中間管理職のオッサンが褐色美女な悪魔に憑依転生してしまった話   作:とんこつラーメン

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少し間が開きましたが更新です。

この作品にはしんみりとしたムードはあっても、シリアスは基本的に無いと思います。

主人公が主人公ですし、周りも周りですからね。








女のプライド

「…………はい?」

 

 天野夕麻は一誠が言った言葉を一瞬、本気で理解が出来なかった。

 頭の中が真っ白になりつつも、震える唇でなんとか聞き直してみる。

 

「え…えっと……今のはどういう意味……」

「そのまんまの意味だよ。君の気持ちは本当に嬉しいし、光栄に思ってるけど、ダメなんだ」

「ダ…ダメ……」

「大丈夫。君の程の美少女なら、きっと俺以上にいい男に巡り合えるさ!」

 

 彼女の肩をポンと軽く叩いてから、実に爽やかな笑顔を見える一誠。

 以前の彼からは想像も出来ない表情だった。

 

(こ…この私が振られた…? 至高の堕天使(予定)となる私が…!?)

 

 この心の声でもうお分かり頂いたとは思うが、この『天野夕麻』と名乗る少女の正体は人間ではない。

 彼女の本来の名前は『レイナーレ』と言って、その種族は堕天使である。

 とある事情でレイナーレは人間に化けて一誠に近づき、油断をしたところで彼を殺害するつもりでいたのだが、あろうことか作戦の第一段階で躓いてしまった。

 

(ど…どういう事なのよッ!? 情報では、女に飢えているエロガキなんじゃなかったのッ!? それなのに…それなのに! どうして普通に振られてるのよ~!! っていうか、冷静に考えたら堕天使である私だって十分にこいつよりも年上じゃないの!!)

 

 レイナーレは自分の美貌にかなりの自信があった。

 傍から見ても十分に美人だと思うし、スタイルだって抜群だ。

 そこら辺の男共ならば簡単に自分の魅力で骨抜きに出来ると思っている。

 が、その自信と無駄に高いプライドに今、確かな罅が入った。

 

 思わず激高しそうになって衝動的に一誠を殺害しようとなってしまうが、ギリギリのところで理性でソレを抑え込んだ。

 

(…確かに、ここでこいつを殺す事は簡単かもしれない…。けど、それだとまるで私が振られた腹いせに男を殺したヒステリックな女みたいになるじゃない!! そんなのは私のキャラじゃないし、なによりも私の女としてのプライドが許さない!!)

 

 この時、レイナーレの怒りは完全に別のベクトルへと向かった。

 

(コイツを本気で私に惚れさせて、それから堂々と殺してやる!! フフフ…命拾いをしたわね…人間!!)

 

 なんて強がっているが、要は単純に悔しかっただけだ。

 

「ふ…ふふふ……」

「どうした? 具合でも悪いのか?」

 

 いきなり俯いて不敵な笑みを浮かべれば、一誠でなくても怪しんでしまう。

 彼女の顔を覗き込もうとしてみると、突如としてレイナーレは顔を上げて、一誠の事を指差してから高らかに宣言をした。

 

「兵藤一誠!!」

「な…なんだっ!?」

「この私を振るだなんて、いい度胸をしてるじゃない! 見てなさいよ…この私の全力で必ず惚れさせてみせるんだから!! 首を洗って待ってなさい!!」

「えぇ~…」

 

 往来で変な宣戦布告をされた一誠は色んな意味で戸惑うばかり。

 彼からすれば完全な羞恥プレイである。

 

「そうと決まれば、早速帰って作戦を立てなくては!」

「き…気を付けてなー…」

 

 レイナーレは高笑いをしながら全力ダッシュで去って行ってしまった。

 出会った時は清楚な感じの少女だったのに、僅か十数秒でイメージが完全に変わった。

 

「……マジで何だったんだ?」

 

 何も知らない一誠からしたら、本気で意味不明な事ばかりだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 駒王町の町外れにある廃教会。

 レイナーレは部下達と一緒にここを仮の拠点としている。

 

 駒王学園から帰ってきたレイナーレは、制服を脱ぐ間もなく帰り道でコンビニで買ってきた多数の雑誌を開いて何かを熱心に読んでいた。

 

「あ…あの…レイナーレさま…?」

「例の人間に近づくことは出来たんスか…?」

「残念ながら、それは失敗に終わったわ」

 

 上司のいきなりの奇行に驚きを隠せないでいる二人の女性堕天使。

 ゴスロリな服装のミッテルトに、ボディコンスーツを着たカラワーナ。

 そして、コートを着た男性堕天使のドーナシーク。

 この三人がレイナーレの部下になる者達だ。

 

「けど、まだ全てを諦めるには早すぎる! 変に猫を被っていくのはもう止めよ! 正面から堂々と近づいて、私の魅力でメロメロにしてから殺す事にする!」

「それは良いですが……」

「それと女子高生向けの雑誌と、どう関係するんスか?」

「決まってるじゃない! この私の女子力を最大限まで上げてから、あの人間を魅了しまくるのよ! もう私抜きじゃ生きていられないようにしてあげるわ! あはははははははっ!」

 

 完全に自分の勝利を確信した大笑い。

 威厳に何もあったもんじゃない。

 

「適当に人気のない所に誘導して、そこで殺害をすれば良かったのでは……」

「だまらっしゃい!! うしゃしゃい!!」

「う…うしゃしゃい?」

「ドーナシーク…アンタは女心ってのを全く理解してないわね」

「女心?」

「いいこと? このまま普通に殺しても意味が無いの。それだと目的は果たせても、私は女として負けたままに終わってしまう」

「別にそれでもいいのでは……」

「いいわけないでしょうが!! 振られたのよ? この私が!! このレイナーレが!! このままで全てを終わらせるだなんて事、女としてのプライドが絶対に許さないのよ!!」

 

 レイナーレの必死の訴えに、ドーナシークは助け舟を求めて他の二人の方を見るが、カラワーナとミッテルトもまた軽蔑するような視線を見せていた。

 

「ドーナシーク…今のはダメだろ……」

「カラワーナに同感っス。そんなんだから、その歳になっても独り身なんスよ」

「そ…それとこれとは関係ないだろうが!!」

「女心が理解出来てない時点で関係大ありッスよ」

「いい機会だから、お前も少しは女心を勉強するんだな」

「くそ……これだから女って奴は……」

 

 男一人だからこその肩身の狭さ。

 なんとも悲しい立場のドーナシークだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 私とブッキーは今、目の前で繰り広げられている真剣勝負に集中していた。

 これまでに数多くの名勝負を切り広げていた選ばれた英雄達の夢の競演。

 誰も彼もが手に汗を握って、その勝負の結末を見守っていた。

 

「お願い…お願い…お願い…!」

「来て…来て…来て…来て!!」

 

 一頭の雄々しき体躯を誇る白馬が先頭で駆け抜け、その差が広がる度に会場は大いに盛り上っていく。

 

「「いっけー!! マオウソンダイウセン――――!!」」

 

 そして遂に、白馬…マオウソンダイセンがぶっちぎりのトップでゴールした。

 それから少ししてから二着以降がゴールイン。

 私とブッキーは言葉に出来ない感動に包まれていた。

 

「はぁ……感無量……」

「全くね……」

 

 もうここまで来れば分かると思うけど、今日の私とブッキーは競馬場に来ています。

 んで、レースが終了して結果を待つばかりになっている。

 

「二着は…シャナオーリューリタンね。三着がアカラシマカゼ…か」

「見事に予想的中ね。いや~…感動的なレースを見られた上に大当たりまでするなんてね。今日も今日とて充実してるわー」

「本当ね。んじゃ、稼ぐだけ稼いだし、もうそろそろ帰りましょっか」

「さんせー」

 

 万馬券を払い戻ししてから、私達は競馬場を後にした。

 因みに、大当たりはしたものの、そこまで大きな金を賭けてはいないので、実際の儲けはそこまでじゃない。

 その気になれば一気に凄い額を儲けられるけど、競馬って払い戻しの際に50万円以上の金額が当たると税金が掛かっちゃうんだもん。

 そーゆー手続きって面倒くさいのよね~。

 確定申告も必要だって話だし、なんとも悲しい世の中になったもんね。

 競馬すら満足に楽しめないなんて。

 

 バスに乗ってアパートの近くまで移動して、後は道沿いに歩くだけ。

 いつもは通学路になっている場所だけど、この時間帯だと人気も疎らだ。

 

「夕食はどうしよっか?」

「折角、競馬で一儲けしたんだし、パーッとやっちゃう?」

「いいわね~…んじゃ、いつものお店で…って、あれ?」

 

 ふと、道端の生垣が視界に入って、そこに弱々しく倒れている一匹の黒猫がいた。

 昔から動物は大好きで、特に猫は一番好きな動物だ。

 見ているだけで癒されるのよね~。

 

「どうしたの、カテレアちゃん?」

「あそこ…猫ちゃんが倒れてる」

「猫?」

「ほら、あそこ」

 

 指差しで教えてあげると、ブッキーも猫ちゃんの事を見つけた。

 なんだか気になったので近づいてみると、これといった外傷はないようだ。

 

「あ…この子。普通の猫じゃないわ」

「え?」

「この尻尾を見てみて」

 

 ブッキーがそっと猫ちゃんを抱き上げて、その尻尾を私に見せてくる。

 そこで私も、この子が普通じゃない事に気が付いた。

 

「尻尾が二本…?」

「そ。この猫は恐らく『猫又』ね」

「それって確か、長い年月を生きた猫が妖怪化した奴…だっけ?」

「大体はそんな所ね。けど、この子は違うみたい」

「っていうと?」

「恐らくだけど、この子は生まれた時から猫又だったのよ。猫又の両親から生まれたんでしょうね」

「なるへそ……」

 

 普通の猫が妖怪変化したんじゃなく、生粋の猫又だって事か。

 妖怪の事には余り詳しくは無いけど、それって珍しいのかな?

 

「普通ならすぐにでも気が付いてたけど、かなり弱ってるみたいね。魔力や妖力まで減少してる」

「どうする?」

「私も日本出身の(あやかし)だしねー。流石に見過ごせないかな~」

「なら、連れて帰りましょ」

「いいの?」

「勿論。私も猫は好きだし、それに…」

「それに?」

「大切な親友の意志は尊重したいしね」

「カテレアちゃん…♡ だから大好き! マジで愛してる!」

「私も大好きよ」

 

 取り敢えず、いつものお店でパーッとすることは止めにして、今日はこの子の事を診てあげる事にした。

 まずは薬局に行って包帯とか買った方が良いわよね…。

 それとも、その前に動物病院に連れて行くべき?

 いやいやいや…尻尾が二本もある猫ちゃんをどう説明するのよ私。

 突然変異ですーなんて言えるわけもないし。

 

 仕方がないので、自分達で薬とかを買って帰る事にした。

 それと、ついでに私達の分の夕食も買って行くことに。

 …猫又って何を食べるのかしら?

 キャットフード…は流石に可哀想よね……。

 そもそも、猫又の生体とか全く分らないし。

 ブッキーに頼るしかないか~…とほほ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんだかレイナーレが楽しいキャラに。
 
因みに、彼女は原作のように死んだりはしません。
やっぱ、皆で楽しく過ごすのが一番ですよね。

そして、謎の黒猫又の正体は……言わなくてもいいですよね?

次回は、残念レイナーレの続きと、新たなキャラの登場です。


カテレアとブッキーの筆下し…見たい?

  • 見たい!!!
  • 別に?
  • ブッキー! 俺だ! 結婚してくれ~!
  • カテレアお姉さまは俺の嫁!!
  • 一夫多妻で二人とも俺の嫁ですけど何か?

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