狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:尸解狂宴必堕欲界

 *より神州愛國烈士之神楽


第捌話

 

 屋上にて防衛線を任されたラウラ・ボーデヴィッヒとセシリア・オルコットが苦戦を強いられているのには、実に単純な理由だ。所謂相性である。

 

「歪めッ」

 

 飛翔し、突進してくる機竜をラウラが歪曲の障壁を作り、動きを止める。視覚素子を破壊して視界を封じる。動きを止めた機竜に、

 

「――削れ」

 

 指を鳴らし、背後に展開したパンツァーファウストを射出する。無論それは単なる爆撃ではない。ラウラ自身の保有する魔眼により空間掘削の性質が付与されている。かつて暴風竜の動きを一瞬とはいえ停滞させた砲撃だ。

 当然機竜相手にも有効だ。実際にその空間の歪みは小型機竜の半身を抉る。機竜とは名の通り機械の竜であり、列記とした生命体。正確にはこの機竜たちの本体でクァルトゥムの一端だ。だからいかに竜と言う超越種とて半身を失えば生きていられない。

 

 そして、死んだ機竜、すなわち空中にて浮力を失った大質量はどうなるか。

 

「ラウラさん!」

 

「わかって、いる……!」

 

 当然ながら、落下だ。数トン、あるいは数十トンクラスの大質量だ。そんなものを学園の校舎の落とすわけにもいかない。一機でも落とせば大崩壊をもたらすのは目に見えている。現在学園内の人間は分身したシャルロットや、ソレ以外の動ける者により学園直下のシェルターに避難中だ。半数は避難完了したとはいえ、まだ半分は地上、校舎に人間は残っている。

 だから、こそ、

 

「ガ、ア、ア……ッ!」

 

 左目を限界まで見開く。林間学校にて己の矜持のみでその歪曲の位階を上げ、さらには両目にまで開眼させたが、今はその歪みを左目に集中することでその効果を上げている。

 半壊した機竜を中心に黒い球体が発生し、

 

「砕け、散れッ!」

 

 その一点を中心にし、莫大な負荷が生まれ機竜の機体が音を立てて崩壊する。細かく零れた破片が地面に落ちるが、その程度では流石に校舎は無事だった。

 無事でないのは、

 

「く……!」

 

 頭に激痛が走り、思わず膝を突く。小型機竜の半身とはいえ五メートル大の質量を丸ごと歪みで崩壊させたのだ。負担がないわけがない。彼女の能力はその眼球を媒体としており視覚を使ったから負担がダイレクトに脳に響くのだ。実際今のラウラには常人ならば発狂しててもおかしくないほどの激痛を負っている。

 

 そして、それはセシリアも同じだ。

 

「……!」

 

 膝をついたラウラを庇うようにセシリアが前に出る。足元に置いたデザートイーグル二丁を蹴りあげる。手にしたもう二丁を使った四丁拳銃。狙いは二機同時に迫る小型の機竜だ。音速超過、大量の水蒸気爆発を引き起こしながら迫る鋼の竜にセシリアは引き金を引く。それはセシリアの持つ歪みにより通常の弾丸よりも威力速度射程距離共に強化されているが、概念的な防護を有する機竜の装甲には効果が無い。命中したとしても弾かれるだけだ。ただ銃弾としての基礎能力を上げただけでは足りないのだ。

 

 だから狙うのは各所の加速器だ。

 

 跳弾を用いて、世界からズレる魔弾にて加速器を狙う。大量の流体が吹き上げるが、それでも世界から半歩外れた弾丸なら亀裂を入れるくらいのことは出来る。そして、音速超過の世界ではその亀裂は致命的だ。僅かに入った小さな亀裂は噴出する流体により広がり、加速器の破壊をもたらす。

 そしてそれは撃墜に繋がる。

 二機同時に全身各所の加速器から爆煙を上げ、失速し校舎に突っ込みかける。だから、拳銃から機関銃に装備を変え、即座に連射した。腰だめに二丁構え暴風の如き弾丸を放つ。機竜の装甲をハチの巣にするそれは一発一発が世界から外れている。

 

「くぅ……!」

 

 当然それは莫大な負荷だ。本来ならば虎の子の一発。切り札であるのが理外の魔弾だ。暴風竜戦を経てかつてに比べ、連射可能ではあるもの、それでも負担は大きい。ラウラの魔眼と同じように脳に直接響くのだ。それを機竜が粉々になるまで連射している。

 

「ハァ……ハァ……ハァ」

 

「クッ……!」

 

 二人とも息は荒く、セシリアの膝は微かに笑っているし、なんとか立ち上がったラウラも同様だ。

 

「まったく、何故私たちが……こういうのは鈴とかのほうが向いているであろう」

 

「その鈴さん含めあの殺し愛夫婦が真っ先に飛び出してしまいましたからね。避難誘導にはシャルロットさんは欠かせませんし、空を飛べるのも本音さんのみです。ついでに言えば、箒さんは校庭で大きいのを一人で相手していて、簪さんと今日来ているはずの蘭さんは姿が見えない、と。私たちがやるしかありませんわ」

 

「つまり悪いのはあのアホ二人というわけか」

 

「ですわね」

 

 軽口を叩く事で、頭の激痛を紛らわす。だが、もう既に何度も繰り返してる以上、簡単には消えない。何時ぶっ倒れてもおかしくはないが気力のみで意識を繋ぎとめる。

 それでも周囲を飛ぶ機竜たちや各所から聞こえる戦闘音は嫌になる。

 

「このままでは拙いな……」

 

「ですわねぇ」

 

 早めに校舎を空してもらわなければラウラもセシリアも本領発揮できない。二人とも戦争、広範囲殲滅を得意としているから、周囲を守りながら戦うと言うのは得意としていない。

 

「ん?」

 

 ラウラの視界の隅に見慣れないものを捕えた。正確に言えば、見知っていることは見知っているが、今日一日では始めてみた姿。

 それは一人の少女。茜色のジャージ姿に赤い髪とバンダナ。足元にはジャージと同じ色のスポーツシューズ。

 

「蘭、さん?」

 

 セシリアも見えたのは、五反田蘭だった。

 屋上の扉から現れ、歩いてくる。足取りは定まっていない。周囲が碌に見えていないのか飛翔している機竜には反応していない。

 だが彼女が現れたと同時に、

 

『セシリア、ラウラ!』

 

 叫びの声は箒だった。ISのプライベートチャンネルを用いた通信で、

 

『スマン、一体そっちに行った!』

 

「!」

 

 即座に周囲を探り、そして即座に見つける。

 

「蘭さん!」

 

 蘭の目の前だった。中型で格闘型のそれは高速で走り蘭へと迫る。そして、その口には流体の光が溜まっている。竜砲だ。

 

「イカン!」

 

 叫び、魔眼を発動仕掛けるが遅い。すでに蘭の目前だ。竜砲が放つ方が早く、セシリアも蘭も間に合わない。

 

「蘭!」

 

「蘭さん!」

 

「----!」

 

 竜砲が放たれ、

 

「!?」

 

 閃光の柱は機竜を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は……?」

 

 セシリアとラウラは今起こったことを理解するのに僅かながらの時間を有した。

 なにが起こったかは至って単純である。

 放たれた光の柱。蘭へと無情に突き刺さる光の大剣は確かに絶大な威力を誇っていた。

 それを、

 

「蹴っ、た……?」

 

 そう、蘭はその竜砲を蹴ったのだ。彼女に激突する直前にハイキック。それにより竜砲は止まり、進む方向が全く逆となり機竜をぶち抜いたのだ。

 なにがあったといえば、そういうことだ。

 だがしかし、それだけでも無かった。蘭の足には彼女の武装である『頂きの七王(セブンスレガリアズ)』は装備されていない。ただのスポーツシューズをはいているようにしか見えなかった。

 

 それなのにも関わらずキックの瞬間に彼女の足には複数の魔法陣が浮かんでいた。

 

 いや、魔法陣というよりは円形状に構成された数学式かなにかだろう。大量の記号と数学、文字式が彼女の足元に展開されていたのだ。それが、竜砲を押し返していた。

 

「…………」

 

 そう、ラウラやセシリアが思考を巡らしている間も蘭は無言だった。

 だが、しかし肩は震えていた。それは恐怖でも驚愕でも無かった。

 顔を上げた。彼女は無表情で、息を吸った。大きく吐いて、

 

 

 

「――――うんがぁーーーーー!」

 

 

 

 叫んだ。

 

「は?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんですかこんちくしょーー!」

 

 叫ぶ。よく見れば彼女の眼は赤く腫れていて、

 

「学園祭なんだからちょっとくらい一夏さんに構ってもらえると思ったら案の定ずーっと執事スタイルで鈴さんといちゃついてて回り見えてなくて、“ああやっぱ完全に脈ないなぁわかってたけど”て傷心していたらいきなり胸に変な負担掛って身動きできなくなって頑張って、なんとか気合いで動いたと思ったら周りにはでっかい飛び機械トカゲ飛んできて波動砲撃ってくるってどういうことですかこんちくしょーー!」

 

 叫ぶ、というか爆発していた。

 セシリアとラウラは自分の目が点になるのを自覚した。

 

「なんですかあれですか貧乳馬鹿にしてるんですかそうですかええそうですよ私は本物じゃないですからね鈴さんやラウラさんみたいな未来ない末世貧乳じゃなくて未来がある新世界貧乳ですからね夢と希望が詰まってるんですよ気にしてませんですよ笑えばいいじゃないですか哀れな失恋小娘笑えばいいじゃないですかあーはっはっはて大きな声で!」

 

 言いきり、

 

「あーはっはっは!」

 

 笑った。

 

「…………」

 

 誰も笑えなくて、全員動き止めて、目を逸らした。鈴とラウラは額に青筋浮かべていたが。機竜でさえも動きを止めていて、

 

「----」

 

 思い出したように動きだす。

 そして、蘭へと迫る新たな機竜が虚空から出現した。中型が一機だ。すでにその顎に膨大な流体を溜めていた。

 そしてそれだけではなく、

 

『……自虐ってのはつまり自分への嫌気だよなぁ』

 

 半ば同情したオータムの声が機竜から発せられ、同時に、

 

「あーはっ……は?」

 

 蘭へと嫌気の束縛が放たれる。それは先ほど学園島全体に放たれた者よりも強く濃い。範囲指定でなく個人指定だ。それゆえにその束縛は比べ物にならない。全力でも本気でもないが、しかしその力は膨大だ。

 束縛に蘭はその胸を中心として嫌気の靄と輪に縛られ、

 

「うんがー!」

 

 叫びと共に全てを振りはらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恋破れし乙女にそんなもの効くとお思いですか!?」

 

 振り払った瞬間に足元に出現したのは七つの複雑な円形魔法陣。本来存在していた簪製のローラーブレードは無い。彼女がはいているのは確かに唯のスポーツシューズでしかないのだ。だが、しかし、

 

「形成せ――――轟の風車」

 

 六つの魔法陣が消え去り、一つが残り蘭の足元に展開される。

 それは踵の左右に二つ、つま先に一つの歯車が生まれ、高音は発しながら超高速で回転していく。 

 同時、竜砲が放たれた。

 大量の流体が閃光の剣となって蘭へとぶち込まれ、

 

「はああああああ!」

 

 それを蘭はなんの迷いもなく右の蹴りを叩きこんだ。接触の瞬間につま先の歯車がさらに回転速度を増して、

 

 流体を吸収していく。

 

 ラム・ジェット理論と呼ばれる理論がある。主に航空機やミサイル兵器に応用されている理論だ。単純に言えば一度吸入した空気を圧縮し、そこに燃料を噴射させて燃焼させた排気の反動で推進力を得るという理論だ。

 そしてその理論を応用したのは『頂きの七王(セブンスレガリアズ)』のモード『轟《オーヴァ》』だ。

 本来ならば受けた風や衝撃をラム・ジェット機構で高温、高圧にし“超臨界流体”とよばれる状態にして壁として放つのは『轟』の能力だった。

 だが、それはあくまでも科学の範囲での話で、高密度、高質量の流体や魔力、気にまでは対応していなかった。

 だがしかし、今蘭はその現象を再現していた。『頂きの七王(セブンスレガリアズ)』がないのにだ。

 ならば、どこにあるのか。轟の力はあくまでも『頂きの七王(セブンスレガリアズ)』の力を昇華させたものであるからソレが無関係ということはあり得ない。

 

 『頂きの七王(セブンスレガリアズ)』――――それは今、蘭の魂と同化していた。

 

「悔しかったんですよ……! アレが無くちゃなにもできない自分が!」

 

 そう、五反田蘭の戦闘力は大部分を『頂きの七王(セブンスレガリアズ)』に依存していた。勿論素の蘭自身も並大抵ではなく、益荒男たる気質を保有している。

 それでもソレが無くては一夏や鈴たちに並び立て無かったのはまた事実だ。

 暴風竜との相対より自らの歪みを理解したが、しかしそれでも悔しさは残っていた。

 それが理由で己の恋が実らなかったとは言えないし、思ってもいない。

 『頂きの七王(セブンスレガリアズ)』が己の力の一部であることも真実だ。愛着もあった。だから棄てるという選択肢も無かった。

 

 故に本当の意味で己のものにする為に蘭は『頂きの七王(セブンスレガリアズ)』を己の魂へと同化させた。

 

 当然それは簡単なものではなく、“導きの剣乙女”と“愛の狂兎”から歪みをどちらからも受けている蘭だからこその行いだ。

 

 まず蘭以外にはできないだろう。

 

「決めたんですよ」

 

 歯車を流体が吸収しきる。蹴り抜き、一度身を回す。右足に思いきり力を溜めて、

 

「私は」

 

 爆発させる。同時に吸収した流体を解放。轟風を纏う足を、

 

「――私の翼で飛ぶっていう事を!!」

 

 振り抜く。

 竜砲の数倍の規模の質量と威力を持った超臨界流体の“壁”が機竜を完全に粉砕させた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機竜が完全に粉砕され、蘭が跳躍し宙を舞うのをラウラとセシリアは呆然と見ていた。彼女の結果はめざましく、瞬く間に機竜たちを粉砕していく。

 そして、その光景を見て、

 

「ふ」

 

「は」

 

 二人の口から息が漏れた。それは連続し、

 

「ふ、ふふ」

 

「は、はは」

 

 笑いだした。始めは小さかったそれだが、すぐに大きな笑いになる。

 

「ふふふふふふふふ!」

 

「はははははははは!」

 

 口を大きく空け、目じりに涙さえ浮かべて二人は笑った。脱力さえしている二人はおよそ戦闘中の者には見えなかった。

 

「ねぇ、ラウラさん?」

 

「ああ、なんだ」

 

「なんて、滑稽でしょうか」

 

「まったくだ、嗤わずにはいられない」

 

 互いの状況を二人はそう評した。

 

「まさか、やることやりきれずへたっているところに年下の女の子頑張らせてるどん底女二人なわけですが。どうするべきでしょうねそんな二人は」

 

「死んだ方がいいな」

 

「ですわね」

 

 が、こんな所で死ぬわけにはいかない。

 ならばどうするべきか。やるべきことは、一つしかない。

 

「――――今ここで、至るべき所に至ればいい」

 

 口をそろえて、言う。

 その事に、先ほどとは違う意味で笑みを濃くし、

 

「幸い、いい見本がうんざりといますしね」

 

 見回したのは機竜。そしてそれから伝わる“嫌気”、大罪の一端だ。

 

「大罪、それはすなわち人であるならば誰もが持つ者。それを以って彼女たちが力を得ているのならば私たちに同じことが出来ぬ道理は無し」

 

「業腹ではあるがな。教官以外から教えを求めるなど」

 

「教導と言えますかこれが? 私たちが勝手に盗むだけでしょう」

 

「まあ、な。だがいいのか? 大罪など、お前にはまったく似合わんだろう」

 

「外道であるのは確かですし、性に合わないのも確かです。ですが、そんな性分で仲間を、友を、愛する者を護れないなどあってはならいことですわ。愛する者のためと言うならば、私は何処までも己の身を落としましょう」

 

「ふ、お前も大概狂っている」

 

「自覚してますわ」

 

 互いに小さく笑い、そして目を閉じる。

 そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクセス――――我がシン」

 




つまり蘭のは聖遺物ぽいのになったということですね。


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