狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第肆話

「えーと1025室、ここか」

 

放課後、織斑一夏は女子寮にいた。別に侵入しているわけではない。彼の部屋が女子寮にあるの だ。本来なら一週間は自宅通学だったのだが大人の事情でいきなり寮暮らしらしい。 15歳の青少年を女子寮に放り込むのは倫理的にどうかと思ったが、

 

『お前がなにもしなければ問題ない。というか……頼むから問題を起こすな』

 

と、言われてはどうしようもできない。というか、一夏は姉に迷惑をかける気はまったくないの だ。 ……実際は別として。 そんなわけで、一夏は携帯の充電器と刀の手入れセットを片手に自室にたどり着いていた。

 

ドアノブに手をかける。鍵はかかっていない。 中に入れば、

 

「───」

 

まず目に入るであろう二つの大きめのベッド。まるで高級ホテルのようだ。 備え付けのシステムデスクもかなりの高級品だろう。

 

だがそれらに一夏は目を向けなかった。部屋に入った瞬間他人の気配を感じたから。織斑一夏は こと気配に敏感だ。と言うよりも、自身が把握する空間が広い。 攻撃範囲ではなく把握範囲。 だからこそ──部屋のバスルームに誰かが入るのに気づいた。仮に不審者だった場合の為に腰の 刀に手をかけ(無論、ルームメイトの場合もあるので殺気も剣気は出さずに)、目を細める。 だがドアが開き、

 

「……ん? なんだ、一夏か」

 

全裸にバルタオルだけという些か刺激的な格好で出てきた箒にはさすがに反応できなかった。

 

「んなっ!」

 

「なんだ、お前が同室か」

 

「え、お、おう。らしいな」

 

「そうか」

 

全く動じない箒に動じる一夏。

 

「まぁ、あれだ。ヘタな気遣いしなくていいな。よろしく頼むぞ」

 

「お、おう」

 

「ああ、それとお前、今日の……セ、セ、セシ、セシ………………セッシーとの決闘はどうするつもり だ?」

 

「ああ、明日やるってさ。千冬姉が面倒事はなるべく早く済ませたいんだって、とりあえず訓練機 を使うことになった。……後、お前名前分からないからって変なあだ名付けるな」

 

「うるさい。……なんだ、IS使うのか」

 

「当たり前だろ。IS学園だぞ、ここ」

 

「……つまらんな、分かっているのか? アイツは……」

 

「分かってる」

 

「…………なら、いい」

 

「おう」

 

「後は……そうだな、しばらく一緒に住むんだから色々決めておかなければな」

 

「だな。……あと、一ついいか? 箒」

 

「なんだ、こういうのは最初が肝心だからな。ハッキリ言え」

 

「なら言おう。いいか? 箒」

 

「うむ」

 

「服を、着ろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……もう一回言ってくれますか? お嬢様』

 

「ですから、明日一夏さんと決闘することになりましたの」

 

セシリアは自室で英国のチェルシーと連絡を取っていた。 というか、事後報告だが。

 

『……初日でファーストネームで呼び合う仲になったことを喜べば良いのか、いきなり決闘になった ことを嘆けばいいのか……』

 

「喜んでいいと思いますわ、まさかこの極東であんな殿方に出逢えるとは思いませんでしたわ」

 

『……そんな凄い方なんですか?』

 

「ええ、性格もよろしかったし何より雰囲気が」

 

『雰囲気、ですか?』

 

「雰囲気というより気配と言った所かしら」

 

セシリアの口元がほころぶ。

 

「なんて言うのでしょうね……刃。研ぎ澄まされ磨き上げられて尚、鞘に納められたら一刀」

 

どうしようもなく斬れる刀のような気配を持ちながら、それを無闇に垂れ流しになんかしていな い。事実として、最初のホームルームの時彼の日本刀には皆引いていたが彼自身(・・・)に怯え る生徒はいなかった。クラス代表決めの時だって誰かは知らないが彼を推薦し、他の生徒も賛同し たから間違いない。

 

そして、その上でのあの剣気。納められた一刀が抜き放たれる瞬間に放たれる剣の気配。 あれはたまらない。

 

自分が持つ中てるため気配とはまた違ったし、それにもう一人の──確か箒とかいった彼の友人 らしき少女も違った。織斑一夏が鞘に納められたら一刀なら、彼女は抜き身の刃だ。間違いなく ──彼も彼女も強い。

 

「フフ、明日が楽しみですわ」

 

『ISで闘うのですよね?』

 

「らしいですわ。ただ、急なことなので一夏さんは訓練機を使うらしいですの」

 

『……勝負になりますか? お嬢様は仮にも代表候補生で彼はISに関しては素人なんでしょう?』

 

「関係ありませんわ」

 

そう、もし仮にも一夏がろくにISに乗ったことのない素人だとしても。 自分が専用機で彼が訓練機という明確な機体の差があったとしても──関係ない。

 

noblesse oblige(位高ければ徳高きを要す). 仮にも英国貴族。決闘とならば本気と全力を もって相対するのが礼儀ですわ」

 

『……それだけ旦那様と奥様に聞かせればお喜びになさるでしょうに』

 

「そういえば、お父様とお母様は元気かしら?」

 

セシリアの両親は今時珍しいおしどり夫婦だ。彼女が幼かった頃は険悪だったらしいが今では仲 がいい。どうやって仲直りしたかは知らないが。

 

『………娘が嬉々として銃を振り回してたら、喧嘩してる場合ではないでしょうからねぇ……』

 

「? 何か言いまして?」

 

『いいえ、なにも』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? なんで織斑くんを推薦したの?」

 

「んー、見てみたかったからねー世界初の男性IS操縦者をー」

 

「それだけ?」

 

「それだけー。凄いんだよーおりむー。どうやったかは分かんないけど織斑先生の出席簿アタック 防いでたしー」

 

「ふうん……。本音でも見えなかったんだ」

 

「見えてたのはイギリス代表候補生のセッシーにモッピーだけだったよー」

 

「……セッシーはともかく、モッピー? 誰?」

 

「えーと、篠ノ之博士の妹さーん」

 

「ああ……。それで、織斑くんとオルコットさんが明日決闘するわけだ」

 

「うんー。楽しみだよー」

 

「私も時間あったら見にいこうかな……………っ!」

 

「んー? どしたのー? 突然、意味もなく包帯が巻かれた右手を抑えてー」

 

 

 

 

「─────────っ! 落ち着け、私の右手……! だめだよ、こんなところで暴走させるわけ には……!」

 

 

 

 

「……ああー。いつもの発作かー」

 

「……ふう、危なかった。もし私の封印されている右手が暴走してたら学園が吹っ飛ぶ所だった よ……」

 

「そっかー、頑張ったねーかんちゃん。それはそうと、今日はなに造ってたの?」

 

「ん……そうだそうだ! 聞いてよ、ついにできたんだよ!」

 

「何がー?」

 

「物体の分子構造を読み取って、最も脆い箇所を線と点として映し出すコンタクトレンズだよ! もちろん色は蒼!」

 

「おおー」

 

「ふふふ、名前は……うん! 『全て見殺す魔眼(バロール)』なんてどうかな!?」

 

「かっこいー」

 

「そうでしょそうでしょ!」

 

「いえーい」

 

「これで私の『具現幻想(リアルファンタズム)』シリーズも77番目! 目指せ666番だ!」

 

「あはー、楽しそうだねかんちゃん。ていうかーISの開発はいいの?」

 

「ん? いいんだよ、だって──」

 

「テンション高いねー」

 

「──ISよりも私の発明品使ったほうがいいからね!」

 

「だよねー、あははは」

 

 

 

 

 


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