セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、お付き合いくださりありがとうございました。評価、お気に入り、ここ好き、誤字報告、感想も、ありがとうございます。

 Q.セブルスさんが何をしたっていうんですか!(いいぞもっとやれ!)

 A.この男一応主人公ですけど、こいつが無双するのも読んでいていいと思いますが、のたうち回って七転八倒するのも楽しいでしょう?(私は好きな子ほどいじめたいクソサドでもあります)


 Q.前回セブルスさんが倒れたのって、黒歴史が発覚するのにgkbrしてたせいと思ってました。

 A.ぶっちゃけ、一番最初書いてた分が、メイソン一家のクリスマスの続きだったんですが、冗長すぎるわ、となってそっちは丸ごとカット。代わりに黒歴史暴露でのたうち回るセブルスさんが差し込まれました。だから、前半と後半の落差がひどいんです。最初どうかなと思いましたが、まあ、いつものこととOK出して投稿したらあの有様です。

 というわけで続きです。


【8】セブルス=スネイプ、報告する

 

 セブルスは抱き上げていた人形を、無事だった来客用ソファセットに壊れ物をそうするようにそっとおろした。

 

 見開いたままのガラス玉のような眼をそっと閉じさせ、続けて右手を一振りして衣装を着替えさせる。時計塔のマリアの衣装から、普段使いの人形の衣装に戻す。

 

 続けてセブルスは、深々とため息をつきながらいつもの一人がけのソファに腰を下ろし、魔法でインバネスコートを直して輸血液で傷も治した。

 

 やられた。完全にしてやられた。

 

 取り出した落葉の刃を丁寧に磨きながら、セブルスは苦虫をかみつぶした顔をしていた。元々息抜きついでに手入れしようと出していたのだが、それもまずいことになるとは。

 

 少しは“闇の魔術に対する防衛術”の教授職にも慣れ、あと少しだからと茶菓子は後回しで書類を裁いていた矢先に起こったのだ。

 

 お茶を一口飲んだ瞬間、普段は感じない苦みを感じ、怪訝に思うと同時に目の前が歪んで座ることもままならずに椅子から転がり落ちて、そのまま内臓を直接焼くようなひどい苦痛を味わうことになった。間違いなく毒だった。念のため持ち歩く癖をつけていた白い丸薬がなければ、出直す羽目になっていただろう。

 

 

 

 セブルスも愚かではない。そもそも、光と闇の両陣営から指名手配状態になってそのまま学校に行くとなった時点で、毒や遠隔呪いなどには警戒していたつもりだったのだ。

 

 茶葉はセブルスが自分で保管していて、出し入れはセブルスとその許可のある者しかできないようにしていた。

 

 食事に関しても、メアリーが作っているし厨房はハウスエルフたちの目がある。そう手が出せるものではない。

 

 

 

 そう高をくくっていたのが間違いだった。油断大敵。絶対なんて言葉は絶対あり得ない。

 

 最近メアリーが妙に静かで、何かあったのかと思っていたらこのありさまだ。

 

 念のため、茶葉を入れていた缶を確認したが、そこからは毒は見つからなかった。つまり、毒を入れたのはお茶を淹れたメアリーということだ。

 

 非常に考え難いことだが。

 

 「はっ!」

 

 磨き終えて血糊も脂もなくなった刀身を取り戻した落葉を血の遺志収納にしまい、続けてレイテルパラッシュを取り出したと同時にメアリーが目を覚ました。カチリと目を開けたメアリーは、そのままのそりを身を起こしてソファに座り直した。

 

 「セブルス様・・・何があったのでしょう?」

 

 「・・・覚えていないのかね?」

 

 「わかりません。いいえ、ひどく幸福な夢を見ていたような気がします。

 はっきりと覚えているのは・・・セブルス様がお留守の間、廊下を歩いていたら背後から誰かに声をかけられたのです。“インペリオ”と聞こえたような気がしました」

 

 セブルスの問いかけに、メアリーは視線をさまよわせながら普段の淡々調子のゆったりした声でそう答えた。

 

 その答えを聞いた瞬間、セブルスの眉がかすかに動いた。宇宙色の双眸に、刃物以上に冷え切った宇宙の極寒がよぎるが、すぐに愛しい人形に対する気づかいの表情に変わった。

 

 「申し訳ありません・・・はっきりとしたことは何も・・・。

 ただ・・・何か・・・いいえ、誰かが・・・私を押さえつけていたような、そんな気がします・・・」

 

 メアリーは、セブルスを見ると困ったような申し訳なさそうな様子になりながら、おずおずと尋ねた。

 

 「セブルス様・・・私は・・・何か、いけないことをしてしまいましたか?」

 

 「何もなかったとは言わぬ。だが、お前のせいではない。

 少なくとも、お前の本意ではなかったはず」

 

 言いながら、セブルスはメアリーをいたわるようにその頭をそっと撫でた。

 

 「残念ながらお前は正気でなかったとはいえ、生徒や教職員を騒がせる事件を起こしてしまった。

 今からそれについて説明する。落ち着いて聞き給え」

 

 先ほどの出来事を一通り説明したセブルスに、メアリーは表情を一切変えなかった。しかし、人間であればおそらく確実に顔を青ざめさせたであろうし、かすかに目を見開いて終始もの言いたげにしていた。

 

 聞き終えたメアリーはうなだれて悄然としているようだった。

 

 「私は・・・なんてことを・・・」

 

 「先ほども言ったが、お前は正気ではなかった。あまり自分を責めるな」

 

 再度セブルスはメアリーを慰めてから、立ち上がった。

 

 「すまぬが、他の教職員に状況を説明する必要がある。お前の話も訊かれるだろう。来なさい」

 

 「・・・はい」

 

 悄然とうなずいたメアリーもまた、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなの緊急の職員会議である。

 

 すでにマクゴナガルが招集をかけていたらしい。セブルスとメアリーが職員室に入った時には、すでに教職員はそろい踏みで、事情聴取のためにオブザーバーとしてハリーJr.が同席していた。

 

 「お待たせして申し訳ありません」

 

 「この度は、ご迷惑をおかけしたことを、深くお詫び申し上げます・・・」

 

 入室と同時に言ったセブルスと、悄然と頭を下げるメアリー。

 

 二人の姿を見るなり、ハリーJr.はほっとした顔をした。それは廊下での二人の戦いを見てしまったマクゴナガルをはじめとしたほかの教職員たちも同じだ。

 

 「ああ、メアリー。もう大丈夫ですか?

 いったい何があったのです?」

 

 安堵した様子で、気遣うように柔らかな調子で話しかけてきたマクゴナガルに、セブルスは自分の位置についてから口を開いた。

 

 「先にお伝えしておきますが、あの時メアリーは正気ではありませんでした。

 メアリー。辛いと思うが、先ほど私にしてくれたように、お前が目を覚ます前までのことを話してもらえるかね?」

 

 「はい・・・」

 

 セブルスに促され、しょんぼりしたままのメアリーが話す。おおむねはセブルスにしたものと同じだ。

 

 だが、“インペリオ”の言葉が出るや、「何ですと?!」「そんな?!」と何人かの職員が悲鳴を上げたり、息を飲んだりしていた。

 

 ハリーJr.もまたこわばった顔をしていた。

 

 「良いかね?メアリー。

 お前が聞いた“インペリオ”とは、服従の呪文のことだ」

 

 「“服従の呪文”、“磔の呪文”、“死の呪文”。それら3つを総称して“許されざる呪文”と呼ぶのです。使用すればアズカバンで終身刑に値します。

 メアリーにかけられたのは、間違いなく“服従の呪文”でしょう。

 誰がやったかわかりませんが、なんてことを・・・!」

 

 戸惑ったように瞳を揺らすメアリーに、セブルスとマクゴナガルが言った。

 

 「メアリー、誰がやったか、わからないの?顔とか、声とか、何か覚えてないの?」

 

 「申し訳ありません・・・後ろから声をかけられたのです。声も、聞き覚えがありません・・・」

 

 「おそらくは変声薬を用いて声を変えたのでしょう」

 

 続けて尋ねたスプラウトに、メアリーが力なく首を振ると、小賢しいという代わりにセブルスが吐き捨てた。

 

 「セブルス?あなたも大丈夫なのですか?Mr.メイソンから聞きましたが、毒を盛られてたようですが」

 

 「ええ。元々毒には警戒しておりましたので、解毒剤を持ち歩くようにしておりました。

 まさかこのような手段を取られるとは、思いもよりませんでした」

 

 心配そうなマクゴナガルの言葉に、セブルスがうなずいて見せると、メアリーはさらに落ち込んだ様子でうつむいた。

 

 「メアリー。あなたのせいじゃないわ」

 

 「そうとも。“服従の呪文”は反対呪文が存在しないし、熟練の魔法使いでも抵抗できないことがあるんだ。

 幸い、君もセブルスも後遺症はないんだ。他に被害者も出ていない。

 それでよしとしておかないかい?」

 

 「何がよしなものか!」

 

 慰める先生方に、怒鳴って横やりを入れたのはフィルチだった。口の端をゆがめ、目じりを吊り上げ、こめかみに青筋を浮かべた管理人は、マクゴナガルとスラグホーンを見ながら怒鳴った。

 

 「結局、その事態を起こした不届き者は野放しではないか!どこのどいつか知らんが、見つかり次第アズカバンへ・・・いいや、その前に鞭だ!百叩きにしてやる!」

 

 「アーガス」

 

 「残念ながらそれは無理ですな」

 

 「何だと?!貴様はそれでも、その小娘の主人か?!」

 

 あまりの過激な発言をたしなめるマクゴナガルに、セブルスが首を振ると、フィルチは噛み付かんばかりに言い返す。

 

 セブルスの発言に対し、驚愕しているものは他にもおり、ハリーJr.はじめ他の職員たちも何人かが、セブルスをギョッとしたように見ている。

 

 「“許されざる呪文”を使用してアズカバンに投獄されるのは、その対象が人であった場合に限定されます。

 メアリーは人ではない。ゆえに、適用外になります」

 

 「っ?!」

 

 「そんな!」

 

 セブルスの言葉に、今度こそフィルチは大きく息をのんだし、他にも声を上げる教職員がいた。

 

 事実だ。実際、害虫駆除や家畜の管理などに、それらの呪文を活用している魔女や魔法使いはおり、だからこそ完全に廃れていないのだ。

 

 「・・・ええ。そうなりますね。仮に犯人が判明しても、そう言い逃れられます。

 ですが」

 

 痛みをこらえるように顔を伏せるマクゴナガルは、ここで顔を上げて極めて冷たい顔でフィルチを見ながら言った。

 

 「犯人判明の暁には、必ずあなたに引き渡します。さすがに鞭による百叩きは体罰になるので許可できませんが、体罰以外でしたら煮るなり焼くなり、好きになさい。

 ああ、もちろん」

 

 ここで言葉を切ると、マクゴナガルは周囲に言い聞かせるように言った。

 

 「生徒たちの健全健康な学生生活のためのホグワーツで、教員同然の教員私物に“許されざる呪文”をかけるような倫理観が欠落した人間は、教員だろうと生徒だろうと滞在は許しません。

 罰則が終わり次第、出て行ってもらいます」

 

 その言葉に、全員が沈黙した。ハリーJr.は青ざめていたし、何なら先ほどまで怒り狂っていたフィルチも相槌を打つことを忘れて固まった。

 

 そのくらい、マクゴナガルは怒り狂っていた。3年前のシリウス=ブラックのやらかしの時も怒り狂っていたが、その時は怒りが表に出ていた分まだわかりやすかった。犯人不明という怒りの矛先がないため、表に出てこないらしい。それでも同じくらい怒り狂っているらしい。

 

 ハリーJr.はチラッとセブルスを見た。この状況で、セブルスが怒り狂ってない方がおかしいと思ったのだ。セブルスは表面上は普段通りにしているように見えた。

 

 しかし、次の瞬間彼が口にした言葉はどれだけ彼が怒り狂ってるかを如実に示していた。

 

 「見つからぬ犯人の処遇を相談しても仕方ないでしょう。それよりも今後の予防措置を検討すべきかと。

 ひとまず」

 

 ここでセブルスは、一度言葉を切り、メアリーを申し訳なさそうに見た後に言った。

 

 「今回は被害が私だけで済みましたが、他の生徒や教員に被害が出てはことです。

 メアリーには菓子作り、並びに厨房への立ち入りを禁じることにします。

 もちろん、寮母の仕事と私の授業補佐は継続してもらいますが、原則独り歩きを禁じ、必ず誰か教職員を同伴とする」

 

 「え・・・」

 

 ショックを受けた顔をするメアリーは、しかしすぐに悄然とした様子で「わかりました」と短くうなずいた。

 

 「お前にはまた苦労を掛けるし、本意ではないとはわかっている。

 だが犯人不明の上、同じことが繰り返されて今度は生徒たちに被害が及んでしまうのは避けたいのだ。

 本当に済まない」

 

 申し訳なさそうにセブルスが言えば、メアリーは「いいえ・・・」と緩く首を振った。

 

 悪辣だ、とハリーJr.は思う。

 

 セブルスはまっとうなことを言っているが、それは他寮と差ができるということだ。他の寮は寮母制の導入で菓子の差し入れがあるのに、スリザリンだけそれがない。ハリーJr.はもちろん、ほとんどのものが半ば確信しているのだ。人形相手とはいえ“許されざる呪文”を堂々と使うなんて、スリザリンのものであるのだ、と。

 

 差し入れがなくなったことに生徒たちは当然気が付く。隠すことでもないから事前の通達もあるだろう、そうなればどうなるか。決まっている。犯人探しが始まるし、お互いの監視も強まる。

 

 当然、スリザリンにいる犯人は動きにくくなることだろう。

 

 で、たぶんセブルスはそういったことを全部分かったうえで言っている。これが悪辣でなくて何なのか。

 

 さすがスリザリン寮監。狡猾である。

 

 もちろん、ハリーJr.も一連の事件の犯人には腹を立てている。あの優しいメアリーさんに、大好きなセブルスおじさんを襲わせるなんて。許せることではない。

 

 とはいえ、進んで犯人探しをするわけにもいかない。自分が良かれと思ってやろうとすれば、ドラコをはじめとした友人たちを危険にさらすことにもなるかもしれない。何しろ、相手はさんざん世話になったであろうメアリーさんに“服従の呪文”をかけるような相手だ。スネイプ先生と親しい間柄のハリーJr.を殺すことに何のためらいもしないに違いない。

 

 「そうですね。ごめんなさいね、メアリー。あなたには苦労を掛けてばかりです」

 

 申し訳なさそうなマクゴナガルに、メアリーは静かに「いいえ、お気になさらずに・・・」と首を振った。

 

 「それにしても、スネイプ教授、先ほどの、その、廊下でのあれは何だったんですか?そもそも、メアリーがあのようになるとは・・・」

 

 口をはさんだのは、2年前の教職員増員の際に入ってきた新入り教授の一人だ。

 

 「まるで別人のようでしたな・・・」

 

 「セブルスが同じように剣で対抗していたのも驚きましたが、まさかあんな猛スピードで動けるとは・・・」

 

 「あの武器は一体どこから・・・?」

 

 どういうことか、ともの言いたげな目を向けてくる教授陣に、さすがにセブルスもだんまりしているわけにもいかなかった。

 

 「それを話すには、まずはメアリーのモデルになった人物のことを話さなくてはなりますまい」

 

 「モデル?」

 

 「ええ。かつて、マリアという女性がおりました。故人です。その女性を偲んで作られたのが、メアリーです」

 

 すべては語らず、けれど嘘は言わずにセブルスは語った。

 

 今はメアリーと呼ばれる人形、それを作ったのはおそらくゲールマン。しかし、結局ゲールマンは彼女を放置した。どこまでいっても人形は所詮人形でしかなく、喪失を埋めるものではなかったのだ。

 

 そして、ゲールマンは解放され、セブルスが彼女をもらい受けた。

 

 もう10年以上昔のことであるのに、今なおセブルスは鮮明に思い出せた。

 

 「ゆえに、メアリーとモデルとなったマリアの間には、不思議なつながりがあるようです。

 先ほどの様子は、“服従の呪文”にかけられたことによってメアリーの意識が抑え込まれたことで、マリアの意識が出てきたのでしょう。

 マリアは、剣の名手でしたからな」

 

 正確には、古狩人の中でも随一の腕前を誇った、というべきなのだろう。セブルスも彼女には随分と辛酸をなめさせられた。20回は軽く殺された気がする。途中から数えるのをやめた。

 

 「あなたがまさか魔法以外で剣の心得もあるとは思いませんでした・・・」

 

 「・・・色々ありましてな。あの剣は、スラグホーン教授のクリスマスパーティの際の飾りとして用意していたものです。結局危ないから装備していなかったのですが。

 まさかあのようなことになろうとは」

 

 マクゴナガルのあきれたような感心したような言葉に、セブルスはシレッとそう言い訳した。実際、最初は単に飾りとして腰に差そうかとも思ったのだが、結局装備せずじまいに終わってしまったのだ。

 

 「私は、マリアに恨まれているでしょうから、それで襲われたのでしょうな」

 

 ポツリとセブルスはつぶやいた。

 

 そもそも、セブルスは隠された秘密である“狩人の悪夢”、その奥深くへ向かおうとしていた。それをマリアは“感心できない死体漁り”であり、“秘密は甘く、だからこそ恐ろしい死が必要となる”と言った。それを無視して先へ進んだのだから、当然だろう。

 

 さらには、マリアが愛したであろう、ゲールマンを手にかけた。それしか方法がなかったし、ゲールマン本人も心底ではうんざりしていたのだから、セブルスはあれは正当な行為だったと思っている。だが、それをマリアがどう思うかはまた別だ。

 

 黙り込んだセブルスは、らしくもなく遠い目をしているようだった。そんな彼を見て、ハリーJr.はふと思う。そういえば、自分はセブルスおじさんとメアリーのことを何も知らなかったのだ。

 

 ここで、ハリーJr.はもう一つ、思い出した。そもそもなぜセブルスを訪ねたのか。

 

 上級魔法薬学の教科書(プリンスの教科書)

 

 相談しようと思って持ち込もうとしたら、あの事件があって放り出してしまった!どうしよう!早く回収しないと!

 

 そわそわし始めたハリーJr.をよそに、職員会議の議題は今後のことに引き戻された。

 

 メアリーに“服従の呪文”がかけられていたことを大々的に知らせ、犯人判明までスリザリン寮における手作り菓子の提供と、セブルスに対する食事作り菓子作りの停止。寮外を行動する際は必ず教職員の同伴、領内においてはハウスエルフの同行の義務付けすること。

 

 「なら、私の方からもう一つ」

 

 ふいに、メアリーの口調が変わった。ゆったりした淡々調子ではなく、深みと凄みを感じる、女狩人の口調だ。

 

 即座にセブルスは動いた。いまだに装備したままだったレイテルパラッシュを瞬時に取り出して、その銀の刃をメアリーの体を借りる女の首に添えた。

 

 即座にほかの教職員は距離を取る。マクゴナガルは素早くハリーJr.を背にかばうような位置についた。

 

 「争うつもりはない。

 二度も敗れ、あの方もいない世界に、未練はない。

 ()()を大事に思うならば、話を聞いた方がいいと思うが?」

 

 にらみつけるセブルスに、“マリア”は動じた様子もなく言った。

 

 「・・・用件は?」

 

 「()()に不審物を押し付けて、口止めをしている輩が何人かいる。押し付けてきたものを即座に回収・処分することだ。

 だから、私が出てきやすくなったのもあるのだ」

 

 「?!」

 

 はっとセブルスが目を見開く。

 

 「まさか!」

 

 思い当たったらしいマクゴナガルが杖を振り、無言呪文の呼び寄せ呪文(アクシオ)を使った。

 

 すると、メアリーの衣服から、ボロボロっと銀色のお守り――最近、マクゴナガルはじめ教職員たちを悩ませる、『不死鳥の騎士団』が配布している怪しいお守りがいくつか飛び出してきたのだ。

 

 「早く処分することだ。それを持っていると、頭がおかしくなりそうだ。

 それでは、私は失礼する。すべてを受け入れる、夢の海の底へ、ね」

 

 そう言い残して、“マリア”は目を閉じた。次に目を開けた時には、「どうかなさいましたか?」とメアリーが普段通りの様子で尋ねていた。

 

 直後、教員たちは全員青ざめた。経験浅い2年目教員は青くなるのを通り越して卒倒しかけたし、マクゴナガルでさえ顔が引きつった。フリットウィックがヒッと少女のような悲鳴を上げる。

 

 ハリーJr.は、僕知~らない、とでも言いたげに目を泳がせていた。(なお、彼も顔色が悪い)

 

 セブルスは、寒気を掻き立てる目つきとおぞましい空気を垂れ流していた。丁度、去年アンブリッジが彼の前でハリーJr.を侮辱してメアリーを甚振った時と同じ状態になっていた。

 

 「一体全体どういうつもりだ

 

 セブルスが口を開いた。空気が震えるのを通り越して、音の一つ一つによって急激に冷えていく。

 

 「メアリーは私のものだぞ?それを、甚振り、服従させ、挙句の果てにはこんな粗大ごみにも劣る呪物を押し付けおって

 

 「せ、セブルス・・・」

 

 「前言を撤回します。メアリーは即座に、すべての業務を打ち切って私の家に帰宅させます。

 一人で家に残すのもと不憫に思い、生徒たちの手助けになればと連れてきましたが、このような扱いをさせてまで学校にいさせるわけにはいきません。

 犯人がだれであれ、何が狙いであれ、メアリーを巻き込んだ時点で慈悲はない・・・

 

 「慈悲を!」

 

 セブルスのぶつぶつという死刑宣告にも似た言葉に、マクゴナガルがやっとの思いで金切り声を上げた。

 

 「セブルス!お願いです!ここは学校であなたは教師です!どうか!どうか慈悲をもって接してください!他の生徒に悪影響です!!」

 

 「もちろん、生徒に危害は加えません。

 尻尾をつぶそうと、肝心の頭が無事ならいくらでも生えてくるものです。

 まったく」

 

 セブルスは、マクゴナガルの前に置いてあった、メアリーから没収したお守りの一つを手に取ると、一つ鼻を鳴らした。

 

 「そういえば、一つ。大事なことを報告できておりませんでしたな。

 この呪物もしくは産業廃棄物とでもいうべきものがいかに、生徒たちに、いいえこの学校にいるすべてのものに悪影響になるのか」

 

 言って、セブルスは自らの指を噛んで血をにじませると、お守りに擦り付け、そのままバギンッと握り砕いた。

 

 直後。

 

 そこから赤黒い煙――否、霧が湧き出て一同を包み込んだ。その霧の彼方から聞こえる、異国の祈りの声にも似たささやき声が一斉に耳に流し込まれる。

 

 「ひっ」

 

 ハリーJr.はその赤黒い霧の中で見た。“シリウス”が、アステリアの死体を咥えて、『じぇぇぇいむずぅぅ・・・』とこちらめがけて血まみれの鋭い爪が伸ばされる。

 

 嘘だ。

 

 ハリーJr.は直感した。この世ならざるものを目の当たりにしたことで培われた知識――セブルスたち狩人の言うところの啓蒙が、サイレントヒルを冒険したハリーJr.にも備わって高められており、それが彼に教えたのだ。

 

 これは、嘘だ。幻だ。

 

 大きく首を振り、ハリーJr.はパンっと自分の頬を勢い良く両手でたたいた。

 

 少々頬がひりつく中、ハリーJr.が顔を上げれば、そこはホグワーツの職員室だった。

 

 ただ、教員たちの様子が明らかに違っていた。

 

 首をかしげるメアリーと、冷ややかな目をしているセブルス以外、全員虚ろな目で空中を眺めている。

 

 うっとりしている者もいれば、震えて涙を流す者、ケタケタ笑う者と様々だった。

 

 「マクゴナガル先生!」

 

 ハリーJr.はひとまず、一番近くにいたマクゴナガルに話しかけた。

 

 マクゴナガルは、青い顔でぶつぶつと「いいえ、ダメ・・・ダメよ・・・私には、学校が・・・子供たちが・・・」とつぶやいている。

 

 「先生ッ!」

 

 「はっ?!」

 

 ハリーJr.に強く肩を揺さぶられたことで、マクゴナガルはやっと我に返ったらしい。

 

 「ミ、Mr.メイソン? い、一体何が・・・?」

 

 「よかった・・・。

 スネイプ先生!もういいでしょう?!いくら何でもやりすぎです!」

 

 戸惑った様子で尋ねるマクゴナガルに、ハリーJr.はほっとしたが、すぐにセブルスを見やって叫んだ。

 

 セブルスおじさんが怒るのはわかる。だからと言って、これはやりすぎだ。ハリーJr.に理屈はわからないが、おそらくセブルスは『教団』の邪神の力が込められたお守りの力を増幅、ないし影響範囲の拡大をやったのだろう。

 

 確かに、『教団』の恐ろしさを知らない人間に手っ取り早くそのやばさをわからせるにはいいのかもしれない。だが、いかんせん乱暴すぎる。

 

 ハリーJr.の言葉に、セブルスは答えることなく、教員の一人を見ている。2年前に入ってきた比較的新参の教員だ。

 

 「おお、我が君・・・!

 あなた様にお仕えできるとは、何たる幸福!

 フッ、ヘッ、フヘヘ・・・金も、女も、好きにしていい・・・フヘヘ・・・最高だぁ・・・」

 

 恍惚の様相でつぶやく男にセブルスは歩み寄ると、その左手をつかんで、杖を仕込んでいる自らの右手を一振りした。

 

 暴露呪文(レベリオ)によって現れた白い包帯をはぎ取れば、その下には蛇とどくろを組み合わせたまがまがしいマークが現れる。

 

 目くらまし術をかけられていたことで肌と同色になって誤魔化されていたのだ。

 

 それを見てマクゴナガルはひゅッと息をつめた。

 

 セブルスはそのまま拘束呪文(インカーセラス)で男を縛り上げる。

 

 そうして、別のものに向き直った。

 

 「はい・・・はい・・・ダンブルドア・・・神の御意志の導きのままに・・・!」

 

 うっとりと祈るように手を組んでひざまずく男に、セブルスは右手を無言のまま振った。

 

 無言呪文の呼び寄せ呪文(アクシオ)によって、その懐からは銀のお守りと、分厚い赤表紙の書籍が飛び出した。書籍の表紙に刻まれているのは、忌々しい3つの円環とそれを囲む二重の円環である。

 

 「そんなことであろうな。生徒たちが単独であれこれとできるはずがない。

 尻ぬぐいして足を持ち上げてやる大人がいるから、平気でやらかせるのだ」

 

 「どういうことですか。いったい、先ほどのは・・・?!」

 

 戸惑いながら問いかけるマクゴナガルに、セブルスは再び拘束呪文(インカーセラス)で男を拘束し、続けて周囲に向かって大きく手を振った。

 

 同時に周囲の他の教職員たちも正気を取り戻したらしい。「はっ」「あ、あれ?」「ええっと・・・」「い、一体何が」と言いながら、縛られている二人の職員を見てギョッとし、続けてそれをやったであろうセブルスを見た。

 

 「ダンブルドアが浸りきっているカルト宗教を、その辺のマグルの戯言と思わない方が賢明です。

 そもそも、おかしいと思いませんでしたか」

 

 「え?」

 

 「2年前のクラウチによる連続殺人事件。クラウチはクラウチ邸で自殺し、その亡骸は中庭に埋葬されていたはず。どうやって死体がノワール氏を拉致してこのホグワーツまで入り込んだのです?

 そのカルトの背後にいるのは、マグルが崇める虚構の信仰対象ではない。

 人に都合のいい幻を見せ、記憶を塗り替え妄想を信じ込ませ、内面を凌辱して魂をむさぼる。

 そして、それは世界そのもの、生き物そのものの在り方さえ書き換えてしまう。

 まさしく、神といっていい存在がいるのだ。

 それは見たくないものを見ず信じたいものだけを信じるものにとっては、まさに都合の良い救世主でしょうな」

 

 「まさかそんな・・・。

 セブルス、正気ですか・・・?」

 

 セブルスのあまりの言葉に、ついていけないという様子でマクゴナガルは問い返す。だが、その言葉には勢いはなかった。

 

 「この“お守り”と称されている物は、一種の洗脳装置のようなものです。

 これを持っていた時、何か普段とは違うように思ったことはありませんか?」

 

 低い声で問いかけるセブルスに、マクゴナガルは言葉を詰まらせた。

 

 気づいてしまったのだ。お守りを持っている間だけ、亡き夫や恋人のことを思い出して、戻ってくるんじゃないかと欠片でも思ってしまったこと。

 

 その幻が、先ほどセブルスによって見せられた光景と一致していたこと。

 

 「ま、さか、そんな・・・」

 

 「セブルス、あなたは先ほど何をしたのですか・・・?

 あんな・・・あんなもの・・・」

 

 震える声で問いかけるマダム・ポンフリーの問いかけに、セブルスは答えた。

 

 「血とは、魂の通貨であり、記憶の外貨です。

 この“お守り”が人の記憶に呼び掛け妄想を強固にするのならば、血によって刺激を受けるのは道理です」

 

 シレっとセブルスは言ったが、事実は少し違った。

 

 

 

 セブルス=スネイプは上位者である。その中身は、獣・狩人・上位者・その他数々の化け物の遺志のごった煮である。

 

 狩人は遺志を受け継ぐ。血を通して、死した者たちの遺志を受け継いでいく。

 

 そんなセブルスの血なんて、記憶と遺志が凝縮された一種の劇薬だ。それを妄想を強化するタリスマンに接触すれば、刺激になるに決まっているのだ。

 

 

 

 「そんな危険なものだったとは・・・」

 

 「危険、でしょうか・・・」

 

 誰かのつぶやきに比較的若いバーベッジがつぶやき返せば、すかさずマクゴナガルが叫んだ。

 

 「危険に決まっているでしょう!妄想を強化するなんて、頭の中をいじくるといっても過言ではないんですよ?!

 チャリティ!しっかりなさい!

 先ほどの幻が都合よく心地よいものだったのかもしれません!ですがそれは、今を生きる我々が耽溺していいものではないのです!

 我々がそれに夢中になってみなさい!誰が子供たちを守り、教え、導くのです!!」

 

 凛とした叱責に、瞳を揺らしていた何人かがはっとした顔をした。

 

 スプラウトやフリットウィック、マダム・ポンフリーといった古株の教師たちは重々しくうなずいていた。

 

 「セブルス、こういった問題はもう少し早く言っていただきたかったですね」

 

 「それについては申し訳なかった。何しろ、連続殺人犯とかかわりがあるカルトの産物を野放しにしているとは思いませんでした。

 すでに学校である程度その活動が確認されているなら、そちらでも何かされているかと思いました。

 もっとも、私の方も迂闊の一言に尽きますな」

 

 言って、セブルスはメアリーの方を見た。

 

 口止めされていたとはいえ、メアリーの方を全く確認していなかったのは、うかつ以外の何物でもなかった。

 

 「今すぐ生徒を大広間に集め!抜き打ちの持ち物検査をしましょう!

 この“お守り”を持っている生徒からは即座に没収して、厳罰に!

 鞭で百叩きがダメならば・・・首に縄をつけて学校中を引きずりまわす?魔法を使わせずにバケツを持たせて廊下に立たせる?どちらも捨てがたい!」

 

 「どちらもダメですよアーガス。それらも立派な体罰です。

 ですが、抜き打ちの持ち物検査というのは良い案です。

 今なら、余計な告知をしそうなものもいないでしょうしね」

 

 言いながらマクゴナガルは縛られている教師二人をチラと見やった。二人とも我に返っており、二人とも忌々し気にセブルスをにらんでいる。

 

 とうのセブルスは、相手にする様子も見せずに、家に帰すことになったためしょんぼりしているメアリーの頭を撫で、「また学校が落ち着けば呼び戻す。約束しよう」と慰めている。

 

 「ま、マクゴナガル先生!わ、私は何もしていません!むしろ!その邪神の手先から学校を守ろうと!」

 

 「では、セブルスが邪神の手先であるという明確な証拠を出しなさい。

 むしろ、こんな洗脳魔道具をばらまくことを推奨するようなカルトの信奉者であるあなたがそうなのでは?」

 

 「邪神の手先の言うことなんて信じられるか!

 ダンブルドアが言ってくださったんだ!あの方とともに神を再び降臨させたとき!ユリアナが戻ってくると!死んだあの子が、かわいい妹が健康になって戻ってくると!

 信じて何が悪い!すがって何が悪い!」

 

 「その妹がそっくりそのまま戻ってくると、誰が明言したのですかな?

 ただの肉の塊に、ラベルを張り付けパッケージングされた似ても似つかぬ代物を差し出されぬと、誰が保証したのですかな?」

 

 「ダンブルドアが嘘をついたというのか!」

 

 セブルスの言葉に、男は血走った目で噛みつき返した。

 

 どうですかこれ、という代わりに顔を上げて周囲を見回してみたセブルスに、まともな教員たちは頭痛が痛い、という代わりに首を振った。

 

 まさしく、見たくないものは見ず信じたいものだけ信じる、その姿だった。

 

 「はっ!耄碌爺の妄想の虜じゃないか!

 いいか!死人は生き返らない!そんなこともわからなくなってるなんてな!

 何が『不死鳥の騎士団』だ!『妄想の詐欺師団』にでも改名しろ!キ●ガイめ!」

 

 「何だと?!人食い化け物の言いなりになった臆病者の癖に!」

 

 「何を?!もう一度言ってみろ!」

 

 「何度でも言ってやる!人食い化け物の言いなりになった臆病者!“例のあの人”じゃなくて、“例のあの化け物”だってな!」

 

 「貴様ぁぁ!」

 

 背中合わせに縛られた二人が罵り合うのにうんざりして、セブルスは右手を振って沈黙呪文(シレンシオ)をかけて二人を強制的に黙らせた。

 

 ともあれ。

 

 この二人は、とりあえず魔法封じがしてある生徒指導用旧反省室に押し込め、魔法省に後を任せる。生徒たちを大広間に集め、抜き打ちで持ち物検査をする。もちろん、“お守り”だけでなく、他の持ち込み禁止物を発見したら即没収、減点&罰則だ。フィルチは近年まれにみる勢いで大張り切りだった。

 

 メアリーは現在の職務に対して最低限の引継ぎをしたら、即座に帰宅。事態が落ち着くまで、しばし自宅待機となる。

 

 そういったことを再度確認して、ではそのように、と動き出そうとした時だった。

 

 無言呪文を心得ていたのだろう、縛られていた『不死鳥の騎士団』の内通者の教師が縄を振り切って、ばっと飛び出した。

 

 “プリンスの教科書”のことで気もそぞろのハリーJr.めがけて。

 

 すかさずセブルスがかばうように割って入った。だが、相手はむしろそちらが狙いだったのだろう、狂気に輝く両目をさらにきらめかせ、懐から取り出した何かを高く掲げるように延ばす。赤い、石のようなものだった。

 

 しかし、かばわれたハリーJr.は見逃さなかった。

 

 振りかぶられたセブルスの左手に分厚い鉄の塊が取り付けられているのを。

 

 次の瞬間、放たれたコークスクリューが男の顔面を抉っていた。唾と血と一緒に砕けた歯を何本かまき散らしながら、男は回転しながらぶっ飛んでいた。

 

 男が手に持っていた赤い石は、何があるかわからない、とフリットウィックが即座に消失呪文(エバネスコ)で消していた。

 

 「アバダげぶう?!」

 

 「慈悲は未来ある生徒に与えられるもの。

 そして、言ってわからぬ愚か者には見せしめが必要ですな」

 

 同じく縄を振り切るや死の呪文を唱えようとした死喰い人をもすかさず殴り倒し、顔に返り血を飛び散らせて、セブルスは無表情に語った。

 

 ヒィンッと情けない悲鳴を上げたのは、バブリングかバーベッジか。

 

 「そうではないのです・・・そうではないのです、セブルス・・・」と呻くマクゴナガルはすでに胃の腑の痛みに耐えかねて胃薬の瓶の蓋に手をかけていた。

 

 「アーガス様。前が見えません。なぜこのようなことを?」

 

 「五月蠅い!しばらくそのまま動くな!」

 

 メアリーの不思議そうな声に、彼女の目を手で覆って惨状を見せないようにしているフィルチが上ずった声で悲鳴のように叫んだ。

 

 「安心したまえ。殺しはせぬ。

 直接見せるのがまずいならば、音声だけでも悔い改めるきっかけとなるでしょう」

 

 言いながらセブルスは、右手を振って魔法を使う。拡声呪文(ソノーラス)による校内放送だ。

 

 「聞こえているかね?諸君。これより、死喰い人の内通者と、『不死鳥の騎士団』の処罰を行う。私刑?法に則っていない?だからどうした。こいつらはメアリーに危害を加えようとした。万死に値するのを痛めつけるだけで済ませるのだ。恩情と言わずして何という?」

 

 「音声だけの方がかえってひどいこともあるんだよ・・・セブルス・・・」

 

 呆れたようにつぶやいてスラグホーンは目を閉じて耳をふさいだ。他の教師たちとハリーJr.もそれに倣う。「おおっマーリン・・・」と誰かが祈りの言葉をささやく。

 

 しかし、止める者はいなかった。止めた方がひどいことになる、とだれもが思ったのだ。

 

 顔面が変形してぴくぴくしている男と、倒れたまま「ま、魔法使いの、誇りはないのか・・・?! なんて、野蛮なんだ・・・!」とうめく死喰い人教師に、セブルスは歩み寄って“ガラシャの拳”を装備した左手を振り上げた。

 

 悲鳴。殴打音。飛び散る血しぶき。時折挟まれる回復魔法の音。

 

 拡声呪文(ソノーラス)によって、悲鳴のみであったがそれは即座に各寮塔のみならずホグワーツ城の隅々まで響いたに違いない。

 

 ・・・なお、当時スリザリン寮塔談話室にいたドラコは、この校内放送を聞いた死喰い人の家系のものたちが一気に青ざめていたのを目撃していた。(なお、ノットは談話室にはいなかったが、確実に聞こえていたことだろう)

 

 そうしてドラコはひっそりとつぶやいた。

 

 「去年アンブリッジが廊下を引きずられて大広間で殴られていたのに、どうして同じことを繰り返した?学習能力ないのか?」

 

 あきれ果てたその声は、校内放送にかき消されて誰にも届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 続く




 【フィルチのモップ】

 ホグワーツ城管理人アーガス=フィルチが掃除に用いるモップ。セブルス=スネイプによって魔法がかけられているので、床掃除の際には洗浄呪文(スコージファイ)による泡が発生して汚れを素早く除去する。

 「先日はお世話になりました。セブルス様がお礼にこちらを渡してほしいとおっしゃっていました」と人形が差し出してきたモップを、フィルチは、「余計な世話だ!そんなものなくても掃除はできる!」と一度は拒絶した。

 「申し訳ありません。出すぎたことをしました。私は魔法が使えないのできっと便利だと思ったのですが」といった人形に、「いちいち謝るな!仕方ないから使ってやる!」とフィルチがモップをひったくったことを、愛猫のミセス・ノリスだけが知っている。





 次回の投稿は、来週。内容は、ようやくハリーJr.によるプリンスの教科書の告白。ロナルド=ウィーズリーによる惚れ薬騒動を添えて。お楽しみに。
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