は、初めて拙作に推薦をいただきました・・・!ありがとうございます・・・!この場を借りてお礼申し上げます・・・!
というわけで続きです。
へそが内側に引っ張られるような独特の酩酊感とともに、ヘザーとハリーJr.が降り立ったのは、とある田舎の一角だった。
ポツンとある一軒家は、一見すると偽装が施されて廃屋にしか見えないのだろうが、二人には一目瞭然だった。
「奇麗・・・」
思わずヘザーがつぶやく。
真白の葬送花が一面に植えられた庭と、巨木に沿うような古めかしい一軒家。美しいけれど、どこかわびしい雰囲気のする邸宅だ。
敷地へ続く鉄門のところに立っていた二人は、来客を知らせるインターホンを押した。カランカランとどこからともなくベルの音がした。
パタンっと家の扉が開くと、誰かが出てきた。ボンネットをかぶって、ショールとスカートをなびかせた女性だが、よく見ればその手は球体関節で、顔も作り物めいて固いものだ。
「メアリーさん!」
「こんにちは、メイソン様。今はジュニア様とお呼びするべきでしょうか。そちらは?」
「僕の姉さんのヘザーです。あの、母さんと父さんがいますよね?」
「はい。セブルス様からもうかがっています。お二人がいらっしゃったら、中にお入れするように、とのことです。
どうぞ」
鉄門を開いたメアリーに、「お邪魔します」とハリーJr.が中に入る。
「あの人が噂のメアリーさん?」
「うん」
「へえ。あ、弟がお世話になってます。ヘザーっていいます。魔法は使えませんけど、よろしくお願いします」
人形であるにもかかわらず動いてしゃべるメアリーをまじまじと見ていたヘザーは、少しぎくしゃくとした様子であいさつした。
ヘザーは何となく、メアリーが単純な魔法道具ではないと思ったのだ。
対するメアリーは普段同様ゆったりした淡々調子で言葉を返す。
「初めまして。私は人形。セブルス様からはメアリーと呼ばれています。
この家ではセブルス様のお世話を、ホグワーツでは微力ながら学生の皆様の学業のお手伝いを、それぞれさせていただいております。
何かありましたら、お申し付けください」
そうして、彼女は二人を連れて邸宅の扉を開けた。
「メアリー?そろそろ夕食の、支度、を・・・」
駆け寄ってきたリリーは、言葉を詰まらせた。そして、メイソン姉弟も。
「っ、ヘザー!ジュニア!」
「「母さん!」」
飛びついた3人はお互いを抱きしめ合いながら、泣きだしていた。
「ヘザー!大丈夫?どこも悪くない?どこか痛いところは?
ジュニアも!どこかけがは?」
「平気だよ。全部終わらせてきたから」
「僕も大丈夫」
「ああ・・・!よかった・・・!本当に・・・!」
リリーは、うなずいた二人を見ると、またしてもぽろぽろと涙をこぼす。
それを見て、二人もまた涙目になった。こんなに自分たちのことを心配してくれていたのだ。
「リリー?何かあったのかい?」
「ハリー!」
リビングを兼ねたらしい書斎、そこからつながる別の部屋から顔を出したのは、パジャマを着た父だった。顔色は悪いし、やつれた感じはするが、ちゃんと動けて・・・否、ふらついて倒れそうになったのを、慌てて駆けつけた母が支えている。
「ダメじゃない!まだ寝てなきゃ!今朝気が付いたばかりなんだから!」
「あんまり寝てばかりだと体から根が生えてしまうよ」
「人間は植物じゃないんだから、そう簡単にそんなもの生えないわ!今あなたに必要なのは運動じゃなくて休息よ!」
「うん・・・でも、寝てるばかりというのも・・・」
眉を吊り上げて説教するリリーに、ハリーが申し訳なさそうに眉を下げる。
それをヘザーとハリーJr.が呆然と見やる。
父が、生きている。起きて、しゃべっている。
「「父さん!」」
「! ヘザー!ジュニア!無事かい?!けがは?!」
駆け寄った二人を交互に抱きしめ、ハリーは二人を見やった。
「平気よ。もう大丈夫」
「僕も」
「そうか・・・良かった・・・本当に・・・」
二人の無事を確認したハリーはほっと笑みを浮かべる。
「すまなかったね。肝心な時に倒れて、何も力になれなかった。私は父親失格だ」
「「「そんなことない!」」わ!」
申し訳なさそうに視線を伏せたハリーに、他の家族三人の声が唱和する。
「父さんの銃、すごく手入れされてて、使いやすかった。
ノートも読んだし、“お守り”も役に立った」
「サイレントヒルの遊園地でメモを残してくれてたでしょ?あれ、僕たちも読んだんだ。
すっごく勇気づけられたんだ」
「ハリー。あの事態になった時、私に真っ先に子供たちを助けに行こうって言ってくれてありがとう。私一人だったらパニックで動けなかったわ」
三人それぞれの言葉に、ハリーは力なく微笑んだ。
「それはそれとして」
ここでリリーは声の調子を一転させ、眉を吊り上げてヘザーとハリーJr.を見やった。
来た。
子供たち二人はびくっと身を震わせて、我知らず居住まいを正す。
「二人とも。何か言わなくちゃいけないことがあるわね?」
「「・・・はい」」
そこからはリリーの独壇場だった。あんな危ないときに、勝手に出ていくなんて!しかも、『教団』の手先となるクローディアの言うがまま、明らかに暴走してるシリウスの言うがままにするなんて!どれだけ心配したと!
ギャンギャンという怒声は次第に涙声になり、ヘザーとハリーJr.は小さくなりながら「心配かけてごめんなさい」「せめて一言言ってからにするべきでした」と悄然と謝った。
一通り怒ってリリーが涙をぬぐいながら一息ついたところで、ハリーが口をはさんだ。
「ヘザー。ジュニア」
呼びかけられて、二人はますます小さく縮こまるようにうつむいた。
「よく頑張ったね。怖かっただろう。さすがは私たちの子供たちだ」
交互に頭を撫でられ、ヘザーとハリーJr.は再び涙目になる。
怖かった。
不安だった。
やっと心底から安心できた二人は、壊れた蛇口のように再びボロボロと涙をこぼし始めた。
そうして「おっと・・・」とふらついたハリーを、リリーが再び支える。
「ハリー。もう休んで」
「ああ・・・そうだね」
「二人も疲れたでしょう?今日はゆっくり休みなさい。
そうだった、夕食の支度がまだなの。食べたいものがあったら言って」
頷いてのろのろと寝室らしき部屋に取って返すハリーを支えながら、リリーは二人を見てから言った。泣きすぎたせいで目は赤いが、すでに普段の笑みが浮かんでいる。
つられて、ヘザーとハリーJr.にも笑みが浮かんだ。
やっと、帰ってこられたのだ。
日常が戻ってきた、とはまだ言えないが。
そんな光景を、少し前に帰ってきたばかりのセブルスは黙って眺めていた。
お帰りなさい、と言いかけたメアリーの口元に、シィッと人差し指を立てることで静かにさせて。
この心地を言葉に直すのは実に野暮だった。本当は、セブルスが目の当たりにするのもよろしくはなかっただろう。それでも、見ることができてよかった、とセブルスは思う。
何もかもがすべて元通り、落ち着くところに落ち着いた、とは言えない。むしろ、問題はこれをきっかけにさらに吹き上がったという方がいいだろう。
それでも、今だけは。そっとしておきたかったのだ。
ともあれ。
一段落ついただろうと判断したセブルスは、普段のインバネスコート姿になってから、コートだけを脱ぎながら「今戻った」といった。
「・・・お帰りなさい、セブルス様」
何故静かにしなければならなかったのかわかってない様子のメアリーがことりと首をかしげながらも、そう返す。
「スネイプ?!帰ってきてたなら言ってちょうだい!」
「おじさん?!お帰りなさい!」
「お帰りなさい!」
『セブルスが帰ってきたのかい?悪いね、お邪魔させてもらってるよ』
「あなたは「「パパは/休んでおく!」」」
驚くメイソン母子に、ハリーが寝室の中から言葉を出すが、すぐに3人に叱責されて『そうだね、ごめんね』という声が聞こえた。
それを見やったセブルスは、自然と口元が緩んだ。
いつものメイソン一家だ。
ベッドからあまり離れられないハリーと、彼を気遣ったリリーは夕食は寝室でとり、残ったメイソン姉弟とセブルスで食卓を囲む中、話題は自然とセブルスの家に及ぶことになった。
おじさんの家初めて来たね!奇麗!と無邪気に話す二人に、セブルスはぽろっと、Mrs.メイソンとジュニアは来たことがある、と話した。
「え?!そうなの?!」
「何それ?!うらやましい!
ねえ、ジュニア。あんた、覚えてないの?」
「全然。初めて来たものとばかり・・・」
「ここに来たばかりのころ、貴公は赤子であった。覚えてなくと無理はない」
言ったセブルスは、改めて二人を見やった。
ハリーが抱きかかえていた赤ん坊と、リリーが抱いていた赤ん坊。二人は今や、大人の階段を上り切りそうな少年少女となっている。そしてつい先日、彼らの父母も辛酸をなめさせられた悪夢の町から、無事に帰還して見せた。・・・月日が経つのは早いものだ。
ほんの少し、セブルスは感慨にふけった。
とはいえ、のんびりはしていられない。
「Mr.メイソン。Missメイソン。夏休みの課題は終わっておりますかな?」
「「え?」」
「まもなく夏休みも終わりですぞ。新学期をどのようにするかは未定であっても、課題を未達成というのは感心できませんな」
教授然とした声音で言ったセブルスに、学生二人は顔をひきつらせた。
「うわやば・・・私、まだやってないのがある・・・」
「僕も残ってるし、教材の買い出しも」
言いかけたハリーJr.はますます顔を青ざめさせた。
「どどどどうしよう・・・完全に忘れてた・・・」
「何?どうしたの?」
「買い出しはアステリアと一緒に行こうって約束してたんだった・・・映画の次の日って約束だったから、すっぽかした・・・!」
途端に、ヘザーは気の毒そうな顔をして青ざめるハリーJr.を見やる。
「あーあー・・・。
仕方ないとはいえ、今からでいいから謝っときなさいよ」
「うん・・・。
あ、でも、連絡どうしよう?ヘドウィグにお願いするのはまずいかな?」
別途空路をたどったヘドウィグは、夕食直前に無事『葬送の工房』にたどり着けた。手紙の配達を頼めば、飛んでくれはするだろう。
しかし、メイソン一家を狙うものたちが、ヘドウィグを狙わないとも限らない。手紙を奪われ、アステリアの返事に偽装されて罠の手紙をもたらされてはひとたまりもない。
おろおろするハリーJr.に、ヘザーは考えるように視線をさまよわせながら言った。
「ヘドウィグが目立つのが問題なんでしょ?
あの子、白くて美人だから。ちょっとその辺何とかしてみたら?」
「何とかって?」
「変身魔法とかで羽の色を誤魔化せないの?配達の間だけ、足環も外すとか」
「ああ、なるほど。ちょっと頼んでみようか。羽の色変え魔法は母さんに頼まないとまずいけど」
「あ、そういえば、未成年の魔法使いは学校の外で魔法使うのはダメなんだっけ?あれ?でも、異世界とかでは普通に使ってなかった?」
「おそらく、魔法省が魔法の使用を感知しなかったためであろう」
「なるほど。ってか、その感知魔法も結構ポンコツよね。前、ジュニアが轢かれた時、ハウスエルフの魔法の使用も、ジュニアのせいにされてたし」
口をはさんだセブルスに、ヘザーは一つうなずくが、余計なことまで思い出したらしく、ムウっと面白くなさそうに口を尖らせた。
魔法も完ぺきではない。使い手が人間である以上どこかしら綻びはあるものだ。
セブルスはそう思いはしたが、あえて口には出さずに、代わりに別のことを口にした。
「手紙を書くならば貴公らは他に出さねばならぬ相手がいるのではないか?
それから、フクロウ任せにする必要もあるまい。今の貴公らならば、あの男も仕事相手とみることでしょうな」
「あ、ドラコとハーマイオニーにも無事に終わったって知らせないと!」
「そうだった。あ、後、私、バイトさぼったからそっちにも連絡入れないと。やばあ・・・」
セブルスの言葉に、ハリーJr.とヘザーははっとした顔をした。
夕食後の食器を黙々と片付けるメアリーをよそに、姉弟二人がああでもないこうでもないと話し始めた。
こうして、サイレントヒルから帰ってきた二人は、後始末に奔走する羽目になったのだ。
借りた部屋で、残りの課題をこなすヘザーとハリーJr.をよそに、セブルスはハリーの具合を確認していた。
意識を回復させた直後はふらついていたが、服用した造血剤が効果を発揮してくれたらしい。現在のハリーはピンピンしている。
「何から何まで、本当にありがとう、セブルス」
「スネイプ、遅くなったけど、お礼を言わせて。ありがとう・・・!」
ほっとした様子で二人が頭を下げてくるのに、セブルスは「気にすることは」と言いかけ、ややあって言い直した。
「うむ。貴公ら家族が無事に済んで何よりだ。
と言いたいところだが、ハリー」
「何だい?」
「貴公の傷と、その回復を阻害していた『教団』による呪術は解除されたとはいえ、別件がある。貴公、癌を患っているな?」
「ええ?!」
すっと目を細めて言ったセブルスに、素っ頓狂な声を上げたのはリリーだ。ハリー本人は知っていたらしく、そっと気まずげに視線をそらしている。
「ハリー?!どういうことなの?!」
「え、ええっと・・・ほら、私もいい年だから、この前人間ドックに行ったじゃないか。
そしたら、その・・・精密検査を受けた方がいいってなって、末期癌って診断が出て・・・」
詰問するリリーに耐えかねた様子で、おずおずというハリーに、セブルスは深々とため息をついた。
セブルスも隠し事をする方だが、ハリーのこれはいかがなものか。
「末期癌・・・そんな・・・」
「君たちには悪いとは思っているんだ。でも、心配かけたくないし、今更治療というのもね。自宅療養の方がいいと思ったんだ」
「さっさと言わんか、愚か者」
青ざめて絶句するリリーに、ハリーは申し訳なさそうに視線を落としつつ言ったが、セブルスは容赦せずぴしゃりと言った。
「言っても仕方ないだろう?ヘザーもジュニアもこれからいろいろ物入りになる。リリーもそうだ。助かりそうにない私の治療にお金をかけるくらいなら、君たちのために残しておいた方がいいと」
「マグルの治療ならば治らぬであろうが、魔法薬であればまた違う」
「「!!」」
言いかけたハリーを遮り、セブルスが言えば、メイソン夫妻は二人とも大きく目を見開いた。
「実は治験途中の魔法薬があってな。
何しろ、私は普段はホグワーツにいる。癌患者と会うことはめったにない。最悪、聖マンゴに患者の紹介を頼もうかと思っていたところだ」
明言は避けたが、セブルスが開発したその魔法薬は、以前ちゃっかり着服した賢者の石から精製した生命の水を素材にしている。
理論上、文字通りの意味で万病に効くはずだ。
ただし、ハリーはマグルだ。薬がどう作用するかはわからない。できれば事細かに間近で観察をしていたいのだが。
「しかし、末期癌か・・・。
おそらく、一度の投薬ではなく、継続投薬で様子を見ることになるだろうな。となれば・・・」
腕組みして、セブルスは壁掛けカレンダーに目をやった。
何度か記しているが、ホグワーツの教員は学期開始1週間前にはホグワーツに行って準備や予定の確認を行うのだ。特に、セブルスはスリザリンの寮監もしている。セブルスはメアリーが寮母として一部業務を負担してくれていたが、それでもかなり忙しかった。
そして、先のサイレントヒルの『教団』騒動のせいで、とっくに残り1週間の期限は過ぎていた。
一応、フクロウ便*1で、ホグワーツに期限通りの出勤はできない、申し訳ないと謝罪を合わせて通達はしておいたが、できるだけ早くホグワーツに行かねばならない。
だが、ハリーの治験とそれに伴う経過観察を放置というわけにもいかない。
セブルスの視線につられて、二人もカレンダーを見やり、はっとしたような顔をした。セブルスが教員として生徒よりも1週間早くホグワーツに行っていることは、メイソン夫妻も知っているのだ。
「スネイプ、あなたホグワーツに行ってなきゃいけないんじゃ・・・!
あ・・・ごめんなさい、私たちのせいよね・・・」
リリーは声を上げかけるが、すぐにはっとして悄然と謝った。
「私が自分で選び行ったことだ。貴公が謝ることはない」
「だとしても、私の治療のために、学校そのものや授業に出ないわけにもいかないだろう?他の先生方や学生さんたちのご迷惑になるだろう。
いや!死にたいわけじゃないんだ!そこは誤解しないでくれ!」
首を振ったセブルスをとがめるハリーは、妻と友人からの視線に気が付いて首を振った。
「その様子を見るっていうのは、私がやるんじゃだめなの?せめて、週に一回とか」
「駄目だ。治験段階といったはず。投薬ペースなどは私が直接ハリーの病状を見て診断する必要がある。
申し訳ないが、Mrs.メイソン。貴公にはその診断の準拠となる知識が欠落しているのだ」
日曜なら授業もないし、“姿くらまし”で来ることができるだろうと思ったリリーが提案したが、セブルスは首を振った。
「それなら、いちいち授業が終わった後、外出手続きをしてからここまで“姿現し”して来るつもり?手間がかかりすぎないかしら?」
「多少ならばその手間を省ける」
至極申し訳なさそうなリリーに、セブルスはしれっと言った。
「何か考えがあるのかい?」
ハリーの問いにうなずいて、セブルスは言った。
「あの“鐘”を使えばよい。
こちらの都合のいい時間に合わせてもらう形にはなってしまうが、“鐘”を鳴らして私を呼び出せばよいのだ。薬に関しては、この家に保管しておく。管理だけ任せる形にはなってしまうので、そこはすまないが・・・」
「待って待って」「待ってくれ、セブルス」
セブルスの申し出に、メイソン夫妻から待ったがかけられた。何か問題があっただろうか、とセブルスは怪訝そうに眉をひそめた。
「何か問題でも?」
「セブルス、さっきから言おうと思ってたんだが、いくらなんでもいろいろやってもらいすぎだ。それに、その言い方だと、私たちはこれからもこの家に滞在するということが決定事項のように聞こえるよ」
申し訳なさそうに咎めるような口調で言うハリーに、セブルスは何か問題でもあるだろうか、と不思議そうな顔をした。
「そうよ。私に無断で子供たちを“あの町”に連れて行ったことはともかく、あの子たちを守ってくれたし、私たちをかくまってくれたこと、ハリーの治療のこと、いろいろやってもらいすぎだわ。
このうえ、私たちを家に置いておくなんて・・・違うのよ?厚意は感謝しているの。ありがたく思っているわ。でも、そこまでやってもらうわけにはいかないわ」
最初のほうこそ少々とげとげしい言い方をしたものの、すぐさま申し訳なさそうになったリリーに、セブルスはそうだろうかと首をかしげた。
「Mrs.メイソンは知っているだろうが、ノワールが事情のために我が家に数年ほど滞在していた。いまさらというものだ。
我が家を留守にするにあたって掃除やほこり除けの魔法をかけねばならん。家に残るものがいるならば、それも不要。
先も言ったとおり、ハリーの治療は開発中の魔法薬の治験も兼ねている。
こちらの手間暇になるようなことは何もない。合理的にした結果だ。何も気にすることはなかろう」
つらつらとセブルスは、彼なりの理屈を述べる。
今、うかつに外に出るのは危険だ。メイソン一家の拠点にしていた町は『不死鳥の騎士団』が厳重な包囲網を敷いているのだ。同様に、おそらくマグルの不動産会社も見張られていると思ったほうがいい。
ならばセブルスの家にいさせたほうがいい、どうせセブルスはホグワーツに出かけるのだ。過去に同居人だっていたし、無人で埃をかぶらせておくよりはいいと思ったのだ。さすがに、セブルスの寝室と地下工房の立ち入りは制限させてもらっているが、それだけ守ってもらえば文句はない。
・・・そういえば、地下工房に引き出すのも面倒なので、実験用トランクルームの片隅に放置したままだった実験体も、そろそろ処分せねばならなかったのだった。ここ数日栄養摂取をさせてなかったと思うが、まあいいだろう。どうせ、いくら飢えても死にはしないのだから。
セブルスがちらっとメイソン夫妻を見やれば、二人とも納得できなさそうな顔をしている。
この二人もたいがい律儀なので、セブルスが得るものが少ない、アンフェアが過ぎると思っているのかもしれない。
「・・・参ったなあ。私たちは君に返しきれない大きな借りを作ってしまったね。
じゃあ、これはこれで置いておくよ。その代り、何かあったら必ず言ってくれ。君は自分のことは何かと抱え込みがちだからね。
私にできることはたかが知れているかもしれないけれど、必ず力になる。忘れないでくれ」
セブルスが引かないことを察したらしいハリーが、困ったように笑っていった。
「・・・ねえ、スネイプ。どうして私たちにこんなに良くしてくれるの?
ハリーはともかく、私は、あなたにひどいことをしたわ。そのあとも、決して褒められた態度ではなかった。
どうして?」
至極申し訳なさそうにリリーが尋ねてきた。
「・・・以前も言ったかもしれぬが」
セブルスは視線を泳がせながら語った。改めて言葉に直すのは・・・照れ臭いのだ。
「貴公には恩があるのだ。私が獣に堕ちずにこうしていられるのは、貴公のおかげといっていい。その恩を返すため。それだけのことだ」
「そんな大それたこと、何かしたかしら?」
「貴公にとっては大したことではないかもしれぬが、それで救われたものは確かにいるのだよ、Mrs.メイソン。
私が一方的に恩義に思っていることだ」
不思議そうに首をかしげるリリーに、セブルスは答えた。
ヤーナムを脱出してから、時折昔のことを思い返すたびに思うのだ。もし、自分がリリーと出会っていなければ、あの闇の帝王のようなことをしでかしていたか、あるいはヤーナムの頭のいかれた医療者ども以上に好奇という名の狂熱に浮かされたまま、ろくでもないことを周囲を顧みずにしでかしていたことだろう。
それに、これに関しては実は、ハリーに対してもセブルスは一方的に深い感情を持ってしまっているのだ。
17年前のサイレントヒルに迷い込んだ当初、娘を探しているといったハリーを、実はセブルスは冷ややかに見ていたのだ。
当時のセブルスは“マグルの父親”というものを、見下していた。ほとんど顔も思い出せなくなっていたくせに、されたことはふとした瞬間に思い出してしまうのだ。
だから、目の前のいい父親ぶったマグルも、どうせどこかで化けの皮が剥がれるに違いないと思っていたのだ。そのうち、「娘なんてどうでもいい、こんなところにいられるか」と泣いて逃げ出すに違いない、と。
しかし、予想に反してハリーは逃げなかった。どんなに凶悪な怪物に行く手をふさがれようと、恐ろしい目に合おうと、彼は断じて逃げようとしなかった。怖くてたまらないと身を震わせるくせに、「シェリルはきっと、私より怖い思いをしている」「けがをして、泣いているかもしれない」とその思いだけで、あの町を駆け抜け切って見せたのだ。
セブルスが使う魔法におびえた様子も見せず、助太刀して見せたら、驚きながらも「ありがとう、助かったよ」と礼を言って見せて。
そのうち、セブルスは彼の望みをかなえたくなったのだ。娘と一緒に帰る、という彼のささやかでいて、大きな望みを。
こんな父親に想われている、8つになるという娘をうらやましく思いながら。
結局、ハリーの望みはかなわなかったけれど。
セブルスは、彼と知り合って彼と行動を共にしてよかった、と心底思っているのだ。
「わからぬならばそれでよい」
言いながら、セブルスは立ち上がって踵を返した。赤くなった顔を二人には見られたくない。
「何かほかに困ったことがあったら言いたまえ。それから、さっさと休むように」
早口で言い捨て、セブルスは寝室へ引き上げた。
そんな彼の背を見やったメイソン夫妻は顔を見合わせ、ややあってくすくすと笑った。
あれは照れている、と二人して見抜いたのだ。
「いつになるかわからないけど、落ち着いたらまたディナーに招待しましょう。スネイプの食べたいものも聞いておかないと。
この前作ったキッシュを気に入ってくれてるみたいだったから、それは絶対に用意しないと!」
「いい案だ。子供たちもきっと喜ぶ」
和気あいあいとメイソン夫妻がそんなことを話し合うのを、セブルスは知らない。
なお、後日ハリーJr.が食事中にポロっとこぼしたことにより、ヘザーによるセブルス告白事件が明らかになり、メイソン夫妻は非常に複雑そうな顔をした。
「私、スネイプにお義母さんって呼ばれるのかしら・・・?」と複雑そうな顔でつぶやくリリーと、「いや、うん・・・実力も人柄もわかっている・・・ヘザーの体のこともわかってくれているから、任せるには足るんだけど・・・年の差が・・・私とリリーも10歳以上の差があるのに、17歳差・・・」とこれまた複雑そうにつぶやくハリー。
それに対し、セブルスがばっさりと「ヘザーに対し、現状そのような感情はない」と言った時のほうがすごかった。
「ヘザーの、いやシェリルの何が不満なんだ!!」とハリーが教団相手にも見せない怒声を張り上げたのだ。・・・その時のお父さんは見たこともない顔をしていた、と後日メイソン姉弟は述懐している。
「貴公、反対したいのか賛同したいのか、どちらなんだね・・・?」とセブルスが呆れたようにつぶやいていた。
ハリーとヘザー両名の要請で、セブルスは、急遽『葬送の工房』に電話とファックスを設置することを余儀なくされた。
ヘザーは学校への連絡が必要だし、ハリーもまた仕事に関しての連絡と、ファックスでのやり取りができるためだ。
セブルスは、マグルの工事関係者など入れたくなかったので、その手のことに詳しいだろう双子のウィーズリーに相談したところ、ファックスの本体を持ってきてくれれば電話線とかなくても魔法で一発でできるようにします、特別料金を取りますけど、と言われたので、その通りにした。
ちなみに、この代金に関してはさすがにメイソン一家が出した。
ヘザーは自宅通学であったので、「家の周囲に不審な浮浪者がたむろしてて通学が難しい」と学校に連絡を入れて、通学ができるようになるまでは課題だけファックスで受け取ってこなすことになったし、ハリーもまた出版社に連絡をして、病気療養につき仕事の量を減らしたいことと、当分仕事のやり取りは電話とファックスで行いたい、という旨を伝えた。
そうして、セブルスはそのまま大急ぎでメアリーを連れてホグワーツへ向かうことになる。
学校に関してはハリーJr.も休学させたほうがいいのでは?という意見もあったのだが、ヘザーの通う学校とは異なり、ホグワーツはフクロウなどの遠隔通信教育制度などは存在しないのだ。休学すれば、後日補填分の課題を課され、進級がかなり難しくなる。
ゆえに、ハリーJr.に関してはホグワーツ特急には乗らず、セブルスに付き添い“姿くらまし”でホグワーツに登校することになった。
なお、ハリーJr.は、ここまでのドタバタですっかり忘れていた。
今年は6年生で、1年生のための入学オリエンテーションの準備のために、他学年より1日早く登校しなければならないことを。
それを父親に指摘されたハリーJr.は、大慌てだった。
急遽セブルスに迎えに来てもらい、列車はすっ飛ばしてそのままホグワーツへ行ったのだが、このドタバタによって、彼は一つある大きなやらかしをしてしまう。あんなに苦労して勉強して、試験が終わっても結果が出るまでそわそわしまくったが、無事受講できることになった上級魔法薬学。そのための教科書を、よりにもよって買い忘れたままホグワーツへ行ってしまったのだ。
続く
【魔法のかかったファクシミリ】
メイソン宅にもともとあったファクシミリに、ウィーズリーツインズが魔法をかけたもの。
電話線を差してないのに、そのファクシミリはもともとの家に設置してあったのと同じ番号で動作する。
通話先でこちらを心配する声を上げる編集者や先生たちに、ハリー=メイソンとヘザーは、ひそかにほっと笑みを浮かべた。
フクロウで届かないところは、文明の利器がつなげてくれると、二人のマグルは知っている。
Q.ウィーズリーツインズ、電話を動かせる魔法が使えるとは、すごいっすね!なんでもありでは?それも檻のせいだったり?
A.あれは檻は関係ないです。そもそも二人の父親がマグルグッズ大好き人間のアーサー=ウィーズリーで、原作第2巻冒頭では、ロンがハリー少年に電話をかけてきています。ほぼ確実に、ウィーズリー家にある電話機は電話線は通さない魔法によるスタンドアローンでしょうから、ジョージ&フレッドはそれを見たり解析したりしたので、できたということにしています。
【本編は関係ない、サイレントヒル考察】
※サイレントヒル シャッタードメモリーズ(以降、SM)のネタバレを含みます。
ちょっと本編ではできなかった、ハリー=メイソンの超人ぶりと、3における急激な弱体化について、私は一つ、考察にも満たない憶測を立てています。
それは「実はハリーはゲーム中は無意識にバフを受けてて、3の時点ではそれが切れてしまったのでは?」という説です。
順を追って説明します。無印サイレントヒルの新解釈版と言っていい、『サイレントヒルSM』において、実は主人公のハリーは舞台となる町やクリーチャーも併せて、娘となるシェリルの妄想の産物です。だから妄想同士であるお互いを傷つけることはできず、逃げに徹するしかできないわけです。
で、実はこれは無印サイレントヒルにも適応される部分があるのではないでしょうか。
ハリーは事故に遭った車の中で意識を取り戻してゲームスタートとなりますが、大破した車に対し、彼が傷一つないのは異常です。
この時点で、アレッサとシェリルは融合し、アレッサは神の力を十全に使えるようになり、その力はサイレントヒル全域に及ぶようになってしまっています。
で、『サイレントヒルSM』はすべてがシェリルの妄想であるだけあって、人物描写にも彼女の視点が及んでいる節があります。
神の力を使えるようになったアレッサの妄想もまた、サイレントヒル全域に及ぶようになったのではないでしょうか。
顕著なのは、リサ。サイレントヒル0では、主人公トラヴィスを翻弄するお色気担当枠でしたが、無印サイレントヒルでは異世界におびえ、ハリーに助けを求めるはかない女性として描写されています。麻薬に苦しみ、怯えながらも自分を看病してくれた優しいリサが、そんな淫乱でだらしない人間であるはずがない、というアレッサの理想が投影されていたのかもしれません。
同様に、ハリーもまた妄想の投影を受けました。ただし、アレッサはハリーに対しての情報は持ちません。アレッサの中のシェリルが、ハリーに対しての情報源です。“強くてかっこいいお父さん”“お父さんなら助けてくれる”“お父さんなら絶対あきらめない”といった、8歳を前にした少女の願いにも似た理想を受けたハリーは結果として、神をも倒します。
・・・もしかしたら、ゲーム中に死んでいたかもしれませんが、“お父さんが死ぬはずがない”ので、そんなことはなかったことにされている可能性もあります。(というより、オープニングの車の事故がまさにこれなんでしょう)
本来、これらの願いはハリーがサイレントヒル内にいたから受けていた
しかし、ハリーはエンディングにて赤ん坊となったアレッサの転生体を連れて町を出ました。
結果、アレッサの中にいる神の力の恩恵は自他ともに無意識のまま継続。ハリーは襲撃してきた教団員を返り討ちにする、シェリルを連れて10年以上逃亡生活を続けるという、驚異のポテンシャルを見せつけます。
3において不意打ちされているのは弱体化したのではなく、本来のハリーはそのくらいのスペックしか持たなかったからではないでしょうか。
3の時点のシェリル=ヘザーは17歳です。まだ空想と事実を混ぜやすい8歳の少女とは異なり、現実と妄想はしっかり区別できます。
だから、それまでハリーが持っていた驚異のポテンシャル――神の力による恩恵は失われ、本来の彼の力しか持たなかった、だからあっさり殺されたのではないか、という説です。
ちなみに、この説が前提に来ると、カウフマンももう少し善良であった可能性がありますが、アレッサの視点の影響であんな屑野郎になっている可能性もあります。
セブルスさんやシビルはもともとアレッサもシェリルも知らない相手なので、影響を与えようがなかった、というところです。
ダリア?実の娘がお母さんをどうゆがめるっていうんですか・・・。(あるいは、ダリアは妄想の影響を受けない方法を身に着けていたのかもしれません)
ハリーがその自覚を持っていたかは・・・わかりません。娘が守れるんなら、どういう事情であれ、それでいい、と笑って言うのかもしれません。
セブルスさんが知っていたかは・・・ご想像にお任せします。
以上、関係ない考察未満の憶測でした。お目汚し失礼しました。
次回の投稿は来週!内容は、いざホグワーツ!セブルスさん、担当教科が変わるらしいです。あとは6年生になったハリーJr.と、ドラコ、ロナルド、ネビル4人の内緒話。お楽しみに。