狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:幸魂奇魂守給幸給

腹筋崩壊するといいよ!


第肆話

九月二十七。キャノンボールファスト当日にして世界唯一男性IS操縦者織斑一夏の誕生日。前者は市のISアリーナで二万人を超える大規模で行われ、後者はレースが終わり次第、ごく一部の身内とクラスメイトにて祝われる予定だ。絶好の快晴であり、いくつもの花火が上がっている。

 アリーナ内は満員であり、各国政府関係、IS企業関係者も多く来ているだけでなく民間の観客も多い。すでに開催宣言は済んでいて、レースも行われ始めている。そしてレースだけではなく注目されているのは、解説席だ。ボックス席に設置され、巨大な液晶ビジョンにも写されている。

 

『どうも皆さま。実況を務めさせていただきますIS学園生徒会会計、布仏虚です。よろしくお願いします。ではまず解説及びゲストを紹介します』

 

 専用のボックス席からアリーナ全体に声を届かせながら、隣に座る少女に手を振り、

 

『どうも。IS学園一年一組イギリス代表候補セシリア・オルコットです。技術解説を担当させていただきます。よろしくお願いします』

 

『はいよろしくお願いします。続きまして……」

 

 次いでセシリアの隣にいる彼女に手をやった。そのゲストとは、

 

『げ、げげげ、げす、と……のしの、しののの、ほう、き……です』

 

 絶賛コミュ障を再発している篠ノ之箒だ。手元のマイクに添えられていた手はものすごく震えていた。言葉も噛み噛みだった。冷や汗とかダラッダラだった。

 第一、箒からすればなぜ自分がここにいるのかわからない。おかしいだろう、なぜ自分みたいなコミュ障がゲストだ。おかしいだろう。おかしくないわけがあるか、いやない。セシリアが解説の役になったから、ついでにゲストに出ればいいとクラスの皆に進められて、気付いたらあれよあれよとここにいるがおかしいだろう。薄々自分でも思っていたがチョロすぎないか自分。

 思うも、解説席から望むアリーナ内の視線や意識が集まっていて、身体の震えは止まらない。

 

「箒さん、箒さん。とりあえず笑顔ですわ」

 

 マイクを介さずにセシリアが声を掛けて来てくれた。

 笑顔。笑顔とな。

 正直それは自分の特に苦手な分野だ。だが、それでもやらなければならないだろう。記憶を掘り起こして笑顔の仕方を思い出す。一夏と束が組んでいた人格更生だか矯正だかなんだかの実に不本意なプログラムから抽出する。だが力み過ぎて、つい目の色が反転した。つい牙とか伸びた。

 

「――」

 

 黒目をむき出しにし、牙をむき出しにして、舌を突き出すという渾身の笑顔を浮かべた。

 

『――――』

 

『あはははははは! なにあれすっごい爆笑ものだね! ――ね?』

 

『アハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

 一瞬だけ解説席には聞こえないように音声を遮断された篠ノ之束の声が響き、アリーナ内は笑わずにはいられなかった。いろんな意味で。

 

 

 

 

 

 

「ははは……なにしてるんですか二人とも……」

 

 言葉に表せない寸劇を繰り広げる知り合いの姉妹に蘭は苦笑する。まぁ、昔からあんな感じだし、それなりに耐性はあるので気にしない。とりあえず全力で爆笑したが。

 

「さすがに人が多いなぁ」

 

 トイレからの帰り道。自分の席から近い所に行ったのにも関わらず、戻るのも大変だ。流石はIS学園のイベント事だ。自分も来年は受験するわけだが、倍率の高いから少し心配だ。成績悪いつもりはないけども。

 

「ん?」

 

 ふと視界の中に気になる存在を見かける。

 自分と変わらぬほどの年齢の女の子だ。アリーナ内のパンフレット片手にキョロキョロ顔を動かしている。セミロングの金髪にツリ目気味の翠眼。身長は自分と変わらないが全体的なバランスは良く、モデルかなにかのようで若干蘭のコンプレックスを刺激する。なんとなく誰かに似ているような気がしたが、少し眼を凝らしてみればそうでもない。気のせいのようだ。

 だが、なにより気になったのはその服装だった。

 ドレス、だろう。どうみても。お金持ちのパーティーとか映画や漫画でしか見ないドレスを着ている。豪華絢爛というほどの装飾はないが見るからに高そうだ。蒼と黒がメインの配色。そして最も奇奇怪怪というか意味不明なのが、

 

「透けてる……」

  

 スカートの正面が透けている。かなり薄い生地で太ももとかパンツが見えている。胸元も思いっきり露出していた。

 明らかにおかしい格好だ。

 よくよく周囲を見れば、結構注目を集めているがあまりにも怪しすぎて誰も話しかけれないようだ。 解らなくもない。正直蘭でも躊躇する。

 それでも声を掛けてみた。これでも中学では生徒会長だ。爆走会長やら舞姫やらそんな風に呼ばれ慕われている自分としては同じ年頃の女の子を放っておくのは忍びない。

 

「あのー……」

 

「む?」

 

 少女と目が合う。やっぱり誰かに似ている気がして、無礼覚悟で見るが――やはり似ていない。これだけ良く見ても違うということは完全に蘭の思い違いだろう。

 

「お主は……」

 

「あ、スイマセン」

 

 古風な口調だなぁ、と少し驚きつつも、

 

「えっと、迷ってるようだったら手伝おうかと思いまして……」

 

「…………」

 

 じまじまと品定めするように見られ、少したじろぐ。さすがに失礼だったかなぁと思ったが、少女はしばらく思案気な顔をしたかと思ったが、

 

「すまないな! お主がよければよろしく頼むぞ!」

 

「あ、はい」

 

 快活そうな笑みを浮かべながら応えたくれた。邪険に扱われなかったことにホッとしつつも、

 

「五反田蘭です」

 

「おお、わざわざすまないな。我は……うむ、ルキとでも呼んでくれ」

 

「は、はぁ」

 

 呼んでくれって。偽名なのだろうか。というか一人称が凄い。我って。自分の周囲も人斬りとかチャイナとかコミュ障とか淑女とか軍人とか忍者とか魔法少女とかマッドサイエンティストとかいろいろおかしい面子がいるが、それにも劣らないキャラの濃さだ。

 

「ああ、それと敬語要らんぞ。年の頃はそう変わらんだろう。普通に喋ってくれて構わん」

 

「あ、うん。じゃあ普通でに喋るね、それでルキはどこに向かおうとしてたの?」

 

「うむ、Fの44だな。正直人ごみは得意では無くてな。困っていた所だ」

 

「Fの44……あれ、それなら……」

 

 ポケットに入っていた自分の座席票を見ればFの45だ。

 つまり、

 

「私の隣だ」

 

「ほう、それはそれは」

 

「凄い偶然だね」

 

「いや、それは違う」

 

「え?」

 

 ルキは両手を腰に当てて、形のいい胸を突き出し、

 

「世界が我の為に物事を動かしているのだ! お主に会えたのも、お主が我の隣の席なのも、全て我の為に我のためなのだ!」

 

「そ、そっか……」

 

 どうしようこの子ヤバい。

 蘭の知り合いの中で類を見ないキャラの濃さだ。何が恐ろしいかといえば、ルキは本気ぽい。本当にそういう風に思っている。これは凄い。ここまで精神ぶっ飛んでいるのは一夏や鈴クラス。つまりどうしようもない。

 だからスルーする。別に現実逃避してるわけではない。

 

「ルキの服凄いね! そんなの何処で買ったの?」

 

「おお、これの良さがわかるのか! うむ、じつはこれは自作でな!」

 

「え、自作?」

 

「うむ。一か月かけて丹精込めて自作したのだがな、身内の者はケバイやら派手だとか、興味無いとか、どうでもいいとか、挙句の果てには変態とか露出狂だとか。碌に芸術を理解しておらん。いやはや蘭、お主はわかるやつだな!」

 

「あ、ありがとう?」

 

 微妙に褒められている気がしない。派手なのは否定できないだろうけど。

 まぁ、スルーだ。スルーに限る。

 

「我はただ自らの肉体を晒したいだけなのだ!」

 

「それが露出狂だよ!」

 

 落ちつけ自分。落ちつけた五反田蘭。スルー。スルーだ。

 

「……じゃあ、行こうか。もうそろそろ始まるよ」

 

「ほう? 何がだ?」

 

「何がって……ルキ何見に来たの?」

 

「う、うむ、まぁ社会見学だな……と、我の都合はまぁいい。それで?」

 

「まぁ、いいけど」

 

 肩を並べ二人ともに歩き出す。途中でポップコーンでも買おうかなと思いつつ、時計を見れば、

 

「今日のメインの専用機レースだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、本日のメインレースの時間です。一年から一人、二年から三人、三年から二人の出場となっております。格選手、すでにレース開始位置に並び始めています。開始までまだ少し時間があるので、各選手の紹介をしていきましょう』

 

 円形上のレースコースのスタート地点が巨大ビジョンに映る。六人の少女。

 まず映ったのは灰色の髪に蒼い目の少女。身に纏うのは濃い蒼のISだ。

 

『ではまずは一人目。二年二組サラ・ウェルキン選手、使用ISは『サイレント・ゼルフィス』です』

 

 液晶いっぱいに灰の髪の少女の笑顔が浮かび、歓声がわき上がる。

 

『サラ先輩は私と同じイギリスの代表候補生ですわね。夏ごろにイギリスの最新型第三世代IS『サイレント・ゼルフィス』を本国から受け取っていますわ。私の『ブルー・ティアーズ』の欠陥が埋められていて、ビットも四つから六つに増えています。またサラ先輩自身もISを用いた射撃技術は本国有数ですね』

 

『なるほど、十分優勝の可能性があると』

 

『ええ。私としても同じ英国淑女としては頑張ってほしいですわ』

 

『……先輩、お前と一緒にしないでと言わんばかりに苦笑してるがな』

 

『次に行きましょう』

 

 液晶に映る姿が変わる。映ったのは気だるげな二人。褐色の肌と黒髪黒目で纏うISも黒がメインカラーの少女と蒼髪蒼目、それに反しISのカラーリングは鮮やかな赤だ。

 

『やはりこの二人は同時に紹介しましょう。三年二組ダリル・ケイシー選手と二年四組フォルテ・サファイア選手です。使用ISは『ヘル・ハウンドVer2.5』と『コールド・ブラッド」。皆さんご存じ『イージス』と謳われる名コンビですね』

 

『注目といえば注目の二人ですわね。今回は当然ながらレース、つまりは個人戦ですわ。普段コンビである二人ですから、お互いの呼吸や手の内も読めているでしょう。そんな二人が敵同士なのも注目ですし、あるいは共闘するかもしれないですから楽しみですわ』

 

『しかしやる気のない二人だなぁ』

 

『はいでは次ですね。ああ、この人は私としては個人的に優勝を掴んでほしいですね』

 

 液晶に水色の髪の少女が映り、これまで以上の歓声がわき上がる。堂々とした笑みで赤い瞳でアリーナ内を見渡している。水色のISはまるでドレスの如く。

 

『言わずと知れたIS学園生徒会長更識楯無選手と『ミステリアス・レディ』です』

 

『名実ともにISを用いた戦闘では学園内最強の生徒会長ですわね。攻守ともにオールマイティにハイスペックでありISも幾つもの切り札があるでしょう。学園内唯一の一国の代表生というのも見過ごせませんわね。IS起動時間だけでも断トツでしょう』

 

『そ、そ、そこに痺れる、あ、こ、あこが、れる……!』

 

『……』

 

『アハハハハハハハハ! ――ん?』

 

『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

 こっそりガッツポーズを浮かべた箒の頭をセシリアが叩いた。

 よくわからないギャグをしないでくださいまし。すいません。

 

『え、えー、ゲストの箒さんの小粋なネタはいいとして、最後の選手の紹介としましょう。……ちなみに私としては直視すると頭痛が止まりません……』

 

 不安になるようなアナウンスの後。その姿を映されたのは、

 

『一年一組、シャルロット・デュノア選手です……! 使用ISは『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』ですが……。ええっと、あれはどういうことでしょうか』

 

『ええ、勿論説明させてもらいますわ。さてこのキャノンボールファストですが、基本的に各ISは高速機動パッケージを装備していますね。これにより、超音速機動が可能になるのでキャノンボールファスト出場には必須装備です』

 

『ええ、そうですね。実際各選手パッケージ装備してますね……なのに、なのにですよ?」

 

 虚は一度区切り、

 

『――なぜデュノア選手は通常状態なのですか』

 

『シャルロットさんなら普通に走った方が早いですから』

 

『あいつ生身亜光速くらい行くからな』

 

 虚が机に突っ伏した。

 何処からともなく本音が表れて手の平から光を発して癒した。

 本音が音もなく消えた。

 虚がなんとか復帰した。

 

『せ、説明を要求します……』

 

『生身で亜光速に至るシャルロットさんですからね。パッケージなんて必要ありません。かといって生身でやればレースになりません。だから織斑先生から折衷案で通常状態のISで出場することとなりました』

 

『は、はぁ。……?』

 

『まぁIS使うとかなり力がデチューンされますからね。多分ちょうどいいんじゃないでしょうか』 

 

『驚かない……今更驚かない……驚いてたら身が持たない……!』

 

『あ、レース始まるぞ』

 

『え』

 

 始まった。

 




なかなか笑いは難しい……

新キャラの服のイメージは赤セイバーの色違いな感じで。特に意味はないですが露出狂といえば彼女が真っ先に思い浮かびましたすいません

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