不穏さしかねえな、今年の学校と思いましたが、原作もこの年は不穏さしかなかったので、大丈夫。
というわけで、続きです。お待たせしました!黒歴史発掘といきましょう!
さて、ハリーJr.たちにとって6年生のホグワーツがようやく始まった。
入学式を終え、翌日の1年生のオリエンテーションも無事終わった。とはいえ、終わってから内容をまとめて、来年の6年生たち(つまり今の5年生)へ申し送りするところまでがセットである。
廊下を歩きながら、先行する6年生たちは階段などの仕掛けについて説明し、ついでに絵画の描写人物たちに新入生です、お見知りおきを、と紹介するのも忘れない。
歩きながら、ハリーJr.は自身に注目が集まってきているのを、できるだけ意識の外に締め出した。
・・・日刊預言者新聞は、記事発行前に本人に載せていいか確認くらいとってほしい。あるいは、魔法界には肖像権というものはないのだろうか?
内心でそんな不満を思いつつも、それは閉心術で覆い隠し、ハリーJr.は極めて平静にほかの6年生たちと案内をする。
「以上で、案内は終わりだ。ほかに何か気になることはあるか?」
「僕らに答えられることなら、答えるよ。
でも、女子のスリーサイズとか、あんまりプライバシーに踏み入った質問はやめてね」
「そんな品性に欠ける質問が、スリザリン生から出るか」
「そりゃそうか」
ドラコとハリーJr.のやり取りに、くすくすという小さな笑いが漏れる。
おどけたやり取りに、多少肩の力が抜けたらしい。「あの」という声とともに、おずおずと手が挙げられる。
「スネイプ先生って、どんな先生なんですか?」
その問いかけに、6年生たちはどうこたえようか、と視線をさまよわせる。
ハリーJr.個人としてはいい先生だし、この間だって自分たち家族のために尽くしてくれた、とても頼りになる人と言いたいところだが、身内びいきが入った評価になるかも、とどういったものか口ごもってしまった。
「厳しい先生だ」
すぐさま答えたのはドラコだった。
「去年までは魔法薬の授業を受け持ってくださっていた。魔法薬は手順一つで薬が毒薬に変貌するし、まかり間違えば下手な攻撃魔法以上に皆を危険にさらすかもしれない、難しい授業だ。
だからこそ、厳しく監督されている。
だが、同時にとても生徒思いの方だ。
新聞でブラックに対する仕打ちを知るものも多いだろうが、あの当時、ホグワーツではブラックの侵入で不安に思う生徒も多かった。
さらにあの直前、ブラックの侵入によって吸魂鬼が暴走して、在学生はひどい目にあった。
スネイプ先生と、ここにいるメイソンがいなければ、最悪死者が出ていてもおかしくなかった。
スネイプ先生が怒らなければ、僕はブラックを呪っていた」
それを皮切りにしたように、ほかの6年生たちが次々と口を開く。
「怒ったときは怖いけど、補習してくれるし、自習の時アドバイスくれるし。あと、メアリーさんには優しいよな」
「メアリーさんのお菓子おいしいよ。オレ、メアリーさんのブラウニー好きだよ」
「最初のころ、結構かっこいいからもっと笑えばいいのにって思ったけど、笑ったら笑ったで怖いのよね。
でも、めったなことじゃ怒らないし笑わないわよね。
大体怒らせるほうが悪いし」
「俺、去年スネイプ先生がアンブリッジを引きずってるの見て、この先生だけは絶対怒らせないようにしようって誓った」
「今更?ぼくは3年の時のブラックのあれを見た時点で思ったよ」
「俺も。ってか、アンブリッジはなんで、ああもスネイプ先生を怒らせまくったんだろうな?
俺たちもわかることを、なんであの人理解しなかったんだろうな?」
「知らねえよ、あれの考えることなんて。
でも、大広間でぶん殴られてたのを見たとき、正直俺はスカッとした」
「僕も。ざまあみろって思った」
「私も」
「あー、アンブリッジっていうのは、去年赴任されてた魔法法学の先生ね。
・・・正直、思い出すのも不愉快な人だったな」
ハリーJr.の相当やんわりした物言いに、ドラコは鼻を鳴らした。
「あれを先生にカウントするのは、ほかの先生方に対して相当失礼だ。
体罰がない分、ロックハートのほうがまだましだな」
そんな6年生たちの言葉に、1年生たちは顔を見合わせ、続けておずおずと尋ねてきた。
「・・・あの、スネイプ先生が怒ったら、殴ってくるなんてこと、ないですよね?」
「絶対しないよ!」
「スネイプ先生は誤解されがちだが、生徒に対して暴力を振るわれたことは一度もない。
せいぜいきつい言葉で怒られて減点と罰則を科される程度だ。
それも、よほどのことがない限りされないぞ」
ハリーJr.がいの一番に否定し、続けてドラコが言った。
「それをされる方なら、そこにいるクラッブとゴイルは顔の形が変わっている」
しれっと言ったドラコの言葉に、誰かが噴き出す音が聞こえた。同じく派手に咳払いしたり、顔を背けて肩を震わせたりする者もいた。ちなみに、ハリーJr.はうつむいて口元を押さえた。
当のクラッブとゴイルは意味がわかってないのか、きょとんと眼をしばたかせている。
「じゃあ」
ゴクリっと喉を鳴らす音とともに、新たな質問が1年生から飛び出した。
「その・・・スネイプ先生が“闇の帝王”を倒したって、本当ですか?」
とたんに、全員が静まり返った。ハリーJr.もドラコも自然と姿勢を正したし、ノットやザビニといった“死喰い人”に近い生徒は、ピリッと鋭い空気を放った。
「それを聞いて、どうするの?」
「し、質問してるのはこっちです!答えられることは答えるって言ったのは先輩じゃないですか!」
静かな問い返しをするハリーJr.に、質問をした1年生はひるむが、すぐに噛みつくように言った。
「・・・なら、ご本人に直接お尋ねしてみたらどうだ。
先生、どうなんですか?」
ドラコはいいながら、視線を1年生たちの背後、さらに向こうに向けた。廊下の向こうにたたずむセブルスは、バスケットを抱えたメアリーを連れている。
「質問に質問を返すのは愚かなことだが、逆に問おう。
貴公らが恐れる“闇の帝王”は、たかが魔法薬学教授に殺される軟弱者かね?」
「何だと?!」
「ふざけるな!あのお方を軟弱者呼ばわりだと?!何様のつもりだ!」
いきり立つ一部の生徒たちに、しかしセブルスは冷ややかに言い放った。
「自身の中で結論が出ている質問をすることほどナンセンスなことはない。
その質問が出る時点で、“闇の帝王”の実力を疑っているも同然だな。
それからもう一つ」
ここでセブルスは一度言葉を切ると、自分を見てくる生徒たちを見やった。戸惑う視線、不安げな視線、敵意に満ちた視線、それらを正面から受け止めながら、彼は続きを口にした。
「私があの男を殺していたとして、貴公らはそれを知ってどうするのだね?
授業をボイコットでもするかね?その場合、問答無用で成績はT(トロール並み)をつけさせてもらう。
それとも、私の首をあの男に捧げるべく、挑んでくるかね?
ならば、心せよ」
ピリッと、空気を震わせ、セブルスは針のような殺気をうっすらと空気に流す。
それに、ハリーJr.とドラコ――この間の一件で、セブルスの狩人としての側面を目撃していた二人は反射的に姿勢を正したが、ほかの生徒たちはけげんな顔をしたままだ。一部のものは、敵をにらむような顔をしている。
「他者を傷つけるならば、自らもそうされる覚悟を持つことだ。殺しにかかるのだ。殺されもする。
世の中には、それをわかってないものが多すぎる」
そういって、セブルスは祈るように一度目を伏せた。
「・・・1年生の案内は終わったかね?」
「・・・っ、はい。ほかに質問があるものは?」
顔を上げたセブルスの問いかけに、息をのみながらもドラコはうなずいて一同を見回した。
気圧されたのか、さらなる質問が出ることはなかった。
「よろしい。では、6年生は名前順に教授室へ来るように。
個人の受講科目について、いくつか注意事項がある。
すでに入学式で知らせたとおり、私の部屋は去年とは異なり、“闇の魔術に対する防衛術”の教授室に移っているので注意したまえ」
言い残して、セブルスは踵を返してその場を立ち去る。
インバネスコートの裾とくくった髪が揺れるセブルスの背を、ノットをはじめとした何人か(1年生含む)がにらんでいるのを、ハリーJr.は見逃さなかった。
「・・・去年、アンブリッジが大広間でスネイプ先生に殴られたのはね、スネイプ先生の大事なメアリーさんが質問しただけで、殴り飛ばした挙句、メアリーさんの髪飾りを踏み壊したのが原因だったんだよね。・・・それ以前も散々痛めつけていじめまくってたし。
まあ、先に危害加えてきたんだから、殴り返されてもしょうがないんじゃない?
さっき、先生も自分で言ってたでしょ?『他者を傷つけるならば、自らもそうされる覚悟を持つことだ』って。
みんなも、そう思うよね?」
言いながら、ハリーJr.は見回したが、残念ながら視線が合うことはなかったので、彼は首を傾げた。
「僕、変なこと言ったかな?」
「・・・正論だが、暴力的だ。
僕はともかく、野蛮すぎてマグル的だと嫌うものもいる。少しは慎め」
「アハハ・・・そうだね、気を付ける」
ドラコが窘めれば、ハリーJr.は苦笑した。
これで少しは伝わればいい、とハリーJr.は思った。
スネイプ先生にちょっかいを出すのが難しいなら、その周囲を狙えばいいなんて馬鹿なことを考えるんじゃない、と。
残念ながら、ハリーJr.の迂遠な釘刺しは伝わらなかったのだが。
ところで、正史と言っていい世界線とは異なり、ハリーJr.は
今年もスネイプ先生の授業をがんばるぞ!と内心で気合を入れていた矢先に起こった、姉を中心としたサイレントヒルがらみのあれこれで、夏休み終盤がしっちゃかめっちゃかとなった。
その余波は容赦なく、彼の夏休み終盤のスケジュールを粉砕し、本来は余裕で間に合うはずの課題を慌てながら仕上げる羽目になったし、清く正しいお付き合い真っただ中のアステリア=グリーングラスと一緒に行く予定にしていた教科書・教材の買い出しも台無しになり、ホグワーツに行く前日に魔法薬で変装していかざるを得なかった。ダイアゴン横丁で魔法使いたちの襲撃に警戒して神経をとがらせ、できるだけ早く終わらせようと焦っていた。
おかげで、トランクの中身を片付けているときに気が付いたのだ。
上級魔法薬学の教科書、買い忘れてた。
その件に関しては、受講科目について申告するセブルスに、ハリーJr.は申し訳なく思いながらも報告した。(ちなみに、受講科目に関しては、
幸い、セブルスはハリーJr.の事情を知っていたため、多少呆れはしたが、怒ることはなく、「スラグホーン教授には通達しておこう」と一言言っただけで終わらせた。
そうして、始まった最初の週。
サイレントヒルで苦い思いをしたハリーJr.は、“闇の魔術に対する防衛術”の担当であるセブルスが無言呪文に対して言及すれば、ものにしてやる!と改めて気合を入れていた。
気合を入れすぎて、うっかりセブルスを吹き飛ばしかけたのはご愛敬。おかげでスリザリンは減点されてしまった。
そして、ハリーJr.たちは初受講となるスラグホーンの魔法薬学である。
スラグホーンはスネイプから事情は聞いている、とハリーJr.に、新しい教科書が届くまで、と学校においている古い教科書を貸し出してくれた。最近大きな改定はなかったので、十分使えるはずだ、と。
古臭い教科書はページの端がところどころドッグイヤーで折られて、調合レシピにはいろいろ書きこまれており、読みにくいな、とハリーJr.が不満に思ったのは最初だけ。
受講一発目にして挑まされた“生ける屍の水薬”。そこで、ハリーJr.は奇跡的な逆転劇を起こす。
教科書に前の所有者による書きこみがされた睡眠豆の処理法、攪拌の際の追加手順。その通りにすれば、教科書に載っている通りの理想的な薬に仕上がったのだ。
スラグホーンは大いに讃えてくれた。ハリーJr.は母親似の才能(ここまでくればハリーJr.の家族関係は大々的にばれているも同然だった)を開花させたな!と大絶賛し、ご褒美の
自分の力じゃなくてこの教科書のおかげだ、と内心で後ろめたく思いつつも、もらえるものはもらっておこう、とハリーJr.はおとなしくそれを受け取った。
とはいえ、
結果、ハリーJr.はおとなしく事情を告げた。
もちろん、2年時のバジリスク騒動の元凶を知っていた4人は、顔を見合わせ、ハーマイオニーに至っては暴露呪文をかけてきた。
が、結局何の変化も起こらず、何の変哲もないただの教科書ということで、ハリーJr.はそれを使い続けることにした。
その時のどさくさで、ハリーJr.は裏表紙に書かれていた“半純血のプリンス蔵書”という文字(教科書内の書き込みと同じ筆致)にも気が付いたが、そっと見なかったことにしてあげた。
あれは、プライマリーに在校していた時だった。ハリーJr.がいたクラスで、先生がノートの忘れ物がある、と名前が書かれてなかったから中身を読み上げ始めたのだ。・・・とっても痛々しい落書きまみれで、あれは持ち主がいても出てこないだろうな、とハリーJr.は逆の意味で気の毒に思ったくらいだ。
この教科書からは、あれと同じ
ノート代わりの羊皮紙に書かずに教科書に直接書き込んでいるのは、誰も見る予定がなかったからか、あるいは羊皮紙を少しでも節約したかったのか。
誰の忘れ物か知らないが、有効活用するので使わせてもらうのは許してほしい。
ハリーJr.は前の所有者に、内心で手を合わせて頭を下げた。
同刻、“闇の魔術に対する防衛術”の教授室にてデスクで書類をさばいていたセブルスは、謎の悪寒を覚えたのだが、今の彼がその原因を知る由はない。
彼は完全に忘却の彼方へ押しやっていた。心折れて退学したどさくさで、上級魔法薬学の教科書(黒歴史がみっしり)をホグワーツに置き去りにしたことを。その後のヤーナム滞在をはじめとしたあれこれもあったので。
そして、想像もしてなかった。よりにもよってそれがハリーJr.の手にわたってしまったことなど。
さて、そんなこんなの学生生活の傍ら、各寮においてはクィディッチのチームメンバー選抜が始まっていた。
スリザリンのキャプテンは、去年から引き続きドラコが引き受けていた。
一昨年こそハッフルパフに優勝カップを持っていかれ、その次はグリフィンドールに奪われてしまったが、今度こそ奪還してみせる、魔法界の頂点に立つ純血貴族、その集まりたるスリザリンらしく!と、彼は気合を入れてメンバーの選抜に挑んでいたが、今年は午前中いっぱいかかった選抜において、彼は優雅さをかなぐり捨てて癇癪を炸裂させていた。
「いい加減にしろどいつもこいつも!
お前たちの理解力はナメクジ以下か!
いいか?!ここはスリザリンのクィディッチチームの選抜だぞ?!どうして他寮の連中が参加しに来るんだ!!
今すぐ出て行け!でないとスネイプ先生に言いつけて、お前たちの寮を減点してもらうぞ!!
箒にまともに乗れないやつもだ!スリザリンだろうと構うものか!足を引っ張る、純血の風上にも置けない、無能な奴は僕が減点してやる!」
その怒声にピャッと飛び上がった数人の学生が、急ぎローブを翻して去っていく。ちなみに、ネクタイの色は赤、青、黄色、の三色だった。スリザリンのネクタイは緑である。
ドラコはよく我慢した、とハリーJr.は思う。
去年はまだましだったのに、今年に限ってはなぜか箒で飛ぶのも論外という参加希望者がいたりするのだ。
ドラコがキレる直前に来たのはハッフルパフ生だったのだ。去年までこんなことはなかったのに。
まあ、大体理由の想像はつく。
「ドラコ、落ち着いてよ。ほら、水飲んで」
フー!フー!と威嚇する猫のようにうなるドラコの肩をたたき、ハリーJr.は持ってきていた水筒を押し付けると、参加者たちを一望した。
「君たちは、何のために参加希望したの?
ちゃんとスリザリンでクィディッチのプレーに貢献したいって人には申し訳ないけど、それ以外の不純な目的があるなら、やめてくれるかな。
はっきり言って、まじめに頑張ろうとしている人に対しても、これから試合をしていくほかの寮の人に対しても、クィディッチが好きな人たちに対しても失礼だよ」
少し語調を強めるハリーJr.に、ほかの参加者たちは少したじろいだ。ハリーJr.は普段にこにこ穏やかにしている印象が強かったから、こんなことを言われるとは思ってなかったのかもしれない。
今年から増えた観察するような、珍獣を見るような好奇に満ちた目に、ハリーJr.はうんざりした。
ぐっと水筒をあおったドラコは、ハンカチで口元を拭くと「すまない」と仕切りなおした。
「僕、選抜試験は別日にしたほうがよかったかな*1?」
「ふざけるな、練習スケジュールの兼ね合いもある。ぼさっとしている時間はない。
これ以上頭の悪い無能どもに貴重な時間を浪費されてたまるか。
まったく!このざまでよく純血の誇り、我らがスリザリンといえたものだな!
次の者!」
申し訳なさそうに言ったハリーJr.に吐き捨てながら水筒を押し付け、ドラコはユニフォームローブを翻して叫んだ。
「今年こそ優勝杯を取り戻すって気合入ってるからなあ、ドラコも。
僕もだけどさ。だからこそ、一緒に頑張れる人を探してるんだ」
そういって、ハリーJr.は水筒を保管場所に置きに行った。
* * *
「ああ、セブルス、少しいいかね?」
訪ねてきたニコニコと上機嫌のスラグホーンに話しかけられ、セブルスは「何でしょうか」と顔を上げた。
“闇の魔術に対する防衛術”、3年生に出していた人狼のレポートの採点中、そろそろ気分転換をしようという時だった。
「おかけになってください。私もそろそろ気分転換をしようと思っていたところです。
メアリー」
「はい。少々お待ちください」
セブルスの呼びかけにうなずいて、簡易キッチンに立ったメアリーがごそごそとお茶の準備を始めた。
シュンシュンと薬缶から湯気が立ち、ティーサーバーに茶葉を落とす人形をよそに、来客用ソファセットにかけたセブルスに、さっそくスラグホーンが話し出した。
「いやはや!レイトブルーマーという言葉が、まさか魔法薬学にも存在していたとは!」
「何か良いことがあったようですな」
「おや、スリザリン寮監ともあろうものが、まさか何も聞いてないのかね?」
「は?」
「6年生のMr.メイソンだ!あれほど理想的な“生ける屍の水薬”の調合を、上級魔法薬学を受講し始めたばかりの学生が成し遂げるとは!
その後も、上級魔法薬学の授業においてはトップをほぼ独走している!
去年も確かに努力はしていたが、それでもほかの成績上位者たちと肩を並べるレベルでしかなかったはず。*2
リリーも魔法薬学では上位の成績を誇っていた。
父親似と思いきや、しっかり母親の血は継いでいたというわけだ!」
上機嫌なスラグホーンに、セブルスは戸惑いを隠せない。
ハリーJr.がいきなり、魔法薬学が得意になる?どういったからくりだろうか?
去年までのハリーJr.の魔法薬学は、上位の成績には入れど、素材の下処理の甘い部分はあった。それも本人の努力で、改善しつつあったのだ。
個人的な、辛辣な物言いをすると、
それでも、上級魔法薬学では苦心するかもしれない、とひそかに懸念していたのだ。
セブルスも“闇の魔術に対する防衛術”授業において無言呪文を必須習得事項としているが、他科目――変身術や呪文学においても、当然のように要求されるようになる。
同様に、魔法薬学も、これまで以上の難解な調合理論と複雑な
それを、ギリギリOをとれるかどうかのハリーJr.が、まさかいきなりトップに躍り出るなど。
何かあったのか。今年はホグワーツ内でも不穏な空気が充満しているので、あまりハリーJr.に近寄らないほうがお互いのためになると思っていたのだが。
・・・今年のホグワーツは、始まって早々に急に帰宅を申し出る生徒が相次いでいる。2年前に、ブラック侵入からのあれそれで警備体制を見直したとはいえ、ダンブルドアがいない、厄介ごとの火種になりそうなセブルスはいる、と不審視されているのが主な原因らしいのだ。
親しい友人が学校を休んだ、家から帰宅要請の手紙が来た、と暗い顔をして、やってくる生徒も少なくない、とセブルスは知っていた。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう、メアリー。いやあ、いつ飲んでも君の淹れてくれる紅茶はいい香りだ。引退に際して、君のお茶とお菓子を味わえなくなることだけは残念だったんだ」
「ありがとうございます」
思案するセブルスをよそに、テーブルの上にティーカップが置かれ、さっそくカップを持ち上げて一口飲んだスラグホーンがにこにこと笑いかければ、メアリーは淡々と頭を下げた。
本日のお茶請けは、いいリンゴが入ったということでタルトタタンである。ホイップクリームが添えられている茶色の焼き菓子に、スラグホーンは目を輝かせた。
セブルスが助教授になったばかりのころ、ティータイムをご相伴していたスラグホーンは、よくこうしてメアリーの茶菓子に舌鼓を打っていたのだ。
「それで、私に用というのは」
「うん、それなんだ」
タルトタタンを一口食べてからフォークを置いたスラグホーンは改まった様子でセブルスに頭を下げた。
「セブルス、今度のスラグ・クラブでクリスマス・パーティーを行うんだが、その時にメアリーに手伝いをさせてもらえないだろうか?彼女のお菓子を、みんなで楽しめればと思ってね。
けして悪いようにはしない。約束しよう」
ふむ、とセブルスは思案する。
どこぞのピンククモガエルはともかく、スラグホーンは人となりを知っているし、メアリーを悪いように扱わないだろう、という確信は持てる。
スラグホーンがこうして頭を下げているのは、去年のあれのことを知っていて、セブルスが神経質になっているかもしれない、という配慮からかもしれない。
「代わりと言っては何だが、私のおすすめのフレーバーティーの淹れ方を彼女に教えよう」
「・・・いいでしょう」
スリザリンらしく取引を申し出るスラグホーンに、セブルスはうなずいてから視線をメアリーに向けた。
セブルスもそうだが、魔法薬学者というのはお茶の淹れ方にもそれなりに精通している。お茶は薬として飲まれていたというルーツを持つのだから、当然といえば当然だ。
魔法薬学者として長いスラグホーンおすすめのフレーバーティーのレシピを教えてもらえるなら、悪い話ではない。
「メアリー。そういうことだが、お前のほうはどうだね?」
「はい。私のほうも問題はありません。スラグホーン様、何か作っておいてほしいものはありますか?」
「クリスマスだからね!ミンスパイ*3かクリスマスプディング*4がお決まりだが・・・定番ばかりなのもね。すでにハウスエルフたちに頼んでいる。何か良案はないだろうか?」
淡々とうなずいて尋ねるメアリーに、スラグホーンは嬉しそうに言ったが、すぐに困ったように眉を寄せた。
それを聞いたメアリーは「では」と提案を口にした。
「ブッシュドノエルなどいかがでしょうか?
フランス発祥の薪を模したチョコクリームロールケーキです。イチゴなどのフルーツも使って飾りつけをします」
「それはいいね!見た目も華やかだ!楽しみにしているよ!」
「わかりました」
と、ここでメアリーはちらと時計を見やると、「失礼します」と頭を下げた。
「セブルス様、申し訳ありませんが、席を外してもよろしいでしょうか?」
「うむ。あとはこちらでやっておく。Mr.フィルチにもよろしく伝えてくれたまえ」
「はい。失礼します」
一礼すると、メアリーは部屋の片隅にあった布巾がかけられたバスケットを持ち上げて、部屋を出ていく。
外からニャア、という猫の鳴き声と「お待たせしました」というメアリーの声がしてから、気配が離れていく。
「差し入れだそうです。最近、Mr.フィルチが詮索センサーを用いての生徒や出入り業者の備品チェックを欠かさず行っていることはご存じでしょう。
多忙をねぎらおうと、ああして茶菓子の一部を届けに行っているのです」
「あの子はすごいね。アーガスにああも懐くなんて・・・」
感心したようにこぼすスラグホーンに、セブルスはだからこそフィルチも受け入れているのだろう、と内心でうなずいた。
この間道案内してくださったアーガス様がお疲れのようです、何かしてあげたいのですが、とこぼしたメアリーに、味見してほしいと称してお菓子を持って行け、とアドバイスしたのはセブルスだ。
後日、セブルスはアーガス=フィルチから、余計なことをさせるな、と文句を言われた。セブルスだけ。ついでに、フィルチの口の端に焼き菓子のかけらがついていたのをセブルスは見逃さなかったが、口にはしなかった。
肝心のメアリー本人は、ミセス・ノリスのブラッシングも命じられたらしく、時々衣服に猫の毛をつけて戻ってくるようになった。
そのまま、何気ない日常のことを話しながらお茶していた二人であったが、不意にセブルスはぴくっと顔を上げて扉のほうを振り返った。
バタバタとあわただしい足音を立てながら、扉が開かれる。
「ホラス!ここにいたんですね!セブルスも!ちょうどよかった!」
息を切らして顔を出したのはマクゴナガルだ。真っ青な顔をしている。
「どうなさったのですかな?何やら慌てているようですが」
「大変です!グリフィンドール7年生のケイティ=ベルが! 呪いをかけられてしまったんです!」
セブルスの言葉に、マクゴナガルが叫ぶ。反射的に二人とも、立ち上がっていた。
グリフィンドール7年生、ケイティ=ベルはセブルスがホグワーツで正式に教授職を拝命した年に、グリフィンドールのクィディッチチームでチェイサーを務め始めた、筋金入りのクィディッチプレイヤーである。
今年も公平を期すために再選抜を受け、改めてチェイサーの地位を再獲得したらしい。
セブルスはマクゴナガルほどクィディッチには熱を入れてないが、それでも自寮のクィディッチチームを応援する気持ちくらいは持っている。
まあ、それを抜きにしても、自寮の生徒が呪いをかけられたら、慌てふためきもするだろう。
本日、ホグズミード村の出入りの許可日で、不穏な空気や陰鬱さ、あるいは日々の勉強でたまった鬱屈を発散させようと、一部の生徒たちは悪天候と寒さをものともせずに外出していた。
ケイティもそんな生徒の一人で、友人のリーアンとともにバー『三本の箒』で名物のバタービールをたしなんでいるさなか、様子がおかしくなったそうだ。
トイレから戻ってきたケイティは、何か妙な包みを持っており、それは何だと問いただすリーアンをよそに、これをホグワーツに持ち込まねば、渡さなければならない人がいる、と言い張ってそのまま出ていこうとしたのだ。
呼び止めようとするリーアンがケイティの持っている紙包みを破ってしまい、中身にケイティが触れてしまったのだ。
すると、ケイティは空中に浮かびあがり、苦悶の叫びをあげてのたうち回り始めたそうだ。
現場を目撃していたほかの生徒数名でケイティを地面に下すが、なおもケイティはのたうち回り、森番小屋にいる闇祓いたちを呼んできて、そのまま保健室に担ぎ込んだそうだ。
居合わせたドラコ=マルフォイの証言によると、ケイティが持っていた包みの中身は、呪われたオパールのネックレスだそうだ。ドラコは以前、これを父親と一緒に行ったボージン・アンド・バークス*5で見たことがあったそうだ。
かなり強い呪いで、マダム・ポンフリーだけでは手が足りず、スラグホーンの魔法薬と、セブルスの知見を頼ろうと、マクゴナガルは駆け込んできた、というわけだ。
結論から言えば、ケイティは医務室での応急処置後、聖マンゴ治療院へ移送されることになった。
ほんの少し手がかすった程度で、ケイティは発狂寸前の状態になったのだ。もし、素手でわしづかみしたり、首に掛けていたら命がなかっただろう。
ケイティの命が助かったなら、次に気になるのは、彼女に呪われたオパールのネックレスを持たせ、誰に渡させようとしたのか。そして、それをたくらんだのは誰なのか、という問題である。
十中八九、自分が狙いだろうな、とセブルスは確信していた。
ハリーJr.という可能性もなくもないが、それならばちょうどホグズミード村に出向いていた彼に、その場で渡せばいいのだから、それはないだろうと思われる。
ちなみにこの時、ハリーJr.はアステリアと、夏休みの教材買い出しデートの埋め合わせとして、ハニーデュークスで甘味を楽しんだ帰りだったらしい。
ケイティの事件に居合わせた生徒たちの中で、とっさに彼は動いた。アステリアに森番小屋の闇祓いたちを呼びに行かせ、オパールのネックレスを見つけたロナルドに触らないように言って、とっさにマフラーでネックレスを包んで保護と保管をしたそうだ。
非常時に、冷静に動けたことをほめるべきか、どうしてそんなトラブルの場に居合わせた、とあきれるべきか。
一連の出来事を聞いたセブルスは、そんな感想を持ってしまった。
続く
【プリンスの教科書】
地下牢に置き去りにされていた古い上級魔法薬学の教科書。年季が入っていて古く、ページはおられ、細かな書き込みがいくつもされている。
ハリーJr.の手に渡ったそれは、彼に魔法薬学の深い知見と、いくつかの便利な呪文をもたらした。
上位者に至る前の、未熟な身の上にして貪欲なる若者が残した若き日々の証左を、セブルスは記憶に残していない。
ハリーJr.「あれ?この教科書、
セブルス「(最近やけに悪寒を感じるな?命を狙われてるからか?)」
(ボソッ)読み直して思いましたが、“半純血のプリンス蔵書”って、かなり中二病入ってると思いません?
それを仇敵の息子に手に入れられて、当時未熟だった自分が考案した数々の魔法や技術を我が物顔で使われる・・・原作スネイプ先生じゃなくても憤死しそうです。
そりゃ、ハリー少年に返せって詰め寄りますわ。自分が持ち主だなんて口が裂けても言えんでしょうよ。
さて、こちらのセブルスさんはどうすることやら。
Q.監督生とクィディッチのキャプテンって兼任できましたっけ?
A.わかりません。調べたんですけど、出てきませんでした。まあ、この話限定のいい加減な設定と思ってください。
次回の投稿は、来週!内容は・・・スラグ・クラブのクリスマスパーティ。ハリー=メイソンさん、全快おめでとうございます。お楽しみに。