セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回はお付き合いくださりありがとうございました。評価、ここ好き、お気に入り、誤字報告、感想、ありがとうございます。

 Q.お辞儀様もダンブルドアもやばいことになってんじゃないですかー!ヤダー!

 A.感想欄でもご指摘がありましたが、半分近くセブルスさんのせいです。そして、セブルスさんが何もしなくても、この二人は勝手にセブルスさんに近寄っていきます。理由は本編でお話ししますので、この場では割愛で。

 というわけで続きです。

 イギリスの状態はご理解いただけましたか?では、改めて、時系列を現在に戻し、セブルスさんとメイソン姉弟の帰国から。


【2】セブルス=スネイプ、イギリスへ帰還する

 

 ロンドンの一角にある、廃ビル。偽装されているが、そこには魔法使いが利用する海外への窓口、国際暖炉がある。国際煙突飛行ネットワークの出入り口である。

 

 そこから一人の男が出てきた。まとった漆黒のインバネスコートと束ねた黒髪をなびかせる男は、数歩歩いて足を止めた。

 

 「セブルス=スネイプだな?」

 

 そこにいたのは、ローブをまとった何人かの魔法使い。青い義眼の目立つ猛禽類をほうふつとさせる義足の魔法使いがうなるように問いかけてきた。

 

 黒ずくめの男――セブルスは相変わらず無表情だった。一見、彼は手ぶらで一人でいるように見えた。彼が口を開こうとした直後。

 

 突然黒い煙じみた闇が周囲を包み込んだ。

 

 「何だ?!」

 

 「どうした?!」

 

 「光よ(ルーモス)!馬鹿な?!何故効かん?!」

 

 慌てふためく魔法使いたちに、セブルスはとっさに両手に仕掛け武器と射撃武器を取り出そうとしたが、それより早く反射的に拳をふるっていた。

 

 「へぶっ?!」

 

 セブルスの腕をつかもうとしてきたため、反射的に殴り飛ばされたのはぼさぼさの赤毛の、だらしなくずんぐりした男だった。セブルスの拳は男の鼻っ柱にクリーンヒットしたらしく、ひっくり返って鼻を押さえている。

 

 「何者だ」

 

 「話はあとだ!逃げるぞ、こっちだ!」

 

 うなるようなセブルスの問いかけに男は、鼻を押さえたまま言うと何とか立ち上がって踵を返し駆け出した。

 

 セブルスはほんの一瞬考えたが、すぐさま男の後に続く・・・前に、懐から以前もらったおとり爆弾を取り出し、明後日の方へ投げておく。

 

 鳴り響いた大きな音に、魔法使いたちの注意は一気にそれ、その隙に二人は無事、その場を後にできた。

 

 「待て!どこへ行く?!」

 

 「マンダンガス!あの小癪な盗人め!裏切ったか!」

 

 黒い闇の中で魔法使いたちが音の方へ向かいながら悪態をつく。ややあって闇は晴れた。

 

 その黒い闇の正体は、インスタント煙幕という。『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ』で取り扱っている商品の一つだ。

 

 魔法使いたちは周囲を見回したが、セブルスの姿はどこにもない。当然だ。

 

 「逃げたか?!」

 

 「まだ遠くには行ってないはずだ!」

 

 「待て、スネイプはあとでもいい。先に、聖女の保護だ」

 

 ひそひそと話し合う魔法使いたちをよそに、義眼の男――マッド・アイ=ムーディがギロッと国際暖炉のあるビルの入り口を見やった。

 

 その杖を握った腕が一閃される。ばさりっと透明マントが剥がれ落ち、そこから目を丸くする金髪の少女と黒髪の少年が現れた。

 

 「儂にそのマントは通用せんぞ、小僧ども」

 

 「こ、小僧?!何の話」

 

 「とぼけるな!」

 

 ムーディがうなるように言って、再び杖を一振りした。出現した縄が戸惑った様子の少年少女を縛り上げる。

 

 「確保したぞ。死喰い人が来るかもしれん。撤収だ」

 

 そうして、彼らはバチンバチンと“姿くらまし”で次々と姿を消した。

 

 何事かと目を丸くする魔法使いたちをよそに、ビルの陰に隠れていた少年少女たちが姿を現した。

 

 赤毛の少女と、金髪の少年だ。かぶっていた本物の透明マントをたたんでポケットにしまいながら、二人はこわばった顔でうめいた。

 

 「おじさんの予想・・・当たっちゃったね・・・」

 

 「何なのよ、次から次へと・・・」

 

 セブルスの魔法でとりあえず髪を染めたハリーJr.と、魔法で作った鬘をかぶるヘザーは、苦虫を噛んだ顔をしていた。

 

 こうなっているのには、もちろん理由がある。少し時間を戻して説明する。お付き合いいただきたい。

 

 

 

 

 

 サイレントヒルから国際暖炉のある町へと戻った二人に、セブルスは釘を刺してきたのだ。

 

 イギリスに戻っても気を抜くな、むしろここからの方が大変だ、と。

 

 セブルスは、クローディアとシリウス・ルーピンの接点がダンブルドアであるということから、無事にイギリスに帰れても『不死鳥の騎士団』による待ち伏せを受ける可能性があると踏んでいた。

 

 ヘザーとハリーJr.は保護という名目で連れ去られ、セブルスは邪神の手先とでもされて引き離される――のはまだマシで、命を狙われかねないと予想していた。

 

 真っ先に悲鳴を上げたのはヘザーだった。

 

 それでは何のためにサイレントヒルまで来たのか。いや、自分たちだけならまだましだ。一番危ういのは。

 

 「パパ!ママ!聖マンゴ治療院に入院したままだわ!」

 

 「ど、どうしよう!あそこにはルーピン先生がいる。ルーピン先生、ダンブルドアにホグワーツに入れてもらったから恩があるって・・・!」

 

 「案ずるな。手は打っている」

 

 今更ながら慌て始めたメイソン姉弟に、セブルスはシレッと言って説明する。

 

 サイレントヒルで別行動中、セブルスはメイソン姉弟に行動指針になる手紙を宛てたが、同時にレオ=ノワール氏(つまりレギュラス)に手紙を宛てて二人の保護――聖マンゴ治療院から出して、『葬送の工房』へ送るよう頼んだ、と。

 

 ノワール氏は潜伏中であるが、セブルスの頼みであれば無碍にはしないだろう。彼自身が動かずとも、ハウスエルフにやってもらうなり、やりようはあるはずだ。(マルフォイ氏に頼まないのは、彼は『葬送の工房』の位置を知らないためである)

 

 それに、リリーとハリーもけしてされるがままでいるわけでもない。リリーだけでも動けるようになったら、すぐに聖マンゴを出て潜伏しようとするだろう。

 

 リリーの方にも、動けるようになって行く宛てがないなら、『葬送の工房』に来たらいい、と手紙を出しておいた。(併せてメアリーにも手紙を出して、もしリリーとハリーが来たら受け入れるように、と伝えている。『葬送の工房』の結界は、遠隔操作が可能なのであらかじめ設定変更しておいた)

 

 「ありがとう、おじさん・・・!」

 

 「ありがとう・・・何から何まで、本当に・・・」

 

 ほっとした顔をする姉弟二人に、しかしセブルスは首を振った。

 

 「安心するのはまだ早い。先ほども言ったように、イギリスに戻れば待ち伏せを受け、拉致される可能性がある」

 

 途端に姉弟二人は、そうだったと顔をこわばらせる。

 

 「そこで、これを使う」

 

 言って、セブルスは血の遺志収納から、クリスタル瓶に収めた魔法薬の原液を取り出した。何やら泡立って水あめのようにドロドロしている。

 

 セブルスは魔法薬を持ち歩く際は錠剤化呪文で加工したものを持ち歩いているが、この薬に関してはあえて原液で持ち歩いていた。何しろ、これは最後の仕上げに材料を現地調達する必要があるのだから。

 

 「では、Mr.メイソン。この魔法薬が何かわかるかね?」

 

 「え?ええっと・・・」

 

 魔法薬の授業を思わせる教授然とした口調で尋ねたセブルスに、ハリーJr.は一瞬目を丸くして、視線をさまよわせた。

 

 「ふむ。さすがに見た目だけでは難しかったようですな。では、原材料を述べよう。

 クサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワヤナギ、二角獣(バイコーン)の角の粉末、毒ツル蛇の皮の千切りを用いている。あと一つ材料を加えれば完成だ」

 

 「あ!ポリジュース薬!」

 

 「よろしい。さすがはOWL(フクロウ)でO(大いによろしい)を取っただけありますな。授業だったらスリザリンに加点したところだ」

 

 「はい、先生。それはどんな薬ですか?」

 

 ポンと手を打って答えたハリーJr.にセブルスが満足げにうなずくと、若干面白くなさそうなヘザーが口をはさんだ。

 

 「どんな薬だね?Mr.メイソン」

 

 「はい。変身薬です。服用してから1時間、変身したい人物とまったく同じ外見になります。ただし、衣服などは再現されないので、体格が違う相手に変身する場合はあらかじめ着替えを用意しておく必要があります」

 

 「よろしい。よく勉強しておりますな。追加で加点したいところだ」

 

 セブルスに褒められて嬉しそうに笑うハリーJr.に、魔法はちんぷんかんぷんのヘザーは面白くなさそうに口をとがらせている。

 

 「で、そのポリジュース薬を使ってどうするの?誰か適当な人に変身するの?」

 

 「言っておきますが、効果はともかく、味の保証はできませんぞ」

 

 「ヘザー、大体の魔法薬は美味しくないよ。飲みたいの?」

 

 「遠慮しときたいわ」

 

 魔法使い二人の言葉に、ヘザーは微妙な顔をして首を振った。

 

 「これの使い方はこれから伝える。その前に、この薬を完成させねばならぬ。二人とも、最後の材料としてそれぞれ髪の毛をよこしたまえ」

 

 ニヤリと悪っぽく笑ったセブルスに、姉弟二人は顔を見合わせながらも言われるとおりにした。

 

 

 

 そうして、セブルスはパパっとその場でポリジュース薬の錠剤を作り上げる。ハリーJr.へ変身する分とヘザーに変身する分の二種類を用意した。

 

 そして、国際暖炉に到着した後、メイソン姉弟に似通った体格の男女二人を不意打ちで失神呪文(ステューピファイ)で気絶させ、その二種類のポリジュース錠剤薬をのませ、追加で錯乱呪文もかけておく。その上で店売り版の透明マントをかぶせたのだ。

 

 そんなことしていいの?ともの言いたげな顔をする姉弟に、セブルスはシレッと言った。

 

 一応、『不死鳥の騎士団』は正義の味方なのだ、薬が切れて元の姿に戻った無関係な人間には危害は加えないだろう、と。

 

 念のためメイソン姉弟の方にも追加で細工をした。ハリーJr.の髪色を変えて、ヘザーには鬘をかぶせた。ヘザーはマグルの毛染めを使っているので、魔法による毛染めだと万が一解除魔法を使われたら、金髪になるのでばれてしまうと踏んで鬘にしたのだ。

 

 そして、セブルスは自身は“姿くらまし”ができるからおとりになる、その隙に二人は元のメイソン宅に行け、そこで合流しよう、ということになったのだ。

 

 

 

 

 

 そして、セブルスの予想は的中し、作戦はうまくいっているようだった。

 

 透明マントをかぶっているからこのまま行こう、といったハリーJr.を、いやな予感がするから隠れていよう、と押しとどめたのはヘザーだった。

 

 彼女が止めなければ、あの義眼義足の魔法使いに捕まっていたのは自分たちの方だっただろう。

 

 “神”はヘザーの体から失われたはずなのに、相変わらず彼女は勘がいいままだった。

 

 後遺症のようなものだろう、とヘザーは思っている。

 

 一度存在したことは完全になかったことにはできない。もっとも、この程度で済んだことは御の字だろう。

 

 それに、ヘザー自身、この勘の良さには何度も救われているので、いきなり鈍くなるのはそれはそれで困るのだ。だから、これでよかったのだ。

 

 ともあれ、明らかにやばそうな魔法使いたちはうまく撒けただろうと判断し、急いで家に行こう、と二人は路地から抜け出る。

 

 透明マントは折りたたんでしまい、地下鉄などの各種交通機関を駆使して、家路をたどる。

 

 とんだ長旅になった。家に帰るまでが外出とはよく言ったものだ。

 

 二人は焦りそうになる気持ちを必死に落ち着かせ、怪しく見えないように祈りながら家に向かった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 セブルスと、彼を逃がしてくれた男が逃げ込んだのは、とあるビルの一角にある倉庫だった。マグルの鍵なんて開錠呪文(アロホモラ)の前には無力である。

 

 山積みの段ボールをしり目に、魔法の明かりを頼りに、段ボールの一つに腰掛けた男が話し始めた。

 

 「ここでしばらく待て。取り立て屋も誤魔化せた穴場だ。

 いやあ、逃げ場はいくつも作っておくに越したことはねえな。

 連中、マグルの町に逃げ込んでるなんて、まず思わねえのさ。

 まったく。どいつもこいつも。

 なぁんで借りた金を返す必要があるんだ?意味が分からねえ」

 

 ぶつぶつという男に、セブルスは胡乱な目を向けた。

 

 借りた金を返すなど、当たり前すぎる話ではなかろうか?

 

 「おいおい!何だよ、その目は!

 いいか!

 金は一つの場所に置き続けて貯めるのはダメだ。

 だから俺が投資して経済を回すんだ。それが周り巡って債権者の懐に貸した以上の金がいく、それが俺の返済になるんだ。

 なんで誰も理解しようとしねえ?!」

 

 「そもそも借用者がその理論を振りかざすな。厚顔無恥が過ぎる」

 

 「何でだ?!金に区別をつけてんじゃねえ!

 金は金だ!俺のだとかお前のだとかナンセンスだろうが!」

 

 セブルスは久々に頭痛を覚えて、眉間をもみほぐした。

 

 何だろうか、この男は。同じ言語を話しているはずなのに、まったく通じず平行線を行くこの感覚。果てしなく疲れる。先ほどまでいた悪夢の町で狂信者を相手にしていた時とはまた別ベクトルの話の通じなさだ。これなら、ヤーナムで獣をズタズタにしている方がマシだ。

 

 「・・・それで、なぜ私を助けた?

 そもそも貴公、何者だ?」

 

 「おっと、そうだった」

 

 セブルスの問いかけに、男はおどけて仰々しく一礼して見せた。

 

 「俺はマンダンガス=フレッチャー。驚くべき品々のバイヤーであり、プロバイダーだ。

 あんたは、セブルス=スネイプだろ?ホグワーツの魔法薬学教授の」

 

 「・・・うむ」

 

 セブルスがうなずけば、マンダンガスはじろじろと彼を見ながら独り言ちた。

 

 「あんた何やらかしたんだ?」

 

 「・・・質問の意図が見えぬ。どういう意味だ」

 

 「あんた、指名手配されてんだよ。

 闇の陣営からも、『不死鳥の騎士団』からも。すごいぜ?闇の陣営からは賞金首扱いで生死問わず賞金一万ガリオン!『不死鳥の騎士団』からは賞金は出ねえが血眼で探し回られてるぜ!」

 

 「!」

 

 マンダンガスの言葉に、セブルスは一瞬目を見開いたが、すぐに無表情に戻った。

 

 「ならば貴公には、さぞ魅力的な金のガチョウであろうな?」

 

 左手にガラシャの拳をはめながら言ったセブルスに、マンダンガスは瞬時に顔を引きつらせて飛びのき両手を振りながら叫んだ。

 

 「待て待て待て!俺はシリウス=ブラックじゃない!」

 

 「そんなことは見ればわかる」

 

 「そうじゃない!死ぬ死ぬ死ぬ!やっこさんのように殴られたら、一撃で死ぬ!

 俺はあんたを助けた!『不死鳥の騎士団』から逃がしてやったんだ!

 だから、まず話を聞け!な?!」

 

 「・・・よかろう」

 

 マンダンガスの懇願に、セブルスはひとまず手は降ろしたがガラシャの拳は装備したままだ。

 

 何かおかしなことを言ったりやったりしたら、今度こそシリウスの二の舞にされると悟ったらしいマンダンガスは引きつった顔をしていたが、それでもそれについては何も言わずに話を進めることにしたらしい。

 

 「ウィーズリーの双子を知ってるか?ジョージとフレッド!生意気なガキどもと、あいつらが雇ってる怪しい蜘蛛男が、あんたの指名手配を聞いて、俺に頼んできたんだよ。

 “スネイプ先生を『不死鳥の騎士団』から逃がしてくれたら、取り立て屋の相手を1回だけ引き受ける”ってな。

 何で金じゃねえんだ?」

 

 その破綻しきった経済感覚で報酬を金にするのは無意味が過ぎると思われたからじゃないか、とセブルスは思ったが口にはしなかった。

 

 ともあれ、まさかこんなところで彼らに助けられるとは。・・・ウィーズリーツインズはともかく、パッチはあとで何か恩着せがましくせびってきそうだ。あとが怖い。

 

 「・・・『不死鳥の騎士団』に入ってない彼らが、そのようなことを耳にするとは。

 連中は私を大々的に探し回っているか。

 何か知らないか?」

 

 そう尋ねながら、セブルスはシックル銀貨を指ではじいてマンダンガスに飛ばした。

 

 マンダンガスはおっとっと、と危うげながらも銀貨を受け止め、ニヤッと笑っていそいそとそれをしまってから、口を開いた。

 

 「ウィーズリーのガキどもの両親は知ってるだろ?アーサー=ウィーズリーとモリー=ウィーズリー。『不死鳥の騎士団』の古株だ。

 モリーが店先で喚いてたのさ。怪しい蜘蛛男と手を切れだの、セブルス=スネイプについて知ってることがあれば言えだの。あんたを探してることもな。邪神の手先だとかなんとか」

 

 「ジョージとフレッドは聞き入れなかったか」

 

 「むしろ『売り上げを持ってくな』とか『営業妨害だ』とか言って、出禁をくらわせてたぜ。ああ、それは蜘蛛男がやってたんだっけか」

 

 セブルスの言葉に、マンダンガスは視線をさまよわせながら答えた。

 

 「いつから?」

 

 「夏の初めからだ。

 あんたのスキャンダル記事が出た時点で危険人物だと思ってたが、とうとう正体を現したって、自称:良識ある正義の魔法使いたちは息巻いてたぜ。

 あんた、シリウス=ブラックとクローディア=ウルフって女を殺ったんだろ?その二人だけじゃない、ギルデロイ=ロックハートに、リータ=スキーター、ドローレス=アンブリッジ。

 みんな、あんたの周囲をうろついて不興を買った連中で、最後は行方不明だ。

 ダンブルドアが一声、『セブルスも闇に魅入られた』って言えば、あんたは“例のあの人”並みのやばいやつってわけだ」

 

 「・・・言いがかりもいいところですな」

 

 「俺が言ったんじゃない!ダンブルドアと『不死鳥の騎士団』の他のメンツだ!

 だからその左手の物を俺に向けるな?!

 そんなもので殴られたら、繊細な俺は死ぬ!そうなれば大損になるぞ!」

 

 あわあわと両手を振って命乞いするように叫ぶマンダンガスに、セブルスは続けて尋ねた。

 

 「闇の陣営の懸賞金も、同時期か」

 

 「ああ。まあ、そっちは正確な時期はわからないが、大体な」

 

 頷いたマンダンガスに、セブルスは黙して猛烈な勢いで考えた。

 

 やはり、すべてのきっかけというか、起爆剤となってしまったのは先の魔法省襲撃であろう。

 

 あの一件で、おそらくヴォルデモートもダンブルドアも、双方ともに自身の力不足を実感し、そこからさらなる飛躍を狙ったのかもしれない。

 

 ヴォルデモートは、完全な状態を目指し、おそらくは彼の理想形であろうセブルスを今度こそ殺して食らうために、狙ってきているのだ。手段は問わず。何なら(不可能だと知っているくせに)セブルスが死んでも構わない、と。

 

 夏休みに入ってから襲撃が絶えなかったのは、懸賞金のせいだったわけだ。ようやく謎が解けた。もしかしたら、死喰い人ではない単なる末端チンピラ魔法使いも襲撃に加担してたかもしれない。今更過ぎるが。

 

 ダンブルドアは、一昨年サイレントヒルから帰還を果たしている。それがどんな形で彼の内面にどのような変化をもたらしたかは定かではない。だが、その時、おそらく彼は『教団』と接触してしまった。

 

 そして、『不死鳥の騎士団』としての活動の傍ら、『教団』とコンタクトを取り続けていた彼は、ついに先日、自分が知っているどの魔法体系にも分類できない異形のヴォルデモートを目の当たりにした。

 

 あれをどうにかするために、『教団』の持つ呪術や神の力にすがったのかもしれない。そして、それと引き換えにシリウスとルーピンにクローディアを紹介してヘザーを探させたのかもしれない。

 

 あれの危険性を知っていれば、すがるなんてとんでもない、という言葉が出てくるが、ヴォルデモートの危険性の方が先だったのかもしれない。

 

 『教団』の用いる呪術――降神術やアレッサを痛めつけた術は、セブルスたち魔法使いが用いる魔法とはまた別系統の術だ。根本的には似たような力ではあるのだろう。だが、前者がより神の力に近い形で存在しているのに対し、後者は人間が用いりやすいようにカスタマイズされている。セブルスも自身が上位者になって、その力を研究する過程でわかったことだ。

 

 異形のヴォルデモートに対抗するならば、既存の魔法以上の力――すなわち、『教団』の保有する呪術と神の力しかない、と考えたのかもしれない。

 

 あくまでセブルスの憶測の域を出ないが、そうとでも考えないと辻褄が・・・まさかとは思うが、ダンブルドアも神に魅入られていたりするのか?あり得ない、と言い切れないのだ。

 

 ありえないなんてことは、ありえないのだから。

 

 今更ながら、12年前の一件でリリーが『教団』と接触しなかったのは、すぐそばに不倶戴天の怨敵となるセブルスがいたからだろう。ダリアの失敗から5年しか経ってないこともあり、不要な接触を避けたがったのかもしれない。これに関しては想像するしかできないが。

 

 それにしても。

 

 「助けてくれたことと、情報提供には感謝する。

 しかし、貴公はよかったのかね?」

 

 「あん?」

 

 「『裏切り者』と呼ばれたことから察するに、貴公も『不死鳥の騎士団』の一員であったのだろう?

 一時(いっとき)の報酬で、信頼をどぶに捨てるのはいかがなものかと思うが」

 

 「よせやい。

 俺のようなのが『不死鳥の騎士団』なんて気取ったところにいるには相応に理由があるんだよ」

 

 「理由か」

 

 「恩だよ。

 へまをやっちまった時、ダンブルドアに助けられてな。それで恩返しで『不死鳥の騎士団』に入るなんて柄にもないことをしてたわけだ。

 借りた金を返す必要はないが、受けた恩は必ず返せ、ってのが信条でね」

 

 肩をすくめたマンダンガスは、少し照れくさそうな調子で言ったが、すぐに先ほどまでのぶっきらぼうな調子に戻った。

 

 「けど、もう十分だろ?

 最近のダンブルドアはおかしい。神がどうの楽園がこうの邪神の手先がどうのって。

 神様がいるなら、今すぐ俺を大金持ちにして取り立て屋をこの世から消してくれっての!マーリンでもできねえことだぞ!いるわけねえだろ!」

 

 そんな極めてしょうもなく利己的な願いをかなえる神なんて存在するか、とセブルスは思ったが口にはしなかった。あり得てほしくない憶測が大当たりだったかと、内心で苦虫を噛んだ顔をしていた。表情には一切出さなかったが。

 

 「このままダンブルドアに付き合ってたら、金も命もいくらあってもたりゃしねえ。

 わかるか?借りた金は返す必要はないが、命は一つきりで貸し借り不能だ!ごめんだな!」

 

 言い捨てて、マンダンガスは倉庫の扉に手をかけた。

 

 「それじゃ、俺はもう行くぜ。

 ああ、何か俺に入用ならジョージとフレッドの二人に言ってくれ。

 魔法薬にもいろいろ材料はいるだろ?」

 

 「・・・機会があれば」

 

 「作ってくれよ!金は天下の回り物!俺の懐を温めてくれよ!頼むよ!」

 

 喚くだけ喚いて、マンダンガスは出て行った。セブルスを逃がすために『不死鳥の騎士団』を裏切ったが、本人はあまり気にしてなさそうだった。

 

 パッチとどこか似たような雰囲気もあるのだ、そうそう死にはしないだろう。

 

 それにしても、ここ最近あの手の輩と絡むことが多いのはなぜだろうか?

 

 セブルスは一つ息をついてから、念のため少し時間を空けてから外に出た。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 地下鉄を降りて、ヘザーとハリーJr.は駅の構内に立った。

 

 だが、ヘザーはすぐに顔をこわばらせた。いやな感じがした。

 

 「へ、じゃない、シェリー、どうしたの?」

 

 あらかじめ決めていた偽名を呼ぶハリーJr.に、シェリーことヘザーは声を潜めて言った。

 

 「・・・嫌な予感がするの。待ち伏せされてるかも」

 

 「でも、忠誠の術・・・そっか、家の場所はともかく、拠点にしてる町はばれちゃったから・・・」

 

 ヘザーの言葉に、ハリーJr.は顔をこわばらせながら言った。

 

 「なんとか、家に帰れないかな?

 父さんと母さんはおじさんの家に逃げてるにしたって、せめて、ヘドウィグの無事だけでも確認したくて・・・」

 

 「そうね・・・」

 

 二人は大事なペットを思い浮かべた。

 

 ハリー=メイソンJr.のホグワーツ入学に合わせて、彼は一羽のフクロウを飼い始めた。雪のように真っ白な翼の雌のシロフクロウは、ヘドウィグと名付けられて、メイソン家とハリーJr.の文通を一身に支えてくれている。

 

 ヘザーも、弟の手紙を届けてくれるヘドウィグをかわいがっており、時折その真白の羽毛を撫でていたし、2年目の夏には「いつもありがとう。おしゃれとかどう?似合うと思うんだけど」とプラスチックの紫の宝石が付いた足環をプレゼントした。ヘドウィグは左足につけたそれを喜んだらしく、時々鏡の前で具合をチェックしてたりしたのだ。

 

 ここしばらくの騒動で、ヘドウィグはメイソン宅に置き去りにしてしまった。一応、エサは出しっぱなしにしていたし、魔法使いの飼うフクロウは賢いのでむやみに散らかしたり、汚したりということはないだろうが、もし一羽きりのヘドウィグに何かあったら。

 

 「透明マントを使おう」

 

 「やっぱりそれしかないかしら。さっきの変な目の魔法使いがいなきゃいいけど」

 

 「匂いや音も誤魔化せないよ。ばれる時はばれるよ。ダメ元だよ」

 

 ヘザーの言葉に、ハリーJr.は答えた。

 

 そうして、二人は改札を済ませると物陰に隠れてから、改めて取り出した透明マントをかぶった。どうにか二人の姿をごまかし、姉弟は移動を始めた。

 

 二人で透明マントをかぶっているのでのろのろとしか動けない。さらに、周囲に魔法使いがいないか目を光らせる必要がある。

 

 さらに、サイレントヒルの時や不気味な帰宅の時のように、実力行使を言う名の最終手段を講じることができない。何しろ、マグルの町中なのだから。

 

 見慣れた街なのに、時折明らかに着古した浮浪者のような恰好をした人間がうろついていた。

 

 ポケットから杖がはみ出していたり、ひどいときは手に持っていたりするので、どう見ても魔法使いだと一目でわかる。

 

 変装するにしてもひどい。セブルスおじさんやドラコの方がよほどうまく変装できている。

 

 二人は魔法使いと思しき人間がいる場所はできるだけ迂回して、家路をたどる。

 

 そして、門をくぐり、玄関の鍵を開けて素早く中に身を滑り込ませた。

 

 マントを脱いで二人は人心地ついたが、家の中を振り返って凍りついた。

 

 空っぽだった。マットや時計、目につくところに置いてあった家具がごっそりとなくなり、まるで空き家のようになっている。

 

 「え? う、嘘・・・? 何で・・・?」

 

 震える声でうめいたハリーJr.は、急いでリビングに続く扉を開けた。

 

 「ない・・・!」

 

 家族だんらんを楽しんだソファも、話題を提供してくれたテレビ、ティータイムに母の焼いてくれた焼き菓子と紅茶の入ったポットを置いたテーブル、雑誌やコミックを置いていた本棚、そのすべてがごっそりと消え去り、殺風景ながらんどうを見せつけていた。

 

 「父さん!母さん!ヘドウィグ!」

 

 急ぎ呼びかけるハリーJr.はそのまま家中の扉を開けまくるが、どこも似たような状態だった。

 

 ヘザーも、最初こそ驚いたが、すぐに表情を引き締めた。

 

 「落ち着いて、ジュニア」

 

 「でも!」

 

 「あんた、3年前の引っ越しをもう忘れたの?あの時、母さんが杖振ってものすごい即行荷造りしてたでしょうが」

 

 「あ」

 

 ヘザーの言葉に、ハリーJr.ははっとしてから、きまり悪そうに頭を搔いた。

 

 3年前のシリウス=ブラックによる動物もどき(アニメーガス)による混乱での緊急引っ越しの際、母のリリーは杖を振りまくって家じゅうの家具を小さくしたり、引っ越し用の魔法のトランク(複数鍵と検知不能拡大魔法による大容量多重収納機能あり)に詰め込んで異常な勢いで荷造りしてみせたのだ。

 

 そのとき、魔法の使えないハリーとヘザー、ホグワーツ就学による帰宅時の魔法制限がついたハリーJr.は掃除やほか手続きに奔走することになっていた。

 

 「おじさんも考えなしに家に帰れって言ったわけじゃないと思うし、何か手掛かりがあるはずだわ。探しましょ」

 

 「うん・・・」

 

 おとなしくうなずいたハリーJr.は、ヘザーと一緒に今度は家の中を大人しく調べ出した。

 

 異変を見つけたのは、ハリーの書斎だった。ここも他と同じようにがらんどうであった――ハリーの仕事用のデスクや飼料用の書籍の類はなかった――のだが、壁一面に並べられた本棚だけはそのままだったのだ。

 

 「ここね」

 

 「わかるの?」

 

 「本棚がそのままだわ。ということは・・・」

 

 言いながらヘザーは本棚のレリーフをいじった。ガチャンと本棚がずれて、隠し金庫が現れる。

 

 「何それ?!そんなのあったの?!」

 

 「あんた、知らなかったの・・・」

 

 ぎょっとするハリーJr.に、ヘザーは呆れた声を出した。父は拳銃訓練の際に持たせてくれたそれを、どこにしまっているのか、疑問はなかったのだろうか?

 

 ヘザーは勘のよさのおかげで、この金庫のことに気がついていたのだ。

 

 金庫を開ければ、中には手紙と空の牛乳パックが一つ。

 

 ひとまず、ヘザーは手紙を手に取って目を通した。じんわりとその水色の目の端に涙が溜まる。

 

 「ヘザー?」

 

 「・・・っ、父さん、生きてるって。でも、意識不明で目を覚まさないって。

 おじさんが言ってた通り、『不死鳥の騎士団』に嗅ぎつけられたけど、ノワールって人のおかげで二人で逃げられたって。今はおじさんの家にいるって。ヘドウィグも飛ばして、後で来るようにしたそうよ。

 そっちの牛乳パックがポートキーになってるから、それで来れるって」

 

 「!」

 

 ヘザーが差し出した手紙をハリーJr.もまた受け取って目を通した。彼もまたその緑の目の端に涙が溜まる。

 

 「父さん・・・母さん・・・良かった・・・!

 ヘドウィグも・・・!」

 

 目元をぬぐうハリーJr.に、同じく目元を拭いたヘザーは微笑んだが、すぐに不安そうに視線を落とした。

 

 父は生きている。でも意識不明のまま。このまま目を覚まさなかったら。

 

 ヘザーは首を振った。大丈夫。だって自分たちは帰ってこれたのだ。父だって目を覚ますに決まっている。

 

 「さ!そうとわかったら会いに行きましょ!この牛乳パックがポートキーなのよね?一緒に触ったらいいんでしょ?」

 

 「うん!」

 

 ハリーを聖マンゴ治療院に担ぎ込むときにも使ったポートキーのことを思い返しながら問いかけたヘザーに、ハリーJr.はうなずいた。

 

 「せーの、で触るわよ。

 せーの!」

 

 パッと二人は同時に牛乳パックのポートキーに触った。

 

 

 

 

 

 続く

 




【ヘドウィグの足環】
 ハリー=メイソンJr.の飼っているシロフクロウ、ヘドウィグが付けている足環。金属製で、プラスチックの紫の宝石チャームが付いている。

 ヘドウィグがハリー=メイソンJr.に買われてから2年目に、この足環が与えられた。

 家族の一員になってくれて、いつも手紙を運んでくれてありがとう、という言葉とともに、ヘドウィグにこの足環は与えられた。

 きらめく紫は、他のフクロウにないでしょう?とヘドウィグはひそかに自慢している。




 Q.原作のマンダンガス、あんなどこぞのノーザークみたいなこと言わないでしょ!

 A.セブルスさんが閣下なら、マンダンガスさんなら適任って、感想でおっしゃられてた方がいたので採用させてもらいました。
 彼を書きながら私は、おかしい私は何を書いている?と思いました。狂人とか変な奴を書いてるといつも思います。そして、セブルスさんがそういったやつらにツッコミ入れたり物理的罵倒をしたりして、そうだったこれこういう話だわ、と我に返ります。





 次回の投稿は、来週。内容は、・・・お帰り。それからただいま。
 お楽しみに。
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