろう。

 

 「お言葉ですが、復活が分かっていたならば、なぜその材料となる肉親の亡骸を完全に処分しなかったのです?」

 

 「それを行っていた場合、闇の帝王に我々の裏切りが大々的に露呈しかねなかった。

 情けないと笑われたければ結構。我々とて命は惜しいのです。できることには限りがあります」

 

 だからこそ、セブルスも細工にとどめたと言っていたが、何をどうすればあんな化け物になるのか。

 

 元々、闇の帝王は自身の肉体に不死を求めた数々の処置を施していたと聞いていたが、それが何かおかしな相互作用でも起こしたのか?

 

 ・・・少なくとも、ノワール氏ことレギュラスとマルフォイ氏はそう判断していた。

 

 まさかセブルスの、ヤーナム医療者流の治験の結果とは思うわけがなかった。

 

 「ダンブルドアもおそらく、知っていたんでしょうね。

 ・・・ホラス?」

 

 疲れたようにため息をつくマクゴナガルは、隣でスラグホーンが青ざめているのに気が付いた。

 

 「あ・・・も、申し訳、ない・・・」

 

 青ざめた顔の彼はもの言いたげに視線をさまよわせ、ややあって震える声で告げた。

 

 「れ、“例のあの人”が分霊箱を、知っているのは・・・わ、私のせいです・・・。

 私が、まだ当時学生であったころの、彼に、教えてしまったんです・・・」

 

 「何を考えてるんですか!」

 

 恐る恐る告げたスラグホーンに、マクゴナガルが怒声を張り上げる。

 

 「学生に!そんな禁術中の禁術を告げるなんて!まさか他の学生に話してないでしょうね?!」

 

 「話してません!誓って!本当です!」

 

 スラグホーンは青ざめたままぶんぶんと顔を左右に振った。

 

 「なんでそれを早く言わなかったんです?!」

 

 「まさかやるとは思わなかったんです!自身の魂を分割するなんて、禁忌中の禁忌でしょう!どんな副作用が出るかまったくわからない危険すぎるものに手を出すなんて、まっとうな魔法使いがするとは思わないでしょう!

 ・・・まして、あの当時のトムは、教師の覚えめでたい優等生でした。そんなことをするとは思わなかったんです。本当に」

 

 最後だけ意気消沈といった様子でうつむいてぼそぼそと話すスラグホーンに、全員がため息をついた。

 

 まさかの分霊箱の情報源判明である。

 

 「とにかく、今すべきことは大きく分けて二つ」

 

 話をボーンズがまとめに入った。

 

 「ダンブルドアと『不死鳥の騎士団』の監視。闇の陣営との戦いでは連携を考えますが、怪しい動きがあればすぐにその抑制と情報共有を。

 “例のあの人”と闇の陣営も被害を抑え、分霊箱の情報を探ること。

 この二つですね」

 

 「・・・なぜ我々はダンブルドアも警戒せねばならないのでしょうな?」

 

 誰かのつぶやきに答える声はない。

 

 いずれにせよ、暗雲垂れ込める英国魔法界の先行きを少しでも明るくすべく、あがくしかないというのは確かだった。

 

 そうして、会議はお開きとなり、めいめい席を立つ。

 

 最後に、護衛を兼ねて出席していた闇祓いの一人が席を立ちながら、テーブルの上に置いていた笑ったような唇の模型を手に取って、それを折り曲げて閉じた形にする。

 

 これは、『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ』の商品の一つ。かの店が出している盗聴グッズ“伸び耳”にも対抗する防諜グッズ“戯言流し”である。

 

 “伸び耳”は一応、邪魔よけ呪文によって盗聴を防がれる効果があるし、耳塞ぎ呪文(マフリアート)もあるので、このようなものは必要ないかもしれない。

 

 しかし、この“戯言流し”は一味違う。同じ室内の人間ならまともに聞こえる会話でも、このグッズを設置しておけば、扉越しだろうが“伸び耳”越しだろうが、戯言薬を服用した者同士の会話のように支離滅裂にしか聞こえないのだ。

 

 当初、ウィーズリーの双子はこんなものを作る予定はなかったのだが、新しく雇った店員の蜘蛛男が「毒と薬はセットで売るものだ。邪魔よけ呪文がないからと意気揚々と“伸び耳”を使ったら聞こえてきたのは支離滅裂な会話。面白くないかね?」という一言に、確かに!とパパっと作り上げた。

 

 以降、このグッズは防諜手段の一種として一部の人間に使われているのだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ところで、国際魔法協力部であくせく働くパーシー=ウィーズリーは、うんざりしていた。

 

 定期的に送られてくる吼えメール。何度捨てても一緒に送り付けられてくる銀製のお守り。

 

 言わずもがな、ウィーズリーの両親からだ。

 

 最近――ダンブルドアが失踪から帰ってきてから、両親は怪しい宗教にはまったらしい。で、パーシーをはじめとした子供たちにもそれを強要してくるのだ。

 

 正直、パーシーは家計が大変なんだから、よくわからない宗教にお金はかけずにまだ学生のロンとジニーに使えばいいのに、と思ったし、手紙でそのように抗議したのだが、聞いてくれないのだ。

 

 イギリスが大変なんだ、“例のあの人”が復活した、ダンブルドアもこれを受けて『不死鳥の騎士団』を再結成。ここまではまだぎりぎりわかる。両親は人がいいから、イギリス魔法界を守ろうと微力ながら協力しようとしている。それは美徳だとパーシーも思っている。

 

 でも、途中から一気に胡散臭くなった。

 

 何だ、“例のあの人”が邪神の力を利用しようとしてるとか、ダンブルドアはそれに対抗するために真の神を降臨させようとしている、そのために力を貸してほしいとは?

 

 パーシーは誰かに相談したかったが、上司としては尊敬するけど、私人としてはどうかと思っているクラウチ氏にはもちろん相談できず(彼のもめごとについてはパーシーも知っている。あてになるわけがない)、後見人になってもらったウィーズリー本家のビリウス=ウィーズリー氏に相談したら、距離を取れと言われたのでその通りにしている。

 

 で、そうしているうちにロンとジニー(豆フクロウのピッグウィジョン付き)が逃げ込んできた。

 

 ちょっともう、あの両親についていけない、と。

 

 ロンが言うには、両親はダンブルドアが年頃の少女を探しているというので、ジニーを連れて行こうとしたのだ。だが、フレッドとジョージが嫌な感じがするから絶対連れて行くな、と言ってきたそうだ。おまけに、この二人は両親が送り付けてくる銀製のお守りを、偽装されていると看破して暴露呪文(レベリオ)で不気味な感じのする赤い紋章のタリスマンに一時的にでも変えてしまったのだ。

 

 どう見ても怪しいとしか言えなかった。かつてならばともかく、今のロンはそう考えられた。

 

 ロン自身も最近の二人にはついていけないと感じていたのもあり、ジニーだけでもいいから保護してくれ、と藁にも縋る思いでパーシーを訪ねてきたのだ。

 

 これはもう、両親のところに学生二人を置いておくわけにはいかない。

 

 魔法省の官舎は狭く、二人ともかくまうわけにはいかない。ロンは双子が店の手伝いをしてくれというのをいいことに、二人のところに行った。

 

 だが、両親はしつこかった。

 

 考え直せ、イギリス魔法界を守るためにはダンブルドアの力が、彼のいう神の力が必要なのだ、ジニーを返せ、何を考えている親不孝者。

 

 定期的に送られてくる吼えメールの内容は、ロンとジニーをかくまってからさらに悪化した。(吼えメールだってただじゃない。他のことにお金を使えばいいのに!)

 

 百歩譲って自分に迷惑をかけるのはまだ許せる。だが、まだ学生の二人を巻き込まないでくれ。せめて何をどうするか子細に説明して、二人の了承を取り付けろ。

 

 最初は手紙でそう抗議したのだが、以前は通用したはずの話がまるで通用しなくなっていた。何故?まるで悪い妄想に取り憑かれたように、両親は自分の主張を繰り返すだけなのだ。

 

 今日も、パーシー=ウィーズリーは同僚の気の毒そうな視線をしり目に、吼えメールを抱えた老フクロウのエロールをうんざりしながらも、お前も大変だなと気の毒そうに見やるのだ。

 

 

 

 

 

 続く

*1
セブルスの魔法は上位者の力が込められていたため完全無効が可能だった

*2
クラウチJr.自身は自殺、ムーディも被害に遭っているが死んでないので除外している




 【銀製のお守り】
 『不死鳥の騎士団』メンバーが身に着け、また親しいものたちに送る銀製のお守り。不死鳥を模した紋章のタリスマン。

 啓蒙ある者には、その偽装は看破され、真の姿であるサイレントヒルにある教団の紋章が隠れていることが見抜かれる。

 イギリス魔法界は危機に瀕している。今こそ、神のお力を借りる時だ。約束の時をもたらし、あまねく平穏を人々へ導くべきである。『不死鳥の騎士団』のものはそうささやき合う。



 Q.メイソン夫妻どこ行ったんです?!大丈夫なんですか?!

 A.次回詳しくやりますが、彼らは自分たちの意思で聖マンゴを出ていきました。リリーさんが気絶で聖マンゴに一時的に入院したことで、正体がばれてしまったので。・・・教団の手先みたいな『不死鳥の騎士団』がメイソン夫妻を放っておくかってお話です。ルーピンさんは役に立ちませんから。



 (ボソッ)ダンブルドアが『教団』に汚染されてるってなったら、気が付いたら『不死鳥の騎士団』そのものがヤベエことになりました。
 ヴォルデモートもなり損ないでヤベエはずなのに、ダンブルドアの方がヤバみを感じるってどういうことなの・・・?
 ちなみに、フレッド&ジョージはかぶった檻と芽生えた啓蒙のおかげでやばさに気が付いたので、早急に距離を取っていますし、他の兄弟・知り合いにもいち早く警告を出していました。両親にも言ったんだけど、聞いてもらえませんでした。
 あと、これは第7楽章の方で言うべきだったんでしょうけど、原作ではモリー母さんが『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ』にあれこれ口をはさんだりしてましたが、今作世界線ではパッチがそれを許しませんでした。
 肝っ玉母ちゃんのモリー母さんと、したたか蜘蛛男のパッチ。どっちが強いんかなあ・・・?



 次回の投稿は未定!内容は、イギリスにお帰りなさい、メイソン姉弟とセブルスさん。ようやく後始末開始です。騒動の余波が尋常じゃないので、後始末も尋常ではなかったりします。お楽しみに。
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