やはり俺の高校生活はまちがい続けている。 作:さっきのピラニア
とある週末
チャイムが鳴る。
俺は特に確認せずに扉を開けた。どうせ宅配便か何かだろう。
扉を開けると肩より少し高めに切りそろえられた、美人がそこにいた。先日準備室に現れた雪ノ下陽乃である。
彼女を認識するや否や、俺はすぐさま扉を閉め…、ようとしたが阻止された。
閉めようとする俺と開けようとする彼女の鍔迫り合いが始まる。
「そんな全力で閉めること無いじゃん!可愛い後輩が来ただけじゃん!ちょっとぐらいお邪魔しても良いじゃん!
「お邪魔するんじゃなくて邪魔しに来てんじゃねぇか!そもそも呼んでも無いからな!」
結局身体を扉に挟まれ、家への侵入を許してしまった。立派な不法侵入である。
侵入を果たした彼女は満足気な表情ながら、ぜぇはぁ、と彼女は少し息が上がっているようだった。
「…ふぅ。全力で拒絶することは無いんじゃないかな?」
なんか彼女がぶつくさ言っていた。
「全力ではないな。99%くらいだ。」
「ほぼ全力じゃん!」
彼女の文句は適当に受け流し、俺は諦めて部屋へ戻る。お邪魔しま~す♪と特に悪びれる様子もなく部屋に入ってくる。
誠に遺憾ながら、一応来客ということで茶ぐらいは出してあげなければいけないか。
俺はキッチンでコーヒーメーカーにカップをセットし、ボタンを押す。豆が挽かれる機械音、乾いた焙煎豆の芳香が僅かに広がった後、蒸らされたコーヒーの香りが部屋の中に充満していく。
部屋に戻ると、彼女はソファーに座り周りを見回しながらニマニマしている。何が楽しいのだろうか。
「ほらよ。」
「お、ありがと。意外と優しいんだねぇ。」
「招かれざる客だが形式上はもてなすさ。それ飲んだら帰れ。」
「え~釣れないなぁ。」
多少の不満を口にしながらコーヒーに口を付ける。飲む姿はやたら様になっているのは、カリスマ性のある人間特有のものなのだろうか。
「で、どうして来た?教えてもいないのに。」
「それは企業秘密♪理由はな・ん・と・な・く♪」
軽く笑みを浮かべ、秘密めかした様に彼女は言う。教えてもいない人物に家を知られているのは普通にホラーなんだが。
ソファーの横に目を向けると、見知らぬそこそこ大きなカバンが置いてあった。本が入っているのかずんぐりむっくりしている。中々に重そうだ。
「ん、ついでに課題でもやろうかなって思って。」
「えぇ…」
ふ~、と俺は大きくため息をつき、ベランダの扉を開け煙草に火を点ける。一口付け肺に回し、大きく吐き出す。吐き出された紫煙は空気と混じり、溶けて無くなっていった。
「え~先輩って吸う人なんだ~、私煙草嫌~い。」
不満を口にする彼女ではあったが、机には既に資料が広げられ、既に居座りモードである。本当に帰って欲しい。
「嫌なら帰れ。というか帰れ。」
「酷~い。」
「静ちゃんとはどういう関係?元恋人?あ、でも静ちゃんの好みっぽくないから違うかもな~♪」
彼女は冗談なのか本気なのか不躾に聞いてくる。普通に失礼な一応後輩である。
「…只の元クラスメイトだ、あと成績で張り合っていたな。国語だけだったが。」
高校時代、平塚先生と俺は国語の成績で張り合っていた仲。というのは一般的な認識だと思う。
…とは言っても意識していたのは彼女だけだったし。他の成績では俺が圧倒していたわけではあるのだけれど。
「ふ~ん勉強は出来たんだぁ。そんな雰囲気はしてたけど。」
彼女は興味なさげに資料片手にペンを走らせ続けている。
「ホント〜に静ちゃんとは何もなかったの〜?気になっちゃうな〜♪」
「彼女とは何も無かったよ。変な事聞くな。」
「『彼女とは』って事は他の人とは何かあったって事なんだ♪」
彼女の言葉に煙草の灰を取り落とす。落ちた灰は砕け、足元へパラッと散らばっていく。
彼女は正解したのが
嬉しかったのか、ニンマリと上機嫌にこちらを見つめていた。
「…これ以上は聞く気なら本気で部屋から叩き出すぞ。」
「おぉ怖い怖い。これは熱りが冷めてからにしよ♪」
「熱り冷めても話さねぇよ。何もないしな。」
そう言って俺は2本目に火を点ける。次は彼女は何も言ってこなかった。
しばらくの静寂、部屋の中に響くのは彼女のページを捲る音と、ペンを走らせるサラサラとした音だけだった。
俺は手持無沙汰に彼女の横の本を開く。中身は建築関係の参考書の様だった。
彼女はしばらくレポートを書いた後、コーヒーの例を言って帰って行った。また来るから、との言葉を残して。
彼女が部屋に残した仄かな香水の香りがやけに鼻についた。