セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、お付き合いくださりありがとうございました。評価、お気に入り、ここ好き、誤字報告、感想もありがとうございました。

 時節は夏真っ盛りで、花火とかもやってるのにクリスマスのお話とはこれいかに。まあ、いつものことですよ。

 ところで、地震は大丈夫でしたか?被災地域の皆様のご無事をお祈りしております。この場を借りて述べさせてください。

 というわけで続きです。


【6】セブルス=スネイプ、クリスマスパーティに出る

 

 クリスマスが近づくほど、ハリーJr.は身の危険を強く感じるようになった。

 

 主に貞操的な意味合いで。

 

 ハウスエルフたちと手すきの職員たちが力を合わせて運び込んだもみの木の飾りつけは終わり、ヤドリギがあちこちに茂ると、肉食女子たちのギラギラした視線が一斉にハリーJr.に向けられるようになったのだ。ヤドリギの下に引きずり込もうと*1、あの手この手を張り巡らせて来るのだ。

 

 特に熱視線を向けてきているのはグリフィンドールのロミルダ=ベインである。

 

 ハーマイオニーからの情報によると、彼女たちは『ウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズ』の『フクロウ通信販売サービス』で香水と咳止め薬に偽装した愛の妙薬を購入したらしい。大広間の出入り口や城のエントランスで待ち伏せして、飲み物を一斉に渡してこようとしてくるのだ。絶対愛の妙薬入りだろう。必死に断った。

 

 一応、アステリアと付き合ってるハリーJr.としては、本当に勘弁して!と叫びたい出来事である。

 

 ただの“ハリー=メイソンJr.”は見向きされなかったのに、“生き残った母子の息子の方ハリー=ポッター”とわかるや、目をハートにして追い回してくるのはいかがなものか。

 

 夏休みの教材買い出しデートをすっぽかしてしまったアステリアに、必死に謝り倒して、どうにかホグズミード村の埋め合わせデートで機嫌を直してもらったのに。

 

 悲しそうな顔をするアステリアと、頬が腫れるまでビンタしてやろうかというほどすごい顔をしたダフネに、ハリーJr.は必死に言い訳した。違うから!関係ないから!そんなつもりみじんもないから!と。

 

 ・・・彼がこうも腰が低いのは、純血貴族のパワーバランス関係もあるのだが、お付き合い初めのやり取りがひたすらに情けなかったからというのもあるのだ。

 

 

 

 去年――つまり、5年生の時だった。

 

 告白してきたのはアステリアで、激鈍のハリーJr.は「君を好きになれるかわからないけど、それでもいいなら・・・」と流されるようにOKしてしまったのだ。

 

 で、その直後のホグズミードデートで、うっかりセドリック=ディゴリー退学でフリーになっているチョウ=チャンが元気なさそうにしているので、ついおせっかいの延長で声をかけて、買ったばかりのお菓子をおすそ分けしてしまった。

 

 そしたら、アステリアが拗ねて、ダフネが激怒した。クラゲ足で倒れこんだハリーJr.を、ドラコですら無様で自業自得と言い放ってしまった。

 

 付き合っている相手を前に、ほかの女性によそ見は厳禁、と鈍くはあれどデリカシーは学習できたのだ、ハリーJr.は。

 

 ちなみに拗ねたアステリアには、必死に謝り倒してどうにか許してもらえた。

 

 

 

 またダフネにクラゲ足にされるのはご免こうむりたい。アステリアだって今度は拗ねるどころか泣くかもしれない。

 

 夏休み明けのすっぽかし事情をやむなく説明したハリーJr.に、アステリアは泣き出した。

 

 約束を破ったのがそんなにつらかったのか、と慌てふためくハリーJr.に、アステリアはしゃくりあげながら言ったのだ。「ハリーが無事でよかった。また学校で会えてよかった」と。

 

 ハリーJr.はその時、言葉にならない思いがこみ上げ――とにかく、アステリアを泣かせないようにしよう、と打算抜きで思うようになったのだ。

 

 これが恋かはまだわからないけれど、この間のデートで寒さに身を震わせるアステリアに、実家から送ってもらったマグルの使い捨てカイロを渡せば見せてくれたような控えめな笑顔をもう少し見たいと思ったし、一緒に外出の約束が楽しみになった。

 

 だから、ほかの女子によそ見する気なんて毛頭ない。

 

 ハーマイオニー?友達を心配して何が悪いのやら。

 

 「アステリア!今度のスラグホーン先生のクリスマス・パーティーに、よかったら一緒に出てくれないかな?」

 

 「・・・はい。喜んで!」

 

 ゆえにこそ、大広間で大勢の前で誘えば、アステリアはポッと頬を赤らめたが、すぐにうれしそうに笑って見せた。

 

 かわいい、とハリーJr.はちょっとだけ思ったが、言葉には出さなかった。女の子がかわいいのは当たり前でしょ、不細工に見えたらあんたの目が腐ってるだけよ、という姉の薫陶が脳裏にあったためである。

 

 「よかった!じゃあ、玄関ホールで8時に待ち合わせってことで大丈夫かな?」

 

 「はい。楽しみにしてますね!」

 

 うれしそうに笑うアステリアに、ハリーJr.も笑顔を返した。

 

 

 

 ハリーJr.たちもお年頃。学校自体は不穏な雰囲気ではあれど、甘酸っぱい気配や、恋のつぼみが膨らんで開花の気配をまといつつある場所もある。

 

 恋愛事情に疎いところがあるハリーJr.(あれは絶対母さん似ね、とヘザーは語る)の事情はともかく、ほかの学生たちも恋のさや当てを勉強の合間を縫って行っていた。

 

 ドラコは5年生になってから、一冊のマグルのパルプ製のノートを時々持ち歩くようになったし、6年生現在もそれを続けている。・・・正確には、朝にフクロウが朝食の席に落としてきて、翌朝には見かけなくなっているのだが。

 

 同じ色と大きさのノートをハーマイオニーも持ち歩いているのを、ハリーJr.は見たことがあったが、何か共通科目の勉強をしてるのかな、と思った程度だ。

 

 姉のヘザーが見ようものなら、どう見たって交換日記じゃない、鈍いにもほどがあるでしょ、と吐き捨てられそうな節穴ぶりである。ほかの事件に関しては鋭くなる嗅覚は、こと恋愛に関しては異常なほど愚鈍になるのだ、ハリーJr.は。

 

 純血貴族の跡取りであるドラコと、歯医者の一人娘のハーマイオニーは、清く正しい交際を心がけ、学校では適切な距離を維持しているらしい。

 

 日記という媒体越しのためか、この二人は時々ハリーJr.でも知らないことを平然と話していたりするし、ドラコはマグル文化への理解を深め、ハーマイオニーは逆に純血貴族への理解を深めている。

 

 なお、ハリーJr.は知らないことだが、ハーマイオニーが新しく使い始めた櫛は5年生のクリスマスプレゼントにドラコが贈ったもので、少し梳っただけで寝ぐせも髪の絡まりも解消するそれを、彼女は重宝していたし、鏡の前で手に取ったときうれしそうに笑っていたりする。

 

 そんなハーマイオニーをフリーと思っているのか、ラベンダー=ブラウンと付き合ってよくくっつきあっているくせに、視線はハーマイオニーにちらちら向けているのがロナルドである。・・・自覚がないのがひどい。

 

 当てつけのように、時々嫌味を向けるのもひどい。ハーマイオニーは、何なの一体、とでも言いたげな視線を向けるだけで終わらせているので、暖簾に腕押し――というか、独り相撲のようになっているのが、また憐れみを誘う話である。

 

 そんなロナルドに、不誠実だよとたしなめることもできず、同室にして親友のネビルは深くため息をついた。

 

 

 

 ともあれ。

 

 そんな甘酸っぱい事情はさておき、スラグホーンのクリスマスパーティーは予定通り開催された。

 

 ちなみに、セブルスもスラグホーンの客としてしっかり招待されてたりする。

 

 スラグホーンの部屋は、いつも以上に広く、エメラルドや金、紅の垂れ幕で飾られ、招待客たちで込み合い、むんむんしていた。

 

 「今日の装いは一味違うね」

 

 「あの格好で来るなとおっしゃられたのはご自身でしょう」

 

 「すまないすまない。しかし、せっかくのクリスマスだ。

 生徒たちも普段とは違った一面を見たいものだと思ってね」

 

 にこやかに笑うスラグホーン自身はビロードのゆったりした服に、おそろいの帽子をかぶっていた。

 

 そんなセブルスも普段の黒一色のインバネスコートを中心とした格好ではなかった。豪奢な黒いコートは折り返された袖口とボタンホールを金モールで飾り付けられ、隙間からは赤いベストと白いクラバットが見えている。無造作にくくった黒髪にも、黒いリボンと白いレースの髪飾りをつけていた。左肩に丈の短いマントをつけたその恰好は、カインハーストの騎士の狩装束である。

 

 もっとも、実はこの服装は奴隷が着させられていたものなので、パーティー向きかと言われれば疑問が残る。とはいえ、見た目は華やかなので、実情を知らない人間からはそうは思われないだろう。

 

 実際、スラグホーンからは「まるで絵画からおとぎ話の騎士様が出てきたようだ!」と感心されたほどだ。

 

 ちなみに、メアリーも併せて衣装替えしており、今日は黒いコートとマントに、羽帽子をつけた、どこか優雅で華やかな狩人姿――知るものが見れば、時計塔のマリアと同じ格好だとわかるだろう。モデルとなった人物と同じ格好をしているので、今のメアリーは時計塔のマリアそのものに見える。

 

 一部の狩人は、その恰好でガキィィィン・・・という固い音が聞こえたらびくつくかもしれない。

 

 まあ、目玉と触手のついた脳みそを担いで歌ってないだけいいだろう。

 

 メアリーはその恰好で給仕を務めており、頭上にトレーを持っているため足のあるテーブルのようなハウスエルフたちよりも何気に話しかけられ、ジュースや炭酸水の入ったグラス、蜂蜜酒の入ったゴブレットを渡して回っていた。

 

 普段とは違う二人の姿に、招待されている生徒たちは目を奪われている。特に、スラグホーンの友人たちである外部からの招待客は動いてしゃべるメアリーを珍しがってじろじろと眺めている。給仕だという注意がなければ、その場で話しかけられていたことだろう。

 

 セブルスはといえば、錠剤化魔法開発者として、スラグホーンの友人たちに引き合わされていた。

 

 普段通りの無表情・不愛想であったが、内心ではプロデュース好きのスラグホーンにうんざりしていた。とはいえ、スラグホーンには錠剤化魔法普及の手続きあれそれで世話になっていたので、無下にするわけにもいかない。大人で教師でいると、付き合いはそれなりに大事にせねばならないのだ。上位者であろうとも。

 

 セブルスは日刊預言者新聞のスクープ記事のせいだろう、やはりスラグホーンの紹介とはいえ、身構えられたり顔をこわばらせられたりした。

 

 「ひどい誤解だ。確かに君はいろいろ・・・その、過激なこともしているが、教師としても魔法薬学者としても優秀だというのに」

 

 「人は見たいものを見たいようにしか見ないものです。

 わかる人間が分かっていれば私は構いません」

 

 つっけんどんなセブルスに、スラグホーンは悲しげな、それでいて不満そうな顔をした。

 

 とここで、入り口がひときわ騒がしくなり、そわそわしていたスラグホーンは「失礼。生徒を迎えに行きますので!」と断りを入れるや、入り口に向かって踵を返していた。

 

 そうして戻ってきたスラグホーンは、困り切った顔をしたハリーJr.の右手をがっちりホールドしていた。なお、ハリーJr.は同じく戸惑った顔をしたアステリアの右手をつかんでいた。

 

 「あ、こんばんは、先生」

 

 「こんばんは。ハリーに招待していただいたので、お邪魔させていただいてます」

 

 「こんばんは。二人とも」

 

 助けて、と目で訴えてくる二人に、セブルスはそっと目をそらさざるを得なかった。

 

 たとえ相手が大事な後見人を務める子供とそのガールフレンドであっても、セブルスはスラグホーンよりは立場が下なのだ。

 

 ハリーJr.は、セブルス同様スラグホーンの友人たちに紹介されていた。すでに正体がバレバレで、堂々とハリー=ポッター呼びされ、お母さんのリリーはどこ?伝記出す予定ある?と聞かれていた。

 

 基本的に穏やかで人当たりのいいハリーJr.は答えにくいことはあいまいに笑うだけにしていたが、伝記出版に関しては、いいえ、そんな予定はありませんときっぱり答えて、友人がいたので挨拶してきます、と言ってアステリアと一緒に姿を消した。

 

 それを見送ったスラグホーンが笑っていった。

 

 「ははっ、彼は友人思いなようだからね。それに謙虚で照れ屋なようだ」

 

 単に必要以上に目立ちたくないのでは、とセブルスは思ったが口には出さなかった。

 

 のちにハリーJr.にこのことを言えば、正直年配の方と母さんの勝手な伝記作成話をするより、友人たちと飲み食いしてる方が楽しい、と彼は語った。

 

 セブルスがちらとハリーJr.とアステリアが行った方を見やれば、めかし込んだハーマイオニーとドラコがいて、4人で会話を弾ませ始めていた。

 

 ハーマイオニーが何事か言えば、アステリアがポッと頬を赤くして、ハリーJr.は困ったように笑いながら首を振れば、彼女は少しむっとしたような顔をしてそっぽを向いた。

 

 それにドラコがあきれたように、ハリーJr.を肘でつついて、ハリーJr.は何かまずいことを言ったかと慌てたように何事か話しかけている。すると、アステリアはしょうがないわね、というかのように笑いかけていた。

 

 若者たちの初々しさを感じる光景に、セブルスは少しほおを緩めた。

 

 「そういえば、Mr.スネイプもまた彼に魔法薬を教えておられたんでしたな」

 

 話を振られ、セブルスは視線を周囲に戻した。

 

 「・・・ええ」

 

 「ホラスから聞きましたが、ハリーは魔法薬の天才だそうですね!」

 

 「・・・努力家ではありましたな」

 

 くどいようだが、セブルスはハリーJr.の魔法薬については、努力は認めている。ただし、努力がすぐに結果に直結するとは思っていない。

 

 スラグホーンがハリーJr.の初授業時における“生ける屍の水薬”の出来栄えを自慢しているのを聞いて、セブルスは眉を顰める。

 

 セブルスの記憶が正しいなら、上級魔法薬学の教科書には、いくつか調合レシピに不足部分があったはず。セブルス自身、何度か試行錯誤した覚えがあるのだ。それを・・・下処理が大雑把なきらいがある(それでも多少は改善している)ハリーJr.が初調合で理想的な仕上がりにして見せるとは。

 

 スラグホーンはリリーの血だ!魔法薬の申し子になるに違いない!と絶賛しているが、セブルスはそうなるとは思えなかったし、肝心のハリーJr.本人は闇祓いになるつもり満々なので、そこを極めようというつもりはないだろう。

 

 まあ、素養はあるのだろう。何しろ、ポッターと言えば、ハリーJr.からしてみれば祖父に当たるフリーモントがスリークイージーの直毛薬の発明で一財産儲けたのだから。

 

 ・・・そういえば、あの薬の利権や販売路はどうなったのだろうか?まあ、ドラ息子のジェームズがそれを引き継いでいたとは思えないので、誰か別の者に譲渡したと考えるのが普通だろう。

 

 と、ここでスラグホーンはミンスパイと蜂蜜酒の入ったゴブレットを持ったまま、再びハリーJr.のところに突進していた。

 

 若者の青いひと時を邪魔してやるんじゃない、と内心でセブルスはため息をつきながら、スラグホーンに続いた。

 

 スラグホーンは顔を赤くしたまま(どう見ても立派な酔っ払いだった)、ハリーJr.の受講科目を聞き出して、大声で素晴らしい闇祓いになる、とほめたたえているが、当のハリーJr.は勘弁して・・・と言いたげに顔をそらしていた。

 

 そのときだった。

 

 「スラグホーン様。今よろしいでしょうか」

 

 訪ねてきたのはメアリーだ。手に持ったトレーには、彼女の力作であるブッシュドノエルが鎮座している。木の丸太を思わせるロールケーキは表面のチョコクリームには樹皮のような模様が描かれ、雪化粧のような粉砂糖や、飾り切りされたイチゴ、妖精らしき飴細工、鱗粉を思わせるアラザン、雪の結晶らしいチョコ菓子などで飾り立てられて一種の芸術品を思わせる。

 

 マグルの家庭ならばサンタクロースの人形菓子などを飾るのだろうが、魔法族にとってのクリスマスとは冬至祭(ユール)の延長のようなものなので、こういう飾りつけになったのだ。

 

 招待客の人数に沿ってたくさん焼かれて飾り付けられたそれは、ほかのハウスエルフたちによって、切り分けられて配膳されている。

 

 「ああ、メアリー!それがブッシュドノエルか!見た目にも華やかで、実においしそうだ!」

 

 「ありがとうございます。それから、アーガス様がおいでです。

 ご歓談中のところ、申し訳ありませんが、大事な用があるそうです」

 

 「スラグホーン先生」

 

 メアリーの後ろから出てきたのは、噂のフィルチその人だった。顎を震わせ、飛び出した目にいたずら発見の異常な情熱の光を宿した彼は、ゼイゼイ声で報告した。その手には、セオドール=ノットの耳ががっちりとつかまれていた。

 

 「上の階の廊下をうろついているところを見つけました。先生のパーティに招かれたのに、出かけるのが遅れたと主張しています。

 メアリーにも確認しましたが、こいつに招待状はお出しになられてないのでしょう?」

 

 フィルチがメアリーを見やれば、彼女はうなずいた。

 

 「はい。こちらでお手伝いするのにあたり、招待客のリストをいただきました。

 ノット様のお名前は、なかったはずです。

 ・・・アーガス様、お手を離されてはいかがでしょうか。ノット様が痛そうにされています」

 

 「・・・・・・。

 フンっ!逃げだしたら、さらにきつい罰則を食らわせてやるからな!」

 

 メアリーの言葉に、フィルチは一瞬ものすごく苦々しげな顔をしたが、やむなく吐き捨てながら突き放すようにノットを解放した。

 

 「ああ!僕は招かれてないさ!

 勝手に押しかけてこようとしてたんだ!これで満足したか?!」

 

 怒ったように言ったノットに、獣の首を取ったように嬉々としてフィルチが叫んだ。

 

 「何が満足なものか!

 お前は大変なことになるぞ!そうだとも!

 先生方は言わなかったか?許可なく夜間にうろつくな、と。え?どうだ?」

 

 「構わんよ、フィルチ、構わん」

 

 舌なめずりをしそうなフィルチに、スラグホーンが手を振りながら鷹揚に言った。

 

 「クリスマスだ。パーティに来たいというのは罪ではない。今回だけ、罰することは忘れよう。セオドール、ここにいてよろしい」

 

 とたんにフィルチは憤慨と失望を一緒くたにしたような顔をした。しかし、メアリーに話しかけられたことで、その表情はすぐに霧散した。

 

 「アーガス様、夜分遅くお疲れ様です。よろしければ、何か召し上がっていかれませんか?」

 

 「~~~!

 フンっ!貴様の仕事を邪魔するほど暇ではないわ!」

 

 「・・・申し訳ありません。出過ぎたことを申しました」

 

 「いらんとは言っておらん!一切れだけもらってやる!貴様も終わったらさっさと仕事に戻れ!他の客を待たせるな!」

 

 言いながら、フィルチはメアリーが差し出した切り分けたブッシュドノエル(飾りの飴細工付き)の皿をひったくるように受け取ってそっぽを向いた。

 

 「・・・フン。悪くない」

 

 一口食べてそうこぼしたフィルチに、メアリーが「ありがとうございます」と返す。

 

 そんな二人のやり取りに大半の者が気を取られていたので、おそらくセブルス以外の誰も見てないことだろう。

 

 せっかくの参加許可が出されたノットは、まるでこんなはずではとでも言いたげな、失望と怒りをないまぜにしたような顔をしていた。もっとも、それはすぐにスラグホーンの寛大さに感謝をする笑顔に隠されたのだが。

 

 ・・・ノットが今年に入ってから、左手を異常なまでに隠すようになったのを、セブルスももちろん気が付いていた。

 

 ハリーJr.とドラコが連名で、ウィーズリーからノットが何かたくらんでいるようだから気を付けるようにと忠告してくれた、と伝えられている。

 

 加えて、ドラコから、ケイティ=ベルが聖マンゴに搬送された後、以前に夜の闇(ノクターン)横丁でノットを見かけたことがある、呪いのオパールのネックレスを仕掛けた可能性がある、可能性の域は出ないが、十分気を付けてほしい、という連絡もあった。

 

 ちなみに、いずれもわざわざ学校のフクロウを借りて、送り手を偽装しての手紙での連絡だ。直接の接触は危ないだろうから、今学期が始まってから、ハリーJr.もドラコも、本当に必要最低限の接触しかしてきてないのだ。

 

 しかしながら、セオドール=ノットは曲がりなりにも教え子の一人である。特に何かされないようなら放置でいいと思っていた。

 

 とはいえ、今は業務最優先ということでホグワーツにいるが、いずれヴォルデモートとも、そしてダンブルドアとも、決着をつけねばなるまい。

 

 そして、セブルスはノットがじっとメアリーの方を見ているのに気が付いた。

 

 それはメアリーも気が付いたらしく、小首をかしげながら向き直った。

 

 「何かご用でしょうか?お飲み物か、お食事をお持ちしましょうか?」

 

 「ああ、大丈夫です。いつもと違う服装なので、珍しく思っただけです。

 そちらもお似合いですね」

 

 「ありがとうございます。

 こちらは今回のパーティのためにセブルス様がご用意してくださったものです」

 

 ノットの言葉に、メアリーはかすかに(本当にかすかに)ほほ笑んだ。

 

 そうして、呼ばれた彼女はノットに「失礼します」と断りを入れてその場を離れた。

 

 

 

 

 

 療養中の友人へのお見舞いという名目で、セブルスは『葬送の工房』にハリーJr.を連れて戻ってきていた。

 

 ハリーJr.はクリスマスをここで家族と一緒に過ごすが、セブルスはハリーの病状を確認したらホグワーツにとんぼ返りすることになる。スリザリン寮監の業務を完全放棄というわけにもいかない。

 

 ちなみに、メアリーはホグワーツでの雑事のためにお留守番である。

 

 『葬送の工房』はホグワーツ同様、雪化粧に彩られていた。

 

 「おかえりなさい!ジュニア!セブルスさん!」

 

 出迎えてくれたのはヘザー――もとい、偽名をやめてシェリルの名前に戻したメイソン一家の長女だ。髪の色を完全に変えたらしく、今の彼女は金髪ではなく赤毛になっていた。

 

 「ただいま!ヘ、じゃない、シェリル、髪染め直したんだね」

 

 「どう?似合ってる?」

 

 「うーん・・・微妙・・・」

 

 「もう!

 どう?セブルスさん?似合う?」

 

 「髪の色程度、些細なものであろう」

 

 「はあぁぁぁ・・・。

 セブルスさんが独身の理由、ちょっとわかったわ・・・。

 うちの母さんといい勝負だわ・・・」

 

 だめだこいつら、と言いたげな顔をしたシェリルは、家の中に引っ込んだ。

 

 『葬送の工房』の中は、すでにクリスマスディナーのいい香りがしていた。

 

 キッチンでリリーが右往左往していて、テーブルの上にはすでに料理が並んでいる。今は、オーブンの中のローストチキンの完成を待っているらしい。

 

 「ああ、お帰りなさい、スネイプ。ジュニア、荷物を降ろして手を洗ってきたら、お父さんを呼んできてくれる?」

 

 「はーい!」

 

 「お母さん、こっちのお皿持ってくね!」

 

 「お願いね、シェリル。

 スネイプ、そこでぼんやり立ってないで、座って座って!」

 

 てきぱき動くリリーに促され、セブルスはハリーJr.とともに洗面所で手を洗ってくると、ダイニングの椅子に腰を下ろした。

 

 もともと4脚だった椅子は、メイソン一家を匿うにあたり双子呪文で一脚増やしたが、今もまた増えたままだ。

 

 「やあ、お待たせ」

 

 ひょっこりとハリーJr.とともにやってきたハリーは、すっかり元気そうだ。鼻筋の眼鏡パッドの跡から、先ほどまで彼が執筆中であったことを物語っている。

 

 タイミングよく焼きあがったローストチキンがテーブルの上に並べられた。

 

 「さあ、ハリーも来たところで、いただきましょう」

 

 椅子についてニコニコ笑うリリーに、ほかの家族たちも笑顔でうなずいた。セブルスもうなずいて、カトラリーを手に取った。

 

 

 

 楽しいディナーの時間はあっという間に終わり、セブルスはハリーの容態を確認していた。

 

 毎日必ず“鐘”による召喚で戻ってきて投薬と合わせて病状を確認していたが、もともと体力のあるハリーは、最初こそ痩せていたが最近は太ってきたとこぼし始めた。

 

 今までがよくない状態だったのだ。病的に瘦せていたのが改善したのだから、むしろ健康になったというべきだ。

 

 「うむ。完治とみるべきであろう。

 以前も伝えたが、投薬による治療自体はすでに終わっている。

 予後の観察をしていたのだが、落ち着いているようだ」

 

 「本当?!

 よかったわね、ハリー!」

 

 診療記録(カルテ)となる羊皮紙にがりがりと書き込むセブルスに、リリーがほっとした顔をして隣のハリーに笑いかけた。

 

 「何から何まで、本当にありがとう、セブルス。

 私も元気になったことだし、出ていくべきなんだろうけど・・・」

 

 「ハリー」

 

 「ハリー!何を言ってるの!」

 

 セブルスとリリー二人の言葉に、「もちろん、わかっているよ」と首を振った。

 

 「現状、ここを出ていけば、『教団』に感化された魔法使いたちに見つかって何をされるかわからない。

 けど、友人の家にいつまでも居座るのも申し訳ないと思ってね」

 

 「それは、まあ・・・」

 

 ハリーの言葉に、途端にリリーも気まずげな顔をした。

 

 「どうせ私はホグワーツでいないのだ。入らないでほしいと伝えた部屋には入ってないだろう。ならば私の方は問題ない」

 

 「そういう問題じゃないんだよ、セブルス」

 

 「気持ちはうれしいんだけど・・・」

 

 まったく気にしてない、というセブルスに、そうじゃないと言いたげなメイソン夫妻。

 

 「正直、不便でもあるのよ」

 

 「ほう?」

 

 「スネイプのおかげでハリーのお仕事も、ヘザーの勉強も何とかなっているけど、町からは遠いから・・・買い出しは必ず私が一緒じゃないといけないのよ。

 わがままでごめんなさいね」

 

 「いや・・・」

 

 申し訳なさそうなリリーの言葉に、セブルスは首を振った。

 

 セブルスは気にしてなかった交通利便性という点では、確かに『葬送の工房』は不便だろう。

 

 『葬送の工房』は、田舎の一軒家といった風情で、町からは離れた場所にポツンとある。

 

 ここに住んでいるのは、基本的にセブルスとメアリーの二人のみ。メアリーは人形ゆえに基本的にこの家から出ることはなく、買い出しはセブルスの担当になる。そのセブルスは魔法使いなので“姿くらまし”は当然使えるので、近場に町などなくても不便をしたことがないのだ。

 

 そもそもセブルスは本来、騒がしいのは嫌いである。となれば、家を置く場所は静かな場所にしたいと思うのが普通だ。ホグワーツは昼間はともかく、夜中は静かなもので、セブルスも気にせずに休むことができたのだ。

 

 ・・・ヤーナムの“獣狩りの夜”はいい夜ではあったが、静かではなかった。血と火薬と鉄臭さに満ち満ちて、獣のうなりと断末魔の二重唱に剣撃と銃撃が伴奏を添えていた。・・・時間が経てば狂気の笑い声も増える。悪くはなかったが、静かとは言い切れなかった。

 

 閑話休題。

 

 メイソン一家の真の平穏のためにも、ヴォルデモートとダンブルドアには早期退場を願いたいものだ。

 

 とはいえ、セブルスは現在ホグワーツで教職を務めている。大勢の生徒とほかの教員たちを放り出して、ぶちのめしに行くわけにもいかない。

 

 長期休暇は授業がないとはいえ、生徒たちがホグワーツにいるクリスマスとイースターは学校から軽々しく離れるわけにもいかない。

 

 となれば、次の夏休みまで待つしかないか?

 

 黙り込んだセブルスをよそに、メイソン夫妻は、いっそ海外に逃げようか、でもジュニアとシェリルの学校が、と話し始めている。特に、シェリルは今年はGCE試験の上級レベルが控えている*2

 

 加えて、ハリーJr.にもハーマイオニー以上に親しいガールフレンドができたらしい、と夫妻も知っているようで、引き離すってどうなの?とリリーもハリーも悩むことになったらしい。

 

 「どうしてわざわざ私たちを巻き込もうとするのよ。ただ静かに暮らしたいこっちの身にもなってほしいものだわ!」

 

 ぷりぷりとリリーが怒る。

 

 彼女も随分と変わったものだ。確か以前は『不死鳥の騎士団』に所属していたはずでは?

 

 「それは、私だって昔は『不死鳥の騎士団』で闇の陣営と戦っていたわ。

 でも、今は人の親として、家族として、その安全を優先したいの。

 そもそも!今の『不死鳥の騎士団』に近寄りたいとも思わないわ!

 ・・・今の私にできることなんて、たかが知れてるしね」

 

 セブルスとハリーの視線にリリーは首を振ってから、苦笑気味に目を伏せた。

 

 マグル界に隠れ住むという関係で、リリーはすっかりマグル寄りの生活をしている。物が壊れたり、幼いハリーJr.の魔力暴走防止のためなら魔法を使うこともあるが、普通に電化製品を使っている。

 

 洗濯機を回しながら普通に掃除機をかけるし、家事が一段落ついた昼下がりにテレビで昼ドラを見てドロドロ人間関係にハラハラしたりしている。買い物は免許がないので、ハリーに自動車を出してもらうが、普通にスーパーやドラッグストア、ホームセンターにも行っている。

 

 魔法の腕がさび付いたわけではないが、それでも『不死鳥の騎士団』現役だった頃よりは確実に鈍った、とリリーは思っているのだ。

 

 それをなまったとみるか、それだけ平穏に順応できていたとみるかは、それぞれの自由だろう。

 

 ともあれ。

 

 今日はもう遅いから泊まっていけば、というメイソン夫妻の勧めに断りを入れ、診療を終えたセブルスは“姿くらまし”でホグワーツへと戻った。

 

 

 

 

 

 続く

*1
ヤドリギの下でキスをしたカップルは永遠に結ばれるという伝承がある。この時、ヤドリギの下にいる女性はキスを拒むことができないともされている。本来は愛と平和を象徴するおまじない

*2
魔法によるごまかしで公的書類にはヘザーの名前で通しているので、シェリルの名前に完全に戻すには学校卒業後になるだろう




 【ブッシュドノエル】
 薪を模したチョコクリームロールケーキ。粉砂糖やアラザン、飴細工やチョコレート細工、イチゴで飾りつけされている。

 食べることでわずかに魔力を回復し、獣性を下げる効果がある。

 親愛なる隣人のスラグホーンの依頼で作ったそのケーキの乗った皿を手に、パーティの参加者たちは叫ぶ。メリークリスマス!それを見た人形は、無表情をわずかに崩して笑うのだ。





 (ボソッ)騎士の狩り装束は私もお気に入り装備で、何時か出したい、どっかのタイミングで出したい、とずっと思ってました。ぼんやり考えてた段階では、4巻のダンスパーティ辺りで出すことになるかな、と思ってたのに、4巻の展開が丸ごとぽしゃってセブルスさんはクリスマスパーティ不参加になったので、どないしよ、思ってました。
 で、6巻読み直した時にスラグホーンのクリスマスパーティに原作スネイプ先生も招かれてたわ!これだ!とこれ幸いと衣装ネタをぶち込みました。



 Q.騎士の狩り装束は男女で意匠が違うんだから、ペアルックでもよかったのでは?

 A.人形ちゃんに落葉持たせたい人が感想欄にいらっしゃるようなので、リクエストにお答えしました。戦闘してない?そのうちわかります。はい。





 次回の投稿は来週。内容は、続・黒歴史の教科書とハリーJr.、セブルスさんとハリー=メイソン氏を添えて。そして、またしても命を狙われるセブルスさん。お楽しみに。
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