学生たちの恋模様も注目するべきなんでしょうけど、恋愛パートがクソのように苦手なんですよね。書いてると照れ臭くなる・・・。
だから、メアリーちゃんとフィルチで、バランスをとってたんですよ、はい。
というわけで続きです。・・・多分、下手なボス戦よりも苦しんだことでしょうね、セブルスさん。
クリスマスが終わり、再び学校が始まった。
各寮の談話室の掲示板に告知された“姿現し”練習コースの受講のお知らせが張り出され、6年生たちは期待に胸を膨らませながら受講希望者欄に我先に名前を書き込んでいた。
スリザリンの学生たちは付き添い“姿くらまし”の経験者が多く、ドラコはもちろん、ついこの間経験したばかりのハリーJr.も、感覚を知っているならば一度で合格せねば!と気合を入れていた。
というのを、学校に戻ったセブルスももちろん知っている。
「それで」
セブルスは口を開いた。少々不機嫌そうな低い声なのは仕方がない。
「何ゆえ今呼び出すのだ、ハリー。話があるならば先日の一時帰宅の時に言えばよいし、その後に何かあったのならば手紙でよかろう」
青ざめた霧をまとう彼は、『葬送の工房』のハリーの滞在する客室にたたずんでいた。対面するのはハリーである。彼が“鐘”を用いてセブルスを呼び出したらしい。
「いや、緊急といえば緊急なんだ。君は早めに知っておいた方がいいんじゃないかと思ってね」
少し困ったような顔で、ハリーが言った。煮え切らない言葉に、セブルスは何なのだ、早く言え、とばかりに眉をひそめた。
「先に言っておくと、今、リリーとシェリルは離れた街に変装して買い物に行っているから、しばらく戻ってこないよ。
で、話というのはだね」
ここで、ハリーは一度言葉を切ると、恐る恐るという様子で口を開いた。
「“半純血のプリンス”という言葉に、心当たりは?」
「は?」
思いがけない人物から思いがけない単語を聞いたセブルスは、らしくもなく思考停止した。
瞳付きの脳の中で目まぐるしく、青い春のあれそれが黒い歴史のあれそれとミキシングされる。
「ど、どどど、どこでそれを・・・!」
らしくもなくしどろもどろで目を泳がせるセブルスに、ハリーは少々気の毒そうにしながら言った。
「ジュニアからね。
ほら、あの子、上級魔法薬学の教科書を買い忘れて、学校の備品になっている古い忘れ物を貸し出してもらっているだろう?
それに書かれてたんだよ。
・・・その様子からして、やっぱり心当たりがあるんだね?」
目の前が真っ暗になる感覚、というのを久々に味わってセブルスはめまいにも似たおぼつかなさのままに後ずさった。
「・・・見たのか」
「その・・・まあ、ね」
セブルスの唸るような問いかけに、ハリーは言葉を濁しながらもうなずいた。つまり、ばっちりきっちり見たということだ。
「~~~~!!」
言葉にならないうめきとともに、セブルスは額に手をやりながら天井を仰いだ。
“半純血のプリンス”の名が書かれた古い上級魔法薬学の教科書。もちろん、セブルスには大いに心当たりがあった。他の誰でもない、学生時代のセブルスの教科書だ。
自主退学とその前後のあれそれで完全に記憶の彼方に押しやっていた。
丁度、あの教科書を手に入れた当初は、自分の血筋について知ったころで、やっぱり自分はその辺のマグル生まれの魔法使いとは違う、純血貴族の血筋の、選ばれた魔法使いなのだ!とひそかに有頂天になっていたころだ。
だから、そんな血筋の最高の魔法使いが記した、最高の魔法薬の調合書のつもりで、あれこれと教科書に書き足していた。“半純血のプリンス蔵書”なんて気取ったサインまで書いて。
今思えば、稚拙で幼稚でとんでもない夢想癖を詰め込んだ、今すぐ
冷静に考えれば、ホグワーツで失くした(置き去りにしたと言うべきか?)のだから、備品として学校にあるのは当然なのだ。まさかハリーJr.の手に渡るとは思わなかった。
ということは。
「まさか、最近のあ奴の魔法薬学の成績の急上昇は!」
「御明察。教科書に書かれていた通りにしたら、自然と成績が上がったらしいよ」
「ぐおおぉぉぉぉ・・・!」
はっとしたセブルスに、ハリーの容赦ない追い打ちがかけられ、セブルスは胃の腑が痛みそうな羞恥に、獣のうめきのような悲鳴とともにうずくまった。今、猛烈に鎮静剤が欲しい。
よりにもよって黒歴史の塊を、かわいがって見守っている子供の片割れに見られてた。がっちり読み込まれて、成績に活かされている。いっそ殺してくれと言いたくなる仕打ちだった。
確かに、学生時代のセブルスはお世辞にも褒められた人物ではなかったし、今だって啓蒙高くはあれど、自分とその周囲以外どうでもいい、敵は容赦なく殺してなんだったら実験材料にもするという、破綻しきった人格の持ち主だ。自覚もしている。
だからといってこれはあんまりなのではなかろうか。
「あー・・・やっぱり、君の所有物だった、ってことであってるかい?」
「・・・いつ気が付いた・・・? ジュニアは、気が付いているのか・・・?」
気の毒そうに話しかけるハリーに、セブルスは地を這うような声でうめくように問いかけた。
「私は教科書を見せてもらったときにね。教科書に書かれている字が、君の字と似ているって気が付いたんだ。
ジュニアは気が付いてないよ。ただ、“プリンス”は君の関係者だとは勘づいている」
「がっ・・・!」
ハリーの言葉にさらなる追い打ちをかけられ、内臓攻撃を仕掛けられたような衝撃とともに、セブルスは声を詰まらせた。
あの黒歴史を詰め込んだ教科書の本当の持ち主がばれるのだけは、避けたい。
「確か、君が教えたオリジナルの魔法が、あの教科書に載っていたらしいよ。
だから、君の関係者じゃないかって思ってるみたいだよ」
ハリーの言葉に、セブルスは今度こそ息をのんだ。
そうだ、あの教科書には!
「他に何か言っていたか?!まさか教科書に載っていた魔法を試したなんてことはなかろうな?!」
「いや。本人も、学校で習った魔法以外は軽々しく他人に使うのはどうかと思ったらしくて、使ってないと言ってたよ」
「そうか・・・」
あからさまにほっとした様子で、セブルスはつぶやいた。
確か、あの教科書には他人に使うには、問題ある呪文もいくつか載せていたはず。
「セブルス?まさかとは思うが、何か問題ある呪文を載せていたのかい?」
「あ、いや・・・」
「セブルス」
言いよどんだセブルスに、ハリーはそれまでの穏やかさをスッと消して無表情になって名前を呼んできた。
「君は、なんてものを考えてるんだい。百歩譲ってそれを自分しか見ない書物に書くならともかく、学校に備品になるように放置するなんて。
ジュニアがもし、面白半分の実験で他人に呪文を使って大変なことになってたら、君はどうする気だったんだ!」
「す、すまぬ・・・」
「君が在学時から使っていた教科書だったとして、17年ほど放置ってことになるんだろう?
よく今まで副次被害が出ずに済んだもんだ・・・」
「面目ない・・・」
がみがみと怒るハリーに、セブルスはおとなしく怒られるがままでいるしかない。ハリーが言うのはもっともだった。
「しかも、教師になってすぐに回収するならともかく、就職後も放置していたんだろう。本当に何を考えてたんだい!」
「返す言葉もない・・・」
ハリーの言うとおり、他者の手に取られる前にさっさと回収しておくべきだったのだ。いいわけでしかないが、本当にセブルスはその教科書の存在を今の今まで忘れ去っていたのだ。
くどいようだが、自主退学前の騒動があったうえ、その後ヤーナムに迷い込んで体感時間で100年死んで殺して狩られ狩り続けていたのだから。
「はあ・・・まあ、とにかく、ジュニアの方には、教科書のことを早く先生に言うように言っておいた。
魔法薬学の先生には言いにくいと思うから、たぶん寮監の君に言いに来ると思うから、先に言っておこうと思ってね。
忙しいところ悪いね」
「恩にきる・・・」
一息ついて説教を終わらせたハリーに、セブルスは深く頭を下げた。
ハリーJr.は仕方ないとしても、さらなる黒歴史の拡散は避けたい。うまいこと言って、教科書を何としても回収せねば。
「っ・・・そもそも!新しい教科書を手配したとスラグホーンから聞いている!とっくに手元に届いているはず!何故、まだ私の教科書を使っているのだ?!」
「それだけあの教科書を気に入ってるんだよ。うまいこと誤魔化して新しい方の教科書を備品として返却したんだろうね。
取り上げるのも難しいかもね。
“プリンス”ってすごいんだ!本当に最高で、天才かも!直接会えるならお礼を言いたいし、同い年だったら友達になれたかも!って言っててね」
「やめてくれぇぇぇ・・・」
少し意地悪気に笑って言ったハリーに、セブルスは頭を抱えてうめく。青ざめた霧のせいでわかりにくいだろうが、今の彼は耳まで真っ赤であった。
「・・・好奇心から訊くんだが、プリンスっていうのはどこから出てきたんだい?」
「・・・・・・・・・私の・・・母方の・・・家の名だ・・・・・・」
ハリーの問いかけに、セブルスは絞り出すように答えた。ここまで来れば半ばやけくその気分である。
ともあれ。
「教えてくれたこと、感謝する・・・」
まだ羞恥にのたうち回りたい気分ながら、どうにかセブルスは再起動してハリーに言った。
マグルの友人の心遣いにこれほど感謝したことはなかった。彼はすべて見透かしていたのだろう。でなければ娘と妻の留守を見計らってセブルスを呼んで話すなんて回りくどいことをしなかっただろう。
何も知らない状態でハリーJr.からあの教科書のことを持ち出されていたら、どうしていたことか。
できれば何もかもなかったことにしたいところだが、そういうわけにもいかない。
ハリーJr.が嫌がっても、どうにか折衷案なり取引条件なりを出してでもあれは回収せねばならない。絶対にだ!
「ああ、それからもう一つ」
「何だ?!まだ何かあるのか?!」
ハリーの言葉に、セブルスは我知らず肩をびくつかせた。瞬時に瞳付きの脳みそを回転させて、かなり摩耗されているあの当時の記憶を探るが、プリンスの教科書に匹敵する黒歴史が他にあったのか。まったく思い出せない。
「いや、ジュニアからも聞いているけど、学校もかなりきな臭いだろう?
それに、シェリルがね・・・」
「シェリルが?」
話題が変わり、セブルスは眉を寄せた。
「どうも最近うなされているみたいなんだ。この前の事件のときにアレッサの記憶を取り戻したらしいんだけど、トラウマも一緒に思い出してしまったらしくてね」
「落ち着いた状態になったからこそ、ぶり返してしまったか」
「いや、どうも悪夢を見たのが原因らしくてね」
「悪夢?」
「本人が言うには、妙に生々しい夢だったそうでね。
“我が君”と呼ばれる人物が、ベッドの上で赤子が欲しいと言っていたらしいのが一つ。
もう一つの方が、私は問題だと思っている」
ハリーは極めて真剣な顔で続けた。
「白いひげに半月メガネのおじいさんが、アリアナとか言いながら誰もいないところに話しかけていたらしい。
そして、そのおじいさんがアレッサが受けさせられた降神術の儀式をしようとしていたそうだ」
その言葉に、セブルスは眉を寄せる。
シェリルは予知じみた直感能力を持っている。本人は勘が良いという言葉でごまかしているが、それが夢という形で具体性を持ったならば。
学校の外で何が起こっているのか。どうせろくなことではないだろう。
セブルスはすでに彼らとかかわりを持って、彼らもまたセブルスとの戦いを望むだろう。それは問題ない。だが、せめて学校が休みの時にしてもらえないだろうか?
・・・それを聞き入れるようなら、最初からこんな大ごとには発展していないだろうが。
「そのせいでシェリルはフラッシュバックを起こし、真夜中にパニックを起こしていたんだ」
悔しそうにハリーは目を伏せた。娘が苦しんでいるのに、その苦しみの原因を取り除けないのだ。
「リリーは忘却術をかけようかとも提案したんだけど、シェリルは首を振ってやめてほしいといったよ。
確かに苦しい記憶だけど、終わったことだし、今につながっている大事な記憶でもあるから、ってね」
「・・・強い子だな」
セブルスの言葉に、ハリーは大きくうなずいた。
「自慢の子供だよ。
・・・気は変わりそうかい?」
「黙秘する」
「セブルス。あんまりあの子の気持ちをもてあそぶなら、私にも考えがあるからね?」
「もてあそんでなどおらぬ!
貴公の方からも反対せぬか!」
「はははは・・・いやあ、あの子、小さい頃から君にベタ惚れだったからねえ・・・。
『大きくなったらパパと結婚する!』って言ってたと思ったのに、それから間もなく『大きくなったらセブおじさんと結婚する!』って言っててねえ・・・」
「それを聞いた貴公が真顔になって、Mrs.メイソンが子供たちを急ぎ避難させていたのも思い出せ」
「いや、何時かわいいシェリルをたぶらかしたか気になるじゃないか」
「たぶらかしてなどおらぬ!貴公、この間からこの件に関してはおかしいぞ!しゃんとせぬか!」
いつになく据わった目をするハリーに、セブルスは悲鳴を上げるようにツッコミを入れた。
「まあ、冗談はさておいて」
冗談なのだろうか?とセブルスは内心で思う。藪をつついて蛇を出す趣味はないので、とにかくけむに巻くしかない。
体感時間100年ヤーナムで頑張った経験や、数々の修羅場・脅威体験はあるのに、恋愛あれそれになると、ほぼゼロである。それ以前は初恋の相手リリーにすべてをささげていたので。
メアリーは別だ。彼女は伴侶であり、母であり妹であり娘である、至高の存在である。
「話を戻すけど、その夢の話を聞いたリリーとジュニアが心配していたよ。
“我が君”と呼ばれているのは“例のあの人”で、降神術をしようとしていたのはダンブルドアじゃないかってね。
学校の方ではどうだい?」
「・・・もともとホグワーツは閉鎖的であるためか、噂が独り歩きしやすくてな。
日刊預言者新聞のせいでジュニアの出自も発覚したというのは、すでに手紙で話したし、本人からも聞いているであろう*1?」
「ああ。
『不死鳥の騎士団』の名前は出されなくても時々変なお守りを低学年の人たちやフクロウ越しに渡されるようになったと、この間の一時帰宅の時に愚痴っていたよ。もちろん、すぐに壊したと言ってたよ。
あからさまに、ダンブルドアの味方になろうって声をかけられることもあったらしい。
ちゃんと、他の友人たちともどもしっかり自衛しているようだよ」
「だろうな。
スリザリン寮とグリフィンドール寮は、一部のものが非常に不穏な動きをしている」
「学校は社会の縮図だ。
Mr.マルフォイからの情報*2によると、対『死喰い人』相手には連携を視野に入れているけど、『不死鳥の騎士団』はかなりきな臭くなっているらしいね。
聞いた話だと、自分に都合のいい妄想を信じ込んで、他人に攻撃的になったり、ヒトの話を聞かなくなったりしているみたいだ。
まさかとは思うけど、学校でもそんな人が?」
「どちらかといえば、上級学年より低学年がミーハーや聞きかじりから“死喰い人”や『不死鳥の騎士団』に同調していることが多いようだ。
ジュニアをはじめ、まともなものたちはむしろそういったものたちを戒めているようだが・・・」
「困ったね・・・教職員の方はどうだい?」
「幸い、ミネルバとホラスが踏ん張ってくれたため、こちらには浸透しておらん。少なくとも、表面上はな。
とはいえ、保護者からは私が教師を続けることに対する苦情や、勧誘がかなりあるようだ」
「保護者たちの意識も薄くて、そこに付け入られているから、子供たちもそれに引きずられているところがある、か・・・」
言ってハリーは目を伏せて顎に手を当てて考え込んでいるらしい。
「ハリー?」
「いや、療養してばかりなのもどうかと思ってね。私にできることを少し考えていたんだ。
“ペンは剣よりも強し”。私の本業でもある。少し時間はかかるが、やってみたいことがあるんだ」
「・・・先も言ったとおり、貴公は病み上がりだ。あまり無理をしてくれるな」
「もちろん。ちょっと確認したいこともあるしね」
ここでハリーは漸く話を終わらせることにしたらしい。
「すまないね、忙しいところ。教科書のことだけのつもりだったんだけど、ついでにちょっと他にもいろいろと聞こうと思ってね」
「構わぬ。・・・あれについては、むしろ話してくれて助かった。
では、失礼する」
セブルスは、遠い目をしながら言った。
前述したが、何の覚悟や心構えもなく、ハリーJr.の口から“プリンスの教科書”について聞かされたら、何をしでかしていたか。
知りたくなかったが、こうなった以上は聞いておくべきであっただろう。友人の心遣いに今一度感謝をし、セブルスは取り出した“共鳴破りの空砲”の引き金を引いた。
そして、その日は訪れた。
その日、授業を終えたハリーJr.は、とうとう覚悟を決めて“闇の魔術に対する防衛術”教授室の扉の前に立っていた。
小脇に抱えるのは、古くて小汚い上級魔法薬学の教科書だ。クリスマスの一時帰宅の際、スネイプ先生と文通していた父はもちろん、ハリーJr.の魔法薬学の成績変動について知っていて、何かあったのかと尋ねてきたのだ。
もとより、隠し事は苦手で素直な気質のハリーJr.である。父の促しに、恐る恐る教科書のことを告白したのだ。父のハリーは一通り聞き終えた後、ちゃんと先生に言った方がいい、と伝えてきた。
その教科書に書かれていることは、教科書の元の持ち主の努力の結晶だ。それを何の努力もしてないハリーJr.が自分の成績として我が物にするのは、他の努力して勉強している学生たちや、教科書の元の持ち主に対して失礼だ、カンニングと同じだ、と口調こそ普段の穏やかな調子ながらも、しっかりと言ってきたのだ。
後ろめたさの原因をはっきりと言われ、ハリーJr.は観念して、教科書のことをセブルスに相談することにしたのだ。多分、確実に、父と同じことを言われるだろう。もっと強く怒られるかもしれない。自業自得とはいえ。正直、気乗りはしなかった。
けれど、できるだけのことはするつもりだ。おじさんも魔法薬学の教授をしていたなら、この教科書のすばらしさが伝わるはずだ。もしかしたら、プリンスさんのことも知っているかもしれない。条件付きで手元に置くことを許してくれるかもしれない。どうにか説得できるよう、粘ってみせる。
そう決めて、ハリーJr.は恐る恐る扉をノックした。
「スリザリン6年生のメイソンです。スネイプ先生、今、お時間は大丈夫でしょうか?」
直後、ガタンっ!と大きな音がした。
小さく何か、うめき声のような声も聞こえた。
「? 先生?」
怪訝に思ったハリーJr.は、まだ入室許可をもらってないにもかかわらず、扉を開けていた。
室内では、驚くべき光景が広がっていた。
デスクチェアから転がり落ちたらしいセブルスが、床でうずくまっていた。蒼白な顔、がくがくと震えて妙な脂汗をかいているさまは、どう見ても尋常ではなかった。先ほど聞いた音は、セブルスが倒れた音だったのだ。
床で割れたカップは濡れていて、先ほどまでお茶でも飲みながら何か書類仕事をしていたのかもしれない。
そして。
そんな倒れて苦しんでいるセブルスに、メアリーが無表情のまま見たこともない刃物を振り上げていた。
「やめて!!」
絶叫とともにハリーJr.は飛び出すと、しゃにむにメアリーにとびかかって、彼女を突き飛ばした。
体勢を崩してしりもちをつくメアリーをよそに、ハリーJr.は続けてセブルスに駆け寄る。
「おじさん!」
「っ、っぐう・・・!」
叫ぶハリーJr.に、セブルスは苦し気にしながらも懐から何か取り出そうとした。
だが。
「っ! ジュニア!」
何かに気が付いたセブルスが、ハリーJr.を抱きかかえるように大きく転がった。
直後、ガチンッという硬質な音がした。先ほどまでセブルスがいたところに、メアリーが振り下ろした刃が当たったのだ。
「メアリーさん!やめて!どうしてこんな?!」
無表情のメアリーは、ややあって口を開いた。普段の淡々調子からは程遠い、静かであるのにどこか威圧感を感じさせる調子だ。
「メアリー?それは私のことではないよ」
「え?」
「私は、
「? ??」
メアリーの衣装が変わる。ボンネットとショール、ロングスカートは、羽帽子とコートとマントを羽織った、瀟洒な男装の麗人のような姿――スラグホーンのパーティーで見かけた姿だ。
そうして、マリアと名乗りなおした彼女は手に持っていた刃物を両手に持ち直した。持ち手の両端には刃がある、独特の形の武器は硬い音を立てて、二つの刀剣に分かれる。
「その男に、恐ろしい死を、とね」
「よかろう」
何が何やらという顔をしていたハリーJr.をよそに、白い丸薬を飲み干して輸血液を太ももに打ったセブルスがすっくと立ちあがった。
「場所を変えたい、というのは聞き入れてもらえるかね?」
「もちろん、却下だ」
セブルスの言葉にシレッと言うや、マリアは両の刃で首をはねるというかのように振り薙いできた。
セブルスはハリーJr.の首根っこをつかんで、そのままバックステップで避けると、体当たりで扉を叩き壊す勢いで廊下に飛び出した。
「あら。セブ」
「来るな!」
廊下にいたマクゴナガル(ハリーJr.の悲鳴を聞きつけたのかもしれない)が何か言いかけたのを、セブルスは叱責しながらハリーJr.を放り投げ、続けてどこからともなく取り出したサーベルと銃を組み合わせたような仕掛け武器、レイテルパラッシュを構えた。
直後、弾丸のように飛び出したマリアが、セブルスめがけて切りかかる。セブルスは辛うじてそれを避けた。鋭い切っ先が頬をかすめ黒髪の一部を切ったが、セブルスはそれに頓着することなく、レイテルパラッシュの切っ先を振りかざして、マリアめがけて踏み込んだ。
「な、何が?!セブルス?!何が起こっているのです?!」
「やめて!メアリーさん!正気に戻って!」
「メアリー?!Mr.メイソン!彼女が、メアリーだというのですか?!」
廊下で、そのまま切り合い殺し合いを始めるセブルスとマリアをよそに、悲痛な声を出すハリーJr.と、仰天するマクゴナガル。
何事かと次々と生徒や教職員が集まってくる。
やがて彼らはぎょっとする。マグルのように剣を持った二人が――片方はセブルスで、もう片方はメアリー(スラグホーンのパーティの時と服装が同じだ)だと気が付いたのだ。
セブルスの体にはみるみるかすり傷が増えていく。いつぞやの時計塔の時のように広い場所ではなく、ホグワーツの狭い廊下だ。おまけに、武器は使い慣れているノコギリ鉈と獣狩りの短銃ではなく、クリスマスパーティの時の衣装に合わせたレイテルパラッシュのみ。分が悪いにもほどがある。
対するマリアは微笑んだままで、ほぼ無傷だ。人形の体だからだろう、耐久も絶無に近いため、血剣や炎による攻撃こそしてこないが、異常な速度と落葉*3による舞うような攻撃は健在だ。
もちろん、周囲も黙って野次馬を決めていたわけではない。
「
すぐに我に返ったハリーJr.は取り出したヤマナラシの杖で、マリアを全身石化させようとしたのだ。
しかし、ハリーJr.の放った青白い閃光は猛スピードで動き回るマリアには当たることはなかった。
「手癖の悪い坊やだ。わかるよ。大事なものは救いたい。
しかし、その男は死ななければならない」
言いながらマリアは素早く方向転換してハリーJr.めがけてとびかかる。
「
ハリーJr.をかばって前に割って入ったマクゴナガルが杖を振りかざした。
さすがに『不死鳥の騎士団』の一員だっただけある。瞬発力ととっさの反応はそこらの魔女・魔法使いの比ではないだろう。
だが、マクゴナガルが形成した光の膜は、マリアの落葉が一振りで切り裂いてしまった。
そんな、と目を見開くマクゴナガルと、負けじと杖を振りかざそうとするハリーJr.よりも早く。
トン、とその音はあまりにも軽く響いた。
マリアの胸から、銀色の直刃は生えていた。セブルスの、レイテルパラッシュの切っ先だ。
動きを止めたマリアの手から、落葉が両刃共に滑り落ちて石造りの廊下の床で固い音を立てる。
そのまま倒れ伏しそうになった彼女を、セブルスが無言のまま抱き留めた。
「あ・・・」
ハリーJr.はその瞬間、見てしまった。
セブルスが、痛みをこらえるような、悲しげな眼をしていたのを。
メアリーは魔道具だから壊れても、勝手に元に戻る。でも自分で叩き壊したセブルスが、どう思うのか。
何があったのか、どうしてこうなったのか。ハリーJr.には分らない。けれど、たった一つはっきりしたことはある。もし、これが誰かが仕組んだものなら、それは許せることではない。
「セブルス!大丈夫ですか?」
「問題ありません。いずれもかすり傷です。
ミネルバとMr.メイソンも・・・無事のようですな」
ほっとした顔をしたマクゴナガルに、セブルスはうなずいて二人の無事を確認すると、右手を一振りした。(いつの間にかレイテルパラッシュは消えている。血の遺志収納にしまったらしい)無言呪文の
そうして、彼はあらためて腕の中の人形を抱き上げた。最愛の女性、あるいは愛しい娘をそうするように。
「緊急の職員会議でしたら、少し待っていただきたい。
メアリーが元に戻るのに少しばかり時間がかかりますので」
「なら、彼女を安全な場所で休ませたら、あなたは保健室へ」
「問題ありません。この程度、慣れたものです」
シレッと言ったセブルスだが、マクゴナガルは大きく息をのんだ。
前述の通り、セブルスは大きなけがはなくとも落葉の刃のせいでかすり傷まみれだ。黒いインバネスコートのおかげで血はほとんど目立たないが、血の臭いはする。
それを、痛がりもせずになれたものとは。いったいどんな目に遭えばそんな感想が出てくるというのか。
「職員会議までには治しておきます。
今メアリーのそばを離れれば」
ここでセブルスは言葉を切ると、廊下の奥で少し離れたところで野次馬になっている生徒たちを睥睨しながら、少し大きな声で続けた。
「また誰ぞに、メアリーを呪われたり、毒を盛らされて殺されかけても、かないませんからな」
途端に周囲がぎょっとした。ひそひそざわざわと一気に話し声が盛り上がる。
ハリーJr.とマクゴナガルも大きく息をのんだ。
そんな周囲に頓着することなく、セブルスはメアリーを抱き上げたまま教授室に入る。バタンと扉が閉じた。
続く
【カエルチョコ】
カエルの形をした、魔法界で非常に人気のあるチョコレート菓子。チョコレートは生きたカエルの如く飛び跳ねて逃げ出そうとする。また、ミルクチョコとホワイトチョコの二種類が存在する。
それぞれの包装に有名な魔女あるいは魔法使いが乗ったカードが一枚付属する。
列車の車内販売で初めて見たカエルチョコに、ハリーJr.は驚いた。チョコは窓から脱走し、ダンブルドアのカードだけが残された。
原作では、1巻の時点でカエルチョコカードが登場しているのですが、拙作ではほぼ出番がありません。双子が送ってきたのをロンが配ってるくらいで。どうして。
アイテム紹介を思いつかなかったので、カエルチョコで。ごめんなさい。
Q.誰が人形ちゃんをあんな目に遭わせた?!(作者のド畜生が!と副音声で)
A.それはまたおいおい。原作6巻だとダンブルドアによるリドル講座とかハグリッドとの交流とかもあるんですけど、話の展開でカットになります。そして代わりにこうなりました。
感想欄で、人形ちゃんが落葉でガキィィィンッしている幻覚を見ている方がいらっしゃるんですが、個人的に人形ちゃんが仕掛け武器を持っているのは解釈違いでして。
ぎりぎり許容できるのが、あのレベルでした。
ちなみに、あの状態のマリアは、HPは人形と共用(つまり、一撃当てればそれだけで死ぬ)、仕掛け武器はセブルスさんの強化レベルと血晶石を引き継ぎなので攻撃力はそれに依存しています。血剣や炎のエンチャントは使用不能です。
つまり、セブルスさんもマリア様も双方ともに縛りプレイ状態だったわけですね。
さらに、セブルスさんだからかすり傷で済んでいますが、万が一他の人間が掠ってたらそれだけで死んでいた可能性があります。
Q.ちなみに、ハリーJr.が駆けつける直前までのセブルスさん、どうされてたんです?
A.詳細は次回言いますが、普通に書類仕事しててちょっとお茶飲もうとしたらお茶に毒が入ってて、ひっくり返って毒に苦しんでヤベエ解毒剤、しようとしてたらメアリーが落葉振り上げてました。ちなみに、この落葉はセブルスさんが、ちょっと気分転換しようって、お手入れのためにたまたま出しておいたものです。
Q.マリア様が何で急に出てきたんです?!
A.次回やります。・・・ってか、マリア様の人物描写、あれでええんかな?ゲーム本編のセリフ短いし、ボツセリフも一通り見たんですけどねえ。
次回の投稿は来週!内容は、メアリーに何があったのかON緊急職員会議。表面上大人しそうだけど、またしてもブチギレちゃったセブルスさんを添えて。お楽しみに。