先輩のカルデア/ライフ   作:Eクラス

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2021年大晦日の新作FGOのアニメ見てしまったが故の投稿。暖かい目でよろしくお願いします。


其れは宿業からの解放なり

 2021年1月1日、時刻はAM7:30。

 

 先輩の故郷、日本でしたらお正月の行事が始まるのですが、ここカルデアの食堂ではお正月とは無関係にも、何やら物々しい雰囲気に包まれていました。

 騒がしいのはいつものことです。

 古今東西、時代も逸話も違う沢山のサーヴァントの皆さんでカルデアはいつも賑やかなのですが、どうやら今日はそういう楽しい雰囲気とは少し違うみたいです。

 

 食堂に入った時から分かる、なんとも言えないピリッと張り詰めた空気と言いますか、「あっ、これは何かトラブルが起きてしまった後」と一発でわかってしまう空気になっていました。

 それもそのはず、先輩のいるあちらのテーブルの方では何やら揉め事があったみたいです。

 

 近くで、カーマさんが子供姿で大泣きしています。

 それをパールバティさんとキアラさんが、慰めているのかは分かりませんが、駄々をこねる子供をあやす様に泣きじゃくるカーマさんを宥めていました。

 

 な、何があったのでしょうか。

 先輩は泣きじゃくるカーマさんに背を向けて席についていました。

 もうそれは態度の悪い格好で着席しています。

 けっ、などとカーマさんに悪態を吐く始末。

 珍しく口も悪い不機嫌な先輩です。

 また喧嘩でもしたのでしょうか。

 正直、触らぬ神に祟り無し。新年早々からトラブルに巻き込まれたくないと思うのがヒトとしての本能、サーヴァントのみなさんも心のどこかでそう思っていらっしゃるのでしょう。距離を置いて事の成り行きを見守って、いえ、もうそれは苦虫でも噛み潰したかのような苦い顔をしていました。

 カーマさんによる子供の癇癪がよっぽどだったのでしょうか。

 

「本当に何があったのでしょうか……」

「フォウフォーウ……」

 

 このままでは埒が明かない。

 そう思った私は、フォウさんを肩に乗せて先輩の元へと向かいました。

 正直言って、スルーしたい案件なのですがそういうわけにもいきません。

 

 しかし、先輩たちのいるテーブルに辿り着くことはできませんでした。

 誰かに手首を掴まれ、お節介にも私を止めてくれたのです。

 

「マシュ、今は近寄らない方がいいわよ」

「あ、イシュタルさん。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 

 女神イシュタルさんが止めてくださいました。珍しく早起きしています。

 

「はいはい、おけおめことよろ。お互い新年早々こんなくだらないトラブルに遭遇するだなんてツいてないわね。今はアレらに関わらない方が不幸中の幸いよ、放っておきなさい」

「はぁ、まぁそうなんですけどそういうわけにもいかず……あの、先輩たちに何があったのですか?」

「うーん、私もさっき来たばかりだから全て知ってるわけじゃないのだけど、簡単に云ってしまうと新年早々ハッピーニューイヤーピックアップ召喚とかで大爆死した藤丸をあの女神がイジったんですって。それで沸点の低い藤丸がブチギレたってところよ。まっ、いつものやつ?」

「……」

「フォウ……」

 

 もうですね、フォウさんがため息を出してますよ。

 

「あの女神もバカよねー。去年も同じようなこと散々してきて懲りないのかしら? なまじ絆レベル7だと度が過ぎるというか、ブレーキが効かなくなるというか不憫でしょうがないわねって話し。その点、私やマシュは絆レベル5で丁度よく理性をコントロールできるから安心ね」

「……はぁ」

 

 もうですね、私もため息しか出ません。

 これで何度目でしょうか。というか、先輩。私の知らないところでまた大爆死したのですか……

 

 確かに、先輩にとってブチギレ案件ですね。

 確か、聖晶石を550個ほど貯めておられていたはずです。去年の5周年から無課金宣言をし、コツコツ苦労して貯めに貯めた無償石で大爆死したのですから。

 心のダメージは私では計れません。

 それは先輩にとって人類の存亡をかけた戦いの次ぐらいには深刻な問題だったはず。しかも、今年はあの村正さんが実装されるとかなんとかで、先輩は年を跨いではしゃいでおりました。もちろん、私は釘を刺しておきましたけどね。今日はもう遅いので、朝起きておせちとお雑煮を食べてからガチャを回しましょうと。

 だから、新年早々、幸先の悪いガチャ召喚となってしまったのです。

 

 それで、新年早々不機嫌な先輩を茶化してしまったカーマさんは先輩の逆鱗に触れてしまったと。それであんなにわんわん泣いて駄々捏ねて先輩の気を引かそうとしてパールバティさん達まで迷惑をかけて。

 ほら、ジャックさんやナーサリー・ライムさん達も先輩からお年玉貰いに行きづらそうにしていますよ。

 

 まったく、この人たちは本当に世話が焼けますね……

 

「で? それでもマシュは仲裁しに行くのかしら?」

「はい、行きますよ」

「本当にマシュって真面目ちゃんね。放っておいたらいいのに」

「それでも。私は先輩のサーヴァントですから」

「ふーん……」

 

 そうなのです。

 たとえ今は近寄りがたい先輩でも私がやらなければならないのです。

 他にも先輩のことを心配して、事の成り行きを見守り続ける系のサーヴァントの方がいらっしゃれば、何やらウォーミングアップを始める先輩を慰めたい系の若干興奮された方々もいらっしゃったり、お姉ちゃん系サーヴァントは何故か妹さん達に連行されて食堂を退場されましたが……

 

 私が先輩のファースト・サーヴァントであり代わりを譲るつもりもありません。

 

「先輩、おはようございます」

「ん? あぁ、おはよう。マシュ……」

 

 たとえ、不貞腐れてテーブルに突っ伏して不貞寝している先輩でも放っておけるはずがありません。

 

「昨日、あれほど言いましたよね? 朝起きておせちを食べた後にガチャを回しましょうと」

「……」

 

 は、反応なし……と。

 

「先輩、起きてますか?」

「起きてるよ……」

「じゃあ答えてください。お正月ガチャは運が良くないことは毎年恒例でわかっていたのにどうして血迷ってガチャしたんですか? なんでいつものように途中で『あ、これ絶対出ないやつだわ。物欲センサー働いてる』と踏み止まれなかったんですか?」

「し、深夜2時教ならいけると思ったんだよ……」

「いえいえ、それだけじゃないはずです。私の先輩がこんな愚行おかしいですよねー?」

「ぐ、ぐだ子の奴が20連で村正出しやがったんだよ……」

「それで、先輩はもう1人の先輩に煽られて私に相談もなくこっそりガチャ回したと??」

「はぁ〜あ、こんなはずじゃなかったんだけどな……」

「……」

 

 聞けば聞くほど、なんとやら。

 どう返していいのか返答に困りました。

 

 しかし、納得と云いますか、腑に落ちました。

 何故、先輩がおせちを待たずして私に相談もなくこっそりガチャを回したのか、その原因がわかりました。

 フレンドのもう1人の先輩に煽られたという悲しいオチです。

 何故、並行世界の先輩とチャットのやり取りができるのかはダ・ヴィンチちゃんやホームズさん、シオンさんですら解明不能なのですが、何やら先輩達はそういう【フレンド】というシステムを利用しているみたいです。

 それでいつものようにチャットでのガチャ結果のマウントの取り合いに負けたということでしょう。

 

 まぁ、そういう経緯があり、新年早々に不機嫌な先輩をカーマさんはイジったからこうなったのでしょう。

 

「いつものことですが、大爆死をしたからってカーマさんに八つ当たりするのは良くないですよ。後で一緒に謝りましょうね」

「それはやだ……」

 

 カーマさん以上の子供がここにいました。

 先輩も駄々をこねております。

 先輩は駄々っ子です。

 

 本当に、このお子さまマスターのご機嫌を取るには一苦労します。

 フォウさんも空気の如く呆れて合いの手も入れようとはしてくれません。

 

「マシュ、俺はさ――――――」

「はい、何ですか? 先輩」

 

 先輩が私の方を見ました。

 やっと見てくれました。視線を合わせてくれました。

 不貞腐れた先輩の顔がそこにあります。

 これがオリュンポスを攻略して平安京でリンボの企みを阻止した人類最後のマスターの顔には到底思えませんけど。

 

 先輩はこう私に告げるのです。

 

「――――――俺は、村正を引くまで謝るつもりはありませんっ!!」

「あ、先輩……っ!??」

 

 もう謝って仲直りして欲しいのですがっ!!

 

 しかし、私が何か言う前には先輩は勢いよく席を立ち食堂を後するのでした。

 ちょっとATM行ってくると聞こえたのですが……

 先輩が食堂から出て行く際、逃さないとカーマさんが先輩の前に立ちはばかるも先輩に突き飛ばされるところはしっかりと見届けました。

 カーマさん食堂の入り口でまた泣きじゃくる子供のごとしです。

 

 これは誰が悪いのでしょうか?

 私のフォロー不足なのでしょうか?

 カーマさんが茶化したからでしょうか?

 それともフレンドのもう1人の先輩のせいでしょうか??

 

 そういうことなので、もう私は疲れました。

 

「フォウさん、先輩のことは放っておいてお節食べましょう」

「フォウフォーウ!」

 

 先輩が村正さんを引き当てるまで、私はここから動きません。

 

 

 世界の秩序は燃え尽き、多くの意味は焼失した。

 

 たとえ、地球が白紙化されようとも、

 

 人類最後の戦いを続けるカルデアに、めでたく2021年がやって来る。

 

 そして、人類最後のマスター・藤丸立香はダ・ヴィンチちゃん工房へ駆け込んでリンゴカードを6枚ほど購入しましたとさ。

 

「くっそ、ちょうど100連目で村正が当っちまった!? 予想より早く当てちまった!? これは素直に喜んでいいのかダ・ヴィンチちゃん!?? 今、流れ来てる?? 来てるよな!??」

「おめでとう、藤丸くん。もう残りの石は6周年まで温存しておきなよ?」

 

 2021年、もうリンゴカードを買わないことを藤丸は決心した。


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