セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、お付き合いくださりありがとうございました。評価、お気に入り、ここ好き、誤字報告、感想もありがとうございます。

 Q.『不死鳥の騎士団』側の教師、男なんですか?女なんですか?文章が変なところがありましたよ。

 A.やらかしました。使い捨てモブだからどっちでもいいと思って。ごめんなさい。男に統一しました。お騒がせしました。教えてくださってありがとうございました。

 Q.出たぁ!セブルスさんの“ガラシャの拳”!

 A.使い捨てモブだから、まあ二番煎じだけどいいかなって。おかしいな、産廃なのにこんな大活躍するなんて。
 感想欄でも指摘されてる方いましたけど、殺さずに適度にボテくり回してキャン言わすには最適なんですよ、これ。

 というわけで、続きです。ガラシャの拳祭り終了後から。


【9】セブルス=スネイプ、懇願される

 

 セブルスが手を止めた時には、二人の教師は血まみれズタボロになっていた。治癒魔法をかけていても、血の汚れや衣服のほつれなどはそのままだ。当然の結果である。

 

 「おおっ、マーリン・・・」

 

 誰かが祈りの言葉をつぶやく。

 

 「諸君、覚えておきたまえ。真の暴力の前には許されざる呪文など塵芥に等しい。

 服従の呪文(インペリオ)などなくとも、人は平伏して靴をなめる。

 磔の呪文(クルーシオ)などなくとも、人はのたうち回って地を這う。

 死の呪文(アバダケダブラ)などなくとも、人はごみくずのように死ぬ。

 なぜか誰も理解しようとせぬのだ。実に解せぬ話だ。

 それから、私は生徒には暴力は振るわぬが、教師はその限りではない。わかるかね?また、卒業・退学して学生でなくなった者もそこに含まれる。これが意味するところも当然、理解できよう」

 

 「セブルス!それ以上は!それ以上は!生徒たちの心身ともに健全健康な学生生活を乱さないでください!お願いです!後生です!!」

 

 「えー!そういうわけだ!諸君!安全安心のホグワーツで過ごしたいなら、後はわかるね?!

 それから、全校生徒は至急大広間に集合すること!以上!」

 

 マクゴナガルは残り少ない胃薬を飲み込んでから金切り声を上げ、スラグホーンがお知らせを言い捨てると静音呪文(クワイエタス)で校内放送を終了させた。

 

 マダム・ポンフリーは涙目で二人の教師に治癒魔法をかけてたたき起こす(もちろん拘束呪文(インカーセラス)も忘れない)と、「去年の惨状を知っているでしょう?!どうしてあんな馬鹿なことをしたんですか?!」と問いただしている。

 

 「狂人は狂人の理屈でしか動かないし、それは常人には理解できないものなんですよ、先生・・・」

 

 それを眺めるハリーJr.はぽそっと真理をうめいた。とても疲れた眼差しをしていた。きっと、サイレントヒルでのクローディアやシリウスとの平行線の会話を思い出しているに違いない。

 

 ちなみに、マダム・ポンフリーの詰問に、狂人呼ばわりされた教師二人は、やはり自己都合に満ちた妄言を喚いたので、マダムは聞くんじゃなかったとげんなりしていた。

 

 ともあれ。

 

 最後の最後にセブルスの私刑(暴力沙汰)を校内放送という前代未聞の案件をやらかして、ようやく職員会議は終了となった。

 

 

 

 なお、グリフィンドール寮では拡声呪文(ソノーラス)による校内放送の際、殴られる教師二人の悲鳴にロナルドが白目をむいて卒倒する事件が発生した。

 

 おそらく、ペティグリューの時のことをフラッシュバックしてしまったのだろう。

 

 また、寮問わず低学年の生徒たちが殴られたことによるリズミカルな悲鳴に反応するように、びくっ!びくっ!と肩をびくつかせていた。

 

 もっとも、大体の生徒が青ざめた顔で校内放送を聞いていたし、途中でもう無理です!とばかりに耳をふさぐ生徒も少なくなかった。

 

 「どうしてわざわざスネイプ先生を怒らせるの?!

 去年の惨状を知ってるはずでしょう?!」

 

 マダム・ポンフリーやドラコと同じく、ハーマイオニーが叫んだのにまともな生徒たちは青ざめたままうなずいた。

 

 ・・・ちなみに、後ろめたさのある生徒はそっと目をそらすか、閉心術を併用して必死に平静を装った。

 

 スリザリン寮では青ざめたノットが滝のような大量の汗とともに目を泳がせていた。閉心術こそ使っているが、ガタガタ震えており、明らかに尋常ならざる様子だった。

 

 大丈夫かと尋ねた同室者に、お前には関係ない!と上ずった声で叫び返すあたり、後ろめたさを全力で物語っていた。

 

 

 

 さて、大広間に集まった生徒たちが何事かと顔を見合わせる中、宣言通り抜き打ちの持ち物検査が実施された。ただし、結果は芳しくなかった。

 

 セブルスによる“見せしめ”でしばらく大人しくしようと自室にあれこれ置いて行ったものはもちろん、制服のポケットに検知不能拡大呪文をかけておいて、そこに見つかったらまずいものを避難させる生徒が多かったのだ。

 

 フィルチは恫喝と詮索センサーを、他先生方も各種探知魔法などを動員して確認したが、一部の低学年から持ち込み禁止と言い渡されていたいたずらグッズが出ていた程度だったが、それでもフィルチは怒声を張り上げてその持ち主たちに減点と罰則を言い渡していた。

 

 ともあれ、予防策となると判断されたこの抜き打ち持ち物検査は、不定期に実施されることになる。

 

 

 

 メアリーを連れたセブルスに続いて、ハリーJr.は廊下を歩いていた。

 

 抜き打ち持ち物検査終了後、ハリーJr.は“闇の魔術に対する防衛術”教授室に忘れ物をしたので取りに行くと伝えて、セブルスたちについていっている。

 

 部屋の扉を開けるや、セブルスはチィッと大きく舌打ちをすると、右手を一振りした。無言呪文の暴露呪文(レベリオ)を使ったのだ。

 

 途端に、目くらまし術によって周囲の壁や家具と同化していた『教団』の紋章のタリスマンや、あからさまに怪しい品物が姿を現した。

 

 どうやら、セブルスとメアリーが両者そろって部屋を空け、他の教職員も職員会議でいない、という荒らしにもってこいの状況に、これ幸いとやらかした奴がいたらしい。

 

 セブルスは魔法で空の木箱を作ると、タリスマンはおろか、怪しい品――どう見ても以前の呪われたオパールのネックレスと同等の怪しい呪物を、そこにまとめて放り込んでいた。

 

 そうして、セブルスは続けてデスクの上に目をやって、「誰が来たかわかるかね?」と尋ねた。

 

 すると、どこからともなく魔法式カメラがデスクの上に現れ、セブルスはそれを手に取り、代わりに空のクリスタル瓶をカメラがあったところに置けば、それが消えた。

 

 何があったかわからずギョッとしているハリーJr.をよそに、セブルスは魔法式カメラからフィルムを抜き出した。

 

 残念ながら現像に関しては器材がないので、ダイアゴン横丁にあるカメラ屋に頼むしかないだろう。

 

 ヤーナムの血を宿し啓蒙あるセブルスの目には、魔法式カメラに替わって魔法薬を入れるクリスタル瓶を抱えたりかぶったりしている“使者”たちの姿がばっちり見えた。

 

 肖像画の一つもないこの部屋を、たかが閉鎖呪文(コロポータス)一つで放置するわけがない。

 

 少々値段は高かったが、“使者”たちに留守中に勝手に入り込んでくるものがいたら撮影しろと、魔法式カメラを渡しておいたのだ。

 

 「よろしい。現像後、姿が確認できれば、さらに報酬を上乗せしよう。新しい帽子が欲しい?ふむ。用意しておこう」

 

 「あの・・・先生? 誰と話してるんですか・・・?」

 

 “使者”たちの姿が見えないハリーJr.が戸惑ったような声を出すが、セブルスは「うむ。少しな」とはぐらかした。

 

 ただでさえもサイレントヒルと『教団』のことで苦労しているメイソン一家に、ヤーナム関連のことを話す気はなかった。“使者”のことをごまかして話すのも面倒だったのだ。どうせセブルスとメアリー以外に見えないのだから。

 

 「それで、何を忘れたのだね?Mr.メイソン」

 

 「あ。 ええっと・・・」

 

 セブルスに促されたハリーJr.は、急ぎ周囲を見回して、床に落ちていた“プリンスの教科書”を拾い上げた。ただでさえも古くてくたびれているところに、投げ出されて長く放置されたことで表紙が大きく折れてしまっている。ハリーJr.は表紙を折り直しながら、悪いことをしたな、と少し悲しそうな顔をした。

 

 「・・・それは?

 上級魔法薬学の教科書のように見えるが」

 

 即座に目に留めて、セブルスは尋ねた。もちろん、セブルスは知っていて訊いている。必死に顔に出さないように無表情に努めた。ハリーに事前に聞いていなかったら、下手をすれば取り乱して激高していたかもしれない。

 

 「ええっと・・・そのぅ・・・実は・・・」

 

 ハリーJr.は口ごもったが、ややあって口を開いた。

 

 スラグホーンから借りた学校の備品の教科書で、いろいろ書き込みがしてあり、これまでの授業でハリーJr.の成績を大いに引き上げてくれた、命綱にして文字通りの魔法の教科書だった。

 

 「あの!父さんにも言われて!カンニングみたいなことをしてごめんなさい!でも、この教科書、本当にすごくて、最高なんです!

 僕の中途半端な腕前でも、すごい魔法薬が調合できるようにしてくれたんです!

 オリジナルの呪文もいくつも書き込んであって。

 プリンスさん、きっと在学時からすごい人だったんだろうなってわかります。

 だから」

 

 「もういい・・・!」

 

 「え」

 

 「~~~!」

 

 目を丸くするハリーJr.をよそに、セブルスは言葉にならない呻きとともにそっぽを向いた。

 

 目の前で、黒歴史が詰まった教科書を、かわいがっている子供に大絶賛されるなんて、どんな仕打ちだ。

 

 今すぐ自分とハリーJr.双方に忘却術(オブリビエイト)をかけて一連のことを忘れさせたい衝動にかられかけたが、それでは根本的解決にならないのでどうにかこらえた。

 

 もしセブルスが学生時代のままであれば、衝動のままに「今すぐ返せ!」と激高していたことだろう。

 

 本当にハリーには感謝するべきだった。事前に知っておくと、多少は腹がくくれる。本当に多少だが。

 

 「それで・・・その教科書をどうしたいのだね?

 カンニングのようなことをしたと思うならば、速やかに学校に返却したまえ」

 

 のたうち回りたいのをこらえて平静を装い直し、ダメもとでセブルスは言った。

 

 せっかく届いた新しい教科書をすり替えてまで手元に置いているのだ。多少どうこう言ったところで手放すのを嫌がるに違いない、とセブルスは半ば確信していた。どうして変なところで頑固なのだ、メイソン一家は。

 

 「あの!この教科書を、手元に置かせてください!」

 

 「ダメだ!何を言っている!」

 

 思い切ったように言ったハリーJr.に、セブルスは反射的に突っぱねた。

 

 しぶられるのは覚悟していたが、まさか即座に却下されるとは思ってなかったらしいハリーJr.は目を丸くしたが、すぐに食い下がる。

 

 「お願いします!授業には持っていきません!

 僕、杖の関係で治癒魔法が使えないから、魔法薬をもっと頑張っておきたいんです!お願い!おじさん!」

 

 一瞬セブルスは、公私混同するな!減点するぞ!と怒声を張り上げそうになった。済んでのところで堪えた。それはいくら何でも大人げなさすぎる。

 

 しかし、しかしだ。

 

 「ダメだ。承服しかねる」

 

 「どうして!」

 

 「その前に確認するが、Mr.メイソン。

 この教科書に載っている魔法を、どれか一つでも使ったかね?」

 

 「え?」

 

 急に変わった話題に、ハリーJr.は戸惑うが、セブルスはかまわず問いかける。

 

 「返事は?YESかNO、どちらだね?」

 

 「ええっと、耳塞ぎ呪文(マフリアート)は以前から知ってたので使ってました。それ以外の呪文は使ってないです。

 効果の詳細とか、リスクとか、一切書いてなかったし、もし危ない魔法だった場合の反対呪文が載ってなかったので」

 

 「賢明な判断だ」

 

 “プリンスの教科書”の魅力に取りつかれたならば、後先考えずに呪文をその辺の学生に使っていたかもしれなかったが、ハリーJr.はちゃんと考えていたらしい。あるいは、親しいドラコに相談してから決めたというのもあるかもしれない。純血貴族の子息は、よく知らない呪文に対するリスク管理を徹底して叩き込まれるものだ。

 

 一つため息をついて、セブルスは妥協案を出すことにした。

 

 「教科書の貸し出しが許可できぬのは、それに書きこまれている呪文が危険だからだ。

 耳塞ぎ呪文(マフリアート)はともかく、逆さ吊り呪文(レビコーパス)八つ裂き呪文(セクタム・センプラ)は学生が使うものではない。

 貴公が使わずとも、何らかのきっかけで呪文を知った者が面白半分に使わぬとは限らぬ。

 ・・・本来、このようなものが書き込まれたものを備品として配置するなどあってはならぬことだ。

 だが、貴公の熱意は理解できる」

 

 杖の関係で治癒呪文が使えないハリーJr.が、その分――治療や回復といった面を魔法薬で補おうとしているのは理解できる。おそらく、サイレントヒルで足を怪我して一人離脱という苦い経験が、根底にあるのだろう。

 

 だからこそ、単純に成績を上げてくれるだけじゃない、勉強の優秀な教材として“プリンスの教科書”が欲しいのだろう。

 

 それはセブルスも理解できる。だからこその妥協案だ。

 

 「ゆえに、だ。

 今から伝えることを約束できるならば、その教科書の貸し出しを許可する。

 まず、授業への持ち込み、並びに貴公以外の人間への貸し出しを禁ずる。

 それから、明日、夕食後にこの部屋に来たまえ。

 その教科書に載っている呪文について、直々に講義・反対呪文について伝授しよう」

 

 「え・・・直々に、伝授?」

 

 目を丸くするハリーJr.は、ややあって恐る恐る尋ねた。

 

 「えっと・・・やっぱり、この教科書のプリンスさんって、先生のお知り合いなんですか?」

 

 「・・・だ」

 

 「え?」

 

 「・・・その教科書は、私のものだ。

 プリンスは、母方の旧姓だ」

 

 絞り出すように答えたセブルスに、ハリーJr.は目を丸くした。

 

 ややあって。

 

 「すごい!そっか、おじさんの教科書なら、魔法薬にいろいろ加筆修正されててもおかしくないのか!おじさん、昔から魔法薬得意だったんだね!

 学生の頃に使ってた時からオリジナルの呪文も作ってたって、すごすぎる!

 僕、まだいろいろ勉強するので精一杯なのに!」

 

 ブワッと花びらくようにキラキラした尊敬のまなざしで見られたセブルスは勘弁してくれ、ということもできずに視線をそらした。

 

 詰め込まれた黒歴史でこんなにたたえられるなんておかしい。ついでに、その教科書にいろいろ書き込みしてた頃は、人格的にも褒められたものじゃなかった。

 

 10年以上経ってから掘り出されて、当時のことを偉人の偉業のように褒め称えられる(しかも後見人をしている大事な子供に)なんて、どんな仕打ちだ。

 

 再び今すぐすべてをなかったことにしたい悶絶したくなる羞恥を押し殺し、セブルスは続けた。どうしても表情は苦虫を噛んだような苦々し気なものになってしまったのは仕方がない。

 

 「それからもう一つ。それを使う以上、成績にも条件をつけさせてもらう。

 今年度の上級魔法薬学の学期末テストでO(大いによろしい)を取ること。

 できなければ、教科書を没収の上、貴公だけ夏季休暇に特別レポートを課す。

 さらに、わかっているとは思うが、その教科書に載っている魔法は耳塞ぎ呪文(マフリアート)以外、反対呪文を覚えようと卒業まで使用を禁ずる。それらの呪文は他者に用いるには危険すぎるゆえにな。

 もし他者に対して使っていると判明した場合、教科書を没収の上、一気に50点減点とする。もちろん罰則もつけてな。

 よろしいか?」

 

 「ごじゅっ・・・?!

 わ、わかりました・・・」

 

 セブルスの言葉に、ハリーJr.は目を丸くしたが、すぐにうなずいた。そうして、彼は嬉しそうに抱えた教科書を大事そうに持ち直した。

 

 「Mr.メイソン。わかっているとは思うが、明日、夕食後にここに来るのを忘れるな。もし、すっぽかせば教科書は問答無用で没収とする」

 

 「はい!ありがとうございます、先生!」

 

 再度言い渡すセブルスに、ハリーJr.は嬉しそうにうなずいた。

 

 セブルスは深く息をついた。正直、取り返したい気持ちの方が強い。だが、どうにもハリーJr.を悲しませてまで、自分のワガママを押し通せないのだ。(どうにもセブルスはメイソン一家には甘くなってしまう)

 

 これが、書き込んでいた呪文を考えなしに他の生徒に使っていたら没収していた(そして減点と罰則も加えた)のだが、ハリーJr.は使っていなかったのだし、この様子ならばよほどのことがない限りまず使うことはないだろう。

 

 「では、用件は済みましたな?今日はもう寮に戻るように」

 

 「はい。失礼します。先生、本当にありがとうございました!」

 

 「礼を言うのはまだ早い。今年度学期末テストの結果が楽しみですな」

 

 「頑張ります!」

 

 セブルスの釘刺しにもめげた様子も見せずに、ハリーJr.はむしろ張り切った様子で頷いてから、部屋を後にした。

 

 それを見送ってから、セブルスは手にしていたフィルムを封筒にしまう。現像にどのくらいの期間がかかるかは不明だが、今日の校内放送を聞いていて思うところができたならば、マクゴナガルに請われたとおり“慈悲”は見せよう。自分たちがしました、ごめんなさい、と自首できれば減点&罰則には多少の手心を加えよう。出てこなかったら?それはその時だ。

 

 そうして、セブルスはしょんぼりしたまま荷造りをしているメアリーに向き直った。

 

 

 

 

 

 その翌日、談話室の掲示板に張り出されたお知らせに、スリザリンの寮生は驚愕した。

 

 寮母代理*1が“服従の呪文”をかけられ、寮監に襲い掛かった件が公表され、さらに精神に作用する呪いの品まで持たされて口止めされていたということも発覚し、生徒の巻き添えを防ぐために寮母の業務は停止、帰宅させることになったことが張り出されていたのだ。

 

 一段と落胆していたのはクラッブとゴイルだった。二人ともメアリーのお菓子の大ファンで、談話室のテーブルに味見用や新作の試作、あるいはセブルス用の茶菓子の余りとして置かれていたお菓子をしょっちゅう食べていたのに、それが一切なくなったのだ。

 

 お菓子大好きの食いしん坊二人は、これには大ショックを受けた。・・・基本、おつむが空なので、万が一セブルスが本当に死んだ結果や、その経緯にメアリーが関わっていれば、日課になっている置き菓子がなくなるのは自明の理だ、という理論を理解できないのだ。

 

 理解できるのはメアリーさんがいなくなって、お菓子がなくなったという結果だけ。

 

 そうして、おつむが空の二人は、それでも正直に言えば減点&罰則という事態は理解できたので、犯人探しはできず、不満をくすぶらせるしかなかったのである。

 

 クラッブ&ゴイルのみならず、気まずそうに顔を見合わせたほか学生もいた。

 

 もちろん、このお知らせは他寮の掲示板にも張り出され、グリフィンドール寮でも一部の学生がジト目で睨まれる事態があったりした。

 

 なお、この日を境に、管理人アーガス=フィルチの機嫌が急降直下し、少しでも目が合うどころか、姿を見られるだけで、とんでもない言いがかりをつけられて、減点と罰則だ!と喚かれるようになった。・・・最近のフィルチは、メアリーのおかげでほんの少しだけ、以前よりも柔らかになっていたのだ。それが突然メアリーがいなくなった(しかも、おそらく生徒のせい)ので、昨年のセブルス並みに機嫌が悪いのだ。*2

 

 

 

 そして、さらに数日後。

 

 「今から名前を呼ぶ者は、朝食後、職員室に来たまえ。授業は免除とする」

 

 大広間に響き渡る地を這うように低いセブルスの声に、朝食をとっていた学生たちは震えあがった。心当たりがあろうとなかろうと。

 

 平然と教員たちが食事をとっているあたり、どうも彼らはすべて承知の上らしい。

 

 呼ばれたのは、スリザリンの3年生が2名、4年生が1名、グリフィンドールの1年生が3名。・・・スリザリンもグリフィンドールも、6年生は一人も呼び出されなかった。

 

 名前を呼ばれた学生が真っ青になってガクガク震え出すのをしり目に、セブルスはシレッと食事を再開した。・・・去年の極寒不機嫌でないことの方が、かえって恐ろしかった。

 

 職員室でどのような会話が行われたかは、大体想像はつくだろう。現像された動く写真にがっちり写っていた自分の姿に、呼び出された生徒たちは血の気が引いたし、大広間では控えていた極寒不機嫌のセブルスによる一人につき減点50点と3か月の停学処分が言い渡されるや卒倒する生徒も出たが、セブルスは容赦しなかった。この処分に関してはマクゴナガルの了解を得ているのだ。

 

 教師(とその最愛の所有物)にこうも堂々と危害を加えておいて、自分はいたいけな生徒なんです許して!と堂々と喚くクソガキなど、本来は腹を掻っ捌いて何の役にも立たない臓物を引きずりだしてやりたいほどだというのに、停学処分で許してやろうというのだ。なぜそれが慈悲だと理解できぬのか。

 

 停学処分――つまり、ホグワーツに籍を置いたままなので生徒にカウントできる、それはセブルスが最後の一線は守ってやるということと同義だというのに。

 

 「校内放送までしたと言うのに、諸君らは何も学びを得ていないようですな。

 その愚かしさしか詰まってない海綿のような脳髄には、自首して罪を軽減しようという賢明さはなかったようだ。

 それとも、ばれはせぬと高をくくっていたかね?己が血肉と糞尿しか詰まってない革袋だと自慢して楽しいかね?理解しかねる。

 まだ更生の余地ある低学年だから停学処分(この程度)で済ませるのだ。貴公らの頼もしい先輩方に伝えたまえ。

 うっかり私の手が滑って朝食の席で真実薬(ベリタセラム)を盛られないことを感謝すべきだとな」

 

 血なまぐさい嫌味でもって締めくくられたセブルスの最後通牒は、しかしながら通用しなかった。

 

 窮鼠、猫を噛む。どんなに恐ろしい猫であろうと、追い詰められた鼠は殺鼠剤の餌食になる前に噛みに行くしかないのだ。

 

 

 

 

 

 沙汰を言い渡された学生たちが涙目で荷造りするのをよそに、月日は経過する。

 

 その間、待ちに待った“姿くらまし”の実技講習が行われた。

 

 6年生たちもうまくいかないものは多かった。講師のウィルキー=トワイクロスは、『どこへ』『どうしても』『どういう意図で』の3つのDを解説しながらお手本を実演するが、初回にして体がばらける*3生徒が続出。

 

 ハリーJr.とドラコ、ハーマイオニーですら、これにはてこずっていた。

 

 そして、3月の初めだった。

 

 「ハリー!助けて!」

 

 せっかくの休みだがケイティ=ベルのこともあってホグズミード村への外出は控えたハリーJr.が廊下を歩いていると、ネビルに金切り声で呼び止められた。

 

 メアリーの不在と、セブルスに叩き落された血なまぐさい雷のせいでスリザリン寮はすっかりお通夜ムードである。談話室にいるのも息苦しいので、空き教室でも借りて魔法の実技練習をしようと思っていたのだ。

 

 どうしたのか、と思って振り向いたハリーJr.はぎょっとした。

 

 「あの人のところに行かないと!彼女のことが頭から離れないんだ!」

 

 「いい加減にしてよ、ロン!君は正気じゃないんだってば!」

 

 うっとりと恍惚の眼差しで明後日の方へ飛び出そうとするロナルドの右手をひっつかんだネビルが、困り果てた様子で叫んだ。

 

 「どうしたの、それ」

 

 「わからないんだよ!部屋で誕生日プレゼントを開けてたロンが、急におかしくなっちゃって!」

 

 「おかしくなんてないさ!僕はやっと、彼女の魅力に気が付いたんだよ!」

 

 しっかりとロナルドの右手をつかんだままのネビルが困り果てた様子で言う。当のロナルドはねじが吹っ飛んだように明後日の方向をうっとりと見やっている。

 

 「もしかして、惚れ薬入りの何かを食べたんじゃない?

 ・・・ちょっと待ってて!」

 

 言い残して、ハリーJr.はスリザリン寮に取って返した。愛の妙薬入りの飲み物やら食べ物やらを大量に差し入れられるようになった彼は、万が一を考えて“プリンスの教科書”にも載っていた愛の妙薬用の解毒剤を調合して、自室に置いていたのだ。調合の練習にもなるから一石二鳥で、出来上がりは教科書通りの理想的状態である。ちなみに、この解毒剤についてはドラコにも言ってあるので、本当に万が一の時は彼が飲ませてくれるだろう。

 

 急ぎ、ハリーJr.は解毒剤入りのクリスタル瓶をつかんで寮を飛び出した。廊下を走るなんて、と一部の寮生は眉をひそめたが、それがハリーJr.だと知るや何かあったのか、と首をかしげるだけにした。ハリーJr.もよほどのことがなければ走り回ったりはしないのだ。

 

 ロナルドとネビルがいる場所へ向かう途中の廊下で、ハリーJr.は奇妙なものを見た。

 

 クラッブとゴイル、それからノットだ。ノットがぬっと壁から出てきた。あそこには部屋はなかったはずでは?

 

 ハリーJr.は、その向かいにある『バカなバーナバスが愚かにもトロールにバレエを教えようとしている絵が描かれた壁かけタペストリー』をしっかりと頭に叩き込む。

 

 あとで、補習の時にスネイプ先生に聞いてみよう、と思ったのだ。

 

 ともあれ、今はロナルドの方が先決だ。すぐにハリーJr.は急いでその場を後にした。

 

 そして、幸運にも、ノットたちは自分たちのことに必死で、ハリーJr.に見られていたことには気が付かなかったのだ。ノットは引きつりまくった顔で、どうしようというかのように頭を抱えていた。

 

 そうして、ハリーJr.は二人のところに戻ってくると、「これ、解毒剤だから飲んで」とクリスタル瓶を渡した。

 

 「いいの?ハリー」

 

 「うん。また作ればいいよ。今はウィーズリーを正気に戻さないと」

 

 「僕はいたって正気さ!」

 

 申し訳なさそうなネビルに、ハリーJr.は気にした様子も見せずに頷けば、ロナルドはどこ吹く風とばかりに叫んだ。

 

 そうやって言うやつは大体正気じゃない。ハリーJr.とネビルは二人同時にそう思った。

 

 「そんなことより!」

 

 「ウィーズリー、君自身のことを“そんなこと”で片づけないでよ」

 

 ハリーJr.の果敢なツッコミをよそに、まさしく脳内で花畑が咲き乱れているらしいロナルドは有頂天気味に叫んだ。

 

 「ハリー!君にしょっちゅうお菓子やジュースの差し入れをしている人がいるじゃないか!彼女はどこにいるんだ?!」

 

 「え・・・差し入れって・・・グリフィンドールのロミルダ=ベインのこと?

 ・・・もしかして、ウィーズリー、僕宛てのお菓子かジュース、食べちゃったの?!

 惚れ薬入りだから、僕は受け取らないようにしてたんだよ?!何やってるんだよ!

 しかも、あれが流行ってたのってクリスマス前だから、その前から受け取っていたとして・・・確か、愛の妙薬って調合から時間経過で効力が強化されたはずだよ・・・」

 

 「そういえば、ロン、ハリーがお菓子やジュースの受け取りを拒否して逃げ回ってるのをにらんでたな・・・。

 『もらえるものはもらっとけばいいのに』とか、『僕が代わりにもらってやっても』とか、ぶつぶつ言ってたような・・・

 あ!そういえば、いつだったか『僕が代わりに渡しておいてやろうか』って何か受け取っていた気がする!

 ロンからなら警戒せずに受け取ってもらえるってロミルダも思ったのかも」

 

 最初こそ戸惑ったハリーJr.は、思い至るや呆れた。

 

 同じく思い至ったらしいネビルが、得心が行ったようにつぶやく。

 

 「そんなことはどうでもいいだろ?!ロミルダ!ああ、なんて素敵な名前なんだ!」

 

 本格的にダメな感じで浮かれているロナルドに、ハリーJr.は流石にこれ以上は、と申し訳なく思いながら杖を取り出した。

 

 無言呪文の全身石化呪文(ペトリフィカス・トタルス)はひとまず成功し、ロナルドは気を付け!の姿勢で固まるやひっくり返った。完全に口を閉じたままの無言呪文はまだ難しいが、口パクならかなり高い成功率だ、とハリーJr.は自画自賛する。もちろん、もっと慣れたら完全に口を閉じたままの無言呪文も会得せねば。

 

 「ハリー、無言呪文習得できたの?」

 

 「まだ口パクだけどね。ごめんね、ウィーズリー。ちょっと強硬手段とらせてもらうね。・・・言うのが遅いか。

 ネビル、そっち押さえといて。漏斗があればいいんだけど、まあ、なくても何とかなるか」

 

 「う、うん・・・」

 

 ちょっと引き気味のネビルは、それでもハリーJr.の言うがままにロナルドの頭を押さえた。ハリーJr.はロナルドの口をこじ開けると、解毒剤をそこに流し込んだ。もちろん、鼻をつまんで強制的に飲み込ませる。

 

 「これでよし」

 

 立ち上がって、ハリーJr.は終了呪文(フィニート)で全身石化を解除した。

 

 「何するんだ?!

 うえええっ、口の中が苦しょっぱい・・・」

 

 立ち上がって口を押さえるロナルドは百面相している。

 

 「ロミルダ=ベインのことをどう思う?」

 

 「はあ?何だよ、突然」

 

 「良かった。正気に戻ってる・・・。

 ハリー、愛の妙薬の解毒剤なんて、どこで手に入れたの?」

 

 「自分で調合しといたんだよ。うっかり食事に混ぜられたら大変なことになるから、万が一のためにね」

 

 「それは・・・大変だね・・・」

 

 ほっとしたネビルは、ハリーJr.の返答に気の毒そうな顔をした。

 

 ロナルドはうらやましがっていたが、ネビルはハリーJr.を気の毒に思った。

 

 「・・・もし、さっきのウィーズリーみたいになったらどうしよう?

 アステリア、今度こそ泣いて怒るかも・・・」

 

 「だ、大丈夫だよ。

 僕たちもハリーに何かあったら医務室に連れて行くから」

 

 心底不安げにつぶやいたハリーJr,に、ネビルはなんとかフォローしようとする。

 

 残念だが、ネビルは魔法薬学はOWL試験(フクロウ)で落としてしまったので上級魔法薬学は受講していないのだ。ゆえに、惚れ薬の解毒となれば、他に任せるしかない。

 

 「というか、僕は心底わからないんだけど。

 惚れ薬なんて一過性のもので、本当の意味で相手の心が手に入るってわけじゃないのに、なんで使いたがるかなあ。

 既成事実作るため?魔法界の女性って怖い・・・」

 

 ぶつぶつつぶやくハリーJr.に、ネビルは必死でフォローした。

 

 「みんながみんなそうじゃないってハリーも知ってるでしょ!」

 

 「そうだね、惚れ薬なだけましかもね。

 姉さんから聞いたけど、世の中には自主規制とかR18指定とか自主検閲を食べ物に仕込んで異性に送り付けることもあるみたいだから・・・」

 

 「一緒にしないであげて!」

 

 おぞましい事実を聞かされたネビルは涙目で叫んだ。マグルの女って怖い。残念、たぶんマグル・魔法族問わず、やるやつはやる。

 

 疲れた眼差しで語るハリーJr.を見たロナルドは、それでも納得できなさそうな様子で不服そうに口をへの字に曲げている。そんなことするなんて、マグルだけだろ、とでも言いたげだった。彼は女性に夢を見すぎている。

 

 「とにかく、これに懲りたら僕と親しくない女性が一方的に送ってきたものは、軽々しく食べない方がいいよ。

 今回は惚れ薬で済んだけど、もっとやばいものが入ってても知らないよ」

 

 「でも、もったいないだろ?

 せっかくくれるっていうならさあ。

 全部が全部、惚れ薬入りって決まったわけでもないし」

 

 「ロン!またおかしくなったらどうするんだよ!ただでさえも寮から出る時、ラベンダーを怒らせてるんだから!いい加減にしといたほうがいいよ。

 大体、ハリーに宛てたものをロンが勝手に食べるってのはダメだよ」

 

 「でも、ハリーはいらないっていうなら、僕がもらってもいいかなって思って。今日、僕誕生日だから、ちょっとくらいってさ。

 いいだろ?」

 

 「僕は別にいいけど、後でベインやほかの女子たちにばれて袋叩きにされても知らないよ」

 

 「う・・・」

 

 呆れを隠さないハリーJr.の言葉に、ロナルドは今度こそ気まずげな顔をして、渋々ながらもうなずいた。

 

 「じゃあ、僕はそろそろ行くね。

 あ、ウィーズリー、誕生日おめでとう。プレゼントはさっきの解毒剤ってことで許してね」

 

 「うん。ハリー、わざわざありがとう」

 

 「あー・・・ありがとう、ハリー」

 

 いい機会だし、もう一度復習がてら解毒剤を作ろうとハリーJr.は当初の予定を変更して地下牢に行く・・・前に、“プリンスの教科書”を取りに行くべく、スリザリンの寮塔に足を向けた。

 

 

 

 

 

 続く

*1
メアリーは人形でセブルスの所有物なので、名目上は代理扱い

*2
昨年のフィルチは、自身の進退をかけてアンブリッジに媚を売るのに必死だった

*3
体のあちこちが分離する現象





【愛冷まし】
 愛の妙薬に対する解毒薬。愛の妙薬は、服用者に対象に対する狂気的な執着・妄執を抱かせるが、それを打ち消す効果を持つ。

 服用することで、獣化・狂気ゲージを若干下げることが可能。

 トム=リドルはふと気が付いた。なんだこの女は。何でこんな女を欲しいと思っていたんだ。我が物顔で自分の隣に居座るな。何でこんな女を欲しいと思ったのだ気持ち悪い気持ち悪い。そうしてトムは女を追い出した。女が自分の子を身ごもっているという声を一顧だにせずに。





 (ボソッ)原作だとロンの惚れ薬誤食騒動は、スラグホーンの蜂蜜酒に仕込まれた毒のせいでさらにとんでもない方へ転がっていきますが、拙作ではスラグホーン先生の命狙う意味が薄いので(何しろ分霊箱の秘密はすでにルシウスさんたちが暴露済み)、割とあっさり目に済みました。

 なお、余計なものを目撃しちゃったハリーJr.。多分、原作マルフォイ君辺りだったら、目撃者に気が付いて忘却術で口封じに及んでたでしょう。

 原作時空だったらスネイプ先生がバックアップについててくれるからまだマシなんですけど、拙作世界線だとバックアップについてくれたであろう死喰い人がセブルスさんによって駆逐されちゃっているわ、『必要の部屋』の“姿くらますキャビネット”が徹底的にぶっ壊されているわなので、ノット君の難易度がルナティックになりました。ちなみに、メアリーに対するやらかしもお見通しなので、証拠が見つかったら退学からの行方不明確定だぞ☆





 次回の投稿は、来週!内容は、ウィーズリー兄弟によるセブルスさんの呼び出し。・・・惚れ薬騒動を挟んじゃいましたけど、ぶっちゃけ先にこっちやろうかなと思ってたんですよねえ。それから湿った導きに夢中のドビー再び。お楽しみに。
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