お爺さんを狂わせた元凶である白いものは、今もなお俺達を追いかけ続けている。あのクマのぬいぐるみ並みのしつこさである。
「このまま走り続けても、追い付かれるわよ!」
神代の言う通りだ。このまま宛もなく走り続けてるんじゃ、俺達の体力が保たない。
(どうすればいい……! こんな開けてる場所じゃ撒けないぞ……! 隠れるのものもないし……ん? 待てよ……? 隠れる……?)
俺は自分で思って気がついた。
「二人共、こっちだ!」
「「ええ!?」」
突然方向転換した俺に驚いたのか、二人が声をあげるも何とか着いてくる。
俺の前には、高さが俺の背丈並な草が生い茂っていた。
「この中を行くぞ!」
「こ、この中って……」
「まさか草の中!?」
俺は二人が驚いてる間にも、どんどん草の中を掻き進んで行く。少し進むと草が生えていないスペースがあった。
(ここまで来れば、奴は俺達を見失うんじゃないか?)
そのスペースの中で体を低くしていると、遅れて二人も俺のいるスペースにやって来る。
「い、一体どういうつもりなのよ……」
「静かにしてろ」
神代が文句を言おうとするも、それは奴を誘き寄せることになってしまうので、俺が口を閉じさせる。
暫く経つと、何かが消えるような音と共に怪異特有の嫌な空気を感じなくなる。俺が最初に草から出てみても、奴と思われるものはどこにもいなかった。どうやら、撒いたらしいな。
「もう出てきていいぞ」
俺が声をかけて少し経つと、二人が苦戦しながら出てくる。
「ったく……撒くためとはいえいきなり草に入るなんて……」
神代が服に付いた草を払いながら文句を垂れてくる。
「奴に捕まるよりこっちの方が何百倍もマシだろう」
奴らは人間にないおぞましい狂気を持っており、捕まったら最後、何をされるかわからない。あのクマのぬいぐるみは分かりやすかったが、奴の場合は死ぬより恐ろしいことが待っているかもしれない。
「そんなことより、早くここから出る方法を探さないと!」
姫野の言う通り、俺達はここに閉じ込められてしまったも同然の状態だ。逃げ続けてもいずれ限界が来る。それまでにここから出なければ。
「そういえば美琴、氷室さんに電話番号貰ってなかったっけ?」
「あ、そういえば!」
どうやら姫野は氷室さんに電話番号を貰っていたようだ。ありがたい。
「だとしたら、電話を探さなきゃ」
電話か……それなら心当たりがある。
「電話は……さっきのお爺さんの家にならあるんじゃないか? いくらこんな田舎でも、電話くらいは置いてあるはずだ」
俺達は先程の畑の途中にあったお爺さんの家へ向かう。鍵は開いていた。中は片付いており、掃除もしてあるようで埃っぽい感じはしない。部屋は一つだけだが、20畳ぐらいの広さがある。
肝心の電話は、床の間に置いてあった。
「えっと……待ってね。こういう電話を使うのは初めてだから……」
姫野は黒電話を使ったことがないようで、取り出した紙に書かれている番号を少し苦戦しながら打っていく。
「……あっ、繋がった!」
少ししてようやく番号を打ち終わり、姫野は受話器に耳を傾ける。コール音が数回鳴った後、誰かが電話に出る音がした。
「はい……どちら様で?」
声の主は氷室さんだった。
「氷室さん! 私です、姫野美琴です! 由佳と鬼道君もいます!」
『……美琴君? 一体どうした? 何か用か?』
姫野の切羽詰まった声に、氷室さんは落ち着いた声で聞いてくる。
「あの……私達、道に迷ったみたいなんです! それも、ただ迷ったんじゃなくて……同じところをずっとぐるぐると……」
『……ちょっと待ってくれ。状況が今一理解できない……』
氷室さんは、姫野の言っていることの意味が分からないようだ。それもそうだ、いきなり同じところをぐるぐる回っていると言われても、『そうですか』と理解できるわけがない。
「代わってくれ」
状況をうまく説明できず戸惑う姫野と代わり、俺は氷室さんに話しかける。
「電話代わりました、鬼道です。俺達は先程、白い布切れのようなものに追いかけられました。あのおぞましい気配から察するに、怪異だと思われます」
『……何?』
怪異、というワードを聞いた氷室さんの声が少しだけ低くなる。
「その怪異の影響だと思われますが、俺達がいくら駅に行く道を進んでも前の道に戻される……俗に言う、『無限ループ』に陥ってしまったようなんです」
『……なるほど、少しだが理解できた。それで、今はどこから電話をかけているんだ?』
「警察署をずっと西に行った田舎の、とあるお爺さんの家からです。そのお爺さんは、俺達を追いかけてきた白い布切れのようなものを見た瞬間、奇声をあげながらどこかへ走り去ってしまいました」
『……分かった。今から車でそっちに行くから、そこで待っていてくれ。むやみやたらに動き回るのは危険だ。美琴君達にも、そう伝えてくれるか?』
よかった。これで、助けが来るのは確定だ。あとは待つだけだが、もしかしたら対処法を知っているかもしれないので、念のため奴の正体についても言っておくことにした。
「分かりました。それと、白い布切れみたいなものについてなんですが、先程のお爺さんの件から察するに、奴の正体はおそらくーーーーーー」
「/,!#./,,&."!~|」
「「「!?」」」
俺達の真横で聞きたくない声が聞こえてきた。
「逃げろ!」
俺は二人にそう言い、受話器を放り投げてお爺さんの家から逃げ出した。
『……鬼道君!? どうした! 何があった!?』
受話器から聞こえる、氷室さんの焦っている声を背に。
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「どうしたんだよ等、急に大声出して」
俺が急に大声を出したことに驚いたのか、剛が聞いてくる。
「昨夜の事件の被害者の子達から電話があった。どうやら、新たな怪異に襲われているらしい!」
「はぁ!? 同じ人間が、1日も経たねえうちに二度も怪異と遭遇するなんてあり得るのか!?」
剛の言う通り、一般人が怪異と遭遇する確率は何百万分の一という、宝くじの上位賞が当たる確率並に低い。それが24時間経たないうちに、同じ人間に起こるなど、偶然ではあり得ない。
しかし先程電話から聞こえてきた、不快さに加えて狂気を孕んだ雑音のような声は、俺の経験上怪異としか考えられない。
「『確率は非常に低い』というだけで、0ではない」
昨夜の事件記録を見ながら、翔太が落ち着いた様子で言う。相変わらずこいつはマイペースだ。
「今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろ! 現に今、怪異に襲われてる人間がいんだぞ!」
「剛の言う通りだ。俺は今から車を出して、彼等を迎えに行く。お前達は?」
「もちろん行くに決まってんだろ!」
「俺も同行しよう。丁度、記録を見終えた」
二人は立ち上がり、外出する準備を始める。
頼む、無事でいてくれ……!
主人公のヒロインは誰?
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美琴ちゃん
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由香ちゃん
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どっちもだねどっちも
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ひとみこが正義や!(ヒロインなし)