狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:一霊四魂万々無窮

*より神祇之幣帛


第拾漆話

 音をたててはじける波、白い砂浜、突き抜けるような高い空。海である。IS学園臨海学校である。

 

 

 

 

 

「いやー、でもあれだな。さすがに男が俺だけっていうのは肩身が狭いなあ」

 

 更衣室にて至ってシンプルな白のトランクスタイプに着替えながら織斑一夏はぼやいていた。外に出れば周りにはほぼ全てがIS学園の女子。その全員が水着ともなれば目の保養になるのは確かだが男一人というのは今更ながらも厳しいモノがある。

 

「ま、女子ってのは着替えに時間かかるし少しのは間は砂浜を独り占めか?」

 

 それは少しいいなと思いつつ、着替えを終え砂浜へと繰り出せば、

 

 

 

「例え海水浴だろうと甘く見るな! 準備運動不足で足が吊ったり、いきなり飛び込んで心臓麻痺など起こしたら死ぬぞ! キビキビ体操しろ!」

 

「ヤ・ヴォール!」

 

「声が小さーい!」

 

「ヤ・ヴォールーー!」

 

 

「なんだあれ……」

 

 

 スク水姿のラウラとクラスの何人かがノリノリで準備運動をしていた。それ以外は黄色の水着の少女が眺めているたけだ。

 

「ラウラズ・ブートキャンプ……」

 

「いーちーかっ!」

 

「うおっ!?」

 

 後ろから一夏の首に飛びつく影があった。かなり高く跳躍したらしく、両足を首に絡めて肩車の体制になった。誰か、などというのは分かり切っている。

 

「鈴……危ないだろ」

 

「コレくらいなら問題ないでしょうが」

 

「いや、お前が相手だと首折れないか心配なんだけど……」

 

「あっはっはーー」

 

「否定しろよ」

 

 一夏の首に飛びついたのは言うまでもなく鈴だ。このセカンド幼なじみ、昔からプールや海水浴の度に一夏に肩車をせがむのだ。拒否しても勝手に乗ってくるし。

 

「まあ、いいでしょ? 重さなんか感じないでしょうし」

 

「いや、そうだけどさ」

 

 鈴が軽く感じという訳ではなく。本当に全く重さを感じないのだ。鈴が言うには軽功らしいのだが、

 

「それって体重移動の技術じゃなかったか……?」

 

「細かいことは気にしなくていいのよ。それよりも」

 

「それよりも?」

 

「サンオイル塗ってー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな感じでいいか?」

 

「んー、いい感じよー」

 

 手のひらに塗ったサンオイルを鈴の背中に塗り込んでいく。

 華奢な身体から驚くほど柔らかい感触が伝わってくる。最後に塗ったのが数年前だが記憶にある感触よりも好ましい。引き締まった身体に薄く脂肪が張っていて弾力のある柔らかさだ。

 

「んふふー、どう? いい身体でしょ。いつでも好きにしていいのよ? こう……獣のように。荒々しく」

 

「……遠慮しておくよ」

 

 背中越しに挑発じみた視線を送ってくるが受け流す。内心では色々大変なのだけど。

 

「おー、相変わらず仲いいねー。おりむーとりんりんはー」

 

「ん? ののほ、ん……さ、ん?」

 

「そーだよー? のほほんさんだよー?」

 

 のほほんさんはのほほんさんだったが、水着がすごかった。 露出が凄いとか装飾が凄いというのではなく、着ぐるみだ。

 

「説明しようっ!」

 

「うぉっ!?」

 

「本音が着ているこの水着は今回の臨海学校の為に作った新発明! その名も『海龍(シードラゴン)』! 一見だだの着ぐるみ水着だけどその実態は!?」

 

 突然叫びながら現れたのは簪だった。水色のワンピースタイプの水着の上に白衣を羽織っている。当然右手には包帯が巻かれている。その右手を額に当ててポージングしていた。余りにハイテンション過ぎて、通りがかった金髪の少女が抱えていたスイカを驚いて落としてしまった。

 

「なんと驚くべきは乾燥性! 濡れてもホンの数秒で乾くという乾燥機要らず! 家計に大助かりだよ! やっほい!」

 

「えーとね。かんちゃん、臨海学校楽しみ過ぎて昨日寝てないからテンション高いんだよー。これもぶっちゃけただの水着だじー。生暖かい目で見てあげてねー?」

 

「小学生かよ……」

 

「小学生ね……」

 

「それにしてもー、おりむーなんかオイル塗り慣れてるねー」

 

「まあな、昔からやらされてたし」

 

「仲いいねー。お似合いだねー」

 

「披露宴には前の方の席には招待するわ!」

 

「おい」

 

「あははー」

 

「あははー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オイルを塗り終えて本音や簪とも別れ、再び肩車スタイルの二人は砂浜を歩いていた。

 

「んー、じゃ、そろそろ泳ごうかしら?」

 

「ビーチバレーとかっていう手もあるな」

 

「あーそれはダメよ。見なさいアレ」

 

 鈴に指された見た先は。

 

 

 

「では行きますわよ皆さん。華麗に雄々しく美しく。淑女のなんたるかを見せつけあげましょう」

 

『かしこまりー!』

 

「行くぞ、我らに勝利以外の文字は存在しない! 勝利万歳(ジークハイル・ヴィクトーリア)!」

 

勝利万歳(ジークハイル・ヴィクトーリア)!』

 

 

 

 

 セシリアチームとラウラチームが火花を散らしていた。

 

「なんだアレは……」

 

 基本二対二のビーチバレーだがコートを広くして大人数でやるという徹底ぶりだ。

 五対五。

 セシリアがブロックしたボールを金髪の女の子が打ち上げ、ラウラがスパイク。それをさらに巨乳の女の子がブロックする。

 

「アレに横やり入れる気ある?」

 

「ないなぁ……」

 

 多分それをしたら蜂の巣かねじ巻きだ。

 

「あ、織斑くーん」

 

「ん? 相川さんか、どうかしたのか?」

 

「箒さん、見てない?」

 

「箒? そういや見てないな」

 

「そっかー。一緒に遊ぼうと思ったんだけどなぁ」

 

 あはは、と笑ってくれる相川さんに思わず一夏は泣きそうになる。

 コミュニケーション障害の箒にいい友達が出来てくれたものだ。

 

「どこにいるのかなぁ、アイツ……」

 

「ね、一夏一夏」

 

「あ? なんだよ」

 

「いるわよ、箒」

 

「どこに」

 

「海。5、6キロくらい沖合ね」

 

「遠泳でもしてたのかよあいつ……」

 

「スッゴいスピードで戻ってきてるわね。ーーーーバタフライで」

 

「バタフライ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 揃えた両手が水面に潜ると同時に両足を強く蹴る。それにより水中へと潜り、一気に十メートルは進んだ。両手が水面に浮上し、再び両足を蹴り、両腕で水ををかけ分ける。上半身が水面を飛び出した。どれだけの筋力で泳いでいるのか、一連の動き一回分で数十メートルは進んでいた。

 

 思うことはたった一つ。

 それだけの為に遠泳を途中で打ち切り、今のような飛び魚も真っ青なバタフライで泳いでいたのだ。

 それは、

 

 

 

 

 

「清香が遊んでくれるだと……!」

 

 

 

 

 

 篠ノ之箒。

 海水浴に来て友達と遊ぶのは初めてである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんともいつも通りにカオスであった海水浴も終わり、夜。

 大宴会場にてーーーー宴会である。

 そして、その宴会は

 

「いえーい! IS学園の生徒諸君! こんばんわー! 皆大好き束さんだよー!」

 

「ア、アシスタントの蘭ちゃんでーす! い、いいえーい!」

 

『いえーい!』

 

 『大天災』篠ノ之束と街の少年たちか『舞姫』と称される五反田蘭であった。世界中が探している科学者と完全部外者が司会をしていててもIS学園一年生は普通に受け入れていた。

 

「なぜ、だ……!」

 

「姉、さん……!」

 

 篠ノ之箒と織斑千冬はこっそり影で崩れ落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもなんで束さんも蘭もこんなところで司会してるんだ? ほら」

 

 一夏は揚げた白身魚のあんかけをつまみながら言う。

 

「あーん……んぐっ。そうそう、束さんって一応超重要人物じゃん」

 

 魚を口の中に放り込みながら鈴も言う。

 それに答えたのは先ほどまで司会進行をしていた蘭だ。

 

「え、えっと……なんか暇してたら、束さんがウチにご飯食べに来まして。それはいつものことなんですけど。昨日はいきなり海に行こうって。まあ、やることもなかったんでよかったんですけど」

 

「なんというか、相変わらずフリーダムだなぁ……ん? そういえば、弾はいないのか? 」

 

「いますよ? 厨房で料理作ってます」

 

「道理で中華ばっかなわけだ……。あーん」

 

「ん。……てか、学生にご飯作らせていいのかしら……?」

 

「一応お兄ぃ、調理師免許はとってあるので。……束さんの力で」

 

 ふと束の方を三人が見た!

 

「いえーい! もう一曲行っちゃうよー!」

 

『いえーい!』

 

 なんかノリノリで歌っていた。ついでにシャルロットが五人くらいに分身してバックダンサーをしていた。

 

「あれ? あの子忍者だから目立っちゃだめじゃなかったけ? はい」 

 

「ぁむ。まあ、宴会だからってことでいいんじゃねぇ、のか? てかそういえば、セシリアとラウラは?」

 

「二人な………あ、あれじゃない?」

 

 鈴が指を指した先。そこではセシリアとラウラが綺麗に正座して箸を進めており、

 

「な、なんと……中華料理とはこんなにもおいしかったのですか……!」

 

「うむ……昔基地で食べたときは余りの不味さに吐きそうになったが……まあ、食ったのだが。無理に」

 

「これなら今まで敬遠していましたがIS学園の食堂でも頼んでもいいかもしれませんね!」

 

「うむ。……む、セシリア、生の魚もあるぞ! 刺身だったな? 私はアマゾンのなんかだかよくわからない色した川魚しか食べたことがないのだが(後日図鑑を見たら毒持ちの魚だった)これは大丈夫だろうか?」

 

「奇遇ですわね、私も魚はイギリスの湖で取れたのをその場で捌いたのしか食べてないので(後で知りましたがスモッグとかで危険区域の湖でした)……。日本人は勇気がありますわね……」

 

「フッ、だが我らも負けてはいられん。ドイツ人として臆するわけにはイカン! 行くぞ、セシリア!」

 

「ええ!」

 

 二人とも決死の表情で大トロの刺身を口に運んでいた。

 僅かだけ口を動かし、

 

「とろける~!」

 

 叫んでいた。

 とりあえず放っておくことにした。

 

「いやーこの臨海学校いいなぁ。美味い魚はあると思ってたけどまさか中華まで喰えるとは」

 

「全くね。…………ん? ていうか、蘭。どうしたのよ、食べないの?」

 

「……いや、ですねぇ」

 

 食事の手が止まっていた蘭が肩を震わせていた。

 バキッ、と握っていた箸が割れた。

 

「な、なんで一夏さんと鈴さんがお互いにあーんとかしながら食べさせ合ってるんですか!」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え? じゃないですよ! なんで当たり前のようにそんな羨ましいことしてるんですか!」

 

 そう、一夏と鈴はお互いに食事を食べさせあっていた。まるでそれが当たり前かというように。

 

「え? いや、なんか鈴がそうしてくれって言うから」

 

「こいつがあっさりやってくれたから」

 

「ええー!? なんでですか一夏さん! 羨ましいです! 私にもしてくれなければ」

 

「しなければ?」

 

「蹴り殺します!」

 

 怖っ! 周囲の生徒が引いて、

 

「別にいいぞ?」

 

 いいんだ! と仰天していた。

 

「……え? いいんですか」

 

「いいわよ」

 

「なんで鈴が答えるんだ……? まあ、いいんだけどさ」 

 

「くっ……!」

 

 蘭は思わず歯噛みした。確かにここで一夏からあーんされるというのはかなりのご褒美だ。鈴が先にされていたからこれは一夏に恋する乙女としてはやらなければ鈴にさらに差をつけられるだろう。ただでさえ、IS学園に二人が入ってからなんだが親密になっているのだ。ここでやってもらわない手はないだろう。

 

 ……です、が!

 

「んー?」

 

 この鈴の余裕気な顔がムカつく。あれか、勝者の余裕とでもいうのが。その顔を見て蘭は覚悟する。

 ……ここは我慢です……!

 確かに戦局的に見ればここで乗らない手はない。が、ここで乗ると言うことは蘭が鈴に敗北するということだ。故に、我慢。凡そ理性的とは言えないが、

 ……女とは感情で生きる生物です……!

 

「はい、あーん」

 

「あーん、です」

 

 本能が理性も感情も超越した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ某所の某米軍基地。そのとある格納庫にあるISがあった。白を基調とした軍用のISだ。

 それが今、静かに音を立てて震えていた。

 

 ISには絶対不可侵のブラックボックスがある。

 

 それは篠ノ之束以外には干渉できない絶対領域。全世界の科学者、研究者たちが解析しようとし全てが諦めた領域だ。更識簪でさえ諸手を上げて諦めたほどである。

 

 これは頭の良し悪しではない。ただ単純により高い位階にある存在よって創り出されたものにはより低い位階の存在では手がだせないということ。どれだけ写実的に描かれた炎でも、画布の上に書かれた木の葉を燃やすことはできない。それだけのことだ。

 

 だからこそ、その領域を操ることができるのは篠ノ之束をおいて他にいない。

 

 

 それにも関わらずーーーーーそのISはブラックボックス内を書き換えられていた。

 

 

 まず最初に宇宙を始めとした極地への適応能力が根こそぎ喰われた。その時点でISの目的からはかけ離れている。大容量を占めていた極地適応能力が喰われ、代わりに刻み込まれたのは、

 

『・ーー金属は生きている』

 

 

 そういう概念だ。

 

 その概念を元に、命を持たない機械であったISが命を得る。

 同時にソレのなにもない空白であった世界に狂おしいまでのナニかが注ぎ込まれる。

 

 たとえ注がれたのが注ぎ手の切れ端でしかないとしても、

 

「Giーーーー」

 

 軋むような音が、或いは嘆きがソレから漏れる。

 

 注ぎこまれたそれは一つの渇望だ。 

 

 ダメか。ダメだな。悲しいな。哀しいよ。私に救いはない。どうしようもないんだ。だからーーーー嘆きのままにかきむしってやる。

 

 それは悲嘆の狂情。

 それがISを作り替えていく。

 概念と渇望によりそれまでISだったソレがそこ二つにより存在そのものから変わっていくのだ。流線型の美麗なフォルムは鋭角的でトゲトゲしく禍々しくなり、白に黒の色が混じっていく。まるで竜のような外見に。

 

 そしてそれは、乗り手がいないにも関わらず動き出した。いや、もはや乗り手は必要ないのだ。すでそれは生命金属の概念を核とし、悲嘆で肉付けされることで動く異界と化している。

 

 そうして福音の天使は悲嘆の暴風竜となり、右の手に白と黒の剣砲が握られ、

 

 

 

「Giiiiーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 悲嘆の下に全てをかきむしり、破壊と蹂躙の限り尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 


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