姫野達に塩水や調理用油などを渡して分かれた俺は、書斎で不要そうな本を探していた。しかし何かを感じ取った俺は、本を探す手を止める。
(殺気が少しずつ強くなっている……これは急いだ方がいいな)
さっきチラッと見たが、この家のあちこちに血が付着していた。勿論、俺がここに来たばかりの頃にはなかった。そしてここに来たばかりの頃と比べ、殺気が強くなっている気がする。奴はそろそろ決着を付ける気なのかもしれない。急がねば、と俺は探索を再開する。
しかしどれもきちんと棚に入れられており、不要そうな本の類いは一切見つからない。
(無駄足だったか……ん?)
無駄足かと思い書斎を後にしようとした時、棚に入れられておらずビニル紐で縛られた本の束がいくつか置いてあるのを見つけた。
(不要じゃなければわざわざビニル紐で結ぶわけがない。よし、これを持っていくとしよう)
そうして俺は一番軽い本の束を持って二階の和室に向かうのだった。
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和室の襖を開けると、姫野達が待機していた。
「悪い、遅れた。早く暖炉に火を付けるとしようか」
そうして俺は暖炉に火を付ける準備を始める。
まずは書斎で取ってきた本の束を暖炉に置く。
「神代、今更だがこの本は燃やしても大丈夫なものか?」
「本当に今更ね……紐で結ばれてたんなら、いらないやつだからいいと思うけど……」
書斎にはあまり入ったことがないのか、神代は言い淀んでいる。とりあえず緊急事態だからということで許してもらうとしよう。
次に調理用油を本に少しだけかける。多すぎると、爆発する可能性があるからだ。
(最後にライターで、油のかかった場所に火を付ければ……)
油のかかった場所に火を近づけた瞬間、一瞬だけ大きな炎が出てくるが、時間が経つと普通の炎が出て、本をみるみるうちに燃やしていく。何とか、成功したようだ。
これで、準備は整った。
「よし、後は奴を誘き寄せて拘束して燃やすだけだな」
「でもあれがいるところなんて分かるの……?」
姫野が心配そうに聞いてくる。
「それに関しては問題ない。さっきから台所辺りに、今までとは比べ物にならないほど強い殺気を感じるからな」
さっきからこの和室の下の北東の向きから、強烈な殺気がする。床越しでも伝わってくるほどだ。
「そんなの分かるの? あんたの家って特殊な家系か何か?」
「さあな。それより、二人は何か重くて硬いものを持ってきてくれ。奴をここまで誘き寄せて、俺がそれで殴り付ける。そして、気絶したところを俺が暖炉で燃やす」
「わ、分かったよ!」
姫野と神代は和室を出ていく。……前に、神代が足を止めた。
「……死なないでよね」
「安心しろ。死ぬ気はないからな」
少し笑みを浮かべながら言ってやると、神代も安心したようで出ていく。
「さて、そろそろかくれんぼはお開きとしようか……!」
俺は和室を出て、階段を目指す。
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台所へ行くと、奴がテーブルに座ってテレビを見ていた。しかしテレビには砂嵐しか映っていない。
「……おい」
俺が低い声で言うと、テレビがプツリと消え、奴が振り向く。
「ミーツケタ♪」
奴はテーブルから降りるとすぐに襲いかかってくるかと思ったが、奴は喋り出した。
「ボクモウアキチャッタンダ。ダカラオワリニシテアゲル」
「……それはひとりかくれんぼを、ということか?」
もしやと思い、俺は聞いてみる。
ビュン
「ッ!」
しかし返答は包丁を突き出しながらの突進だった。咄嗟に横に避けたことによって当たらなかったが、少し危なかった。奴は振り返って言ってきた。
「キミタチガシネバオワルヨネ?」
ああ、一瞬でも話が通じるかもしれないと考えた俺がバカだった。
「お前が死んで終わる方法もあるぞ?」
俺は挑発混じりに返してやった。再び奴は突進してきたので、また横に避ける。そして台所を思い切り飛び出した。
(後はこいつがバカ正直に着いてきてくれるかだが……!)
俺はそんなことを考えながら階段に向かって走る。後ろを見てみると、奴はちゃんと着いてきているが、和室までずっといけるかと聞かれると、正直分からない。俺達の策に気づいた奴が、行動を変えてくる可能性も少なからずある。
しかしそんなことを考えても、今の俺にできることはただ策に嵌まるのを祈りながら走るだけ。奴が策に気づいていたとしても、だ。今はただ、走り続けるしかない。俺は階段を駆け上がりながらそう思った。
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美琴side
私達は鬼道君に言われた通りに、重くて硬いものを和室に運び込んでいた。持ってきたのは、由佳のお兄さんの椅子だ。由佳の部屋にあったものと同タイプだが、あの人形を倒すには丁度いいだろう。
「美琴……鬼道、遅くない?」
由佳が聞いてきた。なんだかそわそわしているようで、由佳らしくない。由佳は普段は度胸があって、落ち着いているのだ。
「大丈夫だよ。鬼道君は戻ってくる。必ず」
だから私は、落ち着いたように答えて見せる。親友が落ち着きをなくしている時は、自分がやってみせるのが一番だと思う。
それから少し経って、また由佳が口を開く。
「ねぇ……やっぱり遅いよ……もしかして、どこかでやられちゃったんじゃ……」
「ちょ、ちょっと待って! 急にどうしたの? 由佳らしくないよ」
由佳がこんな風にネガティブな発言をするのは珍しい。私は由佳に聞いた。
「……よくよく考えれば、私、家族だけじゃなくて、美琴と、鬼道まで巻き込んで……もし、このまま鬼道が戻って来なかったら……私が、鬼道を、殺したことになって、そしたら……あ、ああ、ああああああああ……!!」
「由佳!? 由佳!」
由佳は顔を真っ青にして、頭を鷲掴みにしながら歯をガチガチと鳴らしている。……私も考えたくないが、もしそうなってしまった時の罪の意識に耐えられなくなったのではないだろうか。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい私がひとりかくれんぼなんか始めたばっかりにこんなことに」
「由佳! 落ち着いて、由佳!」
完全に正気を失ってる。こんなことが今までなかったので、私にはどうすればいいのか分からない。本当にどうすればいいの……!?
「……これはどういう状況だ?」
いつの間にか和室の襖付近に鬼道君が立っていた。
「鬼道君! 由佳が……鬼道君が戻って来なかったら、自分が鬼道君を殺したことになっちゃうって、それから……」
「……もういい。ある程度理解した」
鬼道君はそう言うと、由佳の方に一直線に向かってくる。由佳は未だに何かを呟き続けている。
「おい、神代」
「あ……え……鬼、道……?」
「ああ、鬼道だ。神代、少し言葉足らずだったようだ。俺は巻き込まれたと思ってはいるが、それを恨んではない。安心しろ。もし俺が死んだとしても、できるのなら俺はそれを自分のミスだと割りきる。何があってもお前のことは恨まない。それは約束する」
「ほん……と……?」
「本当の本当だ。さあ立て神代。自分で始めたことに罪悪感を感じるなら、その後の行動で示せばいい。その塩水でな」
鬼道君は、畳に置いてある塩水のコップを指差す。そうだ、忘れていたけど、ひとりかくれんぼはぬいぐるみに塩水をかけないと正しく終わったことにならない。
「……うんっ……!」
由佳が立ち上がった。その顔は、先程までの怯えていた顔ではなく、いつもの逞しい由佳だった。
「ごめん、いつまでも迷惑かけっぱなしで」
「気にするな。……さて、そろそろお出ましのようだぞ」
私達は襖の方を見る。開いた襖の横からゆらりと、ぬいぐるみが登場した。
「ミンナ、ミーツケタ♪」
ぬいぐるみがそう言って動き出したのを皮切りに、鬼道が一瞬で私達が用意した椅子のところまでいき、背もたれを持つと同時に振りかぶった。
「地獄へ還れ、亡霊がッ……!」
そして一瞬で近づき、ぬいぐるみに向けて思いっきり振り下ろした。
ガンッ!!
またしてもぬいぐるみを殴ったとは思えない音が鳴り響き、ぬいぐるみはうつぶせに倒れる。
「……ふぅ。姫野、粘着テープをくれないか」
「あ、うん」
私は持っていた粘着テープを鬼道君に渡す。そして鬼道君は椅子を下ろすと、そのテープでぬいぐるみを拘束しようと近づいた。
……その時だった。
ザクッ
肉を裂くような音が、和室に響いた。
「「ッ!?」」
ゴトッ
次に、粘着テープが落ちる音がする。
「ごはっ……あ……!?」
最後に、鬼道君の苦しむ声がする。
これだけで、私達は何が起こったのか察してしまった。
ぬいぐるみが……鬼道君を刺したのだ。
「アハハハハ! コンナノニダマサレチャウナンテ!」
「うぐっ……うあ"あ"っ……」
ぬいぐるみは笑いながら、その包丁を深々と鬼道君の腹に刺し込む。包丁の刃が深く入り込む度に鬼道君が苦しみ、血が鬼道君の腹から、口から垂れてくる。
止めなきゃいけないのに、私達の体は動かなかった。目の前で行われている殺戮。それが途轍もなく恐ろしい。ああなりたくない。体がそう言い訳をする。
だが、ここで止めなければ鬼道君は間違いなく死んでしまう。必死に体を動かそうとしていた時だった。
鬼道君の腕が、ぬいぐるみの包丁を持つ腕を掴み、そして引き剥がした。突然のことで、ぬいぐるみは包丁を手放してしまい、包丁は鬼道君の腹に刺さったままになる。
「はぁ……はぁ……やっと……捕まえたぞ……!」
「ッ!? ハナセ!」
「誰が離すか……! 大人しく……しやがれッ……!」
鬼道君はぬいぐるみの両腕と首を畳に押さえつけた。
「神代……! 塩水……!」
「で、でも」
「早くしろッ!」
「わ、分かった!」
由香は塩水のコップを取って、半分の塩水を口に含んだ。そしてぬいぐるみに口の塩水、コップの塩水をかけた。
「私の勝ち、私の勝ち、私の勝ち……!」
これで後は燃やすだけだが、ぬいぐるみは未だに抵抗を続けている。鬼道君はぬいぐるみを押さえつけるので精一杯。鬼道君が床から離せば、間違いなく逃がしてしまうだろう。
どうすれば、と思った私の目に、鬼道君が落とした粘着テープが写った。
もう、これしかない。
怖いのがどうした。
私は粘着テープの方へ走り、それを拾ってぬいぐるみに巻き付けた。鬼道君が押さえてくれていたので、巻くのにそう苦労はしなかった。
「はぁ……はぁ……すまない、姫野……」
息も絶え絶えに鬼道君が言う。
「全然いいの。それより、これを早く燃やさなきゃ!」
私はぬいぐるみを掴み、暖炉に目を向ける。その時、上から何かのしかかってきたような重圧が私達に降りかかる。
「うぐっ……がはっ……!」
もちろんそれは鬼道君も例外ではない。重圧に思わず膝をついてしまった鬼道君は、その衝撃に耐えきれず吐血してしまった。
「鬼道君……!」
「余計なことは考えるな……! 奴を燃やすことだけ考えろ……!」
鬼道君は震えながら立ち上がり、ぬいぐるみを掴む。まだ腹に刺さっている包丁が痛々しいが、鬼道君に言われた通り気に留めないようにした。
でないと、足がどうしても止まってしまいそうだったから。
「美琴……! 鬼道……!」
後ろから由佳が背中を押してくる。その顔は、冷や汗をかきながらも逞しさを失っていなかった。
由佳の助けを得ながら、私達は少しずつ暖炉へ近づく。重圧は少しずつ増してきている。息をするのも苦しくなってきた。
「っ……はぁッ……!」
一番辛いのは間違いなく鬼道君だろう。この重圧、そして腹の傷からは絶え間なく血が垂れている。
鬼道君のためにも、早く終わらせないと!
「あとは……頼んだよ……二人ともっ……!」
由佳が最後の気力を振り絞って、私達を押す。由佳は限界なのだろう。
鬼道君の方を見ると、鬼道君も私の方を向いてコクリと頷いた。
私達はぬいぐるみを持つ手を後ろに回した。ぬいぐるみを暖炉に投げ込む体制だ。
「燃えろっ……!!」
鬼道君の声を合図に、ぬいぐるみを思い切り投げ入れた。
「アアアアアアアーーーーーーー!!!!」
甲高い断末魔をあげて、ぬいぐるみは燃えていった。
「終わった……の……?」
そう言うと、私の体からすべての力が抜けていくような気がした。膝をついてそのまま女の子座りになる。
「そう……だな……」
その言葉を最後に、鬼道君は崩れ落ちた。
「鬼道!? 鬼道! しっかりして!」
由佳が鬼道君を揺さぶる。しかしそれは悪手だ。
「由佳! 駄目! 止血をするから、由佳の部屋に置いてあると思う救急箱を取ってきて!」
「わ、分かった!」
由佳は急いで救急箱を取りに行く。鬼道君の顔色は悪く、息は荒い。かなり深い傷だ。このままでは間違いなく手遅れになる。
そうならないためにも、急いで、由佳……!
主人公のヒロインは誰?
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美琴ちゃん
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由香ちゃん
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どっちもだねどっちも
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ひとみこが正義や!(ヒロインなし)