由佳ちゃんの名前ですが、
『由香』ではなく『由佳』だったようです。前の話は既に書き直してあります。アンケートは流石に無理でした。申し訳ありません。
「……?」
目が覚めた俺は、気づけばよく分からない空間にいた。
表現できない色をしており、気味が悪い歪みがあちこちに発生している。
それだけではなく、高低差、奥行き、時間。現実に存在する要素が感じられない。
まるでここが現実ではないかのようだ。
「当タリ前ダ。ココハ貴様ノ心ノ世界ダ」
「……ッ!? 誰だ!?」
俺の前には、真っ黒な靄に包まれた存在が立っていた。顔、胴体、手足。見た目は全くといっていいほど分からない。
唯一分かるのは、その気配と言葉には、途轍もない怒りと憎しみが感じられるということ。
放たれる圧は、全身が警鐘を鳴らすほどだ。
奴はここが俺の心の世界だと言った。
だがそれなら、奴のことを少しでも知っているはずだ。何せ自分の心の世界に住む存在なのだから。
しかし俺は全く奴のことを知らない。何故ここにいるのか、とさえ思う。
「……ここが俺の心の世界だと言うが、お前のような存在、俺は知らないぞ?」
圧から来る恐怖に耐えながら、俺は言う。
「我ガ一方的ニ知ッテイルダケダ」
「はぁ……?」
ますます意味が分からない。ここは俺の心の世界で、奴は俺のことを一方的に知っている。
「お前は、誰だ……?」
確信をつく質問をする。
「直ニ分カル。貴様ハ我ト一ツニナルノダカラ」
それだけ言うと、奴は空間の奥に歩いて行ってしまう。
「お、おい。話は、まだ」
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「ッ……!」
「っつ……!」
腹がズキッと痛む。そうだった。あのぬいぐるみに刺されたんだ。だが俺の記憶では、かなり深く刺さっていたはずだ。それこそ、手術が必要になるくらいには。
しかし俺の腹は、包帯は巻かれているものの、腹を動かしても少し痛む以外は問題ないくらいに回復している。
どういうことだ……?
「おや、目が覚めたか」
俺が思考に浸ろうとした瞬間に、姫野のものでも、神代のものでもない声がする。その声がした方向に目を向けると、そこには銀髪の男性が立っていた。身長は平均より少し高いくらいで、茶色の目に細目の睫毛、高めの鼻に綺麗に結ばれた口。間違いなくイケメンの部類に入るだろう。
「……俺は鬼道龍護。あなたは?」
人に名前を聞く時は自分から、と幼い時から口酸っぱく言われてきているので、先に名を名乗ってから名を聞く。
「氷室等。菊川警察署の刑事だ」
やはりか……。おそらくあの後、二人が呼んだのだろう。俺はため息を吐く。あれだけの大事に発展したんだ。警察が出てこないのがむしろおかしい。
「……その様子だと、予想はしていたみたいだね」
「あれだけの大事になっておいて、警察が出ない方がおかしいでしょう」
「まあ、それもそうか」
「で、警察の方が俺に何の用ですか」
少し不機嫌なのと、警察が役に立たないと最初から分かりきっている俺は、少し喧嘩腰に尋ねてしまった。
「そう喧嘩腰にならないでくれ。君とは、話がしたいだけなんだ」
「……いいですけど、事件の捜査には少しも役に立ちませんよ。俺の情報なんて」
そう。大事とはいえこんなオカルトチックなこと、ましてや警察が信じるとは思えない。俺が話したことは、全て戯れ言と切って捨てられるのがオチだろう。
「……呪われた人形のことか? 安心しろ。だから俺がこの事件の担当になった」
「……何故それを?」
俺は真っ先にそれを聞いた。俺は先程まで眠っており、俺から話したということはまずあり得ない。考えられるのは……
「由佳君と美琴君から聞いてね。二人には、知っていることを全て話してもらった」
やはり、あの二人か。あの事件の詳細を知っているのは、俺とあの二人だけだからな。
しかし……それだけで信じるとは思えない。警察の人間なら尚更だ。
「どうして信じたんですか? それだけで信じるとは、失礼ですが思えません」
すると氷室さんは振り返って数歩前に進んで話し始めた。
「……神代家のご主人が、あり得ない状態で家を徘徊。皿の上にはその生首。風呂場には長男の切断死体。庭にはご婦人が腹を刺された状態で転落死。これだけ見せられたらな……。君達を疑う理由は何もないよ」
どうやら神代の家は、思ったより酷い状況だったようだ。そしてご婦人というのは俺が神代の家に来たときに見つけた女性で、長男というのは神代の兄だろう。風呂場は避けておいて正解だった。
しかしそれは同時に、神代の肉親の生存が絶望的だということでもあった。
「……そういえば、あの二人は?」
「ああ、そうだった。二人とも君が起きるのを外で待っていたんだ。あの後、君は病院に運ばれた。傷はまあまあ深かったけど、彼女達が応急手当をしてくれていたから、命に別状はないと医者は言っていた。二人にはちゃんと礼を言うんだよ」
姫野に教えておいた止血法に俺は救われたそうだ。
しかし疑問がいくつか残る。
「内臓に傷などは?」
「その可能性も否定できなかったから、病院で検査をしてもらったんだ。結果はさっきの通りだ」
先程の医者の言葉は、病院で検査をした後に言われたということか。
だがあの包丁の刺さり方からして、あれは間違いなく内臓まで到達していたはずだ。奇跡的に内臓をギリギリ避けたか? いや、腹部は内臓がこれでもかと言うほど詰まっている。奇跡が起きたとしても無傷はあり得ないだろう。
「……さあ、二人が待っている。顔を見せるだけでも、二人は安心するんじゃないか? 二人とも心配していたからね」
俺が思考に浸っていると、氷室さんからそう言われる。遠回しに顔を見せろとのことだろう。
「……そうですね」
俺は拒否する理由もないので、ベッドから降りて部屋を出た。
「「鬼道(君)!」」
部屋から出ると、横のベンチに座っていた二人に出迎えられた。
「この腹の傷、二人が手当してくれたんだって聞いたよ。ありがとな」
「そ、そんなのいいよ!」
腹の傷を手当してくれたことを感謝し、早速俺は今後について聞いた。
「……それで今後、二人はどうするんだ?」
少しの間を置いて、先に答えたのは姫野だった。
「……私は、全部無かったことにして今まで通り過ごすよ。氷室さんも、普通の学生生活に戻りなさいって言ってたし」
そう言うが、姫野の顔色は少し悪い。あんなことがあったんだ。すぐに元の生活に戻れるかというと、難しい。
「私も……。こういうのは、黙っとくのが一番だと思うから」
神代も同意見のようだ。
「そうか……。俺も、誰かに話す気はない」
「ありがとう……美琴だけじゃなくて、あんたまで巻き込んじゃってごめんね」
「もう気にしていない。終わったことだからな」
神代はまだ少し罪の意識があるようだ。だがこいつには親友の姫野がついている。よっぽどのことがない限り大丈夫だろう。
「さて……帰るか」
「うん……」
「ええ……」
俺達は少し重い足取りで、警察署を後にした。ここは少し田舎だが、駅まで行けば家に帰ることはできる。
しかしこれは序章に過ぎず、これから俺達は、更に壮絶な怪異事件に巻き込まれることになるとは思ってもいなかった。
主人公のヒロインは誰?
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美琴ちゃん
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由香ちゃん
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どっちもだねどっちも
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ひとみこが正義や!(ヒロインなし)