やはり俺の高校生活はまちがい続けている。 作:さっきのピラニア
特に目立った問題も無く、始業式当日。俺は朝の職員会議で教員達に職員室で自己紹介を済ませ、始業式までの時間潰しに軽く校舎を回る。校舎内には新二年生、三年生しかいないためか、心なしか閑散としている気がしないでもない。誰だコイツと訝しげな視線を向けてくる者、興味なさげに事務的な挨拶をしてくるもの、反応は様々だが、教員の名札を提げているため、一応は先生だとは認識してくれているだろうか。散歩してるうち、時間も近づいて来たため、赴任の挨拶を頭の中で反芻しながら、体育館に向かった。
始業式は赴任の自己紹介もあったが、特に滞りなく終了した。今日は特に授業もないので、明日以降の授業の準備に勤しんでいた。俺の担当授業は基本的に理系の学生が中心になるため、二年生より上の生徒が対象になる。前任の教師に関しては知らないが、俺のスタイルは受験でもある程度通用する学力を身に付けてもらうことを意識している。生徒のなかに既に受験も意識している人もいるだろうし、これは間違ってはいないだろう。出来れば全員の生徒が優秀な成績を出してくれれば良いのだが、得意不得意もあるし、どうしようもない所はある。総武高校は県内有数の進学校なので、平均的な高校よりは優秀な学生が多いとは思うのだけれども。
PCでたったかたったか、と小テストの準備をしていると準備室のドアが控え目にノックされる。どうぞ、と声をかけると建付の悪いドアがガララッと開かれた。
「失礼します。」
準備室に入ってきたのは、お下げ髪にヘアピンをした女子生徒だった。見た目からは図書委員をしてそうな雰囲気を感じさせる。ただその表情は少し固かった。
「えっと…」
彼女は口ごもる。もしかすると、授業の準備に少し水を差された不機嫌さが顔に出て、眉間に皺が寄っているのかもしれない。一旦目と目の間を揉みほぐし短く息を吐く。
「すまんな。顔が怖いのは生まれつきだ。そこに突っ立っているのも何だし、座ってくれ。」
そう言って俺は立ち上がり、席を引く。
「あ、はい。ありがとうございます。」
彼女は誘われるまま、席に着く。
特にもてなす用意はしていなかったので早めにやっておこうと思いつつ俺は言葉を続ける。
「そっちも緊張しているだろうし俺から話そうか。今日から正式に赴任してきました。横芝祐一です。担当授業は物理、宜しく。」
「あ、宜しくお願いします…。私は城廻めぐりです。今は生徒会長をやってます。平塚先生に話を聞いてお邪魔させてもらいました。」
最初は辿々しかった彼女は言葉を紡ぐにつれ、それは無くなっていく。これが通常の彼女なのだろう。
「ほーん。と、言うことは俺の生徒会長だった件も知ってるって事か。」
「はい。経験豊富な先生に色々とアドバイスを貰って来いって言われました。」
「経験豊富って言われてもなぁ…」
確かに俺は総武高校の卒業生だし、生徒会長でもあった。ただそれはもう何年も前の話だ。あの時と今は少し勝手も違うだろうし。アドバイスできることはあるかは不安ではある。事実ではあるが平塚先生は要らん事を言う。後で釘を刺しておかないとな。
あの時の事を思い出す。
生徒会の仲間と過ごした日々。そして彼女たちとの思い出。
若き頃の思い出は今となっては眩しくて、そして今はもう絶対に届かなくて。後悔先に立たず、覆水盆に返らず。伝えたかった想いは勇気が出なくて、理性で抑えつけて、あの場所を壊したくなくて、先延ばしにし続け結局は全て台無しにしてしまった。少なくとも俺の中では。あの時欠けてしまったピースは何年もそのままで埋まらずにずっと心の中の泥の深い深い底に沈んでいて、そして偶に顔を覗かせる。過去の自分が今の俺に問いかける。本当に良かったのかと。あの人との関係を、思い出を断ち切ってしまっても良かったのか、と。大切だと掌で強く握りしめていた宝石は、気付くとその手の中で粉々に砕けてしまっていた。大切だと、誰にも渡したくないと抱いていたあの時もあの想いも、全て自分が壊してしまった事に事に気付いたとき。酷く狼狽した。あの時の選択は正しかったのだと、自分に何度も何度も言い聞かせた。選択が間違えたことを認めたくなかった。答えは、未だに出ない。
「…あの…先生?」
俺の様子に城廻めぐりが俺に心配そうに聞いてくる。そんな変な顔をしていただろうか?
「…いや、すまん、考え事をしていた。まぁ数年前の話だしあまり自信は無いが出来ることは手伝うさ。何かあったら此処に来てくれれば良い。昼休みと放課後はここにいるだろうから。」
「はい、宜しくお願いします。」
「おう、そのうち生徒会には挨拶に行くよ。その時は紹介してくれると助かる。」
「はい!かしこまりです!」
そう言ったあと彼女は顔を赤くする。彼女なりのユーモアだったのか?それとも今時の女子高生の流行りなのか、思わず苦笑してしまう。俺は小さく咳払いをして答える。
「ん…まぁ…わざわざ来てくれてありがとうな。…っと、そういえば入学式の祝辞とかはもう大丈夫か?」
「はい!他の先生に事前に確認してもらってるので大丈夫です!」
「なら良し、か。あとは物理で質問があれば気軽に聞きに来てくれ。テストの内容までは教えないが、まぁ傾向とか対策とか教えるのも吝かではないさ。」
そしてお互い二言三言言葉を交わし、城廻めぐりは準備室から出ていった。こんな所に長居するのも気まずかろう。
胸ポッケから煙草を取り出し火を点ける。バニラの甘味が鼻を抜け、部屋の中に煙が充満し、そして開け放たれた窓へと流れていく。
さっき、動揺は隠せていただろうか?城廻の様子からだと、隠せていなかったのだろう。
彼女は近くにいるのだろうか?今の俺を見たら何と言うのだろうか?
変わらないね、と取り繕い。過去の事は水に流し、昔話に花を咲かせる?他人と無視して歩き去る?…もしくはあの時の答えをもう一度問いただしてくる?
分からなかった。卒業してから連絡も取っていない。お互い気まずさから連絡を絶ってしまい意地を張り続けたまま此処まで来てしまった。彼女は引きずらず先へ歩んでいるのだろうか?
短くなった煙草をもみ消し、再度PCへ向かう。目の前に並ぶ文字列は一向に数を増やさず、無駄な時間ばかりが過ぎていく。どこかの烏の鳴き声が、俺を嘲るように鳴いている。そんな気がした。
おばんです。
見切り発車で投稿を続けるアホーな作者は私のことです。
この作品でオリキャラは一応現時点では二人…の予定になるかと。
私の頭がアレなせいで、どうなるかは確約ができないのが、少々心苦しいところではありますが読んでいただけると嬉しい限りでございまする。
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