狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第拾壱話

 6月頭、日曜日の昼前のとある街の公園。本来ならば、曜日と場所も相まって街の人々の憩いの場所となる所だ。事実、この公園は昼は家族連れが、夜には恋人同士の逢瀬に使われいる。

 だが、

 

「─────────」

 

 二人の少女がぶつかり合っていた。

 一人は山吹色のチャイナドレスに無手の茶髪の少女。

 もう一人は頭にバンダナを巻き、ローラーブレードにショートパンツとタンクトップの赤髪の少女。

 

 バンダナの少女が公園内の遊具を蹴って飛び回り、無手の少女はそれを受け流す。バンダナ少女が公園内を縦横無尽、四方八方に飛び回り、それを事もなにげに受け流すチャイナ少女。それだけでも、まずあり得ないしそれを目撃すれば誰もが目を疑うだろうが、この二人はそれをさらに越えていた。

 

「────モード『荊棘(ソニア)』」

 

 呟き、ローラーブレードの後輪が変形した。ホイールが分解され、一つに繋がり、鞭ようになる。そして、バンダナ少女が深く息を吸い、吐いて、

 

「シッ!」

 

 脚を振った瞬間、空気の棘が射出された。花を守る荊棘のごとく。  数十発の荊棘がチャイナ少女へと降り注ぐ。しかし、それに臆することはない。どころか、それらを目にすらせず、

 

「…………………………」

 

 舞うように受け流す。何かを口ずさんでいるが、声が小さいのと周りの音で聞こえない。殆どは身体を廻すことによって避け、最低限のみを舞いの延長で叩き落とす。自らに触れることは許さないと言わんばかりに。

 

 自らの攻撃が全て無効化されても、しかしバンダナ少女は驚かない。

 むしろ当たり前のように次の行動に移る。

 

「──────モード『(フレイム)』」

 

 再びホイールが変形する。鞭のようだった後輪は通常の形態に戻ったが、変わったのはホイールから出る音。正確に言えばその回転数。超速回転により音が激しさを増す。それにより、超高温の摩擦熱が発生し、

 

「増えます」

 

 バンダナ少女の姿が増えた。残像ではなく、摩擦熱で生み出した蜃気楼の十数人の分身だ。それらは一人一人が超高速でチャイナ少女へと迫り、

 

「……………………しゃらくさいわねぇ」

 

 舞いの決め手。単純な震脚で全てかき消された。単純と言えどもそれは物理的な衝撃波を生み出す絶招。文字通りに大地を震わせ、地震を発生させる。公園内の遊具が大きく揺れ、地面が捲れる。

 

 バンダナ少女の分身は全て消え、

 

「!」

 

 本体が突っ込んできた。一直線に迫るその速度は鋭く、速い。両脚に摩擦熱で生み出した超高温の炎の脚甲。ソレは圧縮された青白の炎。二人の姿が交叉する直前に、右の青白の炎脚が跳ね上がる。空気を揺らめかせ、焦がすそれはチャイナ少女の鼻先まで迫り、

 

「……………ちぇ」

 

 止まった。鼻を少し焦がすがそれだけだ。止めた訳ではない。その炎脚は確実にチャイナ少女の頭を粉砕するであろう威力を秘めていた。

 

 止めたのではない。

 止められたのだ。

 止めざるをえなかった。

 

 視線をズラし、自分の腹を見る。年相応に膨らんだ胸の下に添えられたのは拳。殴られたとか、打ち込まれたとかではなく、添えられただけ。だか、もし自分が炎脚を少しでも打ち込んでいれば、そこから打撃を打ち込まれただろう。

 それこそ必殺の威力で。

 

「やっぱり、強いですね」

 

「あんたも、腕上げたわね」

 

 それぞれ、拳と脚を下げる。互いに笑みを浮かべ合うその姿はそれまで死闘を演じていたようには思えない。いや──────彼女たちからすれば、それはただの演舞のようなものでしかなかったのかもしれないが。

 

「つーか、熱っ! 熱っ! 鼻燃えてるじゃない!」

 

「え、ああ! 水、水!」

 

 と、二人で騒いでいたら

 

「ほら、ハンカチ。濡らしといたから」

 

 差し出されたのは濡れたハンカチだ。それを差し出したのは、ラフな格好の腰に日本刀を差した少年。言わずと知れた織斑一夏だ。

 それをチャイナ少女──鳳鈴音は受け取り、

 

「あー、思ったより大分熱かったー」

 

 青白いほど高温の炎が触れたのだから熱いのは当然なのだが。というより、鼻先が熱い程度で済むのは可笑しいのだが。

 

「す、スイマセン」

 

「謝ることじゃないわよ。…………ていうか、何よそのけったいな靴。一年前はなかったわよね」

 

 鈴が目を向けたのはバンダナ少女──五反田蘭が履いているローラーブレード。鈴と蘭はそこそこ付き合いが長いが、一年前になかった。昔から足技を多用していたし、機動力とか敏捷力は一夏と鈴を越えていたが、あんな靴は無かった。

 

「そういや、いつの間にか持ってたなぁ。あんま気にしたことなかったけど」

 

「気にしなさいよ、アンタ」

 

 ビシッと鈴が一夏にツッコミを入れる。

 

「え、えっとですね。半年くらい前にですね……」

 

「うんうん」

 

「……………道端で貰いました」

 

「……はぁ?」

 

「だから、貰いました」

 

「いや、貰ったて…………」

 

 どこの世界に、変形するとんでもローラーブレードを道端で配る人がいるのだろうか。

 

「えっと………半年くらい前にランニングしていたんですけど。その時にちょっと変わった人に会いまして。その人に」

 

「………どんな人よ」

 

「んー、髪は水色で」

 

「へー、珍しいな」

 

「メガネ掛けてて」

 

「ふむふむ」

 

「白衣着てて」

 

「あー、科学者ぽいわね」

 

「あ、そういえばIなぜか右腕に包帯巻いてました!」

 

「……………………ん?」

 

「……………………あれ?」

 

 髪が水色でメガネ掛けてて白衣着て右腕に包帯巻いている人物。さらに科学者ぽくて、鈴や一夏ですら驚く靴を作る人物。

 そんなのは、

 

「ナニしてんのよ………あの子」 

 

「俺、あんまり喋ったことないんだよなぁ」

 

 ──────更識簪以外にはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅん!」

 

「んー? 風邪ー?」

 

「ううん、そうじゃなくて…………はっ! まさか組織のヤツらが!」 

 

「はいはいー。誰かが噂でもしてたのかなー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、履かしてみてよ」

 

「いいですよ」

 

「っと、どれどれ? ……って何これ!?」

 

「おお、まるで鈴が生まれたての小鹿のようにプルプル震えてる」

 

「なによ、これ。見た目よりめちゃめちゃ軽くて気持ち悪いし、た、立ってるだけでも大変なんだけど……」

 

「だよなー。よくそれで走れるよなぁ、俺も無理だったし。凄いよなぁ、蘭」

 

「い、いえそれほどでも」

 

「む……ほら返すわよ」

 

「あ、はい」

 

 と、三人が話していたら。

 

「い、い、いたぁーーーーー!!」

 

 公園の外から叫びが上がった。声の主は赤髪にバンダナの青年。蘭の兄、五反田弾である。彼は鼻息荒く、全身から大量の汗を流していた。

 

「あ、お兄」

 

「よう、弾」

 

「おひさー」

 

「あ、でも、よう、でも、おひさーでもねえぇぇーーー!!!」

 

 腹からの叫びだった。

 

「なんだよ、お前らぁ! 遊びに来るっていうからゲームセットして待ってたのに、いつまでたっても来ないし! 待ってたら待ってたで、家に公園の近隣住民の方々から蘭と鈴がバトッてるって連絡来たんだぞ!」

 

 その連絡がまた文句をいうのではなく、泣きそうな声だったのだから笑えない。

 

「お前らぁ! 一体どれだけ俺のストレス溜めんだよ! ハゲたらどうしてくれる!」

 

「笑ってやるよ」

 

「あーはっはっはっ」

 

「笑うなぁ! そして本当に笑うなぁ、この殺し愛外道夫婦めぇ!」

 

「夫婦じゃねぇよ」

 

「そうよ、まだよ」

 

「いやいや鈴さん。まだって、まるで予定がある見たいじゃないですか。いや、ですね」

 

「あ? あるのよ、予定。安心しなさい。式に呼んであげるから」

 

「結構です、むしろ私が呼んであげますよ」

 

「言うじゃない」

 

「ふふふふふふふ」

 

「あはははははは」

 

「ははは、仲いいなぁ。相変わらず」

 

「どこがだよ! 恐ぇよ! なんか目から怪光線出てんだけど!」

 


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