放課後、誰もいない教室で高校生のアカキとリクは遊戯王を楽しんでいた。そして決闘を繰り返すごとに二人は、遊戯王の新たな見解に気付いていく。何度も繰り返されるデッキ構築論やコンボ、カードの活用法。今日も二人の遊戯王が始まるのであった。
 
 遊戯王について登場人物が話すだけです。決闘描写はほとんどありません。また原作キャラは一切出てきません。裁定やカード名、ルールなどが間違っていたら教えていただけると幸いです。

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『融合』が使いたい!

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)でダイレクトアタック!」

「リバースカードオープン、魔法の筒(マジック・シリンダー)

「あああ!!!!」

 

 放課後の教室。午後のホームルームが終わり、部活に行くもの、家路を急ぐもの、寄り道をするものがいなくなってから、教室は俺たちの空間になる。

 

「アカキ、お前は毎回毎回やってるが、伏せカードを警戒しなさすぎなんだよ。もうちょっとバック除去を増やしとけ」

「えぇ~、でもよ~。そうやって後手に後手に回ってたら、強いのが出しずらくなるじゃねぇか~」

「強いやつを出しても除去されたら意味がないだろ……」

「そうだけどさ~」

 

 この時間、決闘(デュエル)に勤しむのが俺たち、アカキとリクのルーティンだ。毎日の放課後、誰もいない教室でひたすら決闘を繰り返す。お互いのデッキもレシピも完全に覚えているといっても過言ではないほど繰り返していた。

 だが、そんな俺たちだからこそ偶には決闘以外のことがしたくなる。と、言っても遊戯王から離れることができないのが決闘者(デュエリスト)の嵯峨という奴だろう。

 

「なぁ、リク。最近、何かデッキ組んでる?」

「いいや。組んでないけど……。急にどうした?」

「そろそろ新しいデッキに手を出してみたいと思ってさ。でもいい案が思いつかないんだよ」

「確かに、マンネリ化してる気もするしな。デッキ相談なら乗るぞ」

 

 ブラック・マジシャンデッキを片付けながらリクが答えた。正直、こいつにはデッキ相談をしたくないのだが、対戦相手がこいつしかいない以上、デッキ相談の相手もこいつしかいないのが悔しいところだ。

 

「で、どんなデッキが組みたいんだ?」

「お? それ聞いちゃう? それが思いついたら楽なんだけどよ~」

「それすら思いついてないのか……。そんなことでよく新しいデッキなんて組もうと思ったな」

「別にいいじゃん! 俺はいつでも探求心を忘れないタイプなんだから!」

「自分で言うな。そして探求心を忘れないタイプなら、自分でデッキを調べるなりしろ」

「そんな冷たいこと言うなよ~」

「全く……」

 

 俺の駄々が通じたのか、リクは呆れた顔をしながらもスマホを取り出した。こいつのデッキ構築はいつも遊戯王ニューロンでカード検索するところから始まる。つまりは相談に乗ってくれる気になったということだ。

 

「組みたいデッキが決まらないなら、使いたいカードはないのか?」

「使いたいカード?」

「そう、使いたいカード。例えば強いんだけど出すのがめんどくさいモンスターとか、強力な効果だけどデッキを選ぶ魔法とか罠とか」

「なるほど、そういう考え方もあるのか」

「カテゴリが決まってるのが一番簡単なんだけどな。使いたいカテゴリが無いならカードで検索するしかない」

「うーん、使いたいカードか……」

 

 俺は少し頭をひねった。今までは使いたいカテゴリ、特にアニメや遊戯王系youtuberが使っていたものばかり組んでいた。自分が組みたい、というよりはあこがれやロマンばかりでデッキを構築していたように感じる。

 遊戯王を初めて、それなりに経験を積んだはずだが、いざ使いたいカードなんて言われても、すぐに出てこない辺り、自分もまだまだだなぁ、なんて感じる。いや感じてる場合じゃねえわ。使いたいカード考えないと。

 

「うーん、融合、シンクロ、エクシーズ……。ペンデュラムにリンク……。アドバンス召喚に儀式……」

「使いたいカードってそうやって思いつこうとするのか……。っていうか、そんなに悩むくらいなら別のとっかかりから始めてもいいだろ」

「待って! 今思いつきそうだから! わかんないけど! 思いつく気がする!」

「……ま、思いつくまで待ってやるよ」

 

 なんやかんや言いながら付き合ってくれるからリクは本当にいいやつだ。そんなリクの優しさに甘えながら、俺は使いたいカードを考える。遊戯王で使いたいカード。遊戯王……。遊戯王といえば……?

 そういえば、遊戯王といえばなんだろう。やはり、青眼の白龍とブラック・マジシャンだろうか。だけど、青眼の白龍はもう組んでるし、ブラック・マジシャンはリクが組んでいる。じゃあ、それ以外のカード? 遊戯王を代表するカードといえば……。

 

「融合……」

「ん? なんか思いついたのか?」

「融合だよ。融合」

「融合? 融合テーマか? 悪くないと思うが……」

「そうじゃない! 融合だよ、融合! 魔法カード『融合』のことだよ!」

「融合……? あぁ、そういうことか」

 

 少し悩んだ後にリクがニューロンの検索欄に文字を打ち込む。

 

「融合賢者とか沼地の魔神王で、サーチできる『融合』のことね」

「そうだよ! その『融合』!」

「でも何で、急に『融合』なんて言い出したんだよ」

「ふふーん! リク、遊戯王を代表するカードって言ったらなにがある?」

 

 「ドヤ顔がうざい」と小声で言いながらリクが少し黙る。

 

「俺なら、ブラック・マジシャンだな」

「そういうと思ったぜ」

「たまに、いや嘘だ。高頻度でお前のことを殴りたくなるな」

「そして、俺なら青眼の白龍と答える」

「無視するな」

「だが、どちらもある共通点がある」

「だから無視するなって」

「それは、登場当時はグッドスタッフデッキにも入らないカードだったのに、今では非常に強いデッキパワーを持っているということだ」

「……公式ルールとかそういうのを抜きに考えると、確かにどっちもしばらく不遇カードだったな。それで? なにが言いたいんだよ」

 

 リクは呆れながら聞き返した。どうやら折れたようだ。

 

「しかしその反面、登場当時はかなり強い効果を持ちながら現在では採用率が非常に低いカードがある!」

「あー、それが……」

「そう! 『融合』だ!」

 

 数秒の間。

 

「そう! 『融合』だ!」

「二回も言わなくていい。言いたいことは分かった」

「ホント!?」

「しかし『融合』か。融合テーマじゃなくて、『融合』そのものを使うデッキっていうのは考えたこともなかったな」

「別に融合テーマでもいいと思うぜ。使いたいのは『融合』だし。融合を使って出すモンスターが決まっていたら構築も進めやすいんじゃないか?」

「じゃあ、『ファーニマル』使えよ」

 

 答えが出てしまった。

 

「そうじゃないんだよ!」

「そうじゃなければなんだよ?」

「確かにファーニマルは『融合』を使いやすいけど、あれはそういうコンセプトじゃん!」

「そういうコンセプトなんだから、ご要望通りじゃないか。コナミに感謝しろ」

「そうだけど! そうじゃない! ファーニマルじゃないデッキで融合を使いたい!」

 

 リクの目がドンドンと冷たくなっていった。「お前なぁ……」冷たい目のままリクが答える。

 

「『融合』って基本的にディスアドバンテージなのは分かってるだろ?」

「あっ、あー、うーん、そうだねー。そうかなー?」

「分かってないな……」

「すみません、具体的説明をお願いします」

「例えば、手札融合するとする」

「はい」

「そのためには手札に『融合』と融合素材モンスター二体の合計三枚のカードが必要になってくる」

「はいはい」

「手札を三枚消費して、場には何が残る?」

「融合モンスターが……、一体だけ?」

「アカキ。お前のデッキ、青眼の白龍は手札三枚で何ができる?」

「手札にもよるけど、青眼の白龍と青眼の亜白龍は並べられると思う」

「手札三枚消費で、融合モンスター一体と青眼二体。どっちが強いと思う?」

「青眼だな。融合弱いな」

「その上、融合は特定カード三枚だからな。コンボとかじゃなく」

「キッツ」

「分かったか? 融合がディスアドバンテージな理由」

「……悲しいがな」

 

 教室に夕日が差し込む。日の光が俺を強く照らし、そのまま日差しと融合しそうな気分になった。

 

「それでも『融合』はサポートも多いから、組んでみる価値はあると思うけどな」

「そう言ってもらえるだけ幸せだぜ」

「そうだな、とりあえず融合テーマに融合が入れられないか、試すところから始めてみたらどうだ?」

「なるほど、そういえば深淵の青眼龍(ディープ・オブ・ブルーアイズ)も『融合』をサーチだっけ?」

「答え出たな。融合青眼を組めばいい」

「本末転倒だよ! デッキ増やしたいのに青眼の構築スタイル変えただけじゃんか! あと深淵の青眼龍は高くて手が出ない」

「でも最適解じゃないか?」

「最適解かもしれんが、そもそも青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)は融合があるからって簡単に出るもんじゃないだろ」

「まぁ……、確かにディスアドバンテージ面は改善されてないか。深淵の青眼龍も『融合』をサーチっていうよりは儀式魔法をサーチした方が強そうだしな」

 

 結局、話が振り出しに戻ってしまった。OCG、二十年の歴史は『融合』をここまで変えてしまったというのだろうか。

 

「融合テーマを洗い出してみるか」

「融合テーマを洗い出す? なに言ってるんだリク?」

「『融合』を使うも何も、『融合』を使って出すモンスターがいなきゃ話にならないだろう。だからまずは、融合テーマを洗い出すところから始めよう」

「なるほど! お前、天才だな!

「これくらい自力で思いつけ……」

 

 俺たちはさっそく遊戯王ニューロンで融合テーマを調べることにした。

 

「融合モンスターって結構いっぱいいるな。これならピッタリのテーマが見つかるんじゃないか!!」

「アカキ。実はそれが落とし穴だったりする」

「えっ?」

 

 リクは神妙な面持ちで話し始めた。

 

「融合テーマっていうのは何度も話してるが正規融合するとディスアドバンテージなんだ」

「うん」

「そうなると、いかにしてディスアドバンテージを抑えながら融合するかが重要になってくる」

「うん、それで?」

「そうなると、融合モンスターっていう奴の中には、融合しない奴らが出てくるんだ」

「……は?」

 

 目が点になった俺にリクはスマホの画面を見せてきた。

 

「『ABC‐ドラゴン・バスター』。融合素材に指定されてるやつらをフィールドか墓地から除外すると出てくる。融合は必要ない」

「融合じゃねえ……」

「『究極宝玉神(きゅうきょくほうぎょくしん)レインボー・オーバー・ドラゴン』。融合でも出せるが、レベル10の『究極宝玉神』モンスターをリリースしても出せる」

「融合じゃねえ……」

「『超雷龍(ちょうらいりゅう)‐サンダー・ドラゴン』。こいつも融合で出せるが、手札の雷族の効果が発動したターン、フィールドの雷族をリリースして出せる」

「融合じゃねえ……」

「こうやって、融合テーマは基本的にディスアドバンテージをつくらないように工夫してるわけだ」

 

 俺はうなだれた。すでに公式が先手を打っていたとは……。だが、

 

「全部が全部、融合を使わなくても出せるモンスターじゃないだろ? 融合でしか出せない融合モンスターの融合テーマだってあるんじゃないか?」

「そこにも落とし穴がある」

「えっ?」

 

 そういうと、リクはまたしてもスマホの画面を見せてきた。

 

「『真紅眼融合(レッドアイズ・フュージョン)』。デッキのモンスターで融合できる」

「おっ、おう……」

「『影依融合(シャードール・フュージョン)』。条件付きだが、デッキのモンスターで融合できる」

「おっ、おう……」

「『雷龍融合(サンダー・ドラゴン・フュージョン)』。墓地か除外されてるモンスターをデッキに戻して融合できる」

「サンダー・ドラゴン、優遇されすぎじゃね?」

「これ以外にも色々とあるが、融合テーマっていうのは大体、専用融合があるもんだ」

「なるほど……。それで?」

「それで、って。分からないのかよ?」

「えっ?」

「『融合』の出る幕はないんだよ。最初から」

 

 俺の目の前が真っ白になった。

 「『融合』の出る幕はない」その言葉が頭の中を反芻していた。

 そうか、今まで気づかなかったけど、そういうことだったのか。『融合』は使わなくなったんじゃない。使われなくなったんだ……。時代と共に。OCG二十年の歴史と共に。

 

「リク、俺、目が覚めたぜ」

「目が覚めたって、なんの?」

「俺が組むべきデッキだよ」

「なんか、いいテーマでも思いついたのか?」

「あぁ」

「正直、俺には思いつかないから教えてほしいんだが、『融合』をうまく使えるデッキってなんだよ?」

 

 大きく深呼吸する。日の光はさらに低く差し込み、教室全体がフィールド魔法の影響下にあるようになっていた。だが、じきに沈む。日没の瞬間が目の前に迫っていた。

 

「俺が組むべきデッキは……」

「組むべきデッキは?」

 

 日が落ちた。暗い教室。リクの目をまっすぐに見ながら俺は言った。

 

「『ファーニマル』」

 

 リクのゴッド・ハンド・クラッシャーが俺のLP(ライフポイント)を吹き飛ばした。

 


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